(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760089
(24)【登録日】2015年6月12日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】酢酸洗浄を用いた低硫酸エステル濃度の、5−スルホイソフタル酸モノリチウム塩の調製
(51)【国際特許分類】
C07C 303/32 20060101AFI20150716BHJP
C07C 309/58 20060101ALI20150716BHJP
【FI】
C07C303/32
C07C309/58
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-534897(P2013-534897)
(86)(22)【出願日】2011年3月29日
(65)【公表番号】特表2014-502956(P2014-502956A)
(43)【公表日】2014年2月6日
(86)【国際出願番号】US2011030252
(87)【国際公開番号】WO2012054097
(87)【国際公開日】20120426
【審査請求日】2014年3月20日
(31)【優先権主張番号】PCT/US2010/0053186
(32)【優先日】2010年10月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510328685
【氏名又は名称】フューチャーフューエル ケミカル カンパニー
【氏名又は名称原語表記】FUTUREFUEL CHEMICAL COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】オスター、ティモシー、エー.
(72)【発明者】
【氏名】コールマン、マイケル、トッド
【審査官】
吉田 直裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−031634(JP,A)
【文献】
特表2004−507604(JP,A)
【文献】
特表2004−523630(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第101279940(CN,A)
【文献】
特表2009−510242(JP,A)
【文献】
特開2007−063714(JP,A)
【文献】
特表2013−508377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 303/32
C07C 303/44
C07C 309/58
C07C 309/77
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5−スルホイソフタル酸の溶液を、リチウムカチオン生成化合物と水とから実質的に構成される溶液に添加して反応混合物を形成するステップと、
前記反応混合物を、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩形成に十分な条件下で維持するステップと、
前記反応混合物から前記5−スルホイソフタル酸のリチウム塩を分離するステップと、
前記分離した5−スルホイソフタル酸のリチウム塩を酢酸で洗浄するステップと、
を備えたことを特徴とする、低硫酸エステル濃度の、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩の調製プロセス。
【請求項2】
イソフタル酸と硫黄含有化合物から5−スルホイソフタル酸を形成する前段のステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記リチウムカチオン生成化合物は、水酸化リチウム一水和物、無水水酸化リチウム、有機リチウム塩類および無機リチウム塩類から構成される群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記リチウム化合物は水酸化リチウム一水和物であることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記有機リチウム塩は酢酸リチウムであり、前記無機リチウム塩は炭酸リチウムと重炭酸リチウムから構成される群から選択されることを特徴とする請求項3に記載のプロセス。
【請求項6】
