(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759726
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】ファンクラッチ制御方法及び装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/08 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
F01P7/08 C
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-9377(P2011-9377)
(22)【出願日】2011年1月20日
(65)【公開番号】特開2012-149580(P2012-149580A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2013年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石森 崇
【審査官】
二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−302207(JP,A)
【文献】
特開2006−162063(JP,A)
【文献】
特開昭61−252824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 1/00−11/20
F02D 13/00−28/00
F02D 29/00−29/06
F16D 25/00−39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイドルストップシステムを採用した車両のエンジンと冷却ファンの間に通電時に断状態となる電子制御のファンクラッチを介装し、該ファンクラッチを不要時に通電して切ることで燃費向上を図るようにしたファンクラッチ制御方法であって、アイドルストップの実施時にファンクラッチに通電して該ファンクラッチを断状態に保持する一方、アイドルストップ中に完全停止への移行が確認された時にはファンクラッチへの通電を停止することを特徴とするファンクラッチ制御方法。
【請求項2】
アイドルストップの終了時に所定時間の経過及び車速の所定以上の上昇の少なくとも何れかが確認されてから通常の燃費向上を図る断続制御に復帰することを特徴とする請求項1に記載のファンクラッチ制御方法。
【請求項3】
アイドルストップシステムを採用した車両のエンジンと冷却ファンの間に通電時に断状態となる電子制御のファンクラッチを介装し、該ファンクラッチを不要時に通電して切ることで燃費向上を図るようにしたファンクラッチ制御装置であって、冷却ファンの断続制御を実行する電子制御ファンコントローラを、アイドルストップコントローラからアイドルストップの判定情報を入力し且つ該アイドルストップの実施時にファンクラッチに通電して該ファンクラッチを断状態に保持する一方、アイドルストップコントローラからのアイドルストップの判定情報に基づきアイドルストップから完全停止への移行が確認された時にはファンクラッチへの通電を停止するように構成したことを特徴とするファンクラッチ制御装置。
【請求項4】
アイドルストップコントローラからのアイドルストップの判定情報に基づきアイドルストップの終了時に所定時間の経過及び車速の所定以上の上昇の少なくとも何れかが確認されてから通常の燃費向上を図る断続制御に復帰するように電子制御ファンコントローラを構成したことを特徴とする請求項3に記載のファンクラッチ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファンクラッチ制御方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンに付帯する冷却ファンは、ラジエータ越しに外気を強制的に吸引して冷却媒体であるクーラントの放熱を助け、ノッキングや潤滑不良の要因となるエンジンの過熱を防ぐ役割を果たしているが、十分な送風量が期待できる車両高速走行時等においては、冷却ファンを駆動する分だけエンジン出力の損失が生じ、これにより燃費の悪化を招いてしまっていた。
【0003】
そこで、エンジンのクランクシャフトと冷却ファンとの間に電子制御のファンクラッチを介在させ、車両の運転状況に基づきファン冷却が不要となる度にファンクラッチを切ることで冷却ファンの回転消費エネルギーをできるだけ少なくする提案が成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この種の電子制御のファンクラッチには、通電時に接状態となるものと、通電時に断状態となるものとがあるが、トラック等の大型運搬車両では、荷物を積載した負荷の高い運転状態となることが多いため、万一、電気系統に不具合が生じても冷却ファンが回転しなくなる事態が起こらないように、通電時に断状態となるファンクラッチが一般的に採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−3131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年においては、車両が信号待ち等で停車した僅かな時間もエンジンを自動的に停止して排気ガスの排出量を削減するようにしたアイドルストップシステムが採用されるようになってきており、斯かるアイドルストップシステムを採用した大型運搬車両では、アイドルストップの実施中にエンジンが停止されると、ファンクラッチへの通電も停止して該ファンクラッチが接状態となり、アイドルストップ終了後のエンジン再始動時にファンクラッチがエンジンと連れ回りしてエンジンの再始動トルクが大きくなり、アイドルストップによる燃費の改善分が再始動時の燃費の悪化分で目減りしたり、再始動時の騒音が大きくなるといった問題を招いていた。
