特許第5759888号(P5759888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759888
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/22 20120101AFI20150716BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   B24B37/00 W
   H01L21/304 622F
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2011-288599(P2011-288599)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136126(P2013-136126A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】数野 淳
【審査官】 大山 健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−222349(JP,A)
【文献】 特開2004−119974(JP,A)
【文献】 特表2010−525956(JP,A)
【文献】 特開2008−272922(JP,A)
【文献】 特開2009−224384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/22
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨層と支持層とが接着部材を介して積層されている積層研磨パッドにおいて、前記研磨層は親水性物質を0.5〜5重量%含有しており、前記支持層はクッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形されたものであり、前記積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmであることを特徴とする積層研磨パッド。
【請求項2】
親水性物質を0.5〜5重量%含有する研磨層を30〜100℃に加熱する工程、及び加熱した研磨層と、クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形された支持層とを接着部材を介して貼り合せる工程を含み、
研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmである積層研磨パッドの製造方法。
【請求項3】
クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形された支持層のクッション層上にホットメルト接着剤シートを積層する工程、積層したホットメルト接着剤シートを加熱してホットメルト接着剤を溶融又は軟化させる工程、溶融又は軟化したホットメルト接着剤上に親水性物質を0.5〜5重量%含有する研磨層を積層して積層シートを作製する工程、積層シートを30〜100℃に加熱したロールの間を通過させて圧着する工程、及び積層シートの溶融又は軟化したホットメルト接着剤を硬化させる工程を含み、
研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmである積層研磨パッドの製造方法。
【請求項4】
クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形された支持層のクッション層上に溶融又は軟化したホットメルト接着剤を塗布する工程、及び溶融又は軟化したホットメルト接着剤上に親水性物質を0.5〜5重量%含有する研磨層を積層して積層シートを作製する工程、積層シートを30〜100℃に加熱したロールの間を通過させて圧着する工程、及び積層シートの溶融又は軟化したホットメルト接着剤を硬化させる工程を含み、
研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmである積層研磨パッドの製造方法。
【請求項5】
ホットメルト接着剤の溶融温度が130〜170℃である請求項3又は4記載の積層研磨パッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載の積層研磨パッドを用いて半導体ウエハの表面を研磨する工程を含む半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレンズ、反射ミラー等の光学材料やシリコンウエハ、ハードディスク用のガラス基板、アルミ基板、及び一般的な金属研磨加工等の高度の表面平坦性を要求される材料の平坦化加工を安定、かつ高い研磨効率で行うことが可能な積層研磨パッドに関するものである。本発明の積層研磨パッドは、特にシリコンウエハ並びにその上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを、さらにこれらの酸化物層や金属層を積層・形成する前に平坦化する工程に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を製造する際には、ウエハ表面に導電性膜を形成し、フォトリソグラフィー、エッチング等をすることにより配線層を形成する形成する工程や、配線層の上に層間絶縁膜を形成する工程等が行われ、これらの工程によってウエハ表面に金属等の導電体や絶縁体からなる凹凸が生じる。近年、半導体集積回路の高密度化を目的として配線の微細化や多層配線化が進んでいるが、これに伴い、ウエハ表面の凹凸を平坦化する技術が重要となってきた。
【0003】
ウエハ表面の凹凸を平坦化する方法としては、一般的にケミカルメカニカルポリシング(以下、CMPという)が採用されている。CMPは、ウエハの被研磨面を研磨パッドの研磨面に押し付けた状態で、砥粒が分散されたスラリー状の研磨剤(以下、スラリーという)を用いて研磨する技術である。CMPで一般的に使用する研磨装置は、例えば、図1に示すように、研磨パッド1を支持する研磨定盤2と、被研磨材(半導体ウエハ)4を支持する支持台(ポリシングヘッド)5とウエハの均一加圧を行うためのバッキング材と、研磨剤の供給機構を備えている。研磨パッド1は、例えば、両面テープで貼り付けることにより、研磨定盤2に装着される。研磨定盤2と支持台5とは、それぞれに支持された研磨パッド1と被研磨材4が対向するように配置され、それぞれに回転軸6、7を備えている。また、支持台5側には、被研磨材4を研磨パッド1に押し付けるための加圧機構が設けてある。
