特許第5759786号(P5759786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5759786二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜、その製造方法、および二酸化炭素選択的透過分離膜エレメント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759786
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜、その製造方法、および二酸化炭素選択的透過分離膜エレメント
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20150716BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20150716BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20150716BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20150716BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   B01D71/02 500
   B01D53/22
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/82 500
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-109526(P2011-109526)
(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公開番号】特開2012-239939(P2012-239939A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2013年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】澤村 健一
(72)【発明者】
【氏名】矢野 和宏
(72)【発明者】
【氏名】相澤 正信
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−142709(JP,A)
【文献】 特開平10−036114(JP,A)
【文献】 特開2007−044677(JP,A)
【文献】 特表2011−502749(JP,A)
【文献】 Jonas Lindmark, et.al.,Modification of MFI membranes with amine groups for enhanced CO2 selectivity ,Journal of Material Chemistry,2010年 3月21日,Vol.20 No.11,P. 2219-2225
【文献】 Ravikrishna Chatti, et.al.,Amine loaded zeolites for carbon dioxide capture: Amine loading and adsorption studies,Microporous and Mesoporous Materials,2009年,Vol.121, Issues 1-3,P. 84-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/02
B01D 53/22
B01D 69/10
B01D 69/12
B01D 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基体とこれの表面に製膜されたフォージャサイト(FAU)型ゼオライトからなるゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜の細孔内に、多数のアミノ基含有分子が固定化されており、二酸化炭素分子が、ゼオライト分離膜の細孔内をアミノ基含有分子のアミノ基との結合・解離により通過して、膜分離されるようになされており、アミノ基含有分子は、式NH−CH−CH−(NHを有するモノプロトン化エチレンジアミンによるイオン交換によって、ゼオライト分離膜の細孔内のイオン交換サイトに固定化されていることを特徴とする、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜。
【請求項2】
請求項1に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の製造方法であって、多孔質基体とこれの表面に製膜されたフォージャサイト(FAU)型ゼオライトからなるゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜を用い、該ゼオライト分離膜を、式NH−CH−CH−(NHを有するモノプロトン化エチレンジアミンの水溶液中に浸漬させ、イオン交換により、ゼオライト分離膜の細孔内のナトリウムイオン(Na)を前記モノプロトン化エチレンジアミンに置き換えることにより、ゼオライト分離膜の細孔内に多数のアミノ基含有分子が固定化された複合型ゼオライト分離膜を形成することを特徴とする、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の製造方法。
【請求項3】
