(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱交換によって水を加熱するための二酸化炭素冷媒が流通せしめられる冷媒流路と、かかる二酸化炭素冷媒により加熱される水が流通せしめられる水流路とを有し、それら冷媒流路及び水流路の何れもが、管体によって形成されていると共に、該水流路を形成する水流路管の外周面に、該水流路管よりも小径の、該冷媒流路を形成する冷媒流路管を螺旋状に巻き付けて、それらを熱的に接合してなる構造の給湯用熱交換器であって、該冷媒流路管が、該水流路管の長さ方向における中央部領域において、該水流路管の水入口側領域及び水出口側領域よりも、該水流路管に対して密に巻き付けられていると共に、該水流路管の中央部領域が、該水流路管の長さの40%〜70%を占め且つ水入口側領域及び水出口側領域のそれぞれの長さが、該水流路管の長さの15%〜30%の範囲内となるように構成したことを特徴とする給湯用熱交換器。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱交換媒体であるCO
2 冷媒と水等の流体との間で熱交換する熱交換器として、かかるCO
2 冷媒を流通させる流路(冷媒流路)と熱交換により加熱される水等の流体の流路(水流路)とを、2種の伝熱管を組み合わせて構成し、それら冷媒と水等の流体との間で熱交換が行われ得るようにした熱交換器が、各種用いられてきている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2012−122714号公報)においては、水が流通せしめられる水流路を形成する水流路管の外周面に、かかる水を加熱するための冷媒が流通せしめられる冷媒流路を形成する冷媒流路管を螺旋状に巻き付けて、それらを熱的に接合せしめることにより得られる熱的接合体を用い、更に、その熱的接合体を平面上において渦巻き状に巻くことによって構成される熱交換ユニットを上下方向に複数段配置して、それら各段の熱交換ユニットを構成する水流路管及び冷媒流路管を相互に連通せしめると共に、それら熱交換ユニットにおける水流路管は、水入口から水出口まで、また冷媒流路管は、冷媒入口から冷媒出口までを、それぞれ継手を介して接合されることのない、連続した1本の管体にて、一体に構成されているようにする一方、最上段と最下段の熱交換ユニットには、水流路管の水出入口や冷媒流路管の冷媒出入口がそれぞれ位置せしめられるように構成した給湯用熱交換器が、明らかにされている。
【0004】
そして、このような、高温側の二酸化炭素(CO
2 )冷媒が流れる流路と低温側の水が流れる流路とが互いに熱接触する形態(2重管;水流路管に外巻きされた冷媒流路管のろう付け等)とされて、それら2つの流体が対向する方向の流れを形成した状態で熱交換するように構成された給湯用熱交換器においては、その熱交換性能を上げるために、熱交換器の長さを長くして、単純に熱交換量を増やす手法の他、管内面に溝を形成する等して、管内を流通する流体と熱交換する面積を増加させる手法、或いは接触熱抵抗を低減するために、冷媒側の伝熱管を多条にする手法や、冷媒側伝熱管の巻きピッチを密にする等の、流路同士の接触面積を増加させる手法が、従来から採用されている。
【0005】
具体的には、水側の熱交換効率を高めるために、一般に、水流路管の内面に突起(ディンプル)を形成したり、管外面にスパイラル状の溝を形成したり(これによって管内面にスパイラル状の突条が形成される)することによって、熱交換器の熱交換性能を向上させる手法が、採用されており、また冷媒側の熱交換効率を高める手段としては、冷媒流路管の条数を増やしたり、冷媒流路管の巻きピッチを増やしたりする等の対策が、講じられているのである。そして、そのような管側に施される熱伝達率向上の方策として、水流路管では、スパイラル形状のピッチや溝深さの最適化やディンプルの形成等が実施され、また冷媒流路管では、内面溝付きの溝形状(ねじれ角度、溝深さ、条数、ピッチなど)に工夫が加えられている。
【0006】
