(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーが、スチレンブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1に記載の電気二重層キャパシタ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の電気二重層キャパシタは、アルミニウムからなる金属集電体箔に分極性電極層を形成した電極を、セパレータを介して対向させてコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に電解液を含浸して、電気二重層キャパシタとしたものである。
【0020】
電極に用いる金属集電体箔としては、アルミニウムを主体とするエッチング箔、プレーン箔、粗面化箔を用いる。アルミニウム箔としては純度99.9%以上の高純度のアルミニウムを用いる。その厚さとしては、通常10〜50μm程度の厚さのアルミニウム箔を用いる。
【0021】
(1)集電体の含水量について
本発明者が、アルミニウム箔表面の酸化皮膜の溶解について検討した結果、以下のようなメカニズムが考えられた。すなわち、負荷状態における正極においては、電解液中のH
2Oが電気分解して、H
+が発生する(a)。このH
+がアルミニウム箔表面のAl
2O
3(自然酸化皮膜)と反応して、Al
3+とH
2Oが発生し(b)、この際にAl
2O
3と水和した吸着水が遊離して、金属Alが露出する。また、BF
4-が加水分解してF
-が発生する(c)。なお、この加水分解反応は温度加速であるので、85℃だと劣化は促進される。続いて、露出した金属Alと(c)のF
-が反応して、絶縁皮膜であるAlF
3が生成して(d)、内部抵抗が上昇する。
【0022】
一方、負極では、電解液中のH
2Oが電気分解して、OH
-が発生する(e)。OH
-がBF
4-と反応して、F
-が発生する(f)。また、OH
-がAl
2O
3(自然酸化皮膜)と反応して、Al(OH)
4-が発生し(g)、(f)のF
-と反応して、AlF
4-が発生する。このAlF
4-が正極へ泳動し、正極へ絶縁皮膜であるAlF
3として堆積して(h)、内部抵抗が上昇する。
【0023】
また、無負荷状態においては、正極、負極とも同じ反応が進行する。すなわち、BF
4-が加水分解してF
-が発生する(i)。続いて、このF
-がAl
2O
3(自然酸化皮膜)と反応して、H
2Oと絶縁皮膜であるAlF
3が生成して(j)、内部抵抗が上昇する。この際にAl
2O
3と水和した吸着水が遊離する。
【0024】
ところで、電解液中の水分を少なくしても、上記反応によって発生したH
2Oと水和していた吸着水が電解液に混入するので、電解液中の水分を少なくしても、上記の劣化反応を抑制することはできない。しかし、集電体中の水分を少なくすると、これらの反応を抑制することができることが判明した。
【0025】
すなわち、これまでは、電解液や分極性電極中の水分を低減することによって、特性の劣化を抑制することができると考えられていたが、本願のこれらのメカニズムの解明によって、電解液や分極性電極中の水分を低減することでは劣化を抑制することができず、集電体中の水分の低減によって、特性の劣化を抑制することができることが分かった。なお、この水分量の上限は30μg/cm
2が好ましい。これは集電体の投影面積中に含まれる水分量(含水量)である。
【0026】
この含水量の測定方法は以下のとおりである。1.5モル/lTEMABF
4/GBL溶液中にアルミニウム集電体基材を85℃、300時間浸漬すると、前述した無負荷状態での反応によって生成した水分が電解液に混入する。そして、この液の水分量をカールフィシャー法によって測定し、この水分量を基材の投影面積、1cm
2あたりに換算する。このような含水量の少ないアルミニウム集電体は、アルミニウム基材をリン酸アンモニウム水溶液に浸漬することによって得ることができる。この点については、後に試験例を示す。
【0027】
さらに、電解液中の水分量が多くても、本願発明においては劣化が抑制されることが判明した。したがって、従来のような厳しい水分管理の必要性を低減することができる。この点については、後に試験例を示す。
【0028】
なお、上記の反応は、従来の60℃使用でも生じている反応である。したがって、従来のPC(プロピレンカーボネート)を用いた電気二重層キャパシタにおいても、効果を奏する。PCを用いた電気二重層キャパシタにおいては、負荷試験ではPCが分解することによる劣化が付加されるが、無負荷試験では、前述した無負荷状態での反応のみが進行する。また、PCを用いた電気二重層キャパシタにおいても、85℃、無負荷仕様があり、この場合の効果はGBLを用いた場合と同等であることになる。
【0029】
(2)被覆層について
さらに、検討を重ねた結果、負荷状態における正極及び負極の反応を抑制するために、集電体に被覆層を設けると、劣化抑制効果が大幅に向上することが分かった。
【0030】
この場合、被覆層を形成する目的は、アルミニウム集電体表面の自然酸化アルミニウムを被覆することにあるので、被覆層には、鱗片状のカーボンが含有されることが必要である。鱗片状のカーボンを含有させることにより、積み重なった鱗片状のカーボンによって自然酸化アルミニウムを被覆することができ、前述した劣化反応を抑制することができる。したがって、鱗片状のカーボンはある程度の大きさがあることが好ましく、その径は、5〜35μmであることが好ましい。なお、この径は1次粒子、2次粒子を含むカーボンの長径である。この範囲未満では本願の効果が低減し、この範囲を越えると塗工して形成する被覆層の塗工性が低下する。この点については、後に試験例を示す。なお、カーボンを含まないバインダーのみで被覆しても本願の効果は得られないことが判明している。
