(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760311
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月5日
(54)【発明の名称】DPF再生時期判定方法及びDPF再生時期判定装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/023 20060101AFI20150716BHJP
【FI】
F01N3/02 321K
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2009-286576(P2009-286576)
(22)【出願日】2009年12月17日
(65)【公開番号】特開2011-127510(P2011-127510A)
(43)【公開日】2011年6月30日
【審査請求日】2012年11月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】内山 正
(72)【発明者】
【氏名】塙 哲史
【審査官】
山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−097934(JP,A)
【文献】
実開平03−104138(JP,U)
【文献】
実開昭62−184126(JP,U)
【文献】
特開平04−159412(JP,A)
【文献】
特開2009−115062(JP,A)
【文献】
特開2006−257880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の排気管に挿入されたDPFの差圧を検出してDPF再生の時期を判定する方法において、
前記車両が排気ブレーキを作動中に、前記DPFよりも上流で前記排気管に正圧ポンプから空気を流し込むと共に前記DPFの差圧を検出し、
検出した前記DPFの差圧に基づいてDPF再生が必要であるか否かを判断し、
DPF再生が必要であると判断したときに該判断を記憶し、
排気ブレーキの作動中は記憶した前記判断に基づくDPF再生を保留し、
排気ブレーキの作動中であって、DPF再生が必要でない間は、前記排気管に前記正圧ポンプから空気を流し込んだままの状態にすることを特徴とするDPF再生時期判定方法。
【請求項2】
車両の排気管に挿入されたDPFと、
正圧ポンプより導かれ前記DPFよりも上流で前記排気管に合流される空気管と、
該空気管の合流箇所にて該空気管を遮断/開放する空気取り込み弁と、
前記DPFの上流下流間の差圧を検出する差圧センサと、
前記車両が排気ブレーキを作動中に、前記DPFに前記正圧ポンプから空気が流れるよう前記空気取り込み弁を制御し、このとき前記差圧センサが検出する差圧を読み取り、検出した前記DPFの差圧に基づいてDPF再生が必要であるか否かを判断し、DPF再生が必要であると判断したときに該判断を記憶し、排気ブレーキの作動中は記憶した前記判断に基づくDPF再生を保留し、DPF再生が必要でないと判断したときは前記DPFに前記正圧ポンプから空気が流れるよう前記空気取り込み弁を制御した状態を保持する制御部と、
を備えたことを特徴とするDPF再生時期判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正確にPM堆積量に基づく再生時期を判断することができるDPF
再生時期判定方法及びDPF
再生時期判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関を搭載した車両では、内燃機関から大気までの排出管の途中にディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter;以下、DPFという)を挿入し、排気に含まれるSOF、SOOTなどの粒子状物質(Particurate Matter;以下、PMという)を捕集している。DPFは、主としてセラミックからなるハニカム細孔状(四角い細孔のものでもよい)のフィルタにPMを一時的に捕集する部材である。
【0003】
DPFに捕集されたPMが多く堆積すると、排気が流れにくくなり、内燃機関の排圧が上昇して内燃機関の特性が低下する。よって、DPFに堆積したPMを燃焼により除去する必要がある。この動作をDPF再生という。DPF再生時には、排気温度を上昇させるための燃料噴射によって排気温度を上昇させ、DPFを昇温することで、DPFに捕集されているPMを燃焼させる。
【0004】
このとき、DPFにPMが溜まりすぎていると、DPF再生時の熱でDPFが損傷してしまう。よって、DPFにPMが溜まりすぎないうちにDPF再生する必要がある。しかし、従来は、正確にPM堆積量(PMロード;フィルタの詰まり具合を表す)を計測できないので、安全係数(マージン)を多く取り、PM堆積量が実際に許容できる量よりも少ない時期にDPFを再生している。また、PM堆積量に関係なく車両の走行距離が所定値に達するごとにDPF再生している。このため、DPF再生を実行する時間的な間隔が実際に必要な時間より短くなる。
