(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記軸部材および前記フィルム保持機構は、前記外リンクを構成する部品の一つである外プレートに固定されている請求項1から7のいずれか1項に記載のテンター装置。
前記フィルム保持機構は、ピンプレートと、前記ピンプレートに設けられた複数の突き刺しピンとを有し、複数の前記突き刺しピンをフィルムに突き刺すことによってフィルムが把持される請求項1から10のいずれか1項に記載のテンター装置。
【背景技術】
【0002】
フィルムの製造工程において、製造途中のフィルムを加熱処理する際にフィルムを所定の幅になるように把持しながら長手方向に搬送するためにテンター装置が用いられている。テンター装置は、左右一対のテンターレールと、各テンターレールに沿って移動する、所定の間隔でフィルム保持部材を備えた左右一対のテンターチェーンとを有する。
【0003】
この種のテンター装置の一例が特許文献1に開示されている。以下、特許文献1に開示されたテンター装置について、その一方の側のテンターレールおよびテンターチェーンの断面図である
図11を参照して説明する。
図11に示すように、テンターレール140は、互いに間隔をあけて配置された支持壁141と、支持壁141の間に回転自在に支持されたチェーン支持ローラ142とを有しており、テンターチェーン150は支持壁141の間に配置されて、チェーン支持ローラ142上に支持されている。
【0004】
テンターチェーン150は、一対の内プレート151a、151bを有する内リンクと、一対の外プレート154a、154bを有する外リンクとを、連結ピン155によって交互に連結して構成される。内リンクはさらに、ブシュ(不図示)を介して連結ピン155が挿通されるローラ153a、153bを有している。これらローラ153a、153bは連結ピン155の軸方向に配置され、それぞれ連結ピン155に対して独立して回転することができる。
【0005】
このテンターチェーン150は、外プレート154a、154bの対向方向を上下方向とした姿勢で使用され、従って、使用時には下側の外プレート154bがチェーン支持ローラ142上に支持される。
【0006】
使用時に上側に位置する外プレート154aは、クランク状に屈曲して横方向に延びており、その先端部には、複数の突き刺しピン165を有するピンプレート164が取り付けられている。フィルムFは、その縁部が突き刺しピン165で突き刺されて保持され、この状態でテンターチェーン150を移動させることによってフィルムFが搬送される。
【0007】
フィルムFは加熱処理されると体積収縮が生じる。加えて、フィルムFはテンターレールの拡縮機能を利用して、加熱処理時に幅方向に延伸や収縮(応力緩和)されることがある。その結果、テンターチェーン150には横方向(図示矢印A方向)への張力が作用し、テンターチェーン150は傾いた状態でフィルムFの搬送方向に移動する。テンターチェーン150が傾くと、上側のローラ153aは内側の支持壁141と接触し、下側のローラ153bは外側の支持壁141と接触する。その状態でテンターチェーン150が移動することによってローラ153a、153bは互いに逆方向に回転することができるので、テンターチェーン150が傾いてもローラの回転は妨げられない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1を参照すると、フィルムFの製造工程で用いられ、特にフィルムFの加熱処理においてフィルムFをその縁部(幅方向両端部)を把持した状態で搬送する、本発明の一実施形態によるテンター装置1が示されている。
【0019】
テンター装置1は、フィルムFの搬送路の両側に配置された一対のテンターチェーン5と、各テンターチェーン5の移動をガイドする一対のテンターレール4とを有する。各テンターチェーン5は、無端となるように構成されて、駆動スプロケット2および従動スプロケット3に噛み合っている。テンターレール4は、フィルムFの搬送方向に沿って延び、互いに平行に配置された一対のガイド板41を有し、テンターチェーン5は、そのガイド板41の間を通ることができる。
