(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
励磁コイルを有する固定子と、該固定子に同軸で設けられる回転子とを備えて構成され、前記励磁コイルの周囲に生じる磁束の流れに対する前記固定子と回転子との間の磁気抵抗変化を駆動力とするスイッチド・リラクタンス動作を行うDCブラシレスモータであって、
前記固定子は、軸線方向断面における半径分で大略E字状に形成され、
前記励磁コイルは、円環状に形成されて前記E字の2つの凹部にそれぞれ収容され、
前記E字の3段の平行な部分において、上段および下段の部分は周方向に磁極となる複数の突起が形成された鉄芯部材を有し、中段の部分は回転子に近接する円環状に形成された鉄芯部材を有し、
前記回転子は、磁極となる複数の突起が周方向に繰返し形成された鉄芯部材から成り、
前記固定子における上段および下段の鉄芯部材における磁極の数は相互に等しく、かつ磁極位置が周方向に相互にずれて配置されていることを特徴とするDCブラシレスモータ。
前記固定子および回転子の鉄芯部材は、鉄基軟磁性粉末からなる圧紛磁芯、フェライト磁芯、または軟磁性合金粉末を樹脂中に分散させた軟磁性材料から成ることを特徴とする請求項1または2記載のDCブラシレスモータ。
前記回転子が回転起動した後、前記駆動回路は、前記2つの励磁コイルに矩形波電流を流すことで、回転を制御することを特徴とする請求項4記載のDCブラシレスモータの制御方法。
【背景技術】
【0002】
モータは、電力を動力に変換する部品として、自動車、家電や産業用途など、幅広い分野で利用されている。モータは、非回転部分である固定子と、出力軸と共に回転する回転子とを備えて構成され、これら固定子および回転子には、電磁コイルや磁石、鉄心が含まれている。
【0003】
モータは、駆動力を発生する原理や構造によって幾つかの種類に分けられるが、永久磁石を用いたモータはPM(Permanent Magnet)モータと呼ばれ、特に幅広い分野で用いられている。このPMモータは、その回転子に前記永久磁石が設けられており、固定子に設けられた電磁コイルと、前記永久磁石が発する磁束との相互作用によって、回転力を得ている。
【0004】
ところで、モータは動力源であるので、小型化へのニーズは強く、小型化のためにはより強い磁力を発生することが必要である。そのより強い磁力を得るモータには、強い磁束を発する磁石が必要であり、例えば特許文献1には、Nd―Fe−B系の元素を用いた磁石が開発されている。しかしながら、これらの磁石には、Dy(ジスプロシウム:Dysprosium)やNd(ネオジム:Neodymium)などの高価で希少な金属が必要であるという問題点もある。一方、電磁コイルで発生する磁場を大きくすることによっても強い磁力(電磁力)を得ることができ、その手法としては、励磁電流を大きくする、あるいは電磁コイルの巻き数を増やすことが有効である。しかしながら、前者はコイルの断面積、後者は巻き線の空間的な制約があり、自ずと限界がある。
【0005】
そこで近年では、鉄心に圧紛磁芯を用いたモータの開発が進んでいる。前記圧紛磁芯は、軟磁性用粉末の表面に絶縁皮膜を形成した後、圧紛成形と熱処理とによって成形される。ここで、従来から、モータには、電磁鋼板を打抜き、積層した積層磁芯が使用されており、その積層磁芯は積層した方向には磁束を通し難く、板面内方向に磁束を通し易いので、従来のモータには、平面内での磁気回路設計がなされてきた。これに対して上記圧紛磁芯は、軟磁性用粉末を圧粉成形して成るので、磁気特性が等方的であり、三次元的な磁気回路を有するモータの設計を可能にする磁芯材料と言える。また、圧粉磁芯は、圧紛成形における金型形状の変更や成形後の機械加工などによって任意の形状とすることができるので、三次元的な磁気設計によりモータコア形状の多様化を可能にし、扁平型や小型なモータの設計を可能にすることができる。
【0006】
そのような圧粉磁芯を活用し、小型化したモータとして、例えば特許文献2〜4には、三次元磁気回路を用いたクローティース型モータが開示されている。これらの特許文献2〜4によれば、従来、各々のティースにコイルを巻回していたものを、クローポール型の鉄心に円環状のコイルを内装することで、巻線密度の向上、すなわち磁力の向上による小型化を可能にしている。また、圧粉磁芯を使用することで、交流磁界での駆動が可能になり、電気角で相互に120°ずれた3層構造のステータとすることにより、3相交流磁界でのブラシレス駆動をも可能にしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献2〜4には、圧紛磁芯を用いたクローポールモータが開示されている。しかしながら、クローポールモータは、単相の基本構造だけでは回転できないので、複数個積層して三相以上のユニットを構成する必要がある。ところが、三相の場合で、平均的にトルク発生に寄与しているのは最大でも2相分の磁気回路であり、1相分は体積当り出力の観点から無駄である。また、前記クローポールモータでは、回転子側に永久磁石を必要とするので、高コストであるという問題もある。さらにまた、前記クローポールモータでは、温度変化による減磁特性を考慮する必要があり、磁石選定、形状設計、冷却系の設計等において、制約があるという問題もある。
