特許第5759895号(P5759895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人愛媛大学の特許一覧 ▶ アビオス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000009
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000010
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000011
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000012
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000013
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000014
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000015
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000016
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000017
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000018
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000019
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000020
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000021
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000022
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000023
  • 特許5759895-魚類用飼料 図000024
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759895
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】魚類用飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 1/18 20060101AFI20150716BHJP
   A23K 1/16 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   A23K1/18 102A
   A23K1/16 304A
【請求項の数】5
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2011-522868(P2011-522868)
(86)(22)【出願日】2010年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2010062055
(87)【国際公開番号】WO2011007867
(87)【国際公開日】20110120
【審査請求日】2013年7月12日
(31)【優先権主張番号】特願2009-167364(P2009-167364)
(32)【優先日】2009年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-41478(P2010-41478)
(32)【優先日】2010年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】507142410
【氏名又は名称】アビオス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100158366
【弁理士】
【氏名又は名称】井戸 篤史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 猛
(72)【発明者】
【氏名】三浦 智恵美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 克敏
(72)【発明者】
【氏名】串間 充崇
【審査官】 上田 泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−210071(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 1/00 − 3/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧処理したハエ蛹又は高温高圧処理したハエ幼虫を含有し、
前記高温高圧処理の温度が80℃〜200℃であり、前記高温高圧処理の圧力が0.15MPa〜50MPaである、
魚類用飼
【請求項2】
前記ハエ蛹又は前記ハエ幼虫を、飼料原料全体に対して乾燥重量で0.5重量%〜25重量%含有する請求項1に記載の魚類用飼
【請求項3】
前記ハエ蛹又は前記ハエ幼虫を、飼料に含まれる動物性原料に対して乾燥重量で1重量%〜50重量%含有する
請求項1又は2に記載の魚類用飼
【請求項4】
前記ハエ蛹を、飼料原料全体に対して乾燥重量で0.5重量%〜7.5重量%含有する請求項1に記載の魚類用飼
【請求項5】
前記ハエ蛹を、飼料に含まれる動物性原料に対して乾燥重量で1重量%〜15重量%含有する請求項1に記載の魚類用飼
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハエ蛹又はハエ幼虫を含有する魚類用飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、魚類の養殖や飼育のための飼料に含有される動物性原料としては、カタクチイワシ等を原料とする魚粉が多く用いられてきた。我が国は、流通する魚粉のほとんどを輸入に頼っているため、魚粉の価格は非常に不安定である。近年、燃料高や漁獲量減少により魚粉の値段が高騰し、養殖業者や畜産業者の経営を圧迫している。そこで、魚粉の代替となる飼料原料の研究開発が盛んに行われている。
【0003】
魚粉の代替として、大豆粕を用いた飼料が開示されている。大豆粕と動物性タンパク質源とを併用した飼料(特許文献1)、大豆粕に酵母を配合した飼料(特許文献2)、大麦及び大豆粕を混合して成形するペレット状配合飼料(特許文献3)などが開発されている。しかしながら、大豆もそのほとんどを輸入に頼っているため、安定した供給を確保することは難しい。
【0004】
一方、昆虫類の幼虫や蛹は、従来から魚の餌として用いられており、魚粉を代替するタンパク質源として期待されている。なかでも、ハエを利用して、廃棄物処理と飼料生産を同時に行う技術に注目が集まっている。焼酎粕を含む混合物をイエバエ幼虫で処理する方法、固形の食品廃棄物と家畜糞尿を含む培地をイエバエで処理する方法が開示され、これらの方法で得られたイエバエの幼虫を含んだ飼料についても記載されている(特許文献4及び特許文献5)。また、特許文献6には、植物性粕汁をショウジョウバエやイエバエを用いて分解させ、動物性資源を得る方法が記載されており、その中で、イエバエ幼虫が養殖魚の飼料として利用することが可能であると言及されている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−076291号公報
【特許文献2】特開2002−125600号公報
【特許文献3】特開2004−321170号公報
【特許文献4】特許第3533466号公報
【特許文献5】特開平10−215785号公報
【特許文献6】特許第3564457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の魚粉代替飼料は、魚類の摂食度や、摂食した魚類の成長性の面で魚粉を用いた飼料に劣るという問題があった。したがって、魚粉と同等又はそれ以上の効果を有する飼料原料の開発が求められていた。
【0007】
魚類の養殖や飼育にかかる経費の大部分は飼料代に充てられている。飼料の供与量を減らせば、飼料コストを削減することができるが、魚類の成長が不十分となる可能性がある。したがって、飼料供与量を減らしても、魚類の成長を妨げることなく効率的に養殖魚を成長させる飼料の開発が求められていた。
【0008】
また、魚類はさまざまな病気に罹るため、死魚が大量に発生する。養殖業者は死魚の発生による損失を抱えると同時に、死魚の処理コストを負担しなければならない。そこで、安価かつ容易に病気を予防・治療することが課題となっていた。
【0009】
上記の文献では、イエバエ幼虫を飼料として利用することが可能であると言及されているが、イエバエ幼虫を利用した飼料についての記載は具体性を欠いており、イエバエ幼虫を含有する飼料を利用することができるか否かは明白ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ハエ蛹又はハエ幼虫を含有する魚類用飼料である。本発明の飼料は、魚粉を用いた飼料と比較して魚類の摂食度が極めて高い。また、本発明の飼料を摂食した魚類の成長が促進され、さらに免疫が活性化される。