【0020】
各テンターチェーン5は、詳しくは後述するように、複数のフィルム保持機構を有しており、フィルムFの両縁部は、各テンターチェーン5に設けられたフィルム保持機構によって把持される。フィルムFの両縁部が把持された状態で駆動スプロケット2を駆動すると、テンターチェーン5がテンターレール4に沿って移動し、これによってフィルムFが搬送される。
【0021】
図1に示したテンター装置1では、フィルムFをその幅が一定の状態で搬送するように一対のテンターレール4が平行に配置されている。しかし、テンターレール4をその間隔がフィルムFの搬送方向下流に向かうに従って広くなるように、または狭くなるように配置することもできる。テンターレール4の間隔をフィルムFの搬送方向下流に向かうに従って広くすることによって、フィルムFを横方向に延伸することができ、また、この逆にテンターレール4の間隔を次第に狭くすることによって、フィルムFの応力緩和に対応することができる。また、一対のテンターレール4は、その間隔が一定の部分、次第に広くなる部分、および次第に狭くなる部分のうち2つ以上を適宜組み合わせて配置することもできる。
【0022】
次に、テンターチェーン5について、
図2〜5を参照して詳細に説明する。
【0023】
テンターチェーン5は、複数の内リンクと複数の外リンクとを交互に連結して無端としたローラーチェーンである。内リンクは、対向配置された一対の内プレート51a、51bと、これらを連結する2つのブシュ52と、内プレート51a、51bの間で各ブシュ52の外周に固定された2つの第2軸受73とを有する。第2軸受73と内プレートとの間にワッシャを入れても良い。内プレート51a、51bは長手方向を有するように形成された部材であり、2つのブシュ52はその長手方向に間隔をあけて配置されている。第2軸受73は、フィルムFの幅方向において一対のガイド板41の間でガイド板41に隣接して位置し、かつ、ガイド板41と接触することができるように、第2軸受73の直径は、一対のガイド板41の間隔よりも小さく、かつ内プレート51aおよび/または51bの幅よりも大きい。
【0024】
外リンクは、内リンクの外側に対向配置された一対の外プレート54a、54bと、外プレート54a、54bを内リンクと連結するために内プレート51a、51bおよびブシュ52を貫通する2つの連結ピン55とを有する。外プレート54a、54bも長手方向を有するように形成された部材であり、隣り合う2つの内リンクを連結できる長さを有している。本形態では連結ピン55はネジ付きピンであり、ワッシャ56およびナット57によって、連結ピン55が外プレート54a、54bから抜けないように保持されている。
【0025】
一対の外プレート54a、54bのうち上側に位置する一方の外プレート54aには、アタッチプレート63が固定されている。アタッチプレート63は、外プレート54aの長手方向と直角な幅方向においてテンターチェーン5の一方の側に延びるように、外プレート54aの片面に取り付けられている。アタッチプレート63の先端には、フィルムFを保持するための複数の突き刺しピン65が突設されたピンプレート64が固定されている。ピンプレート63およびピン64は、本発明におけるフィルム保持機構を構成する。アタッチプレート63とピンプレート64とは一体であってもよい。
【0026】
アタッチプレート63は、ピンプレート64を外プレート54aの幅方向の一方の側に位置させることができれば任意の形状とすることができる。本形態では、アタッチプレート63は、
図4に示すように、ピンプレート64が取り付けられる先端部が外プレート54a、54bの対向方向において両者の間に位置して外プレート54a、54bと平行に延びるクランク状の断面形状を有して形成されている。
【0027】
アタッチプレート63が固定された外プレート54aには、軸部材60が、その軸方向が外プレート54aの幅方向と平行となる向き、言い換えればフィルムFの搬送面に平行で、かつ、テンターレール4の長手方向と直角な方向に延びる向きで固定されている。軸部材60は、両端部が他の部位に比べて小径とされた段付きの部材であり、その小径の部位に、回転体として、軸部材60のラジアル荷重を受ける第1軸受61が、軸部材60を中心に回転自在に配置されている。また、軸部材61は、例えば
