(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759574
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】熱交換器用アルミニウムクラッド材
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20150716BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20150716BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20150716BHJP
B23K 20/04 20060101ALI20150716BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20150716BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20150716BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20150716BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20150716BHJP
B23K 101/14 20060101ALN20150716BHJP
B23K 103/10 20060101ALN20150716BHJP
【FI】
C22C21/00 J
C22C21/00 E
C22C21/00 D
C22C21/00 K
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
B23K20/04 D
B23K1/00 S
B23K1/00 330L
B23K1/19 D
B32B15/20
F28F21/08 A
B23K101:14
B23K103:10
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-12158(P2014-12158)
(22)【出願日】2014年1月27日
(62)【分割の表示】特願2009-187649(P2009-187649)の分割
【原出願日】2009年8月13日
(65)【公開番号】特開2014-132119(P2014-132119A)
(43)【公開日】2014年7月17日
【審査請求日】2014年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100071663
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 保夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】船戸 寧
(72)【発明者】
【氏名】宮園 靖弘
(72)【発明者】
【氏名】時實 直樹
【審査官】
相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−199090(JP,A)
【文献】
特開2003−007944(JP,A)
【文献】
特開平05−331580(JP,A)
【文献】
特開平01−255639(JP,A)
【文献】
特開平11−302759(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00−21/18
C22F 1/04− 1/057
B23K 35/22
B23K 35/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有する中間材をクラッドし、さらに中間材にろう材からなる皮材1をクラッドしてなるアルミニウムの3層クラッド材であって、心材が、Ti:0.1000%(質量%、以下同じ)以上0.3%未満を含有し、アルミニウム純度99.0%以上99.9%未満、不可避的不純物の含有量が0.7%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がいずれも0.05%以下のアルミニウムからなり、中間材が、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項2】
前記中間材が、さらに、Fe:0.1〜2.0%、Si:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.35%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項3】
前記皮材1が、Si:2.5〜14%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si系合金ろう材あるいはSi:2.5〜14%、Mg:0.1〜2.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si−Mg系合金ろう材で構成されることを特徴とする請求項1または2記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項4】
前記皮材1が、さらにFe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2%、Be:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成されることを特徴とする請求項3記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材において、中間材と反対側の心材面に、皮材2をクラッドして4層クラッド材とし、皮材2が、Si:2.5〜14%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si系合金ろう材あるいはSi:2.5〜14%、Mg:0.1〜2.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si−Mg系合金ろう材で構成されることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項6】
