特許第5760423号(P5760423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5760423-NOx浄化率低下原因診断装置 図000002
  • 特許5760423-NOx浄化率低下原因診断装置 図000003
  • 特許5760423-NOx浄化率低下原因診断装置 図000004
  • 特許5760423-NOx浄化率低下原因診断装置 図000005
  • 特許5760423-NOx浄化率低下原因診断装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760423
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】NOx浄化率低下原因診断装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/20 20060101AFI20150723BHJP
   F01N 3/36 20060101ALI20150723BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   F01N3/20 CZAB
   F01N3/36 B
   B01D53/36 101A
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-280889(P2010-280889)
(22)【出願日】2010年12月16日
(65)【公開番号】特開2012-127302(P2012-127302A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】長岡 大治
(72)【発明者】
【氏名】中田 輝男
【審査官】 山田 由希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−291742(JP,A)
【文献】 特開2010−163923(JP,A)
【文献】 特開2005−201143(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 3/36
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管燃料噴射器と酸化触媒装置とNOx浄化装置とを有するエンジンシステムに適用されるNOx浄化率低下原因診断装置であって、
NOx濃度の比から算出されるNOx浄化率が閾値を超えて低下した時であって前記排気管燃料噴射器による排気管燃料噴射未実施時に、前記NOx浄化装置の下流位置での実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差が閾値を超えていれば、NOx浄化率低下の原因はエンジン側故障と特定するエンジン側故障特定部と、
NOx濃度の比から算出されるNOx浄化率が閾値を超えて低下した時であって前記排気管燃料噴射器による排気管燃料噴射未実施時に、前記NOx浄化装置の下流位置での実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差が閾値以内であれば、前記排気管燃料噴射器による診断用排気管燃料噴射を実施させる診断用排気管燃料噴射制御部と、
前記診断用排気管燃料噴射実施時に前記酸化触媒装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値以内であれば、NOx浄化率低下の原因はNOx浄化装置故障と特定するNOx浄化装置故障特定部と、
前記診断用排気管燃料噴射実施時に前記酸化触媒装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値を超えており、かつ、前記NOx浄化装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値以内であれば、NOx浄化率低下の原因は酸化触媒装置故障と特定する酸化触媒装置故障特定部と
を備えたことを特徴とするNOx浄化率低下原因診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOx浄化率低下の原因を特定する自己診断が可能なNOx浄化率低下原因診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの排気ガス流路に炭化水素選択還元触媒(Hydrocarbon Selective Catalytic Reduction)装置(以下、HC−SCRという)、NOx吸蔵器(Lean NOx Trap;以下、LNT)等のDe−NOx(窒素酸化物低減)触媒付き後処理装置(以下、NOx浄化装置という)を備える車両では、NOx浄化装置の上下流にNOxセンサを設置し、これらのNOxセンサが検出するNOx濃度の比からNOx浄化率を算出することができる。