【0004】
特許文献1では、半導体基板を研磨ヘッドに固定し、研磨定盤に体積弾性率が600kg/cm以上でかつ圧縮弾性率が10kg/cm以上140kg/cm以下であるクッション層を介して固着したマイクロゴムA硬度が70度以上の研磨層を前記半導体基板に押し当て、該半導体基板自体の反りあるいは凹凸を前記クッション層に吸収させた状態で前記研磨ヘッド或いは研磨定盤或いはその双方を回転させて前記半導体基板を研磨する事を特徴とする半導体基板の研磨方法、が提案されている。
【0005】
近年、半導体ウエハの大型化により研磨パッドも大型化しており、研磨定盤に大きな研磨パッドを貼り付ける作業が困難になってきている。研磨定盤に研磨パッドを貼り付ける作業においては、できるだけ平坦になるように研磨パッドを貼り付ける必要がある。しかし、研磨パッドが大きくなると、貼り付け時に研磨パッドと研磨定盤との間に空気が入りやすくなる。空気が入った部分は凸状に出っ張るため、その部分によって半導体ウエハの研磨加工に不具合(例えば、研磨の均一性の悪化、ドレッサーによる研磨層の破れなど)が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−117619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、大きい場合でも研磨定盤に平坦に貼り付けることができる積層研磨パッドを提供することを目的とする。また、当該積層研磨パッドを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す積層研磨パッドにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、研磨層と支持層とが接着部材を介して積層されている積層研磨パッドにおいて、前記研磨層は親水性物質を0.5〜5重量%含有しており、前記支持層はクッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形されたものであり、前記積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmであることを特徴とする積層研磨パッド、に関する。
【0010】
図2は、従来の反りのない研磨パッドを研磨定盤に貼り付ける工程を示す概略図である。図2に示すように、従来は、まず研磨パッド1の一端を研磨定盤2の端部に貼り付け、そして研磨パッド1の一端から対向端に向かって研磨パッド1を研磨定盤2に押し付けながら貼り合せていた。しかし、このような従来の貼り付け方法の場合、研磨パッドが大きくなるとパッド周囲が自重で垂れて空気を噛み込みやすかった。
【0011】
一方、図3は、本発明の反りのある積層研磨パッドを研磨定盤に貼り付ける工程を示す概略図である。本発明の積層研磨パッド1は研磨層9側が凹状になるように反っている。図3に示すように、まず積層研磨パッド1の中心部分を研磨定盤2の中心部分に貼り合せ、そして積層研磨パッド1の中心部分から周端に向かって積層研磨パッド1を研磨定盤2に押し付けながら貼り合せることにより、空気を噛み込むことなく積層研磨パッド1を研磨定盤2に平坦に貼り付けることができる。
【0012】
ただし、研磨層側が凹状になるように反った積層研磨パッドを研磨定盤に貼り付けると、パッド周端が研磨定盤から離れるように内部応力が生じるため、パッド周端が研磨定盤から剥離しやすくなる。しかし、本発明の積層研磨パッドの研磨層は、親水性物質を0.5〜5重量%含有しているため、ウエット処理時の超純水、又は研磨時のスラリーによって研磨層が膨潤(膨張)する。それにより、パッド周端にかかる内部応力が緩和されて、パッド周端が研磨定盤から剥離し難くなる。
【0013】
親水性物質の含有量が0.5重量%未満の場合には、超純水等によって研磨層が膨潤し難くなるため、パッド周端にかかる内部応力が緩和され難くなり、パッド周端が研磨定盤から剥離しやすくなる。一方、親水性物質の含有量が5重量%を超える場合には、超純水等によって研磨層が膨潤しすぎて研磨層の硬度が低下するため研磨特性に悪影響を及ぼす。
【0014】
支持層としては、クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形されたものを用いる。当該支持層を用いることにより、パッド周端の反り量を3〜50mmに調整することができる。樹脂フィルムの熱寸法変化率が1.3%未満の場合、パッド周端の反り量を3mm以上にすることができない。一方、樹脂フィルムの熱寸法変化率が12.6%を超える場合、クッション層と樹脂フィルムとを一体成形する際に、熱収縮により樹脂フィルムにシワが発生し、支持層を作製することができない。
【0015】
パッド周端の平均反り量が3mm未満の場合には、積層研磨パッドの中心部分から周端に向かって積層研磨パッドを研磨定盤に貼り合せる際に、パッド周囲が垂れて空気を噛み込みやすくなる。一方、パッド周端の平均反り量が50mmを超える場合には、研磨定盤に貼り付けられたパッド周端にかかる内部応力が大きくなりすぎるため、超純水等によって研磨層が膨潤したとしてもパッド周端にかかる内部応力を十分に緩和することができない。そのため、パッド周端が研磨定盤から剥離しやすくなる。
【0016】
また、本発明は、親水性物質を0.5〜5重量%含有する研磨層を30〜100℃に加熱する工程、及び加熱した研磨層と、クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形された支持層とを接着部材を介して貼り合せる工程を含み、
研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmである積層研磨パッドの製造方法、に関する。
【0017】
