(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760265
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】環状シール部材
(51)【国際特許分類】
F16J 15/32 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
F16J15/32 301Z
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-117160(P2011-117160)
(22)【出願日】2011年5月25日
(65)【公開番号】特開2012-246956(P2012-246956A)
(43)【公開日】2012年12月13日
【審査請求日】2014年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】岡村 圭
(72)【発明者】
【氏名】福田 純一
(72)【発明者】
【氏名】久田 慶武
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
実開平02−018971(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16−15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸穴(11)とその軸穴に挿入した軸(12)との間をシールする環状シール部材であ
って、
径方向に圧縮して前記軸穴(11)と前記軸(12)との間に配置する環状の基部(1
)と、
その基部の一端から軸方向に延びださせてシール相手面である前記軸穴の穴面(11a
)と前記軸の外周面(12a)の一方にリップエッジを密着させる環状リップ(2)と、
前記基部(1)の前記シール相手面と向き合う面に径方向に突出させて設けて前記シー
ル相手面に締代を持って接触させる凸部(3)と、
前記基部(1)の前記シール相手面と向き合う面に、その基部の他端から前記環状リッ
プ(2)の設置側に向って延び出させて設ける通路溝(5)と、
前記環状リップ(2)の基端に隣接して前記基部(1)の前記シール相手面と向き合う
面に設ける、周方向寸法が前記通路溝(5)の溝幅よりも大きくて前記通路溝(5)に連
通している凹部(6)と、
前記通路溝(5)と前記凹部(6)の接続部に径方向に突出して設けられ、前記シール
相手面に当接して自己の周囲に前記通路溝(5)と前記凹部(6)の連通空間を生じさせ
る突起(9)とを有する環状シール部材。
【請求項2】
軸穴(11)とその軸穴に挿入した軸(12)との間をシールする環状シール部材であ
って、
径方向に圧縮して前記軸穴(11)と前記軸(12)との間に配置する環状の基部(1
)と、
その基部の一端から軸方向に延びださせてシール相手面である前記軸穴の穴面(11a
)と前記軸の外周面(12a)の一方にリップエッジを密着させる環状リップ(2)と、
前記基部(1)の前記シール相手面と向き合う面に径方向に突出させて設けて前記シー
ル相手面に締代を持って接触させる第1の凸部(3)と、
前記第1の凸部(3)と前記環状リップ(2)の基端との間において前記基部(1)の
前記シール相手面と向き合う面に設ける、径方向に突出した第2の凸部(4)と、
前記基部(1)の前記シール相手面と向き合う面に、その基部の他端から前記環状リッ
プ(2)の設置側に向って延び出させて設ける通路溝(5)と、
前記第2の凸部(4)と環状リップ(2)の基端との間に形成される周方向寸法が前記
通路溝(5)の溝幅よりも大きな凹部(6)と、
前記通路溝(5)と前記凹部(6)との接続部に径方向に突出して設けられ、前記シー
ル相手面に当接して自己の周囲に前記通路溝(5)と前記凹部(6)の連通空間を生じさ
せる突起(9)とを有する環状シール部材。
【請求項3】
前記突起(9)を、前記通路溝(5)の始端から前記通路溝(5)と前記凹部(6)の
交差部に至らせて前記通路溝(5)内に設けた請求項1又は2に記載の環状シール部材。
【請求項4】
