【実施例】
【0017】
(実施例1)
実施例1では、白金族金属を含有する多種類のブラストサンドへ塩酸を加え、Ptを初めとする白金族金属の回収を行った。
まず、18種類のブラストサンドの試料(ブラストサンド試料BS−01〜18)を準備した。当該18種類のブラストサンド試料のPt含有量、Ru含有量を表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
酸として濃度10Mの濃塩酸を選択し、ブラストサンド試料(BS−01〜18)の各々へ加えてパルプを作製して浸出処理を行い、白金族金属回収を試みたところ、Ptが高い収率をもって回収可能であるとの画期的な知見を得た。一方、Ruは殆ど浸出されないことも判明した。
特に、パルプ濃度(濃塩酸とブラストサンド試料との混合物中におけるブラストサンド試料の濃度)が60g/l以下であることが好ましい。これはパルプ濃度が60g/l以下であるとPtの溶解率を保持出来るからである。尚、このとき、浸漬時間は96時間以上、パルプ温度は25℃以上が好ましいことも判明した。
濃度10Mの濃塩酸を用い、パルプ濃度60g/l、パルプ温度は室温(25℃)にて168時間、500RPMの攪拌を用いて浸出処理を行った場合の、PtとRuとの浸出率を表1に示す。
【0020】
表1の結果から以下のことが判明した。
具体的には、ブラストサンド試料01、04、05、06、12、16、18の7種においては100質量%、ブラストサンド試料09、17の2種においては90質量%以上、ブラストサンド試料08、11、15の3種においては80質量%以上、ブラストサンド試料10の1種においては70質量%以上の収率を挙げていることが判明した。一方、Ruの収率は、最も高いブラストサンド試料15においても11.3質量%であった。
つまり、前記ブラストサンドへ、濃度10M以上の濃塩酸を加えてパルプを作製し、浸出処理を行うことで、ブラストサンドからPtを選択的に回収出来ることが判明した。このとき、当該パルプの濃度を60g/l以下とすることが好ましいことも判明した。
【0021】
(実施例2)
実施例1で説明したブラストサンド試料(BS−01〜18)の中から、平均的なPt含有量とRu含有量とを有するブラストサンド試料BS−18を選択し、浸出処理を前期および後期の2段階で行う実施例2を行った。
前期浸出処理においては、ブラストサンド試料1gへ、酸として、濃度10Mの塩酸、王水、硝酸、そして硫酸の各々を添加しパルプを作製した。このときパルプの濃度は60g/l、パルプ温度は室温(25℃)として、浸出時間は6時間、500RPMの攪拌を行った。当該前期浸出処理後に、ブラストサンド1g当たりから浸出された金属とその濃度(mg/l per g BS)を表2に記載する。
【0022】
前期浸出処理に続けて、後期浸出処理を行った。具体的には、前期浸出処理した後のパルプの浸出液を交換することなく、パルプの温度を80℃に昇温して保持し、浸漬時間は6時間、500RPMの攪拌を行って後期浸出処理を行った。当該後期浸出処理後に、ブラストサンドから浸出された金属とその濃度を表2に記載する。
【0023】
【表2】
【0024】
表2のデータより、パルプ温度80℃のときの王水には、ブラストサンド中に含有される金属がほぼ浸出されていると考えられる。当該観点から、濃度10Mの塩酸、王水、硝酸、そして硫酸の各々における、前期および後期の浸出処理における各金族の浸出状態を検討した。
すると、塩酸、硝酸または硫酸から選択される1種以上の酸を用いた場合、前期浸出処理においてCu、Ru、Rh、Ir、Pt、Auを除いた他の金属は、既に浸出されていることが判明した。一方、塩酸、硝酸または硫酸から選択される1種以上の酸を用いた前期浸出処理において、Ru、Ir、Ptは殆ど浸出されないことも判明した。ところが、塩酸、硝酸から選択される1種以上の酸を用いた後期浸出処理においては、IrやPtといった白金族金属が浸出されることも判明した。
【0025】
ブラストサンドへ前期および後期の2段階浸出処理を実施して、前期浸出処理で浸出される金属と、後期浸出処理で浸出される金属の種類については、酸として硝酸または硫酸を用いた場合も同様の効果が知見された。但し、選択的に白金族金属を後期浸出処理で浸出させる観点からは、塩酸がより好ましいことも判明した。
