【0029】
本発明の日射熱制御膜材に関して、
図1〜5の可撓性積層体を一例として説明する。
図1の可撓性積層体(1)は、断熱樹脂層(2)の1面上に赤外線反射樹脂層(3)が設けられている。断熱樹脂層(2)は充実部(2−1)及び非充実部(2−2)とから成り、充実部(2−1)は熱可塑性樹脂組成物(2−1−1)によって構成され、非充実部(2−2)は気泡粒(2−2−1)及び殻壁粒子(2−2−2)により構成されている。また赤外線反射樹脂層(3)は無機金属化合物粒子(3−1)を含んでいる。断熱樹脂層(2)において気泡粒(2−2−1)の内壁表面に殻壁粒子(2−2−2)の表面の一部が露出している(4)。
図2の可撓性積層体(1)は、断熱樹脂層(2)と赤外線反射樹脂層(3)との間に繊維織物(5)が設けられている。
図3の可撓性積層体(1)は、断熱樹脂層(2)と赤外線反射樹脂層(3)との間に繊維織物(5)が設けられ、繊維織物(5)と断熱樹脂層(2)との間に接着樹脂層(6)が設けられている。
図4の可撓性積層体(1)は、繊維織物(5)の両面に赤外線反射樹脂層(3)が設けられ、その一方の赤外線反射樹脂層(3)面に断熱樹脂層(2)が設けられている。
図5は
図2の可撓性積層体(1)において、赤外線反射樹脂層(3)上にさらに防汚層(7)が設けられている。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。下記実施例及び比較例において、試験膜材の遮制御性、防汚性などは下記の試験方法により測定し、評価した。
1)日射熱取得率
膜材の日射熱取得率は、分光光度計V−670型(日本分光(株)製)を使用し、日射
透過率、日射吸収率を測定し、JIS R3106に準拠し式(1)に従って算出した。
日射熱取得率:η=a+b(1/αti)/(1/αti+1/αto)・・・(1)
αto : 屋外側表面の総合熱伝達率(常用値25W/m
2K)
αti : 室内側表面の総合熱伝達率(常用値9W/m
2K)
a : 日射透過率(%)
b : 日射吸収率(%)
c : 日射反射率(%)=100−〈日射透過率(%)+日射吸収率(%)〉
2)屋外曝露試験
たて(繊維織物の経糸方向)45cm×よこ(繊維織物の緯糸方向)30cmの膜材を、赤外線反射樹脂層形成面を表側にして、陽当たりの良い南向き傾斜30°方向に展張し、屋外汚れ試験を12ヶ月間行った。展張12ヶ月後の膜材の日射熱取得率を測定し、さらに未展張膜材との色差ΔE(JIS Z−8729)を求め、下記の判定基準にて防汚性の評価を行った。
※屋外展張は埼玉県草加市内において2月より開始した
1:ΔE=0〜1.9 :汚れがなく良好。初期の状態を維持している
2:ΔE=2〜3.5 :うすく汚れているが外観に支障はない
3:ΔE=3.6〜5.0:汚れと雨筋が目立つ
4:ΔE=5.1〜 :汚れと雨筋が酷く、外観に支障がある
3)環境試験
たて100cm・よこ100cm・高さ100cmの正方形枠の6面全てに膜材を装着した密閉体を構成し、恒温槽内で密閉体内部の気温を25℃にした後、この密閉体を10℃と40℃に、それぞれ温度設定された2つの恒温槽に移し、静置状態で密閉体内部の気温を密閉体内部に中央にぶら下げた温度センサーにより観察し、密閉体内部の気温がそれぞれの恒温槽内環境温度と同じ10℃、40℃と平衡するまでの時間を測定した。
【0031】
[実施例1]
繊維織物として、下記織組織のポリエステルマルチフィラメント平織物を用いた。
1111dtex(たて糸)×1111dtex(よこ糸)/(22本/inch×2
5本/inch)、質量:215g/m
2
この繊維織物の片面上に、下記配合1の軟質塩化ビニル樹脂組成物による厚さ0.18mmのカレンダー成形フィルムを170℃の熱条件で熱ラミネートして積層接着し、厚さ0.18mmの赤外線反射樹脂層を形成した。
<配合1> 軟質塩化ビニル樹脂配合組成物(1)
