(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記キャビティは、複数の前記スラリー流出通路が配列される方向において、最も外側に配置されるそれぞれのスラリー流出通路の外側に、前記2つの曲面のうち一つと連結する外側平面が設けられる請求項1から3のいずれか1項に記載のスラリー供給装置。
それぞれの前記外側平面は、複数の前記スラリー流出通路が配列される方向における最も外側のスラリー流出通路から前記2つの曲面のうち一つまでの距離が1mm以上10mm以下である請求項4に記載のスラリー供給装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
図1は、本実施形態に係る塗布機構(塗布装置)を有する磁石製造装置の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、磁石製造装置10は、焼結体供給機構12と、塗布機構14と、乾燥機構16と、熱処理機構18と、搬送機構20と、制御装置22とを有する。制御装置22は、各部の動作を制御する機構である。焼結体供給機構12は、複数の焼結体34を保有しており、これらの焼結体34のうち一つを搬送機構20に供給する。焼結体34は、原料粉末を成形することにより得られた成形体を焼結したものである。
【0020】
塗布機構14は、焼結体供給機構12から供給され、搬送機構20によって搬送された焼結体34に、希土類化合物を含有するスラリー35を塗布する。スラリー35に含有させて焼結体34に塗布する希土類化合物としては、希土類元素R(Rは、DyとTbとの少なくとも一つを必ず含む希土類元素)、R水素化物、R酸化物、Rフッ化物、RT合金(Tは遷移金属元素)、RT水素化物、RT酸化物、RTB合金(Bはボロン)、RTB水素化物、RTB酸化物を用いることができる。
【0021】
スラリー35中には樹脂を含むことが好ましい。このようにすることで、焼結体34に対する希土類化合物の密着性を向上させることができる。スラリー35に使用される樹脂は特に限定はなく、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂等が用いられる。また、スラリー35に使用される溶剤は、樹脂を溶解できれば特に限定されない。スラリー35の粘度は、例えば、30cp程度である。なお、塗布機構14の詳細は後述する。
【0022】
乾燥機構16は、塗布機構14が焼結体34に塗布したスラリー35を乾燥させる。具体的には、乾燥機構16は、スラリー35に含まれる溶剤を揮発させる。本実施形態において、乾燥機構16には、種々の乾燥方法を適用することができる。例えば、加熱、送風によりスラリー35を乾燥させる方法を乾燥機構16に適用することができる。また、乾燥機構16は、スラリー35が塗布された焼結体34を自然乾燥により乾燥させてもよい。なお、本実施形態において、乾燥機構16は、焼結体34を回転させながら焼結体34に塗布されたスラリー35を乾燥させる。
【0023】
熱処理機構18は、乾燥機構16によってスラリー35が乾燥させられた後の焼結体34に熱処理を施す。具体的には、熱処理機構18は、スラリー35が乾燥した後の焼結体34を所定の温度で所定の時間保持する。
【0024】
搬送機構20は、焼結体34を搬送する。例えば、本実施形態において、搬送機構20は、焼結体供給機構12から供給された焼結体34を塗布機構14まで搬送したり、乾燥機構16で乾燥された焼結体34を熱処理機構18まで搬送したりする。搬送機構20には、種々の手段を適用することができる。例えば、搬送機構20として、ベルトコンベア又はロボットアーム等を用いることができる。なお、本実施形態において、塗布機構14から乾燥機構16への焼結体34の搬送は、塗布機構14が実行する。次に、塗布機構14について説明する。
【0025】
図2は、
図1に示す磁石製造装置が有する塗布機構の概略構成を示す模式図である。本実施形態では、板状の焼結体を34用いた場合として説明するが、焼結体34の形状はこれに限定されるものではない。塗布機構14は、焼結体34にスラリー35を塗布する塗布手段30と、焼結体34を保持し、かつ焼結体34を回転させる回転保持手段32とを有する。
【0026】
塗布手段30は、スラリー35を焼結体34に向けて放出して焼結体34の表面に塗布する塗布部40と、塗布部40にスラリー35を供給し、かつ、塗布部40からスラリー35を回収してスラリー35を循環させるスラリー循環部42と、スラリー循環部42で循環されるスラリー35の濃度を調整する濃度調整部44とを有する。塗布部40は、スラリー供給装置としてのノズルヘッド80と、受け皿52とを有する。ノズルヘッド80は、複数の吐出口81を有している。そして、ノズルヘッド80は、スラリー循環部42から供給されるスラリー35を内部に溜めておき、その後、複数の吐出口81から焼結体34に向かって放出(吐出又は流出)させる。複数の吐出口81から放出されたスラリー35は、複数のスラリー流となって焼結体34に付着し、その表面に塗布される。ノズルヘッド80の構造の詳細は、後述する。
【0027】
受け皿52は、ノズルヘッド80の鉛直方向側(下側)に配置されたスラリー回収部であり、吐出口81から放出され、焼結体34に付着しなかった、すなわち焼結体34に塗布されなかったスラリー35を回収する。受け皿52は、側面52Sが傾斜面となっている。受け皿52の底面52Bには、スラリー35を回収する回収口52Hが形成されている。受け皿52に流出したスラリー35は、側面52Sから底面52Bに向かって流れて、底面52Bが有する回収口52Hからスラリー循環部42に回収される。
【0028】