【0011】
また、本発明の飼料に含有されるハエ蛹又はハエ幼虫は、熱処理したハエ蛹又はハエ幼虫であってもよい。従来の動物性原料は、熱処理によって成長性等の効果が低くなるものが多く知られていた。しかし、本発明の飼料に含有されるハエ蛹又はハエ幼虫は、熱処理により上記の効果が損なわれないだけでなく、上記の効果が向上することが見出された。したがって、本発明に熱処理したハエ蛹又は熱処理したハエ幼虫を用いることで、上記の効果を高めた飼料とすることができる。
【0012】
また、本発明の飼料における熱処理は高温高圧処理であってもよい。従来の動物性原料は、高温高圧処理によって成長性等の効果が低くなるものが多く知られていた。しかし、本発明の飼料に含有されるハエ蛹又はハエ幼虫は、高温高圧処理により上記の効果が損なわれないだけでなく、上記の効果が向上することが見出された。したがって、本発明に高温高圧処理したハエ蛹又は高温高圧処理したハエ幼虫を用いることで、上記の効果を高めた飼料とすることができる。
【0013】
本発明の飼料は、ハエ蛹又はハエ幼虫を、飼料原料全体に対して乾燥重量で約0.05重量%〜約50重量%含有するものでもよく、さらに、飼料原料全体に対して乾燥重量で約0.5重量%〜約25重量%含有するものでもよい。上記の範囲でハエ蛹又はハエ幼虫を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【0014】
また、本発明の飼料は、ハエ蛹又はハエ幼虫を、飼料に含まれる動物性原料に対して乾燥重量で約0.1重量%〜約100重量%含有するものでもよく、さらに、飼料に含まれる動物性原料に対して乾燥重量で約1重量%〜約50重量%含有するものでもよい。上記の範囲でハエ蛹又はハエ幼虫を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【0015】
また、本発明の飼料は、ハエ蛹を、飼料原料全体に対して乾燥重量で約0.5重量%〜約7.5重量%含有するものでもよく、ハエ蛹を、飼料原料全体に対して乾燥重量で約1重量%〜約15重量%含有するものでもよい。上記の範囲でハエ蛹を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【0016】
また、本発明の飼料は、ハエ幼虫を、飼料原料全体に対して乾燥重量で約5重量%〜約50重量%含有するものでもよく、ハエ幼虫を、飼料に含まれる動物性原料に対して乾燥重量で約10重量%〜約100重量%含有するものでもよい。上記の範囲でハエ幼虫を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の飼料は、従来飼料と比較して魚類の摂食度が高く、本発明の飼料を摂食した魚類の成長が促進される。また、増肉係数(魚類の体重を1kg増やすために必要な飼料の量(kg))は従来飼料に比べて著しく低く、魚類を効率的に成長させることができる。特に、本発明の飼料は、魚粉を用いた飼料よりもこれらの効果が高い点が重要である。
【0018】
また、本発明の飼料は、摂食した魚類の免疫を活性化する効果をも有する。本発明の飼料を用いることにより、魚類が健康になり、死魚の発生件数が少なくなると考えられる。
【0019】
また、ハエ幼虫又はハエ蛹は有機廃棄物から生産され、またその生産方法は非常に容易である。したがって、本発明の飼料は、低価格で安定して供給することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の飼料を摂食したマダイの好中球の貪食率を示す。
図2】本発明の飼料を摂食したマダイの好中球の1細胞当たりの貪食ビーズ数を示す。
図3】本発明の飼料を摂食したマダイの好中球の顕微鏡写真を示す。
図4】本発明の飼料を摂食したマダイの体重成長量を示す。
図5】本発明の飼料を摂食したマダイの尾叉長成長量を示す。
図6】本発明の飼料を摂食したマダイの好中球の1細胞当たりの貪食ビーズ数を示す。
図7】本発明の飼料を摂食したマダイの体重成長量(飼育23日目)を示す。
図8】本発明の飼料を摂食したマダイの体重成長量(飼育35日目)を示す。
図9】本発明の飼料を摂食したマダイの尾叉長成長量(飼育23日目)を示す。
図10】本発明の飼料を摂食したマダイの尾叉長成長量(飼育35日目)を示す。
図11】海面生簀での長期飼育における本発明の飼料を摂食したマダイの体重推移を示す。
図12】海面生簀での長期飼育における本発明の飼料を摂食したマダイの尾叉長推移を示す。
図13】本発明の飼料を摂食したマダイの好中球の貪食率を示す。
