【実施例】
【0049】
さらに、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0050】
1.魚類用飼料の作製
有機廃棄物から得られたイエバエの蛹又はイエバエ幼虫を用いて魚類用飼料の作製を行った。凍結されたイエバエの蛹をイワタニミルサ(IFM−800DG、岩谷産業株式会社製)又はタイガーミルサ(SKP−C701DE、タイガー魔法瓶株式会社製)で粉砕し、ガーゼに包んで圧搾した。イエバエの蛹を含む飼料原料を混合し、水を加え、飼料原料が均一になるまで撹拌し、乾燥造粒機(MGD−5、アキラ機工株式会社製)を用いて、直径4mm〜5mm、長さ5mm〜10mmのモイストペレット飼料を作製した。造粒の際の摩擦熱により熱処理が施された。
【0051】
また、有機廃棄物から得られたイエバエの幼虫は、煮沸して熱処理(約10分間、約100℃)を施し、天日で乾燥後、上記と同様の方法でモイストペレットの飼料を作製した。
【0052】
2.ハエ蛹を含有する魚類用飼料の効果検証(1)
ハエ蛹を含有する魚類用飼料を作製し、その効果を検証した。魚類用飼料は実施例1、実施例2、比較例1の3種類を作製した。作製した魚類用飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表1に示す。実施例1の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で0.75重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で1.5重量%含有した。実施例2の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で7.5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で15重量%含有した。
【0053】
【表1】
【0054】
試験魚には、魚体重(BW)48.2±0.6g、尾叉長(FL)136.5±0.6mmのマダイの当歳魚を72匹用いた。供与する飼料毎に試験魚を3群(各群24匹)にわけ、該当する飼料のみを与え、試験魚に与える効果を解析した。飼料は1日2回の頻度で飽食量まで与えた。飼育水温は17.0℃〜23.0℃、平均水温は20.0℃であった。
【0055】
2.1 免疫活性化効果の解析
マダイに対する飼料の免疫活性化効果を、白血球貪食能を指標として測定した。飼育10日目のマダイに2%のプロテーオースペプトンを腹腔内に投与し、96時間飼育後、腹腔内に浸出した好中球を回収した。貪食能の測定は、貪食の対象として蛍光ラテックスビーズ(3μm)を用い、ビーズを加えた培養液で好中球を1時間培養し、ラテックスビーズを取り込んだ好中球の割合(貪食率)及び好中球1細胞あたりのラテックスビーズの取り込み数(貪食ビーズ数)を評価した。
【0056】
図1に示すように、実施例1及び実施例2の飼料を供与した群は、比較例1の飼料を供与した群に対して貪食率が有意に高かった。また、
図2に示すように、1細胞あたりの貪食ビーズ数は、イエバエ蛹の含有量依存的に増加した。イエバエ蛹を7.5重量%含む実施例2を供与した群では、2.75個/Cellであり、比較例1を供与した群(2.07個/Cell)に比して非常に高い値を示した。
図3は顕微鏡写真を示す。比較例1の図面上の矢印に示すように、比較例1の飼料を供与したマダイの好中球はラテックスビーズを取り込んでおらず、好中球の核のみが染色された。一方、実施例2の飼料を供与したマダイの好中球は、図面上の矢印に示すように、複数のラテックスビーズを取り込んでいることが観察された。
【0057】
2.2 成長促進効果の解析
35日間の飼育後に、マダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定し、試験開始前との差から成長量を算出した。BWの成長量を
図4に示す。比較例1の飼料を供与した群は5.6g成長、その成長率は13.6%であったのに対し、実施例2の飼料を供与した群は16.7g成長、成長率は34%を示した。一方、FLの成長量を
図5に示す。比較例1の飼料を供与した群は3.6mm成長、成長率は2.76%であったのに対し、実施例2の飼料を供与した群は12.1mm成長、成長率は13.6%を示した。以上のように、ハエ蛹を含有する飼料は、魚類の免疫力を活性化し、さらに成長を著しく促進させることが明らかとなった。
【0058】
2.3 摂食増進効果及び増肉係数の解析