【0026】
表2のデータより、パルプ温度80℃の後期浸出処理において塩酸、硝酸、硫酸を用いた場合には、Cr、Co、Al、Ni、Feが浸出された。さらに後期浸出処理においては、塩酸には3.91mg/l per g BS、硝酸には0.70mg/l per g BSのPtが浸出されていた。一方、後期浸出処理における王水には、Cr、Co、Al、Ni、Feに加えて、8.07mg/l per g BSのPtと7.25mg/l per g BSのRuが浸出されていた。
【0027】
以上の試験結果から本発明者らは、ブラストサンドへ、濃塩酸または濃硝酸、好ましくは濃塩酸であって濃度が10M以上の酸を加えて濃度が60g/lを超えるパルプとして前期浸出処理を行い、回収したブラストサンドへ、濃度10M以上の濃塩酸または濃硝酸、好ましくは濃塩酸を加えて濃度を60g/l以下のパルプとして後期浸出処理を行うことで、ブラストサンドに含有されるPtやIrが効率よく浸出され、回収できることを確認した。
即ち、当該構成によれば、前期浸出処理において白金族金属以外の金属をも含有するブラストサンドから、予め、白金族金属以外の金属が浸出されるので、これを除去することが出来る。そして、当該白金族金属以外の金属が除去されたブラストサンドに後期浸出処理を行うことで、PtやIrを浸出させてこれを回収することが可能になることを知見した。
【0028】
また、前期浸出処理では、パルプ温度を40℃以下、好ましくは25℃程度とし、4時間以上8時間以下浸漬させるのが、白金族金属以外の金属を浸出させて除去する効率を高めることを確認した。また、後期浸出処理では、パルプ温度を80℃以上とし96時間以上浸漬させることで、Pt回収効率を高めることも確認した。
【0029】
(実施例3)
本発明者らは、Ruを含有するブラストサンドから、Ruを簡便な工程で高い回収率をもって回収可能となる浸出剤の探索研究を行った。そして、当該研究の結果、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜塩素酸カリウムと水酸化ナトリウムとの混合水溶液に想到した。
【0030】
実施例2と同様に、実施例1で説明したブラストサンド試料(BS−01〜18)の中から、平均的なPt含有量とRu含有量とを有するブラストサンド試料18を選択し、実施例3を行った。
浸出剤として、濃度52g/lの次亜塩素酸ナトリウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液、および、濃度100g/lの次亜塩素酸カルシウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液を準備した。
そして、当該浸出剤によりブラストサンドをパルプ化した場合における、Ruの浸出処理について説明する。
【0031】
図1は、横軸に時間(分)をとり、縦軸にブラストサンドに含有されるRuの浸出率(質量%)をとったグラフである。
浸出液が、濃度52g/lの次亜塩素酸ナトリウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液であって、パルプ温度25℃の場合を☆で、50℃の場合を□で、80℃の場合を△でプロットした。
また、浸出液が、濃度100g/lの次亜塩素酸カルシウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液であって、パルプ温度50℃の場合を●でプロットした。
ブラストサンドのパルプ濃度は24g/lとした。
【0032】
図1より、浸出液が、濃度52g/lの次亜塩素酸ナトリウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液である場合は、パルプ温度50℃、浸出時間は30〜120分間が好ましいことが判明した。
また、浸出液が、濃度100g/lの次亜塩素酸カルシウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液である場合は、パルプ温度は50℃、浸出時間は30〜70分間が好ましいことが判明した。
【0033】
図2は、横軸にパルプ濃度(g/l)をとり、縦軸にブラストサンドに含有されるRuの浸出率(質量%)をとったグラフである。
