特許第5759979号(P5759979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5759979残留モノマー除去装置及びポリビニルアルコール樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5759979
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】残留モノマー除去装置及びポリビニルアルコール樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 6/10 20060101AFI20150716BHJP
   B01D 3/22 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
   C08F6/10
   B01D3/22 Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-505452(P2012-505452)
(86)(22)【出願日】2010年12月6日
(86)【国際出願番号】JP2010071792
(87)【国際公開番号】WO2011114585
(87)【国際公開日】20110922
【審査請求日】2013年9月27日
(31)【優先権主張番号】特願2010-62309(P2010-62309)
(32)【優先日】2010年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173646
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 桂子
(72)【発明者】
【氏名】小塚 隆弘
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−502304(JP,A)
【文献】 特表平09−503702(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第01449278(GB,A)
【文献】 米国特許第03463464(US,A)
【文献】 実開昭52−144242(JP,U)
【文献】 特開2001−233914(JP,A)
【文献】 特開平09−087320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6/10
B01D3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔本体と、
重合液の通流方向に直交する方向にのみ開口する複数のガス噴出部を備えたバルブトレイと、
を少なくとも有し、
前記塔本体内に、前記トレイが多段に配設されていると共に、
前記バルブトレイにおける重合液の通流方向下流側の端部に、外側に5〜45°傾いた状態で液深を確保するための液溜壁が配設された残留モノマー除去装置。
【請求項2】
前記バルブトレイは重合液の通流方向下流側に向かって開口する複数のガス噴出部をさらに備える請求項1に記載の残留モノマー除去装置。
【請求項3】
前記ガス噴出部は、トレイ底面に形成された貫通孔と、該貫通孔上に設けられたアーチ状のカバー部とで構成されており、
前記トレイは、前記ガス噴出部のカバー部の長手方向と、重合液の通流方向とが一致するように配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の残留モノマー除去装置。
【請求項4】
前記ガス噴出部は、トレイ底面に形成された貫通孔と、該貫通孔上に設けられ一方向にのみ開口するカバー部とで構成されており、
前記トレイは、前記ガス噴出部の開口部が重合液の通流方向下流側に向くように配置されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の残留モノマー除去装置。
【請求項5】
ポリビニルアルコールの製造工程で使用されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の残留モノマー除去装置。
【請求項6】
1種若しくは2種以上のビニルエステルを重合するか、又は、ビニルエステルとこれと共重合可能なその他のモノマーとを共重合する重合工程と、
該重合工程により得られた重合液に有機溶剤ガスを接触させて、未反応のモノマーを除去する脱モノマー工程と、
未反応のモノマーを除去した溶液を、前記有機溶剤を含む溶媒中において、アルカリ触媒の存在下で鹸化する鹸化工程と、を少なくとも有し、
