(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の化成処理から得られた化成皮膜はフェノール樹脂を含有する有機−無機複合系の皮膜である。このような皮膜は、耐食性や封止性を高めることに対応した結果として、電気化学エネルギーデバイスの部品としての他の基本特性、特に電気的特性や生産性が犠牲になるという問題があった。
【0007】
本発明は、電気化学エネルギーデバイスの接続部材の新たな製造方法を提供することを目的とする。また、上記の製造方法により製造された接続部材およびその接続部材を備える電気化学エネルギーデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために提供される本発明は次のとおりである。
(1)電気化学エネルギーデバイスの接続部材の製造方法であって、前記電気化学エネルギーデバイスは、正極、負極、絶縁部材、および非水電解質を備えるデバイス本体と、ヒートシール層を有し当該ヒートシール層により前記デバイス本体を封止する外装体とを備え、前記接続部材は、前記ヒートシール層により挟持されるべき封止部、前記正極および前記負極の一方に対する接続用部分を有し前記外装体内に収容されるべき内設部、および前記封止部よりも外側に位置するべき外設部からなり、前記内設部は、前記接続部材の基材上に形成された表面処理層を備え、電解液可溶性Cr含有物質を含有する電解液内で、前記接続部材の基材を陰極電解して前記表面処理層を形成すること
を備え、前記表面処理層のCr含有量は15mg/m2以上であり、前記基材はアルミニウム系材料からなり、前記内設部の前記表面処理層からなる表面を測定対象として、電気化学インピーダンス法により複素インピーダンスを測定したときに、1Hzの条件で測定された前記複素インピーダンスの実部の値(単位:Ω)に対する、10mHzの条件で測定された前記複素インピーダンスの実部の値(単位:Ω)の比率である第一比率が0.1以下であることを特徴とする接続部材の製造方法。
【0010】
(2)前記表面処理層は六価クロムおよびフッ素含有物質を含有しない、
上記(1)に記載の接続部材の製造方法。
【0011】
(3)前記表面処理層は、有機系造膜性材料に由来する成分を含有しない、
上記(1)または(2)に記載の接続部材の製造方法。
【0014】
(4)前記接続部材の封止部および外接部の少なくとも一方も前記表面処理層を備える、
上記(1)から(3)のいずれかに記載の接続部材の製造方法。
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに記載される製造方法により製造された接続部材。
【0016】
(6)電気化学エネルギーデバイスであって、正極、負極、絶縁部材、および非水電解質を備えるデバイス本体と、ヒートシール層を有し当該ヒートシール層により前記デバイス本体を封止する外装体と、
上記(5)に記載される接続部材とを備え、前記接続部材は、前記封止部において前記ヒートシール層により挟持されることを特徴とする電気化学エネルギーデバイス。
【0017】
(7)前記電気化学エネルギーデバイスは、二次電池または電気二重層コンデンサである、
上記(6)に記載の電気化学エネルギーデバイス。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電気化学エネルギーデバイスの接続部材の製造方法、当該製造方法により製造された接続部材および当該接続部材を備える電気化学エネルギーデバイスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、電気化学エネルギーデバイスの接続部材を「タブ」ともいう。本発明の一実施形態に係るタブを備える電気化学エネルギーデバイスは、タブ以外に、正極、負極、絶縁部材、および非水電解質を備えるデバイス本体と、ヒートシール層を有し当該ヒートシール層によりデバイス本体を封止する外装体とを備える。
【0021】
電気化学エネルギーデバイスとして、放電可能なデバイスおよび繰り返しの充放電が可能なデバイスが例示される。繰り返しの充放電が可能デバイスの具体例として、リチウムイオン電池等の二次電池、電気二重層コンデンサなどが挙げられる。リチウムイオン電池についてさらに具体例を示せば、酸化鉄リチウムイオン二次電池、リン酸鉄リチウムイオン電池、コバルトリチウム二次電池、マンガンリチウム二次電池、ニッケルコバルトリチウム二次電池などが挙げられる。
【0022】