スラリー循環部42は、スラリータンク54と、攪拌機56と、ポンプ58と、を有する。スラリータンク54は、スラリー35を溜めておくタンクであり、一定量のスラリー35が溜められている。また、スラリータンク54は、配管55aを介してノズルヘッド80と接続され、また、配管55bを介して受け皿52と接続されている。攪拌機56は、スラリータンク54内のスラリー35を攪拌する装置である。攪拌機56がスラリータンク54内のスラリー35を攪拌することにより、希土類化合物等が沈殿することが抑制され、スラリータンク54内のスラリー35の濃度が均一に保たれる。
【0029】
ポンプ58は、スラリータンク54に溜められているスラリー35を、塗布手段30の塗布部40とスラリー循環部42との間で循環させるための駆動源である。ポンプ58は、スラリータンク54に溜められているスラリー35を、配管55aからノズルヘッド80に供給する。なお、本実施形態では、塗布部40とスラリー循環部42との間でスラリー35を循環させるようにしたが、本実施形態は、ノズルヘッド80が放出したスラリー35を回収せず、再利用をしないようにすることを排除するものではない。
【0030】
濃度調整部44は、溶剤タンク64と、ポンプ66とを有する。溶剤タンク64は、スラリー35が含む溶剤(溶媒)を溜めておく容器である。溶剤タンク64は、配管65を介してスラリータンク54に接続されている。ポンプ66は、配管65に設けられており、溶剤タンク64に溜められている溶剤をスラリータンク54に供給する。濃度調整部44は、ポンプ66を駆動して、溶剤タンク64に溜められた溶剤をスラリータンク54に供給し、スラリータンク54内及び配管55a内のスラリー35に含まれる希土類化合物の濃度(以下、スラリー濃度という)を一定の範囲に維持する。スラリー濃度を一定の範囲にすることで、溶媒(溶剤)と溶質(希土類化合物)との割合を一定範囲に維持することができる。なお、濃度調整部44は、さらに、スラリー濃度を計測する濃度計測手段を設けることが好ましい。濃度調整部44は、濃度計測手段を有することで、適宜スラリータンク54内のスラリー35又は循環されているスラリー35の密度を計測することができる。そして、濃度調整部44は、その計測結果に基づいて、スラリー濃度が所定の値となるように適宜調整することができる。
【0031】
上述した構造により、塗布機構14の塗布手段30は、塗布部40のノズルヘッド80が有する複数の吐出口81から焼結体34に向かってスラリー35を放出させる。このようにすることで、塗布手段30は、焼結体34の表面にスラリー35を塗布する。焼結体34に塗布されないで受け皿52に受け止められたスラリー35は、配管55bからスラリータンク54に回収される。回収されたスラリー35は、スラリー循環部42により再びノズルヘッド80に供給され、吐出口81から放出される。次に、ノズルヘッド80の構造をより詳細に説明する。
【0032】
図3は、本実施形態に係るノズルヘッドの側面図である。
図4は、本実施形態に係るノズルヘッドの正面図である。
図5は、本実施形態に係るノズルヘッドの底面図である。
図3に示すように、ノズルヘッド80は、直方体形状の構造体である。ノズルヘッド80は、第1部材80Fと第2部材80Rとが合わせ部80Bで組み合わせられ、例えば、第1部材80Fと第2部材80Rとをねじ等の締結手段で締結した構造である。合わせ部80Bは、吐出口81を2分割している。ノズルヘッド80は、このような2分割構造に限定されるものではなく、例えば、吐出口81が2分割されないような分割構造にしたり、3分割構造にしたりしてもよい。
【0033】
図3、
図4に示すように、ノズルヘッド80は、複数の壁面84、84、85、86、87、87で囲まれたキャビティ(空洞)83を有している。キャビティ83は、6つの壁面84、84、85、86、87、87で囲まれた略直方体形状の空洞である。キャビティ83を構成する6つの壁面84、84、85、86、87、87のうち、壁面84と壁面84とが対向し、壁面87と壁面87とが対向し、壁面85と壁面86とが対向する。壁面84、84、85、86は、いずれも平面である。壁面87、87は、後述するように、2つの曲面を一つの平面で連結した形状である。
【0034】
キャビティ83は、スラリー導入通路88が接続されている。スラリー導入通路88は、スラリー供給通路89と接続されている。スラリー供給通路89は、
図2に示す配管55aに接続されている。このような構造により、ノズルヘッド80は、配管55aからスラリー供給通路89及びスラリー導入通路88を介して、キャビティ83内にスラリーが流入する。キャビティ83は、流入したスラリーを溜めて保持する。
【0035】
図5に示すように、複数の吐出口81は、ノズルヘッド80の一面(スラリー供給通路89が開口する面と対向する面)に、所定の間隔で配列(好ましくは一列に配列)されている。本実施形態において、吐出口81は等間隔で配列されている。このようにすることで、焼結体の表面に塗布されたスラリーの厚みの面内ばらつきを抑制することができる。吐出口81は、第1部材80Fと第2部材80Rとの間、より具体的には両者の合わせ部80B上に、一列に配列されている。複数の吐出口81は、いずれもキャビティ83とつながっており、キャビティ83に溜められたスラリーを放出する。本実施形態において、吐出口81の開口の形状は円形であるが、前記形状は円形に限定されるものではない。
【0036】
図6は、
図3のX−X矢視図である。同図は、ノズル80のうち第1部材80Rをキャビティ83側から見た状態を示している。
図7は、
図4のY−Y矢視図である。ノズルヘッド80は、スラリー流出通路82と、スラリー保持部と、スラリー導入通路88と、スラリー供給通路89とを含む。スラリー流出通路82は、所定の間隔で一列に配列されて、希土類化合物を含むスラリーを通過させて流出させる。ノズルヘッド80は、スラリー流出通路82を複数有する。本実施形態において、ノズルヘッド80は、11個のスラリー流出通路82を有するが、スラリー流出通路82の数はこれに限定されるものではない。スラリー流出通路82は、一方の端部がノズルヘッド80の表面(下面80PB)に開口して吐出口81となり、他方の端部がキャビティ83に開口してスラリーの入口となる。