リチウムカチオンと5−スルホイソフタル酸とのモル比は少なくとも0.95:1であることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記反応混合物を維持する前記ステップは、5分間〜2時間の間、前記反応混合物を還流しながら加熱するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記5−スルホイソフタル酸のリチウム塩を分離する前記ステップは、前記5−スルホイソフタル酸のリチウム塩の再結晶化ステップを備えることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記洗浄したリチウム塩を乾燥させるステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記乾燥したリチウム塩は500ppm未満の硫酸エステルを含むことを特徴とする請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
5−スルホイソフタル酸の溶液を、リチウムカチオン生成化合物と水とを含む溶液に添加して反応混合物を形成するステップと、
前記反応混合物を、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩形成に十分な条件下で維持するステップと、
前記リチウム塩をろ過して生成物ケーキを形成するステップと、
前記生成物ケーキを酢酸で洗浄するステップと、
前記5−スルホイソフタル酸のリチウム塩を含む前記洗浄したケーキを乾燥させるステップと、
を備えることを特徴とする、低硫酸エステル濃度の、5−スルホイソフタル酸のモノリチウム塩の調製プロセス。
【請求項12】
前記リチウムカチオン生成化合物は、水酸化リチウム一水和物、無水水酸化リチウム、有機リチウム塩類および無機リチウム塩類から構成される群から選択されることを特徴とする請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記リチウムカチオン生成化合物は水酸化リチウム一水和物であることを特徴とする請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
5−スルホイソフタル酸の溶液を、リチウムカチオン生成化合物と水とを含む溶液に添加して、酢酸フリーの反応混合物を形成するステップと、
前記反応混合物を、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩形成に十分な条件下で維持するステップと、
前記リチウム塩をろ過して生成物ケーキを形成するステップと、
前記生成物ケーキを酢酸で洗浄するステップと、
を備えることを特徴とする、低硫酸エステル濃度の、5−スルホイソフタル酸のモノリチウム塩の調製プロセス。
【請求項15】
前記リチウムカチオン生成化合物は、水酸化リチウム一水和物、無水水酸化リチウム、有機リチウム塩類および無機リチウム塩類から構成される群から選択されることを特徴とする請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
分離された5−スルホイソフタル酸を、リチウムカチオン生成化合物と水とを含む溶液と混合して第1の反応混合物を形成するステップと、
5−スルホイソフタル酸のリチウム塩形成に十分な条件下で、前記第1の反応混合物を維持するステップと、
前記第1の反応混合物をろ過して、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩と収集したろ液とを含む生成物ケーキを形成するステップと、
前記生成物を酢酸で洗浄し、前記酢酸洗浄液の少なくとも一部を収集するステップと、
前記収集したろ液を再利用して、前記収集したろ液と分離した5−スルホイソフタル酸とを含む第2の反応混合物を形成するステップと、
を備えることを特徴とする、低硫酸エステル濃度の、5−スルホイソフタル酸のモノリチウム塩の調製プロセス。
【請求項17】
再利用ろ液から追加の反応混合物を形成することを特徴とする請求項16に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2010年10月19日付の同一出願人によるPCT/US第2010/053186の優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
本発明は高分子化学と特殊化学品の分野に関する。より具体的には、本発明は、発展中の染色高分子繊維に関連する高分子繊維および特殊化学品の分野に関する。本発明は特に、高分子繊維の中で染色ナイロン繊維の製造に使用されるイソフタル酸の塩誘導体の製造に関し、具体的には、5−スルホイソフタル酸のモノリチウム塩などのアルカリ金属塩誘導体の製造に関する。
【0003】
5−スルホイソフタル酸の誘導体はいくつかの高分子プロセスで使用されているが、ここでの議論は、本発明の理解に有用なナイロンに焦点を合わせる。ここに提示された説明と実施例は例示のためのものであって、限定するものではない。