前記突起(9)を、前記通路溝(5)と前記凹部(6)の交差部に設けた請求項1又は
2に記載の環状シール部材。
【請求項5】
前記凹部(6)を、周方向に連続する環状凹部にした請求項1〜4のいずれかに記載の
環状シール部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液圧制御装置や液圧機器において、軸と軸穴間を逆止状態にシールするのに利用する環状シール部材に関する。ここで言う逆止状態とは、シール部で区画した空間の一方から他方への圧力や液体の流出を許容し、他方から一方の空間への流出を阻止する状態である。
【背景技術】
【0002】
首記の環状シール部材の従来例として、例えば、下記特許文献1に開示されたものがある。同文献に示された環状シール部材(パッキン)は、環状の基部と、その基部の一端側から軸方向に延びだすリップ部を有する。また、シール部によって区画された空間(蓄圧回避が要求される側の空間)の液圧をシール溝の溝底に対するリップの接触部に導く導圧路を基部の外周に有する。
【0003】
この環状シール部材は、環状のシール溝に収容し、基部を軸方向に圧縮して軸と軸穴間に介在する。そして、リップ部の自由端近くのシールエッジをシール相手面(前記シール溝の溝底)に密着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前掲の特許文献1に開示された環状シール部材は、寸法ばらつきなどによって締代が過大になったとき{リップ部の基端(付け根)の径よりもシール溝の溝底の径が小さいとき}に、弾性変形やクリープ変形により導圧路として設けたスリットがリップ部の基端付近において変形して盛り上がり、導圧路が閉塞する。これにより、リップ部をシール相手面から離反させる力(区画された空間A,Bの圧力差。これをここでは開弁圧と言う)が変動し、安定した圧力解放機能が得られない。
【0006】
また、導圧路の閉塞を回避するために導圧路の設置数を多くしたり、導圧路(スリット)の幅を広げたりすると、環状シール部材の内径側を軸の外周に均一かつ十分に押し付ける緊迫力(面圧)が得られず、シールの信頼性が低下して液漏れの可能性が高まる。
【0007】
この発明は、逆止機能を有する環状シール部材を、寸法ばらつきがあっても、小さな開弁圧でリップがシール対象の面から離反して一方の空間(空間A)から他方の空間(空間B)への圧力の解放が安定してなされるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、この発明においては、軸穴とその軸穴に挿入した軸との間
をシールする環状シール部材として、下記
i)〜ii)のシール部材を提供する。
【0009】
i)径方向に圧縮して軸穴と軸との間に配置する環状の基部と、その基部の一端から軸方
向に延びださせてシール相手面
である前記軸穴の穴面と前記軸の外周面の一
方にリップエッジを密着させる環状リップと、前記基部の前記シール相手面と向き合う面に径方向に突出させて設けて前記シール相手面に締代を持って接触させる
凸部と、前記基部の前記シール相手面と向き合う面に、その基部の他端から前記環状リップの設置側に向って延び出させて設ける通路溝と
、前記環状リップの基端
に隣接して前記基部の前記シール相手面と向き合う面に設ける、周方向寸法が前記通路溝の溝幅よりも大きな凹部と、
前記通路溝と前記凹部の接続部に径方向に突出して設けられ、前記シール相手面に当接して自己の周囲に前記通路溝と前記凹部の連通空間を生じさせる突起とを有するもの。
【0010】
なお、この発明では、複数の凸部を周方向に間隔をあけて点在させ、この状態で隣り合う凸部間に形成される谷も前記通路溝とみなす。
【0011】
ii)