請求項に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を具備することを特徴とする、二酸化炭素選択的透過分離膜エレメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜、その製造方法、および二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、代表的な地球温暖化ガスである二酸化炭素は、発電所、セメントプラント、鉄鋼プラント、および化学プラントなどから排出されているが、地球温暖化防止の観点から、二酸化炭素の高効率回収技術の開発が急務となっている。また、二酸化炭素は、メタンを主成分とする天然ガス中にも含まれており、パイプライン腐食防止の観点から、メタンから二酸化炭素を回収除去する必要がある。
【0003】
従来、二酸化炭素の回収法としては、アミン吸収法などの化学吸収法、圧力スイング吸着法(PSA)などの物理吸着法などの技術が利用されているが、吸収液または吸着剤の再生に伴うエネルギー消費が大きく、より高効率な回収法の開発が期待されている。
【0004】
ところで、ゼオライト膜による膜分離法は、連続的操作が可能で、吸収液または吸着剤の再生が不要であることから、高効率な二酸化炭素回収技術として期待が高まっている。
【0005】
現在、除二酸化炭素を行うための膜分離技術としては、下記の特許文献1に記載のように、多孔質基体の表面に形成したY型ゼオライト分離膜により、水の存在下、すなわち、ゼオライト分離膜に水が吸着している状態において、二酸化炭素と窒素とを含むガスの混合体から、二酸化炭素を分離する方法が提案されている。
【0006】
また、下記の特許文献2に記載のように、ガス分離用ゼオライト膜複合体において、DDR型ゼオライト、またはY型ゼオライトのガス分離用ゼオライト膜複合体の片側(ゼオライト膜側)に炭酸混合ガスを置き、その反対側(多孔質基体表面側)の二酸化炭素分圧を、ゼオライト膜側の二酸化炭素分圧以下にすれば、ガス分離用ゼオライト膜複合体中を二酸化炭素が選択的に透過し、炭酸混合ガス中にある二酸化炭素を多孔質基体表面側に分離することができることが知られている(特許文献2の段落番号[0023]参照)。
【0007】
そして、前記炭酸混合ガスとしては、二酸化炭素を含有しているガスであれば特に限定されず、例えば二酸化炭素と、水素、酸素、窒素、ヘリウム、および水(水蒸気)などとの混合ガスが挙げられている(特許文献2の段落番号[0024]参照)。
【0008】
また、下記の非特許文献1には、フォージャサイト(FAU)型ゼオライト(X型およびY型)の組成が具体的に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−36113号公報
【特許文献2】特開2009−11980号公報
【非特許文献1】小野嘉夫・八嶋建明/編 「ゼオライトの科学と工学」、講談社サイエンティフィック(2000)p8.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のように、多孔質基体上にゼオライト膜を形成したゼオライト分離膜を用いて、水素、メタン、一酸化炭素、窒素、および酸素などのガスと二酸化炭素との混合ガスから、二酸化炭素を除去する実験を試みたところ、水の存在下、すなわち、ゼオライト膜に水が吸着している状態においては、二酸化炭素の透過量が小さく、混合ガス中の二酸化炭素を低減させる効果は、ほとんど得られないという結果に至った。
【0011】
さらに、ゼオライト膜の細孔内への水の吸着を緩和させるために、温度100℃以上の高温条件での二酸化炭素分離試験を行ったところ、二酸化炭素と、水素や窒素との分離選択性は、ほとんど得られないという結果に至った。
【0012】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、水分の共存下、および高温・低圧の条件下でも、高二酸化炭素透過分離性を実現できる、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜、その製造方法、および二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、多孔質基体とこれの表面に製膜されたゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜の細孔内に、多数のアミノ基含有分子を固定化することにより、二酸化炭素分子が、ゼオライト分離膜の細孔内をアミノ基含有分子のアミノ基との結合・解離により通過して、膜分離され、水分の共存下、および高温・低圧の条件下でも、高二酸化炭素透過分離性を実現できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
上記の目的を達成するために、請求項1の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の発明は、多孔質基体とこれの表面に製膜されたフォージャサイト(FAU)型ゼオライトからなるゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜の細孔内に、多数のアミノ基含有分子が固定化されており、二酸化炭素分子が、ゼオライト分離膜の細孔内をアミノ基含有分子のアミノ基との結合・解離により通過して、膜分離されるようになされており、アミノ基含有分子は、式NH−CH−CH−(NHを有するモノプロトン化エチレンジアミンによるイオン交換によって、ゼオライト分離膜の細孔内のイオン交換サイトに固定化されていることを特徴としている。
【0018】
