(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、例えばイヤホンやヘッドホン等の音響機器においては、音質の更なる向上が求められている。このため圧電発音素子においては、その電気音響変換機能の特性向上が必要不可欠とされている。
【0006】
しかしながら特許文献2の構成では、ダイナミック型ドライバがフロントカバーによって閉塞されているため、所望とする周波数特性で音波を発生させることができないという問題がある。具体的には、所定の周波数帯域におけるピークレベルの調整や、低音域の特性曲線と高音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における周波数特性の最適化などに対して、柔軟に対応することが困難である。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、所望とする周波数特性を容易に得ることができる電気音響変換装置及びこれを備えた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明の一形態に係る電気音響変換装置は、筐体と、圧電式発音体と、電磁式発音体と、通路部とを具備する。
上記圧電式発音体は、上記筐体に直接又は間接的に支持される周縁部を有する振動板と、上記振動板の少なくとも一方の面に配置された圧電素子とを含む。上記圧電式発音体は、上記筐体の内部を第1の空間部と第2の空間部とに区画する。
上記電磁式発音体は、上記第1の空間部に配置される。
上記通路部は、上記圧電式発音体又は上記圧電式発音体の周囲に設けられ、上記第1の空間部と上記第2の空間部との間を連通させる。
【0009】
上記電気音響変換装置において、電磁式発音体によって発生した音波は、圧電式発音体の振動板を振動させて第2の空間部へ伝播する音波成分と、通路部を介して第2の空間部へ伝播する音波成分との合成波で形成される。したがって、通路部の大きさ、個数等を最適化することにより、圧電式発音体から出力される音波を所望とする周波数特性に調整することが可能となる。電磁式発音体は、典型的には、圧電式発音体よりも低音域の音波を生成するように構成される。この場合、例えば所定の低音帯域に音圧ピークが得られるような周波数特性を容易に得ることが可能となる。
【0010】
また、通路部が圧電発音体に設けられているため、通路部の形態によって、振動板の共振周波数(圧電発音体の周波数特性)が調整可能となる。これにより、例えば、電磁式発音体による低音域の特性曲線と圧電式発音体による高音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における合成周波数をフラットにするなど、所望とする周波数特性を容易に実現することができるようになる。
【0011】
さらに、通路部は、電磁式発音体から発生した音波のうち所定以上の高周波成分をカットするローパスフィルタとしての機能を有する。これにより、圧電式発音体によって発生される高音域の周波数特性に影響を及ぼすことなく、所定の低周波帯域の音波を出力することが可能となる。
【0012】
本発明の一形態に係る電子機器は、筐体と、圧電式発音体と、電磁式発音体と、通路部とを具備する電気音響変換装置を搭載する。
上記圧電式発音体は、上記筐体に直接又は間接的に支持される周縁部を有する振動板と、上記振動板の少なくとも一方の面に配置された圧電素子とを含む。上記圧電式発音体は、上記筐体の内部を第1の空間部と第2の空間部とに区画する。
上記電磁式発音体は、上記第1の空間部に配置される。
上記通路部は、上記圧電式発音体又は前記圧電式発音体の周囲に設けられ、上記第1の空間部と上記第2の空間部との間を連通させる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、所望とする周波数特性を有する電気音響変換装置及びこれを備えた電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の一実施形態に係る電気音響変換装置としてのイヤホン100の構成を示す概略側断面図である。
図において、X軸、Y軸及びZ軸は相互に直交する3軸方向を示している。