また、特許文献2(特開2011−127823号公報)には、内部を流体Aが流れる外管と、この外管内に配設され、内部を流体Bが流れる複数の内管とを備え、かかる外管の一部が螺旋形状とされてなる構造の熱交換器、即ち冷媒流路管が水流路管内に挿通されて構成された多重管式構造の熱交換器が、明らかにされている。そこにおいては、熱交換器の性能向上のための対策として、高温部となる水出側のみを、らせん溝が形成された螺旋管にて構成することが、提案されている。これは、高温部において水の粘度が小さくなることから、そのような螺旋管の使用による熱交換性能の向上を図っても、圧力損失の増加を極力抑えることが可能となり、熱交換器の重量に対する熱交換能力の比が最も大きくなる管式の熱交換器を提供することが出来るのである。
【0007】
このように、水と冷媒の温度差が隔たる低温側(水入口側)において、水流路管側にディンプルを形成したり、高温側(水出口側)で水流路管側にスパイラル管を用いる等、熱伝達率で律速となる水側の性能向上が図られてきたのであるが、前述の特許文献1において明らかにされているように、スパイラル管のピッチや溝深さを最適化することで、水流路管側の熱伝達率は充分に向上せしめられており、水流路管側での対策には限度があるところから、冷媒流路管側において、更なる熱伝達率の向上を図ることが求められているのである。
【0008】
なお、熱交換性能を向上させるために、熱交換器の長さを長くしたり、水流路管の形状を複雑にした場合にあっては、流路管の材料使用量が増加してしまったり、流路管形成のための工数が増えてしまったりするため、熱交換器の生産コストが増加してしまい、更には、水側の圧力損失の増大を惹起するといった問題を内在することとなる。
【0009】
また、今後、更なる省エネ性能が求められ、より一層の熱交換性能の向上が要求されることが予測されるのであるが、それに応えるべく、伝熱面積の増加による伝熱性能の向上のために、熱交換器の長さを長くする手法や管内面に溝を形成する手法、冷媒管の条数を増加させる手法等を採用する場合にあっては、材料費が高騰することとなるところから、より長さの短い熱交換器において、効率よく熱交換することが可能な給湯用熱交換器が、求められてきているのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、水側の圧力損失を増加させることなく、熱交換性能を向上させると共に、コスト増加も出来る限り最小と為し得るようにした給湯用熱交換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明者らは、かかる状況下、給湯用熱交換器における二酸化炭素(CO
2 )冷媒と水との熱交換に際しての温度分布について鋭意検討を重ねた結果、給湯用熱交換器における水流路管の長さ方向において、水と二酸化炭素冷媒の温度分布は、
図3のグラフに示されるように、その中間域において温度変化が緩やかとなる一方、グラフ左側の出湯口側の近くにおいては、急激に上昇する傾向があり、これは、
図4のグラフに示されるように、45℃付近でCO
2 の比熱が急激に増加するため、そのような比熱の高い部位において、局在的に、熱交換が促進されているという事実を見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0013】
すなわち、かくの如き知見に基づいて完成された本発明は、熱交換によって水を加熱するための二酸化炭素冷媒が流通せしめられる冷媒流路と、かかる二酸化炭素冷媒により加熱される水が流通せしめられる水流路とを有し、それら冷媒流路及び水流路の何れもが、管体によって形成されていると共に、該水流路を形成する水流路管の外周面に、該水流路管よりも小径の、該冷媒流路を形成する冷媒流路管を螺旋状に巻き付けて、それらを熱的に接合してなる構造の給湯用熱交換器であって、該冷媒流路管が、該水流路管の長さ方向における中央部領域において、該水流路管の水入口側領域及び水出口側領域よりも、該水流路管に対して密に巻き付けられていると共に、該水流路管の中央部領域が、該水流路管の長さの40%〜70%を占め且つ水入口側領域及び水出口側領域のそれぞれの長さが、該水流路管の長さの15%〜30%の範囲内となるように構成したことを特徴とする給湯用熱交換器を、その要旨とするものである。
【0014】
なお、このような本発明に従う給湯用熱交換器の望ましい態様の一つによれば、前記水流路管として、外周面に螺旋状に設けられたスパイラル溝を有するスパイラル管が用いられることとなる。
【0015】
また、かかる本発明に従う給湯用熱交換器の望ましい態様の別の一つによれば、前記水流路管の水入口側及び水出口側領域における前記冷媒流路管のそれぞれの巻きピッチは、該水流路管の中央部領域における該冷媒流路管の巻きピッチよりも1.6倍乃至(x