図14】本発明の飼料を摂食したマダイの好中球の1細胞当たりの貪食ビーズ数を示す。
図15】本発明の飼料を摂食したマダイの体重成長量を示す。
図16】本発明の飼料を摂食したマダイの尾叉長成長量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の飼料の実施形態を説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0022】
本発明の飼料は、ハエ蛹及び/又はハエ幼虫を含有する飼料である。本発明の飼料は魚類の摂食度が高い、摂取した魚類の成長を促進し、免疫を活性化させる等の効果を有する。ハエは幼虫から蛹の時期に細菌やウイルスの多い環境で生育するため、ハエの免疫機能は非常に発達している。したがって、ハエ幼虫及び蛹には魚類にとって有効な成分が含まれていると考えられる。
【0023】
ハエとはハエ目(双翅目)に属する昆虫をいい、卵・幼虫・蛹・成虫と形態を変化させて成長する。イエバエ科、ヒメイエバエ科、フンバエ科、ハナバエ科、ニクバエ科、クロバエ科、ショウジョウバエ科等の科があり、イエバエ、ヒメフンバエ、オオクロバエ、キンバエ、センチニクバエ、キイロショウジョウバエ等の種がある。
【0024】
本発明では、ハエとして、イエバエ科に属するイエバエ(学名:Musca domestica)を用いることが好ましい。イエバエは世界中に分布している。イエバエは生育が速く、簡易な設備で生産することができるため、大量生産に適している。
【0025】
本発明の飼料に含有されるハエ蛹又はハエ幼虫は、以下に示す方法によって生産することができる。まず、ハエが好んで成育する有機物を含む培地にイエバエの卵を接種する。生産中の環境は、温度を25℃〜40℃、湿度を20%〜90%に維持するのが好ましい。ハエは、卵を接種してから1日〜2日後に孵化して幼虫となる。ハエの幼虫は、孵化してから3日〜5日後に培地から這い出る性質を持つ。したがって、ハエが這い出る場所に回収容器を設置すると、ハエが自ら回収容器内へ移動するため、容易に回収することができる。回収容器に移動したハエは、移動後1〜2日で蛹化する。
【0026】
本発明の飼料は、ハエ蛹又はハエ幼虫に加えて、魚粉、肉粉、肉骨粉、オキアミミール、イカミール等の動物性原料;小麦、大豆粕、油粕、酒粕、米糠、澱粉等の植物性原料;その他の原料として酵母、海藻粉末、ビタミン、ミネラル、アミノ酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMC)等を飼料原料として含有し得る。
【0027】
本発明の飼料は、ハエ蛹及び/又はハエ幼虫を、飼料原料全体に対して、乾燥重量で、好ましくは約0.05重量%〜約50重量%、より好ましくは約0.5重量%〜約25重量%含有し得る。上記の範囲でハエ蛹及び/又はハエ幼虫を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【0028】
本発明の飼料は、さらに好ましくは、ハエ蛹を、飼料原料全体に対して、乾燥重量で、約0.5重量%〜約7.5重量%含有し得る。また、ハエ幼虫を、飼料原料全体に対して、乾燥重量で、約5重量%〜約50重量%含有し得る。上記の範囲でハエ蛹又はハエ幼虫を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【0029】
また、ハエ蛹及び/又はハエ幼虫は動物性原料として飼料に含有され得る。従来飼料に含有される動物性原料の全部又は一部をハエ蛹又はハエ幼虫に置き換えることで、摂食した魚類の成長率に何ら悪影響を及ぼさないだけでなく、上述したような効果を有する。したがって、ハエ蛹又はハエ幼虫が他の動物性原料の全部又は一部を代替することが可能であるといえる。
【0030】
本発明の飼料は、ハエ蛹及び/又はハエ幼虫を、動物性原料全体に対して、乾燥重量で、好ましくは約0.1重量%〜約100重量%、より好ましくは約1重量%〜約50重量%含有し得る。上記の範囲でハエ蛹及び/又はハエ幼虫を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【0031】
さらに好ましくは、本発明の飼料は、ハエ蛹を、動物性原料全体に対して、乾燥重量で、約1重量%〜約15重量%含有し得る。また、ハエ幼虫を、飼料原料全体に対して、乾燥重量で、約10重量%〜約100重量%含有し得る。上記の範囲でハエ蛹又はハエ幼虫を含有することで、本発明の飼料の効果を高めることができる。
【0032】
したがって、本発明によれば、ハエ蛹及び/又はハエ幼虫を用いて、乾燥重量で、約0.05重量%〜約100重量%、好ましくは約1重量%〜約50重量%の魚粉代替が可能である。
【0033】
