(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759867
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】磁気エンコーダ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/245 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
G01D5/245 110A
G01D5/245 110K
【請求項の数】24
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2011-237779(P2011-237779)
(22)【出願日】2011年10月28日
(65)【公開番号】特開2013-96755(P2013-96755A)
(43)【公開日】2013年5月20日
【審査請求日】2014年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(72)【発明者】
【氏名】杉田 聡
(72)【発明者】
【氏名】唐 玉▲棋▼
(72)【発明者】
【氏名】三澤 康司
【審査官】
井上 昌宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−075291(JP,A)
【文献】
特許第5354687(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D5/00〜5/252、5/39〜5/62
G01B7/00〜7/34
H02K1/00〜1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同極性の磁極が対向するように並べられるか、または一方向に同じ極性の磁極が現れるように非磁性材を介して並べられた複数の永久磁石からなる永久磁石列と、
前記永久磁石列に沿って間隔あけて並ぶように配置された複数の磁性片を有する磁性片列と、
前記永久磁石列と前記磁性片列との間に相対的な位置の変位が生じたときに発生する漏れ磁束を検出する磁気検出器とを備え、
前記複数の永久磁石のピッチ及び前記複数の磁性片のピッチは、前記永久磁石列と前記磁性片列との間に相対的な位置の変位が連続的に生じているときに、前記永久磁石列中の1つの前記永久磁石から出た磁束が該1つの永久磁石の隣の前記永久磁石または前記非磁性材と対向する1つの前記磁性片を通って前記永久磁石列中に戻る磁路が形成されるように定められていることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項2】
前記磁性片のピッチPをP=360°(電気角)としたときに、前記永久磁石のピッチτpはP/4<τp≦P/2の値である請求項1に記載の磁気エンコーダ。
【請求項3】
前記永久磁石列は、前記複数の永久磁石のそれぞれの両側に磁性ヨークが配置された構造を有している請求項1に記載の磁気エンコーダ。
【請求項4】
前記永久磁石列の両端に位置する前記磁性ヨークどうしを磁気的に連結して前記永久磁石列からの漏れ磁束を集める連結ヨークが設けられ、
前記磁気検出器は、前記連結ヨークを通る漏れ磁束を検出するように配置されている請求項3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項5】
前記磁気検出器が、前記磁性片列を間に介して前記永久磁石列と対向する位置に配置されている請求項1,2または3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項6】
前記磁気検出器が、前記磁性片列及び前記永久磁石列の両方と対向する位置に配置されている請求項1,2または3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項7】
前記磁気検出器が、前記永久磁石列の延長線上で前記磁性ヨークに隣接した位置に配置されている請求項3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項8】
前記永久磁石列が前記磁性片列よりも長い請求項1,2または3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項9】
前記磁性片列を構成する複数の磁性片は、前記磁性片よりも磁気抵抗の大きな連結部により連結された一体構造を有している請求項1,2または3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項10】
前記磁性片列を構成する複数の磁性片は、前記永久磁石側から見た輪郭形状が、矩形、円形または長方形である請求項1,2または3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項11】
前記磁性片列を構成する複数の磁性片は、前記磁性片列が延びる方向及び前記永久磁石列に向かう方向と直交する方向から見た輪郭形状が、円形である円柱形状を有している請求項1,2または3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項12】
前記磁性片列を構成する複数の磁性片は、前記磁性片列が延びる方向から見た輪郭形状が、円形である円柱形状を有している請求項1,2または3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項13】
前記永久磁石及び前記磁性ヨークは、前記磁性片列の周囲を囲むように形成された環状形状を有している請求項3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項14】
前記永久磁石及び前記磁性ヨークは、前記永久磁石列が延びる方向からみた輪郭形状が円形である円柱形状を有している磁性片列の周囲を囲むように形成された環状形状を有している請求項3に記載の磁気エンコーダ。
【請求項15】
