(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の第1の実施形態に係る無段変速機1について、図面を参照しつつ説明する。本発明の第1の実施形態に係る無段変速機1は、
図1に示すように、第1ポスト部材P1が固定された入力部材2と、第2ポスト部材P2が固定された出力部材3と、移動部材4を左右に直線移動させるための移動手段5と、移動部材4に回転自在に支持されている無段変速リンク6とを備えており、入力部材2への外部からの入力が無段変速リンク6を介して出力部材3へと出力されるものである。尚、この無段変速機1では、入力部材2の並進を変速させて出力部材3の並進として出力する。
【0017】
入力部材2は、長尺な棒状の部材からなるものであり、上面に上方へと突出するポスト部材P1が固定されている。この入力部材2は、外部からの入力によりリニアガイド7(71)によって案内されて所定の直線A上をスライド移動できるように構成されている。また、出力部材3は、入力部材2と同様に長尺な棒状の部材からなるものであり、上面に上方へと突出するポスト部材P2が固定されている。この出力部材3も入力部材2と同様にリニアガイド7(72)によって案内されて直線Aと平行な直線B上をスライド移動できるように構成されている。
【0018】
移動手段5は、移動部材4を直線Aと直線Bに対して垂直な方向に移動させるためのものである。
図1に示すように、移動手段5は、例えばボールネジ機構により構成されており、駆動力を発生させる小型のモータ8と、該モータ8の駆動力を伝達するタイミングベルト9と、該タイミングベルト9から伝達される駆動力により回転するボールネジ10と、該ボールネジに螺合可能なナット構造を有する移動部材4とを備えている。ボールネジ10は、入力部材2と出力部材3の間で直線Aと直線Bに対して垂直な方向に設けられており、モータ8による駆動力がタイミングベルト9を介して伝達されて回転することにより、この回転に伴って、ボールネジ10に螺合されている移動部材4がボールネジ10に沿って移動する。尚、このボールネジ機構自体は、不図示の台座等に固定されている。また、本実施形態では、移動手段5として、モータ8の駆動力によりタイミングベル9を介してボールネジ10が回転することによりナット構造を有する移動部材4がボールネジ10に沿って移動するボールネジ機構を例にしているが、移動手段は、モータ8により直接ボールネジ10を回転させることにより移動部材4をボールネジ10に沿って移動可能に構成するようにしても良く、移動部材4の直線移動を可能にするものであれば特に限定されるものではない。また、モータ8に回転位置等を計測するためのエンコーダ(不図示)を取り付けたり、モータ8とタイミングベルト9の間にギアを組み込んだりするように適宜構成することも可能である。
【0019】
移動部材4は、ボールネジ10に螺合され、該ボールネジ10に沿って移動するものであり、移動部材4の上面には上方に突出するように支柱41が設けられている。この支柱41は、無段変速リンク6の中心で該無段変速リンク6を回転自在に支持するように取り付けられている。尚、本実施形態では、説明をし易くするために
図1に示すように、支柱41をボールネジ10に螺合された位置からずれた位置で上方へと突出する例を図示しているが、支柱41は、ボールネジ10に螺合されている位置から上方に突出するように設けられるのが構造上好ましい。
【0020】
無段変速リンク6は、支柱41により回転軸O周りで回転自在に支持されており、移動部材4の移動に伴って、直線Aと直線Bに対して垂直な方向に移動可能である。また、無段変速リンク6の両側には、当該無段変速リンク6の回転に伴って第1ポスト部材P1及び第2ポスト部材P2を夫々スライド可能に保持するために無段変速リンク6の長尺方向に長く形成されたスライド孔61、62が夫々設けられている。
【0021】
以下、無段変速機1の動作について
図1を参照しつつ説明する。まず、無段変速リンク6が基準位置にある場合は、
図1(a)に示すように、回転軸Oから第1ポスト部材P1が移動可能な直線Aまでの距離と第2ポスト部材P2が移動可能な直線Bまでの距離が共に等距離L0、つまり距離比が1:1で、且つ、第1ポスト部材P1、回転軸O、第2ポスト部材P2を結ぶ直線が直線A及び直線Bに対して垂直になっている。