請求項の発明は、請求項1に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の製造方法であって、多孔質基体とこれの表面に製膜されたフォージャサイト(FAU)型ゼオライトからなるゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜を用い、該ゼオライト分離膜を、式NH−CH−CH−(NHを有するモノプロトン化エチレンジアミンの水溶液中に浸漬させ、イオン交換により、ゼオライト分離膜の細孔内のナトリウムイオン(Na)を前記モノプロトン化エチレンジアミンに置き換えることにより、ゼオライト分離膜の細孔内に多数のアミノ基含有分子が固定化された複合型ゼオライト分離膜を形成することを特徴としている。
【0019】
請求項の二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントの発明は、請求項に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の発明は、多孔質基体とこれの表面に製膜されたフォージャサイト(FAU)型ゼオライトからなるゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜の細孔内に、多数のアミノ基含有分子が固定化されており、二酸化炭素分子が、ゼオライト分離膜の細孔内をアミノ基含有分子のアミノ基との結合・解離により通過して、膜分離されるようになされており、アミノ基含有分子は、式NH−CH−CH−(NHを有するモノプロトン化エチレンジアミンによるイオン交換によって、ゼオライト分離膜の細孔内のイオン交換サイトに固定化されていることを特徴とするもので、請求項1の発明によれば、水分の共存下、および高温・低圧の条件下でも、高二酸化炭素透過分離性を実現でき、とりわけ水の存在下でも二酸化炭素を高選択的に透過分離することができるという顕著な効果を奏する
【0021】
求項1に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、アミノ基含有分子が、モノプロトン化アミノ基含有分子によるイオン交換によって、ゼオライト膜本体の細孔内のイオン交換サイトに固定化されているので、アミノ基含有分子をゼオライト細孔内に規則正しく、多数固定化することができるという効果を奏する。
【0022】
また、モノプロトン化アミノ基含有分子として、式NH−CH−CH−(NHを有するモノプロトン化エチレンジアミンを用いるので、安定なアミノ基含有分子をゼオライト細孔内に密に固定化できるという効果を奏する。
【0023】
ゼオライトとして用いる、フォージャサイト(FAU)型ゼオライトは、アミノ基含有分子を固定化するためのイオン交換サイトを多く有しており、アミノ基含有分子をゼオライト分離膜の細孔内に多数固定化できるという効果を奏する。
【0024】
請求項の発明は、請求項1に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の製造方法であって、多孔質基体とこれの表面に製膜されたフォージャサイト(FAU)型ゼオライトからなるゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜を用い、該ゼオライト分離膜を、式NH−CH−CH−(NHを有するモノプロトン化エチレンジアミンの水溶液中に浸漬させ、イオン交換により、ゼオライト分離膜の細孔内のナトリウムイオン(Na)を前記モノプロトン化エチレンジアミンに置き換えることにより、ゼオライト分離膜の細孔内に多数のアミノ基含有分子が固定化された複合型ゼオライト分離膜を形成することを特徴とするもので、請求項の発明によれば、水分の共存下、および高温・低圧の条件下でも、高二酸化炭素透過分離性を実現でき、とりわけ水の存在下でも二酸化炭素を高選択的に透過分離することができるという顕著な効果を奏する二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を製造することができる。
【0025】
請求項の二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントの発明は、請求項に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を具備することを特徴とするもので、請求項の発明によれば、複合型ゼオライト分離膜によって、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を選択的に透過させて分離することができ、水分の共存下、および高温・低圧の条件下でも、高二酸化炭素透過分離性を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜における二酸化炭素の透過メカニズムの例を説明するための模式図である。
図2】本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜における二酸化炭素の透過メカニズムのいま1つの例を説明するための模式図である。
図3】従来のゼオライト分離膜における二酸化炭素透過の際の水の阻害作用のメカニズムを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、多孔質基体とこれの表面に製膜されたゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜の細孔内に、多数のアミノ基含有分子が固定化されており、二酸化炭素分子が、ゼオライト分離膜の細孔内をアミノ基含有分子のアミノ基との結合・解離により通過して、膜分離されるようになされていることを特徴としている。
【0028】