【0037】
キャビティ83には、
図3に示すスラリー導入通路88が開口し、スラリー導入口88Hを形成している。スラリー導入口88Hは、
図3に示す壁面86に開口している。スラリー導入口88Hからキャビティ83内にスラリーが流入する。そして、スラリー導入口88Hからキャビティ83内に流入したスラリーは、複数のスラリー流出通路82が配列される方向(
図6中矢印Wで示す方向、以下、幅方向という)の両側に向かって流れ、複数のスラリー流出通路82からキャビティ83の外部へ放出される。
【0038】
キャビティ83の幅方向両側における壁面87、87が、例えば、一つの曲面であったり一つの平面であったりすると、幅方向に配列される複数のスラリー流出通路82のそれぞれから放出されるスラリーの流量にばらつきが発生する。具体的には、幅方向両側のスラリー流出通路82の流量が小さく、幅方向中央部分のスラリー流出通路82の流量が大きくなる。すると、焼結体に供給されるスラリーの量にばらつきが発生し、スラリーが乾燥した後における焼結体は、塗布されたスラリーの層の厚みにばらつきが発生する。その結果、得られた磁石は、磁気特性にばらつきが発生するおそれがあった。
【0039】
これは、幅方向両側における壁面87、87が一つの曲面である場合、当該曲面に沿ってスラリーが循環して(対流して)壁面87、87の近傍に滞留することが、複数のスラリー流出通路82間における流量のばらつきの原因であると考えられる。また、幅方向両側における壁面87、87が一つの平面である場合、壁面84、84と壁面87とは互いに直交する。このため、壁面84、84と壁面87との接続部分が直角になる結果、この部分でスラリーが循環して(対流して)壁面87、87の近傍に滞留することが、複数のスラリー流出通路82間における流量のばらつきの原因であると考えられる。
【0040】
本実施形態において、キャビティ83は、幅方向、すなわち、複数のスラリー流出通路82が配列される方向の両側の壁面87、87が、それぞれ2つの曲面87Ra、87Rbを一つの平面87Sで連結した形状である。このように形成されたキャビティ83が、スラリー保持部に相当する。このようにすることで、スラリー導入口88Hから幅方向両側に向かって流れたスラリーは、曲面87Ra、87Rbを連結する平面87Sによりスラリーの循環が抑制される。すると、壁面87、87の近傍にスラリーが滞留することが抑制されるので、キャビティ83内におけるスラリーの流れが安定する。そして、幅方向両側のスラリー流出通路82から流出するスラリーの流量低下が抑制される。その結果、ノズルヘッド80は、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきが抑制されるので、焼結体に供給されるスラリーの量のばらつきが抑制され、スラリーが乾燥した後における焼結体は、塗布されたスラリーの厚みのばらつきが低減される。このため、得られた磁石は、磁気特性のばらつきが抑制される。
【0041】
スラリー流出通路82内をスラリーが通過する方向(スラリー流出通路82がノズルヘッド80に形成される方向、以下高さ方向という)において、平面87S、87Sの寸法(平面長さ)hは、高さ方向におけるキャビティの寸法(キャビティ高さ)Hの2/5以上9/10以下であることが好ましい。すなわち、2/5≦h/H≦9/10であることが好ましい。このようにすれば、幅方向両側の壁面87、87におけるスラリーの循環をより効果的に抑制できるので、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきをより低減できる。その結果、焼結体に塗布されたスラリーの厚みのばらつきをより低減できる。なお、曲面87Raの半径をra、曲面87Rbの半径をrbとすると、H=ra+h+rbである。
【0042】
キャビティ高さHは5mm以上30mm以下とすることが好ましい。キャビティ高さHを5mm以上にすることで、キャビティ83内においてスラリーが流れるスペースを確保できるので、キャビティ83内におけるスラリーの流動を安定させることができる。また、キャビティ高さHを30mm以下にすることで、
図2に示す配管55a内を流れるスラリーの流量を低下させた場合であっても、キャビティ83内にスラリーを充満させることができる。その結果、キャビティ83内のスラリーが空気を巻き込むおそれを低減して、安定してスラリーをスラリー流出通路82から流出させることができる。そして、焼結体に塗布されたスラリーの厚みのばらつきをより低減できる。
【0043】
キャビティ83は、幅方向において、最も外側に配置されるそれぞれのスラリー流出通路82o、82oの外側に、2つの曲面87Ra、87Rbのうち一つ(本実施形態では曲面87Ra)と連結する外側平面84Sが設けられる。キャビティ83は、外側平面84Sを有することにより、幅方向外側のスラリー流出通路82、特に最も外側に配置されるそれぞれのスラリー流出通路82o、82oから流出するスラリーの流速が過度に増加することを抑制できる。
【0044】
それぞれの外側平面84S、84Sは、幅方向における最も外側のスラリー流出通路82o、82oから2つの曲面87Ra、87Rbのうち一つ(本実施形態では曲面87Ra)までの距離(外側平面長さ)Lsが1mm以上10mm以下であることが好ましい。外側平面長さLsを1mm以上とすることで、幅方向外側のスラリー流出通路82から流出するスラリーの流速が過度に増加することを効果的に抑制できる。また、外側平面長さLsを10mm以下とすることで、キャビティ83の幅方向両側におけるスラリー溜まりの発生を抑制できる。スラリー溜まりが低減されることにより、幅方向外側のスラリー流出通路82から流出するスラリーの流速の低下を抑制できる。外側平面長さLsを10mm以下とすれば、特に、チクソ性の高いスラリーを用いた場合、スラリー流出通路82の詰まりを抑制できるので好ましい。