前記脱モノマー工程は、塔本体内に、重合液の通流方向に直交する方向にのみ開口する複数のガス噴出部を備えたバルブトレイを多段に配設し、該バルブトレイにおける重合液の通流方向下流側の端部に、外側に5〜45°傾いた状態で液深を確保するための液溜壁が配設された残留モノマー除去装置を使用して、重合液から未反応のモノマーを除去するポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記バルブトレイは重合液の通流方向下流側に向かって開口する複数のガス噴出部をさらに備える請求項6に記載のポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶剤として、メタノールを使用することを特徴とする請求項6又は7に記載のポリビニルアルコール樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、残留モノマー除去装置及びこの装置を使用したポリビニルアルコール樹脂の製造方法に関する。より詳しくは、重合工程により得られた重合液から未反応のモノマーを除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(PVA)は、水溶性の合成樹脂であり、従来は主に合成繊維の原料として使用されていたが、近年、その特徴を生かして、フィルム材料、乳化分散剤、接着剤及びバインダー樹脂など様々な分野で使用されている。このPVA樹脂は、一般に、ビニルエステルを重合し、得られたポリビニルエステルを、有機溶媒中において、触媒の存在下で鹸化することにより製造されている。
【0003】
また、PVA樹脂の製造方法では、通常、重合工程と鹸化工程との間に、重合液から未反応のモノマーを除去する脱モノマー工程が行われる。その方法としては、例えば、棚板を複数段有する脱モノマー塔に、重合工程により得られた重合液を導入すると共に、塔下部よりメタノール蒸気を吹き込み、メタノールと重合液と接触させる方法がある(特許文献1,2参照)。
【0004】
一方、従来、ポリ塩化ビニル系樹脂を製造する際の脱モノマー塔用として、区画壁を設置した多孔板塔も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この特許文献3に記載の脱モノマー塔では、区画壁により重合液の処理流路を形成し、これにより重合液と水蒸気との接触時間を調節している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−293823号公報
【特許文献2】特開2007−245432号公報
【特許文献3】特開平9−48815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の脱モノマー方法には、以下に示す問題点がある。即ち、従来の脱モノマー塔では、棚板として、蒸留塔用のバブルキャップトレイが使用されているが、脱モノマー塔に導入される重合液は、1Pa・sを超える高粘度流体であるため、流動抵抗が大きく、トレイ上で液深差が生じるという問題点がある。更に、各トレイ(棚板)上で重合液の液深に差が生じると、ガスの偏流や重合液の滞留が生じるため、脱モノマー効率が低下する。
【0007】
一方、特許文献3に記載の脱モノマー塔のように、棚板に区画壁を設けて処理流路を形成する方法は、液溜まりができやすい構造であるため、重合液が滞留して流路が閉塞するという問題点がある。
【0008】
そこで、本発明は、トレイ上で有機溶剤ガスの偏流や重合液の滞留が起こりにくく、重合液から効率よく未反応のモノマーを除去することができる残留モノマー除去装置及びポリビニルアルコール樹脂の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る残留モノマー除去装置は、塔本体と、重合液の通流方向に直交する方向にのみ開口する複数のガス噴出部を備えたバルブトレイと、を少なくとも有し、前記塔本体内に、前記トレイが多段に配設されていると共に、前記バルブトレイにおける重合液の通流方向下流側の端部に、外側に5〜45°傾いた状態で液深を確保するための液溜壁が配設されたものである。
本発明においては、特定方向にのみ開口するガス噴出部を備えたバルブトレイを使用しているため、トレイ上でメタノールなどの有機溶剤ガスの偏流や重合液の滞留が起こりにくい。これにより、処理効率が向上し、従来よりも少量の有機溶剤ガスで、従来と同等以上の未反応のモノマーを除去することが可能となる。
前記バルブトレイは重合液の通流方向下流側に向かって開口する複数のガス噴出部をさらに備えていてもよい。
前記ガス噴出部は、トレイ底面に形成された貫通孔と、該貫通孔上に設けられたアーチ状のカバー部とで構成されていてもよく、その場合、前記トレイは、前記ガス噴出部のカバー部の長手方向と、重合液の通流方向とが一致するように配置される。
又は、前記ガス噴出部は、トレイ底面に形成された貫通孔と、該貫通孔上に設けられ一方向にのみ開口するカバー部とで構成されていてもよく、その場合は、前記トレイは、前記ガス噴出部の開口部が重合液の通流方向下流側に向くように配置される
に、この装置は、ポリビニルアルコールの製造工程で使用することができる。
【0010】