デバイス本体の具体的な構造や構成要素の組成は、電気化学エネルギーデバイスの種類に応じて適宜設定される。例えば、電気化学エネルギーデバイスがリチウムイオン電池である場合には、正極は、アルミニウム、ニッケル等から構成される正極集電材;および金属酸化物、カーボンブラック、金属硫化物、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子正極材料などから構成される正極活性物質層を備える。負極は、銅、ニッケル、ステンレス等から構成される負極集電材;およびリチウム金属、合金、カーボン、電解液、ポリアクリロニトリル等の高分子負極材料などから構成される負極活性物質層を備える。絶縁部材は、イオン伝導性を保持するポリオレフィン系の多孔膜などから構成される。非水電解質は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロドフランなどの有機溶媒に、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAsF
6等を溶解させた非水電解液や、リチウムイオン伝導性の固体電解質などから構成される。
【0023】
外装体は、デバイス本体を封止するという機能を果たすことが可能であること、およびヒートシール層を有することを満たしている限り、具体的な構成は限定されない。通常、アルミニウム系材料、ステンレス合金などからなるシート材の両面を、ポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂などの樹脂系材料からなるフィルム材で挟んでなる積層構造体が、外装体の主要な構成材料として用いられる。ヒートシール層を構成する材料は特に限定されない。例えば、先行技術文献1に開示されるような、不飽和カルボングラフトポリオレフィン系樹脂、金属イオン架橋ポリエチレン、エチレンまたはプロピレンとアクリル酸またはメタクリル酸との共重合物(エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)などが具体例として挙げられる。)、およびこれらの変性物が例示される。
【0024】
タブは、デバイス本体にて発生した電気的エネルギーを外部に取り出す、または外部からデバイス本体に電気的エネルギーを導入するという機能(以下、この機能を「導電機能」という。)を有することから、ヒートシール層により挟持されるべき封止部、正極および負極の一方に対する接続用部分を有し外装体内に収容されるべき内設部、および封止部よりも外側に位置するべき外設部からなる。電気化学エネルギーデバイスがタブに組み込まれたときには、タブは、封止部においてヒートシール層により挟持され、内設部は外装体内に収容されて接続用部分にて正極および負極の一方に接続され、外設部は外装体から突出した状態となる。
【0025】
タブの基材は限定されない。通常、アルミニウム系材料、銅系材料、ニッケル系材料、ステンレス系材料などが用いられる。鉄系材料や銅系材料上にニッケルなどの金属系材料のめっき層が形成されたものが基材として用いられてもよい。アルミニウム系材料は、入手のしやすさ、加工性、コストの低さなどの観点から、タブの基材として最も好ましい材料の一つである。
【0026】
タブの内設部は、デバイス本体の非水電解質に接する可能性があり、さらに、非水電解質の加水分解物、例えばフッ化水素などの腐食性物質に接する可能性がある。したがって、タブの内設部の表面は、耐食性に優れた材料から構成されていることが必要とされる。この観点から、先行技術文献1に開示されるタブには、フェノール樹脂とフッ化クロム(3)化合物とリン酸とからなる水溶液を用いて化成処理が施されている。
【0027】
ところが、上記の化成処理から得られた化成皮膜はフェノール樹脂を含有する有機−無機複合系の皮膜である。このような皮膜は、タブの内設部に求められる耐食性および封止部に求められる封止性を高めることに対応した結果として、電気化学エネルギーデバイスの部品としての他の基本特性、特に電気的特性や生産性が犠牲になっていた。
【0028】
すなわち、上記の化成処理から得られた有機−無機複合系の皮膜は電気抵抗性の皮膜であるところ、タブの内設部は正極または負極に接合されるが、この接合の際に、内設部が備えるこの電気抵抗性の化成皮膜を除去するための特段の作業が行われることはない。このため、上記の有機−無機複合系の化成皮膜またはこれに基づく物質は、内設部の基材と正極または負極との間で導電性を低下させ、タブが備えるべき導電機能の低下をもたらす。
【0029】
また、上記の有機−無機複合系の化成皮膜は、耐食性を高める観点から、皮膜の厚さが増大する傾向があった。このため、化成処理液の塗膜の厚さも増大し、フェノール樹脂を硬化させるために行われる加熱処理に要する時間が長くなるという生産性に関する問題があった。
【0030】
本発明の一実施形態に係るタブの内設部は、後述するように、電解液可溶性Cr含有物質を含有する電解液内で、接続部材の基材が陰極電解されることにより形成された表面処理層を備える。タブの内設部のみならず、他の部分、封止部および外接部の少なくとも一方、好ましくは双方が上記の表面処理層を備えることが好ましい。