研磨層を30〜100℃に加熱した状態で、研磨層と前記支持層とを接着部材を介して貼り合せることにより、研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmである積層研磨パッドを製造することができる。パッドの反りは、加熱により研磨層が伸びた状態で貼り合わされ、その後、冷却により研磨層が収縮することで起こると考えられる。
【0018】
また、本発明は、クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形された支持層のクッション層上にホットメルト接着剤シートを積層する工程、積層したホットメルト接着剤シートを加熱してホットメルト接着剤を溶融又は軟化させる工程、溶融又は軟化したホットメルト接着剤上に親水性物質を0.5〜5重量%含有する研磨層を積層して積層シートを作製する工程、積層シートを30〜100℃に加熱したロールの間を通過させて圧着する工程、及び積層シートの溶融又は軟化したホットメルト接着剤を硬化させる工程を含み、
研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmである積層研磨パッドの製造方法、に関する。
【0019】
また、本発明は、クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形された支持層のクッション層上に溶融又は軟化したホットメルト接着剤を塗布する工程、及び溶融又は軟化したホットメルト接着剤上に親水性物質を0.5〜5重量%含有する研磨層を積層して積層シートを作製する工程、積層シートを30〜100℃に加熱したロールの間を通過させて圧着する工程、及び積層シートの溶融又は軟化したホットメルト接着剤を硬化させる工程を含み、
研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量が3〜50mmである積層研磨パッドの製造方法、に関する。
【0020】
本発明の製造方法によって積層研磨パッドの反りが起こる理由は上記のとおりである。
【0021】
ホットメルト接着剤の溶融温度は130〜170℃であることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明は、前記積層研磨パッドを用いて半導体ウエハの表面を研磨する工程を含む半導体デバイスの製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の積層研磨パッドは、研磨層側が凹状になるように反った構造を有する。そのため、積層研磨パッドが大きい場合でも研磨定盤に空気を噛み込むことなく平坦に貼り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】CMP研磨で使用する研磨装置の一例を示す概略構成図
図2】従来の反りのない研磨パッドを研磨定盤に貼り付ける工程を示す概略図
図3】本発明の反りのある積層研磨パッドを研磨定盤に貼り付ける工程を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明で用いる研磨層は、親水性物質を0.5〜5重量%含有するものであればよく、発泡体であっても無発泡体であってもよいが、微細気泡を有する発泡体であることが好ましい。研磨層は、親水性物質を0.6〜2重量%含有することが好ましい。
【0026】
本発明において親水性物質とは、10gの水に10g以上溶解又は混和する物質をいう。例えば、エチレングリコール及びジエチレングリコールなどの多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノエーテル;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、及びジエチレングリコールジブチルエーテルなどのエチレングリコールジエーテル;テトラエチレンジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合させたポリエチレングリコール;ポリシロキサンにエチレンオキシドを付加重合させたポリシロキサンエーテルなどが挙げられる。親水性物質は、研磨層を構成する樹脂やその原料と反応しないものが好ましく、特にエチレングリコールジエーテルを用いることが好ましい。
【0027】
研磨層を構成する樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリスチレン、オレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、エポキシ樹脂、感光性樹脂などの1種または2種以上の混合物が挙げられる。ポリウレタン樹脂は耐摩耗性に優れ、原料組成を種々変えることにより所望の物性を有するポリマーを容易に得ることができるため、研磨層の形成材料として特に好ましい材料である。以下、前記発泡体を代表してポリウレタン樹脂発泡体について説明する。
【0028】
前記ポリウレタン樹脂は、イソシアネート成分、ポリオール成分(高分子量ポリオール、低分子量ポリオール等)、及び鎖延長剤からなるものである。
【0029】
イソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を特に限定なく使用できる。イソシアネート成分としては、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートが挙げられる。これらは1種で用いても、2種以上を混合しても差し支えない。
【0030】