ここでまず、本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜に用いる多孔質基体としては、例えば、アルミナ、シリカ、コージェライト、ジルコニア、チタニア、バイコールガラス、焼結金属などの多孔質体が挙げられるが、これらに限らず、種々の多孔質体を用いることができる。
【0029】
また、多孔質基体としては、管状または中空糸状多孔質基体を用いることができるが、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の使用が高圧条件下であれば、複合型ゼオライト分離膜の耐圧性の観点から、管状多孔質基体を用いる方が好ましい。逆に、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の使用が低圧条件下では、複合型ゼオライト分離膜の単位体積当りの膜表面積の向上といった観点から、中空糸状多孔質基体を用いることが好ましい。
【0030】
つぎに、一般に、ゼオライトは多結晶体であるが、本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜において用いるゼオライト膜の基材の候補としては、結晶間の空隙といった膜欠陥の少ない、緻密なゼオライトを基材として用いるのが望ましい。このようなゼオライトを基材としては、例えば、FAU型ゼオライト、LTA型ゼオライト、CHA型ゼオライト、MOR型ゼオライト、ZSM−5型ゼオライト、およびBEA型ゼオライトなどが挙げられるが、アミノ基含有分子を取込むための広い孔入口径(0.74 nm)を有しかつイオン交換サイトが隣接しているFAU型ゼオライトを用いることが好ましい。
【0031】
本発明において、ゼオライト膜の基材となるFAU型ゼオライトとしては、膜欠陥が少なければ特に限定されないが、例えば日立造船製NaY型ゼオライト膜などを用いることができる。
【0032】
本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、アミノ基含有分子が、モノプロトン化アミノ基含有分子(アミノ基含有カチオン)によるイオン交換によって、ゼオライト分離膜の細孔内のイオン交換サイトに固定化されている。
【0033】
ここで、アミノ基含有分子をゼオライト分離膜の細孔内に固定化する位置としては、ゼオライト膜の骨格構造内、ゼオライト膜の細孔内のヒドロキシル基(−OH)が存在するサイト、およびゼオライト膜の細孔内のナトリウムイオン(Na)が存在するイオン交換サイトなどが考えられるが、調製の簡便さと配置の規則正しさといった観点から、ナトリウムイオン(Na)が存在するイオン交換サイトが好ましい。また数多くアミノ基含有カチオンを配列させるといった観点から、モノプロトン化アミノ基含有分子によるイオン交換度は高い方が好ましい。
【0034】
また、本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜において、モノプロトン化アミノ基含有分子(アミノ基含有カチオン)としては、下記式を有するモノプロトン化エチレンジアミン
NH−CH−CH−(NH
および[Co(en)2+、[Co(NH3+、[Cu(NH2+、[Ag(NHなどの金属錯体、あるいはまた下記式のモノプロトン化アミノ含有分子などが考えられる。
【0035】
NH−(−CH−)n−(NH
式中、n≧3、enは、エチレンジアミンを意味する。
【0036】
しかしながら、アミノ基の安定性およびアミノ基を密に配列させる観点から、上記モノプロトン化エチレンジアミンを用いるのが好ましい。
【0037】
本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、多孔質基体とこれの表面に製膜されたゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜の細孔内に、多数のアミノ基含有分子が固定化されている。
【0038】
ここで、例えばFAU型ゼオライトは、下記式を有するものである。
【0039】
NaAlSi192−n384・xH
式中、2≦n≦86である
本発明においては、このようなゼオライト分離膜を、モノプロトン化アミノ基含有分子の水溶液中に浸漬させる操作を行うことで、イオン交換法により、ゼオライト分離膜の細孔内のナトリウムイオン(Na)を、例えばモノプロトン化エチレンジアミンなどのモノプロトン化アミノ基含有分子(アミノ基含有カチオン)を置き換えることで、下記式に示すように、ゼオライト膜本体の細孔内に、多数のアミノ基含有分子を固定化するものである。
【0040】
(NH−CH−CH−NHAlSi192−n384
式中、2≦n≦86である
ゼオライト膜本体の細孔内に、配置するアミノ基含有分子のアミノ基同士の間の距離は、様々なものが考えられるが、二酸化炭素とアミノ基との反応性を考え、かつ二酸化炭素分子の直径が、0.33nmであることを考慮すると、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過しうる間隙をおいて対向あるいは隣接するアミノ基含有分子のアミノ基同士の間の距離は、1nm以下、望ましくは0.5 nm以下の範囲とすることが好ましい。
【0041】
ゼオライト膜本体の細孔内において、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過する際には、二酸化炭素とアミンの下記式の化学反応がゼオライト膜の細孔内で行われ、水分共存下、および高温条件下でも二酸化炭素を高選択的に透過分離することが可能となる。
【0042】
CO+2RNH←→RNHCOO+R(NH