【0009】
本発明の目的は、低コストでスペース効率に優れ、かつ温度変化による影響も少ないDCブラシレスモータおよびその制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のDCブラシレスモータは、励磁コイルを有する固定子と、該固定子に同軸で設けられる回転子とを備えて構成され、前記励磁コイルの周囲に生じる磁束の流れに対する前記固定子と回転子との間の磁気抵抗変化を駆動力とするスイッチド・リラクタンス動作を行うDCブラシレスモータであって、前記固定子は、軸線方向断面における半径分で大略E字状に形成され、前記励磁コイルは、円環状に形成されて前記E字の2つの凹部にそれぞれ収容され、前記E字の3段の平行な部分において、上段および下段の部分は周方向に磁極となる複数の突起が形成された鉄芯部材を有し、中段の部分は回転子に近接する円環状に形成された鉄芯部材を有し、前記回転子は、磁極となる複数の突起が周方向に繰返し形成された鉄芯部材から成り、前記固定子における上段および下段の鉄芯部材における磁極の数は相互に等しく、かつ磁極位置が周方向に相互にずれて配置されていることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、永久磁石を用いないモータとして、従来から、SRモータが用いられている。このSRモータは、回転に伴う磁気抵抗の変化に起因したリラクタンストルクを利用したモータで、駆動回路が、回転子の突極が近付いてきた固定子のコイルに通電を順次切り替えてゆく(switchする)ことで、前記回転子を回転させるものである。したがって、回転子に磁石を使用していないために低コストという利点があり、かつ磁石の熱減磁が問題にならないので、前記のPMモータに比べて、高温での運転が可能という利点もある。
【0012】
しかしながら、このSRモータは、1相では、回転磁界が発生しないので、回転角度によっては静止状態でトルクが得られず、自立起動ができない場合がある。すなわち、SRモータは磁気抵抗変化を駆動力として回転するものであるので、磁気抵抗変化が無い回転角度位置ではトルクを得ることができず、そのため一定速度での回転中ではトルクの無い回転角であっても慣性によって回転することができるが、静止状態でトルクの無い回転角の場合には、起動せず、回らないという問題がある。
【0013】
そこで本発明では、励磁コイルを2層構造とし、固定子の鉄芯部材を、軸線方向断面における半径分で大略E字状に形成し、円環状の前記励磁コイルを前記E字の2つの凹部にそれぞれ収容する。また、前記E字の3段の平行な部分において、上段および下段の部分は、周方向に磁極となる複数の突起を形成し、中段の部分は回転子に近接する円環状に、すなわち回転子への対向面が、前記突起が形成されていない平滑面となるように形成する。したがって、たとえばインナーロータの場合には、外周側の固定子の鉄芯部材は、筒状の外壁から、内周側に3つの辺(リング)を延設した形状を呈する。また、前記回転子は、磁極となる複数の突起が周方向に形成される鉄芯部材から構成する。そして、前記E字の鉄芯部材の上段および下段における磁極の数を相互に等しく形成するものの、上段および下段の磁極位置を、周方向に相互に逆方向にずれて配置する。
【0014】
さらに、制御方法としては、前記2つの励磁コイルの内、駆動回路は、前記回転子を正転方向に起動させる場合は一方の励磁コイルに正符号の電流を流し、逆転方向に起動させる場合は他方の励磁コイルに負符号の電流を流して起動させる。その後、前記回転子が回転起動すると、前記駆動回路は、前記2つの励磁コイルに矩形波電流を流すことで、加速や定常回転など、回転を制御する。
【0015】
したがって、1相では回らないSRモータの起動を可能にするとともに、回転を始めると、2相分の磁気回路は常にトルクの発生に寄与しているので、スペース効率(大きさ当りの出力)を高めることができる。さらにまた、SRモータは、前述のように回転子と固定子との磁気抵抗変化を駆動力として、磁石を必要とせず、ロータの回転に必要なトルクが得られることから、該SRモータは、産業用および民生用に必須な動力源であるDCブラシレスモータにおいて、希土類磁石など希少金属を節約する効果がある。
