(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760429
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】液剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/353 20060101AFI20150723BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20150723BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20150723BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20150723BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20150723BHJP
A23L 2/00 20060101ALN20150723BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20150723BHJP
A23F 3/14 20060101ALN20150723BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K47/22
A61K47/12
A61K47/36
A61K9/08
!A23L2/00 B
!A23L2/00 F
!A23F3/14
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-283969(P2010-283969)
(22)【出願日】2010年12月21日
(65)【公開番号】特開2011-148778(P2011-148778A)
(43)【公開日】2011年8月4日
【審査請求日】2013年11月14日
(31)【優先権主張番号】特願2009-290881(P2009-290881)
(32)【優先日】2009年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堂本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】武井 拓人
【審査官】
平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】
特表平03−501126(JP,A)
【文献】
特開2003−333989(JP,A)
【文献】
特開2004−129669(JP,A)
【文献】
Hayashi et al.,Reduction of Catechin Astringency by the Complexation of Gallate-Type Cathechins with Pectin,Biosci Biotechnol Biochem.,2005年 7月,69(7),p.1306-1310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/48
A23F 3/00− 3/42
A23L 2/00− 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)カテキン、b)ヒスチジン若しくはコハク酸又はそれらの塩、及びc)ペクチン又はアラビアガム、を配合することを特徴とし、
カテキン1質量部に対して、ヒスチジン又はそれらの塩が0.2質量部以上であり、
カテキン1質量部に対して、コハク酸又はそれらの塩が0.1質量部以上であり、
カテキン1質量部に対して、ペクチン又はアラビアガムが0.5質量部以上である液剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、医薬部外品及び食品等の分野における液剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
茶は、主に植物の葉、茎、種実等の組織から水や湯で抽出した成分を含む飲食品の総称である。その代表例は、ツバキ科に属し中国南部に起源を持つ、Camellia sinensisという植物の新芽を原材料とした緑茶である。
【0003】
茶は独特のえぐみ、渋み、こく等のいわゆる苦味を有しているが為に嗜好性に優れる飲料としても重宝されている。また栽培しやすい植物であることもあって次第にその生産地が広がり、現在では日本、インド、スリランカ等でも栽培されている。
【0004】
種々の茶の効能に関する科学的研究が盛んに行われた結果、茶の効用の多くがカテキンによるものであることが明らかにされてきた。これらの研究は同時に、茶の苦味もカテキンが呈するものであることを明らかにした。前述の通り、茶の苦味は嗜好性を決定する要因の一つであるが、同時に茶の服用が避けられる原因ともなっている。
【0005】
より簡便に大量のカテキンを摂取するために、飲料にカテキンを高濃度に配合する技術が開発されてきている(特許文献1、2)が、市販の緑茶抽出物の濃縮物をそのまま用いると緑茶抽出物の濃縮物に含まれる成分の影響によって苦味が強くなり、また喉越しも悪く、カテキンによる有益な生理効果を発現させる上で必要となる長期間の飲用には不適であった。この問題に対して、カテキンの風味を改善する手段として甘味閾値以下の高甘味度甘味剤を配合すること(特許文献3)、ステビアとアスパルテームを併用すること(特許文献4)、スクラロースを配合すること(特許文献5)も提案されている。また、ペクチンを配合することにより苦味の低減に加えて沈殿の抑制も可能となることが提案されている(特許文献6)。
【0006】