図1は、本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜における二酸化炭素の透過メカニズムの例を説明するための模式図で、ゼオライト分離膜の細孔内に固定化されたアミノ基含有分子のうち、互いに対向するアミノ基含有分子の2つのアミノ基同士の間に、二酸化炭素分子が捉えられて、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過する状態を示している。
【0043】
図2は、二酸化炭素の透過メカニズムのいま1つの例を説明するための模式図で、ゼオライト分離膜の細孔内に固定化されたアミノ基含有分子のうち、互いに隣接するアミノ基含有分子の2つのアミノ基同士の間に、二酸化炭素分子が捉えられて、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過する状態を示している。
【0044】
また、図3は、従来のゼオライト分離膜における二酸化炭素透過の際の水の阻害作用のメカニズムを説明するための模式図である。
【0045】
同図において、例えば、従来のFAU型ゼオライト(X型およびY型)は、前記非特許文献1に記載のように、Na型の場合、下記の単位胞組成を有するものであり、
NaAlSi192−n384・X H
ここで、nの増加とともに親水性が高まるが、n=58のFAU型ゼオライトにおいても、X=240と多くの結晶水をもつ。このため、特に湿潤条件下ではNaカチオンに強く吸着した水分子により二酸化炭素の透過が大きく阻害されるものである。
【0046】
つぎに、本発明の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の製造方法を説明する。
【0047】
本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の製造方法は、多孔質基体とこれの表面に製膜されたゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜を用い、該ゼオライト分離膜を、モノプロトン化アミノ基含有分子の水溶液中に浸漬させる操作を行うことで、イオン交換法により、ゼオライト分離膜の細孔内のナトリウムイオン(Na)を、モノプロトン化アミノ基含有分子にイオン交換することを特徴とするものである。
【0048】
本発明の方法によれば、水分の共存下、および高温・低圧の条件下でも、高二酸化炭素透過分離性を実現できる、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を製造することができる。
【0049】
具体的には、まず、例えばアミノ基含有分子を固定化させるゼオライト膜としては、多孔質アルミナ管上に製膜されたFAU型ゼオライト膜(例えば、NaY型ゼオライト膜、日立造船製)を用い、アミノ基含有分子としては、モノプロトン化エチレンジアミンなどアミノ基含有分子を用いる。
【0050】
そして、FAU型ゼオライト細孔内へのアミノ基含有分子の固定化には、イオン交換法を用い、例えば、0.1 Mのモノプロトン化エチレンジアミン水溶液中に、FAU型ゼオライト膜を、温度30℃で、1時間浸漬させる操作を、モノプロトン化エチレンジアミン水溶液を毎回交換しながら、複数回繰返すことで、FAU型ゼオライト細孔内のナトリウムイオン(Na)を、モノプロトン化エチレンジアミン[NH−CH−CH−(NH]にイオン交換するものである。
【0051】
こうして製造された本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、ゼオライト膜本体の細孔内に、多数のアミノ基含有分子が固定化されており、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過しうる間隙をおいて対向あるいは隣接するアミノ基含有分子のアミノ基同士の間の距離が、1nm以内である。
【0052】
なおここで、ゼオライト膜本体の細孔内に、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過しうる間隙をおいて対向あるいは隣接するアミノ基含有分子のアミノ基同士の間の距離は、組成分析、固体NMR、およびX線構造解析より得られる情報をもとに、アミノ基含有分子の固定数および状態をシミュレートする方法により推定することができる。
【0053】
また、本発明による二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントは、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を具備し、該複合型ゼオライト分離膜によって、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を選択的に透過させて分離することを特徴としている。
【0054】
本発明による、多孔質基体とこれの表面に製膜されたゼオライト膜とよりなるゼオライト分離膜の細孔内に、多数のアミノ基含有分子が固定化されている複合型ゼオライト分離膜の膜分離用途として、溶媒の脱水、ガス中の除湿などの用途も考えられるが、高温、湿潤下でも作動する二酸化炭素選択的透過分離膜としての二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントの用途が好ましい。
【0055】
上記のような特性をもつ本発明の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、高温で水蒸気を含む排ガスからの二酸化炭素の回収、水蒸気含有バイオガスからの二酸化炭素の回収、高圧天然ガスからの二酸化炭素の回収、および水蒸気改質後の高圧水素ガスからの二酸化炭素の回収などの二酸化炭素選択的透過分離膜エレメント、およびこれを組込んだ二酸化炭素選択的透過分離膜モジュール、二酸化炭素選択的透過分離膜プロセスへと応用が可能である。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