【0031】
なお、上記の正負極における反応においては、負荷状態での正極の反応速度が無負荷状態での両極の反応速度より大きいので、生成する水分は多い。なお、上記反応においては負荷状態での負極からは水分は発生しない。したがって、劣化反応を抑制するために、正極において、負極より鱗片状のカーボンが酸化アルミニウムを緻密に被覆している必要があるので、正極に必要な被覆層の厚みは負極に必要な被覆層の厚みより大きい。正極の被覆層の厚みは1μm〜5μmであることが好ましい。また、負極の被覆層の厚みは0.5μm〜5μmであることが好ましい。この上限を越えると箔厚が厚くなって、単位体積当りに収納できる箔長が短くなって、静電容量が低下する。
【0032】
続いて、本発明に係る電気二重層キャパシタの作製方法について説明する。すなわち、黒鉛と、カーボンブラックと、被覆層用結合材として85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとを水に分散させた被覆層用スラリーを、リン酸またはその塩を溶解した溶液に浸漬したアルミニウムからなる集電体に塗布して、導電層(被覆層)を形成する。
【0033】
ここで、前記被覆層用スラリーの調製方法について説明する。まず、純水中にアンモニアを加え、ph8に調整する。その後、導電性を有するカーボンブラック、グラファイトを加え、撹拌機のミキサーにより高いせん断を与えて分散させる。さらに被覆層用結合材としてγ−ブチロラクトン中における膨張率が50%以下であるエラストマーを加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、200〜300mPa・sである。
【0034】
なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられ、平均粒子径が0.1〜10μmのものが望ましい。また、グラファイトについては、π電子が非局在化した導電性の高い黒鉛(例えば、天然黒鉛や人造黒鉛)が挙げられ、平均粒子径が1〜20μmのものが望ましい。これら2種の炭素材料を混合することにより、高充填された高い電子伝導性を有する被覆層を形成することができ、電気二重層キャパシタの内部抵抗低減に対して効果的である。
【0035】
また、上述したように、被覆層用スラリーの粘度は、200〜300mPa・sであることが望ましい。その理由は、被覆層は、重量あたりの表面積が分極性電極層に使用している材料と比較して非常に小さいため、電気二重層容量をほとんど発現しない。そのため、製品化した際、電極厚みに対して被覆層が占有する厚みを薄くしなければならない。被覆層を薄く(約10μm以下)、且つ、厚みを均一にできる被覆層用スラリーの粘度について検討した結果、200〜300mPa・sが適していることが分かった。また、被覆層の表面粗さは、0.3〜0.6μmであることが望ましい。その理由は、被覆層を所望の厚みで塗工した場合の表面粗さを調べたところ、上記の範囲であったためである。
【0036】
また、前記被覆層用結合材としては、85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いる。この85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとしては、一例として、スチレンブタジエン系エラストマーがあるが、水を溶媒として使用できる結合材であり、γ−ブチロラクトン中における膨張率が前記の範囲であれば、他の材料も使用可能である。
【0037】
続いて、前記被覆層が形成された金属集電体箔に、主剤である電極材料と、導電性助剤と、コーティング用結合材と、水などの溶媒とを混合してなるコーティング用スラリーを塗布し、所定の圧力でプレスして、分極性電極(コーティング電極)を形成する。このようにして作製されたコーティング電極を、セパレータを介して対向させてコンデンサ素子を作製し、このコンデンサ素子に電解液を含浸して、電気二重層キャパシタとする。
【0038】
ここで、前記コーティング用スラリーの調製方法について説明する。すなわち、分散材としてのカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)と、溶剤としての純水を混合し、撹拌機によって撹拌する。ここに、電極材料と導電性助剤を加え、撹拌機のミキサーにより高いせん断を与えて分散させる。さらにコーティング用結合材としてγ−ブチロラクトン中における膨張率が50%以下であるエラストマーを加え、これらを混合してスラリーを作製する。このときの目標粘度は、3000〜7000mPa・sである。
【0039】
なお、前記電極材料としては、例えば活性炭を使用する。この場合、活性炭の原料は、植物系の木材、のこくず、ヤシ殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、或いはそれらを熱分解した石炭及び石油系ピッチ、石油コークス等である。活性炭は、これらの原料を炭化後、賦活処理して得られる。
【0040】
