(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のマイクロニードルチップについて説明を行なう。
本発明のマイクロニードルチップは、基体と、前記基体から針状に突出した突起部と、前記基体内に埋め込まれた無線識別タグと、有する。
一例として、
図1に、本発明のマイクロニードルチップ100の概略図を示す。
図1において、突起部101、基体102、無線識別タグ103である。
【0020】
基体は、後述する突起部を支持するだけの機械強度を備えれていればよく、材質に限定されない。例えば、金属、無機材料、有機材料などを用いてよい。
【0021】
また、基体は、可撓性を有する基体であっても良い。可撓性を有する基体とすることにより、曲面や生体皮膚などの可撓性を有する対象に対して好適に穿刺することが出来る。また、可撓性を有する基板を用いた場合、基板をロール状にすることで、突起部が林立したローラーを形成することが出来る。
【0022】
また、基体は、シート状であっても良い。シート状の基体を用いることにより、基板をシリンダーにロール状に積層した状態で保管することが出来、製造工程をロール・ツー・ロール方式により連続的に行うことが出来る。
【0023】
また、基体は異なる材料が積層された多層の構造であっても良い。複数種の材料を積層することにより、複数の材料の物性を活かした基体とすることが出来る。
例えば、(1)上層を突起部とを同組成の組成物で形成し、下層を可撓性に富んだ材料とした基板、(2)上層を下層よりも展性の大きい材料とした基板を用いた場合、好適に基板をロール状に曲げることが出来る、(3)上層を下層よりも収縮の小さい材料とした基板を用いた場合、好適に基板をロール状に曲げることが出来る、(4)基板の最下層を柔軟性を有する層とすることにより、基板を重ねて保管するとき突起部の破損を抑制出来る、などが挙げられる。
特に、本発明のマイクロニードルチップは、突起部形成側の反対面に封止層を設けることにより、(1)無線識別タグの固定、(2)無線識別タグの外環境からの保護(水分、汚れなど)、を行なうことが出来、好ましい。
【0024】
突起部は、用いる用途に応じて、形状・寸法を適宜設計し、材料を選択してよい。
【0025】
突起部の形状は、皮膚を穿孔するのに適した形状であれば良く、適宜設計してよい。例えば、具体的には、円錐、角錐、円柱、角柱などであっても良い。また、(1)基体上に突起部が一本の形状、(2)基体上に突起部が複数本林立した形状、のいずれでも良い。
【0026】
突起部の寸法は、皮膚を穿孔するための充分な細さと充分な長さを有していることが好ましい。
具体的には、径は数μmから数百μm(具体的には、例えば、1μm〜300μm程度)、長さは、具体的には数十μmから数百μm(具体的には、例えば、10μm〜1000μm程度)のものが望ましい。
【0027】
また、特に、穿孔の深さを「角質層内」に留める場合、マイクロニードルの長さは、具体的には、10μm以上300μm以下、より好適には20μm以上250μm以下、更には、20μm以上40μm以下、程度の範囲内にあることが好ましい。
【0028】
また、特に、「穿孔を角質層を貫通しかつ神経層へ到達しない長さ」に留める場合、マイクロニードルの長さは、具体的には、200μm以上700μm以下、より好適には200μm以上500μm以下、更には、200μm以上300μm以下程度の範囲内にあることが好ましい。
【0029】
また、採血を目的とする場合には、少なくとも約200μm以上の針状体の長さが望ましい。
【0030】
突起部に用いる針状体材料は、用いる用途および求められる仕様に応じて、適宜材料を選択してよい。例えば、(1)アクリル樹脂、ポリカーボネート、生分解樹脂などの樹脂材料、(2)Tiなどの金属材料、(3)セラミックスなどの無機材料、などを用いても良い。
【0031】
また、特に、突起部に用いる針状体材料は、生分解性材料よりなることが好ましい。生分解性材料を用いれば、突起が折れて体内に取り残された場合に発生する生体への負荷を低減できる。例えば、生分解性材料として、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、多糖類、キチン・キトサンなどが挙げられる
生分解性材料などの分解性のある針状体材料を用いた場合、環境条件や経時劣化によって材料特性が大きく変化するため保管環境や経過時間の管理を個別に行うことが望ましい。このため、保全管理を好適に行なうことが出来る本発明のマイクロニードルチップの奏する効果は多大である。
【0032】
また、(1)突起部と基体とで異なる材料を用いる、(2)突起部と基体とを同組成の材料を用いる、のいずれであっても良い。基体と突起部に同組成の材料を用いた場合、基体と突起部とを一度の成形工程で成形することが出来、好ましい。