【0031】
本発明の一実施形態に係るタブの内設部は、Cr含有量が5mg/m
2以上である表面処理層を備えてもよい。上記のCr含有量が5mg/m
2以上であることにより、本発明の一実施形態に係るタブの内設部は、優れた耐食性を備えることができる。優れた耐食性を備える内設部を有するタブをより安定的に得る観点から、本発明の一実施形態に係るタブの内設部は、Cr含有量が10mg/m
2以上であることが好ましく、Cr含有量が15mg/m
2以上であることがより好ましく、Cr含有量が20mg/m
2以上であることがさらに好ましく、Cr含有量が50mg/m
2以上であることが特に好ましい。
【0032】
本発明の一実施形態に係るタブの基材がアルミニウム系の材料からなる場合には、その内設部の表面処理層からなる表面を測定対象として、電気化学インピーダンス法により複素インピーダンスを測定したときに、1Hzの条件で測定された複素インピーダンスの実部の値(単位:Ω)に対する、10mHzの条件で測定された複素インピーダンスの実部の値(単位:Ω)の比率(本明細書において「第一比率」ともいう。)が5以下であってもよい。第一比率が5以下である場合には、本発明の一実施形態に係るタブの内設部は、これに接続される負極または正極との間での導電性に優れると期待される。優れた導電機能を備えるタブをより安定的に得る観点から、本発明の一実施形態に係るタブの内設部は、第一比率が2以下であることが好ましく、第一比率が1未満であることがより好ましく、第一比率が0.5以下であることがさらに好ましく、第一比率が0.1以下であることが特に好ましい。第一比率が1未満である場合には、本発明の一実施形態に係るタブの表面処理層は導電体としての性質を有している可能性が高くなる。したがって、第一比率が1未満である場合には本発明の一実施形態に係るタブは導電機能に特に優れると期待される。
【0033】
電解液可溶性Cr含有物質を含有する電解液内で、接続部材の基材が陰極電解されることにより形成されたものである限り、本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層を構成する材料の構成(組成、構造)は特に限定されない。近年の環境保護の観点から、本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層は、六価クロムおよびフッ素含有物質を実質的に含有しないことが好ましい。本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層は、上記の複素インピーダンスの実部に関する条件を満たす限り、フェノール樹脂のような有機系造膜性材料に由来する成分(以下、「有機造膜成分」ともいう。)を含有してもよい。ただし、上記の複素インピーダンスの実部に関する条件を満たすことを容易にする観点から、本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層は、有機造膜成分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0034】
本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層の製造方法は、電解液可溶性Cr含有物質を含有する電解液内で、タブの基材を陰極電解することにより、表面処理層を形成することを備える。すなわち、本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層は、一具体例において、電解液可溶性Cr含有物質を含有する電解液内で、タブの基材が陰極電解されることにより形成されたものである。かかる表面処理層の形成方法は、前述のフェノール樹脂を含有する水溶液を用いた表面処理層の形成方法に比べて、樹脂を硬化させる工程が必要とされないため、生産性に優れる。本明細書において、「電解液可溶性Cr含有物質」とは、クロムを含有する物質であって、電解液中に溶解した状態にある物質を意味する。「電解液可溶性Cr含有物質」に含有されるクロムは三価クロムであることが好ましい。電解液可溶性Cr含有物質の具体例として、三価クロムの水和イオンなどが例示される。
【0035】
電解液可溶性Cr含有物質を与える物質であるクロム源は限定されない。クロム源として、塩化クロム、硝酸クロム、リン酸クロム、酢酸クロム、硫酸クロムなどが具体例として挙げられる。
【0036】
電解液可溶性Cr含有物質の含有量は、表面処理層の形成のしやすさの観点からクロム換算で1.5g/L以上とすることが好ましい。上限は特に限定されないが、過度に多く含有させることは経済性の観点や廃液処理の観点から問題を生ずるおそれがあるため、7g/L程度を上限とすることが好ましい。
【0037】