本発明に係るポリビニルアルコール樹脂の製造方法は、1種若しくは2種以上のビニルエステルを重合するか、又は、ビニルエステルとこれと共重合可能なその他のモノマーとを共重合する重合工程と、該重合工程により得られた重合液に有機溶剤ガスを接触させて、未反応のモノマーを除去する脱モノマー工程と、未反応のモノマーを除去した溶液を、前記有機溶剤を含む溶媒中において、アルカリ触媒の存在下で鹸化する鹸化工程と、を少なくとも有し、前記脱モノマー工程は、塔本体内に、重合液の通流方向に直交する方向にのみ開口する複数のガス噴出部を備えたバルブトレイを多段に配設し、該バルブトレイにおける重合液の通流方向下流側の端部に、外側に5〜45°傾いた状態で液深を確保するための液溜壁が配設された残留モノマー除去装置を使用して、重合液から未反応のモノマーを除去する。
本発明においては、脱モノマー工程において、特定方向にのみ開口するガス噴出部を備えたバルブトレイを多段に配置した残留モノマー除去装置を使用しているため、従来の製造方法に比べて処理効率が向上する。
前記バルブトレイは重合液の通流方向下流側に向かって開口する複数のガス噴出部をさらに備えていてもよい。
この製造方法では、前記有機溶剤として、例えばメタノールを使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定方向にのみ開口するバルブトレイを使用しているため、トレイ上でメタノールなどの有機溶剤ガスの偏流や重合液の滞留が起こりにくく、重合液から効率よく未反応のモノマーを除去することができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るPVA樹脂の製造方法において使用する残留モノマー除去装置の構成を模式的に示す図である。
図2】(a)は図1に示す残留モノマー除去装置1におけるトレイ2の構成を示す平面図であり、(b)は(a)に示すガス噴出部2aの形状、(c)はガス噴出部2bの形状を示す斜視図である。
図3】(a)及び(b)は実施例の残留モノマー除去装置を使用したときの重合液の流動解析結果を示す図であり、(a)は液深差を示し、(b)は圧力分布を示す。
図4】(a)及び(b)は比較例の残留モノマー除去装置を使用したときの重合液の流動解析結果を示す図であり、(a)は液深差を示し、(b)は圧力分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。本発明の実施形態に係るポリビニルアルコール(PVA)樹脂の製造方法では、重合工程後の重合液(ペースト)から未反応のモノマーを除去する脱モノマー工程において、特定方向に開口するバルブトレイを多段に配置した残留モノマー除去装置を使用する。
【0014】
[重合工程]
本実施形態のPVA樹脂の製造方法では、先ず、1種若しくは2種以上のビニルエステルを重合するか、又は、ビニルエステルとこれと共重合可能なその他のモノマー(単量体)とを共重合して、ポリビニルエステルを得る。ここで使用するビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピリン酸ビニル及びバーサチック酸ビニルなどが挙げられるが、重合安定性の観点から特に酢酸ビニルが好ましい。
【0015】
また、これらビニルエステルと共重合可能な他のモノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、エチレン及びプロピレンなどのα−オレフィン類、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、(メタ)アクリルアミド及びN−メチロールアクリルアミドなどの不飽和アミド類、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸及びフマル酸などの不飽和酸類、不飽和酸のアルキル(メチル、エチル、プロピルなど)エステル、無水マレイン酸などの不飽和酸の無水物、不飽和酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩など)、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジル基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びその塩類などのスルホン酸基含有モノマー、アシッドホスホオキシエチルメタアクリレート及びアシッドホスホオキシプロピルメタアクリレートなどのリン酸基含有モノマー、アルキルビニルエーテル類などが挙げられる。
【0016】
[脱モノマー工程]
脱モノマー工程では、前述した重合工程後の重合液から、未反応のモノマー(ビニルエステル及びその他のモノマー)を除去する。図1はその際使用する残留モノマー除去装置の構成を模式的に示す図である。また、図2(a)は図1に示す残留モノマー除去装置1におけるトレイ2を示す平面図であり、図2(b)は図2(a)に示すガス噴出部2aの形状、図2(c)はガス噴出部2bの形状を示す斜視図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態で使用する残留モノマー除去装置1は、略筒状の塔本体内部に、バルブトレイ2が、所定の間隔をあけて複数段配置されている。また、塔本体上部には重合液を導入するための重合液導入口が設けられており、塔本体下部にはメタノールなどの有機溶剤を気化させた有機溶剤ガスを導入するためのガス導入口が設けられている。更に、塔本体の頂部には有機溶剤ガスと共にモノマーを取り出すための脱気口が設けられ、塔本体底部には脱モノマー後のポリマー溶液を排出するための排出口が設けられている。