【0045】
本実施形態において、曲面87Raの半径raと曲面87Rbの半径rbとは同じ大きさであるが、両者は異なっていてもよい。ra、rbを調整することにより、幅方向両側の壁面87、87におけるスラリーの循環をより低減できる可能性がある。また、ra、rbは、1mm以上3mm以下が好ましい。ra、rbが1mm以上であれば、キャビティ83の幅方向両側におけるスラリー溜まりの発生を抑制できる。前記スラリー溜まりが低減されることにより、幅方向外側のスラリー流出通路82から流出するスラリーの流速の低下を抑制できる。また、ra、rbが3mm以下であれば、キャビティ83の幅方向両側の壁面87近傍におけるスラリーの循環を抑制できる。その結果、幅方向外側のスラリー流出通路82から流出するスラリーの流速の低下を抑制できる。
【0046】
図3に示すスラリー導入通路88は、キャビティ83の幅方向における中央部に一つ開口することが好ましい。本実施形態では、幅方向中央のスラリー流出通路82cの位置に、スラリー導入通路88が開口している。キャビティ83の幅方向における寸法をWaとすると、スラリー導入通路88の開口中心を通る軸Zyは、キャビティ83の壁面87、87の平面87S、87SからそれぞれWa/2の位置にある。このようにすれば、幅方向の両側にバランスよくスラリーを配分できるので、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきを効果的に低減できる。なお、本実施形態において、スラリー導入通路88の開口中心を通るもう一つの軸Zxは、キャビティ高さHの中心にあるが、Zxの位置はこれに限定されるものではない。
【0047】
また、キャビティ83内に、スラリー導入通路88の開口を二つ設けると、両方の開口の間でスラリー同士が衝突し、滞留が発生してしまう。その結果、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきが発生する。本実施形態では、スラリー導入通路88のキャビティ83内における開口を一つのスラリー導入口88Hとすることで、キャビティ83内におけるスラリーの衝突に起因する滞留を回避できるので、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきを抑制することができる。
【0048】
図7に示すように、スラリー導入通路88は、スラリー流出通路82内をスラリーが通過する方向(スラリー流出通路82の通路軸Znと平行な方向)と交差する方向からスラリー保持部(キャビティ83)にスラリーを導入する。スラリー導入通路88の通路軸をZs1とすると、ZnとZs1とは交差する。本実施形態において、ZnとZs1とのなす角度αは90度である。すなわち、本実施形態において、スラリー導入通路88は、スラリー流出通路82内をスラリーが通過する方向と直交する方向からスラリー保持部にスラリーを導入する。
【0049】
スラリー導入通路88にはスラリー供給通路89が接続されている。スラリー供給通路89は、スラリーをスラリー導入通路88へ流入させる。スラリー供給通路89は、スラリー導入通路88と交差している。すなわち、スラリー供給通路89の通路軸をZs2とすると、Zs1とZs2とが交差する。本実施形態では、Zs1とZs2とは直交する。すなわち、両者のなす角度βは90度である。
【0050】
このようにすることで、スラリー供給通路89とスラリー導入通路88との間に曲がり部を設けることができる。スラリー供給通路89を通過したスラリーは、スラリー導入通路88に流入する際に前記曲がり部で曲がるので、キャビティ83内に流入する際の流速が低減される。キャビティ83内においては、スラリー導入口88Hが開口している部分でスラリーの流速が最も速くなる。このため、スラリー導入口88Hの近傍のスラリー流出通路82を通過するスラリーの流速が最も速くなるので、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきが大きくなる。
【0051】
本実施形態では、前記曲がり部によってスラリー導入口88Hが開口している部分におけるスラリーの流速の増加を抑制できる。その結果、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきをより低減できる。スラリー導入通路88の通路軸Zs1とスラリー供給通路89の通路軸Zs2とのなす角度βは、90度±10度の範囲とすることが好ましい。このようにすれば、キャビティ83へ流入するスラリーの流速を効果的に低減して、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきをより低減できる。なお、+方向は、スラリー供給通路89の通路軸Zs2がスラリー流出通路82の通路軸Zn側に傾斜する場合の方向であり、−方向は、スラリー供給通路89の通路軸Zs2がスラリー流出通路82の通路軸Znから遠ざかるように傾斜する場合の方向である。
【0052】
スラリー流出通路82の通路軸Znとスラリー導入通路88の通路軸Zs1とのなす角度は、90度±30度が好ましく、より好ましくは90度±10度、さらに好ましくは90度(公差及び製造誤差を含む)である。なお、+方向は、スラリー導入通路88の通路軸Zs1がスラリー流出通路82の吐出口81側に傾斜する場合の方向であり、−方向は、スラリー導入通路88の通路軸Zs1がスラリー流出通路82の吐出口81から遠ざかるように傾斜する場合の方向である。
【0053】