前記皮材2が、さらにFe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2%、Be:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成されることを特徴とする請求項5記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材において、中間材と反対側の心材面に、犠牲陽極効果を有するアルミニウム合金からなる皮材3をクラッドして4層クラッド材とし、皮材3が、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項8】
前記皮材3が、さらにFe:0.1〜2.0%、Si:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.35%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項7記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【請求項9】
前記心材のマトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径(円相当直径)で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm2当たり3×104個以下存在することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジエータやインバータ冷却器などのアルミニウム合金製熱交換器を製造する場合、特に、弗化物系フラックスを用いるろう付け、又は真空ろう付け等の、ろう付け接合により製造される熱交換器において、その構成部材であるチューブ材やプレート材として好適に使用されるアルミニウムクラッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金製熱交換器のチューブ材は、Al−Mn系合金を心材とし、心材の片面にAl−Si系合金ろう材をクラッドした二層構造のアルミニウム合金クラッド材、心材の一方の面にろう材をクラッドし、他方の面にAl−Zn系合金またはAl−Zn−Mg系合金の犠牲陽極材をクラッドした三層構造のアルミニウム合金クラッド材が用いられている。
【0003】
アルミニウム合金製熱交換器において、クラッド材の心材は、構造部材としての形状を保ち、熱交換器に負荷される振動、圧力変動、熱応力に対し応力緩和効果を有し、疲労耐久性を発揮する。また、Al−Si系ろう材は、アルミニウム合金製熱交換器を製作するとき、各部材同士をろう付け接合するためにクラッドされている。さらに、犠牲陽極材は、たとえばチューブの内面や外面に使用され、作動流体や外気と接して犠牲陽極作用を発揮し、心材の孔食発生を防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−293371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に自動車用のアルミニウム合金製熱交換器において、熱交換器に負荷される振動などの応力による疲労に耐える疲労特性を有することは重要であり、チューブ材やプレート材などの部材についても、疲労耐久性に優れたものが望まれている。本発明は、優れた疲労特性を有するとともに、耐食性にも優れた熱交換器用部材を得るために、クラッド材を構成する心材と犠牲陽極材の組成とその組み合わせを見直し、クラッド材の疲労特性との関連について試験、検討を行った結果、心材として成分元素の添加量を抑制した純アルミニウムを使用し、成分元素により生成する金属間化合物の生成を抑え、且つCu、Mn、Mgの固溶度を低下させることが、疲労寿命の向上、特に低サイクル疲労寿命の向上に有効であることを見出した。
【0006】
本発明は、上記の知見に基づいてさらに試験、検討を重ねた結果としてなされたものであり、その目的は、疲労特性に優れ、且つ優れた耐食性をそなえ、アルミニウム合金製熱交換器のチューブ材やプレート材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウムクラッド材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための請求項
1による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、心材の片面に、該心材に対して犠牲陽極効果を有する中間材をクラッドし、さらに中間材にろう材からなる皮材1をクラッドしてなるアルミニウムの3層クラッド材であって、心材が、Ti:
0.1000%以上0.3%
未満を含有し、アルミニウム純度99.0%以上99.9%未満、不可避的不純物の含有量が0.7%未満であり、不可避的不純物のうちのCu、Mn、Mgの含有量がいずれも0.05%以下のアルミニウムからなり、中間材が、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする。
以下の説明において、合金成分はいずれも質量%として示す。
【0016】
請求項
2による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項
1において、前記中間材が、さらに、Fe:0.1〜2.0%、Si:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.35%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0017】