浸出液が、濃度52g/lの次亜塩素酸ナトリウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液で、パルプ温度は50℃、撹拌条件は500RPM、浸出時間は90分間のとき□でプロットし、浸出液が、濃度100g/lの次亜塩素酸カルシウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液、パルプ温度は50℃、撹拌条件は500RPM、浸出時間は60分間のとき●でプロットした。
図2より、ブラストサンドのパルプ濃度を100g/l以下とすることで、含有されるRuの80質量%以上が浸出出来ることが判明した。
【0034】
図3は、横軸にパルプ中の塩素酸イオン濃度(mol/l)をとり、縦軸にブラストサンドに含有されるRuの浸出率(質量%)をとったグラフである。
浸出液が、濃度52g/lの次亜塩素酸ナトリウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液を所定濃度に希釈したものを□でプロットした。パルプ温度は50℃、撹拌条件は500RPM、浸出時間は90分間とした。一方、浸出液が、濃度100g/lの次亜塩素酸カルシウムと濃度50g/lの水酸化ナトリウムとの混合水溶液を所定濃度に希釈したものを●でプロットした。パルプ温度は50℃、撹拌条件は500RPM、浸出時間は60分間とした。
ブラストサンドのパルプ濃度は24g/lとした。
図3より、パルプ中の塩素酸イオン濃度が0.2mol/l以上あれば、ブラストサンドに含有されるRuの80質量%以上が、浸出されることが判明した。
【0035】
(実施例1〜3のまとめ)
上述したように、白金族金属を含有するブラストサンドは、その発生過程により、含有している金属の種類、化学的状態、含有量に差異がある。
そこで、白金族金属を含有するブラストサンドから、Ptを初めとする白金族金属を回収するに際し、当該ブラストサンドに応じて、実施例1〜3にて説明した処理方法を適宜組み合わせて実施することが好ましい。
【0036】
例えば、Ptを含有し、濃塩酸によりPtを回収可能であるブラストサンドであれば、実施例1に記載の方法を適用することが出来る。
具体的には、当該ブラストサンドへ濃度10M以上の濃塩酸を加えてパルプとし、Ptを浸出させることで、Ptを高い収率をもって回収することが出来る。
【0037】
また、例えば、PtとRu他の金属元素を含有し、濃塩酸によりPtを回収可能であるブラストサンドに対しても、実施例1に記載の方法を適用することが出来る。
具体的には、当該ブラストサンドへ、濃度10M以上の濃塩酸を加えて濃度60g/l以下のパルプを作製し、Ptを浸出させることで、Ptを高い収率をもって回収することが出来る。
【0038】
さらに例えば、白金族金属に加え、Cr、Co、Al、Ni、Feといった白金族金属以外の金属をも含有するブラストサンドであれば、実施例2に記載の方法を適用することが出来る。
具体的には、当該ブラストサンドへ、濃塩酸または濃硝酸、好ましくは濃塩酸であって濃度が10M以上の酸を加えて濃度が60g/lを超えるパルプとし、好ましくは40℃以下の温度で前期浸出処理を行い、回収したブラストサンドへ、濃度10M以上の濃塩酸または濃硝酸、好ましくは濃塩酸を加えて濃度を60g/l以下のパルプとし、好ましくは80℃以上の温度で後期浸出処理を行うことで、ブラストサンドに含有されるPtやIrが効率よく浸出され、回収することが出来る。
【0039】
以上説明した方法により、白金族金属を含有するブラストサンドからPtを浸出し回収した後に、さらにRuを回収する場合は、実施例3に記載の方法を適用することが出来る。
具体的には、白金族金属を含有するブラストサンドから選択的にPtを回収した後のブラストサンドへ、次亜塩素酸ナトリウムまたは、次亜塩素酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの水溶液または次亜塩素酸カルシウムと水酸化ナトリウムとの水溶液を浸出液として、Ruを浸出して回収することが出来る。
【0040】
勿論、実施例3に記載の方法は、白金族金属を含有するブラストサンドからRuを回収したい場合には、処理対象であるブラストサンドに対し、最初に単独で適用することも出来る。