高分子量ポリオールとしては、ポリウレタンの技術分野において、通常用いられるものを挙げることができる。例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレングリコール等に代表されるポリエーテルポリオール、ポリブチレンアジペートに代表されるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応物などで例示されるポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させ、次いでえられた反応混合物を有機ジカルボン酸と反応させたポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシル化合物とアリールカーボネートとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ポリオール成分として上述した高分子量ポリオールの他に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオールを併用することができる。また、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、及びジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミンを併用することもできる。また、モノエタノールアミン、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、及びモノプロパノールアミン等のアルコールアミンを併用することもできる。これら低分子量ポリオール、低分子量ポリアミン等は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。低分子量ポリオールや低分子量ポリアミン等の配合量は特に限定されず、製造される研磨層に要求される特性により適宜決定される。
【0032】
ポリウレタン樹脂発泡体をプレポリマー法により製造する場合において、プレポリマーの硬化には鎖延長剤を使用する。鎖延長剤は、少なくとも2個以上の活性水素基を有する有機化合物であり、活性水素基としては、水酸基、第1級もしくは第2級アミノ基、チオール基(SH)等が例示できる。具体的には、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルメタン、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、N,N’−ジ−sec−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、m−キシリレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、及びp−キシリレンジアミン等に例示されるポリアミン類、あるいは、上述した低分子量ポリオールや低分子量ポリアミンを挙げることができる。これらは1種で用いても、2種以上を混合しても差し支えない。
【0033】
本発明におけるイソシアネート成分、ポリオール成分、及び鎖延長剤の比は、各々の分子量や積層研磨パッドの所望物性などにより種々変え得る。所望する研磨特性を有する積層研磨パッドを得るためには、ポリオール成分と鎖延長剤の合計活性水素基(水酸基+アミノ基)数に対するイソシアネート成分のイソシアネート基数は、0.80〜1.20であることが好ましく、さらに好ましくは0.99〜1.15である。イソシアネート基数が前記範囲外の場合には、硬化不良が生じて要求される比重及び硬度が得られず、研磨特性が低下する傾向にある。
【0034】
ポリウレタン樹脂発泡体は、溶融法、溶液法など公知のウレタン化技術を応用して製造することができるが、コスト、作業環境などを考慮した場合、溶融法で製造することが好ましい。
【0035】
ポリウレタン樹脂発泡体の製造は、プレポリマー法、ワンショット法のどちらでも可能であるが、事前にイソシアネート成分とポリオール成分からイソシアネート末端プレポリマーを合成しておき、これに鎖延長剤を反応させるプレポリマー法が、得られるポリウレタン樹脂の物理的特性が優れており好適である。
【0036】
ポリウレタン樹脂発泡体の製造方法としては、中空ビーズを添加させる方法、機械的発泡法、化学的発泡法などが挙げられる。
【0037】
特に、ポリアルキルシロキサンとポリエーテルの共重合体であって活性水素基を有しないシリコン系界面活性剤を使用した機械的発泡法が好ましい。
【0038】
なお、必要に応じて、酸化防止剤等の安定剤、滑剤、顔料、充填剤、帯電防止剤、その他の添加剤を加えてもよい。
【0039】
ポリウレタン樹脂発泡体は独立気泡タイプであってもよく、連続気泡タイプであってもよい。
【0040】
ポリウレタン樹脂発泡体の製造は、各成分を計量して容器に投入し、撹拌するバッチ方式であっても、また撹拌装置に各成分と非反応性気体を連続して供給して撹拌し、気泡分散液を送り出して成形品を製造する連続生産方式であってもよい。
【0041】
また、ポリウレタン樹脂発泡体の原料となるプレポリマーを反応容器に入れ、その後鎖延長剤を投入、撹拌後、所定の大きさの注型に流し込みブロックを作製し、そのブロックを鉋状、あるいはバンドソー状のスライサーを用いてスライスする方法、又は前述の注型の段階で、薄いシート状にしても良い。また、原料となる樹脂を溶解し、Tダイから押し出し成形して直接シート状のポリウレタン樹脂発泡体を得ても良い。
【0042】
前記ポリウレタン樹脂発泡体の平均気泡径は、30〜80μmであることが好ましく、より好ましくは30〜60μmである。この範囲から逸脱する場合は、研磨速度が低下したり、研磨後の被研磨材(ウエハ)のプラナリティ(平坦性)が低下する傾向にある。
【0043】
前記ポリウレタン樹脂発泡体の比重は、0.5〜1.3であることが好ましい。比重が0.5未満の場合、研磨層の表面強度が低下し、被研磨材のプラナリティが低下する傾向にある。また、1.3より大きい場合は、研磨層表面の気泡数が少なくなり、プラナリティは良好であるが、研磨速度が低下する傾向にある。
【0044】
前記ポリウレタン樹脂発泡体の硬度は、アスカーD硬度計にて、40〜75度であることが好ましい。アスカーD硬度が40度未満の場合には、被研磨材のプラナリティが低下し、また、75度より大きい場合は、プラナリティは良好であるが、被研磨材のユニフォーミティ(均一性)が低下する傾向にある。
【0045】
研磨層の被研磨材と接触する研磨表面は、スラリーを保持・更新するための凹凸構造を有することが好ましい。発泡体からなる研磨層は、研磨表面に多くの開口を有し、スラリーを保持・更新する働きを持っているが、研磨表面に凹凸構造を形成することにより、スラリーの保持と更新をさらに効率よく行うことができ、また被研磨材との吸着による被研磨材の破壊を防ぐことができる。凹凸構造は、スラリーを保持・更新する形状であれば特に限定されるものではなく、例えば、XY格子溝、同心円状溝、貫通孔、貫通していない穴、多角柱、円柱、螺旋状溝、偏心円状溝、放射状溝、及びこれらの溝を組み合わせたものが挙げられる。また、これらの凹凸構造は規則性のあるものが一般的であるが、スラリーの保持・更新性を望ましいものにするため、ある範囲ごとに溝ピッチ、溝幅、溝深さ等を変化させることも可能である。