径方向に圧縮して軸穴と前記軸との間に配置する環状の基部と、その基部の一端から軸方向に延びださせてシール相手面である前記軸穴の穴面と前記軸の外周面の一方にリップエッジを密着させる環状リップと、前記基部の前記シール相手面と向き合う面に径方向に突出させて設けて前記シール相手面に締代を持って接触させる第1の凸部と、前記第1の凸部と前記環状リップの基端との間において前記基部の前記シール相手面と向き合う面に設ける、径方向に突出した第2の凸部と、前記基部の前記シール相手面と向き合う面に、その基部の他端から前記環状リップの設置側に向って延び出させて設ける通路溝と、前記第2の凸部と環状リップの基端との間に形成される周方向寸法が前記通路溝の溝幅よりも大きな凹部と、前記通路溝と前記凹部との接続部に径方向に突出して設けられ、前記シール相手面に当接して自己の周囲に前記通路溝と前記凹部の連通空間を生じさせる突起とを有するもの。
【0014】
前記第2の凸部は、前記通路溝の位置を除いて周方向に連続する突条で構成したものが好ましい。
【0015】
これらの環状シール部材は、前記突起を、前記通路溝の始端から前記通路溝と前記凹部の交差部に至らせて通路溝内に設ける形態や、前記通路溝と前記凹部の交差部に設ける形態が考えられる。
【0016】
前記環状シール部材の前記凹部は、周方向に連続する環状凹部が好ましいが、その凹部が周方向に分断されていても発明の目的は達成される。
【発明の効果】
【0017】
この発明の環状シール部材は、前記通路溝と前記凹部の接続部に設けた突起がシール相手面に当接して自己の周囲に前記通路溝と前記凹部の連通空間を生じさせる。これにより、寸法ばらつきが生じた製品についても、環状リップに対して開弁圧を作用させる圧力導入空間(隙間)がシール相手面との間に安定して確保され、その圧力導入空間に対する通路溝の連通状態も確保されて圧力解放機能の安定性が高まる。
【0018】
また、
この構造によれば、通路溝の数を増やしたり、その通路溝の溝幅を大きくしたりする必要がなく、環状シール部材の凸部形成側とは反対側の面に加える緊迫力の低下、それによるシールの信頼性低下を回避でき
る。
【0022】
また、前記凹部を環状にしたものは、環状リップの周方向全域を弁として機能させることができ、開弁圧のばらつきの更なる抑制や環状リップのシール性能向上、耐久性向上に寄与する。
【0023】
前記第2の凸部を通路溝の位置を除いて周方向に連続する突条で構成したものは、前記凹部(圧力導入空間)の形状の周方向の各部における変動が抑制されるため、シール相手面に対する環状リップの接触圧(面圧)が周方向の各部で平均化され、シールの安定化につながる。
【0024】
なお、前記突起を前記通路溝の始端から前記通路溝と前記凹部の交差部に至らせて通路溝内に設けたものは、通路溝が閉塞されることを突起によって確実に防止することができる。
【0025】
また
、前記突起を前記通路溝と前記凹部の交差部に設けたものは、突起によって通路溝が狭められることがない。そのために、通路溝の幅を狭くして基部の周方向各部における締代の変動領域(すなわち圧縮反力の変動領域)を小さくすることができ、これによる開弁圧の安定化などを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
環状シール部材の参考例の第1形態を示す断面図
【
図2】
図1の環状シール部材の使用の一例を示す断面図
【
図3】
環状シール部材の参考例の第2形態を示す断面図
【
図4】
環状シール部材の参考例の第3形態を示す断面図
【
図5】この発明の環状シール部材の
一例を示す平面図
【
図7】この発明の環状シール部材
の他の例を示す平面図
【
図9】通路溝と凹部の接続部に設ける突起を通路溝の片側に偏らせた状態を示す平面図
【
図10】通路溝と凹部の接続部に設ける突起の変形例を示す要部の拡大斜視図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の環状シール部材の実施の形態を、添付図面の
図1〜
図10に基づいて説明する。
図1に示した第1形態の環状シール部材10は、環状をなす基部1と、その基部の一端から軸方向に延びだす環状リップ2と、第1の凸部3と、第2の凸部4と、複数の通路溝5と、凹部6を設けて構成されている。材料は、硬度70〜80IRHD程度のゴムが用いられている。
【0028】
この環状シール部材の基部1は、後述する軸穴と、その軸穴に挿入される軸のどちらか一方に形成されるシール溝に挿入されて軸穴の穴面と軸の外周面間に配置される。