前記磁性片列は、回転軸の回転によって直接または間接的に回転する円板の外周面に沿って円環状の列をなすように前記円板に固定されており、前記磁性片列に対向するように円弧状に延びる2以上の前記永久磁石列が、前記磁性片列と対向するように配置されている請求項1に記載の磁気エンコーダ。
【請求項16】
前記磁性片のピッチPをP=360°(電気角)としたときに、前記永久磁石のピッチτpはP/4<τp<Pの値である請求項15に記載の磁気エンコーダ。
【請求項17】
前記永久磁石列は、前記複数の永久磁石のそれぞれの両側に磁性ヨークが配置された構造を有している請求項15に記載の磁気エンコーダ。
【請求項18】
前記永久磁石列の両端に位置する前記磁性ヨークどうしを磁気的に連結して前記永久磁石列からの漏れ磁束を集める連結ヨークが設けられ、
前記磁気検出器は、前記連結ヨークを通る漏れ磁束を検出するように配置されている請求項17に記載の磁気エンコーダ。
【請求項19】
2つの前記磁性片列が機械的に180°ずれた位置に配置され、
2つの前記磁性片列に対応して設けられる2つの前記磁気検出器の一方の前記磁気検出器が検出する磁束の磁束密度と他方の前記磁気検出器が検出する磁束の磁束密度が、電気角で90°位相のずれた正弦波となるように前記2つの磁気検出器の位置と前記磁性片のピッチと前記永久磁石のピッチが定められている請求項17または18に記載の磁気エンコーダ。
【請求項20】
前記永久磁石列が、同極性の磁極が対向するように並べて構成されているときに、前記永久磁石列が回転軸を中心とする円環状の永久磁石列をなすように構成され、前記磁性片列が前記回転軸を中心とする円環状の磁性片列をなすように構成され、
前記回転軸の軸線を中心とする領域に前記磁気検出器が配置されている請求項1に記載の磁気エンコーダ。
【請求項21】
前記円環状の永久磁石列と前記円環状の磁性片列は、前記回転軸の径方向に並んで配置されている請求項20に記載の磁気エンコーダ。
【請求項22】
前記円環状の永久磁石列と前記円環状の磁性片列は、前記回転軸の軸線方向に並んで配置されている請求項20に記載の磁気エンコーダ。
【請求項23】
一対の前記磁気検出器が検出できる磁束の方向が機械的に180°ずれた状態になるように前記一対の磁気検出器が配置されている請求項21または20に記載の磁気エンコーダ。
【請求項24】
前記非磁性材が空気である請求項1に記載の磁気エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気エンコーダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁石と磁気検出素子とから構成される磁気エンコーダがある。しかし磁石だけを用いるものでは、磁石の誤差がそのまま検出されるため、誤差が大きくなる。そこで誤差を小さくするために補正機構を設けた磁気エンコーダも提案されているが、補正機構や補正回路が複雑になる。例えば、特許文献1(特許第4258376号公報)に示された多回転式エンコーダでは、磁気カップリングを利用しているが、磁気結合している面積の割合が小さく、許容伝達トルクが小さい。そのため急峻な回転時に脱調してしまう問題がある。またひとつの磁石の誤差がそのまま検出されるため、誤差が大きくなることがある。
【0003】
また特許文献2(特表2008−514906号公報)に示された永久励磁型電気同期機における速度測定で用いられているエンコーダでは、きれいな正弦波が得られず、精度が上げられない。また漏れ磁束が多く、磁気センサ部に届く磁束が弱い。そのためSN比が上がらず、精度が低いという問題がある。
【0004】
特許文献3(特開2002−62162号公報)に示された磁極位置検出器の構造でも、漏れ磁束が多く、磁気センサ部に届く磁束が弱い。そのためSN比が上がらず、精度が低いという問題がある。
【0005】
特許文献4(特開2008−151774号公報)に示された回転角度検出装置では、複数のホールセンサを使用して精度を上げる工夫がなされているが、それでも歪みが残り、正確な正弦波が得られない。
【0006】
特許文献5(特開2008−64537号公報)に示されたリニアレゾルバでは、長ストロークの場合に校正が難しいことや、ピッチを細かくできないため、精度を上げられない。
【0007】
特許文献6(特開2008−289345号公報)に示されたリニアモータの原点設定方法では、ピッチを細かくできないことや、正弦波状の磁束が得られにくく、精度を上げられない。
【0008】
特許文献7(特開2009−247105号公報)に示されたシャフトモータの位置検出技術では、ピッチを細かくできないことや、正弦波状の磁束が得られにくく、精度を上げられない。
【0009】
特許文献8(特開2006−105757号公報)に示された磁気検出装置、特許文献9(特開2006−58256号公報)に示された回転検出装置でも、正弦波状の磁束が得られにくく、精度を上げられない。
【0010】
特許文献10(特開2010−71901号公報)に示された位置検出装置は、マグネットの位置決め精度に依存した位置検出精度であり、マグネットの特性バラツキを考慮すると量産性の低いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4258376号公報
【特許文献2】特表2008−514906号公報
【特許文献3】特開2002−62162号(特許第3395147号)公報
【特許文献4】特開2008−151774号公報
【特許文献5】特開2008−64537号公報
【特許文献6】特開2008−289345号公報
【特許文献7】特開2009−247105号公報
【特許文献8】特開2006−105757号公報
【特許文献9】特開2006−58256号公報
【特許文献10】特開2010−71901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の磁気エンコーダは、出力される正弦波状信号が完全な正弦波ではなく、高次高調波成分等の歪み成分が重畳しているために歪んでいる。このような波形歪みは、精度の低下をもたらす。また波形歪みによる精度低下回避のために複数の磁気センサを使用したり、ROMテーブルなどで校正を行うシステムを構築したりと、各メーカが工夫していたが、どれもコスト面や応答性に問題があった。