【0046】
研磨層の形状は特に制限されず、円形状であってもよく、長尺状であってもよい。研磨層の大きさは使用する研磨装置に応じて適宜調整することができるが、円形状の場合には直径は30〜150cm程度であり、長尺状の場合には長さ5〜15m程度、幅60〜250cm程度である。
【0047】
研磨層の厚みは特に限定されるものではないが、通常0.8〜4mm程度であり、1.2〜2.5mmであることが好ましい。
【0048】
研磨層には、研磨を行っている状態で光学終点検知をするための透明部材が設けられていてもよい。
【0049】
本発明で用いる支持層は、クッション層と熱寸法変化率が1.3〜12.6%の樹脂フィルムとが一体成形されたものである。
【0050】
クッション層は、CMPにおいて、トレードオフの関係にあるプラナリティとユニフォーミティの両者を両立させるために必要なものである。プラナリティとは、パターン形成時に発生する微小凹凸のある被研磨材を研磨した時のパターン部の平坦性をいい、ユニフォーミティとは、被研磨材全体の均一性をいう。研磨層の特性によって、プラナリティを改善し、クッション層の特性によってユニフォーミティを改善する。
【0051】
クッション層としては、例えば、ポリエステル不織布、ナイロン不織布、及びアクリル不織布などの繊維不織布;ポリウレタンを含浸したポリエステル不織布のような樹脂含浸不織布;ポリウレタンフォーム及びポリエチレンフォームなどの高分子樹脂発泡体;ブタジエンゴム及びイソプレンゴムなどのゴム性樹脂;感光性樹脂などが挙げられる。
【0052】
クッション層の厚みは特に制限されないが、300〜1800μmであることが好ましく、より好ましくは700〜1400μmである。
【0053】
クッション層は剛性に乏しいため貼り合せ時に皺の発生、又は接着不良などの不具合が起こりやすい。このような不具合を防止するために、クッション層の片面に樹脂フィルムを設けて剛性を付与する。
【0054】
樹脂フィルムとしては、150℃で30分加熱後の熱寸法変化率が1.3〜12.6%であるものを用いる。好ましくは熱寸法変化率が1.4〜3%の樹脂フィルムである。例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム;ポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム;ポリアミドフィルム;アクリル樹脂フィルム;メタクリル樹脂フィルム;ポリスチレンフィルムなどが挙げられる。これらのうち、ポリエステルフィルムを用いることが好ましく、特にポリエチレンテレフタレートフィルムを用いることが好ましい。
【0055】
樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、10〜150μmであることが好ましく、より好ましくは20〜100μmである。
【0056】
本発明で用いる支持層は、例えば、クッション層の片面に接着剤を用いて樹脂フィルムを貼り合せる方法、及び樹脂フィルム上にクッション層形成材料を塗布し硬化させてクッション層を直接形成する方法などにより作製することができる。
【0057】
本発明の積層研磨パッドは、前記研磨層と前記支持層とを接着部材で貼り合わせて作製する。例えば、以下の方法で製造することができる。
【0058】
製造方法1
まず、研磨層を30〜100℃に加熱する。その後、前記温度に加熱した研磨層と前記支持層のクッション層側とを接着部材を介して圧着して貼り合せる。接着部材としては、一般的な感圧性接着剤を用いてもよく、基材の両面に感圧性接着剤層が設けられた両面テープを用いてもよい。圧着方法としては、例えばロールの間を通過させる方法が挙げられる。貼り合せ後、冷却することにより研磨層が収縮し、研磨層側が凹状になるように反った積層研磨パッドが得られる。支持層を研磨層の大きさに切断する場合は、研磨層を冷却する前、つまり研磨層が収縮して凹状になる前に切断することが好ましい。研磨層が収縮して凹状になった後に切断すると、支持層を研磨層の大きさに合わせて正確に切断することが困難になる。
【0059】
製造方法2
まず、前記支持層のクッション層上にホットメルト接着剤シートを積層する。
【0060】
前記ホットメルト接着剤シートは、ホットメルト接着剤で形成された接着剤層であってもよく、又は基材の両面に前記接着剤層が設けられた両面テープであってもよい。
【0061】
使用するホットメルト接着剤は特に制限されないが、ポリエステル系ホットメルト接着剤を用いることが好ましい。
【0062】
前記ポリエステル系ホットメルト接着剤は、少なくともベースポリマーであるポリエステル樹脂と、架橋成分である1分子中にグリシジル基を2つ以上有するエポキシ樹脂とを含有する。
【0063】
前記ポリエステル樹脂としては、酸成分及びポリオール成分の縮重合等により得られる公知のものを用いることができるが、特に結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0064】
酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及び脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0065】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸、α−ナフタレンジカルボン酸、β−ナフタレンジカルボン酸、及びそのエステル形成体等が挙げられる。
【0066】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデシレン酸、ドデカン二酸、及びそのエステル形成体等が挙げられる。
【0067】
脂環族ジカルボン酸の具体例としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0068】
また、酸成分として、マレイン酸、フマル酸、ダイマー酸等の不飽和酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸等を併用してもよい。