【0016】
ところで、前記E字の鉄芯部材の中段にも突起を設け、その中段の突起に対して、上下段の突起が±βだけ位相がずれて形成される場合は、各段において凸極同士が対向する位相が異なることから、上段−中段、および下段−中段で構成される磁気回路において、インダクタンスの最大値のピーク、および最小値の谷間が尖鋭でなくなって(鈍って)しまう。ここで、SRモータでは、この稜線の傾きがトルク生成に寄与することから、前記E字の鉄芯部材の中段にも突起を設ける場合、トルクを損することになる。一方、本発明のように中段の凹凸を無くして平滑にすれば、上段側および下段側の双方の磁気回路のインダクタンスは、凸極の回転子への対向面積にのみ依存することになって、最大値ピーク、最小値谷間は尖鋭になり、結果として、大きなトルクが得られることになる。
【0017】
また、本発明のDCブラシレスモータでは、前記励磁コイルは、帯状の導体部材が、その幅方向が該励磁コイルの回転軸方向に沿うように巻回されて成ることを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、固定子の磁芯内を流れる磁束に対して、渦電流の原因となる導体部材で直交する面は、帯の厚みに相当する幅だけであり、前記渦電流を抑制し、発熱を抑えることができる。しかも帯状の導体部材は、隙間無く巻回できるので、円柱状の素線を巻回する場合に比べて、電流密度を大きくすることができるとともに、導体部材内部からの放熱も良好である。
【0019】
さらにまた、本発明のDCブラシレスモータでは、前記固定子および回転子の鉄芯部材は、鉄基軟磁性粉末からなる圧紛磁芯、フェライト磁芯、または軟磁性合金粉末を樹脂中に分散させた軟磁性材料からなることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、固定子および回転子を、最適で複雑な任意形状に成型することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のDCブラシレスモータは、以上のように、励磁コイルを有する固定子と、該固定子に同軸で設けられる回転子とを備えて構成され、SR動作を行なうDCブラシレスモータにおいて、前記固定子の鉄芯部材を、軸線方向断面における半径分で大略E字状に形成して2層構造とし、そのE字の3段の平行な部分において、上段および下段には周方向に磁極となる複数の突起を形成し、中段は回転子に近接する円環状に形成するとともに、前記固定子における上段および下段の鉄芯部材における磁極の数は相互に等しく、かつ磁極位置を相互に逆方向にずれて配置することで起動を可能にする。
【0022】
それゆえ、回転子に磁石を使用していないために低コストであり、かつ磁石の熱減磁の問題も無い。また、2相分の磁気回路は常にトルクの発生に寄与しているので、スペース効率(大きさ当りの出力)を高めることもできる。また、前記E字の鉄芯部材の中段にも突起を設ける場合に比べて、磁気回路のインダクタンスの最大値ピークおよび最小値谷間が鋭くなり、大きなトルクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1)
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。
【0025】
図1は本発明の実施の一形態に係るDCブラシレスモータ1の軸線方向断面図であり、
図2はそのDCブラシレスモータ1の一部を切り欠いて示す斜視図であり、
図3は固定子2の一部を切り欠いて示す斜視図であり、
図4(a)(b)(c)はそのDCブラシレスモータ1のA−A,B−B,C−Cの各切断面における軸直角断面図であり、
図5は固定子2の分解斜視図である。
【0026】
このDCブラシレスモータ1は、大略的に、2つの励磁コイル31,32を有する固定子2と、該固定子2の内部に同軸で設けられるインナーロータの回転子4とを備えて構成され、前記励磁コイル31,32の周囲に生じる磁束の流れに対する前記固定子2と回転子4との間の磁気抵抗変化を駆動力とするSR動作を行なうDCブラシレスモータである。そして、このDCブラシレスモータ1は、前記励磁コイル31,32を2層構造で実現し、以下の構成を採用している。
【0027】
先ず、
図1〜
図3および
図5で示すように、前記固定子2の鉄芯部材20は、軸線Z方向に3つに分割される部材21,22,23から構成されている。そして、この鉄芯部材20は、軸線Z方向の断面における半径分で大略E字状に形成される。すなわち、このようなインナーロータの場合で、外周側の固定子2の鉄芯部材20は、筒状の外壁から、内周側に3つの辺(リング)を延設した形状を呈する。