ハエ蛹又はハエ幼虫は人工的に生産することが可能であり、自然環境への負担を軽減した飼料を開発することができる。特に、多くの飼料に含有される魚粉は、自然魚を捕獲して生産されるため、自然魚の乱獲が問題となっており、魚粉の代替原料が求められていた。
【0034】
例えば、魚粉代替率50重量%とは、従来の飼料が含有する魚粉のうち重量換算で半分を別の原料で置き換えることをいう。魚粉代替率100重量%とは、従来の飼料が含有する魚粉の全てを別の原料で置き換えることをいう。
【0035】
また、本発明の飼料は、熱処理したハエ蛹又はハエ幼虫を含有してもよい。本発明の飼料に含有されるハエ蛹又はハエ幼虫は、熱処理により上記の効果が損なわれないだけでなく、上記の効果が向上することが見出された。したがって、本発明に熱処理したハエ蛹又は熱処理したハエ幼虫を用いることで、上記の効果を高めた飼料とすることができる。
【0036】
さらに、本発明の飼料は、高温高圧処理したハエ蛹又はハエ幼虫を含有してもよい。本発明の飼料に含有されるハエ蛹又はハエ幼虫は、高温高圧処理により上記の効果が損なわれないだけでなく、上記の効果が向上することが見出された。したがって、本発明に高温高圧処理したハエ蛹又は高温高圧処理したハエ幼虫を用いることで、上記の効果を高めた飼料とすることができる。
【0037】
熱処理や高温高圧処理は、ハエ蛹又はハエ幼虫に対して単独で行ってもよく、ハエ蛹又はハエ幼虫と他の飼料原料とに対して同時に行ってもよい。
【0038】
熱処理とは、煮沸処理、乾熱処理、湿熱処理、摩擦熱処理等の高温での処理を意味し、高温高圧処理を含む。熱処理の温度や時間等の条件は限定されないが、例えば、熱処理の温度は、約40℃〜約300℃であり、好ましくは約80℃〜約200℃であり、さらに好ましくは約100℃〜約130℃である。また、例えば、熱処理の時間は、約5秒〜約1時間である。
【0039】
高温高圧処理とは、高温且つ高圧の条件化で処理することを意味し、オートクレーブやエクストルーダによる処理を含む。高温高圧処理の温度や時間、圧力等の条件は限定されないが、例えば、高温高圧処理の温度は、約40℃〜約300℃であり、好ましくは約80℃〜約200℃であり、さらに好ましくは約100℃〜約120℃である。また、例えば、高温高圧処理の時間は、約5秒〜約1時間である。また、高温高圧処理の圧力は、大気圧より高ければよく、例えば0.15MPa〜50MPaである。
【0040】
エクストルーダによる処理は、1軸型又は多軸のスクリュを備えるエクストルーダを用いることができる。飼料原料は、エクストルーダ内でスクリュによって混練され、高温高圧処理を施され、ダイから押し出される。エクストルーダのスクリュの回転数は限定されないが、例えば20rpm〜200rpmである。
【0041】
本発明に用いるハエ蛹又はハエ幼虫は、上記の処理の他にも、例えば粉砕処理、粉末化処理、乾燥処理等の処理を行ったものでもよい。
【0042】
本発明の飼料は、飼料原料を成型して固形飼料とすることができる。固形飼料としては、例えばモイストペレット、エクストルーデッドペレット等を挙げることができる。
【0043】
モイストペレットは海中で離散しにくい、魚の接餌率が高い、安定した品質で製造できる、等の利点がある。また、エクストルーデッドペレットは、エクストルーダにより高温高圧処理を施されて成型された飼料である。エクストルーデッドペレットは、モイストペレットの利点に加え、さらに飼料の耐水性が高い、摂食した魚類の消化吸収性が高い、という特徴を有する。
【0044】
モイストペレットは、モイストペレット用の造粒機によって成型される。また、エクストルーデッドペレットは、上述のようにエクストルーダ内で飼料原料が混練され、ダイから押し出されることで成型される。本発明によるペレットの大きさは限定されないが、例えば直径0.1mm〜30mmを、供与する魚種に応じて任意に選択することができる。
【0045】
本発明の飼料は、マダイ、ハマチ(ブリ)、マグロ、ヒラメ、フグ、ウナギ等の食用の魚類の種苗生産や養殖、コイ、キンギョ、熱帯魚等の鑑賞用の魚類の種苗生産や飼育等に用いることができる。
【0046】
本発明の飼料を魚類が摂食することにより、魚類の免疫が活性化し得る。魚類の免疫系は自然免疫と獲得免疫とに分けられ、それぞれさまざまな細胞が働いている。自然免疫では、好中球やマクロファージ等の白血球が、生体内に侵入した病原菌や異物を認識し、飲みこみ破壊する貪食作用を有する。さらに、マクロファージは抗原を提示し、抗原に応じた免疫応答が起きる(獲得免疫)。マクロファージから抗原の提示を受けたヘルパーT細胞は活性化され、B細胞や細胞障害性T細胞を活性化させて増殖を促進させる。B細胞の産出する抗体や、細胞障害性T細胞が異物を攻撃して破壊する。また、異物の侵入に対して、T細胞やB細胞等からインターフェロンが分泌され、免疫反応を刺激する。