【0004】
ナイロンには多くの種類が存在し、通常は、それらを作る成分に基づいて区別される。一般的には、ナイロンは、等量のジアミンとジカルボン酸を反応させて作られる。この反応に使用される特定のジアミンと酸によってナイロンの名前が付けられる。例えば、「ナイロン6−6」は、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との反応により作られたナイロンを識別するものである。この両方の成分はポリマー鎖に6個の炭素を与えるため、該ナイロンは「6−6」と呼ばれる。
【0005】
ナイロン繊維、特に、カーペット繊維に使用されるものも、酸性染料および塩基またはカチオン染料に対する繊維の感受性に応じた種類で分類される。カチオン可染性のナイロン繊維は、他のタイプのナイロンと比較して、一般に固有の防汚性を示すが、伝統的に、特に明るい色合いの場合に耐光性が劣るという問題を抱えていた。このために、カチオン可染性ナイロンは、カーペット繊維としては活用されていなかった。
【0006】
予想通りに、相当な時間、エネルギーおよび資源を投入して、カチオン可染性ナイロンの染料吸収特性を高める新規で改良された方法を見出した。この数年間、該ポリマーのカチオン染色性を改良するために、非常に特定化された化学物質を繊維製造プロセス中に添加する方法がいくつか開発されてきた。そうした特定の化学物質の1つが、一般にLiSIPAとして既知の5−スルホイソフタル酸のリチウム塩である。
【0007】
LiSIPAの製造および精製に現在利用されているプロセスには、生成物収量が低い、生成物が着色される、製造コストが高いなどの多くの欠点がある。また、既知のプロセスで製造されたLiSIPAは典型的に硫酸エステル濃度が高い(すなわち、500ppm超)。既知のプロセスで製造されたLiSIPAの硫酸エステル濃度は、より典型的には1000〜3000ppmである。
【0008】
高硫酸エステル濃度のLiSIPAの製造に特有の問題は、硫酸エステルが製造プロセス中に沈殿し得ることである。硫酸エステルの沈殿によって、ナイロンフィラメントの破損と製造損失が大きくなり得る。既知のLiSIPA生成物は、硫酸エステル濃度を下げるために追加の処理をされていると考えられる。しかしながら、こうした処理によって製造コストが上昇する。
【0009】
現在の方法で製造される高硫酸エステル濃度のLiSIPAに固有の別の問題は、硫酸エステルの除去手段が限られていることである。例えば、硫酸エステルの一部は、LiSIPAの水による洗浄か、あるいは水中でLiSIPAを再結晶させることで除去できる。残念なことに、LiSIPAは水に可溶である。従って、硫酸エステルの除去に水を使用することによって生成物損失が生じる。
【0010】
先行技術におけるこれらのあるいは他の問題(その一部は本明細書で開示される)のために、本質的に硫酸エステル含量が低いLiSIPA生成物の製造方法が求められている。言いかえれば、簡単な収集や洗浄以上のさらなる処理を何ら行わずに、低硫酸エステル濃度のLiSIPA生成物が得られるLiSIPAの製造方法が求められている。該方法は、ほとんどのLiSIPA製造プロセスに現在採用されている設備を用いた商用化に適切なものでなければならない。
【発明の概要】
【0011】
1態様では、特許請求された発明は、低硫酸エステル濃度の、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩の調製プロセスである。該プロセスは、5−スルホイソフタル酸(HSIPA)の溶液の形成から始めてもよい。リチウムカチオン生成化合物と水とを含む溶液に、HSIPAの溶液を添加して反応混合物を形成する。その後、前記反応混合物を、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩形成に十分な条件下で維持する。その後、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩を前記反応混合物から分離し酢酸で洗浄する。
【0012】
このプロセスの生成物である5−スルホイソフタル酸のリチウム塩は、未精製の化合物として、硫酸エステル濃度が非常に低い(500ppm未満)。言いかえれば、硫酸エステル濃度を500ppm未満に低減するために、該生成物を追加の硫酸エステル除去ステップにかける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明によるプロセスに取り込まれた典型的な反応を示す概略図である。
【0014】