【0029】
図示の環状リップ2は、外周リップと称されるものであって、基部1の一端の外周部から軸方向、かつ径方向外側に向って斜めに延びだしており、自由端近くにシール相手面(図示のシール部材の場合、軸穴の穴面)に密着させるリップエッジ2aを有している。なお、シールの目的によっては、基部1の一端の内周側にも内周リップと称される環状リップ7を設けることがある。
【0030】
第1の凸部3は、基部1の、シール相手面と向き合う面(図のそれは基部1の外周面)に径方向に突出させて設けている。この第1の凸部3の自由状態での外径は軸穴の穴径よりも大きい。その設定により、穴径をオーバした領域を締代として働かせて基部1を径方向に圧縮し、その基部の内周面を軸の外周に緊迫力を持って押し付けて軸の外周のシールを行う。
【0031】
第2の凸部4も、径方向に突出して基部1のシール相手面と向き合う面に設けられている。この第2の凸部4は、第1の凸部3と環状リップ2の基端との間に配置される。その第2の凸部4の高さ(凹部6の底からの高さ)は、直径がφ7mmの軸の外周シール用シール部材の場合、0.2mm程度で足りた。
【0032】
第1の凸部3、第2の凸部4は、いずれも、通路溝5の位置を除いて周方向に連続する突条で構成している。この形状の凸部は、凹部6の形状の安定化、基部1の軸に対する周方向各部での接触面圧の均一化、シール相手面に対する環状リップの周方向の各部での接触面圧の均一化が図れて好ましいが、周方向に間隔をあけて点在する任意形状(例えば、半球状、角錐状、切頭円錐状など)の凸部であっても発明の目的は達成される。
【0033】
また、第1の凸部3、第2の凸部4は、突端側が凸形曲面の図示したような凸部が成形し易いが、断面において突端側が角ばった形状となる凸部であっても差し支えない。
【0034】
通路溝5は、環状リップ2が存在する側(図は基部の外径側)において基部1に、その基部の他端(図中右端)から環状リップ2の設置側に向って延びださせて設けられている。この通路溝5は、図示のように、周方向に等間隔で複数条設置すると、溝幅を狭くして基部1の周方向各部における締代の変動領域を小さくすることができる。
【0035】
この通路溝5は、直径がφ7mmの軸の外周シール用シール部材の場合、溝幅が0.2〜0.3mm程度、深さが0.5mm程度でよかった。
【0036】
凹部6は、第2の凸部4と環状リップ2の基端との間に形成されている。この凹部6は、周方向寸法を通路溝5の溝幅よりも大きくしており、その凹部6を環状シール部材10の使用状態において確実に残存させることで、環状リップ2に対して開弁圧を作用させる圧力導入空間(
図2の14)をシール相手面との間に生じさせる。
【0037】
なお、この凹部6は、図示の環状凹部が環状リップ2の周方向の全域を弁として機能させることができて好ましいが、周方向に連続していない形状であっても構わない。また、この凹部6の底からシール相手面までの距離は、図のように、第1の凸部3と第2の凸部4との間に形成される凸部間凹部8よりも大きくすると好ましく、そのようにしたものは、凹部6がより一層閉塞し難くなる。
【0038】
このように構成した第1形態の環状シール部材10は、
図2に示すように、逆止機能のあるシール部を構成する目的で、液圧機器などに設けられた軸穴11とその軸穴に挿入される軸12との間に組み込まれる。
【0039】
図2のシール部の場合、軸12の外周に環状シール溝13が設けられており、環状シール部材10は、その環状シール溝13に収容して軸穴11と軸12との間に介在される。このとき、第1の凸部3が締代を有するため、基部1が径方向に圧縮され、その基部の内径側が軸12の外周に緊迫力をもって押し付けられて軸12の外周面12aとの間の界面が液漏れのないようにシールされる。
【0040】
また、このときに同時に第2の凸部4も径方向に圧縮され、これにより、凹部6の底部近辺が径方向内側に押し下げられて軸穴11の穴面(この発明で言うシール相手面)11aとの間に、環状リップ2に対して開弁圧を作用させる圧力導入空間14を生じさせる。
【0041】