【0047】
本発明の飼料を養殖魚に供与することにより、自然免疫で重要な役割を担う好中球の作用が活性化されていることが確認された。上記のとおり自然免疫系や獲得免疫系は複雑に協働しており、インターフェロン等によって免疫系全体が活性化される。したがって、本発明の飼料により、免疫系全体が活性化されると考えられる。
【0048】
また、本発明の飼料は、従来飼料に比べて魚類の摂食度が高く、また摂食した魚類の成長を促進する効果を有する。特に、寒冷期等の厳しい条件化でも魚類の成長を高めることができる点で、従来の飼料と比べて有効である。
【実施例】
【0049】
さらに、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0050】
1.魚類用飼料の作製
有機廃棄物から得られたイエバエの蛹又はイエバエ幼虫を用いて魚類用飼料の作製を行った。凍結されたイエバエの蛹をイワタニミルサ(IFM−800DG、岩谷産業株式会社製)又はタイガーミルサ(SKP−C701DE、タイガー魔法瓶株式会社製)で粉砕し、ガーゼに包んで圧搾した。イエバエの蛹を含む飼料原料を混合し、水を加え、飼料原料が均一になるまで撹拌し、乾燥造粒機(MGD−5、アキラ機工株式会社製)を用いて、直径4mm〜5mm、長さ5mm〜10mmのモイストペレット飼料を作製した。造粒の際の摩擦熱により熱処理が施された。
【0051】
また、有機廃棄物から得られたイエバエの幼虫は、煮沸して熱処理(約10分間、約100℃)を施し、天日で乾燥後、上記と同様の方法でモイストペレットの飼料を作製した。
【0052】
2.ハエ蛹を含有する魚類用飼料の効果検証(1)
ハエ蛹を含有する魚類用飼料を作製し、その効果を検証した。魚類用飼料は実施例1、実施例2、比較例1の3種類を作製した。作製した魚類用飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表1に示す。実施例1の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で0.75重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で1.5重量%含有した。実施例2の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で7.5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で15重量%含有した。
【0053】
【表1】
【0054】
試験魚には、魚体重(BW)48.2±0.6g、尾叉長(FL)136.5±0.6mmのマダイの当歳魚を72匹用いた。供与する飼料毎に試験魚を3群(各群24匹)にわけ、該当する飼料のみを与え、試験魚に与える効果を解析した。飼料は1日2回の頻度で飽食量まで与えた。飼育水温は17.0℃〜23.0℃、平均水温は20.0℃であった。
【0055】
2.1 免疫活性化効果の解析
マダイに対する飼料の免疫活性化効果を、白血球貪食能を指標として測定した。飼育10日目のマダイに2%のプロテーオースペプトンを腹腔内に投与し、96時間飼育後、腹腔内に浸出した好中球を回収した。貪食能の測定は、貪食の対象として蛍光ラテックスビーズ(3μm)を用い、ビーズを加えた培養液で好中球を1時間培養し、ラテックスビーズを取り込んだ好中球の割合(貪食率)及び好中球1細胞あたりのラテックスビーズの取り込み数(貪食ビーズ数)を評価した。
【0056】
図1に示すように、実施例1及び実施例2の飼料を供与した群は、比較例1の飼料を供与した群に対して貪食率が有意に高かった。また、図2に示すように、1細胞あたりの貪食ビーズ数は、イエバエ蛹の含有量依存的に増加した。イエバエ蛹を7.5重量%含む実施例2を供与した群では、2.75個/Cellであり、比較例1を供与した群(2.07個/Cell)に比して非常に高い値を示した。図3は顕微鏡写真を示す。比較例1の図面上の矢印に示すように、比較例1の飼料を供与したマダイの好中球はラテックスビーズを取り込んでおらず、好中球の核のみが染色された。一方、実施例2の飼料を供与したマダイの好中球は、図面上の矢印に示すように、複数のラテックスビーズを取り込んでいることが観察された。
【0057】
2.2 成長促進効果の解析