さらに、飼育期間中の1個体あたりの飼料摂取量及び増肉係数を表2に示す。実施例1及び実施例2の飼料の摂食量は、比較例1の飼料の摂食量よりも高いため、魚類が盛んに摂食することがわかった。また、増肉係数(養殖魚が1kg体重を増加させるのに必要な飼料の量(kg))は、比較例1の飼料を供与した群が5.27であったのに対し、実施例1の飼料が2.59、実施例2の飼料が2.69であった。したがって、本発明の飼料は魚類を効率的に成長させることが明らかとなった。
【0059】
【表2】
【0060】
3.ハエ蛹を含有する魚類用飼料の効果検証(2)
さらに、ハエ蛹を含有する魚類用飼料を作製し、その効果を検証した。魚類用飼料は実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、比較例1の5種類を用いた。作製した飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表3に示す。実施例3の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で0.05重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で0.1重量%含有した。実施例4の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で0.5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で1重量%含有した。実施例5及び実施例6の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で10重量%含有した。
【0061】
【表3】
【0062】
なお、実施例6は高温高圧処理を施したイエバエ蛹を用いた。凍結したイエバエ蛹を、オートクレーブを用いて2気圧(約0.2MPa)、121℃、20分間の高温高圧処理を行い、1.の記載と同様の方法で粉砕し、圧搾し、他の飼料原料と混合して魚類用飼料を作製した。
【0063】
試験魚には、平均魚体重(BW)45.2±2.23g、平均尾叉長(FL)133.6±2.70mmのマダイの当歳魚を105匹用いた。供与する飼料毎に試験魚を5群(各群21匹)にわけ、該当する飼料のみを与え、試験魚に与える効果を解析した。飼料は1日2回の頻度で飽食量まで与えた。飼育水温は23.6℃〜28.5℃、平均水温は25.8℃であった。
【0064】
3.1 免疫活性化効果の解析
マダイに対する飼料の免疫活性化効果を、白血球貪食能を指標として測定した。各群7匹のマダイを用いて、2.1と同様の方法で、好中球1細胞あたりのラテックスビーズの取り込み数(貪食ビーズ数)を評価した。
【0065】
図6に示すように、実施例3〜実施例6の飼料を供与した群(0.52個/Cell〜0.92個/Cell)では、比較例1の飼料を供与した群(0.37個/Cell)に比して非常に高い値を示した。
【0066】
3.2 成長促進効果の解析
各群14匹のマダイを用いて、飼育開始後23日目及び35日目に、マダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定し、試験開始前との差から成長量を測定した。BWの23日目の成長量を
図7に、35日目の成長量を
図8に、尾叉長の23日目の成長量を
図9に、尾叉長の35日目の成長量を
図10にそれぞれ示す。いずれの場合においても、本発明の飼料を供与したマダイは、比較例の飼料を供与したマダイに比べて成長が優れることが明らかとなった。なかでも、高温高圧処理したイエバエ蛹を含有する実施例6の飼料の効果が最も優れることが明らかとなった。
【0067】
3.3 摂食増進効果及び増肉係数の解析
さらに、飼育23日目での1個体あたりの飼料摂取量、体重増加量及び増肉係数(養殖魚が1kg体重を増加させるのに必要な飼料の量(kg))を表4に示す。本発明の飼料の摂食量は、比較例の飼料の摂食量よりも高いため、魚類が盛んに摂食することがわかった。また、増肉係数は、実施例3〜実施例6の飼料が比較例1の飼料よりも低いため、本発明の飼料は魚類を効率的に成長させることがわかった。また、高温高圧処理したイエバエ蛹を含有する実施例6の飼料の摂食量が最も高いことが明らかとなった。
【0068】
【表4】
【0069】
4.ハエ蛹を含有する魚類用飼料の効果検証(3)