2 +1.7x+1.6)倍(但し、xは水流路管の長さを1としたときの中央部領域の長さの比率である)大きくなるように構成されることとなる。
【0016】
さらに、本発明に従う給湯用熱交換器の好ましい態様の一つによれば、前記水流路管の中央部領域は、該水流路管の長さの40%〜50%を占めるように構成されている。
【0017】
更にまた、そのような本発明に従う給湯用熱交換器の別の好ましい態様の一つにあっては、前記水流路管と前記冷媒流路管との熱的接合体が、渦巻き状に巻回されてなる形状に成形されてなる形態において用いられることとなる。
【0018】
また、本発明に従う給湯用熱交換器の他の好ましい態様の一つによれば、前記水流路管における前記水入口側領域と前記水出口側領域とは、同一の長さとされることとなり、更に別の態様の一つによれば、前記水流路管における前記水入口側領域と前記水出口側領域とは、異なる長さとされることとなる。
【発明の効果】
【0019】
従って、このような本発明に従う構成とされた給湯用熱交換器にあっては、冷媒流路管が、水流路管の長さ方向における中央部領域において、該水流路管の水入口側領域及び水出口側領域よりも、該水流路管に対して密に巻き付けられていると共に、該水流路管の中央部領域が、該水流路管の長さの40%〜70%を占め且つ水入口側領域及び水出口側領域のそれぞれの長さが、該水流路管の長さの15%〜30%の範囲内となるように構成されているところから、熱交換によって水を加熱するための二酸化炭素冷媒の比熱が高くなる部位において、効果的に、水と二酸化炭素冷媒との間の熱交換が行われるようになるのであり、以て、水流路管の圧力損失を上昇させることなく、熱交換器の性能を向上させることが可能となると共に、熱交換性能の向上のために必要となる冷媒流路管の使用量の増加を少なくすることが可能となるところから、熱交換器の生産コストの増加も、効果的に抑制することが出来ることとなる。
【0020】
すなわち、水流路管の外周面に冷媒流路管を巻き付けて構成してなる構造の熱交換器において、冷媒流路管の巻き密度を密にして、水流路管と冷媒流路管の接触面積を増加させて、熱交換性能を向上せしめるに際して、単純に、熱交換器の全長に亘って冷媒流路管を密に巻くと、冷媒流路管の使用長さが増え、熱交換器の重量も増大してしまうため、生産コストの増加につながってしまうのであるが、本発明に従う構成とすれば、部分的に冷媒流路管を密に巻くことによって、冷媒流路管の使用長さが必要以上に増えてしまうことを抑えることが可能となるのであり、以て、コストの増加を可能な限り低く抑えることが出来るのである。また、伝熱性能の向上のために、水流路管の長さを長くする必要もないため、水側の圧力損失が増加してしまうといった問題を惹起する恐れもないのである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0023】
先ず、
図1には、本発明に従う給湯用熱交換器の基本的な構成を示す一実施形態が、平面図の形態において、概略的に示されている。そこにおいて、熱交換器10は、その内部が水流路12とされた、大径の管体から形成される水流路管16と、水を加熱するための二酸化炭素冷媒が流通せしめられる冷媒流路14を形成する、小径の管体にて形成された冷媒流路管18とによって構成されており、かかる水流路管16の外周面に、冷媒流路管18が螺旋状に巻き付けられて、それらが熱的に接合されてなる構造となっている。
【0024】
より詳細には、熱交換器10は、
図2にも示される如く、太径の管体から形成される水流路管16の外周面に、細径の冷媒流路管18の1本が、水流路管16の長さ方向(図において左右方向)における中央部領域20においては巻きピッチ:P
1 にて、水流路管16の水入口側領域22及び水出口側領域24においては巻きピッチ:P
2 にて、それぞれ連続的に螺旋状に巻き付けられた構造とされている。そして、それら水流路管16と冷媒流路管18とが、従来と同様に、必要に応じて、はんだやろうにて接合される等して、密接固定されて、熱的に接合されていると共に、水流路管16の内部が水流路12とされ、また冷媒流路管18の内部が冷媒流路14とされている。
【0025】