35日間の飼育後に、マダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定し、試験開始前との差から成長量を算出した。BWの成長量を図4に示す。比較例1の飼料を供与した群は5.6g成長、その成長率は13.6%であったのに対し、実施例2の飼料を供与した群は16.7g成長、成長率は34%を示した。一方、FLの成長量を図5に示す。比較例1の飼料を供与した群は3.6mm成長、成長率は2.76%であったのに対し、実施例2の飼料を供与した群は12.1mm成長、成長率は13.6%を示した。以上のように、ハエ蛹を含有する飼料は、魚類の免疫力を活性化し、さらに成長を著しく促進させることが明らかとなった。
【0058】
2.3 摂食増進効果及び増肉係数の解析
さらに、飼育期間中の1個体あたりの飼料摂取量及び増肉係数を表2に示す。実施例1及び実施例2の飼料の摂食量は、比較例1の飼料の摂食量よりも高いため、魚類が盛んに摂食することがわかった。また、増肉係数(養殖魚が1kg体重を増加させるのに必要な飼料の量(kg))は、比較例1の飼料を供与した群が5.27であったのに対し、実施例1の飼料が2.59、実施例2の飼料が2.69であった。したがって、本発明の飼料は魚類を効率的に成長させることが明らかとなった。
【0059】
【表2】
【0060】
3.ハエ蛹を含有する魚類用飼料の効果検証(2)
さらに、ハエ蛹を含有する魚類用飼料を作製し、その効果を検証した。魚類用飼料は実施例3、実施例4、実施例5、実施例6、比較例1の5種類を用いた。作製した飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表3に示す。実施例3の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で0.05重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で0.1重量%含有した。実施例4の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で0.5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で1重量%含有した。実施例5及び実施例6の飼料は、イエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で10重量%含有した。
【0061】
【表3】
【0062】
なお、実施例6は高温高圧処理を施したイエバエ蛹を用いた。凍結したイエバエ蛹を、オートクレーブを用いて2気圧(約0.2MPa)、121℃、20分間の高温高圧処理を行い、1.の記載と同様の方法で粉砕し、圧搾し、他の飼料原料と混合して魚類用飼料を作製した。
【0063】
試験魚には、平均魚体重(BW)45.2±2.23g、平均尾叉長(FL)133.6±2.70mmのマダイの当歳魚を105匹用いた。供与する飼料毎に試験魚を5群(各群21匹)にわけ、該当する飼料のみを与え、試験魚に与える効果を解析した。飼料は1日2回の頻度で飽食量まで与えた。飼育水温は23.6℃〜28.5℃、平均水温は25.8℃であった。
【0064】
3.1 免疫活性化効果の解析
マダイに対する飼料の免疫活性化効果を、白血球貪食能を指標として測定した。各群7匹のマダイを用いて、2.1と同様の方法で、好中球1細胞あたりのラテックスビーズの取り込み数(貪食ビーズ数)を評価した。
【0065】
図6に示すように、実施例3〜実施例6の飼料を供与した群(0.52個/Cell〜0.92個/Cell)では、比較例1の飼料を供与した群(0.37個/Cell)に比して非常に高い値を示した。
【0066】
3.2 成長促進効果の解析
各群14匹のマダイを用いて、飼育開始後23日目及び35日目に、マダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定し、試験開始前との差から成長量を測定した。BWの23日目の成長量を図7に、35日目の成長量を図8に、尾叉長の23日目の成長量を図9に、尾叉長の35日目の成長量を図10にそれぞれ示す。いずれの場合においても、本発明の飼料を供与したマダイは、比較例の飼料を供与したマダイに比べて成長が優れることが明らかとなった。なかでも、高温高圧処理したイエバエ蛹を含有する実施例6の飼料の効果が最も優れることが明らかとなった。
【0067】
3.3 摂食増進効果及び増肉係数の解析
さらに、飼育23日目での1個体あたりの飼料摂取量、体重増加量及び増肉係数(養殖魚が1kg体重を増加させるのに必要な飼料の量(kg))を表4に示す。本発明の飼料の摂食量は、比較例の飼料の摂食量よりも高いため、魚類が盛んに摂食することがわかった。また、増肉係数は、実施例3〜実施例6の飼料が比較例1の飼料よりも低いため、本発明の飼料は魚類を効率的に成長させることがわかった。また、高温高圧処理したイエバエ蛹を含有する実施例6の飼料の摂食量が最も高いことが明らかとなった。