【0013】
本発明の目的は、簡単に正弦波状の磁束を発生できて、分解能と内挿精度の向上を図ることができる、低コストの磁気エンコーダを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、波形歪みが少ない正弦波状の磁束を発生できる磁気エンコーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の磁気エンコーダは、同極性の磁極が対向するように並べられるか、または一方向に同じ極性の磁極が現れるように非磁性材を介して並べられた複数の永久磁石からなる永久磁石列と、永久磁石列に沿って間隔あけて並ぶように配置された複数の磁性片を有する磁性片列と、永久磁石列と磁性片列との間に相対的な位置の変位が生じたときに発生する漏れ磁束を検出する磁気検出器とを備えている。そして複数の永久磁石のピッチ及び複数の磁性片のピッチを、永久磁石列と磁性片列との間に相対的な位置の変位が連続的に生じているときに、永久磁石列中の1つの永久磁石から出た磁束が該1つの永久磁石の隣の永久磁石または非磁性材と対向する1つの磁性片を通って永久磁石列中に戻る磁路が形成されるように定める。
【0016】
本発明では、永久磁石列と磁性片列との間に相対的な変位を生じさせることにより、磁路に含まれる永久磁石から出る磁束の合成磁束が得られることになる。その結果、永久磁石の数を増やせば、1つの永久磁石の影響を小さくすることができ、ひずみが少ない正弦波状の磁束を生じさせることができる。そしてこの磁束の漏れ磁束を磁気検出器で検出することにより、特別な補正回路を必要とすることなく、正弦波状信号を得ることができる。その結果、分解能と内挿精度の向上を図ることができる。永久磁石列は、少なくとも2極以上の磁極となるように2個以上の永久磁石(物理的に分離していても、一体化されていてもよい)で構成される。磁性片列と対向する永久磁石列の永久磁石の極数が増加するほど、検出磁束は正確な正弦波に近づき、高精度となる。永久磁石が2極のように少ない場合では、低コストな磁気センサを提供できる。
【0017】
磁性片のピッチをP=360°(電気角)としたときに、永久磁石のピッチτp(電気角)はP/4<τp<Pの範囲内の値とするのが好ましい。このようにすると、より正確な正弦波状の出力を得ることができ、高精度かつ高分解能な磁気エンコーダを提供することができる。
【0018】
永久磁石列は、複数の永久磁石のそれぞれの両側に磁性ヨークが配置された構造を有してもよい。このようにすれば、磁束の流れを効率よく高めることができ、また、永久磁石の同極を向かい合わす際には、発生する反発力を小さくすることができ、永久磁石列の製造作業を容易にできる。もちろん永久磁石列は、複数の永久磁石が直接接合された構造にしてもよい。このようにすれば、永久磁石の量を増やすことができる。
【0019】
永久磁石列の両端に位置する磁性ヨークどうしを磁気的に連結して永久磁石列からの漏れ磁束を集める連結ヨークを設けてもよい。この場合、磁気検出器は、連結ヨークを通る漏れ磁束を検出するように配置する。連結ヨークを用いれば、磁気検出器で検出する磁束の強度が強くなるため、より高感度となり、精度及び分解能を向上できる。
【0020】
磁気検出器の配置位置は、漏れ磁束を検出できる位置であればどこでよい。例えば、磁気検出器を磁性片列を間に介して永久磁石列と対向する位置に配置してもよい。また磁気検出器を、磁性片列と永久磁石列の両方と対向する位置に配置してもよい。さらに磁気検出器を、永久磁石列の延長線上で磁性ヨークに隣接した位置に配置してもよい。これらの位置であれば、確実に磁束を検出することができる。
【0021】
永久磁石列の長さと磁性片列の長さは、どちらが長くてもよい。磁性片列を構成する複数の磁性片は、磁性片よりも磁気抵抗の大きな連結部により連結された一体構造を有していてもよい。このような一体構造を有していれば、磁性片列の製造及び取付が容易になる。
【0022】
磁性片列を構成する複数の磁性片は、正弦波磁束が得られるものであれば、何でもよく、例えば永久磁石側から見たその輪郭形状は、矩形、円形または長方形の輪郭形状でもよい。また磁性片列を構成する複数の磁性片は、磁性片列が延びる方向及び永久磁石列に向かう方向と直交する方向から見た輪郭形状が、円形である円柱形状を有していてもよい。さらに磁性片列を構成する複数の磁性片は、磁性片列が延びる方向から見た輪郭形状が、円形である円柱形状を有していてもよい。さらに永久磁石及び磁性ヨークは、磁性片列の周囲を囲むように形成された環状形状を有していてもよい。なおこの場合、磁性片列としては、永久磁石列が延びる方向からみた輪郭形状が円形である円柱形状を有していてもよい。そしてこの場合は、永久磁石及び磁性ヨークも円環状形状を有していれば、永久磁石列と磁性片列の間の間隔が一定になるため、正弦波磁束に発生する歪みが小さくなる。
【0023】
より具体的には、磁性片列は、回転軸の回転によって直接または間接的に回転する円板の外周面に沿って円環状の列をなすように該円板に固定することができる。この場合、磁性片列に対向するように円弧状に延びる2以上の永久磁石列を、磁性片列と対向するように配置する。このように磁気エンコーダを構成すると、位相の異なる少なくとも2つの正弦波状信号を得て、回転軸の回転位置を簡単に検出することができる。この場合においても、磁性片のピッチをP=360°(電気角)としたときに、永久磁石のピッチはP/4<τp≦P/2の値であとするのが好ましい。また永久磁石列は、複数の永久磁石のそれぞれの両側に磁性ヨークが配置された構造を有しているのが好ましい。さらに永久磁石列の両端に位置する磁性ヨークどうしを磁気的に連結して永久磁石列からの漏れ磁束を集める連結ヨークを設け、磁気検出器を連結ヨークを通る漏れ磁束を検出するように配置するのが好ましい。このようにすると位相の異なる2以上の正弦波磁束を発生させることができて、高精度な磁気エンコーダを提供できる。なお磁性片のピッチをP=360°(電気角)としたときに、永久磁石のピッチをP/4<τp<Pの値とした上で、2つの磁性片列を機械的に180°ずれた位置に配置する。そして2つの磁性片列に対応して設けられる2つの磁気検出器の一方の位置を、2つの磁性片列を結ぶ仮想線に対して回転軸の回転方向にP/4ずれた位置とし、2つの磁気検出器の他方の位置をこの仮想線に対して回転軸の回転方向とは逆の方向にP/4ずれた位置とする。このような配置構成を採用すると、それぞれの磁気検出器に鎖交する磁束の方向が逆転する。その結果、2つの磁気検出器の出力を差動で接続することで大きなSN比となり、また外部からの磁界の影響をキャンセルすることができて、外部磁界の外乱に強い、より高精度な磁気エンコーダを提供できる。