本明細書で使用される「5−スルホイソフタル酸のリチウム塩」、「LiSIPA」および「LiSIPA生成物」は、該塩の水和物および無水物を包含しており、その違いは、最終生成物の乾燥の程度である。
【0015】
本明細書で使用される「低硫酸エステル濃度」とは、硫酸エステル濃度が500ppm超、より典型的には1000〜3000ppmのLiSIPA組成物を生じる典型的なプロセスと比較して、硫酸エステル(S0
42−)濃度が500ppm未満のLiSIPA組成物を意味する。また、本発明の低硫酸エステル濃度生成物は、該プロセスから得られる未精製の直接反応生成物である。
【0016】
本明細書での「未精製」とは、反応槽から出た反応生成物が、硫酸エステル濃度500ppm以下を達成するために、(ろ過や洗浄以外の)さらなる実質的な処理の何れにも、あるいは精製ステップにもかけられないことを意味する。例えば、生成されたLiSIPA生成物の硫酸エステル濃度を低減させるために、一部の既知のプロセスでは現在、「水中での再結晶」ステップが用いられている。水中での再結晶ステップは、LiSIPAの水への溶解度が高いために全体の収率が低下する困難な精製ステップである。本発明によるプロセスでは、コストの高い「水中での再結晶」と他の製造後の精製ステップが避けられる。
【0017】
ここでの「溶液の添加」は、1つの液体成分を他の液体成分に添加することを意味する。言いかえれば、この用語は、溶液あるいは中間体スラリーを別の液に注ぐことを意味する。
【0018】
「リチウムカチオン生成化合物と水とから実質的に構成される」とは、リチウムカチオン生成化合物と水とを含み、酢酸は何ら含まないむ溶液を記載する文脈において用いられる。他の物質は、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩の形成反応を阻害しない程度であれば存在してもよい。
【0019】
簡易化された形態での本発明による方法は、5−スルホイソフタル酸(HSIPA)を含む溶液を形成するステップと、その後、このHSIPAをリチウムカチオン生成化合物を含む水溶液中に添加して反応混合物を形成するステップとを備える。その後、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩(LiSIPA)、好適には5−スルホイソフタル酸のモノリチウム塩の製造に十分な温度と時間、該反応混合物を加熱する(必要に応じて)。その後、該LiSIPAを分離(例えばろ過)し酢酸で洗浄する。その後、洗浄したLiSIPAを乾燥・包装する。
【0020】
当業者であれば、上記のLiSIPA製造ステップは、個々の工業的プロセスでは相当に変わり得ることを認識するであろう。本発明の可能な実施形態について、以下の段落に記載する。この典型的な実施形態は、本発明の理解に役立つものとして提示され、その発明の範囲を限定するように解釈されるべきではない。本発明はLiSIPAの製造に関するが、全体的な工業プロセスは、5−スルホイソフタル酸(HSIPA)の製造から始まることはほぼ間違いなく、この典型的な実施形態の議論もここから始まる。
【0021】
図1を参照し、イソフタル酸をスルホン化してHSIPAを形成する。イソフタル酸のスルホン化方法としては、それをオレウムか純粋なS0
3と混合させるなどのいくつかの方法が知られている。HSIPAを製造するこれらの既知の方法のうちのいずれでも、本発明の実施において受け入れられる。この典型的な実施形態では、HSIPAの硫酸粗溶液の形成に十分な温度と時間条件下で、イソフタル酸をオレウム(別名「発煙硫酸」)と反応させてスルホン化する。好適な実施形態では、該オレウムの溶液内濃度は約20%〜60%であり、該スルホン化混合物を、HSIPAの形成に十分な時間、約150℃〜約230℃に加熱する。
【0022】
その後、リチウムカチオン生成化合物を含む水溶液にHSIPAの粗スルホン化溶液を添加して反応混合物を形成する。好適な実施形態では、該溶液は、リチウムカチオン生成化合物と水とから実質的に構成される。他の物質は、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩の形成反応を阻害しない程度であれば存在してもよい。また、該溶液は酢酸フリーでなければならない。本発明と同一の出願人によって行われ、同時係属のPCT出願PCT/TJS2010/53186で議論された他の研究は、酢酸が過剰に存在する反応混合物を利用するプロセスに関する。本プロセスでは、酢酸は反応混合物から除去されており、一定の商用アプリケーション(特に、大量の酢酸の再利用ができないアプリケーション)では、コスト効率がより良いと考えられる。
【0023】