図10に示すように、切削等によって部分的に除去されて軽量化されていることが好ましい。
【0028】
軸部材60の両端部に取り付けられた第1軸受61は、これらが一対のガイド板41の上面に支持されることができるように、2つの第1軸受61の間隔が、ガイド部材41の間隔とほぼ等しく設計されている。第1軸受61は、例えばCワッシャ62によって、軸部材60に対する軸方向の位置が固定されている。
【0029】
第1軸受61および第2軸受73としては、ラジアル荷重を受けるものであれば、転がり軸受および滑り軸受など任意の軸受を用いることができる。本形態では、
図4および5に示すように、転がり軸受を用いている。転がり軸受は、外輪、内輪、および外輪と内輪との間に配された複数の転動体(玉)と、転動体を円周方向に離間するスペーサとを有している。
【0030】
第1軸受61においては、内輪が軸部材60に固定され、外輪が軸部材60に対して回転する。これにより、テンターチェーン5は、第1軸受61によって、テンターチェーン5の長手方向に移動可能にテンターレール4上に支持される。一方、第2軸受73においては、内輪がブシュ52に固定され、外輪がブシュ52に対して回転する。これにより、後述するようにテンターチェーン5の移動中にテンターチェーン5がフィルムFによって内側に引っ張られてガイド板41の側面に当接した場合は、第2軸受73がガイド板41との間でのローラの役割を果たし、長手方向にスムーズに回転しながら移動するように構成される。
【0031】
以上説明したテンターチェーン5を構成する各部品は、通常のテンターチェーンと同様、ステンレス鋼などで作ることができる。
【0032】
テンターチェーン5は、連結ピン55の軸方向を鉛直方向に向け、アタッチプレート63が固定された外プレート54aを上側とした姿勢で使用される。そして各テンターチェーン5は、ピンプレート64が外向きとなるように無端状とされて、駆動スプロケット2および従動スプロケット3に噛み合わせられる。また、各テンターチェーン5は、テンターレール4が設置された領域では、第1軸受61によってガイド板41の上面に支持されており、第2軸受73はガイド板41の間に位置している。
【0033】
上記のように一対のテンターチェーン5を設置することにより、一対のテンターチェーン5の互いに向き合った領域では、ピンプレート64が互いに内側を向いている。テンターチェーン5の間隔を、フィルムFの幅に合わせて適宜設定すれば、対向するピンプレート64の突き刺しピン65でフィルムFを突き刺すことにより、フィルムFの両縁部を把持することができる。
【0034】
フィルムFの両縁部を把持した状態で駆動スプロケット2を駆動すると、テンターチェーン5が移動し、これによってフィルムFが搬送される。また、アタッチプレート63の長さや折り曲げ角度を調整することにより、フィルムFの把持面の高さを制御することができる。
【0035】
テンターチェーン5は、第1軸受61がガイド板41上を回転することによって移動する。内リンクおよび外リンクはガイド板41の間に位置しており、これによってテンターチェーン5の横方向の位置が規制されるので、テンターチェーン5はテンターレール4に沿って移動する。ガイド板41の上面は、第1軸受61と接して第1軸受61の回転を阻害しない構造であれば良く、第1軸受61に対して摩擦が小さいことが好ましい。そのためには、ガイド板41の上面は、平坦もしくは平滑であることが好ましい。また、ガイド板41の上面は、第1軸受61との摩擦を小さくする表面加工が施されていてもよい。
【0036】
テンター装置1は、テンターレール4の拡縮機能を利用し、フィルムFの延伸処理などに用いることができる。このように、フィルムFの幅方向に張力をかける処理にテンター装置1が用いられる場合、フィルムFを把持するピンプレート64は、
図4に矢印Aで示方向に引っ張られる。このフィルムFによる引張り力により、テンターチェーン5には、そのテンターチェーン5を対となるもう一方のテンターチェーン5側に傾かせるモーメントが作用する。