実施例1
本発明の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を、下記のようにして製造した。
【0058】
アミノ基含有分子を固定化させるゼオライト膜としては、長さ115cm、外径1.6cmの多孔質アルミナ管(多孔質基体)(日立造船 社製)上に製膜されたFAU型ゼオライト膜(NaY型ゼオライト膜、日立造船社製)を、長さ3cmに切断分割して用い、アミノ基含有分子としては、モノプロトン化エチレンジアミンをエチレンジアミン[商品名エチレンジアミン(無水)鹿特級、関東化学株式会社製]と塩酸水溶液[商品名1mol/L塩酸(1N)、関東化学株式会社製]を混合し調製し、用いた。
【0059】
そして、FAU型ゼオライト細孔内へのアミノ基含有分子の固定化にはイオン交換法を用い、0.1 Mのモノプロトン化エチレンジアミン水溶液中に、FAU型ゼオライト膜を、温度30℃で、1時間浸漬させる操作を、モノプロトン化エチレンジアミン水溶液を毎回交換しながら、合計3回繰返すことで、FAU型ゼオライト細孔内のナトリウムイオン(Na)を、モノプロトン化エチレンジアミン[NH−CH−CH−(NH]にイオン交換した。
【0060】
こうして製造された本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、組成分析の結果、ゼオライト膜本体の細孔内に、単位胞あたり40分子以上の多数のアミノ基含有分子が固定化されており、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過しうる間隙をおいて対向あるいは隣接するアミノ基含有分子のアミノ基同士の間の距離は、X線構造解析より判断されるFAU型ゼオライト細孔内構造から、0.5nm以下と推定された。
【0061】
つぎに、本発明の二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の効果を確認するために、下記の試験を行なった。
(気体透過試験)
上記のようにして製造した本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜と、従来のFAU型ゼオライト膜(NaY型ゼオライト膜、日立造船社製)とを用いて、下記の気体透過試験を行った。
【0062】
上記のようにして製造した本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜よりなる管状の二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントを1本設置したガス分離膜モジュール(図示略)を用意した。
【0063】
つぎに、このガス分離膜モジュール(図示略)内に、二酸化炭素/水蒸気/窒素比(CO/HO/N=20:2:78)の混合ガスを、温度100℃で通過させて、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜に、二酸化炭素/水蒸気/窒素の混合ガスを接触させた。
【0064】
なお、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜の透過側は、アルゴンガスによってスウィープした。そして、二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜を透過した二酸化炭素ガス(透過ガス)をサンプリングして、下記の条件にてガスクロマトグラフィ(GC)測定を行った。
【0065】
ガス分析:ガスクロマトグラフィ;GC(TCD)
カラム:ポラパックQ
キャリアガス:Ar
テストガス:CO/HO/N=20:2:78
ガス流量:100ml/min
入口ガス圧力:101kPa
透過側圧力:大気圧(101kPa)
透過側スウィープArガス流量:100ml/min
比較のために、従来品であるFAU型ゼオライト膜(NaY型、日立造船社製)よりなる管状の二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントを1本設置したガス分離膜モジュール(図示略)を用意した。
【0066】
つぎに、この従来のガス分離膜モジュール(図示略)を用いて、上記の場合と同様に、気体透過試験を実施し、FAU型ゼオライト膜を透過した二酸化炭素ガス(透過ガス)をサンプリングして、同様に、ガスクロマトグラフィ(GC)測定を行った。
【0067】
その結果、本発明による二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜は、比較例の従来のFAU型ゼオライト膜に比べて、明らかに気体分離特性が優れており、本発明によれば、ゼオライト膜の細孔内に、二酸化炭素分子がアミノ基との結合・解離を繰り返して通過しうる間隙をおいて対向あるいは隣接するアミノ基含有分子を多数固定化して、二酸化炭素分子と結合するアミノ基を多数存在させることにより、水蒸気存在下でも、顕著なガス分離特性を発揮できる、二酸化炭素選択的透過分離膜エレメントに有用な二酸化炭素選択的透過複合型ゼオライト分離膜が得られることを確認することができた。
【0068】
ここで、比較例の従来のFAU型ゼオライト膜では、気体透過試験が湿潤条件下であるため、FAU型ゼオライト膜のNaカチオンに強く吸着した水分子により、二酸化炭素の透過が大きく阻害されたものと考えられる。
図1
図2
図3