【0024】
永久磁石列を回転軸を中心とする円環状の永久磁石列をなすように構成し、磁性片列を回転軸を中心とする円環状の磁性片列をなすように構成し、回転軸の軸線を中心とする領域に磁気検出器を配置してもよい。このようにすると、永久磁石列を同極性の磁極が対向するように並べて構成した場合には、磁性片列が1回転すると内側の磁場は磁性片の数だけ回転、永久磁石列が1回転すると内側の磁場は永久磁石の数の半分の数だけ回転することになる。そのため、高分解能な磁気センサを簡素な構造で構成できる。また、複数の永久磁石の磁気が合成されたものを検出するため、磁石1個の誤差の影響がわずかであり、高い精度が得られる。なお円環状の永久磁石列と円環状の磁性片列は、回転軸の径方向に並んで配置されていてもよい。また円環状の永久磁石列と円環状の磁性片列は、回転軸の軸線方向に並ぶように配置してもよい。そしてこの場合において、一対の磁気検出器が検出できる磁束の方向が機械的に180°ずれた状態になるように一対の磁気検出器を配置した場合、一対の磁気検出装置の出力が差動になるように一対の磁気検出器の出力部を接続することで、得られる正弦波状信号は大きなSN比となり、また外部からの磁界の影響をキャンセルすることができ、外部磁界の外乱に強い、より高精度な磁気エンコーダを得ることができる。
【0025】
一方向に同じ極性の磁極が現れるように非磁性材を介して並べられた複数の永久磁石から永久磁石列を構成する場合には、非磁性材は空気により構成することができる。このことは隣合う2つの永久磁石の間に間隔をあけて、その間隔を非磁性材とすることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明をリニア磁気エンコーダに適用した実施例の動作を説明するために用いる図である。
【
図2】(A)は
図1の磁気検出器が検出する磁束密度であり、(B)は磁気検出器の出力電圧波形である。
【
図3】(A)はP/2<τp<Pの場合の永久磁石のピッチτpと磁性片のピッチPとの関係を示しており、(B)はP/4<τp<P/2の場合の永久磁石のピッチτpと磁性片のピッチPとの関係を示している。
【
図4】(A)乃至(D)は、磁気検出器の設置位置を示す図である。
【
図5】他のリニア磁気エンコーダの実施例の概略構成を示す図である。
【
図6】他のリニア磁気エンコーダの実施例の概略構成を示す図である。
【
図7】他のリニア磁気エンコーダの実施例の概略構成を示す図である。
【
図8】(A)及び(B)は、他のリニア磁気エンコーダの実施例の概略構成と動作を示す図である。
【
図9】(A)乃至(H)は、磁性片列の変形例を示す図である。
【
図10】磁性ヨークを用いない他のリニア磁気エンコーダの実施例の概略構成を示す図である。
【
図11】(A)及び(B)は、
図10のリニア磁気エンコーダの磁気検出器が検出する磁束密度と出力電圧波形を示す図である。
【
図12】(A)及び(B)は、本発明を回転型の磁気エンコーダに適用した実施例の概略正面図及び側面図を示している。
【
図13】(A)及び(B)は、
図12の磁気エンコーダの磁気検出器が検出する磁束密度と出力電圧波形を示す図である。
【
図14】(A)及び(B)は、本発明を回転型の磁気エンコーダに適用した他の実施例の概略正面図及び側面図を示している。
【
図15】(A)及び(B)は、
図14の磁気エンコーダの磁気検出器が検出する磁束密度と出力電圧波形を示す図である。
【
図16】本発明を回転型の磁気エンコーダに適用した他の実施例の概略正面図及び側面図を示している。
【
図17】(A)及び(B)は、
図16の磁気エンコーダの磁気検出器が検出する磁束密度と出力電圧波形を示す図である。
【
図18】本発明を回転型の磁気エンコーダに適用した他の実施例の概略正面図を示している。
【
図19】(A)及び(B)は、本発明を回転型の磁気エンコーダに適用した他の実施例の概略正面図及び側面図を示している。
【
図20】本発明を回転型の磁気エンコーダに適用した他の実施例の概略正面図を示している。
【
図21】(A)及び(B)は
図16の磁気エンコーダの磁気検出器が検出する磁束密度と出力電圧波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の磁気エンコーダの複数の実施の形態を詳細に説明する。なお以下の説明で参照する図面には、図示を明確にするために、一部を除いて断面であることを示すハッチングを付していない。
【0028】
(実施例1)
図1は、本発明の磁気エンコーダをリニア磁気エンコーダに適用した実施例の動作を説明するために用いる図である。
図1には、本実施の形態のリニア磁気エンコーダの動作状態を上から下に向かって時系列で示してある。
図1に示すように、リニア磁気エンコーダ1は、可動子3と、固定子5とを有しており、可動子3の固定子5に対する位置を示す信号を発生する。可動子3は、複数の磁性片7からなる1つの磁性片列9が非磁性体からなる支持体11により支持された一体構造を有している。磁性片7は、縦断面形状が台形に近似した形状を有しており、その露出表面部は平坦で支持体11の一方の面から露出している。磁性片7は、例えば珪素鋼等の磁性材料から形成されている。支持体11は、磁性片7よりも磁気抵抗の大きな材料(例えばアルミニューム等)により形成されている。このような一体構造を有していれば、磁性片列9の製造及び取付が容易になる。本実施例で、磁性片7のピッチPとは、磁性片7の磁性片列9方向の長さと、隣合う2つの磁性片7の間の支持体11を構成する部分の長さを加えた長さを意味する。本実施例では、この磁性片7のピッチPを電気角で360°と定義する。なお本実施の形態では、複数の磁性片7をインサートとしてインサート成形により一体物の磁性片列9を形成している。図示していないが、可動子3の両端は、可動子3の直線運動は許容するが、回転運動を許容しない軸受等によってスライド自在に支持されている。