【0033】
また、本発明のマイクロニードルチップは、送達物を含んでいても良い。
前記送達物としては、例えば、生理活性物質や化粧品組成物などが挙げられる。また、送達物として芳香を有する材料を用いた場合、使用に際して匂いを付与することが出来、美用品として用いるのに好ましい。
【0034】
また、送達物は、(1)送達物を針状体材料内に分散させ、マイクロニードルチップ内部に内包、(2)送達物をマイクロニードルチップ表面に塗布し保持、などの方法により保持してよい。
【0035】
また、送達物をマイクロニードルチップ表面に塗布する場合、マイクロニードルチップ表面に表面処理を行っても良い。表面処理を行うことにより、マイクロニードルチップ表面の物性が変化し、送達物の保持状態、流入経路などを制御することが出来る。
例えば、(1)送達物が親水性の場合、表面を親水処理、疎水処理を行うことにより、親水処理を行った部位に特異に送達物を保持することが出来、疎水処理を行った部位に特異に送達物を排斥することが出来る、(2)送達物が疎水性の場合、表面を親水処理、疎水処理を行うことにより、親水処理を行った部位に特異に送達物を排斥することが出来、疎水処理を行った部位に特異に生送達物を保持することが出来る、(3)表面全体を疎化し表面粗さを大きくすることにより、送達物の保持量および保持力を増大させる、などが挙げられる。
【0036】
また、送達物をマイクロニードルチップで投与するにあたり、突起部が皮膚に穿刺される前あるいは皮膚に穿刺される後に、送達物を対象となる皮膚上に塗布してもよい。このとき、針状体の表面または内部に送達物を配置し、かつ、対象となる皮膚表面にも送達物を塗布してもよい。
【0037】
また、特に、穿孔の深さを「角質層内」に留める場合、送達物を、角質層内に滞留させることが出来る。角質層はたえず新陳代謝により新規に生成されるため、角質層内の送達物は時間と共に体外へ排出される。このため、皮膚の洗浄や皮膚をピーリングすることなどにより、送達物を排除することが出来る。
【0038】
また、「穿孔を角質層を貫通しかつ神経層へ到達しない長さ」に留める場合、送達物を、角質層より深い位置に送達することが出来る。角質層に形成された穿孔は時間と共に塞がるため、角質層下に送達された送達物は外界から角質層にバリアされた状態で生体内に保持される。このため、送達物は、角質層の新陳代謝や、スキンケアなどの洗浄により剥落することを低減でき、長期間、保持することが出来る。
このため、美容用途に用いた場合、長期間の化粧状態を維持することが出来ることから、特に、眉、目の周囲、口唇の周囲、など、長期間の色味の保持が求められる部位における化粧品組成物の送達に好適に用いることが出来る。
【0039】
<無線識別タグ>
無線識別タグは、内部に履歴情報を格納し、非接触で該履歴情報を無線信号を用いてをやりとり出来るタグである。このため、特に、マイクロニードルチップを様々な医薬品や血液等を扱う医療用途に用いる場合、非接触で読み取ることが出来ることから、医薬品や血液等の付与および汚染により履歴情報の読み取りが阻害されることを抑制することが出来る。
一例として、
図2に、一般的な無線識別タグの概略図を示す。
図2において、半導体回路201、アンテナ202である。半導体回路201は、メモリおよびCPUの機能を含むものである。アンテナ202は、リーダーライター装置との間で、履歴情報を無線信号として送受信するために設けられる。また、アンテナ202は、リーダーライター装置からの無線信号(電波)によって誘導起電力を生じるものでも良く、該誘導起電力をコンデンサ(図示せず)等に蓄えることによって、半導体回路201を動作させてもよい。
【0040】
無線識別タグはマイクロニードルチップへの搭載に対し十分な大きさであり、針状体形状の突起部に干渉する事無く配置されていることが望ましい。
図1では、基体102内に無線識別タグ103に埋没している例を示したが、無線識別タグは、基体外に貼り付ける構成であっても良い。
【0041】
また、無線識別タグは、RFID(Radio Frequency Identification,無線電波による識別)であることが好ましい。RFIDは、電磁界や電波などを用いた近距離(周波数帯によって数cm〜数m)の無線通信によって情報をやりとりすることが出来る。RFIDの特徴としては、1)非接触通信に対応しており、離れたところからでもデータの読み取りができる、2)多くの情報を読み書きすることができる、3)複数のタグを同時に高速に読み取ることができる(例えば1秒間に50回)、4)水や油などに対する耐性を備えている、などが挙げられる。このため、RFIDは、近距離での通信に優れていることから、複数のマイクロニードルチップの履歴情報のやりとりに際し、個別のマイクロニードルチップの履歴情報の混線を抑制することが出来る。