【0037】
以下、テンターチェーン5に作用するモーメントについて、
図11に示した従来のテンターチェーンと比較して説明する。ただし、以下の説明では、外リンクと内リンクとの連結部からピンプレートまでの構造および形状の違いによる影響を排除するため、上側の外プレートが平板であり、その平板の外プレートにフィルムFの引張り力が作用するものとして考える。
【0038】
この場合、フィルムFの引張りによってテンターチェーンに生じるモーメントの大きさは、鉛直方向における、テンターチェーンのテンターレールによって支持されている面から上側の外プレートまでの距離に依存し、この距離が大きいほどモーメントが大きくなる。つまり、この距離が大きいほど、より小さな力でテンターチェーンは傾く。
【0039】
図11に示したテンターチェーン150では、下側の外プレート154bとチェーン支持ローラ142との接触面が、テンターレール140への支持面BS1となる。支持面BS1は、一対の内プレート151a、151bを有する内リンクを上側の外プレート154aとともに挟む下側の外プレート154bの下面と一致しており、支持面BS1から上側の外プレート154aまでの距離D1は、外プレート154a、154b間の距離よりも大きい。
【0040】
一方、
図4に示すように、本形態のテンターチェーン5では、第1軸受61とガイド板41との接触面が、テンターレール40への支持面BS2となる。支持面BS2は、上側の外プレート54aに固定された軸部材60に支持された第1軸受61の外周面と接する面であり、支持面BS2から上側の外プレート54aまでの距離D2は、支持面軸部材60の外径および第1軸受61の外径にもよるが、通常の設計の範囲では、
図11に示す距離D1よりも格段に小さくすることができる。
【0041】
よって、本形態のテンターチェーン5によれば、フィルムFの引張り力によるモーメントを従来と比較して極めて小さくすることができ、その結果、フィルムFの張力によるテンターチェーン5の傾きを抑制することができる。テンターチェーン5の傾きが抑制されることによって、テンターチェーン5を構成する各部品は、無理な力が局部的に作用することなくスムーズに動作するので、各部品の摩擦による金属粉や摩擦音が発生しにくくなり、フィルム上への金属粉の付着が防止できるので、安定した品質のフィルムFを製造することができる。さらに、テンターチェーン5は回転体を使用しているため摺動摩擦抵抗が小さく、動作させるために必要なエネルギーが小さくて済むため、省エネルギー化も達成できる。回転体は固体潤滑剤による潤滑を行っているため、潤滑油を用いることなくテンター装置1を運転することが可能となる。
【0042】
前述したように本形態では、各外リンクに2つの第1軸受61が、外プレート54aの幅方向に間隔をあけて配置されている。この第1軸受61の配置は、フィルムFの張力によるテンターチェーン5の傾きに効果的に対抗し得る配置であり、これによって、テンターチェーン5の姿勢をより安定させることができる。また、各外リンクが2つの第1軸受61を有することによって、既存のテンターレール40の設備をそのまま利用することができるので、
図11に示したテンター装置を本形態のテンター装置に置き換える場合の設備変更コストを低減することができる。
【0043】
また、第1軸受61は、外プレート54aに固定された軸部材60に取り付けられており、これによって、テンターチェーン5の重心は支持面BS2よりも下方に位置している。このことも、テンターチェーン5の姿勢の安定化に貢献している。
【0044】
一方、第2軸受73は、テンターチェーン5の移動中にテンターチェーン5が傾いたりフィルムFの幅方向に引っ張られたりしたときにガイド板41の側面と接触することによって、ガイド板41との間に生じる摩擦を低減する。その結果、摩擦による金属粉や摩擦音がさらに抑制され、テンターチェーン5の移動に必要なエネルギーをより少なくすることができる。
【0045】
特に、本形態では第1軸受61および第2軸受73として転がり軸受を用いており、これによって、テンターチェーン5を、より小さな駆動力で、よりスムーズに移動させることができる。