【0003】
このNOx浄化率の時間的変化を求め、NOx浄化率が閾値を超えて低下したときNOx浄化装置が故障であるという自己診断(On-board Diagnostics;OBD)ができるようになると好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75610号公報
【特許文献2】特開2010−196496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エンジンからNOx浄化装置の下流までには、排気ガス流路に沿って多様な部材が設置されており、これらの部材が故障した場合もNOx浄化率が低下することがある。例えば、エンジン周辺の諸部材の故障、酸化触媒装置の故障によっても、NOx浄化率が低下する。したがって、NOx浄化率が低下しても直ちにNOx浄化装置が故障であるとは断定できない。NOx浄化率低下の原因がエンジン周辺の諸部材の故障であるのか、NOx浄化装置の故障であるのか、酸化触媒装置の故障であるのかを切り分けることが望まれる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、NOx浄化率低下の原因を特定する自己診断が可能なNOx浄化率低下原因診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、排気管燃料噴射器と酸化触媒装置とNOx浄化装置とを有するエンジンシステムに適用されるNOx浄化率低下原因診断装置であって、NOx濃度の比から算出されるNOx浄化率が閾値を超えて低下した時であって前記排気管燃料噴射器による排気管燃料噴射未実施時に、前記NOx浄化装置の下流位置での実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差が閾値を超えていれば、NOx浄化率低下の原因はエンジン側故障と特定するエンジン側故障特定部と、NOx濃度の比から算出されるNOx浄化率が閾値を超えて低下した時であって前記排気管燃料噴射器による排気管燃料噴射未実施時に、前記NOx浄化装置の下流位置での実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差が閾値以内であれば、前記排気管燃料噴射器による診断用排気管燃料噴射を実施させる診断用排気管燃料噴射制御部と、前記診断用排気管燃料噴射実施時に前記酸化触媒装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値以内であれば、NOx浄化率低下の原因はNOx浄化装置故障と特定するNOx浄化装置故障特定部と、前記診断用排気管燃料噴射実施時に前記酸化触媒装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値を超えており、かつ、前記NOx浄化装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値以内であれば、NOx浄化率低下の原因は酸化触媒装置と特定する酸化触媒装置故障特定部とを備えたNOx浄化率低下原因診断装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0009】
(1)NOx浄化率低下の原因を特定する自己診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態を示すNOx浄化率低下原因診断装置の構成図である。
図2図1のNOx浄化率低下原因診断装置が適用されるエンジンシステムの構成図である。
図3図1のNOx浄化率低下原因診断装置が実行する制御手順を示すフローチャートである。
図4】排気管に沿った発熱の分布図である。