【0017】
[イヤホンの全体構成]
イヤホン100は、イヤホン本体10と、イヤピース20とを有する。イヤピース20は、イヤホン本体10の音道11に取り付けられるとともに、ユーザの耳に装着可能に構成される。
【0018】
イヤホン本体10は、発音ユニット30と、発音ユニット30を収容するハウジング40とを有する。
発音ユニット30は、電磁式発音体31と、圧電式発音体32とを有する。ハウジング40は、筐体41と、カバー42とを有する。
【0019】
[筐体]
筐体41は、有底の円筒形状を有し、典型的には、プラスチックの射出成形体で構成される。筐体41は、発音ユニット30を収容する内部空間を有し、その底部410には、上記内部空間と連通する音道11が設けられている。
【0020】
筐体41は、圧電式発音体32の周縁部を支持する支持部411と、発音ユニット30の周囲を囲む側壁部412とを有する。支持部411及び側壁部412はいずれも環状に形成されており、支持部411は、側壁部412の底部近傍から内方側へ突出するように設けられている。支持部411は、XY平面に平行な平面で形成されており、後述する圧電式発音体32の周縁部を直接又は他の部材を介して間接的に支持する。なお、支持部411は、側壁部412の内周面に沿って環状に配置された複数の柱体で構成されてもよい。
【0021】
[電磁式発音体]
電磁式発音体31は、低音域を再生するウーハ(Woofer)として機能するスピーカユニットで構成される。本実施形態では、例えば7kHz以下の音波を主として生成するダイナミックスピーカで構成され、ボイスコイルモータ(電磁コイル)等の振動体を含む機構部311と、機構部311を振動可能に支持する台座部312とを有する。台座部312は、筐体41の側壁部412の内径と略同一の外径を有する略円盤形状に形成され、側壁部412に嵌合する周面部31eを有する。
【0022】
図2は、筐体41への組み付け前の状態を示す発音ユニット30の概略側断面図、
図3は、発音ユニット30の概略平面図である。
【0023】
電磁式発音体31は、圧電式発音体32に対向する第1の面31aと、その反対側の第2の面31bとを有する円盤形状を有する。第1の面31aの周縁部には、圧電式発音体32の周縁部に接触可能に対向する脚部312aが設けられている。脚部312aは環状に形成されるが、これに限られず、複数の柱体で構成されてもよい。
【0024】
第2の面31bは、台座部312の上面中央部に設けられた円盤状の隆起部31cの表面に形成される。第2の面31bには、発音ユニット30の電気回路を構成する回路基板33が固定されている。回路基板33の表面には、
図3に示すように、各種配線部材と接続される複数の端子部331,332,333が設けられている。回路基板33は、典型的には配線基板で構成されるが、少なくとも各配線部材が接続される端子部を備えた基板であればよい。また、回路基板33は、第2の面31bに設けられる例に限られず、例えばカバー42の内壁部等の他の部位に設けられてもよい。
【0025】
各端子部331〜333は、それぞれ一対ずつ設けられている。端子部331は、図示しない再生装置から送信される再生信号を入力する配線部材C1がそれぞれ接続される。端子部332は、配線部材C2を介して電磁式発音体31の入力端子313にそれぞれ電気的に接続される。端子部333は、配線部材C3を介して圧電式発音体32の入力端子324,325にそれぞれ電気的に接続される。なお、各配線部材C2,C3は、回路基板33を介さずに配線部材C1に直結されてもよい。
【0026】
[圧電式発音体]
圧電式発音体32は、高音域を再生するツイータ(Tweeter)として機能するスピーカユニットを構成する。本実施形態では、例えば7kHz以上の音波を主として生成するようにその発振周波数が設定される。圧電式発音体32は、振動板321と、圧電素子322とを有する。
【0027】
振動板321は、金属(例えば42アロイ)等の導電材料または樹脂(例えば液晶ポリマー)等の絶縁材料で構成され、その平面形状は円形に形成される。振動板321の外径や厚みは特に限定されず、筐体41の大きさ、再生音波の周波数帯域などに応じて適宜設定される。振動板321の外径は、電磁式発音体31の外径よりも小さく設定されており、本実施形態では、直径約12mm、厚み約0.2mmの振動板が用いられる。