また、前記導電性助剤としては、伝導性を有する炭素材料であるカーボンブラック、グラファイトを用いることができる。前記カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられ、これらの中でも、ケッチェンブラックが好ましい。グラファイトとしては、例えば、天然グラファイト、人造グラファイト等が挙げられる。
【0041】
さらに、前記コーティング用結合材としては、85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーを用いる。この85℃のγ−ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下であるエラストマーとしては、一例として、スチレンブタジエン系エラストマーがあるが、水を溶媒として使用できる結合材であり、γ−ブチロラクトン中における膨張率が前記の範囲であれば、他の材料も使用可能である。
【0042】
一方、電解液は、その主溶媒として、γ−ブチロラクトンまたはプロピレンカーボネートを用いる。また、副溶媒として、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン類;アセトニトリルやニトロメタンなどの含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの有機酸エステル類;リン酸トリエステルや炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルのような炭酸ジエステルなどの無機酸エステル類;ジグライム類;トリグライム類;スルホラン;3−メチル−2−オキサゾリジノンなどのオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルホン、1,4−ブタンスルホン、ナフタスルホンなどのスルホン類等を用いることができる。
【0043】
前記有機溶媒中に溶解する電解質としては、金属の陽イオン、4級アンモニウムカチオン、カルボニウムカチオン等のカチオンと、BF
4-、PF
6-、AsF
6-、SbF
6-、から選ばれるアニオンの塩を挙げることができる。
【0044】
本発明の電気二重層キャパシタは、巻回型、積層型等の形状の何れであってもよい。このような電気二重層キャパシタは、例えば、電極シートを所望の大きさ、形状に切断し、セパレータを両極の間に介在させた状態で積層または巻回し、容器に挿入後電解液を注入し、封口部材、すなわち封口板、ガスケット等を用いて封口をかしめて製造できる。
【0045】
(3)試験結果
(3−1)集電体の含水量とカーボン粒径−その1
保有する水分量が異なる集電体に対して、導電性被覆層を構成するカーボンの粒子径を変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、分散材としてカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これらの電極を用い、電解液の水分率を変化させて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを2.3Vの電圧負荷を与えている状態で85℃で保存した。電解液は1.5モル/lTEMABF
4/GBL溶液もしくは1.8モル/lTEMABF
4/PC溶液を使用した。その後、2000時間まで2.3Vを印加しながら85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表1に示すような結果が得られた。
【0046】
なお、保有する水分量が異なる集電体は、アルミニウム基材をリン酸アンモニウム水溶液に浸漬処理し、異なる処理条件を用いることによって作製した。また、含水量は、前述した方法によって、三菱アナリテック社製、微量水分測定装置(CA−200)を用いて測定した。
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、電解液の溶媒としてGBLを用いた電気二重層キャパシタであって、集電体の含水量が40μg/cm
2と高い比較例1とカーボン粒径が3μmと小さい比較例2、また、電解液の溶媒としてPCを用いた比較例3においては、DCIRの変化率が大きいことが分かった。
【0048】
また、電解液の水分率を1000ppmとした実施例4においても、DCIRの変化率は、電解液の水分率を100ppmとした他の実施例と同等であった。このことから、アルミニウム箔中の水分を規定すれば、たとえ電解液中の水分が多くても劣化しないことが分かった。すなわち、従来考えられていたように劣化反応の原因は電解液中の水分や分極性電極中の水分にあるのではなく、アルミニウム箔が保有する水分にあることが分かった。
【0049】
(3−2)集電体の含水量とカーボン粒径−その2
保有する水分量が異なる集電体に対して、導電性被覆層を構成するカーボンの粒子径を変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これら電極を用いて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを無負荷、85℃で保存した。電解液の溶媒にはPCを使用した。その後、2000時間まで85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表2に示すような結果が得られた。
【表2】
【0050】