【0042】
以下、本発明の履歴管理システムについて説明を行なう。
本発明の履歴管理システムは、無線識別タグを備えたマイクロニードルチップと、前記マイクロニードルチップ内の無線識別タグに対し履歴情報の入出力が可能なリーダーライターと、前記履歴情報を管理するサーバーと、を有する。
一例として、
図3に、本発明の履歴管理システムの構成の概略図を示す。
図3において、リーダライター装置301、サーバー302、である。
【0043】
リーダーライター装置は、マイクロニードルチップ内の無線識別タグとの送受信を行なう。リーダーライター装置の機構は、用いた無線識別タグに対応する機器であれば良い。
【0044】
サーバーは、リーダライター装置で取り扱う履歴情報の管理を行なう。サーバーで履歴情報をデータベース化し保持することにより、履歴情報を一元管理することが出来、複数のマイクロニードルチップの履歴情報を好適に取り扱うことが出来る。
【0045】
履歴情報は、マイクロニードルチップの来歴を示す情報であり、製造工程、流通、使用現場によって生じる情報である。例えば、具体的には、製品識別番号、日付、原材料、製造工程、表面処理、使用期限、保守点検の記録、温度、湿度、などの情報が挙げられる。
【0046】
本発明の履歴管理システムによれば、(1)製造、物流、保管における流通管理、(2)使用の有無、使用対象の指定などの実施管理、などの履歴情報を製造者、流通業者、使用者等の取扱者が適時参照することが出来る。このため、医療現場における作業の効率化や医療事故の防止に貢献できる。
【0047】
以下、本発明のマイクロニードルチップ製造方法について説明を行なう。
【0048】
<充填工程>
まず、針状体形状の凹凸反転パターンからなる凹部を有する転写版に針状体材料を充填する充填する。
【0049】
転写版は、転写成形に求められる機械的強度、形状追従性を有していればよく、成形する針状体材料に応じて、形状・寸法を適宜設計し、材料を選択してよい。
【0050】
転写版を構成する転写版材料は、転写成形に求められる機械的強度、形状追従性に優れた材料を用いることが好ましい。
例えば、(1)シリコン、(2)ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、などの金属材料、(3)アルミナ、窒化アルミニウム、マシナブルセラミックス、などのセラミックス、(4)ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、などの合成樹脂、(4)アルギン酸塩、などを用いてよい。
【0051】
また、転写版の凹部を形成するための手段は、公知の微細加工技術を適宜選択して形成して良い。例えば、具体的には、リソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、機械加工法、などが挙げられる。
【0052】
また、転写版は、針状体形状を有する原版を形成し、該原版から鋳型を取って転写版を形成しても良い。このとき、原版は公知の微細加工技術を適宜選択して形成して良い。例えば、具体的には、リソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、機械加工法、などが挙げられる。また、鋳型の形成には、メッキ法、溶融樹脂の塗布、などを用いて良い。同一の原版から複数の転写版を製造することが出来るため、加工コストおよび生産コストを抑制し、生産性を高めることが可能となる。
【0053】
転写版に針状体材料を充填する方法としては、適宜公知の充填方法を用いて良い。例えば、具体的には、充填方法として、インプリント法、ホットエンボス法、射出成形法、押し出し成形法、キャスティング法、などが挙げられる。
【0054】
また、転写版と針状体材料の剥離性を向上させるために、針状体材料の充填前に、転写版の表面上に離型効果を増すための表面処理を行って良い。
例えば、表面処理として、(1)フッ素系の樹脂、金属微粒子、ダイヤモンドライクカーボン、シリコーンオイルなどの離型層を形成、(2)化学的な表面改質、(3)表面形状の加工、などが挙げられる。
【0055】
<配置工程>
次に、転写版に充填した針状体材料内に無線識別タグを配置する。
【0056】
<剥離工程>
次に、転写版から前記針状体材料を剥離する。
【0057】
また、配置工程と剥離工程は、互いに相前後して実施してよく、配置工程後に剥離工程を行っても、剥離工程後に配置工程を行っても良い。
【0058】