なお、上記の水流路管16は、銅や銅合金、或いはアルミニウムやアルミニウム合金等の所定の熱伝導率及び所定の機械的強度を有する金属材料を用いて形成され、一般に、外径が9.5〜20mm程度、肉厚が0.6〜1.5mm程度とされた、太径で、断面が円形の管体にて構成されている。また、冷媒流路管18も、かかる水流路管16と同様に、銅や銅合金、或いはアルミニウムやアルミニウム合金等の所定の熱伝導率及び所定の機械的強度を有する金属材料を用いて形成されており、一般に、外径が3.0〜7.0mm程度、肉厚が0.3〜0.9mm程度とされた、細径で、断面が円形の管体にて構成されている。中でも、水流路管16は、好ましくは、外径が10.5〜12.7mm程度、肉厚が0.6〜1.0mm程度とされ、また冷媒流路管18は、好ましくは、外径が3.4〜4.5mm程度、肉厚が0.3〜0.7mm程度とされることとなる。
【0026】
また、このような構成とされた熱交換器10においては、水流路管16の水入口26側から水出口28側に向かって、水流路管16内部(水流路12)を、低温の水が流通せしめられると共に、水流路管16の水出口側領域24部分に配置された冷媒流路管18の一方の端部である冷媒入口32から、水入口側領域22に配置された冷媒流路管18の他方の端部である冷媒出口30へと向かって、冷媒流路管18内(冷媒流路14)を、高温の二酸化炭素(CO
2 )冷媒が、水と対向流となるように流通せしめられるようになっており、これによって、それら水と冷媒との間において熱交換が行われて、水流路12を流れる水が加熱されるようになっている。
【0027】
ここで、上述の如き水流路管16の中央部領域20における冷媒流路管18の巻きピッチ:P
1 は、水入口側領域22及び水出口側領域24における冷媒流路管18の巻きピッチ:P
2 よりも小さくされており、かかる水入口側領域22及び水出口側領域24よりも中央部領域20において、冷媒流路管18が水流路管16に対して密となるように巻き付けられているのである。このように、水流路管16に対する冷媒流路管18の巻きピッチを変化させることによって、熱交換器10を構成するために必要な冷媒流路管18の量(使用量)を、水流路管16の全長に亘って冷媒流路管18を密に巻くよりも少なくすることが可能となるのである。
【0028】
なお、かかる水流路管の中央部領域20における冷媒流路管18の巻きピッチ:P
1 としては、一般に、4mm〜10mm程度、好ましくは、5mm〜7mm程度が採用されることとなるが、水流路管16の水入口側領域22及び水出口側領域24における巻きピッチ:P
2 は、好ましくは、そのような中央部領域20における巻きピッチ:P
1 よりも1.6倍乃至(x
2 +1.7x+1.6)倍(但し、xは水流路管の長さを1としたときの中央部領域の長さの比率である)大きくなるように、冷媒流路管18が巻き付けられることとなる。これは、水入口側領域22及び水出口側領域24における巻きピッチ:P
2 が中央部領域20の巻きピッチ:P
1 より大きくされる割合が1.6倍(即ち1.6P
1 )よりも小さくなると、冷媒流路管18の使用量の減少によるコストダウン効果が充分に発揮され難くなるからであり、また、(x
2 +1.7x+1.6)倍[即ち、(x
2 +1.7x+1.6)P
1 ]よりも大きくなると、水流路管16に対する冷媒流路管18の巻き付けが粗になり過ぎてしまうために、熱交換器10の熱交換性能の低下が著しくなるからである。特に、それら巻きピッチ:P
1 及びP
2 に関して、P
2 は、1.6P
1 以上、(x
2 +1.5x+1.6)P
1 以下であることが望ましいのである。
【0029】
そして、そのような、冷媒流路管18が水流路管16に対して密となるように巻き付けられてなる中央部領域20の長さ:L
1 は、水流路管16の全長:Lに対して、40%〜70%の長さとなるように構成されると共に、かかる中央部領域20の両側に位置する水入口側領域22と水出口側領域24のそれぞれの長さが、水流路管16の長さの15%〜30%の範囲内の長さとなるように構成されている。また、かかる中央部領域の長さL
1 は、好ましくは、水流路管16の長さ:Lの40%〜50%の長さとなるように構成されることとなる。なお、冷媒流路管18が水流路管16に対して密に巻き付けられる中央部領域20の範囲が大きくなり過ぎると、冷媒流路管18の使用量(巻付け量)が増えてしまうためであり、また小さくなり過ぎると、密巻きによる熱交換性能の向上効果が、十分に発揮され難くなるからである。
【0030】