【0028】
図3に示すように、振動板321は、筐体41に支持される周縁部321cを有する。発音ユニット30は、筐体41の支持部411と振動板321の周縁部321cとの間に配置された環状部材34をさらに有する。環状部材34は、電磁式発音体31の脚部312aを支持する支持面341を有する。環状部材34の外径は、筐体41の側壁部412の内径と略同一に形成される。
【0029】
環状部材34を構成する材料は特に限定されず、例えば、金属材料、合成樹脂材料、ゴム等の弾性材料などで構成される。環状部材34がゴム等の弾性材料で構成される場合、振動板321の共振のぶれが抑制され、これにより振動板321の安定した共振動作を確保することができる。
【0030】
振動板321は、音道11に臨む第1の主面32aと、電磁式発音体31に臨む第2の主面32bとを有する。本実施形態において圧電式発音体32は、振動板321の第2の主面32bにのみ圧電素子322が接合されたユニモルフ構造を有する。
【0031】
これに限られず、圧電素子322は、振動板321の第1の主面32aに接合されてもよい。また、圧電式発音体32は、振動板321の両主面32a,32bに圧電素子がそれぞれ接合されたバイモルフ構造で構成されてもよい。
【0032】
図4は、圧電素子322の一構成例を示す概略斜視図、
図5はその概略断面図である。
図6は、圧電素子322の他の構成例を示す概略斜視図、
図7はその概略断面図である。
【0033】
圧電素子322の平面形状は、多角形状に形成されており、本実施形態では矩形(長方形)とされるが、正方形や平行四辺形、台形などの他の四角形、あるいは四角形以外の多角形、あるいは円形、楕円形、長円形等であってもよい。圧電素子322の厚みも特に限定されず、例えば約50μmとされる。
【0034】
圧電素子322は、複数の圧電層と複数の電極層とが交互に積層された構造を有する。典型的には、圧電素子322は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、アルカリ金属含有ニオブ酸化物等の圧電特性を有する複数のセラミックシートLdを、電極層Leを挟んで相互に積層した後、所定温度で焼成することで作製される。各電極層の一端部は、誘電体層Ldの長辺方向の両端面に交互に引き出される。一方の端面に露出する電極層Leは第1の引出電極層Le1に接続され、他方の端面に露出する電極層Leは第2の引出電極層Le2に接続される。圧電素子322は、第1及び第2の引出電極層Le1,Le2間に所定の交流電圧を印加することで、所定周波数で伸縮するとともに、振動板321は所定周波数で振動させることになる。
【0035】
図4及び
図5に示す圧電素子322の構成例では、第1の引出電極層Le1は、誘電体層Ldの一方の端面から下面にかけて形成され、第2の引出電極層Le2は、誘電体層Ldの他方の端面から上面にかけて形成される。圧電素子322の下面は、はんだ、導電性接着材などの導電材料を介して振動板321の第2の主面32bに接合される。この場合、振動板321は金属材料で構成されるが、第2の主面32bが導電材料で被覆された絶縁材料で構成されてもよい。
【0036】
そこで本実施形態では、
図2に示すように、2本の配線部材C3のうち、一方の配線部材C3(第1の配線部材)は、振動板321に設けられた端子部324に接続され、他方の配線部材C3(第2の配線部材)は、圧電素子322に設けられた端子部325に接続される。一方の端子部324は、振動板321の第2の主面32bに設けられ、他方の端子部325は、圧電素子322上面の第2の引出電極層Le2に設けられる。これにより、第1及び第2の引出電極層Le1,Le2の間に所定の駆動電圧を印加することが可能となる。
【0037】
一方、
図6及び
図7示す圧電素子322の構成例においては、第1の引出電極層Le1は、誘電体層Ldの一方の端面から上面の一部にかけて形成され、第2の引出電極層Le2は、誘電体層Ldの他方の端面から上面の他の一部にかけて形成される。この場合、圧電素子322の上面に2つの引出電極層Le1,Le2が相互に隣接して露出するため、これらの上に端子部324,325がそれぞれ設けられてもよい。この場合、振動板321は、絶縁材料で構成されてもよい。