前記リチウムカチオン生成化合物は、水溶液中でリチウムカチオンを生成できる数種の有機および無機化合物の任意のものであってもよい。代表的な化合物としては、これに限定されないが、水酸化リチウム一水和物、無水水酸化リチウム、酢酸リチウムなどの有機リチウム塩類、および炭酸リチウムおよび重炭酸リチウムなどの無機リチウム塩類が挙げられる。好適な実施形態では、該リチウムカチオン生成化合物は水酸化リチウム一水和物である。LiとHSIPAのモル比は理想的には1対1であるが、主要な制限因子であるリチウムのコストに応じて0.95:1〜1.05:1あるいはそれ以上に変えられる。好適には、リチウムカチオン生成化合物のモル量は、HSIPAのそれと同じかあるいはわずかに多い。
【0024】
前記反応混合物をその後、HSIPAのリチウム塩(すなわちLiSIPA)の形成に十分な反応条件下に維持する。前記溶液添加ステップで得られた反応混合物は、リチウムカチオンを含む水溶液中に添加される前記スルホン化混合物の温度により、さらに加熱しなくてもよい。本発明のほとんどの商用アプリケーションにおいて、反応混合物の加熱は、その成分の溶液を得るために必要になると考えられる。溶液を得るために必要な温度は、反応混合物の種々の成分の濃度に依存するであろう。しかしながら、ほとんどの商用アプリケーションにおいて、還流中の加熱は、すべての成分の溶液化に十分なものでなければならないと考えられる。特定の反応混合物の大気圧下での還流温度は、溶液を得るために必要な温度の上限でなければならない。
【0025】
前記反応混合物を形成するための前記添加ステップ(および任意の付随する加熱)は、非常に急速に(例えば数分で)あるいは長時間(例えば数時間)に亘って起こり得る。本発明の任意の特別な商用的実施で用いられる正確な時間は、一部には、利用可能な設備で管理されるであろう。しかし、ほとんどの商用アプリケーションに対して、約5分〜2時間の範囲が適切と考えられる。安全性、pHの段階的調整、およびHSIPAとリチウムカチオンとの完全混合のために、前記添加ステップを数分間かけて行ってLiSIPAを形成することが望ましい。
【0026】
その後、LiSIPAを含む反応混合物をLiSIPAの結晶化開始に十分な温度に冷却する。この温度は、典型的には0℃〜110℃である。ほとんどの場合、結晶化は60℃〜100℃で起こるであろう。好適な実施形態では、この結晶化ステップの間に、反応混合物を約25℃になるまで冷却する。冷却の方法は、本発明の実施にとって重大なものではなく、当業者であれば、それらのプロセスに最も適切な方法(例えば冷凍)を選択できる。該結晶化ステップによって、これに限定されないが、ヌッチェ(吸引ろ過機)、遠心分離機、自動フィルタドライヤなどを含む任意の通常のろ過法によるろ液から分離される粗LiSIPAが得られ、粗LiSIPAケーキが形成される。
【0027】
前記反応混合物のろ液から粗LiSIPAケーキを分離後、LiSIPAを酢酸で洗浄する。この洗浄に使用する酢酸は好適には氷酢酸であるが、酢酸と水との溶液を使用してもよい。しかしながら、酢酸と水との溶液を用いる場合、LiSIPAが水に可溶であり水による洗浄により生成物ロスが生じ得るため、水の量は最小限にしなければならない。以下に説明するろ液と洗浄流れとを再利用するこのプロセスの変形では、生成物の水溶解度による生成物ロスを低減できる。
【0028】
酢酸洗浄は、ろ過装置に一般的な方法で行われる(例えば、洗浄はヌッチェフィルタ内に酢酸をポンプで送り込むことにより行われる)。使用される酢酸の量は、LiSIPAケーキからの抽出に十分な量か残存するろ液の置換/除去に十分な量のいずれかである。洗浄量は、LiSIPAケーキの質量の15%から2倍超の範囲で変えられる。主には、酢酸を回収するコストと能力によって、使用する酢酸洗浄の量が限定される。酢酸洗浄の温度は典型的には約18℃〜60℃であるが、それ以上であってよい。
【0029】
LiSIPA生成物を洗浄後、当業者に既知の任意の適切な方法でそれを乾燥させる。乾燥条件(例えば温度、時間、減圧度)に応じて、該生成物を無水物固体としてあるいは水和物として分離できる。
【0030】
前記酢酸洗浄プロセスの1つの利点は、それがLiSIPAと溶媒和物を形成しないことである。これは、高分子プロセスにおける添加剤/成分として一般に使用される同様の化合物、すなわち、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩(NaSIPA)との相互作用を考慮すると、非常に驚くべき発見である。酢酸をNaSIPA製造における洗浄液として使用した場合、NaSIPAと溶媒和物を形成する。溶媒和物としてNaSIPAと共に持ち込まれる酢酸は、高分子末端処理に非常に有害になり得る(例えば、酢酸によって重合が停止され得る)。また、このNaSIPA/酢酸溶媒和物は非常に安定している。NaSIPAからの酢酸の除去には典型的には、減圧下、180℃の範囲内の温度が必要である。通常、このような高温によって、使用に適切でない変色したNaSIPAが生成される。酢酸がNaSIPAと共にこんなに多くの問題を引き起こすことを考えると、LiSIPAとも同様な問題を引き起こすと推測された。