また、ここに示される熱交換器10にあっては、水流路管16の全長:Lの50%の長さ(L
1 =L/2)となる中央部領域20が形成されていると共に、かかる中央部領域20の両側に位置する水入口側領域22及び水出口側領域24が、それぞれ、水流路管16の全長:Lの25%の長さ:L
2 において、形成されているのである。なお、ここでは、それら水入口側領域22及び水出口側領域24の長さは、同じ長さとされているが、これとは異なり、水流路管16の長さの15%〜30%の範囲内の長さとなるように構成されておれば、それぞれ、別個の長さとすることも、勿論可能である。
【0031】
ところで、そのような熱交換器10における中央部領域20の長さが、水流路管16の全長に対して40%〜70%の長さ、好ましくは40%〜50%の長さとなるようにされているのは、以下のような知見に基づくところからである。
【0032】
すなわち、水流路管の外周に冷媒流路管を螺旋状に一定の巻きピッチ(等間隔)で巻き付け、かかる水流路管と冷媒流路管との間をはんだ付けする等して、それらを熱的に接合して構成された熱交換器において、二酸化炭素(CO
2 )冷媒と水とを対向流になるように流通せしめて、それらの間で熱交換を行った際に、熱交換器の全長、換言すれば、水流路管の長さ方向の全長を21分割(20等分)して、それぞれの区画における冷媒温度と水温度を測定すると、
図3に示されるグラフの如き温度変化を示すのである。なお、かかるグラフにおいて、横軸となる水流路管全長に対する位置区分は、1が水流路管における水出口側(出湯側)であり、冷媒流路管における冷媒入口側(高温側)となる。そして、21が、水流路管における水入口側(入水側)であり、冷媒流路管における冷媒出口側(低温側)となるのである。なお、
図4は、10MPaの加圧下における二酸化炭素(CO
2 )の比熱と温度との関係を示すグラフである。
【0033】
また、
図5には、巻きピッチ:10mmにて水流路管の全長に亘って冷媒流路管を巻き付けたものと、水流路管の中央部位領域(水流路管の全長に対して50%の長さ領域)のみを巻きピッチ:6mmとすると共に、残りの部位を巻きピッチ:10mmで巻き付けたものと、水流路管の全長に亘って巻きピッチ:6mmで冷媒流路管を巻き付けたものとに関して、前述のグラフと同様に、水流路管の長さ方向の全長に対して21分割した際の各区分における温度の分布が示されている。更に、
図6には、その温度分布をもとに、長さ方向の区分間での水および冷媒の温度変化が示されている。
【0034】
かかる
図6のグラフにて、水入口側である第21区分から水出口側である第1区分に向かって水の温度変化の挙動をみると、二酸化炭素冷媒の比熱が急激に増加する第16区分から第6区分では、温度変化が低下していることが判る。これは、熱の授受において、冷媒側と水側での交換熱量:Q[kW]は同じであるので、
Q=Cpr・ΔTr・Gr=Cpw・ΔTw・Gw
の関係が成立する。ここで、Cpr:二酸化炭素冷媒の比熱[kJ/(kg・K)]、Cpw:水の比熱[kJ/(kg・K)]、ΔTr:冷媒側の長手方向の区分間温度差[℃]、ΔTw:水側の長手方向の区分間温度差[℃]、Gr:冷媒の流量[L/sec]Gw:水の流量[L/sec]である。
そして、この時、水側の比熱Cpwは変化せず、冷媒側の比熱Cprのみが急速に増加するのであるが、冷媒と水との間の温度差は急激に変化出来ないため、Qの大きな変化がなく、その結果、ΔTrが小さくなるのである。一方、冷媒の比熱:Cprが低下する第6区分以降(第5区分〜第1区分)では、再び、ΔTrが増加するようになる。即ち、第16区分から第6区分の間では、冷媒側の長手方向の温度差がつかないため、水側との温度差が低下して、熱交換量が低下するのである。
【0035】
ところで、冷媒側の面積を増加させる方法としては、巻きピッチを密にする方法があるが、そのような方法に従って、水流路管の全長に亘って巻きピッチを密にすれば、容易に理解出来るように、全体的に熱交換量が増加し、出側の水温は上昇するが、水低温側からみると、短い距離で水温度が上昇し、冷媒側のCprが急激に増加するあたりから、温度上昇が低下し、通常ピッチと同様の傾向を示すようになるのである。一方、50%中央部のみを密に巻いたものは、Cprが急増して、水温度上昇が抑えられるところの温度上昇効果が向上し、同様に温度差が低下する傾向にはあるが、全体に亘って水温が増加し、性能向上が出来ることが判る。