【0022】
次に、この基準位置の状態から無段変速機1の変速比を変えるために、移動手段5により移動部材4を直線A及び直線Bに対して垂直な方向へ所望の距離分移動させることにより、無段変速リンク6の回転軸Oを移動する。
図1(b)では、回転軸Oは、基準位置から直線B側へxだけ移動した場合を示している。この状態から入力部材2に対して、例えば、リニアアクチュエータ(不図示)等により外部から入力が行われ、
図1(b)に示すように、第1ポスト部材P1が直線Aの下側向きにy
1移動すると、この第1ポスト部材P1の直線移動に伴って、無段変速リンク6は回転軸Oを中心に回転角θ分だけ反時計回りに回転する。
【0023】
そして、この無段変速リンク6の回転に伴って、第2ポスト部材P2がスライド孔62に保持された状態でスライドしながら、直線B上を第1ポスト部材P1の移動方向の逆方向にy
2だけ移動する。つまり、
図1(b)の状態では、第1ポスト部材P1がy
1移動すると、無段変速リンク6を介して第2ポスト部材P2は、第1ポスト部材P1と逆方向にy
2移動することになる。この第1ポスト部材P1の並進変位量y
1及び第2ポスト部材P2の並進変位量y
2は、夫々回転軸Oから第1ポスト部材P1が移動可能な直線Aまでの距離L1、第2ポスト部材P2が移動可能な直線Bまでの距離L2、及び無段変速リンク6の回転変位量θを用いて、下記の数式(1)、(2)で表わされる。
【数1】
【数2】
【0024】
また、
図1(b)に示すように、距離L1、L2は、夫々無段変速リンク6の基準位置における回転軸Oから第1ポスト部材P1が移動可能な直線Aまでの距離と第2ポスト部材P2が移動可能な直線Bまでの距離である距離L0、及び基準位置からの回転軸Oの移動量xを用いて、下記の数式(3)、(4)で表わされる。
【数3】
【数4】
【0025】
また、第2ポスト部材P2の並進変位量y
2は、数式(1)、(2)より下記の数式(5)で表わされる。但し、数式(5)におけるN
Lは並進減速比を表わすものである。つまり、この数式(5)に示されるように、回転軸Oから直線Aまでの距離L1と直線Bまでの距離L2との距離比が、そのまま入力部材2(第1ポスト部材P1)の並進変位量y
1と出力部材3(第2ポスト部材P2)の並進変位量y
2に現れてくることになり、入力部材2への入力が減速して出力部材3に現れる場合には、N
Lは1より大きくなり、増速して現れる場合には、N
Lは1より小さくなる。従って、
図1(a)の状態においては、距離L1、L2は共に距離L0であり、並進減速比N
Lは1になるので、外部からの入力により入力部材2が並進した場合には、減速又は増速されることなく出力部材へと出力されることになる。
【数5】
【0026】
また、並進減速比N
Lは、数式(3)、(4)を用いて、数式(6)のように表わすことができる。つまり、数式(6)に示されるように並進減速比N
Lは、回転軸Oの移動量xの関数として表わされるので、並進減速比N
Lは、可変の減速比になっており、移動手段5により無段変速リンク6の回転軸Oの位置を移動させることにより、変速比を無段階に変えることができる。また、移動手段5により無段変速リンク6の回転軸Oの位置を移動させることによって変速比を設定すれば、その一定の変速比のまま入力部材2の並進を変速させて出力部材3の並進として出力することができる。
【数6】
【0027】
次に、本発明の第2の実施形態に係る無段変速機1aについて、
図2及び
図3を参照しつつ説明する。この無段変速機1aは、入力部材としてラック・アンド・ピニオン2aを用いて、例えば、モータ(不図示)等により外部から入力された回転駆動力を無段階に変速させて出力部材であるラック・アンド・ピニオン3aに伝達するものである。尚、第1の実施形態に係る無段変速機1と同様の構成等については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0028】
入力側のラック・アンド・ピニオン2aは、
図2及び