【0029】
固定子5は、複数の永久磁石13を備えた第1及び第2の永久磁石列15及び17と、第1及び第2の永久磁石列15及び17に対応して設けられた第1及び第2の磁気検出器19及び21を備えている。本実施例では、第1及び第2の永久磁石列15及び17が、同極性の磁極が対向するように並べられた6個の永久磁石13とこれら6個の永久磁石13の側面に配置された7枚の磁性ヨーク14とが、所定のピッチτpで可動子3の移動方向に並んで構成されている。本実施例では、永久磁石13の軸線方向の厚み寸法と1枚の磁性ヨーク14の軸線方向の厚み寸法を加えた寸法が、永久磁石列15及び17における永久磁石のピッチτpとなる。磁性ヨーク14は、鉄などの磁性材料から形成されている。例えば、珪素鋼からなる複数の磁性鋼板を軸線方向に積層して磁性ヨーク14を形成してもよい。磁性ヨーク14の材料としては、炭素鋼、フェライト系ステンレス、圧粉磁心等も用いることができる。
【0030】
第1及び第2の永久磁石列15及び17と対応する第1及び第2の磁気検出器19及び21は、永久磁石列15及び17と磁性片列9との間に相対的な位置の変位が生じたときに発生する漏れ磁束を検出することができる位置関係をもって、それぞれ図示しない樹脂モールド部によって一体化されている。磁気検出器19及び21としては、ホールセンサ(N極S極の区別ができる)を用いることができ、また磁気抵抗素子(N極S極の区別ができない)を用いてもよい。
【0031】
本実施例のように、永久磁石列15及び17を、複数の永久磁石13のそれぞれの両側に磁性ヨーク14が配置された構造にすると、磁束の流れを効率よく高めることができ、また、永久磁石13の同極を向かい合わす際には、発生する反発力を小さくすることができて、永久磁石列の製造作業を容易にできる。
【0032】
可動子3と固定子5とは、永久磁石13と磁性片7とが所定の間隔をあけて対向するように、例えばリニアモータの可動子及び固定子にそれぞれ設置することができる。
図1において永久磁石13中の矢印は磁化方向を示している。また細い線の矢印は、可動子3が固定子5に対して移動したときに発生する磁束の流れ(磁路)を示している。本実施例では、複数の永久磁石13のピッチτp及び複数の磁性片7のピッチPを、永久磁石列15及び17と磁性片列9との間に相対的な位置の変位が連続的に生じているときに、永久磁石列15及び17中の1つの永久磁石13から出た磁束が該1つの永久磁石13の隣の永久磁石13と対向する1つの磁性片7を通って永久磁石列15及び17中に戻る磁路が形成されるように定められている。具体的に、数値で限定すると本実施例では、磁性片7のピッチをP=360°(電気角)としたときに、τp=P/2となるようにピッチτpを定めている。そして第1の永久磁石列15と第12の永久磁石列17とは、磁気的にP/4ピッチずらして配置されている。すなわち第1の磁気検出器19が検出する漏れ磁束の磁束密度B1と、第2の磁気検出器21が検出する漏れ磁束の磁束密度B2が、
図2(A)に示すように電気角で90°位相がずれるように、第1の永久磁石列15及び第1の磁気検出器19と第2の永久磁石列17及び第2の磁気検出器21の位置関係が定められている。その結果、本実施例によれば、2相正弦波出力の磁気エンコーダが得られる。
【0033】
図1には、磁性片列9がP/4ずつ移動したときの磁束の発生状態を示している。
図1において、1段目の状態では、第1の永久磁石列15における隣合う2つの永久磁石13が1つの磁性片7と均等に対向していて、発生する磁束φは1つの永久磁石13と1つの磁性片7との間を通る小さい磁路を形成する。このとき第2の永久磁石列17では、1つの磁性片7が1つの永久磁石13と完全に対向していて、発生する合成磁束φは、1つの永久磁石13から出た磁束が該1つの永久磁石13の隣の永久磁石13と対向する1つの磁性片7を通って永久磁石列17中に戻る磁路を形成している。可動子3がP/4ピッチ移動すると、
図1の2段目の状態となり、第1の永久磁石列15では、1つの磁性片7が1つの永久磁石13と完全に対向していて、発生する合成磁束φは、1つの永久磁石13から出た磁束が該1つの永久磁石13の隣の永久磁石13と対向する1つの磁性片7を通って永久磁石列15中に戻る磁路を形成している。そして第2の永久磁石列17における隣合う2つの永久磁石13が1つの磁性片7と均等に対向していて、発生する磁束φは1つの永久磁石13と1つの磁性片7との間を通る小さい磁路を形成する。更に可動子3がP/4ピッチ移動すると、
図1の3段目の状態となり、第2の永久磁石列17を通る合成磁束φが1段目の状態とは逆方向に流れる磁路が形成される。更に可動子3がP/4ピッチ移動すると、
図1の4段目の状態となり、第1の永久磁石列15を通る合成磁束φが2段目の状態とは逆方向に流れる磁路が形成される。更に可動子3がP/4ピッチ移動すると、
図1の5段目の状態となり、1段目の状態に戻る第1の永久磁石列15を通る合成磁束φが2段目の状態とは逆方向に流れる磁路が形成される。
【0034】
図2(A)において、磁束密度B1及びB2が0のときは、1つの磁性片が1つの永久磁石13と完全に対向しているときである。そして磁束密度B1及びB2がピークに向かい且つピークから0に向かう過程では、1つの永久磁石13から出た磁束が該1つの永久磁石13の隣の永久磁石13と対向する1つの磁性片7を通って永久磁石列15中に戻り、複数の永久磁石の磁束が合成されて磁路を形成しているときである。
図2(B)は、