【0028】
注目すべきは、前記E字の3段の平行な部分211,221,231において、
図4で示すように、上段および下段の部分211,231には、磁極となる複数の突起212,232がそれぞれ周方向に繰返し形成されるのに対して、中段の部分221は、回転子4との間に微小ギャップを有する円環状に形成されていることである。上段の部分211の突起(磁極)212と、下段の部分の突起(磁極)232とは、相互に等しい数で、かつ
図4で示すように、所定の中心線Yに対して、相互に逆方向に等しい角度βだけずれて配置されている。したがって、中段の部分221は、全周が磁極となる。
【0029】
そして、前記E字の2つの凹部24,25に、円環状の前記励磁コイル31,32が、それぞれ収容されている。そのため、上段および下段の部材21,23については、周方向に展開した場合における軸線Z方向の断面が大略L字状に形成され、L字の周壁213,233上が中段の部材22で閉塞されて、前記凹部24,25を形成する。実際の組立ては、上段および下段の部材21,23のL字の部分に励磁コイル31,32を収容し、周壁213,233上に接着剤を塗布した後、各部材21,22,23を組上げることで行われる。或いは、接着に代えて、各部材21,22,23がボルト締めされてもよい。前記励磁コイル31,32は、帯状の導体部材が、その幅方向が該励磁コイル31,32の回転軸Z方向に沿うように巻回されて成る。
【0030】
前記
図6は、このDCブラシレスモータ1の励磁コイル31,32に通電したときの磁束の流れを示す磁界解析結果の図である。上段および下段の部材21,23における突起(磁極)212,232の厚みを1とするとき、中段の部材22の厚みを、(a)は0.6倍としたものであり、(b)は1.5倍としたものであり、(c)は1.9倍としたものである。これらの図で示すように、中段の部材22では、上段および下段の部材21,23の両方からの磁束線が通過するので、磁束線が過密になり、該中段の部材22の厚みが薄くなる程、突起(磁極)212,232や該中段の部材22の先端以外から回転子4の表面に漏れる磁束が多くなっている。このため、該中段の部材22の厚みとしては、上段および下段の部材21,23における突起(磁極)212,232の厚みの1.5倍以上とすることが好ましい。
【0031】
一方、前記回転子4は、
図7でも示すように、磁極となる複数の突起41が周方向に繰返し形成される鉄芯部材40から成る。回転子4の出力軸42は、前記鉄芯部材40に圧入される別体であっても、或いは鉄芯部材40と一体で成型されてもよい。
【0032】
図8は、上記のように構成されるDCブラシレスモータ1の駆動回路5の一例を示す図である。本実施形態では、上述のような2層構造の励磁コイル31,32は、
図1で示すように、相互に逆方向の磁界を発生する必要がある。そして、これらの励磁コイル31,32は、後述するように、加速時および定常回転時には、相互に直列に接続されて、矩形波パルスで駆動される。このため、
図5で示すように励磁コイル31,32が相互に等しく形成される場合(
図5では、上から見て、共に時計回りに巻回されている)、電流の向きを相互に逆方向にする必要があり、一方の励磁コイル(31)の内周端(311)と他方の励磁コイル(32)の外周端(321)とが接続され、一方の励磁コイル(31)の外周端(312)と他方の励磁コイル(32)の内周端(322)とが、それぞれ直流電源51からのライン52,53に接続される。前記ライン52,53の一方(
図8ではハイ側の52)には、通電を制御するスイッチTr0が介在されている。また、前記ライン52,53間には、後述する正逆転の選択スイッチTr1,Tr2が直列に介在されており、それらの接続点54に前記一方の励磁コイル(31)の内周端(311)と他方の励磁コイル(32)の外周端(321)とが接続される。
【0033】
これに対して、2つの励磁コイル31,32の巻回方向が相互に逆方向である場合、内周端(311,322)が前記ライン52,53または接続点54の一方に接続され、外周端(312,321)が前記ライン52,53または接続点54の他方に接続されればよい。
【0034】
図9は、上記のように構成される駆動回路5による駆動方法を説明するための波形図である。
図9(a)は正転駆動の場合を示し、
図9(b)は逆転駆動の場合を示す。この
図9は、上述のように励磁コイル31,32を相互に等しいものとした場合の駆動波形を示す。そして、
図4で示すモータ1のインダクタンス特性は、たとえば
図10のようになる。
図10は、回転に伴うインダクタンスL(θ)の計算結果を半周分示す図である。ただし、