図3に示すようにピニオン21と該ピニオン21の回転運動を直線運動として伝達するラック22からなるものである。ピニオン21は、モータ等により外部から入力された回転駆動力により回転軸O1を中心に回転する。ラック22は、ピニオン21の回転に伴って直線運動するようにクロスローラーテーブル11のベースに固定されている。また、ラック22は、歯が設けられている面と反対側の面の一部が張り出した形状をしており、その下面から下方に向かって突出するように第1ポール部材P1が固定されており、ラック22の直線運動に伴って、第1ポール部材P1が直線A上を移動するようになっている。
【0029】
出力側のラック・アンド・ピニオン3aも入力側のラック・アンド・ピニオン2aと同様にピニオン31とラック32からなるものであり、入力側のピニオン21に入力された回転駆動力が無段変速リンク6を介して第2ポスト部材P2が固定されているラック32を直線運動させることにより、回転軸O2を中心としてピニオン31を回転させる回転駆動力として伝達される。尚、ピニオン21及びピニオン31は、それぞれ回転軸O1及びO2を回転自在に支持する軸受(不図示)を介して土台(不図示)に固定されている。
【0030】
以下、無段変速機1aの動作について
図2及び
図3を参照しつつ説明する。無段変速機1aも無段変速機1と同様に無段変速リンク6が基準位置にある場合は、
図2(a)に示すように、回転軸Oから第1ポスト部材P1が移動可能な直線Aまでの距離と第2ポスト部材P2が移動可能な直線Bまでの距離が共に等距離L0で、且つ、第1ポスト部材P1、回転軸O、第2ポスト部材P2を結ぶ直線が直線A及び直線Bに対して垂直になっている。
【0031】
次に、この基準位置の状態から無段変速機1aの変速比を変えるために、移動手段5により移動部材4を
図2(a)及び
図3に示す矢印方向(直線A及び直線Bに対して垂直な方向)へ所望の距離分移動させることにより、無段変速リンク6の回転軸Oを移動する。
図2(b)では、回転軸Oは、基準位置から直線B側へxだけ移動した場合を示している。この状態から入力側のピニオン21に対して、モータ等により外部から回転駆動力が入力され、
図2(b)に示すように、ピニオン21が回転軸O1を中心として時計回りにΔq
1だけ回転すると、ラック22に固定されている第1ポスト部材P1が直線Aの下向きにy
1移動し、この第1ポスト部材P1の直線移動に伴って、無段変速リンク6は回転軸Oを中心に回転角θだけ反時計回りに回転する。
【0032】
そして、この無段変速リンク6の回転に伴って、ラック32に固定されている第2ポスト部材P2がスライド孔62に保持された状態でスライドしながら、直線B上を第1ポスト部材P1の移動方向の逆方向にy
2だけ移動することにより、ピニオン31が回転軸O2を中心として時計回りにΔq
2だけ回転する。つまり、
図2(b)の状態では、ピニオン21が回転軸O1を中心として時計回りにΔq
1だけ回転すると、無段変速リンク6を介してピニオン31が回転軸O2を中心として時計回りにΔq
2だけ回転することになる。このピニオン21の回転変位量Δq
1は、ピニオン21の回転半径R
1及び第1ポスト部材P1の並進変位量y
1を用いて、下記の数式(7)で表され、ピニオン31の回転変位量Δq
2は、ピニオン31の回転半径R
2及び第2ポスト部材P2の並進変位量y
2を用いて、下記の数式(8)で表される。
【数7】
【数8】
【0033】
また、数式(5),(7),(8)よりピニオン31の回転変位量Δq
2は、下記の数式(9)で表される。但し、数式(9)におけるNは、回転減速比を表すものであり、数式(10)で定義される。この数式(10)で示されるように、回転減速比Nは、回転軸Oの移動量xの関数として表される可変の並進減速比N
Lに比例するものであるので、回転減速比Nも可変の減速比であり、移動手段5により無段変速リンク6の回転軸Oの位置を移動させることにより、無段変速機1aの変速比を無段階に変えることができる。尚、数式(10)におけるR
1、R
2は、夫々ピニオン21とピニオン31の回転半径を表すものであるので、定数である。
【数9】
【数10】
【0034】
次に、無段変速機1aを用いた駆動力伝達機構としての利用例について
図2〜4を参照しつつ説明する。