即ち、冷媒側において、長手方向に温度差が付きにくくなる中央部領域において冷媒流路管を密巻きにすることで、水流路管の長さ基準において、一定距離での温度変化は、中央部領域のみの密巻きにより、その変化程度の抑制を緩和することが出来、温度差をつけることが出来るため、水側の温度上昇が得られるのである。これらの結果から、水流路管を長さ方向に21分割した第6区画から第16区画の間の区間あたり、即ち水流路管の全長における中央部領域を中心に、全長の40%から70%部分において冷媒流路管を密に巻くことで、水流路管の全長に亘って冷媒流路管を密巻きにする効果に近い性能を得ることが出来ることとなる。
【0036】
従って、このような本発明に従う構成とされた熱交換器10によれば、熱交換によって水を加熱するための二酸化炭素冷媒の比熱が比較的高くなる、水流路管16の長さ方向の中央部位領域において、冷媒流路管18が密に巻き付けられているところから、かかる部位において効果的に水と冷媒との熱交換が行われるようになり、以て、水流路管16の圧力損失を上昇させることなく、熱交換器の性能を向上させることが可能となるのである。そして、そのように、熱交換が効率的に行われる部位にのみ、冷媒流路管18を密に巻き付けることで、熱交換器10の熱交換性能を向上させるために必要となる冷媒流路管18の使用量の増加を少なくすることが出来るところから、熱交換器の生産コストの増加も、効果的に抑制することが可能となるのである。
【0037】
以上、本発明の代表的な実施形態の一つについて詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0038】
例えば、前述の実施形態においては、水流路管16として、略円形の断面形状をもつ平滑管を用いたが、その他にも、従来から給湯用熱交換器において好適に用いられている各種の伝熱管、例えば、外周面に所定深さの溝(内周面には、それに対応する突条)が螺旋状に設けられた管、所謂スパイラル管を採用することも、勿論可能である。このようなスパイラル管を水流路管16として採用することにより、水側の熱伝達効率を向上させて、熱交換器10の熱交換性能を、更に効果的に向上させることが可能となる。
【0039】
また、例示の実施形態においては、水流路管16の外周面に、1本の冷媒流路管18を螺旋状に巻き付けたが、そのように巻き付けられる冷媒流路管18の本数を、複数本とすることも可能である。例えば、特許文献1(特開2012−122714号公報)にて明らかにされているように、水流路管(16)の外周面に3本の冷媒流路管(18)を巻き付けて、熱交換器を構成する熱的接合体を形成して、それによって、熱交換器10を構成することが可能である。なお、このように、複数本の冷媒流路管18が水流路管16の外周面に巻き付けられる場合において、水流路管16の中央部領域20や水出入口側領域22,24における冷媒流路管18の巻きピッチ:P
1 及びP
2 は、それぞれ、当該領域において巻き付けられた冷媒流路管18の隣接位置するもの同士の間の間隔(芯間距離)として理解されるべきである。
【0040】
さらに、ここでは、水入口側領域22と水出口側領域24における水流路管16の外周面に対する冷媒流路管18の巻きピッチ:P
2 が、同じピッチとされているが、中央部領域20の巻きピッチ:P
1 よりも粗となるようになっておれば、それぞれ異なる巻きピッチとすることが可能である。
【0041】
更にまた、かかる実施形態においては、説明を容易とするために、直線的な水流路管16の外周に対して冷媒流路管18を巻き付けた熱交換器10を例示したが、
図7に示される如く、水流路管16と冷媒流路管18との熱的接合体を渦巻き状に巻くことによって構成される渦巻き状の給湯用熱交換器40とすることも可能である。
【0042】
すなわち、
図7に示されるように、水流路管16の外周に冷媒流路管18(ここでは図示せず)の1本又は複数本が螺旋状に巻き付けられて熱的に接合された熱的接合体を、平面上において、各角部(曲げ部42)を所定の曲率半径:Rにて曲げて、略矩形状の渦巻き状に巻くことによって、目的とする熱交換器40が形成されているのである。なお、曲げ部42の曲率半径:Rは、管内を流れる各流体の圧力損失が高くなり過ぎないような値とされるのであるが、一般に、水流路管16の外径の2倍〜20倍程度の大きさとされることとなる。
【0043】