上記の電解液は、電解液可溶性Cr含有物質以外の物質を含有してもよい。そのような物質として、金属イオン、有機酸およびその酸イオン、無機酸およびその酸イオン、ポリフェノール、無機コロイド、シランカップリング剤、硫黄化合物、ならびにフッ素化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上を含んでもよい。また、ワックスなどポリマー、腐食抑制剤、ジオール、トリオール、アミンなどの界面活性剤、可塑性分散、染料、顔料、金属色素生成剤などの色素生成剤、乾燥剤および分散剤からなる群から選ばれる1種または2種以上の材料をさらに含有していてもよい。
【0038】
金属イオンとしては、Co,Ni、Na、K、Ag、Au、Ru、Nb、Ta、Pt、Pd、Fe、Ca、Mg、Zr、Sc、Ti、Mn、Cu、Zn、Sn、Y、Nb、Mo、Hf、Ta、VおよびWのイオンが例示される。金属イオンの電解液中の形態は、電解液中に溶解している限り、特に限定されない。水和イオンの形態であってもよいし、タングステン酸イオンのように酸素酸イオンの形態で存在していてもよいし、他の形態であってもよい。電解液中の金属イオンの含有量は特に限定されない。かかる含有量は金属イオンの機能に応じて適宜設定されるべきものである。通常、金属換算で、0.01g/Lから50g/Lの範囲で設定される。
【0039】
有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸;トリカルバリル酸等のトリカルボン酸;グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸等のヒドロキシカルボン酸;およびグリシン、アラニン等のアミノカルボン酸が例示される。
【0040】
無機酸としては、塩化水素酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等のハロゲン化水素酸;塩素酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の塩素酸類;硫酸、亜硫酸等の硝酸類;硝酸、亜硝酸等の硝酸類;リン酸(オルトリン酸)、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、ウルトラリン酸、次亜リン酸、および過リン酸等のリン酸類が例示され、特にハロゲン化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸(オルトリン酸)からなる群から選ばれる一種または二種以上の無機酸が陰イオンとして含有されることが好ましい。本明細書において、無機酸には、有機構造を有する無機酸も含まれるものとする。そのような無機酸の具体例として、有機スルホン酸、有機ホスホン酸などが例示される。
【0041】
これらの酸および/または酸イオンの電解液中濃度は、特に限定されない。一般的には、Crイオンおよび上記の金属イオンの合計モル濃度に対するこれらの酸および/または酸イオンの合計モル濃度の比率として、0.1〜10であり、好ましくは、0.5〜3である。
【0042】
表面処理層が微量の六価クロムを含有する場合であっても、電解液がポリフェノールを含有する場合には、電解液から形成された表面処理層から六価クロムが溶出する可能性を低減させることが可能である。そのような機能を有するポリフェノールとして、ピロガロール、5−メチルピロガロール等の芳香環に結合する水素がアルキル基等に置換された化合物、2,6−ジメトキシフェノールのようにピロガロールの水酸基が置換された化合物など、ピロガロール系化合物が例示される。ピロガロール系化合物は、有機ホスホン酸化合物(有機ホスホン酸、有機ホスホン酸塩および有機ホスホン酸イオンからなる群から選ばれる1種以上の化合物)が存在することにより特に優れた六価クロム溶出抑制機能を果たす場合もある。
【0043】
無機コロイドとして、シリカゾル、アルミナゾル、チタンゾル、ジルコニアゾルが例示され、シランカップリング剤として、ビニルトリエトキシシランおよびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。
【0044】
硫黄化合物には、亜硫酸、その塩、重亜硫酸、およびその塩のほか、−SH(メルカプト基)、−S−(チオエーテル基)、>C=S(チオアルデヒド基、チオケトン基)、−COSH(チオカルボシル基)、−CSSH(ジチオカルボシル基)、−CSNH