【0007】
本発明は斯かる実情に鑑みてなしたもので、アイドルストップ終了後のエンジン再始動時にファンクラッチがエンジンと連れ回りしないようにして燃費向上と騒音低減を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アイドルストップシステムを採用した車両のエンジンと冷却ファンの間に通電時に断状態となる電子制御のファンクラッチを介装し、該ファンクラッチを不要時に通電して切ることで燃費向上を図るようにしたファンクラッチ制御方法であって、アイドルストップの実施時にファンクラッチに通電して該ファンクラッチを断状態に保持する
一方、アイドルストップ中に完全停止への移行が確認された時にはファンクラッチへの通電を停止することを特徴とするものである。
【0009】
而して、このようにすれば、車両が信号待ち等で停車した際に、アイドルストップが実施されてエンジンが停止しても、ファンクラッチに通電が成されて該ファンクラッチが断状態に保持され、これによりアイドルストップ終了後のエンジン再始動時にファンクラッチがエンジンと連れ回りしなくなる結果、エンジンの再始動トルクが小さくなってアイドルストップによる燃費の改善分が目減りしなくなり、再始動時の騒音も小さく抑えられることになる。
【0010】
更に、本発明においては、アイドルストップ中に完全停止への移行が確認された時にファンクラッチへの通電を停止する
ようにしているので、アイドルストップから完全停止への移行後もファンクラッチへの通電が継続されて無駄な電力が消費されるといった事態を未然に回避することが可能となる。
【0011】
また、本発明においては、アイドルストップの終了時に所定時間の経過及び車速の所定以上の上昇の少なくとも何れかが確認されてから通常の燃費向上を図る断続制御に復帰することが好ましく、このようにすれば、エンジンの回転数が未だ十分に上昇していないトルク不足の状態でファンクラッチが繋がれてしまう事態を未然に回避することが可能となる。
【0012】
更に、本発明の方法をより具体的に実施するにあたっては、例えば、アイドルストップシステムを採用した車両のエンジンと冷却ファンの間に通電時に断状態となる電子制御のファンクラッチを介装し、該ファンクラッチを不要時に通電して切ることで燃費向上を図るようにしたファンクラッチ制御装置であって、冷却ファンの断続制御を実行する電子制御ファンコントローラを、アイドルストップコントローラからアイドルストップの判定情報を入力し且つ該アイドルストップの実施時にファンクラッチに通電して該ファンクラッチを断状態に保持する
一方、アイドルストップコントローラからのアイドルストップの判定情報に基づきアイドルストップから完全停止への移行が確認された時にはファンクラッチへの通電を停止するように構成すると良い。
【0013】
また、斯かるファンクラッチ制御装置に関
し、アイドルストップコントローラからのアイドルストップの判定情報に基づきアイドルストップの終了時に所定時間の経過及び車速の所定以上の上昇の少なくとも何れかが確認されてから通常の燃費向上を図る断続制御に復帰するように電子制御ファンコントローラを構成すると良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明のファンクラッチ制御方法及び装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0015】
(I)本発明の請求項1、
3に記載の発明によれば、車両が信号待ち等で停車した際に、アイドルストップが実施されてエンジンが停止しても、ファンクラッチに通電して該ファンクラッチを断状態に保持することができるので、アイドルストップ終了後のエンジン再始動時にファンクラッチがエンジンと連れ回りしないようにして燃費向上と騒音低減を図ることができる。
【0016】
(II)本発明の請求項
1、3に記載の発明によれば、アイドルストップから完全停止への移行後もファンクラッチへの通電が継続されて無駄な電力が消費されるといった事態を未然に回避することができる。
【0017】
(III)本発明の請求項
2、4に記載の発明によれば、エンジンの回転数が未だ十分に上昇していないトルク不足の状態でファンクラッチが繋がれてしまう事態を未然に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【
図2】アイドルストップ開始時の制御手順を示すフローチャートである。
【
図3】アイドルストップ終了時の制御手順を示すフローチャートである。
【
図4】アイドルストップの判定形式の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
【0020】
図1は本発明を実施するための具体的な形態の一例を示すもので、エンジン1に対し電子制御のファンクラッチ2を介して冷却ファン3が装備されており、該ファンクラッチ2は、電子制御ファンコントローラ4からの制御信号4aに基づいて断続制御されるようになっている。