図5図3の制御手順と等価的な診断マトリクスを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1に示されるように、本発明に係るNOx浄化率低下原因診断装置1は、NOx浄化率の低下時に診断用に排気管燃料噴射を実施させる診断用排気管燃料噴射制御部2と、排気管燃料噴射未実施時における実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差が閾値を超えていれば、NOx浄化率低下の原因はエンジン側故障と特定するエンジン側故障特定部3と、排気管燃料噴射実施時における実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差が閾値を超えていれば、NOx浄化率低下の原因は排気管燃料噴射器故障と特定する排気管燃料噴射器故障特定部4と、排気管燃料噴射実施時に酸化触媒装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値以内であれば、NOx浄化率低下の原因はNOx浄化装置故障と特定するNOx浄化装置故障特定部5と、排気管燃料噴射実施時に酸化触媒装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値を超えていれば、NOx浄化率低下の原因は酸化触媒装置故障と特定する酸化触媒装置故障特定部6と、排気管燃料噴射実施時に酸化触媒装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値を超えており、かつ、NOx浄化装置での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値を超えていれば、酸化触媒装置故障及びNOx浄化装置故障と特定する複合故障特定部7とを備える。
【0013】
NOx浄化率低下原因診断装置1を構成する診断用排気管燃料噴射制御部2、エンジン側故障特定部3、排気管燃料噴射器故障特定部4、NOx浄化装置故障特定部5、酸化触媒装置故障特定部6、複合故障特定部7は、電子制御装置(Electronical Control Unit;以下、ECUという)が実行するソフトウェアで実現される。ECUは、エンジンシステムの制御に必要な全てのエンジンパラメータ(センサ検出値、演算値、制御値など)を把握しているものとする。
【0014】
図2に示されるように、本発明のNOx浄化率低下原因診断装置1が適用されるエンジンシステム201は、エンジン202の排気マニホールド203に、排気ガス再循環装置(Exhaust Gas Recirculation;EGR)を構成するEGR管204が接続されると共に、ターボチャージャ205の排気タービン206の入口が接続される。EGR管204の下流端は、吸気マニホールド207に接続される。排気タービン206の出口に排気管208が接続される。
【0015】
排気管208には上流から順に、排気管208内に燃料を噴射する排気管燃料噴射器209、燃料や中間生成物の酸化を促進する酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst)装置(以下、DOCという)210、HC−SCR、LNTなどのNOx浄化装置211、粒子状物質(Particulate Matter;PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter;以下、DPFという)212又はキャタライズドスートフィルタ(Catalyzed Soot Filter;CSF)が設置される。なお、DOC210、NOx浄化装置211、DPF212は、いずれも触媒を使用するものであり、以下では、DOC210、NOx浄化装置211、DPF212の意味で単に触媒と表記することがある。
【0016】
排気管燃料噴射器209は、DPF212に捕集された粒子状物質を燃焼除去(DPF再生、PM再生)するときに、排気管208内に燃料である軽油を噴射するために設けられる。噴射された燃料をDOC210、NOx浄化装置211、DPF212などにおいて触媒の介在により酸化させ、排気ガス温度をDPF再生温度まで上昇させることができる。また、HC−SCR、LNTに対して還元剤としての炭化水素を添加する目的で排気管燃料噴射を行うことができる。本発明では、NOx浄化率低下原因の診断用に排気管燃料噴射を実施することになる。
【0017】
大気からの空気が取り込まれるエアフィルタ213には吸気管214が接続され、吸気管214の下流端はターボチャージャ205の吸気コンプレッサ215の入口に接続される。吸気コンプレッサ215の出口には高圧側吸気管216が接続され、高圧側吸気管216の下流端は、吸気マニホールド207に接続される。
【0018】