なお、ここに例示の給湯用熱交換器40における水流路管16の曲げ部42の曲率半径:Rは、全て同じ大きさとされているが、それぞれ異なる曲率半径の曲げ部(42)とすることも、勿論可能である。そして、熱交換器40の形状にあっても、例示した矩形形状の渦巻き形状に限られるものではなく、円形形状、その他の多角形形状の渦巻き形状とすることも可能であり、渦巻きの巻き回数についても、図示した形態に限られるものではないことが理解されるべきである。
【0044】
そして、本発明にあっては、それら例示した熱交換器10や給湯用熱交換器40の如き形状の給湯用熱交換器においてのみ実施されるものではなく、公知の各種のタイプの給湯器用熱交換器を採用することが可能である。
【0045】
その他、一々列挙はしないが、本発明が、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施されるものであり、またそのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
【0047】
−実施例1−
先ず、本発明に従う給湯用熱交換器を作製するために、水流路管として、外径:10.52mm、肉厚:0.8mm、外周面にスパイラルピッチ:7mm、溝深さ:0.7mmの螺旋状に延びる溝が形成された、りん脱酸銅からなるスパイラル管を用意した。一方、冷媒流路管として、外径:4.0mm、肉厚:0.4mm、りん脱酸銅からなる平滑管を用意した。そして、このように準備された水流路管と冷媒流路管とを用いて、水流路管の外周面に対して、4本の冷媒流路管を、後述する2種類の巻きピッチを種々組み合わせて、螺旋状に巻き付け、更にそれら水流路管と冷媒流路管とをハンダ付けすることによって熱的に接合して、それぞれの熱的接合体を準備した。
【0048】
次いで、このように準備された熱的接合体を、
図7に示される如く、矩形の渦巻き状に巻回することによって、水流路管の全長が9.5mとなる給湯器用熱交換器を構成した。
【0049】
ここで、水流路管に対する冷媒流路管の巻付け条件を、下記表1に示される如き組み合わせとして、各種の給湯用熱交換器を作製し、それぞれ供試熱交換器No.1〜No.6とした。なお、No.2〜No.5の熱交換器においては、水流路管の外周に対して冷媒流路管の巻付けの途中に、巻きピッチを変更して、水流路管の長さ方向における所定の部位において、異なる巻きピッチとされた熱交換器となるようにした。
【0050】
【表1】
【0051】
このように準備した供試熱交換器No.1〜No.6において、冷媒流路管には、二酸化炭素冷媒(R744)を流通せしめる一方、水流路管には、冷媒の流通方向とは対向する方向に、17℃の冷水を流通せしめて、かかる冷水の温度上昇を測定し、各熱交換器の熱交換性能を求めた。ここで、二酸化炭素冷媒の入口温度は80℃、圧力は10MPa、出口温度は20℃とし、更に17℃の冷水の水流量は1.3kg/minとして、水の温度上昇:ΔTを測定し、下記式(1)を用いて、熱交換量:Qを求めた。なお、下記式(1)において、Cpは水の比熱であり、水流量は、1秒あたりの水流量にするために60で除算されている。
Q=1.3/60×Cp×ΔT (1)
【0052】
なお、ここでは図示しないが、冷媒の流路には、圧縮機や膨張弁、蒸発器が配設され、更に加熱器であるスーパーヒート(SH)が配設されて、冷凍サイクルが構成されている。即ち、圧縮機出口にSHが繋がれ、そしてSHの出口が供試熱交換器の冷媒流路管の冷媒入口に接続され、更に冷媒流路管の冷媒出口が膨張弁へと繋がれ、そして膨張弁から蒸発器に接続された後、蒸発器から圧縮機へと接続されることによって、冷凍サイクルが構成されているのである。また、かかる冷媒流路の途中において、熱交換器と膨張弁の間には、流量センサが取り付けられて、冷媒流量が測定されるようになっている。
【0053】
一方、水流路側では、一定温度に調節されたタンクからポンプでくみ上げられた水が、途中に流量計を配設してその流量を測定しつつ、熱交換器の水流路管の水入口に導入されるようになっていると共に、水流路管の水出口から排出される水が配管を経てタンクに戻されるようにして、水の循環システムが構成されている。ここで、熱交換器の両流体の出入口には、温度センサと圧力センサが設置され、それらの出入口での水と冷媒の温度や圧力が測定されるようになっており、また水流路側には、差圧計が設置されて、水の出入口間の圧力差も測定されるようになっている。