図4に示すように、回転半径R
kのピニオン13に巻きばね14a,14bをプッシュ・プルとなるように繋ぎ、ピニオン13を無段変速機1aの入力側のピニオン21と同じ回転軸O1で回転自在になるように連結する。つまり、ピニオン21が回転軸O1を中心として回転すると、同軸で連結されているピニオン13も回転し、それに伴って、巻きばね14a,14bの一方が伸びた状態になり、もう一方が縮んだ状態になることにより、巻きばね14a,14bの力fが作用する構成になっている。尚、巻きばね14a,14bの一端は、不図示の土台に固定されている。また、
図4では巻きばね14a,14bのばね定数kは同一になるように設定されている。
【0035】
この状態において、
図2(b)に示すように、ピニオン21が時計回りにΔq
1回転した際に、ピニオン13に繋がれている巻きばね14aがΔl伸び、巻きばね14bがΔl縮んだ場合、
図4に示す力fはフックの法則により下記の数式(11)で表される。また、ピニオン13の回転変位量Δq
1は、巻きばね14a,14bの並進変位量Δlと回転半径R
kを用いて、下記の数式(12)で表される。また、巻きばね14a,14bに作用する力fを足し合わせたものが、回転軸O1に伝わる回転トルクτ
1を回転半径R
kで割ったものとなり、下記の数式(13)のように表される。
【数11】
【数12】
【数13】
【0036】
数式(11)〜(13)より、回転トルクτ
1は、数式(14)のように表される。但し、数式(14)におけるK
1は、入力側の回転軸O1周りの回転剛性であり、数式(15)で表される。つまり、数式(15)は、2つの巻きばね14a,14bを入力側に設けることにより、回転軸O1周りの回転剛性がK
1になるということを示している。
【数14】
【数15】
【0037】
また、数式(9)で示されるように、入力側のピニオン21の回転軸O1周りの回転と出力側のピニオン31の回転軸O2周りの回転には変速の関係があるので、回転トルク同士の関係も変速比の関係で表され、回転軸O1に働く回転トルクτ
1は、回転減速比Nと出力側の回転軸O2に働く回転トルクτ
2を用いて、下記の数式(16)で表される。
【数16】
【0038】
そして、数式(9),(16)より、回転トルクτ
2は、数式(17)で表される。但し、数式(17)におけるK
2は、出力側の回転軸O2周りの回転剛性であり、数式(18)で表される。つまり、無段変速機1aの入力側の回転軸O1に
図4に示すような巻きばね14a,14bを設けることにより、入力側の回転軸O1周りに所望の回転剛性K
1を生じさせることができ、更に無段変速機1aを介することにより、数式(18)に示すように、出力側の回転軸O2周りの回転剛性として、回転軸O1周りの回転剛性K
1に回転減速比Nの2乗倍の回転剛性K
2を作り出すことが可能になる。また、回転減速比Nは、可変であるので、出力に現れる回転剛性K
2も可変になる。
【数17】
【数18】
【0039】
従って、ばねの剛性を硬い状態と柔らかい状態等を状況に応じて使い分けたいような場合に、ばね自体を取り替えることなく、この無段変速機1aを組み合わせることにより、出力側の剛性K
2を所望の値に設定することが可能になる。従って、例えば、数式(6)で示されるL2/L1の値を1/√10から√10まで変化させることができるように無段変速機1aを設計した場合には、巻きばね14a,14bの効果が1/10から10まで変わることになる。つまり、ばねの効果を100倍変えることが可能になるので、力を加えてもほとんど変位がない硬い状態から同等の力で容易に動くような柔らかい状態を同じばねを利用して作り出すことができる。
【0040】
また、無段変速機1aを用いた駆動力伝達機構として、
図4に示すような巻きばね14a,14bを設ける代わりに、例えば、ピニオン21と噛み合う歯車(不図示)を介して、粘性特性を付加するためのロータリーダンパ(不図示)等を取付けるように構成しても良い。ロータリーダンパとしては、例えば、オイルの粘性抵抗により発生する制動力を利用した回転系のダンパーやオイルの圧力を利用した揺動ダンパー等を利用することが可能である。ロータリーダンパの制動トルクは、回転速度に応じて、発生するトルクの値を変化するものであり、回転速度が上がるとトルクも上がり、回転速度が下がるとトルクも下がる特徴を有している。従って、ロータリーダンパを入力側に設けることにより、回転軸O2側に粘性特性を付加した出力をすることも可能になる。