しかし、いずれもカテキン由来の苦味の低減効果が弱いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−142677号公報
【特許文献2】特開平8−109178号公報
【特許文献3】特開平10−248501号公報
【特許文献4】特開平10−262600号公報
【特許文献5】特開平10−262601号公報
【特許文献6】特開2009−55906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、苦味を有するカテキンを日常的に無理なく、多量に摂取することができ、さらに保管後も沈殿の生じないカテキン配合液剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カテキン配合液剤組成物にヒスチジン若しくはコハク酸又はそれらの塩を配合することによりカテキンが溶解した際に生じる苦味が顕著に抑制されることを見出した。さらに上記液剤組成物にペクチン又はアラビアガムを配合することにより、低温保管後の沈殿も生じない液剤組成物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)a)カテキン、b)ヒスチジン若しくはコハク酸又はそれらの塩、及びc)ペクチン又はアラビアガム、を含有することを特徴とする液剤組成物、
(2)カテキン1質量部に対して、ヒスチジン又はそれらの塩を0.2質量部以上配合することを特徴とする、(1)に記載の液剤組成物、
(3)カテキン1質量部に対して、コハク酸又はそれらの塩を0.1質量部以上配合することを特徴とする、(1)に記載の液剤組成物、
(4)カテキン1質量部に対して、ペクチン若しくはアラビアガムを0.5質量部以上配合することを特徴とする、(1)〜(3)いずれかに記載の液剤組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、カテキンの苦味が改善され、且つ低温保管後の沈殿も生じない極めて服用しやすい液剤組成物を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いるカテキンはフラボノイドの一種で、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等の総称である。かかるカテキンは、茶葉等の植物組織から熱水若しくは水溶性有機溶媒により抽出された抽出物、又はこれを濃縮して固体、水溶液若しくはスラリー状の形態としたものを利用してもよく、また上記抽出物をさらに精製したものであってもよい。化学合成されたカテキンも利用可能である。なお、茶の抽出液中ではカテキンは非重合体として存在しており、本発明におけるカテキンはこの非重合体も含めて意味するものとする。
【0013】
カテキンを得るための茶としては、Camellia属(例えばC.sinensis及びC.assamica)の樹木の茶葉から製茶された不発酵茶(緑茶等)、半発酵茶(烏龍茶等)、発酵茶(紅茶等)を挙げることができる。これらの茶葉に対して、例えば40〜140℃、0.1分〜120時間加熱処理して、抽出物を得ることができる。
【0014】
また市販の商品名「ポリフェノン」(三井農林(株)製)、商品名「テアフラン」(伊藤園(株)製)、商品名「サンフェノン」(太陽化学(株)製)等の緑茶抽出物の濃縮物を利用しても良い.これらはカテキン含量が高いため、カテキンとして使用することができる。
【0015】
なお、カテキンとしては、茶だけでなく果実や種子等の抽出物由来のカテキンや、果実や種子等をすり潰した果汁由来のカテキンも使用することができる。ここで使用する果実や種子等としては、バラ科、ツバキ科、ブドウ科、シソ科、アカネ科、アオギリ科、タデ科に属する植物の果実や種子等が好ましい。
【0016】
ヒスチジンは、糖原性の必須アミノ酸で、アミノ酸輸液や経口・経腸栄養剤等、食品、医薬品の広い分野で使用されている。ヒスチジンは、好ましくはL−ヒスチジンである。本発明で用いるヒスチジンは、ヒスチジン塩酸塩等を使用しても同様の効果を得ることができる。
【0017】
コハク酸は、有機酸の一種で一般に市販されており、食品、医薬品等広い分野で使用されている。本発明で用いるコハク酸は、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩を使用しても同様の効果を得ることができる。
【0018】
ペクチンはα−1、4−結合したポリガラクツロン酸が主成分の水溶性多糖類であり、リンゴや柑橘類から抽出される。本発明で用いるペクチンは、リンゴ由来・柑橘類由来のどちらを用いても良いが,柑橘類由来がより好ましい。ペクチンの構成糖であるガラクツロン酸はフリーの酸およびメチルエステルとして存在する。メチルエステルの比率が高いペクチンをHMペクチン、低いペクチンをLMペクチンと呼ぶが、本発明ではどちらのペクチンも用いることができ、HMペクチンがより好ましい。
【0019】
アラビアガムはアラビノガラクタンが主成分の水溶性多糖類でAcacia senegalまたはアカシア属などのアフリカ由来のその他樹木の幹や枝に切り込みを入れることで得られるガム粘質抽出物を指す。これらの樹木は700種以上が知られているが、本発明で使用できるアラビアガムはいずれの樹木を由来としても良い。アラビノガラクタンはアラビノース、ラムノース、グルクロン酸、ガラクトースやタンパク質から構成され、球状構造であるために溶液は低粘度である。また、アラビノガラクタンは部分的に硫酸化された4-O-メチル-D-グルクロン酸を含有することからアラビアガムはアニオン性である。
【0020】