【0046】
上記のように、テンターチェーン5は、第1軸受61および第2軸受73を用いることで摩擦による金属粉が発生しにくくなるが、全く発生しないわけではない。転がり軸受を用いていたとしても、テンター装置1の長期間の運転により多少の金属粉は発生する。この金属粉が転がり軸受の外輪と内輪との間の空隙部に入り、それが長期間の運転の間に蓄積されると、転がり軸受の動作に支障を来すことになるかもしれない。さらには、長期間の運転により、軸受の外輪と内輪との間の空隙部で発生する固体潤滑剤が外部に飛散するのを防止する必要がある。そこで、転がり軸受は、外輪と内輪との間の空隙部に金属粉が入りにくくなるように、あるいは空隙部で発生する固体潤滑剤が外部に飛散しないように、この空隙部を覆う蓋(シールド)を有することが好ましい。さらに、転がり軸受が蓋を有する場合、転がり軸受は、蓋の外側の空間が内輪と外輪との間の空隙部と直線的に連通しないようにするラビリンス構造を有していることが好ましい。また、転がり軸受を軸部材60に取り付ける際に、シールドの外側とCワッシャ62の間に新たに別のワッシャ等を用いても良い。
【0047】
さらに本形態では、従来と異なり、ピンプレート64を外プレート54aに直接取り付けるのではなく、アタッチプレート63を介して外プレート54aに取り付けている。外リンクおよび内リンクを構成する各プレート51a、51b、54a、54bは、テンターチェーン5の動作中に駆動スプロケット2から受ける大きな引張荷重に耐え得る十分な機械的強度をもつように設計されており、その結果、板厚もある程度厚くなる。一方、フィルムFの張力は、駆動スプロケット2から受ける引張荷重と比較すると非常に小さい。
【0048】
従って、ピンプレート64を、外プレート54aとは別部材のアタッチプレート63を介して外プレート54aに取り付けることで、外プレート54aは十分な機械的強度を確保しながらも、アタッチプレート63は外プレート54aよりも薄い板厚で形成することができる。これによりテンターチェーン5の軽量化が達成され、テンターチェーン5をより小さな駆動力で動作させることに貢献している。
【0049】
このように、アタッチプレート63を介してピンプレート64を外プレート54aに取り付けることは、テンターチェーン5の軽量化のうえで好ましいものであるが、このことは本発明においては必須ではなく、外プレート54aを、ピンプレート64を固定するのに適した形状(例えばクランク形状)とし、その先端部にピンプレート64を直接固定してもよい。
【0050】
本発明によるテンター装置は種々のフィルムの製造に用いることができるが、フィルムの種類の中でも特に好ましいのはポリイミドフィルムである。ポリイミドフィルムの製造工程におけるイミド化処理などの加熱処理では、テンター装置は、例えば200〜600℃といった高温の環境下で使用される。前述したように、本形態のテンター装置1は、回転体によりテンターレール上に支持されたテンターチェーン5が極めて傾きにくい構造であるため、潤滑油を用いることなくスムーズに運転することができ、潤滑油が使用できないような高温環境下での使用に適している。
【0051】
このように、テンター装置1は高温環境下での使用に適しているが、テンター装置1を高温環境下で使用する場合に特に重要なのは第1軸受61および第2軸受73である。本形態では第1軸受61および第2軸受73として転がり軸受を用いているが、一般的な転がり軸受は、潤滑油またはグリースなどの潤滑剤で潤滑される。高温環境下では潤滑剤が蒸発してしまうため、このような潤滑剤の使用は難しい。
【0052】
そこで、転がり軸受は、固体潤滑剤で潤滑される構造とすることが望ましい。固体潤滑剤は、例えば、外輪と内輪との間の空隙部に複数の転動体を円周方向に離間させるためのスペーサおよび/または転動体の少なくとも一部に含有させることができる。固体潤滑剤としては、天然または人造の黒鉛材料、窒化ホウ素、二硫化タングステンおよび二硫化モリブデンなど公知の固体潤滑剤を、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。このように、固体潤滑剤を用いることにより、高温環境下でも転がり軸受を長期間にわたって好適に使用することができる。