その圧力導入空間14は、通路溝5を介して空間Aに連通しており、これにより、空間Aの圧力が規定値を超えたときに空間Bとの圧力差で環状リップ2がシール相手面から押し離され、その環状リップ2による弁が開いて空間Aの過剰圧力が空間B側に放出される。
【0042】
なお、空間A,B間の圧力差が開弁圧未満のときには、環状リップ2のリップエッジ2aがシール相手面に密着する。この状態で、空間Bの圧力が空間Aの圧力を上回ると、リップエッジ2aはシール相手面により強く押し付けられ、従って、空間Bから空間Aへの圧力や液体の漏れは起こらない。
【0043】
図3に、第2形態の環状シール部材10を示す。この第2形態は、環状リップ2と、第1の凸部3と、第2の凸部4と、複数の通路溝5と、凹部6を、環状をなす基部1の内径側に設けて環状リップのリップエッジ2aを軸の外周面に密着させるようにしており、この点が第1形態と異なる。作用、効果は第1形態とほぼ同じになる。図示の第2形態は、軸穴の穴面に環状シール溝を設け、その溝に収容して使用するとよい。
【0044】
図4は、
参考例の第3形態の環状シール部材10である。この第3形態は、第1形態の第2の凸部4に代えて、周方向寸法が通路溝5の溝幅よりも大きくて通路溝5に連通している凹部6を、基部1のシール相手面と向き合う面(図は外周面)を掘り下げる状態にして設けている。
【0045】
第1の形態において第2の凸部4が凹部6をシール相手面から押し離した状態と似た状態が予め作り出されたこの構造でも、従来品に比べれば凹部6の閉塞が起こり難くなる。
【0046】
なお、この第3形態は、寸法ばらつきによって基部1の径方向圧縮量が増大しても凹部のシール相手面からの離反量はさほど変化しない。これに対し、第1の形態では、第2の凸部4の径方向圧縮量が大きくなるほど凹部6のシール相手面からの離反量が大きくなる。従って、圧力導入空間のより安定した確保を考えると、第3形態よりも第1形態が好ましい。
【0047】
図5は、この発明
の環状シール部材10
の一例を示している。
この図5の環状シール部材10は、前記参考例の第1形態の第2の凸部4に代えて、シール相手面に当接して自己の周囲に通路溝5と凹部6の連通空間を生じさせる突起9を、通路溝5と凹部6の接続部に径方向に突出させて設けており、この点が第1形態と異なる。突起9の形状は特に問わない。細長い条や
図10のごとき小突起のどちらであってもよい。
【0048】
突起9は、
図5、
図6に示すように、通路溝5の始端から通路溝5と凹部6の交差部に至らせて通路溝5内に設けてもよいし、
図7〜
図10のように、通路溝5と凹部6の交差部に設けてもよい。突起9を通路溝5と凹部6の交差部に設ける場合は、突起9の全体が交差部内に収まりきるように設けられてもよく、また、突起9の大半は交差部内に収まるが、残りの部分が収まりきらない状態であってもよい。
【0049】
突起9を通路溝5の始端から通路溝5と凹部6の交差部に至らせて通路溝5内に設けるものは、突起9が支えになって通路溝5が閉塞されることが防止される。この形態の場合、直径がφ7mmの軸の外周シール用シール部材において通路溝5の溝幅を0.5〜1.0mm程度まで広げても特に問題は生じなかった。
【0050】
通路溝5と凹部6の交差部に設ける突起9は、
図9に示すように、通路溝の幅方向中央ではなく、通路溝5の片側に偏らせて配置してもよい。要は、通路溝5と凹部6の接続を妨げないように配置すればよい。突起9を通路溝5と凹部6の交差部に設けたものは、通路溝5が突起9によって狭められることがない。そのために、通路溝5の幅を狭くして基部の周方向各部における締代を平均化することができる。
【0051】
なお、図を省略したが、この発明の環状シール部材は、第2の凸部4を有する第1形態に第4形態の突起9を追設したものにしてもよく、これは、通路溝や凹部の閉塞防止の効果がより安定する。
【符号の説明】
【0052】
1 基部
2 環状リップ
2a リップエッジ
3 第1の凸部
4 第2の凸部
5 通路溝
6 凹部
7 環状リップ
8 凸部間凹部
9 突起
10 環状シール部材
11 軸穴
11a 穴面
12 軸
12a 外周面
13 環状シール溝
14 圧力導入空間
A,B 空間