【0018】
ここで、塔本体内に配設されるバルブトレイ2には、図2(a)及び(b)に示すように、重合液の通流方向に対して直交する方向に開口した複数のガス噴出部2aが、マトリクス状に形成されている。このガス噴出部2aは、例えばトレイ底面に貫通孔を形成し、この貫通孔上に側面視でアーチ状のカバー部を設けた構成とすることができる。そして、ガス噴出部2aのカバー部の長手方向と、重合液の通流方向とが一致するようにバルブトレイ2を配置することにより、図2(b)に示すように、重合液の通流方向と直交する方向に、ガス噴出部2aの開口部を向けることができる。
【0019】
また、図2(a)及び(c)に示すように、このバルブトレイ2には、前述したガス噴出部2aに加えて、重合液の通流方向下流側に向かって開口するガス噴出部2bが設けられていてもよい。このガス噴出部2bは、例えば、例えばトレイ底面に貫通孔を形成し、この貫通孔上に一方向のみが開口し、それ以外の三方向を覆うカバー部を設けた構成とすることができる。このガス噴出部2bでは、カバー部を、貫通孔端縁から開口部に向かって傾斜する形状にすることにより、重合液の流動抵抗を低減することができる。
【0020】
ガス噴出部2bを設ける位置は、特に限定するものではないが、例えば、トレイ中心部に、重合液4の通流方向と直交する方向に、間隔をあけて一列に配置することができる。一般に、重合液の流速はトレイ中心部で最も遅くなるが、このような構成にすることにより、重合液の流速を均一にすることができる。
【0021】
なお、ガス噴出部2a,2bにおける貫通孔の形状は、特に限定されるものではなく、例えば平面視で矩形状、台形状、三角形状、五角形状、六角形状、八角形状、円形状及び楕円形状など、種々の形状を採用することができる。また、ガス噴出部2a,2bの高さも、特に限定されるものではなく、重合液の粘度などの処理条件に応じて、適宜設定することができる。ただし、ガス噴出部2a,2bの高さが30mmを超えると、流動抵抗が高くなり、処理効率が低下することがある。よって、ガス噴出部2a,2bの高さは、30mm以下とすることが望ましい。
【0022】
一方、ガス噴出部2a,2bの開口面積も、処理条件に応じて適宜設定することができるが、ガス噴出部2a,2bの開口面積が300mm未満の場合は、有機溶剤ガスの吹き込み量が不足し、処理効率が低下することがある。よって、ガス噴出部2a,2bの開口面積は、300mm以上とすることが望ましい。
【0023】
更に、バルブトレイ2全体での開口率は、3〜20%であることが望ましい。これにより、未反応モノマーの除去効率を大幅に向上させることができる。なお、全体の開口率が3%未満の場合、有機溶剤ガスと重合液の接触が不十分となり、未反応モノマーが残留することがある。また、開口率が20%を超えると、バルブトレイ2上に所定の液深を保つことが困難になることがある。
【0024】
一方、バルブトレイ2には、重合液の通流方向の下流側に、液溜壁2cが設けられている。この液溜壁2cは、所定の液深を確保するためのものであり、その高さは例えば20〜100mmとすることができる。そして、このバルブトレイ2では、重合液4は、液溜壁2cを越えて、下段のバルブトレイ2内に流入するようになっている。また、バルブトレイ2における液溜壁2cは、外側に5〜45°傾けて配設されていることが望ましい。これにより、液溜壁底部における重合液の滞留を抑制することができる。
【0025】
前述したバルブトレイ2は、例えば、一段ごとに、通流方向が逆になるように、互い違いに配置される。その際の段数は、特に限定されるものではないが、例えば10〜50段とすることが好ましい。
【0026】
次に、この残留モノマー除去装置1を使用して、重合液4から残留モノマーを除去する方法について説明する。本実施形態のPVA樹脂の製造方法においては、先ず、重合液4を、重合缶3から残留モノマー除去装置1の上部に導入して、バルブトレイ2上を通流させる。また、残留モノマー除去装置1の下部、具体的には最下段のバルブトレイ2よりも下側から、メタノールなどの有機溶剤ガスを導入し、バルブトレイ2のガス噴出孔2a,2bから重合液4に向けて吹き込む。
【0027】
これにより、重合液4と有機溶剤ガスとが接触し、重合液4中のモノマーが有機溶剤ガスと共に、塔頂部から排出される。また、モノマーが除去されたポリマー溶液は、塔底部から排出され、後述する鹸化工程に送られる。
【0028】