【0053】
第1軸受61および第2軸受73としては、転がり軸受の代わりに滑り軸受を使用することもできる。あるいは、転がり軸受と滑り軸受を併用することによって、第1軸受61および/または第2軸受73の少なくとも一部を転がり軸受としたり少なくとも一部を滑り軸受としたりすることもできる。ただし、高温環境下で使用されるテンターチェーン5の第1軸受61および第2軸受73に滑り軸受を用いる場合、滑り軸受を2層以上の多層構造とし、その最内層を、固体潤滑剤を含有する層で構成することが好ましい。
【0054】
さらに、上述した形態では回転体として第1軸受61を用いた例を示したが、回転体はローラであってもよい。回転体としてローラを用いる場合も、高温環境下での使用を考慮するならば、ローラを多層構造とし、その最内層を、固体潤滑剤を含有する層で構成することが好ましい。また、ローラは、軸部材60に直接支持されていてもよいし、適宜の軸受を介して支持されていてもよい。
【0055】
また、上述した形態では、上側の外プレート54aに、アタッチプレート63を介してピンプレート64を取り付けるとともに、軸部材60を介して第1軸受61を支持した構成を示した。しかし、
図6に示すように、ピンプレート64を支持するアタッチプレート63および回転体である第1軸受61を支持する軸部材60は、それぞれ下側に位置する外プレート54bに固定してもよい。テンターチェーンの支持は、ガイド板41に限らず、平板とすることができる。また、テンターチェーンが所定の搬送路から外れないように、第2軸受73の側方に適宜のガイド板43を配置するか、軸部材60の下方において、第1軸受61を支持するガイド板41の間に、第2軸受73を回転自在に配置するか、またはこれらを組み合わせることができる。
図6ではこれらのすべての構成を組み合わせた例を示しているが、テンターチェーンが下側のガイド板41の間の第2軸受73を備えていない構成とすることも可能であり、その場合、テンターチェーンは、テンターレールを構成するガイド板41ではなく平板上に支持させることができる。また、
図6において、上側のガイド板43を配置せず下側のガイド板41のみでテンターチェーンをガイドする場合は、内リンクの間の第2軸受73を、通常のテンターチェーンと同様、ローラ(不図示)に置き換えることができる。
【0056】
また、上述した形態では、テンターチェーン5は内リンクが通常のローラーチェーンと異なり、第2軸受73を有することを示したが、内リンクは、
図7に示すように、第2軸受73の他にローラ53を備えていることが好ましい。第2軸受73およびローラ53は、内プレート51a、51bを連結するブシュ52の軸方向に配置され、それぞれが個別に動作できるように、第2軸受73は、内輪がブシュ52の外周に固定されて支持され、ローラ53はブシュ52の外周に回転自在に支持されている。
【0057】
前述したように、テンターチェーン5は、駆動スプロケット2および従動スプロケット3(
図1参照)と噛み合っており、駆動スプロケット2が回転駆動されることによって動作し、テンターチェーン5は、その動作中、駆動スプロケット2から繰り返し大きなスラスト加重を受ける。よって、
図4に示すように内プレート51a、51bの間の距離とほぼ等しい長さの第2軸受73を用いた場合は、第2軸受73が駆動スプロケット2と噛み合うことから、第2軸受73が駆動スプロケット2から繰り返し受けるスラスト荷重の大きさによっては、第2軸受73の耐用寿命が通常よりも短くなってしまうおそれがある。
【0058】
そこで、
図7に示すように、ローラ53および第2軸受73を備えることで、第2軸受73にはガイド板41の受けとしてガイド板41と接触および回転する働きのみを持たせ、ローラ53に、駆動スプロケット2および従動スプロケット3の受けとしてこれらと噛み合う働きを持たせることができる。これによって、テンターチェーンは、より小さな駆動力での動作、金属摩耗分の発生の低減、および動作中の騒音の低減を達成しながらも、長期にわたる使用に対する十分な耐久性を有することができるようになる。
【0059】