【0069】
ポリオール成分としては、脂肪族グリコール、脂環族グリコール等の2価アルコール及び多価アルコールが挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0070】
脂肪族グリコールの具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチルペンタンジオール、2,2,3−トリメチルペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0071】
脂環族グリコールの具体例としては、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等が挙げられる。
【0072】
多価アルコールとしては、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0073】
結晶性ポリエステル樹脂は、公知の方法により合成することができる。例えば、原料及び触媒を仕込み、生成物の融点以上の温度で加熱する溶融重合法、生成物の融点以下で重合する固相重合法、溶媒を使用する溶液重合法等があり、いずれの方法を採用してもよい。
【0074】
結晶性ポリエステル樹脂の融点は100〜200℃であることが好ましい。融点が100℃未満の場合は、研磨時の発熱によってホットメルト接着剤の接着力が低下し、200℃を超える場合には、ホットメルト接着剤を溶融させる際の温度が高くなるため、積層研磨パッドに反りが生じて研磨特性に悪影響を与える傾向にある。
【0075】
また、結晶性ポリエステル樹脂の数平均分子量は5000〜50000であることが好ましい。数平均分子量が5000未満の場合は、ホットメルト接着剤の機械的特性が低下するため、十分な接着性及び耐久性が得られず、50000を超える場合には、結晶性ポリエステル樹脂を合成する際にゲル化が生じる等の製造上の不具合が発生したり、ホットメルト接着剤としての性能が低下する傾向にある。
【0076】
前記エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、複素芳香環(例えば、トリアジン環など)を含有するエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂;脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などの非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
これらのうち、研磨時における研磨層との接着性の観点から、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0078】
前記エポキシ樹脂は、ベースポリマーであるポリエステル樹脂100重量部に対して、2〜10重量部添加することが必要であり、好ましくは3〜7重量部である。
【0079】
ホットメルト接着剤は、オレフィン系樹脂等の軟化剤、粘着付与剤、充填剤、安定剤、及びカップリング剤などの公知の添加剤を含有していてもよい。また、タルクなどの公知の無機フィラーも含有していてもよい。
【0080】
ホットメルト接着剤の溶融温度(融点)は、130〜170℃であることが好ましい。
【0081】
また、ホットメルト接着剤の比重は、1.1〜1.3であることが好ましい。
【0082】
また、ホットメルト接着剤のメルトフローインデックス(MI)は、150℃、荷重2.16kgの条件にて、16〜26g/10minであることが好ましい。
【0083】
ホットメルト接着剤で形成された接着剤層の厚みは10〜200μmであることが好ましく、より好ましくは50〜130μmである。
【0084】
前記接着剤層の代わりに、基材の両面に前記接着剤層を有する両面テープを用いてもよい。基材により支持層側へのスラリーの浸透を防止し、支持層と接着剤層との間での剥離を防止することができる。
【0085】
基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリエチレンナフタレートフィルムなどのポリエステルフィルム;ポリエチレンフィルム及びポリプロピレンフィルムなどのポリオレフィンフィルム;ナイロンフィルム;ポリイミドフィルムなどが挙げられる。これらのうち、水の透過を防ぐ性質に優れるポリエステルフィルムを用いることが好ましい。
【0086】
基材の表面には、コロナ処理、プラズマ処理などの易接着処理を施してもよい。
【0087】
基材の厚みは特に制限されないが、透明性、柔軟性、剛性、及び加熱時の寸法安定性等の観点から10〜200μmであることが好ましく、より好ましくは15〜55μmである。
【0088】
両面テープを用いる場合、前記接着剤層の厚みは10〜200μmであることが好ましく、より好ましくは50〜130μmである。
【0089】
その後、積層したホットメルト接着剤シートを加熱してホットメルト接着剤を溶融又は軟化させる。軟化させる場合には、ホットメルト接着剤の溶融温度から−10℃以内の温度になるように加熱することが好ましく、より好ましくは溶融温度から−5℃以内の温度になるように加熱する。ホットメルト接着剤シートを溶融又は軟化させる方法は特に制限されず、例えば、コンベアベルト上でシートを搬送しながら、赤外ヒーターでホットメルト接着剤シート表面を加熱する方法が挙げられる。
【0090】
そして、溶融又は軟化したホットメルト接着剤上に研磨層を積層して積層シートを作製し、当該積層シートを30〜100℃に加熱したロールの間を通過させて圧着して貼り合せる。なお、ホットメルト接着剤シートを用いる代わりに、支持層のクッション層上に溶融又は軟化したホットメルト接着剤を塗布してもよい。貼り合せ後、冷却することにより溶融又は軟化したホットメルト接着剤を硬化させる。その際、研磨層が収縮し、研磨層側が凹状になるように反った積層研磨パッドが得られる。支持層を研磨層の大きさに切断する場合は、研磨層が収縮して凹状になる前に切断することが好ましい。研磨層が収縮して凹状になった後に切断すると、支持層を研磨層の大きさに合わせて正確に切断することが困難になる。
【0091】