【0038】
図1に示すように、圧電式発音体32は、振動板321の周縁部321cに環状部材34が装着された状態で、筐体41の支持部411に組み付けられる。環状部材34と支持部411との間には、これらを接合する接着層が設けられてもよい。筐体41の内部空間は、圧電式発音体32によって、第1の空間部S1と、第2の空間部S2とに区画される。第1の空間部S1は、電磁式発音体31を収容する空間部であり、電磁式発音体31と圧電式発音体32との間に形成される。第2の空間部S2は、音道11に連通する空間部であり、圧電式発音体31と筐体41の底部との間に形成される。
【0039】
電磁式発音体31は、環状部材34の上に組み付けられる。電磁式発音体31の外周縁部と筐体41の側壁部412との間には、必要に応じて接着層が設けられる。当該接着層は、封止層としても機能するため、電磁式発音体31の音場形成空間(第1の空間部S1)の密閉度を高めることができる。
【0040】
[カバー]
カバー42は、筐体41の内部を閉塞するように側壁部412の上端に固定される。カバー42の内部上面には、電磁式発音体31を環状部材34に向けて押圧する押圧部421を有する。これにより、環状部材34は、電磁式発音体31の脚部312aと筐体41の支持部411との間に強固に挟持されるため、振動板321の周縁部321cを筐体41に一体的に接続することが可能となる。
【0041】
カバー42の押圧部421は環状に形成され、その先端部は、弾性層422を介して、電磁式発音体31の隆起部31cの周囲に形成された環状の上面部31d(
図2及び
図3参照)に接触する。これにより、電磁式発音体31が、環状部材34の全周にわたって均一な力で押圧されることになり、筐体41の内部において発音ユニット30を適正に位置決めすることが可能となる。なお押圧部421は、環状に形成される場合に限られず、複数の柱体で構成されてもよい。
【0042】
カバー42の所定位置には、回路基板33の端子部331に接続される配線部材C1を図示しない再生装置へ導出するためのフィードスルーが設けられている。
【0043】
[配線部材C3の引出構造]
本実施形態においては、圧電式発音体32に接続される各配線部材C3は、振動板321の第2の主面32b側から引き出されるように構成される。すなわち圧電式発音体32の各端子部324,325は、第1の空間部S1に臨んで配置されているため、これら配線部材C3を回路基板33上の端子部333に導くための引き回し経路が必要となる。そこで本実施形態では、電磁式発音体31のベース部312の側周面と、環状部材34とに、それぞれ配線部材C3を収容可能なガイド溝が設けられている。
【0044】
図2に示すように、電磁式発音体31の周面部31e及び上面部31には、第1の面31aと第2の面31bとの間で引き回される複数の配線部材C3を収容する第1のガイド溝31fが設けられている。これにより、電磁式発音体31の周面部31eと筐体41の側壁部412との間、及び、電磁式発音体31の上面部31dとカバー42の押圧部421との間において、配線部材C3を損傷させることなく容易に引き回すことが可能となる。
【0045】
第1のガイド溝31fは、上面部31dにあっては径方向に、周面部31eにあっては高さ方向(Z軸方向)に沿ってそれぞれ形成されている。上面部31d及び周面部31eに形成される各ガイド溝31fは、相互に接続されている。第1のガイド溝31fは角溝で構成されるが、丸溝等の他の形状の凹溝で構成されてもよい。第1のガイド溝31fの形成位置は特に限定されないが、
図3に示すように回路基板33の端子部333に近い位置に設けられるのが好ましい。
【0046】
なお、カバー42の押圧部421が複数の柱体で構成される場合には、これら柱体間に配線部材C3を通すことができるため、上面部31dへのガイド溝31fの形成は省略することができる。
【0047】