図10では、回転子4および固定子2の上段および下段の部材21,23における磁極数を4とし、回転子4の磁極の周期に対する磁極幅αを50%とし、固定子2では、上下段の突起(磁極)212,232の磁極幅γを同様に50%とし、前記中心線Yに対する上下段の突起(磁極)212,232のずれの角度βを22.5°としている。♯1のグラフは一方の励磁コイル31のインダクタンスを示し、♯2のグラフは他方の励磁コイル32のインダクタンスを示す。
【0035】
この
図10から、2つの励磁コイル31,32の内、回転子4を正転方向に起動させる場合は、
図9(a)で示すように、先ず一方の励磁コイル(31(♯1のグラフ))に正符号の電流を流し、前記回転子4が回転し始めた後は、両方の励磁コイル(31,32(♯1,♯2のグラフ))に、相互に極性が反転した矩形波電流を流すことで、加速や定常回転を行わせられることが理解される。一方、逆転させる場合は、
図9(b)で示すように、起動時に他方の励磁コイル(32(♯2のグラフ))に負符号の電流を流し、前記回転子4が回転し始めた後は、両方の励磁コイル(31,32(♯1,♯2のグラフ))に、相互に極性が反転した矩形波電流を流すことで、加速や定常回転を行わせられることが理解される。したがって、この
図9で示すように、励磁コイル31,32は、相互に逆相の電流で駆動され、擬似的に2相で駆動されることになる。励磁コイル31,32の巻回方向自体が相互に反対である場合は、同相の電流で駆動される。ただし、後述のように、起動の関係で、個別にスイッチング制御される。
【0036】
図8の駆動回路5において、具体的には、回転子4を正転方向に起動させる場合には、該駆動回路5は、選択スイッチTr1はOFFしたままとし、選択スイッチTr2およびスイッチTr0をONして、直流電源51−スイッチTr0−励磁コイル31−選択スイッチTr2−直流電源51の電流経路を形成して起動させた後、選択スイッチTr2をOFFし、直流電源51−スイッチTr0−励磁コイル31−励磁コイル32−直流電源51の電流経路に切換え、スイッチTr0をON/OFFすることで、矩形波電流を与える。これに対して、回転子4を逆転方向に起動させる場合は、該駆動回路5は、選択スイッチTr2はOFFしたままとし、選択スイッチTr1およびスイッチTr0をONして、直流電源51−スイッチTr0−選択スイッチTr1−励磁コイル32−直流電源51の電流経路を形成して起動させた後、選択スイッチTr1をOFFし、直流電源51−スイッチTr0−励磁コイル31−励磁コイル32−直流電源51の電流経路に切換え、スイッチTr0をON/OFFすることで、矩形波電流を与える。
【0037】
好ましくは、
図11で示すように、駆動回路5は、起動側の励磁コイルのみに電流を流した後、加速および定常回転のために両方の励磁コイルに電流パルスを与えるにあたって、(後から電流を流す)追従側の励磁コイルへの電流パルスを、遅れて与えることである。
図11では、駆動回路5は、両方の励磁コイルに与える1発目の電流パルスに、時間差τを設けている。
図11(a)および
図11(b)は、それぞれ
図9(a)および
図9(b)に対応している。前記時間差τは、回転速度が高くなる程小さくなり、また前記突起(磁極)212,232のずれβが大きくなる程大きく設定される。そのような制御は、図示しないエンコーダによる回転子4の回転角度位置の検出結果に応答して、図示しない制御回路によって行われる。このように構成することで、より効率的に加速することができる。
【0038】
なお、起動電流は、
図9や
図11で示すような1発のパルスに限らず、複数発のパルスで構成されてもよく、また可変電圧電流出力が可能な素子を用いる場合には、三角波で出力されてもよい。すなわち、どの位置から起動するか、或いは、負荷の重さなどに応じて、同じ起動パルスや駆動パルスを入力しても、実際にはそれに対する応答が異なるので、
図9や
図11で示す例は、あくまで目安であり、前記制御回路は、前記エンコーダの検出結果に応答して、起動パルス数や駆動パルスの波高値を逐次制御する。
【0039】
以下に、本実施形態のモータ構造で生じるトルク(=吸引力)T・δθ(=N・δθ=F・δx=ΔE)の評価を行う。前記トルクTは、モデル磁気回路から以下のようにして近似計算されるインダクタンスLの、回転子4の回転角θに対する変化率∂L(θ)/∂θに比例する。
【0041】
そして、一般にインダクタンスLは起電力で定義されるので、その起電力Vと幾何寸法との関係は、以下のようになる。なお、SRモータでの起電力は、励磁コイルに一定電流を流し、励磁させた状態で、回転子を回してインダクタンスを変化させると、電流を流さないような逆起電力が生じる現象であり、無電流で回転させて、適切なタイミングで(交流)電流を流すと、SRモータは電磁ブレーキとして使用することができる。