【0005】
しかし、必要以上に短い間隔でDPF再生を実行すると燃料が余分に消費されることになり、燃費が悪化する。したがって、DPFのPM堆積量を正確に検出し、PM堆積量が実際に許容できる量に近づいた最も適切な時期にDPF再生を行うようにするのが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−180189号公報
【特許文献2】特開2005−214084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、DPFのPM堆積量は、特許文献1、2のように、DPFの上流下流間の差圧からPM堆積量を検出している。しかし、差圧をもたらす排気の流量・温度は、内燃機関の状態変化に伴ってたえず変化している。例えば、内燃機関の排気の流量は脈動している。このため、DPFの上流下流間の差圧が正確に検出できない。また、内燃機関が低負荷のとき排気の流量が差圧を精密に検出するには少ないために、差圧が正確に検出できない。そして、温度に応じて排気の体積が異なることも差圧検出の精度を低くしている。以上のように、従来のDPF差圧センサは、検出する差圧が正確でないため、正確にPM堆積量に基づく再生時期を判断することができない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、正確にPM堆積量に基づく再生時期を判断することができるDPF
再生時期判定方法及びDPF
再生時期判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明のDPF再生時期判定方法は、車両の排気管に挿入されたDPFの差圧を検出してDPF再生の時期を判定する方法において、前記車両が排気ブレーキを作動中に、前記DPFよりも上流で前記排気管に正圧ポンプから空気を流し込むと共に前記DPFの差圧を検出し、検出した前記DPFの差圧に基づいてDPF再生が必要であるか否かを判断し、DPF再生が必要であると判断したときに該判断を記憶し、排気ブレーキの作動中は記憶した前記判断に基づくDPF再生を保留
し、排気ブレーキの作動中であって、DPF再生が必要でない間は、前記排気管に前記正圧ポンプから空気を流し込んだままの状態にするものである。
【0010】
また、本発明のDPF再生時期判定装置は、車両の排気管に挿入されたDPFと、正圧ポンプより導かれ前記DPFよりも上流で前記排気管に合流される空気管と、該空気管の合流箇所にて該空気管を遮断/開放する空気取り込み弁と、前記DPFの上流下流間の差圧を検出する差圧センサと、前記車両が排気ブレーキを作動中に、前記DPFに前記正圧ポンプから空気が流れるよう前記空気取り込み弁を制御し、このとき前記差圧センサが検出する差圧を読み取り、検出した前記DPFの差圧に基づいてDPF再生が必要であるか否かを判断し、DPF再生が必要であると判断したときに該判断を記憶し、排気ブレーキの作動中は記憶した前記判断に基づくDPF再生を保留
し、DPF再生が必要でないと判断したときは前記DPFに前記正圧ポンプから空気が流れるよう前記空気取り込み弁を制御した状態を保持する制御部と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0012】
(1)正確にPM堆積量に基づく再生時期を判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態を示すDPF
再生時期判定装置の構成図である。
【
図2】本発明のDPF
再生時期判定装置の制御部が実行するDPF
再生時期判定のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【
図3】
図1のDPF
再生時期判定装置においてDPF
再生時期判定を行わないときの状態を示す図である。
【
図4】
図1のDPF
再生時期判定装置においてDPF
再生時期判定を行うときの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0015】
図1に示されるように、本発明に係るDPF
再生時期判定装置1は、車両の排気管2に挿入されたDPF3と、正圧ポンプ4より導かれDPF3よりも上流で排気管2に合流される空気管5と、空気管5の合流箇所にて空気管5を遮断/開放する空気取り込み弁6と、DPF3の上流下流間の差圧を検出する差圧センサ7と、車両が排気ブレーキを作動中に、DPF3に正圧ポンプ4から空気が流れるよう空気取り込み弁6を制御し、このとき差圧センサ7が検出する差圧を読み取る制御部8とを備える。
【0016】
排気管2、DPF3は、従来公知のものであり、説明を省略する。
【0017】
正圧ポンプ4は、従来よりブレーキ用に設けられているもので、特に大型車に採用される。正圧ポンプ4は、空気を大気圧より高い所望の圧力にして一時的に蓄えることができる。
【0018】
空気管5は、正圧ポンプ4の出口からDPF3の上流の排気管2までを繋ぐものである。
【0019】