請求項
3による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項
1または2において、前記皮材1が、Si:2.5〜14%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si系合金ろう材あるいはSi:2.5〜14%、Mg:0.1〜2.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si−Mg系合金ろう材で構成されることを特徴とする。
【0018】
請求項
4による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項
3において、前記皮材1が、さらにFe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2%、Be:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成されることを特徴とする。
【0019】
請求項
5による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1〜
4のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材において、中間材と反対側の心材面に、皮材2をクラッドして4層クラッド材とし、皮材2が、Si:2.5〜14%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si系合金ろう材あるいはSi:2.5〜14%、Mg:0.1〜2.0%を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるAl−Si−Mg系合金ろう材で構成されることを特徴とする。
【0020】
請求項
6による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項
5において、前記皮材2が、さらにFe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2%、Be:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材で構成されることを特徴とする。
【0021】
請求項
7による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1〜
4のいずれかに記載の熱交換器用アルミニウムクラッド材において、中間材と反対側の心材面に、犠牲陽極効果を有するアルミニウム合金からなる皮材3をクラッドして4層クラッド材とし、皮材3が、Zn:0.5〜10%、In:0.001〜0.1%、Sn:0.001〜0.1%のうちの1種または2種以上を含有し、残部Alおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されることを特徴とする。
【0022】
請求項
8による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項
7において、前記皮材3が、さらにFe:0.1〜2.0%、Si:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:0.01〜0.3%、Zr:0.01〜0.3%、Ti:0.01〜0.35%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0023】
請求項
9による熱交換器用アルミニウムクラッド材は、請求項1〜
8のいずれかにおいて、前記心材のマトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径(円相当直径)で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm
2当たり3×10
4個以下存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、疲労特性、特に低サイクル疲労特性に優れ、且つ優れた耐食性をそなえたアルミニウムクラッド材、特に、アルミニウム合金製熱交換器の構成部材であるチューブ材やプレート材の素材として好適に使用することができる熱交換器用アルミニウム合金クラッド材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】アルミニウムクラッド材の曲げ疲労試験機の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明による熱交換器用アルミニウムクラッド材における合金成分の意義および限定理由について説明する。
(心材)
心材として、不可避的不純物の含有量が1.0%未満で、アルミニウム純度が99.0%以上
99.9%未満の純アルミニウムを用いることにより、疲労寿命、特に低サイクル疲労寿命の向上が有効に達成できる。
アルミニウム純度が99.0%未満では、上記の効果が十分でなく、疲労寿命、特に低サイクル疲労寿命が低下する。
【0027】
即ち、上記の純アルミニウムからなる心材は、一般的な心材合金である3003に対し、成分元素濃度が低く抑えられることにより金属間化合物の生成が少なく、金属間化合物周辺から発生する疲労亀裂の進展が遅延するため、優れた疲労特性、特に優れた低サイクル疲労特性が得られる。金属間化合物が多い場合は、金属間化合物周辺にひずみが集積して亀裂に至る。さらに、不純物としてのCu、Mn、Mgの含有量を低く抑えることにより、Cu、Mn、Mgの固溶量が低下するため、マトリックスの延性が増し、金属間化合物周辺のひずみをさらに緩和できて、より優れた疲労特性を得ることができる。
【0028】
優れた低サイクル疲労特性を得るためには、マトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm
2当たり3×10
4個以下であることが望ましい。より望ましくは3×10
3個以下、さらに望ましくは3×10
2個以下、最も望ましくは3×10個以下である。
【0030】
また
、アルミニウムを除く残余の成分は、不可避的不純物であり、精錬方法に応じて、各種の元素が不可避的に存在することとなるが、そのような不可避的不純物は、上記のように、合計量において、好ましくは1.0%
未満となるように調整される。
【0031】
上記の不可避的不純物は、アルミニウム純度99.0%
以上99.9%未満の純アルミニウムにおいては、通常、Fe、Si、Mn、Zn、V、Zr、Ga等が500ppm程度或いはそれ以下の割合で含有
されている。
【0034】
Tiは、心材の結晶粒度を微細化して、低サイクル疲労寿命をさらに向上させるよう機能する。Tiの好ましい含有範囲
は0.3%未満である。
【0035】
(中間材)
Zn、In、Snは中間材の電位を卑にし、心材に対する犠牲陽極効果を保持させる。その結果、心材の孔食を防止する。Znの好ましい範囲は0.5〜10.0%、さらに好ましい範囲は1〜5%、Inの好ましい範囲は0.001〜0.1%、さらに好ましい範囲は0.01〜0.05%、Snの好ましい範囲は0.001〜0.1%、さらに好ましい範囲は0.01〜0.05%である。
【0037】
Feは、Al−Fe系化合物を生成し、Al−Fe系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散化されることで耐食性が向上する。Feの好ましい含有範囲は0.1〜2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Feのさらに好ましい含有量は0.2〜1.0%の範囲である。
【0038】
Siは、Al−Si系化合物を生成し、Al−Si系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散化されることで耐食性が向上する。Siの好ましい含有範囲は0.1〜2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Siのさらに好ましい含有量は0.2〜1.0%の範囲である。
【0039】
Niは、Al−Ni系化合物を生成し、Al−Ni系化合物が腐食の起点となり、孔食が分散されることで耐食性が向上する。Niの好ましい含有範囲は0.1〜2.0%であり、2.0%を超えて含有すると耐食性が低下する。Niのさらに好ましい含有量は0.2〜1.0%の範囲である。
【0040】
CrとZrは、ろう付け加熱中の再結晶温度を高め、皮材1の結晶粒度を粗大化させることにより、ろう付け加熱中のエロージョンを抑制する。CrおよびZrの好ましい含有範囲は、いずれも0.01〜0.3%であり、0.3%を超えて含有しても効果が飽和しそれ以上の改善効果が期待できない。CrおよびZrのさらに好ましい含有量は0.05〜0.2%の範囲である。
【0041】
Tiは、中間材の板厚方向に濃度の高い領域と低い領域とに分かれ、それらが交互に層状に分布し、Ti濃度の低い領域が高い領域に比べ優先的に腐食することにより、腐食形態を層状にする効果を有し、板厚方向への腐食の進行を妨げて材料の耐孔食性を向上させる。Tiの好ましい含有範囲は0.35%以下であり、0.35%を超えると鋳造が困難となり、また加工性が劣化して健全な材料の製造が困難となる。Tiのさらに好ましい含有量は0.1〜0.2%の範囲である。
【0042】
なお、中間材には、公知の犠牲陽極材に添加される元素、例えば、Cu:0.2%以下、Mg:3.0%以下、V:0.3%以下、Co:0.3%以下、Ce:0.3%以下、Y:0.3%以下、La:1.0%以下、Nd:1.0%以下、Pr:1.0%以下を含んでもよい。
【0043】
(皮材1)
皮材1としては、通常ろう材として用いられているAl−Si系合金あるいはAl−Si−Mg系合金が使用される。Siの含有範囲は2.5〜14%であり、Mgの含有範囲は0.1〜2.0%である。
【0044】
Al−Si系合金、Al−Si−Mg系合金には、必要に応じて、Fe:0.1〜2.0%、Mn:0.1〜2.0%、Ti:0.01〜0.3%、Zn:0.5〜5.0%、Cu:0.1〜5.0%、Sr:0.001〜0.1%、Na:0.001〜0.1%、Sb:0.001〜0.1%、Bi:0.001〜0.2%、Be:0.001〜0.1
%のうちの1種または2種以上を含有していてもよい。その他、皮材1には、公知のろう材に添加される元素、例えば、V:0.3%以下、Co:0.3%以下、Ce:0.3%以下、Y:0.3%以下、La:1.0%以下、Nd:1.0%以下、Pr:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下を含んでいてもよい。
【0045】
本発明の熱交換器用アルミニウムクラッド材においては、中間材と反対側の心材面に、皮材2をクラッドして4層クラッド材とすることもできる。この場合、皮材2としては、前記皮材1で開示した組成のAl−Si系合金ろう材あるいはAl−Si−Mg系合金ろう材を適用することができる。
【0046】
また、本発明の熱交換器用アルミニウムクラッド材においては、中間材と反対側の心材面に耐食性が要求される場合には、中間材と反対側の心材面に、犠牲陽極効果を有するアルミニウム合金からなる皮材3をクラッドして4層クラッド材とすることもできる。この場合、皮材3としては、前記中間材で開示した組成のアルミニウム合金を適用することができる。
【0047】