【0054】
そして、それぞれの供試熱交換器において、おおよその負荷に相当する冷媒流量が計算される。但し、このとき、冷媒入口の圧力は10MPa、温度は80℃とされ、出口温度は20℃とされる。そして、供試熱交換器の冷媒出入口のエンタルピーを求めて、その差に冷媒質量流量を乗じて、熱交換量を算出して、負荷にバランスさせることで、冷媒流量が求められる。この冷媒流量におおよそ等しくなるように調整弁をコントロールして、熱交換器出口の温度が所定の値となるように微調整される。蒸発器は、出側でおおよそ4MPaになるようにヒーターを調節して、蒸発器の入出のエンタルピー差に冷媒流量を乗じた熱量が、負荷におおよそバランスするようにされた。
【0055】
また、圧縮機出側の温度を更に上げて、供試熱交換器の入口温度を所定温度にするために、SH(スーパーヒート)で加熱して、調整される。即ち、供試熱交換器において、負荷側の水を一定流量流して、上記熱バランスがとれる状態をつくって安定した状態にて、各温度、圧力、流量を計測して、熱交換量が求められた。
【0056】
このようにして求めた各供試熱交換器の熱交換量について、水流路管の全長に亘って冷媒流路管が巻きピッチ:10mmにて巻かれたNo.1の熱交換器の熱交換量を基準(100.0%)として、各熱交換器の熱交換量との比を求めて、熱交換性能(%)として、下記表2に示した。
【0057】
【表2】
【0058】
かかる表2の結果から、供試熱交換器No.2やNo.5において、熱交換性能の向上効果が大きく発揮されることが判る。即ち、冷媒比熱が高い領域において冷媒管を密巻きにすることによって、熱交換性能をより効果的に高めることが可能であることが確認出来たのである。
【0059】
−実施例2−
別の実施例として、中央部領域における冷媒流路管の巻きピッチは一定のまま、水入口側領域と水出口側領域(中央部領域の両側の領域)における巻きピッチを変化させた場合の熱交換性能について、性能評価試験を行った。即ち、実施例1と同一の寸法、材質とされた水流路管と冷媒流路管をそれぞれ準備し、それらを用いて、中央部領域の長さが水流路管の全長の40%とされ、かかる中央部両側の領域の長さがそれぞれ30%とされた熱交換器を、下記表3に示される如き巻きピッチにおいて、実施例1と同様にしてそれぞれ作製し、それらを供試熱交換器No.7〜No.10とした。更に、中央部領域の長さが水流路管の全長の70%とされ、かかる中央部両側の領域の長さがそれぞれ15%とされた熱交換器を、下記表4に示される如き巻きピッチにおいてそれぞれ作製し、それらを供試熱交換器No.11〜No.14とした。なお、これら供試熱交換器No.7〜No.14における巻きピッチや各領域の長さ以外の各諸元は、実施例1において作製した熱交換器と同一とした。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
このようにして準備された供試熱交換器No.7〜No.14に対して、実施例1と同様の条件下において熱交換性能測定試験を実施し、各供試熱交換器の熱交換量を求めた。更に、実施例1と同様にして、供試熱交換器No.7〜No.10に関しては、実施例1におけるNo.2と同一の諸元とされたNo.7の熱交換器の熱交換量を基準(100%)として、各熱交換器の熱交換量との比を熱交換性能(%)として求めて、その結果を、下記表5に示した。また、供試熱交換器No.11〜No.14に関しては、実施例1におけるNo.5と同一の諸元とされたNo.11の熱交換器の熱交換量を基準(100%)として、各熱交換器の熱交換量との比を熱交換性能(%)として求めて、その結果を、下記表6に示した。
【0063】
【表5】
【0064】
【表6】
【0065】
ここで、水入口側領域と水出口側領域の巻きピッチを、中央部領域よりも粗にすることによる熱交換器の性能低下の許容値を、0.2%と仮定すると、これら表5及び表6の結果より、No.8、No.12〜No.14までのものが許容範囲内の値となっていることが確認出来る。即ち、中央部領域の40%を巻きピッチ:6mmで密巻きした給湯用熱交換器にあっては、水入口側領域と水出口側領域の巻きピッチを12mmまで粗とすることが出来、一方、中央部領域の70%を巻きピッチ:6mmで密巻きした給湯用熱交換器にあっては、水入口側領域と水出口側領域の巻きピッチを18mmまで粗とすることが出来るのである。