【0031】
従って、酢酸は、LiSIPAから残余の硫酸エステルを除去する優れた洗浄液であるという発見は、全く予想外のことであった。今日まで収集されたデータによって、酢酸がLiSIPAとは溶媒和物を形成しないという結論は支持されている。また驚くべきことに、加熱と減圧下での乾燥ステップ中に、酢酸の沸点が水より高いにも拘わらず、酢酸が水よりも前にLiSIPA生成物を沸騰させて取り除くことが発見された。これによって、LiSIPA水和物が所望の最終生成物の場合、その水和物を依然として維持しながら、酢酸を容易に除去できる。
【0032】
LiSIPAプロセスにおける洗浄液として酢酸を使用する別の利点は、洗浄液としてケトン類(例えばアセトン、MEKなど)を用いる他のプロセスと比較して、着色の少ないLiSIPA生成物が得られることである。ケトン類で洗浄することによって、ジ−ケトンまたは高分子ケトン着色体が形成される。従って、ケトン洗浄後に、典型的にはヘキサンを用いて第2洗浄を行ってケトンを除去するが、そのためにコストはさらにかさむ。
【0033】
上記のように、洗浄液として酢酸を使用することによる主な利点は、恐らく、最終生成物中に残る硫酸エステル量を実質的に低減することである。本発明による方法を使用することによって、洗浄ステップ直後の硫酸エステル濃度が500ppm未満の生成物を得ることが可能であり、さらなる精製ステップや硫酸エステル低減ステップは必要でない。言いかえれば、本発明の方法によって、硫酸エステル濃度が500ppm未満の5−スルホイソフタル酸のリチウム塩から実質的に構成される未精製の反応生成組成物が得られる。上記のように、このような反応生成組成物は今まで知られていなかった。また、高分子最終生成物の硫酸エステル含有に伴う問題や、従来の方法で製造されたLiSIPAからの硫酸エステル除去費用などを考えると、このような低硫酸エステル濃度のLiSIPAは、当産業から大いに所望される。
【0034】
本発明によるプロセスに対する変形によって、硫酸エステル濃度が100ppm未満の反応生成物が得られることが示された。この変形には、前記ろ過ステップの間に反応混合物から引き抜かれたろ液の再利用が取り込まれている。
【0035】
上記のように、LiSIPAは水にある程度可溶である。従って、ろ過ステップにおけるろ液によっていくらかの生成物ロスがある。また、上記のように、一部の既知のLiSIPA製造プロセスでは、分離したLiSIPAを精製し硫酸エステルを除去するために、無駄の多い「水中での再結晶化」ステップを用いている。従来のバッチ操作をより効率的にするために、高価な「再結晶化ステップ」の基礎を成すLiSIPAの溶解度特性を取り入れられるかという問題が次に提示された。言いかえれば、収率を上げ、硫酸エステル含量をさらに低減するために、今まで厄介であったLiSIPAの水溶解度を用いることが可能か、ということである。追加の実験では、反応混合物からのろ液を回収・再利用することによって、損失生成物を回収でき、それによって、収率を上げてコストを低減し、同時に、最終生成物での硫酸エステル含量を低減できることが示された。
【0036】
非常に広い意味で、本発明によるプロセスのこの変形は、既に分離された5−スルホイソフタル酸(HSIPA)を、前述のリチウムカチオン生成化合物を含む溶液と混合して第1の反応混合物を形成するステップを備える。5−スルホイソフタル酸のリチウム塩の形成に十分な条件下で、該第1の反応混合物を維持する。その後、この塩を上記で議論したように結晶化しろ過して、5−スルホイソフタル酸のリチウム塩を含む生成物ケーキを形成する。該生成物ケーキを酢酸で洗浄し、この洗浄液も収集する。
【0037】
その後、収集したろ液を再利用して、該収集ろ液と、追加の分離HSIPAと、追加のリチウムカチオン生成化合物と、を含む第2の反応混合物を形成する。第2およびその後のバッチでのリチウムとHSIPAとのモル比は、好適には第1のバッチと同じである(例えば、理想的には1:1であるが、0.95:1〜1.05:1あるいはそれ以上に変化してもよい)。この第2のバッチを第1のバッチと同じように反応させ、このサイクルを繰り返して、追加の反応混合物を形成する。このプロセスは、3〜5バッチあるいはそれ以上のバッチのシリーズの間継続される。
【0038】