表2から明らかなように、電解液の溶媒としてPCを用いた電気二重層キャパシタであって、集電体の含水量が40μg/cm
2と高い比較例4とカーボン粒径が3μmと小さい比較例5においては、実施例7と比べてDCIRの変化率が大きいことが分かった。
【0051】
(3−3)被覆層の厚みと平均粗さ−その1
含水量が10μg/cm
2の集電体に対して、正極と負極の導電性被覆層の厚みを変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、分散材としてカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これら電極を用い、平板のラミネート型キャパシタを作製し、電極一定面積におけるDCIRを求めた。
【0052】
さらに同電極を用いて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを2.3Vの電圧負荷を与えている状態で85℃で保存した。電解液は1.5モル/lTEMABF
4/GBL溶液を使用した。その後、2000時間まで2.3Vを印加しながら85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表3に示すような結果が得られた。
【表3】
【0053】
表3から明らかなように、正極の厚みが薄い比較例6においては、各実施例に比べてDCIR変化率が大きかった。これは、前述の負荷状態での正極での劣化反応が進行し、金属Alの表面に絶縁皮膜が生成したため、DCIRが増加したと考えられる。また、正極の厚みが厚い比較例7においては、静電容量が減少している。さらに、被覆層表面の平均粗さが小さい比較例8においては、各実施例に比べて初期DCIRが大きいことが分かった。なお、負極厚みが薄い比較例9においては、正極の厚みが厚いため特性は劣化しなかった。
【0054】
(3−4)被覆層の厚みと平均粗さ−その2
含水量が10μg/cm
2の集電体に対して、正極と負極の導電性被覆層の厚みを変化させて導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、分散材としてカルボキシメチルセルロース−ナトリウム塩(CMC−Na)、結合材としてSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたスラリーを塗布し電極を作製した。これら電極を用い、平板のラミネート型キャパシタを作製し、電極一定面積におけるDCIRを測定した。さらに同電極を用いて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを無負荷、85℃で保存した。電解液には溶媒にGBLを使用した。その後、85℃で2000時間まで保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表4に示すような結果が得られた。
【表4】
【0055】
表4から明らかなように、導電性被覆層の厚みが薄くなると(比較例11)、DCIRが増加する傾向にあることがわかった。これは、前述した無負荷状態での劣化反応を抑制することができないためと予想される。
【0056】
(3−5)被覆層に関する試験
(電気化学的解析)
作用極を試験電極(2×2cm)、参照極をAg線、対極を白金板(2×2cm)として三極式セルを作製し、試験温度85℃でアノード、カソード電位(アノード電位0.6V、カソード電位−1.7V(Vvs.Ag/Ag
+))で3時間保持した後、試験電極の交流インピーダンスを測定したところ、
図1に示すような結果が得られた。なお、図中白抜きは、被覆層が形成されているものの結果を示したものである。また、各グラフの横軸のReZ(Ω)は抵抗率の実部、縦軸のImZ(Ω)は抵抗率の虚部を表している。
【0057】
図1(A)から明らかなように、被覆層を形成させても電極の抵抗は増加しないことが分かった。一方、
図1(B)(C)に示すように、高温負荷を行ったカソード電極、アノード電極においては、被覆層を形成することにより、抵抗の増加が抑制されることが分かった。
【0058】
このように、被覆層を形成することにより内部抵抗の増加が抑制される理由は、85℃においても、前述したように被覆層によって劣化反応が抑制されるためであると考えられる。
【0059】
(電極表面の観察)
「コーティング電極のみ」の場合と、「被覆層+コーティング電極」の場合について、その断面をSEMにより観察したところ、
図2(A)(B)に示すような結果が得られた。また、アルミニウム箔表面と被覆層表面をSEMにより観察したところ、
図2(C)(D)に示すように、被覆層がアルミニウム箔表面を完全に覆っていることが分かった。
【0060】
(表面粗さ解析)
エッチング箔表面と被覆層表面のそれぞれについて、表面粗さ解析を行ったところ、
図3(A)に示すような結果が得られた。ここで、「表面粗さ解析」は、JIS B0601に準拠して、例えば、表面粗さ計(SJ400、ミツトヨ社製)を用いて、粗さ曲線を描く。粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜取り部分の平均線の方向にX軸を、縦倍率の方向にY軸を取り、粗さ曲線をy=f(χ)で表したときに、次式によって求められる値をRa(μm)とする。なお、次式において、筆記体のlは測定長さ、xは平均線から測定曲線までの偏差である。
【数1】
【0061】