2(チオアミド基)、−SCN(チオシアネート基、イソチオシアネート基)を含む有機物または無機物が例示され、具体的には、チオグリコール酸アンモン、チオグリコール酸、チオマレイン酸、チオアセトアミド、ジチオグリコール酸、ジチオグリコール酸アンモン、ジチオジグリコール酸アンモン、ジチオジグリコール酸、システィン、サッカリン、チアミン硝酸塩、N,N−ジエチル−ジチオカルバミン酸ソーダ、1,3−ジエチル−2−チオ尿素、ジピリジン、N−チアゾール−2−スルファミルアマイド、1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−チアゾリン−2−チオール、チアゾール、チオ尿素、チオゾール、チオインドキシル酸ソーダ、o−スルホンアミド安息香酸、スルファニル酸、オレンジ−2、メチルオレンジ、ナフチオン酸、ナフタレン−α−スルホン酸、2−メルカプトベンゾチアゾール、1−ナフトール−4−スルホン酸、シェファー酸、サルファダイアジン、ロダンアンモン、ロダンカリ、ロダンソーダ、ロダニン、硫化アンモン、硫化ソーダ、硫酸アンモン、チオグリセリン、チオ酢酸、チオ酢酸カリウム、チオ二酢酸、3,3−チオジプロピオン酸、ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびチオセミカルバジドが例示される。
【0045】
前述のように、本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層は六価クロムおよびフッ素含有物質を実質的に含有しないことが好ましいことから、本発明の一実施形態に係る電解液も、六価クロムおよびフッ素含有物質を実質的に含有しないことが好ましい。また、本発明の一実施形態に係るタブの内設部の表面処理層は有機造膜性成分を実質的に含有しないことが好ましいことから、本発明の一実施形態に係る電解液も、有機造膜成分を形成するための成分を実質的に含有しないことが好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態に係る電解液の溶媒は水を主成分とする。水以外の溶媒としてアルコール、エーテル、ケトンなど水への溶解度が高い有機溶媒を混在させてもよい。この場合には、電解液全体の安定性の観点から、その比率は全溶媒に対して10体積%以下とすることが好ましい。
【0047】
電解液の液性は限定されない。電解液の組成によっては、その安定性を高める観点から、pHは酸性とすることが好ましい場合もある。
【0048】
陰極電解の条件も特に限定されない。電解液の組成を考慮しつつ、電流密度、処理時間、処理温度などを適宜設定して、前述のCr含有量に関する条件を満たすような表面処理層を製造すればよい。電流密度が過度に低い場合には、処理時間が長くなって生産性の低下をもたらすおそれがあり、電流密度が過度に高い場合には、
電解液の組成によっては異常析出が生じる可能性が高まることがある。電流密度の具体的な範囲の例として、0.1A/dm
2(以下、A/dm
2を「ASD」ともいう。)以上50ASD以下が挙げられ、好ましい範囲として、0.1ASD以上10ASD以下が挙げられ、より好ましい範囲として、0.4ASD以上5ASD以下が挙げられる。処理時間は1分間以下、好ましくは40秒間以下程度となるように設定することが、生産性を高める観点から好ましい。処理温度が過度に高い場合には、電解液の濃度管理が困難となることもあり、処理温度が過度に低い場合には、所望のCr量(5mg/m
2以上)の表面処理層を得るために必要な電流密度が増加する、処理時間が長くなるといった生産性に関する問題を生じる可能性が高まる。処理温度は、室温(23℃)から50℃程度の範囲で行うことが生産性を高める観点から好ましい。
【0049】
陰極電解の際に用いられる陽極の種類は特に限定されない。陰極電解により表面処理層内に析出する金属元素がCrを含むことから、不溶性陽極であることが好ましい。不溶性陽極を用いる場合の具体的な構造は限定されない。不溶性陽極として、チタン基体上に白金族またはその酸化物からなる表面層を形成したものが例示される。
【0050】
電解処理は、タブを個別に電解液に浸漬させて陰極電解を行ってもよいし、バレルなどを用いて同時に複数のタブに対して陰極電解を行ってもよい。あるいは、複数のタブを与えうる帯状の素材(フープ材)に対して連続的に陰極電解を行ってもよい。
【0051】
陰極電解される基材は、常法に従って脱脂および水洗を行ってもよい。前処理として電解処理を行ってもよい。電解処理後に、常法に従って、洗浄および乾燥を行えば、基材上に表面処理層が形成される。
【0052】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0053】
例えば、上記の表面処理層は、内設部のみならず、封止部および外接部も有していてもよい。生産性を高める観点から、タブの全面が表面処理層を有していることが好ましい場合もある。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