塩化ビニル樹脂(重合度1050) 100質量部
DOP(可塑剤) 50質量部
三酸化アンチモン(防炎剤) 15質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn(安定剤) 2質量部
酸化チタン(赤外線反射剤) 10質量部
※平均粒子径0.8〜1.2μmの粗粒子酸化チタン
【0032】
この赤外線反射樹脂層積層中間体の裏面側に、下記配合2のペースト塩化ビニル樹脂組成物(機械攪拌により気泡粒を含む発泡組成物)を厚さ1mmで均一コーティングし、この塗工物を180℃の熱風で2分間加熱して固化させて、厚さ1mmの断熱樹脂層を形成した。得られた断熱樹脂層形成中間体は充実部として塩化ビニル樹脂組成物を56体積%含み、非充実部として気泡粒及び殻壁粒子を44体積%含み、断熱樹脂層断面の拡大鏡観察により、気泡粒の内壁表面には殻壁粒子の表面の一部が多数個露出している状態であった。
<配合2> ペースト塩化ビニル樹脂配合組成物
塩化ビニル樹脂(重合度1700) 100質量部
DOP(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(防炎剤) 14質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn(安定剤) 2質量部
酸化チタン(着色剤) 8質量部
※平均粒子径0.1〜0.3μmの微粒子酸化チタン
シリコーンオイル(整泡剤) 2質量部
殻壁粒子(中空バルーン) 10質量部
※ガラス殻壁により、70体積%の空気を880hPaで内包
する平均粒子径25μmのカプセル球状粒子
※熱可塑性樹脂(ペースト塩化ビニル樹脂組成物)と殻壁粒子
の混成質量比率は100:5である。
【0033】
この膜材中間体の赤外線反射樹脂層表面に、下記配合3の樹脂組成物による厚さ3μmの防汚層を80メッシュグラビア塗工にて形成し、本発明の日射熱制御膜材を得た。
<配合3> 樹脂組成物
アクリル樹脂 100質量部
フルオロオレフィンビニルエーテル樹脂 100質量部
イソホロン系イソシアネート(硬化剤) 10質量部
シリカ(平均粒子径1μm) 20質量部
メチルエチルケトン(溶剤) 1000質量部
【0034】
実施例1の膜材は第5図に示した態様である。実施例1の膜材の日射透過率5.7%、日射反射率87.3%、日射熱取得率5.5%であった。また展張12ヶ月後の曝露汚れ評価レベルは「1」、日射透過率5.5%、日射反射率86.9%、日射熱取得率5.7%であり、10℃平衡時間82分、40℃平衡時間54分であった。
【0035】
[実施例2]
実施例1の膜材において、繊維織物と断熱樹脂層との間に下記配合4の軟質塩化ビニル樹脂配合組成物からなる接着樹脂層を設けた以外は全て実施例1と同一とした。接着樹脂層は下記配合4の軟質塩化ビニル樹脂組成物による厚さ0.12mmのカレンダー成形フィルムを用い、これを赤外線反射樹脂層積層中間体裏面側に170℃の熱条件で熱ラミネートして積層接着し、厚さ0.12mmの接着樹脂層を形成し、この接着樹脂層面上に実施例1の断熱樹脂層を設け、さらに赤外線反射樹脂層面上に実施例1の防汚層を設けて実施例2の膜材を得た。
<配合4> 軟質塩化ビニル樹脂配合組成物(2)
塩化ビニル樹脂(重合度1050) 100質量部
DOP(可塑剤) 50質量部
三酸化アンチモン(防炎剤) 15質量部
エポキシ化大豆油(安定剤) 4質量部
Ba−Zn(安定剤) 2質量部
酸化チタン(着色剤) 4質量部
※平均粒子径0.1〜0.3μmの微粒子酸化チタン
【0036】
実施例2の膜材は第3図に示した態様に防汚層を追加した態様である。実施例2の膜材の日射透過率5.3%、日射反射率87.0%、日射熱取得率5.3%であった。また展張12ヶ月後の曝露汚れ評価レベルは「1」、日射透過率5.1%、日射反射率85.5%、日射熱取得率5.4%であり、10℃平衡時間89分、40℃平衡温度58分であった。