【0043】
ただし、SuおよびSmは、回転子4の突起41と、固定子2の上段の突起(磁極)212および中段の部材22との重なり面積を表し、guおよびgmは、回転子4の突起41と、固定子2の上段の突起(磁極)212および中段の部材22とのギャップを表す。また、Scおよびlcは、(ヨーク)コアの中を貫通する磁束線に対する平均的(実効的)な断面積および経路長さを表し、その(ヨーク)コアの透磁率μは、真空中の透磁率μ
0より充分大きく、(μ/μ
0)・(lc/Sc)は、実質的に0とみなすことができる。こうして、起電力Vは、磁束密度Bと磁束線に対する断面積Sとの時間変化に対応することが理解される。
【0044】
さらに、固定子2と、回転子4との磁極間のギャップgは充分小さく、磁束線は、それら磁極同士の重なりのみを通過するという近似モデルを考える。その時の本モータ構造の等価磁気回路のインダクタンスは、突起(磁極)212,232と回転子4との間の磁気抵抗と、回転子4と中段の部材22との間の磁気抵抗との直列磁気抵抗に反比例することから、次式のような近似見積式が得られる。なお、次式は、固定子2の上段の突起(磁極)212から中段の部材22までの間のインダクタンスであり、下段の突起(磁極)232から中段の部分221までの間のインダクタンスも、同様に求めることができる。
【0046】
すなわち、磁極の重なり面積がインダクタンスLになり、トルクの大小は、そのインダクタンスL(θ)の最大Lmaxと最小Lminとの差ΔLで、凡そその大きさが評価できる。
【0047】
ここで、本実施形態のDCブラシレスモータ1は、前述のように、前記E字の断面において、3段の平行な部分211,221,231の内、
図4で示すように、上段および下段の部分211,231には、磁極となる複数の突起212,232がそれぞれ周方向に繰返し形成されるのに対して、中段の部分221は、回転子4との間に微小ギャップを有する円環状に形成されている。これに対して、比較例として、
図12のDCブラシレスモータ1’で示すように、中段の部分221にも、磁極となる複数の突起222を周方向に繰返し形成される構成を考える。このようなDCブラシレスモータ1’は、たとえば国際公開第2006/126552号の
図84および
図85や、永久磁石モータではあるが、実願昭49−106499号のマイクロフィルムなどに示されている。
【0048】
上述のようなDCブラシレスモータ1’について、
図13は、回転に伴うインダクタンスL(θ)の計算結果を半周分示す図である。このDCブラシレスモータ1’と、本願のDCブラシレスモータ1とは、前記中段の部分221に突起(磁極)222が形成されているか(
図12)、形成されていないか(
図4)が相違するだけである。
【0049】
図10と
図13とを比較すると、
図10の方が、インダクタンス(♯1,♯2のグラフ)の変化が大きいことが理解される。これは、本願のDCブラシレスモータ1は、中段の部分221に突起222が形成されていないために、前記数2および数3におけるギャップgmおよび磁極の重なり面積Smが変化せず、特に磁極の重なり面積Smは、常に比較例のDCブラシレスモータ1’の最大値にあるためである。
【0050】
さらに、
図10の方が、インダクタンス(♯1,♯2のグラフ)の極大値Lmax付近および極小値Lmin付近での変化が激しくなっている。
図12では、特に、○印を付して示す回転角で増(減)変化勾配が小さく、中でも、極小値Lmin付近では、両方のインダクタンス(♯1,♯2のグラフ)の増(減)変化勾配が小さい。したがって、比較例のDCブラシレスモータ1’では、起動トルクが小さい位相角が多く存在し、特に極小値Lmin付近で起動し難いことが予想されるのに対して、本願のDCブラシレスモータ1では、良好な起動性を確保し、始動時の回転を任意方向に起動することもできる。
【0051】
表1には、本実施の形態のDCブラシレスモータ1と、従来技術の各タイプのモータとの比較結果を示す。
【0053】
すなわち、本実施の形態のDCブラシレスモータ1は、永久磁石が不要で、安価な材料で実現できるSRモータの動作で、クローティースモータやクローポールモータのように、コアや巻線構造を簡略化し、低コスト化することができるとともに、磁石の熱減磁が問題にならないので、PMモータに比べて、高温での運転が可能である。
【0054】