タブの基材として45mm×70mm×厚さ400μmのアルミニウム材(A1050)を基材として用意した。25℃の脱脂液(ユケン工業社製「パクナエレクターFL」50g/LおよびNaOH50g/L含有)に基材を浸漬し、不溶性陽極(鉄板)を用いて、電流密度1ASDで10秒間陰極電解することにより脱脂を行った。脱脂後の基材を流水で洗浄した。
【0056】
次に、洗浄後の基材に対して、40℃に液温を維持したKOH100g/L水溶液に20秒間浸漬させるソフトエッチングを行った。ソフトエッチングを経た基材を流水で洗浄した。
【0057】
続いて、洗浄後の基材に対して、35℃の電解液(ユケン工業社製「メタスYFA−BM」標準組成、溶媒:水、pH2)に基材を浸漬し、不溶性陽極(Pt・Ti)を用いて、電流密度0.4ASDで30秒間陰極電解した。陰極電解後の基材を流水で洗浄し、圧縮空気で水切りを行った後、300秒間の熱風乾燥(温度:80℃)を行った。
こうして、基材の全面に表面処理層を備えるタブを得た。
【0058】
(実施例2)
陰極電解の電流密度を0.5ASDとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、基材の全面に表面処理層を備えるタブを得た。
【0059】
(実施例3)
陰極電解の電流密度を0.6ASDとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、基材の全面に表面処理層を備えるタブを得た。
【0060】
(実施例4)
陰極電解の電流密度を0.7ASDとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、基材の全面に表面処理層を備えるタブを得た。
【0061】
(比較例1)
陰極電解の電流密度を0.3ASDとしたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、基材の全面に表面処理層を備えるタブを得た。
【0062】
(比較例2)
45mm×70mm×厚さ400μmのアルミニウム材(A1050)を用意した。25℃の脱脂液(ユケン工業社製「パクナエレクターFL」50g/LおよびNaOH50g/L含有)に基材を浸漬し、不溶性陽極(鉄板)を用いて、電流密度1ASDで10秒間陰極電解することにより脱脂を行った。脱脂後の基材を流水で洗浄し、圧縮空気で水切りを行った後、300秒間の熱風乾燥(温度:80℃)を行って、基材からなる比較用のタブを得た。
【0063】
(比較例3)
実施例1と同様に45mm×70mm×厚さ400μmのアルミニウム材(A1050)を用意した。25℃の脱脂液(ユケン工業社製「パクナエレクターFL」50g/LおよびNaOH50g/L含有)に基材を浸漬し、不溶性陽極(鉄板)を用いて、電流密度1ASDで10秒間陰極電解することにより脱脂を行った。脱脂後の基材を流水で洗浄した。得られた洗浄後の基材に対して特許文献1の実施例1と同様の処理を行って、基材とフェノール樹脂を含有する化成皮膜とからなる比較用のタブを得た。
【0064】
(試験例1)Cr析出量の測定
実施例および比較例にて作製したタブのCr析出量を次の方法により測定した。硝酸水溶液(20%、25℃)中に、15分間タブを浸漬させて、基材上の表面処理層を、基材(アルミニウム材)ごと溶解させた。得られた硝酸水溶液中のCr量を、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置(SIIナノテクノロジー社製「SPS5520」)を用いて測定し、得られた結果から、Cr析出量(単位:mg/m
2)を算出した。
測定結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
(試験例2)電気化学インピーダンス法による複素インピーダンスの実部の測定
実施例1および3ならびに比較例1から3により作製したタブ(面積:300mm
2)を、5質量%のNaCl水溶液(温度:25℃)中に浸漬して、白金電極(電極面積:300mm
2)を対極として、印加電圧を20mVとして、電気化学インピーダンス法による複素インピーダンスの実部の測定を行った。測定装置は、Solartron Instruments Limited社製「ELECTROCHEMICAL MEASUREMENT UNIT SI 1280B」であった。周波数は10kHzから10mHzの範囲で掃引した。複素インピーダンスの実部の測定結果を表2および
図1に示す。
【0067】
【表2】
【解決手段】ヒートシール層により挟持されるべき封止部、正極および負極の一方に対する接続用部分を有し外装体内に収容されるべき内設部、および封止部よりも外側に位置するべき外設部からなる接続部材の内設部に、電解液可溶性Cr含有物質を含有する電解液内で、接続部材の基材を陰極電解して表面処理層を形成する、電気化学エネルギーデバイスの接続部材の製造方法。