この変形についてより詳細に説明する。該プロセスは分離されたHSIPAを用いてスタートするが、これは多くのサプライヤーから市販されている。この変形の開発に用いたHSIPAは、商用のHSIPAプロセスにおいて典型的であるように、イソフタル酸をスルホン化しこれを水中に添加することによって化学品中間体として分離した。生成した添加溶液を冷却してHSIPAを結晶化させ、ろ過・酢酸洗浄後、真空オーブン内で乾燥させた。
【0039】
上記で議論した方法と同様な方法で(例えば、LiとHSIPAとのモル比が0.95:1〜1.05:1あるいはそれ以上)、得られた固体のHSIPAを水酸化リチウム(例えばLiOH.H
2O)と水溶媒系で反応させてLiSIPAを生成した。前述のように、得られたLiSIPAを分離・ろ過するが、ろ液は、その後のバッチにおいて約5%〜7%のパージ率で利用するために収集・再利用される。このパージ率は、HSIPAと共にシステムに進入する痕跡量の硫酸エステルの除去に有用である。
【0040】
その後、前述のように、ろ過したLiSIPAを酢酸で洗浄するが、LiSIPAの運転回収の目的のために、酢酸洗浄液も収集・保存した。
【0041】
所望の一連のバッチの最後に、最終の反応混合物からの最終の回収/再利用ろ液と酢酸洗浄液とを混合し、蒸留によって濃縮する。前述のように、再結晶化によってLiSIPAを回収し酢酸で洗浄する。該ろ液は、理論的には無限に再利用でき得るが、実際には、必要な生成物品質を維持するためには、4〜5バッチが最適なように思われることが分かった。当業者であれば、最適な再利用バッチは、任意の所与の商用製造プロセスの個々の特性に応じて変わるだろうということは理解するであろう。
【0042】
ろ液と酢酸洗浄液の回収とを取り込むこのプロセス変形の実験室運転では、硫酸エステル濃度が100ppm未満の5−スルホイソフタル酸のリチウム塩から実質的に構成される未精製の反応生成組成物が得られた。さらに、そうでなければろ液中に失われていたであろうLiSIPAを回収することで収率が向上した。該再利用変形を用いることによって、イソフタル酸から乾燥LiSIPAへの全体的な推定収率は約73%となり、他の実験室データからも、本格的な製造におけるHSIPAからLiSIPAへの収率は、平均約88%以上であろうということが示されている。
【0043】
上記のプロセスから得られるLiSIPA生成物を考慮して、特許請求された本発明は、硫酸エステル濃度が500ppm未満の、好適には100ppm未満の5−スルホイソフタル酸のリチウム塩(例えばモノリチウム塩)も包含する。
【0044】
前記特許請求された、酢酸洗浄液を利用するLiSIPAの製造プロセスは確固たるものであり、得られる生成物品質に影響を及ぼすことなく、多くの異なる方法で変えられることは留意されるべきである。開示されたプロセスの代替となる実施形態によって示唆されるように、本明細書で開示されたプロセスを簡単におよび容易に変更できる。実際、開示されたプロセスは、当業者に既知であり、開示された変更と範囲変化の範囲外の任意の方法で変更できると考慮されることは留意されるべきである。
実施例1
【0045】
以下の実施例は、詳細な説明で議論したように、イソフタル酸をスルホン化してHSIPAを形成することから始まる。しかしながら、HSIPAは市販製品であり、従って、本発明の実施をHSIPAから始めてもよい。
【0046】
イソフタル酸を過剰のSO
3(30%オレウムとして)に添加しスルホン化溶液を形成する。該スルホン化溶液を195℃〜210℃に加熱し、約6時間保持してHSIPAを形成する。
【0047】
該スルホン化溶液を冷却し、温度が0℃〜110℃の、水と水酸化リチウム一水和物との溶液に添加して、5−スルホイソフタル酸モノリチウム塩の溶液を形成する。該溶液を0℃〜25℃に冷却する間にこの生成物が再結晶化し、5−スルホイソフタル酸モノリチウム塩のスラリーが形成される。
【0048】
標準の結晶化ステップ(例えば、結晶化温度への冷却)後の標準の工場製造バッチ(上記のような)からの5−スルホイソフタル酸モノリチウム塩のスラリーサンプルを1クォート収集した。1000mlの焼結ガラス水路をセットアップした。減圧吸引しながら、丁度1クォートのLiSIPAスラリーを該水路に導入した。約85秒後に大部分のろ液を除去して、粗LiSIPAケーキとした。減圧吸引しながら、該ケーキに約25℃の氷酢酸を加えた。該生成物の推定乾燥質量の約15%〜200%の範囲で、酢酸の量は変えられる。該減圧を約120秒間適用した。
【0049】
その後、洗浄したケーキを約90℃〜100℃のオーブン内で一晩乾燥させて、LiSIPA水和物を生成した。約100℃〜130℃に加熱することによって、無水塩が形成されるであろう。この乾燥ステップの間の減圧適用は選択的であるが、実施することが望ましい。