【0068】
【表4】
【0069】
4.ハエ蛹を含有する魚類用飼料の効果検証(3)
さらに、海面生簀での長期飼育における本発明の魚類用飼料の効果を検証した。魚類用飼料は実施例7、比較例1の2種類を作製した。作製した飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表5に示す。実施例7の飼料は、オートクレーブを用いて高温高圧処理(2気圧(約0.2MPa)、121℃、20分)したイエバエ蛹を飼料原料全体に対して乾燥重量で1重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で2重量%含有する。
【0070】
【表5】
【0071】
試験魚には、平均魚体重(BW)130.7±2.59g、平均尾叉長(FL)45.0±1.25mmの、各群500匹のマダイを用い、それぞれ4m×4m×4mの海面生簀で飼育し、1日1回〜2回の頻度で飽食量まで飼料を与えた。
【0072】
4.1 成長促進効果の解析
8月に飼育を開始し、10月から1月毎にマダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定した。BWの推移を図11に、FLの推移を図12に示す。実施例7の飼料による魚類の成長促進効果は、11月〜1月の寒冷期に顕著にみられた。
【0073】
4.2 飼料の摂食度の評価
マダイによる本発明の飼料の摂食度を評価した。マダイに供与した場合に、非常によく食べる(◎)、よく食べる(○)、普通に食べる(△)、あまり食べない(×)の4段階で評価した。
【0074】
評価の結果を表6に示す。実施例7の飼料は、比較例1の飼料に比べてマダイが非常によく食べるため摂食度が高いことが明らかとなった。
【0075】
【表6】
【0076】
5.ハエ幼虫を含有する魚類用飼料の効果検証
さらに、ハエ幼虫を含有する魚類用飼料を作製し、その効果を検証した。イエバエ幼虫は有機廃棄物から得られたものを煮沸による熱処理(約10分間、約100℃)施し、天日で乾燥したものを用いた。飼料は実施例8、実施例9、実施例10、比較例1の4種類を作製した。作製した飼料の乾燥重量100g当たりの飼料原料の組成を表7に示す。実施例8の飼料は、イエバエ幼虫を飼料原料全体に対して乾燥重量で5重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で10重量%含有する。実施例9の飼料は、イエバエ幼虫を飼料原料全体に対して乾燥重量で25重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で50重量%含有する。実施例10の飼料は、イエバエ幼虫を飼料原料全体に対して乾燥重量で50重量%含有し、動物性原料全体に対して乾燥重量で100重量%含有する。
【0077】
【表7】
【0078】
試験魚には、魚体重(BW)21.5±2.3g、尾叉長(FL)100.3±2.8mmのマダイの当歳魚を96匹用いた。供与する飼料毎に試験魚を4群(各群24匹)にわけ、該当する飼料のみを与え、試験魚に与える効果を解析した。飼料は1日2回の頻度で飽食量まで与えた。飼育水温は15.5℃〜19.2℃であった。
【0079】
5.1 免疫活性化効果の解析
マダイに対する免疫活性化効果を、白血球貪食能で測定した。飼育10日目のマダイに、2%のプロテーオースペプトンを腹腔内に投与し、96時間飼育後、腹腔内に浸出した好中球を回収した。蛍光ラテックスビーズを加えた培養液を用い、好中球を25℃で1時間培養した。蛍光ラテックスビーズを取り込んだ好中球の割合(貪食率)及び好中球1細胞あたりのラテックスビーズの取り込み数(貪食ビーズ数)を評価した。
【0080】
図13及び図14に示すように、実施例8〜実施例10を供与した群は、比較例1に対して、貪食率及び貪食ビーズ数が高い傾向がみられた。
【0081】
5.2 成長促進効果の解析
40日間の飼育後に、マダイの魚体重(BW)及び尾叉長(FL)を測定し、試験開始前との差から成長率を算出した。図15図16に示すように、実施例8を供与した群及び実施例9を供与した群でBW・FLは高い値を示す傾向が認められた。また、増肉係数は、比較例1を供与した群では6.37であったが、実施例8では4.73、実施例9では4.51であり、本発明の飼料を摂食した魚類は効率的に成長することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の飼料は、魚類の養殖や飼育等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16