スラリー供給通路89の通路軸Zs2がスラリー流出通路82の通路軸Znと平行である状態で、スラリー導入通路88の通路軸Zs1が+方向に傾斜すると、βは鈍角になる。このため、スラリー供給通路89からスラリー導入通路88へスラリーが流れる場合、90度より急角度で曲がることになる。このため、スラリー供給通路89とスラリー導入通路88との間の曲がり部を通過したスラリーは、より流速が低下した状態でキャビティ83内へ流入する。その結果、スラリー導入口88Hが開口している部分におけるスラリーの流速の増加をさらに抑制できるので、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきをさらに低減できる。また、スラリー導入通路88の通路軸Zs1が+方向に傾斜すると、スラリー流出通路82の吐出口81が鉛直方向を向いた場合、スラリー導入通路88は上方(鉛直方向とは反対方向)を向く。このため、スラリー導入通路88を通過するスラリーは、重力の作用によって流速が低下する。すると、スラリー導入通路88を通過したスラリーの流速が低下する。その結果、スラリー導入口88Hが開口している部分におけるスラリーの流速の増加を抑制できるので、複数のスラリー流出通路82間におけるスラリーの流量のばらつきを低減できる。
【0054】
スラリー流出通路82内をスラリーが通過する方向と直交する方向におけるキャビティ83の寸法を奥行き寸法とすると、
図7に示す例において、奥行き寸法は、tf+Hn+trである。tfは、キャビティ83内におけるスラリー流出通路82の開口部の端部から壁面85までの距離であり、trは、キャビティ83内におけるスラリー流出通路82の開口部の端部から壁面86までの距離である。本実施形態において、trとtfとは同じ大きさであるが、これらは異なっていてもよい。Hnは、スラリー流出通路82の直径である。奥行き寸法は、スラリー流出通路82の直径Hnよりも1mm以上大きいことが好ましい。このようにすれば、キャビティ83内においてスラリーが流れるスペースを確保できるので、キャビティ83内におけるスラリーの流動を安定させることができる。
【0055】
このように、ノズルヘッド80は、複数のスラリー流出通路82から流出するスラリーの流量のばらつきが少ない。このため、ノズルヘッド80を用いて焼結体にスラリーを塗布すれば、焼結体の表面に塗布されたスラリーは、焼結体の表面内における厚みのばらつきが低減される。その結果、得られた磁石は、磁気特性のばらつきが抑制される。次に、回転保持手段32について説明する。
【0056】
図8−1は、本実施形態に係る回転保持手段の概略構成を示す正面図である。
図8−2は、本実施形態に係る回転保持手段の概略構成を示す平面図である。回転保持手段32は、
図8−1及び
図8−2に示すように、接触部70と、回転部72と、着脱部74とを有する。回転保持手段32は、回転軸Zrに垂直な対称面Pvを軸として左右対称の形状である。回転保持手段32は、焼結体34の両方の端部34T、34Tに2つの接触部70をそれぞれ接触させて、焼結体34を挟み込む構造である。
【0057】
2つの接触部70は、焼結体34と接触する部材であり、回転部72と着脱部74とにより保持されている。2つの接触部70は、互いに対向して配置されており、焼結体34は、2つの接触部70に挟まれて配置される。このように、焼結体34は、両方の端部34T、34T(本実施形態では、焼結体34の長手方向に存在する端部)が、接触部70と接触する。
【0058】
回転部72は、接触部70を回転させる駆動機構である。回転部72は、それぞれの接触部70に対応して設けられている。回転部72は、接触部70を、焼結体34の長手方向に平行な軸(本実施形態では回転軸Zr)を回転軸として回転させる(
図8−1、
図8−2中のR方向)。回転部72が接触部70を回転させる方法は、特に限定されない。例えば、接触部70を連結している軸及び電動機の回転軸にそれぞれプーリを取り付け、両方のプーリに無端の伝達ベルトを架け渡し、前記伝達ベルトを介して電動機の回転を接触部70に伝達する。このようにして、接触部70を回転させる方法がある。また、接触部70に電動機の回転軸を直接連結し、接触部70を回転させるようにしてもよい。
【0059】
着脱部74は、腕74a、74bと、腕74a、74bを駆動する着脱駆動部74cとを有する。腕74a、74bは、それぞれ接触部70を回転自在に支持している。着脱駆動部74cは、腕74a、74bを回転軸Zrに平行な方向(図中矢印A方向)に移動させることで、接触部70を回転軸Zrに平行な方向(図中矢印A方向)に移動させる移動機構である。着脱部74は、2つの接触部70を回転軸Zrに平行な方向に移動させることで、2つの接触部70間の距離を調整することができる。
【0060】
このような構造により、2つの接触部70間の距離、すなわち、焼結体34と接触する部分同士の距離を広げ、焼結体34の長手方向の長さよりも長くすることで、焼結体34を接触部70、70の間から取り外し可能な状態とすることができる。また、2つの接触部70間の距離を短くし、焼結体34の長手方向の長さと略同じ大きさとすることで、焼結体34を一対の接触部70、70で保持することができる。また、着脱部74は、腕74a、74bを一体として移動可能な構成である。このような構造により、着脱部74は、焼結体34を保持した状態で移動させることもできる。
【0061】
このように、回転保持手段32は、接触部70を着脱部74により回転軸Zrに平行な方向に移動させることで、焼結体34を着脱することができる。また、回転保持手段32は、回転部72により接触部70を回転軸Zrの周りに回転させることで、焼結体34を回転軸Zrの周りに回転させる。また、着脱部74を
図8−2の矢印B方向に移動することにより焼結体34を移動させることが可能なので、焼結体34を着脱部74に挟持して、吐出口81と受け皿52との間となる位置から他の位置へ移動又は他の位置から吐出口81と受け皿52との間となる位置へ移動させることができる。次に、塗布機構14の動作を説明する。