【0050】
該乾燥生成物のサンプルの含有量は以下の通りであった(結果は、他のサンプルにも典型的である)。
【表1】
実施例2
【0051】
以下の実施例は、分離されたHSIPAから始まり、ろ液と酢酸液を回収・再利用する本発明によるプロセスを示す。この変形の開発に用いたHSIPAは、商用のHSIPAプロセスにおいて典型的であるように、イソフタル酸をスルホン化しこれを水中に添加することによって、化学品中間体として分離した。生成した添加溶液を冷却してHSIPAを結晶させ、ろ過・酢酸洗浄後、真空オーブン内で乾燥させた。
【0052】
シリーズの第1のバッチでは、1000mlの丸底フラスコをセットアップした。このフラスコに新鮮な脱イオン水80gを添加した。該シリーズの各バッチで、水80gを用いたことは留意されるべきである。従って、ろ液を再利用する第2シリーズおよび以降のシリーズでは、プロセスロスと5〜7%パージのために、少量の新鮮な脱イオン水が必要になるであろう。第2以降のバッチおよび後のバッチで使用した水の合計g数は、一般的に以下のように求められる。
水の合計g数(80g)=[ろ液中の水g数]+[HSIPA中の水g数]+[新鮮な水g数]
【0053】
新鮮な水80gに対して、32.75gの水酸化リチウム(LiOH.H
2O)を添加した。水/LiOH混合物を25℃〜45℃に加熱し、その間に200gのHSIPAをフラスコに添加した。これによって、モル比が約0.96:1のLi:HSIPAが得られる。該反応混合物を還流しながら加熱し(約113℃)、30分間保持した。
【0054】
その後、該反応混合物を約55℃Cまで冷却し、その温度で約30分間保持した後、氷浴内で急速に約15℃まで冷却した。このLiSIPA生成物は結晶化し、LabGlass(登録商標)焼結ガラスフィルタを用いた減圧ろ過により分離した。ろ液は再利用のために収集した。
【0055】
35gの室温の酢酸で、生成したLiSIPAケーキを洗浄した。この洗浄液も収集した。
【0056】
先のバッチからのろ液および水の合計質量を80gにするための補給水の大部分を前記丸底フラスコに添加し、その後、16.37gの水酸化リチウム一水和物と100gのHSIPAとを添加して反応混合物を形成した。第2以降のバッチでの水酸化リチウムのこの少ない量は、ろ液を再利用する第2以降のバッチと比較して、第1バッチ(再利用ろ液なし)での生成物の標準質量を考慮したものである。全体として、第2以降のバッチに添加された水酸化リチウム(LiOH.H
2O)の量は、LiOH.H
2O:HSIPAのモル比を約0.95:1〜1.05:1あるいはそれ以上に維持するのに必要な量でなければならない。
【0057】
第1のバッチでのように、該反応混合物を還流しながら加熱し冷却して、得られる生成物ろ過する。前述のように、該生成物を洗浄し、酢酸を収集する。
【0058】
追加の再利用バッチを行ってもよい。現時点のデータからは、生成物品質を維持しながらの再利用能力の最大化のためには、3〜5回の再利用バッチが最適であることが示されている。
【0059】
最終バッチの終了後、収集したろ液と酢酸洗浄液とを生成物回収のために処理する。
【0060】
1000mlの丸底フラスコを再びセットアップして、(1)最終バッチからのろ液、(2)すべての酢酸洗浄液、(3)収集され得た任意のろ液残り、を受け入れる。この混合物を還流しながら加熱し、その質量が当初の約70〜75%になるまで低沸点体を沸騰させて蒸留する。
【0061】
その後、該蒸留再利用混合物を約55℃に冷却して約30分間保持した後、急速に15℃まで冷却する。次に、LabGlass(登録商標)焼結ガラスフィルタにより、得られた結晶化生成物を減圧下でろ過する。5分間の減圧ろ過後、得られたケーキを過剰の酢酸で洗浄する。試験プロセスでは、35gの酢酸を用いた。その後、約115℃の減圧下、この洗浄されたケーキを一晩乾燥させた。
【0062】
複数バッチを行う2シリーズでの運転を行った。第1のシリーズでは5バッチを用い、硫酸エステル濃度が100ppm未満のLiSIPA生成物が得られ、HSIPAからLiSIPAへの全体のプロセス収率は約86.6%であった。第2のシリーズでは4つのバッチを用い、硫酸エステル濃度が104ppm未満のLiSIPA生成物が得られ、全体のプロセス収率は約83.6%であった。
【0063】
本発明を好適な実施形態に関連して説明したが、これによって、提示された詳細のすべてが限定されるように捉えられるべきではない。当業者には理解されるように、本発明の趣旨や範囲を逸脱することなく、これらの実施形態の修正や変形が可能であり、他の実施形態も、本開示に包含されるように理解されるべきである。