排気管208のDOC210の上流には、エンジン出口NOx濃度を検出する第一NOxセンサ221が設置され、DPF212の下流には触媒後NOx濃度を検出する第二NOxセンサ222が設置される。DPF212の下流には排気ガスの空燃比(実測排気ガス空燃比)を検出する排気ガスλセンサ223が設置される。排気管208には、DOC210の上流にDOC210に流れ込む排気ガスの温度(DOC入口温度)を検出する第一温度センサ224、DOC210とNOx浄化装置211との間にDOC出口温度(NOx浄化装置入口温度)を検出する第二温度センサ225、NOx浄化装置211とDPF212との間にNOx浄化装置出口温度(DPF入口温度)を検出する第三温度センサ226、DPF212の下流にDPF出口温度を検出する第四温度センサ227が設置される。吸気管214には、吸入空気量を検出する空気流量センサ(Mass Airflow sensor;以下、MAFセンサという)228が設置される。
【0019】
なお、第一NOxセンサ221、第二NOxセンサ222、排気ガスλセンサ223、第一〜第四温度センサ224〜227については、本発明のNOx浄化率低下原因診断装置1による自己診断とは別途に行われるセンサの自己診断により、各センサが正常であることが確認されているものとする。
【0020】
図3に示されるように、NOx浄化率低下原因診断装置1が実行する制御手順は、NOx浄化率低下かどうかを判定するNOx浄化率低下判定のステップS1、噴射無し時空燃比異常かどうかを判定する排気管燃料噴射未実施時の故障原因特定(λ診断A)のステップS2、排気管燃料噴射実施のステップS3、噴射有り時空燃比異常かどうかを判定する排気管燃料噴射実施時の故障原因特定(λ診断B)のステップS4、触媒発熱パターンに基づく故障原因特定(触媒温度診断)のステップS5を有する。
【0021】
以下、各ステップにおける動作を詳しく説明する。
【0022】
NOx浄化率低下原因診断装置1は、NOx浄化率低下判定のステップS1にて、あらかじめ決められた判定条件が成立しているときに、NOx浄化率低下かどうかを判定する。判定条件は、排気ガス温度が安定しており、かつ、車両走行が安定していることである。車両走行が不安定であると、エンジン状態が過渡的状態となって排気ガスのNOx濃度検出が不安定になってしまうので、NOx浄化率低下の判定は保留する。
【0023】
NOx浄化率は、触媒後NOx濃度と触媒前NOx濃度とから求められるが、本実施形態では、触媒前NOx濃度としてエンジン出口NOx濃度が用いられ、第一NOxセンサ221の検出値であるエンジン出口NOx濃度と第二NOxセンサ222の検出値である触媒後NOx濃度とから次式、
NOx浄化率=(1−触媒後NOx濃度/エンジン出口NOx濃度)
×100 (%)
により演算される。エンジン出口NOx濃度は、第一NOxセンサ221を使用せずに、エンジンパラメータを用いた公知の理論式あるいはマップから推定してもよい。
【0024】
エンジン出口NOx濃度と触媒後NOx濃度は、常時、所定のサンプリングインターバルで検出されており、リアルタイムにNOx浄化率を演算することができる。
【0025】
NOx浄化率低下原因診断装置1は、NOx浄化率があらかじめ設定した閾値以下になった状態があらかじめ設定した所定時間以上継続した場合、NOx浄化率が低下したと判定する。この判定によって本発明のNOx浄化率低下原因診断が実質的に開始される。
【0026】
排気管燃料噴射未実施時の故障原因特定(λ診断A)のステップS2にて、噴射無し時空燃比異常かどうかを判定する。すなわち、エンジン側故障特定部3は、吸入空気量と燃料噴射量とを用いる公知の理論式により排気ガスλセンサ223の設置位置における理論排気ガス空燃比を演算し、排気ガスλセンサ223が検出する実測排気ガス空燃比と比較する。実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差があらかじめ設定された閾値を超えていれば、異常である。この場合、理論排気ガス空燃比が正しく演算できていないので、NOx浄化率低下の原因はエンジン側故障と特定する。
【0027】
エンジン側故障とは、排気管208よりも上流に位置する諸部材のいずれかの故障という意味である。例えば、MAFセンサ228が故障すると吸入空気量が不正確になるため、理論排気ガス空燃比の演算が不正確になることになる。あるいはエンジン202内の燃料噴射器に詰まりが発生すると、燃料噴射量の誤差が大きくなって、理論排気ガス空燃比の演算が不正確になることになる。このように、NOx浄化率低下の原因がエンジン側故障と特定された場合には、故障部位をさらに特定する診断を行うとよい。これには、EGR弁、吸気スロットル、ターボチャージャ、MAFセンサ228などの諸部材に関する公知の異常判定情報(例えば、センサ出力電圧異常)を援用するとよい。
【0028】