【0062】
図9−1及び
図9−2は、本実施形態に係る塗布機構の動作を説明するための説明図である。塗布機構14は、回転保持手段32が保持した焼結体34を回転させつつ、
図2に示す塗布手段30の塗布部40が有するノズルヘッド80によって、焼結体34にスラリー35を塗布する。この場合、ノズルヘッド80の吐出口81の鉛直方向側に焼結体34を配置する。すると、
図9−1及び
図9−2に示すように、ノズルヘッド80の吐出口81から放出されたスラリー35が流出する位置にある焼結体34は、姿勢を変化させながら、すなわち、回転しながらスラリー35と接触する。焼結体34は、略全面がスラリー35の到達位置を通過し、吐出口81から放出されたスラリー35が塗布される。
【0063】
このように、塗布機構14は、複数の吐出口81から焼結体34に向けてスラリー35を流出させることで、焼結体34の表面にスラリー35を塗布することができる。また、本実施形態のようにスラリー35を流出させるのみの構成とすることで、簡単な構成でスラリー35を焼結体34に塗布することができる。また、塗布機構14は、複数の吐出口81からスラリー35を放出するので、スラリー流が表面張力によりノズルヘッド80の幅方向中央に集まることを抑制できる。その結果、塗布機構14は、焼結体34に塗布されるスラリー35の厚みのばらつきが抑制される。また、本実施形態では、ノズルヘッド80は、複数の吐出口81が回転保持手段32の回転軸の方向に一列に配列されるので、焼結体34に対してスラリー流が片寄ることを抑制できる。このため、塗布機構14は、焼結体34の表面にスラリー35を均一に塗布することができる。
【0064】
また、塗布機構14は、吐出口81を鉛直方向側に向けて重力の作用によりスラリー35を流出させることにより、簡単にスラリー35を焼結体34の表面に塗布することができる。しかし、本実施形態はこのようなものに限定されず、例えば、吐出口81から斜め方向又は水平向にスラリー35を放出させて、焼結体34にスラリー35を塗布してもよい。なお、ノズルヘッド80の吐出口81は、スラリー35を放出する方向に焼結体34が存在するように配置することが好ましい。すなわち、吐出口50は、焼結体34と向かい合う位置関係とすることが好ましい。
【0065】
焼結体34に塗布されるスラリー35の厚みは、スラリー濃度を調整することで調整することができる。すなわち、スラリー濃度を高くすることで、焼結体34に塗布されるスラリー35の厚みを大きくすることができ、スラリー濃度を低くすることで、前記厚みを小さくすることができる。
【0066】
また、
図2に示す濃度調整部44は、スラリー濃度を基準値±0.050g/ccの範囲に維持することが好ましく、±0.035g/ccの範囲とすることがより好ましい。スラリー濃度を上記の範囲とすることで、製造した磁石間における磁気特性のばらつきを抑制することができる。なお、スラリー濃度は、目的とするスラリー35の厚みで焼結体34の表面に塗布できる濃度以上であればよく、下限値は特に限定されない。また、スラリー濃度は、70質量%以下、好ましくは60質量%以下とすることが好ましい。スラリー濃度を70質量%以下とすることで、スラリー35を焼結体34の表面で適切に移動させることができる。このため、焼結体34を回転させることで、焼結体34に塗布されたスラリー35の厚みのばらつきを抑制できる。
【0067】
また、上記実施形態では、いずれも、塗布機構14と乾燥機構16と搬送機構20とを別々としたが、本実施形態はこれに限定されず、これらを一つの装置としてもよい。すなわち、塗布機構14と乾燥機構16とを塗布装置としてもよい。なお、この場合は、塗布機構14の回転保持手段32を移動させることにより焼結体34を乾燥機構16の処理領域に移動させればよい。なお、焼結体34を移動させる搬送機構20を別途設けてもよいし、上述した搬送機構20の一部の機能を塗布機構14に加えてもよい。次に、
図1に示す磁石製造装置10により、焼結体にスラリーを塗布し、熱処理して希土類焼結磁石を製造する際の処理手順を説明する。
【0068】
図10は、本実施形態に係る磁石製造装置で希土類焼結磁石を製造する際の処理手順を示すフローチャートである。
図1に示す磁石製造装置10は、焼結体供給機構12から供給される焼結体34を搬送機構20により塗布機構14に搬送する。その後、ステップS11において、磁石製造装置10は、塗布機構14の回転保持手段32により、焼結体34を保持する。具体的には、回転保持手段32の一対の接触部70、70が、焼結体34の長手方向における両端部34Tを挟持する。
【0069】
ステップS11で焼結体34が保持されたら、処理がステップS12に進められる。ステップS12において、磁石製造装置10は、焼結体34の回転を開始させる。すなわち、磁石製造装置10の塗布機構14が有する回転保持手段32は、回転部72により接触部70を回転させて、焼結体34を回転させる。ステップS12で焼結体34の回転が開始されたら、処理がステップS13に進められる。ステップS13において、磁石製造装置10は、焼結体34にスラリー35を塗布する。具体的には、塗布機構14の回転保持手段32は、焼結体34を回転させつつ、焼結体34をノズルヘッド80の吐出口81と受け皿52との間に移動させる。なお、ノズルヘッド80は、スラリー循環部42によってスラリー35が供給されている。このため、吐出口81からは、スラリー35放出されている。
【0070】
ステップS13で焼結体34にスラリー35が塗布されたら、処理はステップS14に進められる。ステップS14において、磁石製造装置10は、焼結体34に塗布されたスラリー35を乾燥させる。具体的には、