また、エッチング箔表面と被覆層表面のそれぞれについて、平均粗さ(Ra)を調べたところ、
図3(B)に示すような結果が得られた。表から明らかなように、被覆層表面の粗さは、エッチング箔表面の粗さの約1/3に減少した。
【0062】
このようにエッチング箔表面の粗さが大きいのは、エッチング箔のピット径が小さすぎるため、電極材の粒子(活性炭、KB)が入り込めていないため、アンカー効果による密着性が弱いためであると考えられる。一方、被覆層を形成した場合は、アルミニウムエッチング層に被覆層が埋め込まれるため、表面粗さが小さくなると考えられる。
【0063】
(被覆層の厚み)
次に、平板ラミネートセルを用いて被覆層の厚みについて検討したところ、被覆層を厚くすると表面粗さが増加し、内部抵抗及び容量共に減少する傾向があることが分かった。なお、被覆層の厚みが2〜4μm、表面粗さが0.3〜0.9μmの場合に、内部抵抗値が最小になる傾向があり、この条件がコーティング用スラリー層と被覆層との密着性が高くなる範囲と考えられる。
【0064】
(電極強度試験)
次に、被覆層ありの電極(UC電極)と被覆層なしの電極(コーティング電極)についてテープ試験を行ったところ、
図4に示すような結果が得られた。なお、前記テープ試験は、
図4(A)に示すように、1.5×4cmに打ち抜いたUC電極とコーティング電極のそれぞれを試験片とし、電極を下にして同サイズのセロハンテープ(登録商標)を貼り付け、180°方向にテープを引っ張る。そのテープを3.14cm
2に打ち抜き、重量を測定する。試験片は同じものを用い、テープを貼り、引っ張る、テープの重量測定のサイクルを5回繰り返した。
【0065】
その結果、
図4(B)に示すように、両方とも5回目のピールで電極全部(16mg)が剥がれたが、被覆層なしのコーティング電極では1回目のピールで約15mgが剥がれており、電極のほとんどが集電体から剥がれていることが分かった。これに対して、被覆層ありのUC電極では、1回目のピールで約12mgしか剥がれがなく、電極層と集電体の接合強度が向上して、電極層の間での剥離が起こっていることが分かった。なお、
図4(C)は、1〜5回のピールで、各回においてテープに貼り付いたコーティング層を示したものである。
【0066】
(寿命試験)
次に、溶媒として四フッ化ホウ素トリエチルメチルアンモニウム(TEMABF
4)とγ−ブチロラクトン(GBL)を含む電解液を用い、主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、結合材としてアクリル系バインダー(アクリルニトリルゴム)を用いた従来例と、SBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いた比較例と、被覆層を形成すると共にSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いた実施例について、巻回型電気二重層キャパシタを作製し、寿命試験(2.3V85℃)を行ったところ、
図5に示すような結果が得られた。なお、この寿命試験は、2.3Vの電圧負荷を与えている状態で85℃の高温槽内で保存し、容量、内部抵抗を測定し、初期の容量、内部抵抗からの変化を計測したものである。
【0067】
図から明らかなように、被覆層を形成すると共にSBR系バインダーを用いた実施例においては、容量減少率は最も小さく、内部抵抗の増加率も最も小さかった。
【0068】
(バインダー膨張率と被覆層の有無の効果)
含水量が10μg/cm
2の集電体に導電性被覆層を形成し、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、コーティング用結合材として85℃のγ―ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%であるSBR系バインダー(スチレンブタジエンゴム)を用いたコーティング用スラリーを塗布し電極を作製した(実施例16)。
【0069】
また、比較例として、集電体に対して導電性被覆層を形成した後、その上に主剤として活性炭、導電性助剤としてケッチェンブラック、コーティング用結合材として85℃のγ―ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が80%であるアクリル系バインダー(アクリルニトリルゴム)を用いたコーティング用スラリーを塗布し電極を作製した(比較例12)。
【0070】
これらの電極を用いて巻回型の電気二重層キャパシタを作製し、これら電気二重層キャパシタを2.3Vの電圧負荷を与えている状態で85℃で保存した。電解液の溶媒にはGBLを使用した。その後、2000時間まで2.3Vを印加しながら85℃で保存し、DCIRを測定し、初期からのDCIRの変化率を求めたところ、表5に示すような結果が得られた。
【表5】
【0071】
表5から明らかなように、導電性被覆層上に、85℃のγ―ブチロラクトン中における100時間後の膨張率が50%以下のエラストマーをコーティング用結合材として用いたコーティング用スラリーを塗布して電極を作製した場合に、内部抵抗の上昇を抑制することができることが分かった。これは85℃の環境下におけるバインダーの膨張率が低いことによる効果であると考えられる。
【0072】
(他の実施例)
本発明は、上記の実施例に限定されず、従来の60℃用のプロピレンカーボネートを主溶媒とした電解液、アクリル系バインダーを用いた電気二重層キャパシタに適用しても効果がある。