本発明の製造方法により得られる積層研磨パッドは、研磨層側が凹状になるように反っており、パッド周端の平均反り量は3〜50mmであり、好ましくは5〜15mmである。
【0092】
本発明の積層研磨パッドは、円形状であってもよく、長尺状であってもよい。積層研磨パッドの大きさは使用する研磨装置に応じて適宜調整することができるが、円形状の場合には直径は30〜150cm程度であり、長尺状の場合には長さ5〜15m程度、幅60〜250cm程度である。
【0093】
本発明の積層研磨パッドは、支持層の樹脂フィルム側に両面テープが設けられていてもよい。
【0094】
半導体デバイスは、前記研磨パッドを用いて半導体ウエハの表面を研磨する工程を経て製造される。半導体ウエハとは、一般にシリコンウエハ上に配線金属及び酸化膜を積層したものである。半導体ウエハの研磨方法、研磨装置は特に制限されず、例えば、図1に示すように積層研磨パッド1を支持する研磨定盤2と、半導体ウエハ4を支持する支持台(ポリシングヘッド)5とウエハへの均一加圧を行うためのバッキング材と、研磨剤3の供給機構を備えた研磨装置などを用いて行われる。積層研磨パッド1は、例えば、両面テープで貼り付けることにより、研磨定盤2に装着される。研磨定盤2と支持台5とは、それぞれに支持された積層研磨パッド1と半導体ウエハ4が対向するように配置され、それぞれに回転軸6、7を備えている。また、支持台5側には、半導体ウエハ4を積層研磨パッド1に押し付けるための加圧機構が設けてある。研磨に際しては、研磨定盤2と支持台5とを回転させつつ半導体ウエハ4を積層研磨パッド1に押し付け、スラリーを供給しながら研磨を行う。スラリーの流量、研磨荷重、研磨定盤回転数、及びウエハ回転数は特に制限されず、適宜調整して行う。
【0095】
これにより半導体ウエハ4の表面の突出した部分が除去されて平坦状に研磨される。その後、ダイシング、ボンディング、パッケージング等することにより半導体デバイスが製造される。半導体デバイスは、演算処理装置やメモリー等に用いられる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0097】
[測定、評価方法]
(溶融温度の測定)
ポリエステル系ホットメルト接着剤の溶融温度(融点)は、TOLEDO DSC822(METTLER社製)を用い、昇温速度20℃/minにて測定した。
【0098】
(比重の測定)
JIS Z8807−1976に準拠して行った。ポリエステル系ホットメルト接着剤からなる接着剤層を4cm×8.5cmの短冊状(厚み:任意)に切り出したものを比重測定用試料とし、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の環境で16時間静置した。測定には比重計(ザルトリウス社製)を用い、比重を測定した。
【0099】
(メルトフローインデックス(MI)の測定)
ASTM−D−1238に準じて150℃、2.16kgの条件で、ポリエステル系ホットメルト接着剤のメルトフローインデックスを測定した。
【0100】
(熱寸法変化率の測定)
樹脂フィルムの150℃で30分加熱した後と加熱前との熱寸法変化率は、JIS C 2318に準拠して測定した。
【0101】
(パッド周端の平均反り量の測定)
作製した積層研磨パッドを水平なテーブル上に静置し、パッド周端の最も反りが大きい部分から90°毎に合計4ヶ所について、テーブルからの高さ(浮き)を測定した。
【0102】
(面内均一性の評価)
研磨装置としてARW−8C1MS(MAT社製)を用い、作製した積層研磨パッドを研磨装置に貼り付けた。ダイヤモンドドレッサー(MMC社製、MECY#100タイプ)を用いて積層研磨パッドのドレス処理を20分間行った。その後、前記積層研磨パッドを用いて、300mmのシリコンウエハに熱酸化膜が1μm堆積したウエハを1分間研磨した(初期研磨)。研磨条件としては、シリカスラリーSS12(キャボット社製)を研磨中に流量200ml/minで供給し、研磨荷重275hPa、研磨定盤回転数60rpm、及びウエハ回転数60rpmとした。そして、ウエハ直径ライン上の3mm間隔の99点(ウエハエッヂから3mmの位置は除外)について研磨前後の膜厚測定値から研磨速度最大値、研磨速度最小値、及び研磨速度平均値を求め、その値を下記式に代入することにより面内均一性(%)を算出した。膜厚測定には、干渉式膜厚測定装置(ナノメトリクス社製)を用いた。その後、前記ダイヤモンドドレッサーを用いて前記積層研磨パッドのドレス処理を5時間行った。その後、前記と同様の方法でウエハを1分間研磨し(5時間後研磨)、面内均一性(%)を算出した。面内均一性の値が小さいほどウエハ表面の均一性が高いことを示す。面内均一性の値が15%以下の場合は○、15%を超える場合は×とした。
面内均一性(%)={(研磨速度最大値−研磨速度最小値)/(研磨速度平均値×2)}×100
【0103】
実施例1
(研磨層の作製)
ポリエーテル系プレポリマー(ユニロイヤル社製、アジプレンL−325)100重量部、シリコン系界面活性剤(ゴールドシュミット社製、B8465)3重量部、及びジエチレングリコールジエチルエーテル0.8重量部を重合容器内に加えて混合し、80℃に調整して減圧脱泡した。その後、撹拌翼を用いて、回転数900rpmで反応系内に気泡を取り込むように激しく約4分間撹拌を行った。そこへ予め120℃に温度調整したMOCA(イハラケミカル社製、キュアミンMT)26重量部を添加した。該混合液を約1分間撹拌した後、パン型のオープンモールド(注型容器)へ流し込んだ。この混合液の流動性がなくなった時点でオーブン内に入れ、100℃で16時間ポストキュアを行い、ポリウレタン樹脂発泡体ブロックを得た。
約80℃に加熱した前記ポリウレタン樹脂発泡体ブロックをスライサー(アミテック社製、VGW−125)を使用してスライスし、ポリウレタン樹脂発泡体シート(比重:0.85、アスカーD硬度:55度)を得た。次に、バフ機(アミテック社製)を使用して厚さ1.27mmになるまで該シートの表面バフ処理をし、厚み精度を整えたシートとした。このバフ処理をしたシートを直径78cmの大きさで打ち抜き、溝加工機(テクノ社製)を用いて表面に溝幅0.25mm、溝ピッチ1.5mm、溝深さ0.45mmの同心円状の溝加工を行って研磨層を作製した。
【0104】
(支持層の作製)