【0037】
[実施例3]
実施例1の膜材において、繊維織物と断熱樹脂層との間に配合1の軟質塩化ビニル樹脂配合組成物からなる赤外線反射樹脂層を設けた以外は全て実施例1と同一とした。実施例3の膜材は第4図に示した態様に防汚層を追加した態様である。実施例3の膜材の日射透過率5.3%、日射反射率88.6%、日射熱取得率5.4%であった。また展張12ヶ月後の曝露汚れ評価レベルは「1」、日射透過率5.2%、日射反射率86.3%、日射熱取得率5.5%であり、10℃平衡時間91分、40℃平衡温度62分であった。
【0038】
[実施例4]
実施例1の膜材から、繊維織物を省略した以外は全て実施例1と同一とした。実施例4の膜材は第1図に示した態様に防汚層を追加した態様である。実施例4の膜材の日射透過率7.7%、日射反射率87.9%、日射熱取得率6.6%であった。また展張12ヶ月後の曝露汚れ評価レベルは「1」、日射透過率7.0%、日射反射率86.2%、日射熱取得率7.0%であり、10℃平衡時間57分、40℃平衡温度38分であった。
【0039】
実施例1〜4の膜材は日射熱制御効果に優れ、屋外使用での汚れも付難いので経年劣化が少なく、従って本発明の膜材は夏季(例えば40℃の外気温)においては日射による膜材からの蓄熱伝導を遮蔽する効果を有し、冬季(例えば10℃の外気温)には暖房熱を外気に逃がし難い遮蔽効果を有する。
【0040】
[比較例1]
実施例1の膜材の断熱樹脂層において、配合2から殻壁粒子の配合を省略した以外は全て実施例1と同一とした。比較例1の膜材の日射透過率5.8%、日射反射率87.8%、日射熱取得率13.6%であった。また展張12ヶ月後の曝露汚れ評価レベルは「1」、日射透過率5.5%、日射反射率85.3%、日射熱取得率14.0%であり、10℃平衡時間65分、40℃平衡温度37分であった。
【0041】
[比較例2]
実施例1の膜材の断熱樹脂層において、配合2から気泡粒を省略して無発泡層とした以外は全て実施例1と同一とした。比較例1の膜材の日射透過率5.2%、日射反射率86.4%、日射熱取得率15.1%であった。また展張12ヶ月後の曝露汚れ評価レベルは「1」、日射透過率5.0%、日射反射率85.0%、日射熱取得率15.8%であり、10℃平衡時間49分、40℃平衡温度21分であった。
【0042】
比較例1と2の膜材は、防汚層を有していることで、曝露汚れ評価レベルは「1」であり採光性も十分であったが、比較例1の膜材では殻壁粒子が存在しないために十分な熱制御効果が発現されなかった。比較例1の膜材で実施例1の膜材と同等の熱制御効果を得るには断熱樹脂層の厚さを2mm(実施例1の断熱樹脂層の2倍)とする必要があった。(参考比較例1)参考比較例1の膜材では断熱樹脂層の厚さが2倍に増すことによる質量増で膜材が重くなるのみならず、採光性を著しく阻害する支障を生じていた。また比較例2の膜材では気泡粒が存在しない無発泡層であるために十分な熱制御効果が発現されなかった。比較例2の膜材で実施例1の膜材と同等の熱制御効果を得るには断熱樹脂層の厚さを3.5mm(実施例1の断熱樹脂層の3.5倍)とする必要があった。(参考比較例2)参考比較例2の膜材では断熱樹脂層の厚さが3.5倍に増すことによる質量増で膜材が重くなるのみならず、採光性を著しく阻害する問題を生じた。参考比較例1と2により、本発明の膜材(具体的に実施例1)は断熱樹脂層の厚さが薄くても優れた熱制御効果が得られることが比較証明された。参考比較例1と2において実施例1の膜材と同等の熱制御効果とは、日射反射率約87%、日射熱取得率約5%、10℃平衡時間約80分、40℃平衡温度約50分を得る性能である。従って比較例の膜材では夏季(例えば40℃の外気温)においては日射による膜材からの蓄熱伝導を遮蔽する効果に乏しく、冬季(例えば10℃の外気温)には暖房熱を外気に逃がし難い遮蔽効果に乏しいものであった。