ステップS2の判定で誤差が閾値以下であれば、噴射無し時空燃比は正常、よってエンジン側には異常はないと判定できるから、次へ進む。
【0029】
排気管燃料噴射実施のステップS3にて、診断用排気管燃料噴射制御部2は、排気管燃料噴射を実施する。排気管燃料噴射は、DPF再生時と同様の噴射量で行う。手動DPF再生のための再生スイッチを装備した車両では、制御手順中にオペレータに操作を促し、オペレータが手動で実施するようにしてもよい。
【0030】
排気管燃料噴射実施時の故障原因特定(λ診断B)のステップS4にて、噴射有り時空燃比異常かどうかを判定する。すなわち、排気管燃料噴射器故障特定部4は、吸入空気量と燃料噴射量から求めたエンジン202が排出する排気ガス重量と排気管燃料噴射量とを用いる公知の理論式により排気ガスλセンサ223の設置位置における理論排気ガス空燃比を演算し、排気ガスλセンサ223が検出する実測排気ガス空燃比と比較する。実測排気ガス空燃比と理論排気ガス空燃比との誤差があらかじめ設定された閾値を超えていれば、異常である。この場合、理論排気ガス空燃比が正しく演算できることが確認されているので、NOx浄化率低下の原因は排気管燃料噴射器故障と特定する。
【0031】
ステップS4の判定で誤差が閾値以下であれば、噴射有り時空燃比は正常、よって排気管燃料噴射器209は正常と判定できるから、次へ進む。
【0032】
触媒発熱パターンに基づく故障原因特定(触媒温度診断)のステップS5にて、触媒発熱パターンを判定する。触媒発熱パターンとは、排気管208に沿ってDOC210、NOx浄化装置211、DPF212を通る経路における実測に基づく発熱の分布形状を表すものである。
【0033】
図4に示されるように、第一〜第四温度センサ224〜227で検出される各触媒入口及び出口の排気ガス温度に基づいて触媒ごとの入口出口間の温度差を求め、この温度差から各触媒における積算発熱量を演算することができる。これを実測発熱量とする。一方、排気管燃料噴射量、各触媒に依存する燃料の発熱係数、放熱量などをあらかじめ実験により得た経験式に適用して各触媒において生ずるべき積算発熱量を演算することができる。これを理論発熱量とする。
【0034】
実測発熱量と理論発熱量は、例えば、次のように求められる。DPF再生時に各触媒入口温度、吸入空気量、燃料噴射量から排気ガス流量を算出する。DOC210の入口出口間の温度差、排気ガス流量、排気ガス比熱から瞬時の触媒発熱量を算出する。この触媒発熱量を積算して積算発熱量を算出する。具体的には、
瞬時の触媒発熱量=DOC出入口温度差×排気ガス流量×排気ガス比熱
により瞬時の触媒発熱量が演算される。一方、瞬時の理論発熱量は、燃料である軽油の低位発熱量(例えば、38.2MJ/L)と燃料消費量とから演算され、こちらも積算される。
瞬時の理論発熱量=軽油の低位発熱量×燃料消費量
【0035】
理論発熱量は、図に破線で示されるように、DOC210内の入口近傍で大きく立ち上がり、それ以降は一定となる。実線で示される触媒発熱パターン#1は、理論発熱量に基づく分布とほぼ一致している。これに対し、触媒発熱パターン#2は、DOC210内ではほとんど立ち上がらず、NOx浄化装置211内の入口近傍で大きく立ち上がり、それ以降は一定となる。触媒発熱パターン#3は、DOC210内でもNOx浄化装置211内でもほとんど立ち上がらず、DPF212の入口近傍で大きく立ち上がる。
【0036】
触媒発熱パターン#1を考察すると、DOC210において実測発熱量と理論発熱量がよく一致しており、DOC210は正常に機能していると判定できる。DOC210において排気ガス温度が上昇しているため、NOx浄化装置211が正常に機能しているかどうかは、この触媒発熱パターン#1のみからは判定できない。
【0037】
触媒発熱パターン#2を考察すると、DOC210において実測発熱量と理論発熱量が大きく相違しており、かつ、NOx浄化装置211では実測発熱量が大きく、NOx浄化装置211以降の発熱量分布が一致している。これより、DOC210に異常があると判定できる。また、NOx浄化装置211の昇温機能は正常であると判定できる。
【0038】
触媒発熱パターン#3を考察すると、DOC210とNOx浄化装置211において実測発熱量と理論発熱量が大きく相違している。したがって、DOC210とNOx浄化装置211は、共に異常があると判定できる。
【0039】
以上のような触媒発熱パターンによる考察と、NOx浄化率低下が判定されているという事象とを組み合わせることで、故障部位が特定できる。
【0040】