しかしながら、このSRモータは、1相では、回転磁界が発生しないので、回転角度によっては静止状態でトルクが得られず、自立起動ができない場合がある。すなわち、SRモータは磁気抵抗変化を駆動力として回転するものであるので、磁気抵抗変化が無い回転角度位置では、トルクを得ることができず、一定速度での回転中ではトルクの無い回転角であっても慣性によって回転することができるが、静止状態でトルクの無い回転角の場合には起動できず、回らないという問題がある。
【0055】
そこで本実施の形態のDCブラシレスモータ1では、励磁コイルを31,32の2層構造とし、固定子2の鉄芯部材20を、周方向に展開した場合における軸線Z方向の断面を大略E字状に形成し、さらにそのE字の3段の平行な部分211,221,231において、上段および下段の部分211,231には磁極となる複数の突起212,232を周方向に繰返し形成する一方、中段の部分221は回転子4との間に微小ギャップを有する円環状に形成し、円環状の前記励磁コイル31,32を前記E字の2つの凹部24,25にそれぞれ収容する。また、前記回転子4は、磁極となる複数の突起41が周方向に繰返し形成される鉄芯部材40から構成する。そして、前記突起(磁極)212,232の数を相互に等しく形成するものの、所定の中心線Yに対して、上段および下段の突起(磁極)212,232の位置を相互に逆方向にずれて配置する。
【0056】
したがって、本実施の形態のDCブラシレスモータ1は、1相では回らないSRモータの起動を可能にするとともに、回転を始めると、2相分の磁気回路は常にトルクの発生に寄与しているので、スペース効率(大きさ当りの出力)を高めることができる。さらにまた、SRモータは前述のように回転子と固定子との磁気抵抗変化を駆動力として、磁石を必要とせず、ロータの回転に必要なトルクが得られることから、本実施の形態のDCブラシレスモータ1は、産業用および民生用に必須な動力源であるDCブラシレスモータにおいて、希土類磁石など希少金属を節約する効果がある。
【0057】
また、本実施の形態のDCブラシレスモータ1では、
図5等で示すように、励磁コイル31,32は、帯状の導体部材が、その幅方向が該励磁コイル31,32の回転軸Z方向に沿うように、フラットワイズに巻回されて成る。ここで、一般的にコイルに通電すると、コイルは導体から構成されているので、
図1や
図6で示す磁力線に、垂直な面(直交面)に渦電流が発生し、それによって損失(ロス)が発生する。その渦電流の大きさは、磁束密度が同一である場合、磁束線と交差する面積、すなわち磁束線に垂直な連続する面の面積に比例する。磁束線は、コイル内では軸方向に沿っているので、渦電流は、コイルを構成する導体の軸Z方向に直交する径方向の面の面積に比例することになる。そこで、本実施の形態のDCブラシレスモータ1では、前記励磁コイル31,32を構成する帯状の導体部材を、幅Wに対する径方向の厚さtの比t/Wが1/10以下に形成することが望ましい。
【0058】
このように構成することで、前記渦電流を抑制し、発熱を抑えることができる。しかも帯状の導体部材は、隙間無く巻回できるので、円柱状の素線を巻回する場合に比べて、電流密度を大きくすることができるとともに、導体部材内部からの放熱も良好である。さらに、前記導体部材の前記厚さtが当該励磁コイル31,32に給電される交流電力における周波数に対する表皮厚み以下であれば、さらに渦電流損を低減することができる。
【0059】
さらに、前記励磁コイル31,32と前記固定子2の凹部24,25との間に生じる間隙には、熱伝導部材が充填されていることが好ましい。このように構成することで、前記励磁コイル31,32で生じる熱を、前記熱伝導部材を介して、該励磁コイル31,32を外囲する鉄芯部材20に効果的に伝導することができ、放熱性を改善することができる。
【0060】
さらにまた、前記回転軸Z方向における該励磁コイル31,32の一方端部に対向する前記固定子2の部分211,231の内面と、他方端部に対向する部分221の内面とは、少なくともそれらの各端部を覆う領域では、平行に形成される。これは、上述のような励磁コイル31,32に係る条件(フラットワイズ巻線構造であって幅Wが厚さtより大きい)を設定しても、励磁コイル31,32の上下両端面を覆う部分211,221,231に傾きがあると、実際に励磁コイル31,32の内部を通る磁束線(磁力線)が、特に前記上下両端面付近で、回転軸Z方向と略平行にならないからである。
【0061】
本件発明者は、部分211,221,231の内壁面の平行度を種々変えつつ磁束線の分布を検証したところ、例えば、前記平行度が1/100の場合には、励磁コイル31,32の内部を通る磁束線が回転軸Z方向に平行になる一方、前記平行度が−1/10や1/10の場合には、励磁コイル31,32の内部を通る磁束線が回転軸Z方向に平行にならない。このような検証の下、励磁コイル31,32の内部を通る磁束線を平行にするためには、前記平行度の絶対値は、1/50以下であることが好ましい。