本発明によるアルミニウムクラッド材は、DC鋳造により心材用アルミニウム、中間材用アルミニウム合金、皮材1用アルミニウム合金、および、必要に応じて、皮材2用アルミニウム合金、皮材3用アルミニウム合金を造塊し、例えば、得られた鋳塊のうち、心材用アルミニウムについては均質化処理を行い、中間材用アルミニウム合金、皮材1用アルミニウム合金、および、必要に応じて、皮材2用アルミニウム合金、皮材3用アルミニウム合金を熱間圧延して所定の厚さとし、これらと心材用アルミニウムの鋳塊を組み合わせて熱間圧延してクラッド材とする。その後、クラッド材を冷間圧延、最終焼鈍して所定厚さのアルミニウムクラッド材(例えば質別O)とする。途中の工程で中間焼鈍を施したり、最終焼鈍後にさらに冷間圧延して質別H1nとしてもよい。
【0048】
本発明のアルミニウムクラッド材においては、2層構造の場合も3層構造の場合も、心材のマトリックス中の金属間化合物のうち、粒子径で1μm以上の金属間化合物が、合計数として1mm
2当たり3×10
4個以下であることにより、より優れた低サイクル疲労特性を得ることができ、このような金属間化合物分布形態は、心材として、不可避的不純物量を抑制した前記の純アルミニウムまたは微量のTiを含むアルミニウムを用いることにより達成することができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、その効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
実施例1
連続鋳造により表1に示す組成を有する心材用アルミニウム、表2に示す組成を有する中間材用アルミニウム合金、および表3に示す組成を有する皮材1用アルミニウム合金を造塊し、得られた鋳塊のうち、心材用アルミニウムについて均質化処理を行い、中間材用アルミニウム合金および皮材2用アルミニウム合金を熱間圧延して所定の厚さとし、これらと心材用アルミニウムの鋳塊とを組み合わせて熱間圧延し、3層のクラッド材を得た。なお、表1に示す心材用アルミニウムにおいて、表1に示す元素以外の不可避的不純物量は、A1、A5はいずれも500ppm以下、A2、A6はいずれも10ppm以下、A3、A7はいずれも5ppm以下、A4、A8はいずれも1ppm以下であった。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
ついで、クラッド材を冷間圧延、最終焼鈍して厚さ0.40mmのクラッド板材(質別O)を得た。クラッドの構成は、中間材1のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、皮材1のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、残りを心材とした。なお、板厚とクラッド率は実施例に限定されるものではなく、適宜調整して使用される。例えば、板厚は0.10〜2.00mm、クラッド率は2〜20%程度とすることができる。
【0055】
得られたアルミニウムクラッド材を試験材とし、クラッド材にフラックスを塗布することなく、窒素ガス中、600℃(材料温度)で3分間加熱し、その後、平面曲げ疲労試験により疲労寿命を測定した。平面曲げ疲労試験は、ろう付け加熱後のクラッド材を切断後、端面を切削して5mm幅の短冊状の試験片を作製し、試験片について、
図1に示す曲げ疲労試験機を用いて、ひずみ範囲を0.67と固定し、両振りの曲げ疲労試験を実施した。周波数は0.5Hzで室温にて実施し、破断に至るまでのサイクル数を測定した。疲労寿命は破断回数が10
4程度の低サイクル域で評価し、疲労寿命が1×10
4を超えた場合を良好(〇)とした。結果を表4に示す。
【0056】
また、試験材の心材中の粒子径が1μm以上の金属間化合物粒子の1mm
2当たりの粒子数を測定した。心材中の粒子径が1μm以上の金属間化合物粒子の数の測定方法は以下のとおりである。心材を、倍率200倍で光学顕微鏡により5視野(面積合計0.15mm
2)撮影し、画像解析装置により、粒子径で1μm以上のサイズの金属間化合物の粒子数を測定した。結果を表4に示す。なお、表4において、試験材2、9〜18、29〜38は心材としてアルミニウム純度99.92%の純アルミニウムを用いたものであり、試験材3は心材としてアルミニウム純度99.993%の純アルミニウムを用いたものであり、試験材4は心材としてアルミニウム純度99.9992%の純アルミニウムを用いたものであり、試験材6は心材としてアルミニウム純度99.91%の純アルミニウムを用いたものであり、試験材7は心材としてアルミニウム純度99.992%の純アルミニウムを用いたものであり、試験材8は心材としてアルミニウム純度99.9991%の純アルミニウムを用いたものであり、
また、試験材1、49および50は心材のアルミニウム純度は99.5%であるが、心材にTiを含有しないものであり、いずれも参考例として示すものである。
【0057】
【表4】
【0058】
表4に示すように、本発明に従う
試験材5、19〜28、39〜
48、51、52はいずれも、疲労寿命が
1.2×10
4を超える優れた疲労特性をそなえていた。
【0059】
比較例1
連続鋳造により表5に示す組成を有する心材用アルミニウムを造塊し、得られた鋳塊について均質化処理を行い、実施例1で用いた中間材用アルミニウム合金および皮材1用アルミニウム合金の熱間圧延材を組み合わせて熱間圧延し、アルミニウムクラッド材を得た。
【0060】
【表5】
【0061】
ついで、クラッド材を冷間圧延、最終焼鈍して厚さ0.40mmのクラッド板材(質別O)を得た。クラッドの構成は、中間材のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、皮材1のクラッド率が10%(厚さ0.040mm)、残りを心材とし、得られたアルミニウムクラッド材を試験材として、実施例1と同じ方法で疲労寿命および金属間化合物粒子の数を測定した。結果を表6に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
表6に示すように、試験材101は、心材のアルミニウム純度が低いため、不純物量が多く、従って、繰返し応力が負荷された場合、金属間化合物周辺にひずみが集積して亀裂に至り、疲労寿命が劣っていた。