図2(A)の磁束が発生しているときに、第1及び第2の磁気検出器19及び21から出力される電圧波形を示している。なお永久磁石13の数を増やせば、1つの永久磁石13の影響を小さくすることができ、ひずみが少ない正弦波状の磁束を生じさせることができる。そしてこの磁束の漏れ磁束を磁気検出器19及び21で検出することにより、特別な補正回路を必要とすることなく、正弦波状信号を得ることができる。この正弦波信号を公知技術により信号処理することにより、可動子3の固定子5に対する位置を示す信号を得ることができる。その結果、本実施例によれば、リニア磁気エンコーダの分解能と内挿精度の向上を図ることができる。永久磁石列は、少なくとも2極以上の磁極が含まれるように2個以上の永久磁石13(物理的に分離していても、一体化されていてもよい)で構成される。磁性片列9と対向する永久磁石列15及び17の永久磁石13の極数が増加するほど、検出磁束は正確な正弦波に近づき、高精度となる。また永久磁石13、磁性ヨーク14、磁性片7に位置や特性のバラツキがあっても、平滑化された出力を得ることができる。
【0035】
なお永久磁石13のピッチτp(電気角)はP/4<τp<Pの値とするのが好ましい。
図3(A)は、P/2<τp<Pの場合の永久磁石13のピッチτpと磁性片7´のピッチPとの関係を示しており、
図3(B)はP/4<τp<P/2の場合の永久磁石13のピッチτpと磁性片7´のピッチPとの関係を示している。
図3において永久磁石列16は1つだけ示してあり、磁気検出器20も1つだけ示してある。また
図3においては、磁性片7´の断面形状が矩形状を呈している。
【0036】
磁気検出器20の配置位置は、漏れ磁束を検出できる位置であればどこでもよい。例えば、
図4(A)に示すように、磁性片列9´を間に介して永久磁石列16と対向する位置に磁気検出器20を配置して漏れ磁束φを検出するようにしてもよい。また
図4(B)及び(C)に示すように、磁気検出器20を、磁性片列9´及び永久磁石列16の両方と対向する位置に配置して漏れ磁束φを検出するようにしてもよい。さらに磁気検出器20を、永久磁石列16の延長線上で磁性ヨーク14に隣接した位置に配置して漏れ磁束φを検出するようにしてもよい。これらの位置であっても、確実に磁束φを検出することができる。
【0037】
永久磁石列を構成する永久磁石の数は、2以上あればよい。
図5は、永久磁石列16が2つの永久磁石13によって構成されている実施例を示している。この永久磁石列16でも、2つの永久磁石13は同極性の磁極が対向するように並べられており、各永久磁石13の両端には、磁性ヨーク14が配置されている。本実施例のように、永久磁石13が2極の場合では、低コストな磁気エンコーダを提供できる。
【0038】
図6に示すように、永久磁石列16の両端に位置する2つの磁性ヨーク14どうしを磁気的に連結して永久磁石列16からの漏れ磁束を集める連結ヨーク23及び24を設けてもよい。連結ヨーク23及び24の一端は、磁性ヨーク14に連結され、連結ヨーク23及び24の他端はギャップ25を介して対向している。そしてギャップ25内に、磁気検出器20を配置している。このような構造を使用すると、磁気検出器20は、連結ヨーク23及び24を通る漏れ磁束φを検出する。連結ヨーク23及び24を用いれば、磁気検出器20で検出する磁束の強度が強くなるため、より高感度となり、精度及び分解能を向上できる。
【0039】
図7に示すように、永久磁石列16´は、永久磁石13だけで構成してもよい。すなわち磁性ヨーク14を用いなくても、磁気抵抗の変化が発生するため、磁気エンコーダとして十分機能する。
【0040】
また
図8(A)及び(B)に示すように、永久磁石列116の長さを磁性片列109の長さより、長くしてもよい。この実施例では、永久磁石列116が可動子103を構成しており、磁性片列109と磁気検出器20とが固定子を構成している。この場合において、磁性片列109に含まれる磁性片107の数は、
図8(A)に示すように偶数でもよく、また
図8(B)に示すように奇数でもよい。また本実施例において、永久磁石列116を固定子として、磁性片列109と磁気検出器20とを可動子としてもよいのは勿論である。
【0041】
磁性片列を構成する複数の磁性片の永久磁石側から見た輪郭形状は、正弦波磁束が得られるものであれば、任意である。また永久磁石列を構成する永久磁石の形状も正弦波磁束が得られるものであれば、任意である。
【0042】
図9(A)乃至(H)は、磁性片の変形例及び永久磁石の変形例を示している。
図9(A)は、
図3及び
図4に示した磁性片列9´と同じものである。この磁性片列9´では、磁性片7´が、永久磁石列16側から見た輪郭形状及び縦断面形状が共に矩形状を呈している。このような平板状の磁性片7´であれば、
図1の実施例で使用する磁性片7のように、角に面取りが必要ないため、磁性片列の生産性が向上する。
【0043】
図9(B)の磁性片列29は,複数の磁性片27が連結片28により連結された構造を有している。この構造の磁性片列29は、磁性片27と連結片28とを鋳造やプレス成形等により一体成形することができるので生産性が向上する。
【0044】
図9(C)の(a)及び(b)に示した磁性片37は、永久磁石列16側から見た輪郭形状が円形を呈している。複数の円形の磁性片37が、長尺状の支持体11´の上に接着されて磁性片列39が構成されている。
【0045】
図9(D)の(a)及び(b)に示した磁性片47は、永久磁石列16側から見た輪郭形状は矩形であるが、横方向から見た形状が円形になる円柱状を呈している。そして複数の円柱状の磁性片47が支持体11´に埋設された状態で支持されて、磁性片列49が構成されている。
【0046】
図9(E)に示した磁性片57は、球状を呈している。そして複数の球状の磁性片57が支持体11´に埋設された状態で支持されて、磁性片列59が構成されている
図9(F)の(a)及び(b)に示した磁性片67は、永久磁石列16側から見た輪郭形状は矩形であるが、磁性片列69の長手方向から見た形状が円形になる円柱状を呈している。そして複数の円柱状の磁性片67が長手方向に並ぶようにして支持体11´に支持されて磁性片列69が構成されている。
【0047】