【0062】
さらにまた、本発明のDCブラシレスモータ1では、前記固定子2および回転子4の鉄芯部材20,40は、鉄基軟磁性粉末からなる圧紛磁芯、フェライト磁芯、または軟磁性合金粉末を樹脂中に分散させた軟磁性材料から成る磁芯で形成する。このように構成することで、前記回転子4および固定子2の2つの磁芯について、最適で複雑な任意形状に成型することができるので、所望の磁気特性を比較的容易に得ることができるとともに、比較的容易に所望の形状に形成することができる。
【0063】
前記軟磁性粉末は、強磁性の金属粉末であり、より具体的には、例えば、純鉄粉、鉄基合金粉末(Fe−Al合金、Fe−Si合金、センダスト、パーマロイ等)およびアモルファス粉末、さらには、表面にリン酸系化成皮膜などの電気絶縁皮膜が形成された鉄粉等が挙げられる。これら軟磁性粉末は、例えば、アトマイズ法等によって微粒子化する方法や、酸化鉄等を微粉砕した後にこれを還元する方法等によって製造することができる。
【0064】
このような軟磁性粉末は、単体或いは前記樹脂などの非磁性体粉末との混合で用いることができ、混合の場合の比率は比較的容易に調整することができ、該混合比率を適宜に調整することによって、該磁芯材の磁気特性を所望の磁気特性に容易に実現することが可能となる。これら固定子2の鉄芯部材20の材料、さらには回転子4の鉄芯部材40の材料も、低コスト化の観点から、同一原料であることが好ましい。
【0065】
(実施の形態2)
図14は本発明の実施の他の形態に係るDCブラシレスモータ1aのケーシングを外して内部構造を示す斜視図であり、
図15はそのDCブラシレスモータ1aの分解斜視図である。注目すべきは、このDCブラシレスモータ1aは、アウターロータであることである。したがって、このDCブラシレスモータ1aでは、固定軸43に対して内周側の固定子2aが固着され、その外周側に回転子4aが設けられる。
図15(a)は固定子2aの分解斜視図であり、
図15(b)は回転子4aの分解斜視図である。このDCブラシレスモータ1aにおいて、前述のDCブラシレスモータ1の構成に、機能的に対応する部分には、同一の参照符号に、添字aを付して示す。これによって、各部の機能の理解が容易になる。
【0066】
すなわち、このDCブラシレスモータ1aでも、前述のDCブラシレスモータ1と同様に、励磁コイル31,32を2層構造とし、固定子2aの鉄芯部材20aを、周方向に展開した場合における軸線Z方向の断面を大略E字状に形成し、さらにそのE字の3段の平行な部分211a,221a,231aにおいて、上段および下段の部分211a,231aには磁極となる複数の突起212a,232aを周方向に繰返し形成し、中段の部分221aは回転子4aとの間に微小ギャップを有する円環状に形成するとともに、円環状の前記励磁コイル31,32を前記E字の2つの凹部にそれぞれ収容する。また、回転子4aは、磁極となる複数の突起41aが周方向に繰返し形成される鉄芯部材40aから構成する。そして、前記E字の上段および下段の部分211a,231aにおける突起(磁極)212a,232aの数を相互に等しく形成するものの、相互に位置をずれて配置する。このように構成することで、前記アウターロータの構造も実現することができる。
【0067】
(実施の形態3)
図16および
図17は、本発明の実施のさらに他の形態に係るDCブラシレスモータ1b,1cの軸直角断面図である。前述のDCブラシレスモータ1では、固定子2側の突起(磁極)212,232および回転子4側の突起(磁極)41は、軸直角断面が円弧状であったけれども、注目すべきは、
図16に示すDCブラシレスモータ1bでは、固定子2b側の上段および下段の突起(磁極)212b,232bおよび回転子4b側の突起(磁極)41bが、ステッピングモータのように、矩形に形成されることである。中段の部分221bは、円環状である。
【0068】
一方、
図17に示すDCブラシレスモータ1cでは、固定子2c側の突起(磁極)212c,232cおよび回転子4c側の突起(磁極)41cが、5極に形成される。この場合、β≦18°である。
図17は、前述の
図4に対応し、(a)(b)(c)の各断面は、
図1のA−A,B−B,C−Cの各切断面の位置である。
【0069】
これらの
図16および
図17で示すように、磁極の数や、形状は任意に選択することができる。
【0070】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ充分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。