図1に示す回転保持手段32が、焼結体34を乾燥機構16に移動させる。乾燥機構16は、回転保持手段32が保持した焼結体34を乾燥させる。なお、本実施形態において、回転保持手段32は、焼結体34を回転させながら移動させるとともに、乾燥機構16による乾燥時も焼結体34を回転させている。
【0071】
ステップS14で焼結体34に付着したスラリー35を乾燥させたら、処理はステップS15に進められる。ステップS15において、磁石製造装置10は、焼結体34の回転を停止させる。具体的には、回転保持手段32が回転部72の駆動を停止させることにより、焼結体34の回転を停止させる。その後、磁石製造装置10は、搬送機構20により、回転保持手段32に保持されている焼結体34を回収してから熱処理機構18に移動させる。そして、処理はステップS16に進み、磁石製造装置10の熱処理機構18は、焼結体34に熱処理を施す。焼結体34に熱処理を施すことにより、表面に付着したスラリーの希土類化合物を焼結体34の内部の結晶粒界へ拡散させる。上記手順により、磁石製造装置10は、希土類焼結磁石を製造する。
【0072】
このように、磁石製造装置10は、焼結体34を回転させつつ、スラリー35を焼結体34に塗布し、さらに、乾燥終了まで焼結体34を回転させ続けることで、焼結体34の表面に均一にスラリー35を塗布することができる。また、スラリー35を均一に塗布した焼結体34に熱処理を行うことで、表面磁束、残留磁束密度及び保磁力等のばらつきを抑制することができる。すなわち、焼結体34に熱処理を施すことによって得られた希土類焼結磁石の表面の位置によって、表面磁束、残留磁束密度及び保磁力に差が生じることを抑制することができる。このように、表面磁束等のばらつきを抑制できることで、磁石としての性能を向上させることができる。その結果、磁石製造装置10が製造した希土類焼結磁石を、例えば、電動機の永久磁石として用いた場合には、コギング等の発生を抑制することができる。
【0073】
また、磁石製造装置10は、希土類化合物を溶解させたスラリー35を焼結体34に塗布して、希土類化合物を焼結体34に付着させることで、希土類化合物を効率よく利用することができる。すなわち、磁石製造装置10は、希土類化合物が焼結体34の表面以外に付着することを抑制することができる。具体的には、希土類化合物を蒸着により付着させる方法では、焼結体34以外の蒸着装置の一定領域にも希土類化合物が付着するが、希土類化合物を含むスラリー35を焼結体34に塗布することで、焼結体34以外の部分に希土類化合物が付着することを抑制することができる。その結果として、効率よく希土類化合物を使用することができる。また、本実施形態のように、スラリーを循環させる、つまり、焼結体34に塗布されなかったスラリー35を回収し、再利用することで、より無駄なく希土類化合物を使用することができる。
【0074】
また、本実施形態は、回転保持手段32の接触部70が焼結体34の両端のみと接触するようにすることで、焼結体34の接触部分以外の全面にスラリー35を塗布することができる。このように、回転保持手段32のような焼結体34を固定する機構により、焼結体34のスラリー35が塗布されない部分を少なくすることができる。このようにすることで、より均一な性能の希土類焼結磁石を製造することができる。なお、このような効果を得るためには、2つの接触部70を焼結体34の両端部34Tと接触させ、挟み込む形状とすることが好ましいが、本実施形態ではこれに限定されない。また、2つの接触部70が焼結体34の両端部34Tと接触する面積は、焼結体34を回転し、スラリー35を塗布する工程中で焼結体34を保持できる最小の面積とすることが好ましいが、本実施形態ではこれに限定されない。
【0075】
また、本実施形態は、回転保持手段32が焼結体34の回転を開始させてから、スラリー35の塗布を開始する。このため、焼結体34の表面にスラリー35が必要以上溜まることを抑制できるとともに、スラリー35が飛散することを抑制することができる。また、磁石製造装置10は、短時間で適切に、スラリー35の塗布を終了させることができるので、作業効率を向上させることができるとともに、生産性も向上する。なお、塗布機構14は、スラリー35を塗布した焼結体34を回転させ、焼結体34の表面に付着したスラリー35の厚みを均一化させればよく、回転開始のタイミングは上述したものに限定されるものではない。
【0076】
磁石製造装置10は、焼結体34の回転を開始した後は、スラリー35の乾燥が終了するまで連続して焼結体34を回転させる。すなわち、スラリー35が乾燥するまで焼結体34を回転させる。このようにすることで、焼結体34に塗布されたスラリー35が焼結体34の一部に溜まることをより確実に抑制することができる。その結果、液状のスラリー35が焼結体34の鉛直方向側の一部に溜まり、スラリー35の厚みが焼結体34の位置によって不均一になることを抑制することができるので、得られる希土類焼結磁石は、磁気特性がより均一になる。
【0077】
回転保持手段32は、焼結体34を5rpm以上50rpm以下で回転させることが好ましく、10rpm以上40rpm以下で回転させることがより好ましい。焼結体34を5rpm以上で回転させることで、焼結体34に塗布されたスラリー35のうち余剰分を迅速に移動させて、焼結体34に塗布されたスラリー35の厚みのばらつきをより確実に低減できる。また、焼結体34を50rpm以下で回転させることで、スラリー35に作用する遠心力を適切な大きさにすることができるので、焼結体34に塗布されたスラリー35の厚みが過度に小さくなることを抑制できる。なお、回転保持手段32は、スラリー35の乾燥が終了するまで焼結体34を回転させ続けなくてもよい。例えば、回転保持手段32は、一定時間間隔で焼結体34の回転と停止とを繰り返すようにしてもよい。また、回転保持手段32は、乾燥の途中で焼結体34の回転を停止させてもよい。
【0078】