本発明における液剤組成物において、ヒスチジン若しくはコハク酸又はそれらの塩の配合量はカテキン1質量部に対して0.01〜500質量部であり、好ましくは0.05〜100質量部である。さらに好ましくは、ヒスチジンの配合量はカテキン1質量部に対して0.2〜500質量部であり、コハク酸の配合量はカテキン1質量部に対して0.1〜100質量部である。また、ペクチン又はアラビアガムの配合量はカテキン1質量部に対して0.01〜500質量部であり、好ましくは0.1〜100質量部であり、さらに好ましくは0.5〜100質量部である。これらの配合量により、カテキンの生じる苦味を効果的に低減し、沈殿を生じない液剤組成物を提供することができる。
【0021】
本発明における液剤組成物のpHは、特に限定されないが、好ましくは2.5〜7.0であり、より好ましくは3.0〜6.0であり、さらに好ましくは3.0〜4.5である。
本発明の液剤組成物のpHを上記範囲に保つために、必要に応じて有機酸等のpH調整剤を配合することができる。また、その他の成分として、ビタミン類、他のミネラル類、アミノ酸及びその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリー等を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料等の添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0022】
本発明の液剤組成物は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。通常、各成分をとり適量の精製水で溶解した後、pHを調整し、更に精製水を加えて容量調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理を行うことにより本発明の液剤組成物を得ることができる。
【0023】
本発明の液剤組成物は、内服液剤組成物であり、ドリンク剤、シロップ等の医薬品及び医薬部外品の他、健康飲料、茶飲料、スポーツドリンク等の食品領域における各種飲料として提供することができる。
【0024】
以下に実施例及び試験例を示し、本発明をより詳細に説明する。
<実施例>
(1)沈殿の評価
精製水にカテキン(伊藤園(株)商品名「テアフラン90S」)100mgを溶かし、その溶液に表1〜4における実施例1〜10及び比較例1〜19で示された組み合わせ及び量に従って、L-ヒスチジン塩酸塩、コハク酸、アラビアガム、ペクチン、難消化性デキストリン、アルギン酸ナトリウム、λ-カラギーナン、大豆多糖類、及びコンドロイチン硫酸ナトリウムを添加・溶解させ、精製水を加えて全量100mLとし、塩酸及び水酸化ナトリウムでpH4.5に調整した。各試験液をガラスビンに充填後殺菌して液剤組成物を得た。
【0029】
<試験例>
各液剤組成物の5℃1日保管後の沈殿について目視で評価した結果を表5、6に、5℃7日保管後の沈殿について目視で評価した結果を表7、8に示す。
【0034】
比較例1のとおりカテキンのみを配合させた液剤組成物では何ら沈殿を生じなかったが、カテキンにL−ヒスチジン塩酸塩(比較例2)又はコハク酸(比較例8)を配合することによって沈殿が生じた。上記液体組成物にペクチン又はアラビアガムを添加することで、当該沈殿の発生が顕著に抑制された(実施例1〜4)。一方、難消化性デキストリン、アルギン酸ナトリウム、λ-カラギーナン、大豆多糖類、及びコンドロイチン硫酸ナトリウムを添加した液体組成物では沈殿の発生は抑制されなかった。また、カテキン1質量部に対してペクチン又はアラビアガム0.5質量部以上含有させることにより当該沈殿の発生が顕著に抑制された(実施例5〜10)。
(2)苦味の評価
精製水にカテキン(伊藤園(株)商品名「テアフラン90S」)100mgを溶かし、その溶液に表9〜15における実施例1〜4、11〜21及び比較例1、2、8、20〜26で示された組み合わせ及び量に従って、ヒスチジン塩酸塩、コハク酸、アラビアガム、ペクチン、グリシン、アルギニン塩酸塩、及びクエン酸を添加・溶解させ、精製水を加えて全量100mLとし、塩酸及び水酸化ナトリウムでpH4.5に調整した。各試験液をガラスビンに充填後殺菌して液剤組成物を得た。
【0042】
<試験例>
各液剤組成物約10mLを5秒間口に含んだ時に感じる苦味の最大値について、成人男女からなるパネルにより評価した。評価方法は、以下のスタンダードに対する相対評価とした。
【0043】
スタンダードは、0.006、0.012、 0.020、 0.031、0.050mM 硫酸キニーネとした。各濃度の硫酸キニーネを服用した際の苦味をそれぞれ苦味強度1〜5に設定し、「0.006mMよりも苦味が弱い」場合を苦味強度0、「0.050mMよりも苦味が強い」場合を苦味強度6に設定した。
【0044】
3名の評価結果の平均値を表16,17に、5名の評価結果の平均値を表18,19に、2名の評価結果の平均値を表20〜22に示す。
【0052】
比較例1に示すように、カテキンのみを含む液剤組成物では強い苦味が感じられた。さらにアラビアガム又はペクチンを加えた液剤組成物(比較例20〜21)では比較例1よりも苦味が抑制されたものの、その効果は十分ではなかった。一方、アラビアガム又はペクチンにさらにL−ヒスチジン塩酸塩(実施例1及び2)又はコハク酸(実施例3及び4)を加えた液剤組成物ではカテキンの苦味が顕著に改善された。カテキン1質量部に対してヒスチジン0.2質量部以上で(実施例11〜12)、カテキン1質量部に対してコハク酸0.1質量部以上で(実施例13〜15)苦味が顕著に抑制された。pH3.0〜4.5の範囲で苦味が顕著に抑制された(実施例1、16〜21)。比較例24〜26において添加したグリシン、アルギニン塩酸塩、又はクエン酸では十分な苦味抑制効果が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明により、カテキンから生じる苦味、沈殿が改善された、極めて服用しやすい液剤組成物を提供することが可能となった。