一方、環状部材34の支持面341には、複数の配線部材C3を収容可能な第2のガイド溝34aが設けられている。第2のガイド溝34aは、環状部材34の内周縁部と外周縁部との間を連絡するように径方向に直線的に形成される。第2のガイド溝34aは、発音ユニット30を筐体41の内部に組み込んだ状態において、第1のガイド溝31fと連通する位置に形成される。これにより、電磁式発音体31の脚部312aと環状部材34との間において、配線部材C3を損傷させることなく容易に引き回すことが可能となる。
【0048】
[通路部]
第1の空間部S1が密閉されていると、所望とする周波数特性で低音域の音波を発生させることができない場合がある。具体的には、所定の周波数帯域におけるピークレベルの調整や、低音域の特性曲線と高音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における周波数特性の最適化などに対して、柔軟に対応することが困難となる。
【0049】
そこで本実施形態では、圧電式発音体32に、第1の空間部S1と第2の空間部S2との間を連通させる通路部35が設けられている。
図8は、圧電式発音体32の構成を示す概略平面図である。
【0050】
通路部35は、振動板321の厚み方向に設けられる。本実施形態において通路部35は、振動板321に設けられた複数の貫通孔で構成される。
図8に示すように通路部35は、圧電素子322の周囲に複数形成される。振動板321の周縁部321eには環状部材34が取り付けられるため、圧電素子322と環状部材34との間の領域に通路部35が設けられる。本実施形態では、圧電素子322が矩形状の平面形状を有するため、圧電素子322の大きさを必要以上に制限することなく、通路部35を形成する領域を確保することができる。
【0051】
通路部35は、電磁式発音体31で生成された音波の一部を第1の空間部S1から第2の空間部S2へ通すためのものである。したがって、通路部35の数や大きさ等によって、低音域の周波数特性を調整あるいはチューニングすることができ、所望とする低音域の周波数特性に応じて通路部35の数や大きさ等が決定される。このため通路部35の数や大きさは
図8の例に限られず、例えば、通路部35は単数であってもよい。
【0052】
なお、通路部35の開口形状も円形に限られず、その数も場所によって異なっていてもよい。例えば、通路部35には、
図9に示すように楕円形の通路部351が含まれてもよい。
【0053】
[イヤホンの動作]
続いて、以上のように構成される本実施形態のイヤホン100の典型的な動作について説明する。
【0054】
本実施形態のイヤホン100において、発音ユニット30の回路基板33には、配線部材C1を介して再生信号が入力される。再生信号は、回路基板33及び配線部材C2,C3を介して、電磁式発音体31及び圧電式発音体32にそれぞれ入力される。これにより、電磁式発音体31が駆動されて、主として7kHz以下の低音域の音波が生成される。一方、圧電式発音体32においては、圧電素子322の伸縮動作により振動板321が振動し、主として7kHz以上の高温域の音波が生成される。生成された各帯域の音波は、音道11を介してユーザの耳に伝達される。このようにイヤホン100は、低音域用の発音体と高音域用の発音体とを有するハイブリッドスピーカとして機能する。
【0055】
ここで、電磁式発音体31によって発生した音波は、圧電式発音体32の振動板321を振動させて第2の空間部S2へ伝播する音波成分と、通路部35を介して第2の空間部S2へ伝播する音波成分との合成波で形成される。したがって、通路部35の大きさ、個数等を最適化することにより、圧電式発音体31から出力される低音域の音波を、例えば所定の低音帯域に音圧ピークが得られるような周波数特性に調整あるいはチューニングすることが可能となる。
【0056】
本実施形態では、通路部35が振動板321の厚み方向に貫通する貫通孔で構成されているため、第1の空間部S1から第2の空間部S2への音波伝搬経路を最小(最短)にすることができる。これにより、所定の低音域に音圧ピークを設定しやすくなる。
【0057】
例えば
図10は、上記音波伝搬経路が必要以上に長くなったときの再生音波についての特性図である。図において横軸は周波数、縦軸は音圧(任意単位)であり、F1は、電磁式発音体により再生された低音域の周波数特性を、F2は圧電式発音体で再生された高音域の周波数特性をそれぞれ示している。