第一〜第四温度センサ224〜227で検出される排気ガス温度から触媒発熱パターン#1が得られた場合、DOC210での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値以内となるので、DOC210は正常と判定できる。既に、エンジン側に異常がなく、排気管燃料噴射器209も正常であることが判定されているので、NOx浄化率を低下させる要因としてはNOx浄化装置211しか残っていない。よって、NOx浄化装置故障特定部5は、NOx浄化率低下の原因はNOx浄化装置故障と特定する。閾値は、例えば、理論発熱量×0.8を目安に設定する。
【0041】
触媒発熱パターン#2が得られた場合、DOC210に異常があることは確定する。一方、NOx浄化装置211での実測発熱量と理論発熱量との誤差が閾値(理論発熱量×0.8を目安)以内となり、NOx浄化装置211の昇温機能は正常であるものの、NOx浄化率低下の原因が酸化触媒装置故障であるとは一意的に断定できない。なぜならば、NOx浄化装置211において、昇温機能は正常であるが、NOx浄化の機能が異常である可能性が残る。しかし、発明者らの知見によれば、触媒の昇温機能異常とNOx浄化機能異常は同時に発生するので、酸化触媒装置故障の可能性が高い。よって、酸化触媒装置故障特定部6は、NOx浄化率低下の原因は酸化触媒装置故障と特定する。
【0042】
触媒発熱パターン#3が得られた場合、DOC210とNOx浄化装置211に異常があることが確定する。よって、複合故障特定部7は、NOx浄化率低下の原因は酸化触媒装置故障及びNOx浄化装置故障と特定する。
【0043】
図3の制御手順と等価的に図5の診断マトリクスを定義することができる。すなわち、図5に示されるように、ステップS2のλ診断Aの判定がNG(異常)であるならば、NOx浄化率低下の原因はエンジン側故障と特定される。ステップS2のλ診断Aの判定がOK(正常)であってステップS4のλ診断Bの判定がNGであるならば、NOx浄化率低下の原因は排気管燃料噴射器故障と特定される。ここで、図3の手順ではステップS5の触媒温度診断は実行されないが、仮に実行すれば、例えば、全ての触媒で昇温がない触媒発熱パターンが得られ、この場合の判定はNGとなる。
【0044】
λ診断A、λ診断Bの判定が共にOKである場合は、次のようになる。触媒温度診断の判定がOK(実測発熱量と理論発熱量が一致、つまり触媒発熱パターン#1)であるならば、NOx浄化装置故障と特定される。触媒温度診断の判定が触媒発熱パターン#2によってNGであるならば、酸化触媒装置故障と特定される。触媒温度診断の判定が触媒発熱パターン#3によってNGであるならば、酸化触媒装置故障及びNOx浄化装置故障と特定される。
【0045】
以上説明したように、本発明に係るNOx浄化率低下原因診断装置1によれば、NOx浄化率の低下時に診断用に排気管燃料噴射を実施させ、DOC210の触媒温度診断を行うようにした。これにより、DOC210で正常な発熱量が得られていればNOx浄化装置故障と特定でき、DOC210で正常な発熱量が得られていなければ酸化触媒装置故障と特定できる。
【0046】
さらに、本実施形態のように、λ診断A及びλ診断Bを行うようにすると、エンジン側故障、排気管燃料噴射器故障が特定でき、故障の切り分けがいっそう細分化できる。
【0047】
本発明に係るNOx浄化率低下原因診断装置1は、エンジンシステム201に新規な部材を追加することなく、ECUのソフトウェアを変更するのみで実現できるので、部材コストが上昇することがない。
【0048】
本実施形態では、排気管208の上流から順に、排気管燃料噴射器209、DOC210、NOx浄化装置211、DPF212が設置されたエンジンシステム201に本発明を適用するものとしたが、DOC210がなく、排気管燃料噴射器209、NOx浄化装置211、DPF212が設置されたエンジンシステムにも本発明は適用できる。さらに、DOC210、NOx浄化装置211がなく、排気管燃料噴射器209、DPF212が設置されたエンジンシステムにおけるPM浄化の不具合時にエンジン側故障、排気管燃料噴射器故障、DPF故障を特定する場合にも本発明が応用できる。また、NOx浄化に尿素SCRを用いるエンジンシステムに対しては、NOx浄化率低下時に尿素水噴射器故障以外の原因特定に本発明を応用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 NOx浄化率低下原因診断装置
2 診断用排気管燃料噴射制御部
3 エンジン側故障特定部
4 排気管燃料噴射器故障特定部
5 NOx浄化装置故障特定部
6 酸化触媒装置故障特定部
7 複合故障特定部
図1
図2
図3
図4
図5