空気取り込み弁6は、空気管5を遮断している状態と空気管5を開放している状態とを選択的に制御可能な弁であり、制御部8により制御される。
【0020】
差圧センサ7は、従来公知のものであり、説明を省略する。
【0021】
排気ブレーキは、従来公知のものであり、特に大型車に採用される。内燃機関9のイグゾーストマニホールドの出口に排気ブレーキ弁10が取り付けられる。排気ブレーキの非作動中は、排気ブレーキ弁10が開放されイグゾーストマニホールドの出口から排気管2に排気が流れるが、排気ブレーキの作動中は、排気ブレーキ弁10が遮断されイグゾーストマニホールドの出口から排気管2に排気が流れなくなり、内燃機関9のポンピングロスにより車両が制動される。
【0022】
制御部8は、例えば、ECU(Engine Control Unit)で実現されるプログラム式のデジタル演算回路である。
【0023】
制御部8は、空気取り込み弁6を制御する機能を有する。具体的には、空気取り込み弁6を空気管5が開放されている状態に制御することで、DPF3に正圧ポンプ4から空気が流れるようにすることができる。一方、空気取り込み弁6を空気管5が遮断されている状態に制御することで、DPF3に正圧ポンプ4から空気が流れないようにすることができる。
【0024】
制御部8は、差圧センサ7が検出したDPF3の上流下流間の差圧を読み取る機能を有する。さらに、制御部8は、この差圧に基づいて、あらかじめ知られている差圧とPM堆積量の関係からDPF3のPM堆積量を検出する機能と、DPF3のPM堆積量が閾値に達したときをDPF再生時期であると判断する機能を有する。あるいは差圧が閾値に達したとき再生時期であると判断するようにしてもよい。
【0025】
以下、本発明に係るDPF
再生時期判定装置1の動作を説明する。
【0026】
本発明では、差圧センサ7によりDPF3の上流下流間の差圧を検出する。このとき、従来では、流量の大小、温度の違い、流量の脈動の影響で正確な差圧(またはPM堆積量)を検出することができなかった。しかし、本発明では、内燃機関9からの排気がDPF3に流れ込まない排気ブレーキの作動中に、正圧ポンプ4からの空気をDPF3に流し込んで差圧を検出する。正圧ポンプ4から流れ込む空気は、流量や温度が内燃機関9の状態に左右されず安定しており、脈動もない。したがって、差圧センサ7では正確にDPF3のPM堆積量と相関を有する差圧を検出することになる。
【0027】
このように、正確にPM堆積量と相関のある差圧を検出できることにより、従来のように安全係数を多く取ってPM堆積量が実際に許容できる量よりも少ない時期にDPFを再生する必要がなくなり、DPF再生用の燃料消費が低減され、燃費が向上する。
【0028】
また、正圧ポンプ4や排気ブレーキ弁10は従来より車両に装備されている部材であるから、新規に設ける必要がなく、本発明を実施するためのコスト上昇を抑えることができる。
【0029】
以下、DPF
再生時期判定のための制御の流れを説明する。
【0030】
図2に示されるように、ステップS1にて、制御部8は、排気ブレーキ作動中であるかどうかを判定する。NoであればDPF
再生時期判定を行わないものとし、ステップS2に進む。
【0031】
ステップS2にて、制御部8は、
図3に示されるように、空気取り込み弁6を空気管5が遮断される状態に制御する。これにより、内燃機関9からの排気がDPF3を通る通常の排気の流れとなる。
【0032】
ステップS1の判定がYesであればDPF
再生時期判定を行うものとし、ステップS3に進む。ステップS3にて、制御部8は、
図4に示されるように、空気取り込み弁6を空気管5が開放される状態に制御する。排気ブレーキ作動中であるから、排気ブレーキ弁10は遮断されている。これにより、DPF3には正圧ポンプ4からの空気のみが流れるようになる。正圧ポンプ4の圧力をV
0とすると、DPF3の上流側の圧力(入口圧力)はV
0であり、その入口圧力V
0とDPF3の下流側の圧力(出口圧力)V
1との差が差圧センサ7で検出される。
【0033】
ステップS4にて、制御部8は、差圧センサ7が検出したDPF3の上流下流間の差圧を読み取る。すでに述べたように、この差圧は、内燃機関9からの排気と異なり、流量の大小、温度の違い、流量の脈動がない正圧ポンプ4からの空気を用いて検出した正確な差圧となっている。
【0034】
ステップS5にて、制御部8は、差圧が閾値を超えているかどうか判定する。NoであればDPF再生の時期ではないとし終了する。Yesであれば、ステップS6に進む。
【0035】
ステップS6にて、制御部8は、空気取り込み弁6をDPF差圧検出を行わないときの状態となるように戻す。続いて、ステップS7にて、制御部8は、DPF再生の時期であるという判断を記憶する。この判断に基づき、排気ブレーキの作動が終了した後、DPF再生を実行することになる。
【符号の説明】
【0036】
1 DPF
再生時期判定装置
2 排気管
3 DPF
4 正圧ポンプ
5 空気管
6 空気取り込み弁
7 差圧センサ
8 制御部
9 内燃機関
10 排気ブレーキ弁