このとき、有機溶剤ガスとしてメタノールを使用した場合は、その温度を60〜100℃とすることが望ましい。また、重合液4の濃度は10〜70質量%、粘度は0.001〜2.0Pa・sとすることが望ましい。これにより、高効率で脱モノマー処理することができる。
【0029】
なお、重合液4から残留モノマーを除去する際に使用する有機溶剤の種類は、前述したメタノールに限定されるものではなく、揮発性を有するものであればよい。ただし、ここで使用した有機溶剤は、後述する鹸化工程の溶媒にもなることから、残留モノマーを除去する有機溶剤ガスには、メタノールを使用することが望ましい。
【0030】
[鹸化工程]
その後、脱モノマー処理したポリマー(ポリビニルエステル)溶液を、前述した有機溶剤を含む溶媒中において、触媒の存在下で鹸化する。ここで使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン及びジエチレングリコールなどのアルコール類を使用することができるが、特に、メタノールが好ましい。
【0031】
また、鹸化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアルコラート及び炭酸ナトリウムなどのアルカリ触媒、硫酸、燐酸及び塩酸などの酸触媒が挙げられる。これら鹸化触媒の中でも、アルカリ触媒を使用することが好ましく、水酸化ナトリウムを使用することがより好ましい。これにより、鹸化速度を早くして、生産性を向上させることができる。
【0032】
この鹸化工程により、ポリビニルエステルにおけるビニルエステル単位の一部又は全部が鹸化されて、ビニルアルコール単位となる。なお、鹸化工程により得られるPVA樹脂の鹸化度は、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜設定することができる。
【0033】
また、本実施形態のPVA樹脂の製造方法においては、前述した重合工程及び鹸化工程を行った後、必要に応じて、酢酸ナトリウムなどの不純物を除去するための洗浄工程や乾燥工程を行ってもよい。
【0034】
以上詳述したように、本実施形態のPVA樹脂の製造方法においては、脱モノマー工程において、流動抵抗が低い形状で、重合液の通流方向に直交する方向又は通流方向下流側に向かって開口するガス噴出部を備えたバルブトレイを使用しているため、重合液の液深が一定になると共に、従来のトレイを使用した場合に比べて流動抵抗も小さくなるため、有機溶剤ガスと重合液との接触時間を長くすることができる。これにより、処理効率が向上し、有機溶剤ガスの使用量を低減することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例において、下記表1に示すバルブトレイ(実施例)又はバブルキャップトレイ(比較例)を使用して、重合液から残留モノマーの除去を行い、その処理効率を比較した。なお、実施例のバルブトレイにおける各ガス噴出部の間隔は、重合液通流方向が118.85mm、重合液通流方向に直交する方向が65.86mmであった。また、比較例のバブルキャップトレイにおけるキャップの直径は99mm、ガス噴出孔の直径は60mm、トレイ底面とキャップ端部との隙間は8mmであった。
【0036】
【表1】
【0037】
そして、下記表2に示す条件で、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニル溶液(重合液)から、未反応の酢酸ビニルを除去した。その結果を下記表2に併せて示す。なお、下記表2に示す「溜出量」とは、塔頂部から取り出された未反応モノマーとメタノールの総量である。また、ポリマー溶液の「抜取量」及び「粘度」は、塔底部から排出された脱モノマー後のポリ酢酸ビニル・メタノール溶液の量及びその粘度である。
【0038】
【表2】
【0039】
上記表2に示すように、バルブトレイを使用した実施例の残留モノマー除去装置では、バブルキャップトレイを使用した従来の装置に比べて、吹き込みメタノールの使用量を大幅に低減することができた。
【0040】
また、図3(a)及び(b)は実施例の残留モノマー除去装置を使用したときの重合液の流動解析結果を示す図であり、図3(a)は液深差を示し、図3(b)は圧力分布を示す。更に、図4(a)及び(b)は比較例の残留モノマー除去装置を使用したときの重合液の流動解析結果を示す図であり、図4(a)は液深差を示し、図4(b)は圧力分布を示す。図4(a)及び(b)に示すバブルキャップトレイを使用した比較例の場合、重合液の通流方向に液深差及び圧力分布が生じるが、図3(a)及び(b)に示す実施例では、液深差がなく、圧力も均一であった。
【0041】
以上の結果から、本発明の残留モノマー除去装置を使用することにより、トレイ上で有機溶剤ガスが偏流したり、重合液が滞留したりすることがなくなるため、効率よく脱モノマー処理できることが確認された。
【符号の説明】
【0042】
1 残留モノマー除去装置
2 トレイ
2a、2b ガス噴出部
2c 液溜壁
3 重合缶
4 重合液
図1
図2
図3
図4