【0041】
次に、本発明の第3の実施形態に係る無段変速機1bについて、
図5を参照しつつ説明する。この無段変速機1bは、入力側の回転軸O1と同一直線上に出力側の回転軸を設けたものである。尚、無段変速機1、1aと同様の構成等については、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0042】
図5に示すように、無段変速機1bの入力部材2bは、モータ等により外部から入力される回転駆動力により回転軸O1を中心として回転するピニオン23と、該ピニオン23の回転に伴って、回転軸O3を中心として回転するピニオン24と、該ピニオン24の回転運動を直線運動として伝達するラック22とからなるものである。また、出力部材3bは、無段変速リンク6の回転を介して第2ポスト部材P2とともに直線Aと平行な直線B上を直線移動するラック32と、該ラック32の直線移動に伴って回転軸O4を中心として回転するピニオン34と、該ピニオン34の回転に伴って入力側のピニオン23の回転軸O1と同一直線上にある回転軸を中心に回転するピニオン33とからなるものである。尚、
図5では、ピニオン23、24、33、34、及びラック22、32の歯は省略して図示している。
【0043】
このように構成される無段変速機1bでは、
図5に示すように、入力側のピニオン23にモータ等により外部から時計回りの回転駆動力が入力され、ピニオン23が回転軸O1回りで矢印方向(時計回り)に回転すると、ピニオン24は、矢印方向(反時計回り)に回転し、ラック22及びラック22に固定されている第1ポスト部材P1が、直線A上を矢印方向(下向き)に移動する。そして、この第1ポスト部材P1の直線移動に伴って、無段変速リンク6は、回転軸Oを中心に矢印方向(反時計回り)に回転する。また、この無段変速リンク6の回転に伴って、ラック32に固定されている第2ポスト部材P2がスライド孔62に保持された状態でスライドしながら、直線B上を矢印方向(上向き)に移動することにより、ピニオン34は回転軸O4を中心として矢印方向(反時計回り)に回転する。そして、このピニオン34の回転に伴って、入力側の回転軸O1と同一直線上に設けられている出力軸に連結されているピニオン33が矢印方向(時計回り)に回転することになる。尚、本実施形態では、入力部材2bのピニオン23とラック22の間にピニオン24を設けているが、このピニオン24を省いて、ピニオン23とラック22でラック・アンド・ピニオンを構成するようにしても良い。出力部材3bについても、同様にピニオン34を省いて、ピニオン33とラック32でラック・アンド・ピニオンを構成するようにしても良い。また、この無段変速機1bも無段変速機1,1aと同様に移動手段5により回転軸Oの位置を移動させることにより、変速比を無段階に変化させることができる。
【0044】
次に、本発明に係る無段変速機1a等を利用した場合のロボット関節構造15の一例について
図6及び
図7を参照しつつ説明する。
図6に示すロボット関節構造15は、冗長駆動関節としての実施例を示すものであり、台座Dに固定されたモータ16からの駆動力と、
図2に示すような外部からモータ等により入力された駆動力を無段変速機1aを介して出力部材3aのピニオン31から出力する駆動力とを回転軸O5、O2周りで回転する出力リンク17に対して伝達する2入力1出力の機構である。尚、回転軸O5とO2は、それぞれ同一直線上に位置するものである。
【0045】
このロボット関節構造15は、
図6に示すように、2入力1出力を行うための動作加算部18と、該動作加算部18の上側に設けられるモータ16と、動作加算部18の下側に上述の無段変速機1aに
図4に示すような巻きばね14a、14bを付加した駆動力伝達機構とを備えるものである。尚、
図6では、説明を簡易にするために、無段変速機1aの出力部材3aにおけるピニオン31のみ図示している。
【0046】
動作加算部18は、