また、更に、前記無線識別タグを配置した側に封止樹脂を塗布する封止工程を行っても良い。封止処理に用いられる材料はマイクロニードルチップに接するため、生体への安全性が高い材料であることが望ましい。例えば、具体的には、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリ乳酸、等が挙げられる。
【0059】
(第1の実施形態)
以下、具体的に本発明のマイクロニードルチップ製造方法について、
図4を用いながら説明を行なう。
まず、転写版401を用意する(
図4(a))。
次に、転写版401に針状体材料402を充填し、凸版403を接近させる(
図4(b))。
次に、凹部404が形成された構造体を剥離する(
図4(c))。
次に、凹部404に無線識別タグ103を配置し、本発明のマイクロニードルチップ100を得る(
図4(d))。
【0060】
充填工程において、凸版を接近させることにより、充填された針状体材料に凹部を形成する。これにより、微細な構造体である針状体形状を変形させることなく凹部を形成することが出来る。このため、無線識別タグの配置により、針状体形状が歪むことを抑制することが出来る。
【0061】
(第2の実施形態)
以下、上述した実施形態とは異なる実施形態について、
図5を用いながら、説明を行なう。
まず、転写版401を用意する(
図5(a))。
次に、転写版401に針状体材料402を充填する(
図5(b))。
次に、転写版401に充填された針状体材料402に無線識別タグ103を配置する(
図5(c))。
次に、無線識別タグ103が内包された針状体材料402を剥離し、本発明のマイクロニードルチップ100を得る(
図5(d))。
【0062】
第2の実施形態では、転写版に針状体材料が充填された状態で無線識別タグを配置する。このため、無線識別タグの配置により、針状体形状が歪むことを抑制することが出来る。
【0063】
以上より、本発明のマイクロニードルチップ製造方法を実施することが出来る。なお、本発明のマイクロニードルチップ製造方法の製造方法は上記実施の形態に限定されず、各工程において類推することのできる他の公知の方法をも含むものとする。
【実施例】
【0064】
以下、本発明のマイクロニードルチップ製造方法について、具体的に一例を挙げながら説明を行う。当然のことながら、本発明のマイクロニードルチップの製造方法は下記実施例に限定されず、各工程において当業者が類推できる他の製造方法をも含むものとする。
【0065】
まず、機械加工装置を用い、シリコン基板上に5列5行のアレイ状に並んだ突起部を有する原版を作製した。
このとき、得られた針状体は四角錐であり、先端角が40°、高さが約445μm、底面の一辺の幅が330μmとなった。
【0066】
次に、蒸着によりニッケル層(厚み:30nm)を形成し、該ニッケル膜をシード層とした電解メッキ法によって、原版の表面にニッケル膜(膜厚:600μm)形成した。
このとき、電解メッキ時のメッキ液にはスルファミン酸ニッケル溶液(pH:4.7、メッキ浴槽温度:50℃)を用いた。
【0067】
次に、前記ニッケル膜を原版から剥離し、ニッケルよりなる転写版を得た。
【0068】
次に、前記転写版に対し、インプリント法を用いてマイクロニードルチップの作製を行った。
このとき、充填する針状体材料として、生分解性樹脂であるポリ乳酸を用いた。
また、成形温度は200℃設定とし、充填時に、前記転写版に凸版を接近させ、充填された針状体材料に凹部を形成した。
【0069】
次に、凹部が形成された針状体材料を転写版から剥離した。
これにより、生分解性樹脂であるポリ乳酸で構成され、凹部を有し、2cm角の基体の上に突起部が並んだ構造体を作製することが出来た。
【0070】
次に、基体の凹部にRFIDチップ(エフ・イー・シー社製、商品名:MMチップ)を設置した。
【0071】
次に、凹部に設置したRFIDチップを封止樹脂を塗布することにより封止した。
このとき、封止樹脂として、シリコーン樹脂(ダウコーニング社製)を用いた。
以上より、本発明のマイクロニードルチップを製造することが出来た。
【0072】
上述したマイクロニードルチップに対し、リーダーライターを介して製品識別番号、作製日時、作業者、使用期限の情報を付与した。
このとき、マイクロニードルチップとリーダーライターとの距離は1cm以上であり、接触無く動作することを確認した。一連の作業を繰り返し、5種類の針状体機器からなるデータベースを作製した。
【0073】
情報入力の後、マイクロニードルチップから付与情報を読み出すことで、製品識別番号、作製日時、作業者、使用期限の情報を確認した。これにより、非接触で複数のマイクロニードルチップの管理手法として利用できることを確認した。