図10の例では、約3kHz付近で大きなディップが生じている。再生音が楽曲の場合、一般に3kHzの帯域はボーカルの発声音の周波数帯域に相当する。したがってこの帯域にディップが生じると、ボーカルの音質が低下する傾向にある。
【0058】
一方、
図11は、通路部35を最短経路で構成したときの再生音波についての
図10と同様の特性図である。本実施形態によれば、3kHz付近にピークを有する低音周波数特性を得ることができる。これにより、ボーカルの音質が改善されるため、楽曲の再生品質を向上させることが可能となる。
【0059】
また、通路部35は、電磁式発音体から発生した音波のうち所定以上の高周波成分をカットするローパスフィルタとしての機能を有する。これにより、圧電式発音体32によって発生される高音域の周波数特性に影響を及ぼすことなく、所定の低周波帯域の音波を出力することが可能となる。
【0060】
さらに本実施形態によれば、圧電式発音体32は、複数の配線部材C3をすべて振動板321の第2の主面32b側に引き出すように構成されているため、振動板321の第1の主面32a側から配線を引き出す場合と比較して、圧電素子322への配線部材C3の接続作業性だけでなく、筐体41への組立性の向上を図ることができる。
【0061】
しかも、発音ユニット30は、電磁式発音体31と圧電式発音体32とを配線部材C3によって相互に接続した状態で筐体41の内部へ一括的に組み込むことができるため、組立性の更なる向上を図ることができる。また、配線部材C3を収容可能な第1及び第2のガイド溝31f,34aが電磁式発音体31の周面部31e及び環状部材34の支持面341にそれぞれ設けられているため、配線部材C3を損傷させることなく、適正な経路で引き回すことが可能となる。これにより、作業の熟練度を必要とすることなく、安定した組立精度を確保することが可能となる。
【0062】
<第2の実施形態>
図12は、本発明の他の実施形態に係るイヤホン200の概略断面図である。以下、第1の実施形態と異なる構成について主に説明し、上述の実施形態と同様の構成については同様の符号を付しその説明を省略または簡略化する。
【0063】
本実施形態のイヤホン200は、発音ユニット50、特に圧電式発音体52の構成が上述の第1の実施形態と異なる。圧電式発音体52は、振動板521と、振動板521の一方の主面(本例では第1の空間部S1に対向する主面)に接合された圧電素子322とを有する。
【0064】
図13は、圧電式発音体52の構成を示す概略平面図である。
図13に示すように振動板521の周縁部には、径外方へ放射状に突出する複数(図示の例では3つ)の突出片521gが設けられている。複数の突出片521gは、環状部材34の内周部に固定される。したがって振動板521は、複数の突出片531g及び環状部材34を介して、筐体41の支持部411に固定される。
【0065】
複数の突出片521gは、典型的には、等角度間隔で形成される。複数の突出片521gは、振動板521の周縁部に複数の切欠き部521hを設けることで形成される。突出片521gの突出量は、切欠き部521hの切欠き深さで調整される。
【0066】
圧電式発音体52には、第1の空間部S1と第2の空間部S2との間を連通させる通路部55が設けられている。本実施形態では、環状部材34の内周面と、隣接する複数の突出片521gとの間に、所定幅の円弧状の開口が形成されるように、各切欠き部521hの切欠き深さが設定される。上記開口により、振動板521の厚み方向に貫通する通路部55が形成される。
【0067】
通路部55の数、振動板521の径方向に沿った開口幅、振動板521の円周方向に沿った開口長さ等は適宜設定可能であり、所望とする低音域の周波数特性に応じて決定される。これにより、第1の実施形態と同様に、例えば所定の低音域(例えば3kHz)に音圧ピークを有する再生音の周波数特性を得ることが可能となる。
図14は、4つの突出片521gを有する振動板521の構成例を示し、
図15は、5つの突出片521gを有する振動板521の構成例を示す。
【0068】