さらに、海面生簀での長期飼育における本発明の魚類用飼料の効果を検証した。魚類用飼料は実施例7、比較例1の2種類を作製した。作製した飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表5に示す。実施例7の飼料は、オートクレーブを用いて高温高圧処理(2気圧(約0.2MPa)、121℃、20分)したイエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で1重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で2重量%含有する。
【0070】
【表5】
【0071】
試験魚には、平均魚体重(BW)130.7±2.59g、平均尾叉長(FL)45.0±1.25mmの、各群500匹のマダイを用い、それぞれ4m×4m×4mの海面生簀で飼育し、1日1回〜2回の頻度で飽食量まで飼料を与えた。
【0072】
4.1 成長促進効果の解析
8月に飼育を開始し、10月から1月毎にマダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定した。BWの推移を
図11に、FLの推移を
図12に示す。実施例7の飼料による魚類の成長促進効果は、11月〜1月の寒冷期に顕著にみられた。
【0073】
4.2 飼料の摂食度の評価
マダイによる本発明の飼料の摂食度を評価した。マダイに供与した場合に、非常によく食べる(◎)、よく食べる(○)、普通に食べる(△)、あまり食べない(×)の4段階で評価した。
【0074】
評価の結果を表6に示す。実施例7の飼料は、比較例1の飼料に比べてマダイが非常によく食べるため摂食度が高いことが明らかとなった。
【0075】
【表6】
【0076】
5.ハエ幼虫を含有する魚類用飼料の効果検証
さらに、ハエ幼虫を含有する魚類用飼料を作製し、その効果を検証した。イエバエ幼虫は有機廃棄物から得られたものを煮沸による熱処理(約10分間、約100℃)施し、天日で乾燥したものを用いた。飼料は実施例8、実施例9、実施例10、比較例1の4種類を作製した。作製した飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表7に示す。実施例8の飼料は、イエバエ幼虫を飼料原料全体に対して乾燥重量で5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で10重量%含有する。実施例9の飼料は、イエバエ幼虫を飼料原料全体に対して乾燥重量で25重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で50重量%含有する。実施例10の飼料は、イエバエ幼虫を飼料原料全体に対して乾燥重量で50重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で100重量%含有する。
【0077】
【表7】
【0078】
試験魚には、魚体重(BW)21.5±2.3g、尾叉長(FL)100.3±2.8mmのマダイの当歳魚を96匹用いた。供与する飼料毎に試験魚を4群(各群24匹)にわけ、該当する飼料のみを与え、試験魚に与える効果を解析した。飼料は1日2回の頻度で飽食量まで与えた。飼育水温は15.5℃〜19.2℃であった。
【0079】
5.1 免疫活性化効果の解析
マダイに対する免疫活性化効果を、白血球貪食能で測定した。飼育10日目のマダイに、2%のプロテーオースペプトンを腹腔内に投与し、96時間飼育後、腹腔内に浸出した好中球を回収した。蛍光ラテックスビーズを加えた培養液を用い、好中球を25℃で1時間培養した。蛍光ラテックスビーズを取り込んだ好中球の割合(貪食率)及び好中球1細胞あたりのラテックスビーズの取り込み数(貪食ビーズ数)を評価した。
【0080】
図13及び
図14に示すように、実施例8〜実施例10を供与した群は、比較例1に対して、貪食率及び貪食ビーズ数が高い傾向がみられた。
【0081】
5.2 成長促進効果の解析
40日間の飼育後に、マダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定し、試験開始前との差から成長率を算出した。
図15、
図16に示すように、実施例8を供与した群及び実施例9を供与した群でBW・FLは高い値を示す傾向が認められた。また、増肉係数は、比較例1を供与した群では6.37であったが、実施例8では4.73、実施例9では4.51であり、本発明の飼料を摂食した魚類は効率的に成長することが示された。