第2軸受73の他にローラ53を有する場合、第2軸受73をガイド板41の受けとして確実に機能させるためには、ローラ53の直径は第2軸受73の直径よりも小さいことが好ましい。こうすることにより、テンターチェーンがガイド板41に接近する方向に引っ張られたときに、ローラ53のガイド板41への接触を防止することができる。
【0060】
第2軸受73およびローラ53の相互の位置関係は任意であり、
図7に示すように第2軸受73がローラ53の上方に配置されていてもよいし、その逆に第2軸受73がローラ53の下方に配置されていてもよい。ただし、第2軸受73がガイド板41と接触したときに第2軸受73がガイド板41から受ける力を小さくできるという観点からは、第2軸受73は、
図7に示すようにローラ53の上方に配置されることが好ましい。また、
図8に示すように、2つの第2軸受73を上下に間隔をあけて配置し、その2つの第2軸受73の間にローラ53を配置することもできる。
【0061】
テンター装置の好ましい形態においては、多数の軸受が使用される可能性がある。特に、テンター装置がフィルムFを把持しながら搬送する距離が長くなればなるほど、テンターチェーンの長さが長くなり、結果的に、膨大な数の軸受が使用される。膨大な数の軸受の使用は、メンテナンス作業の煩雑化を招く。また、本形態では各外リンクが軸部材60を有し、さらに各軸部材60が2つずつ軸受61を備えているが、テンターチェーン5がバランスよく支持され、フィルムFの搬送に支障がなくフィルムFの製造に問題が生じなければ、すべての外リンクが軸部材60を有している必要はなく、また、各軸部材60が備える軸受61は1つで良い場合がある。
【0062】
そこで、例えば
図10に示すように、テンターチェーンの移動用の軸受61を、各軸部材60に対してそれぞれ1つずつ備えた構成とすることもできる。軸受61を軸部材60のどちらの端に配置するかは任意であり、すべての軸受61をピンプレート64側に配置したり、すべての軸受61をピンプレート64と反対側に配置したり、一部の軸受61をピンプレート64側に配置するとともに残りをその反対側に配置し、これらが適宜順番で並ぶように配置することができる。テンターチェーンの動作中にテンターチェーンに作用する力を考慮すると、テンターチェーンの安定した動作のためには、
図10に示すように、複数の軸受61が、テンターチェーンの移動方向において、ピンプレート64側とその反対側に交互に配置されるようにすることが好ましい。
【0063】
あるいは、図には示さないが、2つの軸受61を備えた軸部材60と1つの軸受61のみを備えた軸部材60とを適宜配置で組み合わせたり、複数の外リンクのうち一部の外リンクのみに軸部材60を取り付けることもできる。一部の外リンクに軸部材60を取り付けた場合であっても、各軸部材60がどのような配置で1つまたは2つの軸受61を備えているか、および、軸部材60がどの内リンクに取り付けられているかは任意である。
【0064】
上述したように、テンターチェーン5全体における軸部材60および軸受61の配置は、テンターチェーン5がバランスよく支持され、フィルムFの搬送に支障がなくフィルムFの製造に問題が生じないような配置であれば任意である。
【0065】
また、第2軸受73は、すべてのブシュ52にではなく一部のブシュ52のみに取り付けることもできる。この場合、テンターチェーン全体として多数あるブシュ52のうちどのブシュ52に第2軸受73を取り付けるかは任意である。また、第2軸受73が取り付けられていないブシュ52にはローラ53のみが取り付けられる。
【0066】
以上のように使用する軸受の数を削減することによって、テンターチェーンのメンテナンス作業を軽減できる。また、使用する軸受の数を少なくすることによって、テンターチェーンの軽量化が達成されるためテンター装置をより小さい駆動力で駆動できるようになるとともに、テンターチェーンを安価に提供できる。
【0067】
また、上述した形態では、フィルムFの保持機構として突き刺しピン方式の保持機構を示したが、その代わりに、フィルムFの縁部を掴むことによって把持するクリップ方式またはチャック方式の保持機構とすることもできる。