厚さ50μmのPETフィルム(帝人デュポンフィルム社製、テトロンG2、熱寸法変化率:1.7%)の上に発泡ウレタン組成物を塗布し、硬化させてクッション層(比重:0.5、アスカーC硬度:50度、厚さ:0.8mm)を形成して支持層を作製した。
【0105】
(積層研磨パッドの作製)
前記支持層のクッション層上に、結晶性ポリエステル樹脂(東洋紡績(株)社製、バイロンGM420)100重量部、及び1分子中にグリシジル基を2つ以上有するo−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)社製、EOCN4400)5重量部を含むポリエステル系ホットメルト接着剤(融点:142℃、比重:1.22、メルトフローインデックス:21g/10min)からなる接着剤層(厚み100μm)を積層し、赤外ヒーターを用いて接着剤層表面を150℃に加熱して接着剤層を溶融させた。その後、溶融させた接着剤層上にラミネート機を用いて作製した研磨層を積層して積層シートを得て、当該積層シートを50℃のロールの間を通過させて圧着させた。その後、積層シートを研磨層の大きさに裁断した。さらに、支持層のPETフィルム側にラミネート機を使用して感圧式両面テープ(3M社製、442JA)を貼り合わせて積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0106】
実施例2
ロールの温度を50℃から31℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0107】
実施例3
ロールの温度を50℃から98℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0108】
実施例4
研磨層の作製において、ジエチレングリコールジエチルエーテルの配合量を0.8重量部から6.4重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0109】
実施例5
支持層の作製において、テトロンG2の代わりに厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、ルミラーH10、熱寸法変化率:1.3%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0110】
実施例6
支持層の作製において、テトロンG2の代わりに厚さ100μmのPETフィルム(東レ社製、ルミラーHT50、熱寸法変化率:12.6%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0111】
比較例1
研磨層の作製において、ジエチレングリコールジエチルエーテルを配合しなかった以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0112】
比較例2
研磨層の作製において、ジエチレングリコールジエチルエーテルの配合量を0.8重量部から15重量部に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように反っていた。
【0113】
比較例3
ロールの温度を50℃から23℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドはほぼ平坦であった。
【0114】
比較例4
ロールの温度を50℃から130℃に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドは研磨層側が凹状になるように大きく反っていた。
【0115】
比較例5
支持層の作製において、テトロンG2の代わりに厚さ25μmのPENフィルム(帝人デュポンフィルム社製、テオネックスQ51、熱寸法変化率:1.0%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層研磨パッドを作製した。積層研磨パッドはほぼ平坦であった。
【0116】
比較例6
厚さ25μmのPETフィルム(東レ社製、ルミラーHT50、熱寸法変化率:15%)の上に発泡ウレタン組成物を塗布して加熱したところ、PETフィルムが収縮してしまい支持層を作製することができなかった。
【0117】
【表1】
【0118】
実施例1〜6の積層研磨パッドは、適度な反りを有しているため研磨定盤への貼り付け作業性が良好であった。また、初期ドレス処理後、及び長時間ドレス処理後の面内均一性も良好であった。一方、比較例1の積層研磨パッドは、適度な反りを有しているため研磨定盤への貼り付け作業性が良好であったが、研磨層に親水性物質が配合されていないため、初期ドレス処理後の面内均一性が悪く、長時間ドレス処理後にはパッド端部に浮き及び剥離が発生した。比較例2の積層研磨パッドは、適度な反りを有しているため研磨定盤への貼り付け作業性が良好であったが、研磨層に親水性物質が多く含まれているため、研磨層が膨潤して長時間ドレス処理後の面内均一性が悪化した。比較例3及び5の積層研磨パッドは、反りがなくほぼ平坦なものだったため、研磨定盤に貼り付ける際に空気を噛み込んで平坦に貼り付けることができなかった。そのため、突出した部分にドレッサーが過剰に接触して長時間ドレス処理した後に研磨層に破れが生じた。比較例4の積層研磨パッドは、反りが大きすぎるため研磨定盤へ貼り付けることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の積層研磨パッドはレンズ、反射ミラー等の光学材料やシリコンウエハ、ハードディスク用のガラス基板、アルミ基板、及び一般的な金属研磨加工等の高度の表面平坦性を要求される材料の平坦化加工を安定、かつ高い研磨効率で行うことができる。本発明の積層研磨パッドは、特にシリコンウエハ並びにその上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを、さらにこれらの酸化物層や金属層を積層・形成する前に平坦化する工程に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0120】
1:積層研磨パッド
2:研磨定盤
3:研磨剤(スラリー)
4:被研磨材(半導体ウエハ)
5:支持台(ポリシングヘッド)
6、7:回転軸
8:空気
9:研磨層
10:支持層
図1
図2
図3