【0021】
ここで、前記電子制御ファンコントローラ4には、サーモケース等に装備されてクーラントの温度を検出する温度センサ5からの検出信号5aが入力されるようになっており、該温度センサ5からの検出信号5aに基づき現在のクーラントの温度が所定の許容範囲を上回った際に、ファンクラッチ2を繋ぐ制御信号4aが出力され、現在のクーラントの温度が所定の許容範囲を下回った際には、ファンクラッチ2を切る制御信号4aが出力されるようになっている。
【0022】
尚、冷却ファン3の前面には、クーラントを空冷するためのラジエータ以外に、ターボチャージャにより過給されて昇温した吸気を空冷するためのインタークーラや、エアコンの気相の冷却媒体を空冷して液相に復元するためのエアコンコンデンサ等も配置されているので、インタークーラの吸気温度を検出する温度センサ6からの検出信号6aや、エアコンのスイッチ7からのオン・オフ信号7a等も入力されるようになっており、現在のクーラントの温度が所定の許容範囲を下回っていても、吸気温度が所定の許容範囲を上回っている場合やエアコン稼働時にファンクラッチ2を繋ぐ制御信号4aが出力されるようにしても良い。
【0023】
この際、本形態例においては、単純にファンクラッチ2を不要時に切るというだけではなく、ファンクラッチ2を繋ぐ際に、きめ細かく必要な目標ファン回転数を演算してファンクラッチ2の回転数制御を行うようになっており、ファンクラッチ2内で検出された該ファンクラッチ2の回転数の検出信号2aが電子制御ファンコントローラ4にフィードバックされるようになっている。
【0024】
そして、このようなファンクラッチ2を不要時に切ることで燃費向上を図るようにした通常の断続制御に加え、本形態例の場合は、冷却ファン3の断続制御を実行する電子制御ファンコントローラ4が、アイドルストップコントローラ8からアイドルストップの判定情報8aを入力し且つ該アイドルストップの実施時にファンクラッチ2に通電して該ファンクラッチ2を断状態に保持するように構成されている。
【0025】
即ち、
図2に示している通り、アイドルストップコントローラ8からアイドルストップの判定情報8aとしてアイドルストップの開始が入力された際には、目標ファン回転数を演算する行程を省いて直ちにファンクラッチ2の強制オフが決定され、ファンクラッチ2に通電して該ファンクラッチ2を断状態に保持する制御信号4aが出力されるようになっている。この場合、
図2におけるファンクラッチ2の作動制御は、ファンクラッチ2の断状態の保持となり、この際に検出される実際のファン回転数は零となる。
【0026】
ただし、アイドルストップコントローラ8からのアイドルストップの判定情報8aに基づき、アイドルストップ中にシートベルトを外す、ドアを開ける等の操作によりアイドルストップから完全停止への移行が確認された時には、ファンクラッチ2への通電を停止するようにしておく。
【0027】
また、
図3に示している通り、アイドルストップコントローラ8からアイドルストップの判定情報8aとしてアイドルストップの終了が入力された際には、例えば、アイドルストップの終了から所定時間の経過及び車速の所定以上の上昇の少なくとも何れかが確認されてから通常の燃費向上を図る断続制御に復帰するようになっている。
【0028】
尚、アイドルストップコントローラ8におけるアイドルストップの判定形式には、既に実用化されている周知の技術を適用すれば良く、例えば、
図4にフローチャートで示す如く、アイドルストップの実施とエンジン再始動を判定するようにすれば良いが、必ずしも
図4の判定形式に限定されないことは勿論である。
【0029】
而して、このようにすれば、車両が信号待ち等で停車した際に、アイドルストップが実施されてエンジン1が停止しても、ファンクラッチ2に通電が成されて該ファンクラッチ2が断状態に保持され、これによりアイドルストップ終了後のエンジン再始動時にファンクラッチ2がエンジン1と連れ回りしなくなる結果、エンジン1の再始動トルクが小さくなってアイドルストップによる燃費の改善分が目減りしなくなると共に、再始動時の騒音も小さく抑えられることになり、これまで以上の燃費向上と騒音低減を実現することができる。
【0030】
更に、本形態例においては、アイドルストップ中に完全停止への移行が確認された時にファンクラッチ2への通電を停止するようにしているので、アイドルストップから完全停止への移行後もファンクラッチ2への通電が継続されて無駄な電力が消費されるといった事態を未然に回避することができる。
【0031】
また、アイドルストップの終了時に所定時間の経過及び車速の所定以上の上昇の少なくとも何れかが確認されてから通常の燃費向上を図る断続制御に復帰するようにしているので、エンジン1の回転数が未だ十分に上昇していないトルク不足の状態でファンクラッチ2が繋がれてしまう事態を未然に回避することができる。
【0032】
尚、本発明のファンクラッチ制御方法及び装置は、上述の実施の形態のみに特に限定されるものではなく、ファンクラッチを不要時に切ることで燃費向上を図るようにした通常の断続制御に関する制御形式には、例示したもの以外の形式を採用しても良いこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 エンジン
2 ファンクラッチ
3 冷却ファン
4 電子制御ファンコントローラ
4a 制御信号
8 アイドルストップコントローラ
8a 判定情報