図6、7に示すように、モータ16の駆動力により回転する第1歯車18aと、ピニオン31から出力された駆動力により回転する第2歯車18bと、第1歯車18aと噛み合う第3歯車18cと、第2歯車18bと噛み合う第4歯車18dとを備えており、この夫々の歯車18a〜18dは、出力リンク17の内部に納まるように構成されている。
【0047】
第1歯車18aは、モータ16及び出力リンク17と回転軸O5を介して連結されており、モータ16からの駆動力により、第1歯車18a及び出力リンク17は、回転軸O5周りで回転する。第2歯車18bは、ピニオン31及び出力リンク17と回転軸O2を介して連結されており、ピニオン31からの駆動力により、第2歯車18b及び出力17は、回転軸O2周りで回転する。第3歯車18cは、第1歯車18aと噛み合っており、第1歯車18aの回転に伴って回転する。第4歯車18dは、第2歯車18bと噛み合っており、第2歯車18bの回転に伴って回転する。また、第3歯車18c及び第4歯車18dは、それぞれ同一回転軸O6で連結されており、それぞれこの同一回転軸O6周りを同じ回転角q
Iで回転する。尚、回転軸O6の両端は、出力リンクに設けられた軸受(不図示)により回転自在に支持されている。
【0048】
このロボット関節構造15の動作を示す基礎式は、数式(19)のように表される。尚、R
1は第1歯車18aの半径、q
A1は第1歯車18aの回転軸O5周りの回転角、R
2は第2歯車18bの半径、q
A2は第2歯車18bの回転軸O2周りの回転角、qは出力リンク17の回転軸O2,O5周りの回転角(関節角)、q
Iは第3歯車18c及び第4歯車18dの回転軸O6周りの回転角をそれぞれ表している。また、r
1及びr
2は、それぞれ数式(20)で表されるものであり、R
I1は第3歯車18cの半径、R
I2は第4歯車18dの半径を表している。また、数式(20)では、第1歯車18aの半径R1と第3歯車18cの半径R
I1が同じ値であり、第2歯車18bの半径R
2が第4歯車18dの半径R
I2の2倍の値である場合を示している。
【数19】
【数20】
【0049】
この場合、数式(19)は、数式(21)のように表される。この数式(21)の出力のみについて整理すると、出力リンク17の回転角変位Δqに関して、数式(22)が成り立つ。この数式(22)は、ピニオン31が固定された状態で第1歯車18aがΔq
A1回転すると、出力リンク17は第1歯車18aと逆向きにΔq
A1回転し、第1歯車18aが固定された状態で、ピニオン31がΔq
A2回転すると、出力リンク17はピニオン31と同じ向きにΔq
A2の2倍回転することを表している。また、このとき、駆動力に関しても数式(23)が成立する。尚、τ
A1は第1歯車18aの駆動力、τ
A2は第2歯車18bの駆動力、τは出力リンク17の駆動力をそれぞれ表している。
【数21】
【数22】
【数23】
【0050】
従って、例えば、第1歯車18aの回転変位Δq
A1=−1〔rad〕で、第2歯車18bの回転変位Δq
A2=0の場合には、数式(22)より出力リンク17の回転変位Δq=1〔rad〕となる。また、第1歯車18aの回転変位Δq
A1=0で、第2歯車18bの回転変位Δq
A2=0.5〔rad〕の場合には、出力リンク17の回転変位Δq=1〔rad〕となる。また、駆動力に関しては、例えば、τ=25〔Nm〕の場合には、数式(23)よりτ
A1=−25〔Nm〕、τ
A2=50〔Nm〕となる。また、τ
A1=0又はτ
A2=0の場合には、τ=0となる。尚、ここでは数式(20)に示すように、第1歯車18aの半径R1と第3歯車18cの半径R
I1が同じ値であり、第2歯車18bの半径R
2が第4歯車18dの半径R
I2の2倍の値である場合の例に基づいて説明しているが、R
1,R
I1,R
2,R
I2はこのような値に限定されるものではなく、適宜用途に応じて夫々の半径の値を設定しても良い。
【0051】
次に、本発明に係る無段変速機1a等を利用した他のロボット関節構造15a一例について
図8を参照しつつ説明する。
図8に示すロボット関節構造15aは、冗長駆動関節としての実施例を示すものであり、台座Dに固定されたモータ16からの駆動力と、