図9(G)の(a)及び(b)に示した永久磁石13´及び磁性ヨーク14´はそれぞれ円環状を呈しており、複数の永久磁石13´及び複数の磁性ヨーク14´が交互に接合されて円筒状の永久磁石列16´が構成されている。磁性片67は、永久磁石列16側から見た輪郭形状は矩形であるが、磁性片列69の長手方向から見た形状が円形になる円柱状を呈している。そして複数の円柱状の磁性片67が長手方向に並ぶようにして支持体11´に支持されて磁性片列69が構成されている。
【0048】
図9(H)の(a)及び(b)に示した永久磁石13″及び磁性ヨーク14″はそれぞれ円柱状を呈しており、複数の永久磁石13″及び複数の磁性ヨーク14″が交互に接合されて円柱状の永久磁石列16″が構成されている。磁性片列9´は、
図9(A)の磁性片列と同じである。
【0049】
図10(A)及び(B)は、一方向に同じ極性の磁極が現れるように非磁性材12を介して並べられた複数の永久磁石13と永久磁石の両側に配置された磁性ヨーク14とからなる永久磁石列30を用いた実施例の磁気エンコーダで、磁性片列9をP/2ピッチ移動させる前と後の状態を示している。非磁性材12として例えばアルミニュームを用いることができる。永久磁石列30は、複数の永久磁石13をインサートとしてインサート成形することができる。なお非磁性材12は空気でもよい。本実施例において、使用する磁気検出器20は、ホールセンサでも,MRセンサ(磁気抵抗素子)のどちらでもよい。検出される磁束の極性が一方向のみになるため、特にMR素子を利用する場合には、精度を向上できる。
図11(A)には、磁気検出器20で検出する漏れ磁束φの磁束密度を示しており、
図11(B)にはMR素子の出力(検出された電気抵抗)の変化を示している。磁束密度と電気抵抗は同位相で変化する。なお本実施例において、磁性ヨークを用いずに永久磁石13と非磁性材12とにより永久磁石列30を構成してもよい。
【0050】
図12(A)及び(B)は本発明を回転型の磁気エンコーダに適用した実施例の概略正面図及び側面図を示している。本実施例では、複数の円柱状の磁性片207からなる磁性片列209は、回転軸Sの回転によって直接または間接的に回転する円板211の外周面に沿って円環状の列をなすように円板211に固定されている。円板211はアルミニューム等の非磁性材料により形成されている。本実施例では、回転軸Sの中心線から隣合う2つの磁性片207の中心に延ばした仮想線L1及びL2間の角度を磁極片のピッチPと言う。本実施例では、円弧状に延びる2つの永久磁石列215及び217を、磁性片列209と対向するように配置している。永久磁石列217を例にして説明すると、回転軸Sの中心線から永久磁石213の中心に延ばした仮想線L3と、回転軸Sの中心線から隣合う2つの永久磁石213の間に位置する磁性ヨーク214の中心に延ばした仮想線L4との間の角度を永久磁石のピッチτpと言う。本実施例では、磁性片のピッチPと永久磁石のピッチτpとの間に、τp=P/4の関係が成立するように、磁性片のピッチPと永久磁石のピッチτpが定められている。複数の永久磁石213は、磁性材料からなるヨーク構成体222にインサート成形されている。ヨーク構成体222は、永久磁石213が保持される永久磁石保持部222Aと永久磁石保持部222Aの両端に一体に設けられた連結ヨーク223及び224とから構成される。連結ヨーク223及び224は、
図6に示した連結ヨーク23及び24と同様に、永久磁石列215及び217からの漏れ磁束φを磁気検出器219及び221に集める機能を果たしている。
【0051】
本実施例では、回転軸Sが回転すると、
図13(A)に示すように、磁気検出器219が検出する磁束の磁束密度B1と磁気検出器221が検出する磁束の磁束密度B2が、電気角で90°位相のずれた正弦波となるように磁気検出器219及び221の位置と磁性片のピッチPと永久磁石のピッチτpが定められている。その結果、磁気検出器219及び221からは、電気角で90°位相がずれた正弦波電圧V1及びV2が出力される。これらの正弦波電圧V1及びV2を公知の信号技術により信号処理することにより、回転軸Sの回転位置を示す信号を得ることができる。なお本実施例においては、ヨーク構成体222の永久磁石保持部222Aを厚肉で構成しているが、永久磁石保持部222Aを薄肉で形成してもよい。
【0052】
図14(A)及び(B)には、一対の永久磁石列215及び217に加えて別の一対の永久磁石215´及び217´を設けている。そして一対の永久磁石列215及び217に対応して設けた一対の磁気検出器219及び221と一対の永久磁石列215´及び217´に対応して設けた一対の磁気検出器219´及び221´とを機械角で180°ずれる配置している。これらの磁気検出器219及び221並びに219´及び221´としては、ホールセンサを用いている。ここでは一対の磁気検出器(ホールセンサ)の一方を、検出する磁束の方向を逆転させるように配置している。この状態で磁気検出器219及び221並びに219´及び221´が検出する磁束の磁束密度B1、B2、B´1及びB´2は
図15(A)のようになる。このような状態で、磁気検出器219と磁気検出器221の出力の差(V1−V2)を取り、磁気検出器219´と磁気検出器221´の出力の差(V´1−V´2)を取ると、
図15(B)のようになる。そこで一対の磁気検出器の出力の差をとるように一対の磁気検出器の出力部を接続することで、得られる電圧信号は大きなSN比を有し、また外部からの磁界の影響をキャンセルできて、外部磁界の外乱に強い、より高精度な磁気エンコーダが得られる。この場合においても、磁性片のピッチをP=360°(電気角)としたときに、永久磁石のピッチはP/4<τp<Pの値にするのが好ましい。また永久磁石列は、複数の永久磁石のそれぞれの両側に磁性ヨークが配置された構造を有しているのが好ましい。
【0053】