また本実施形態の振動板521は、複数の突出部521gの一部または全部を支点として振動するように構成されるため、突出部521gの数、形状、配置または固定方法によって振動板521の共振周波数を調整することが可能となる。例えば、
図14のように支点を4か所に設けた振動板521の共振周波数を10kHzに設計した場合、
図13のような支点が3か所の振動板521の共振周波数は例えば8kHzと低くなり、
図15のような支点が5か所の振動板521の共振周波数は例えば12kHzと高くなる。その他、振動板521の厚みや外径、材質等によっても共振周波数を調整することが可能となる。
【0069】
以上のように突出部521gの数等で振動板521の共振周波数を調整することが可能であるため、例えば、電磁式発音体31による低音域の特性曲線と圧電式発音体52による高音域の特性曲線との交差部(クロスポイント)における合成周波数をフラットにするなど、所望とする周波数特性を容易に実現することができるようになる。
【0070】
図16A〜Cは、振動板521の共振周波数とイヤホン200の再生音の周波数特性との関係を説明する模式図であり、横軸は周波数、縦軸は音圧を示している。各図中、F1(細実線)は、電磁式発音体31により再生される低音域と周波数特性を、F2(破線)は圧電式発音体52により再生される高音域の周波数特性を、そして、F0(太実線)はこれらの合成特性をそれぞれ示している。さらに、Pは、曲線F1と曲線F2との交点、すなわち上記クロスポイントを示している。
【0071】
図16A〜Cにおいて、振動板521の共振周波数は、B、C及びAの順で高くなる。
図16Aの例では、クロスポイントPの帯域でディップが生じやすく、
図16Bの例では、クロスポイントPの帯域でピークが生じやすい。これに対して、
図16Cの例では、クロスポイントPの帯域でフラットな特性が得られる。
【0072】
一般に、ハイブリッドスピーカにおいては、低音域域の特性曲線と高音域の特性曲線とのクロスポイントが音質のチューニングの際に重要である。典型的には、
図16Cに示すようにクロスポイントPの帯域で低音域と高音域との合成周波数がフラットになるように調整される。本実施形態によれば、振動板521の支点(突出片521g)の数によって振動板521の共振周波数を調整することができるため、クロスポイントPの帯域がフラットとなるような所望の周波数特性を容易に実現することができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく種々変更を加え得ることは勿論である。
【0074】
例えば以上の実施形態では、低音域の音波を音道へ導く通路部が圧電式発音体に設けられたが、これに限られず、圧電式発音体の周囲に設けられてもよい。この場合、例えば
図17に模式的に示すように、圧電式発音体U2の外径は、筐体Bの側壁部の内径よりも小さく形成され、これらの間に、電磁式発音体U1で発生した低音域の音波を通過させる通路部Tが形成される。なお、圧電式発音体U2は、複数の支柱Rを介して筐体Bの底部B1に固定される。これにより、通路部Tを通過した音波を音道B2へ導くことができる。
【0075】
また以上の実施形態では、電気音響変換装置としてイヤホン100,200を例に挙げて説明したが、これに限られず、ヘッドホンや補聴器などにも適用可能である。また、本発明は、携帯情報端末やパーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載されるスピーカユニットとして適用することも可能である。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る電気音響変換装置(イヤホン100)は、筐体41と、圧電式発音体32と、電磁式発音体31と、通路部35とを具備する。圧電式発音体32は、筐体41に直接又は間接的に支持される周縁部を有する振動板321と、振動板321の少なくとも一方の面に配置された圧電素子322とを含む。圧電式発音体32は、筐体41の内部を第1の空間部S1と第2の空間部S2とに区画する。電磁式発音体31は、第1の空間部S1に配置される。通路部35は、圧電式発音体32又はその周囲に設けられ、第1の空間部S1と第2の空間部S2との間を連通させる。