図2に示すような外部からモータ等により入力された駆動力を無段変速機1aを介して出力部材3aのピニオン31から出力する駆動力とを回転軸O7周りで回転する出力リンク17に対して伝達できる2入力1出力の機構である。
【0052】
このロボット関節構造15aは、
図8に示すように、2入力1出力を行うための動作加算部19と、該動作加算部19の上側に設けられるモータ16と、動作加算部19の下側に上述の無段変速機1aに
図4に示すような巻きばね14a、14bを付加した駆動力伝達機構とを備えるものである。尚、
図8でも、説明を簡易にするために、無段変速機1aの出力部材3aにおけるピニオン31のみ図示している。
【0053】
動作加算部19は、
図8に示すように、モータ16の駆動力により回転軸O8周りを回転する第1プーリ19aと、ピニオン31から出力された駆動力により回転軸O2周りを揺動する揺動リンク19bと、該揺動リンク19bに固定されている2本の棒部材19cに夫々取り付けられている1対のプーリ19d、19eと、出力リンク17の下側で該出力リンク17と同軸O7で連結される第2プーリ19fと、夫々のプーリ19a、19d、19e、19fに巻回されるワイヤWとを備えている。この動作加算部19では、第2プーリ19fが回転駆動することにより、出力リンク17にその駆動力が伝達されるようになっており、第2プーリ19fは、第1プーリ19aの駆動及び/又は揺動リンク19bの揺動運動によって1対のプーリ19d、19eが駆動することによってワイヤWを介して駆動することになる。尚、
図8では、ピニオン31から回転軸O2を介して揺動リンク19bに直接駆動力が伝えられ、該揺動リンク19bは、回転軸O2を中心として揺動するように構成されているが、ピニオン31に別途歯車(不図示)を介して揺動リンク19bに駆動力を伝達するように構成しても良い。
【0054】
また、このロボット関節構造15aにおける出力リンク17の角速度ω
Jは、第1プーリ19aの半径をR
M、第2プーリ19fの半径をR
Jとした場合、下記の数式(24)のように表される。但し、ω
Mは第1プーリ19aの回転軸O8周りの角速度、ω
Aは揺動リンク19bの回転軸O2周りの角速度である。
【数24】
【0055】
従って、例えば、第1プーリ19aの半径R
Mと第2プーリ19fの半径R
Jが同じ半径である場合には、α
1=1となる。この場合、数式(24)において、α
1=1を代入すると、数式(25)のように表される。この数式(25)は、ω
Mのある大きさの動きが、ω
Jに逆向きの同じ大きさの動きになることを表しており、ω
Aのある大きさの動きが、ω
Jに2倍の大きさの同じ向きの動きになることを表している。
【数25】
【0056】
従って、モータ16が動きにくい場合でも、
図8に示すような動作加算部19を組み合わせることにより、バックドライバビリティを改善することができる。つまり、出力リンク17に力を加えた時に、変位や加速度を生じやすくすることができるので、リハビリ等に用いるロボット関節構造として有効である。また、このようなロボット関節構造15aにより、無段変速機1a側では、無段変速リンク6の大きさ等に応じて動ける範囲は制限されるが、もう一方のモータ16により制限なく回転できるので、ロボット関節の可動範囲を広くすることができる。尚、ロボット関節構造15、15aにおけるそれぞれの動作加算部18,19の構造は、本発明に係る無段変速機1a以外の無段変速機等と組み合わせることも当然可能である。
【0057】
また、本実施形態に係る無段変速機1,1a、1bでは、入力側の並進運動を変速比を変えて出力側に並進運動として伝達する構造、及び入力側の回転運動を変速比を変えて出力側に回転運動として伝達する例について説明したが、入力側を無段変速機1のような構造にし、出力側を無段変速機1a、1bのように駆動力を出力するような構造にすることにより、並進運動を回転運動として伝達する構造や、逆に回転運動を並進運動として伝達する構造に設計することは適宜可能である。
【0058】
また、本発明の実施の形態は上述の形態に限るものではなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。