図16は、本発明のさらに他の実施例の構成を示している。この例では、同極性の磁極が対向するように2×n個(本実施例ではn=25)の永久磁石313と2×n個の磁性ヨーク314が交互に並べられて円環状の永久磁石列316が構成されている。またn±m(mはnより小さい自然数:本実施例ではm=1)個の磁性片307がピッチPで並べられて円環状の磁性片列309が構成されている。具体的には、永久磁石313の数が50個で、磁性片307の数が26個である。永久磁石列316と磁性片列309とは、磁性片列309が外側に位置するように同心的に配置されている。図示していないが、永久磁石列316及び磁性片列309は、支持部材に支持されてそれぞれ一体化されている。そして永久磁石列316及び磁性片列309の一方が、回転位置検出の対象となる回転軸に直接または間接的に固定されている。本実施例では、磁性片列309が回転するものとする。永久磁石列316の中心領域すなわち図示しない回転軸の軸線を中心とする領域に磁気検出器320Aおよび320Bを配置してある。磁気検出器320Aおよび320Bは出力に90°の位相差が発生する位置関係で配置されている。この例では永久磁石列316と磁気検出器320Aおよび320Bとは同じ支持部材に支持されている。
【0054】
本実施例のように、同極性の磁極が対向するよう複数の永久磁石313を並べて円環状の永久磁石列316を構成した場合には、磁性片列309が1回転すると内側の磁場(漏れ磁束φ)は磁性片307の数だけ回転する。したがって本実施例では内側の2つの磁場(漏れ磁束φ)が図示しない回転軸の回転中心を中心にして26回転する。なお磁場が回転する原理については、出願人の先願である特願2010−220070号に詳しく記載してある。磁気検出器320Aおよび320Bは、回転するこの2つの磁場(漏れ磁束φ)をそれぞれ検出して信号を出力する。
図17(A)は、磁性片列309が回転したときに、磁気検出器320Aが検出する磁束密度及び磁気検出器320の出力電圧と、磁気検出器320Bが検出する磁束密度及び磁気検出器320Bの出力電圧を示してある。
【0055】
ちなみに本実施例の構成で、永久磁石列316を回転させて磁性片列309を固定した場合には、永久磁石列316が1回転すると内側の磁場は永久磁石の数の半分の数だけ(すなわち25回転だけ)回転することになる。
図17(B)には、永久磁石列316が回転したときに、磁気検出器320Aが検出する磁束密度及び磁気検出器320Aの出力電圧と、磁気検出器320Bが検出する磁束密度及び磁気検出器320Bの出力電圧を示してある。
【0056】
本実施例によれば、高分解能な磁気センサを簡素な構造で構成できる。また、複数の永久磁石313の磁気が合成されたものを磁気検出器320Aおよび320Bで検出するため、磁石1個の誤差の影響がわずかであり、高い位置検出精度が得られる。なお
図18に示すように、磁性片列309を永久磁石列316に内側に配置しても、
図16の実施例と同様に動作する磁気エンコーダを得ることができる。
【0057】
図19(A)及び(B)は、円環状の永久磁石列416と円環状の磁性片列409を、回転軸Sの軸線方向に並べた実施例である。本実施例では、磁性片列409が回転軸Sに固定された円板411上に固定されて回転する。本実施例では、永久磁石列416の中心領域すなわち回転軸Sの軸線を中心とする領域に磁気検出器420A乃至420Dを配置している。磁気検出器420A乃至420Bはそれぞれの出力に90°の位相差が発生する位置関係で配置されている。この例では永久磁石列416と磁気検出器420A乃至420Dとは同じ支持部材に支持されている。この例では、磁性片列409の磁性片の数(n±m)のnを25とし、mを+1として磁性片407の数を26としている。この実施例でも、同極性の磁極が対向するよう複数の永久磁石413を並べて円環状の永久磁石列416を構成しているので、磁性片列409が1回転すると内側の2つの磁場(漏れ磁束φ)は磁性片407の数だけ回転する。したがって本実施例では内側の2つの磁場(漏れ磁束φ)が回転軸Sの回転中心を中心にして26回転する。磁気検出器420A乃至420Dは、回転するこの2つの磁場(漏れ磁束φ)をそれぞれ検出して位相が90°ずれた正弦波信号を出力する。
【0058】
図20は、
図19の実施例と同様に円環状の永久磁石列516と円環状の磁性片列509を、回転軸Sの軸線方向に並べた実施例である。この例では、磁性片列509の磁性片の数(n±m)のnを25とし、mを+2として磁性片407の数を27としている。この実施例では、磁性片列509が1回転すると、内側に4つの磁場(漏れ磁束φ)が発生し、4つの磁場(漏れ磁束φ)は磁性片407の数だけ回転する。本実施例では、一対の磁気検出器520A及び520Bが機械角で180°ずれた位置に配置され、一対の磁気検出器520C及び520も機械角で180°ずれた位置に配置されている。そして一対の磁気検出器520A及び520Bと一対の磁気検出器520C及び520Dも機械角で45°ずれた位置に配置されている。このように配置すると、
図21(A)に示すように、一対の磁気検出器520A及び520Bが検出する磁束密度B1及びB2は90°位相がずれた正弦波となる。また一対の磁気検出器520C及び520Dが検出する磁束密度B′1及びB′2も、
図21(A)に示すように、90°位相がずれた正弦波となる。そこで一対の磁気検出器520A及び520Bの出力の差(V1−V2)をとると、
図21(BH)に示す正弦波電圧信号が得られる。また一対の磁気検出器520C及び520Dの出力の差(V′1−V′2)をとると、
図21(B)に示す正弦波電圧信号が得られる。本実施例によれば、得られる正弦波状信号(V1−V2)及び(V′1−V′2)は大きなSN比となり、また外部からの磁界の影響をキャンセルすることができて、外部磁界の外乱に強い、より高精度な磁気エンコーダを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、簡単に正弦波状の磁束を発生できて、分解能と内挿精度の向上を図ることができる、低コストの磁気エンコーダを提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 リニア磁気エンコーダ
3 可動子
5 固定子
7,107,207,307,407,507 磁性片
9,109,209,309,409,509 磁性片列
11 支持体
13,113,213,313,413,513 永久磁石
14,414,214,314,414,514 磁性ヨーク
15,16,17,116,216,316,416,516 永久磁石列
19,20,21 磁気検出器