回転保持手段32は、ノズルヘッド80の吐出口81から放出されるスラリー35が当たる焼結体34の部分が、吐出口81に接近する方向に回転する向きで焼結体34を回転させることが好ましい。回転保持手段32が、このような向きに焼結体34を回転させることで、塗布機構14は、スラリー35を効率よく焼結体34に塗布させることができるとともに、スラリー35が飛散することも抑制できる。
【0079】
磁石製造装置10は、濃度調整部44によりスラリー濃度を調整することで、焼結体34に適切な濃度のスラリー35を塗布することができる。具体的には、スラリー35の溶媒が揮発又は蒸発しても、スラリー濃度を一定に保つことができる。回転保持手段32は、焼結体34を5rpm以上50rpm以下で回転させることが好ましく、10rpm以上40rpm以下で回転させることがより好ましい。焼結体34を5rpm以上で回転させることで、焼結体34に塗布されたスラリー35のうち余剰分を迅速に移動させて、焼結体34に塗布されたスラリー35の厚みのばらつきをより確実に低減できる。また、焼結体34を50rpm以下で回転させることで、スラリー35に作用する遠心力を適切な大きさにすることができるので、焼結体34に塗布されたスラリー35の厚みが過度に小さくなることを抑制できる。
【0080】
(評価)
本実施形態のノズルヘッド80により焼結体34にスラリー35を塗布し、希土類焼結磁石を製造した。スラリー35が塗布された焼結体34が熱処理される前におけるスラリー35の厚みを測定した。また、ノズルヘッド80が有する各吐出口81から流出するスラリー35の流量を測定した。
【0081】
<焼結体の製造>
次に示す方法で焼結体(焼結体磁石)を製造した。まず、原料合金として、主に磁石の主相を形成する主相系合金と、主に粒界を形成する粒界系合金とを、SC法で鋳造した。主相系合金の組成は、23.0質量%Nd−2.6質量%Dy−5.9質量%Pr−0.5質量%Co−0.18質量%Al−1.1質量%B−bal.Feとした。粒界系合金の組成は、30.0質量%Dy−0.18質量%Al−0.6質量%Cu−bal.Feとした。
【0082】
次に、これらの原料合金を、それぞれ水素粉砕により粗粉砕した後、高圧N
2ガスによるジェットミル粉砕を行い、それぞれ平均粒径D=4μmの微粉末とした。得られた主相系合金の微粉末と、粒界系合金の微粉末とを、主相系合金:粒界系合金=9:1の割合で混合して、希土類焼結磁石の原料粉末である磁性粉末を調製した。次に、この磁性粉末を用い、成型圧1.2ton/cm
2、配向磁場15kOeの条件で磁場中成型を行い、成型体を得た。その後、得られた成型体を、1060℃、4時間の条件で焼成することで、上記の組成を有する希土類焼結磁石の焼結体を製造した。得られた焼結体を、3質量%硝酸/エタノールの混合溶液に3分間浸漬させた後、エタノールに1分間浸漬する処理を2回行い、焼結体の表面処理を行った。また、これらの処理は、いずれも超音波を印加しながら行った。得られた焼結体の寸法は、2mm×45mm×30mmであった。
【0083】
<スラリーの製造>
焼結体に付着させるスラリーは、次のようにして製造した。まず、イソプロピルアルコール550質量部中にブチラール樹脂(積水化学 BM−S)5質量部を溶解し、樹脂溶液を作製した。次に、この樹脂溶液とDyH
2(平均粒径D=5μm)445質量部をボールミルに投入し、Ar雰囲気下において3mmのジルコニアボールを用いて10時間分散を行い、スラリーを製造した。なお、使用したDy水素化物は、Dy粉末を水素雰囲気下350℃で1時間吸蔵させ、これに続いてAr雰囲気下、600℃で1時間処理することにより作製したものである。このようにして得られた水素化物は、X線回折測定を行い、ASTMカード 47−978のErH
2からの類推により、DyH
2であると同定することができた。
【0084】
<スラリーの塗布、乾燥>
上記のようにして製造したスラリーを、
図2に示す塗布機構14のスラリータンク54に投入し、500cc/minの流量で循環させた。また、循環中の溶剤揮発による濃度変動を防ぐために、濃度調整部44により、スラリー濃度が1.258〜1.263(g/cc)の範囲となるように調整した。具体的には、スラリー濃度の測定結果に応じてポンプ66を駆動し、溶剤タンク64からスラリータンク54に溶剤を投入した。
【0085】
次に、焼結体を回転保持手段32により保持した状態で、回転部72により、回転数20rpmにて回転させた。この回転している焼結体に対して、本実施形態の実施例と比較例とに係るノズルヘッドの吐出口から5秒間スラリーを塗布(スラリーを放出)し、その後、焼結体を回転させたまま、焼結体に塗布されたスラリーのレベリングをしながらスラリーを乾燥させた。なお、本実施例において、目標とするスラリーの厚み(膜厚)は20μmである。また、膜厚を20μmとすることで、焼結体の表面に、DyH
2を5.0mg/cm
2の割合で付着させることができる。
【0086】
その後、乾燥後の焼結体に対し、800℃で1時間保持する熱処理を施した後、540℃で1時間保持する時効処理を更に施すことにより、希土類焼結磁石を製造した。なお、得られた希土類焼結磁石の大きさは、2mm(厚み:磁気異方化方向)×45mm×30mmであった。
【0087】
図11は、評価に供したノズルヘッドが有する吐出口81の配列を示す説明図である。
図12、
図13は、比較例に係るノズルヘッドの内部構造を示す模式図である。本実施形態に係るノズルヘッド80は、
図6に示す曲面の半径ra、rb又は外側平面長さLsを変更することにより、計5種類のノズルヘッド80を評価した。比較例として、4種類のノズルヘッドを評価した。5種類の実施例及び4種類の比較例は、
図11に示すように、いずれも13個の吐出口81を有している。
図11に示すように、それぞれの吐出口81は、一方の幅方向最外側に存在する吐出口81(図中左側)から順に、N1〜N13の識別番号が付される。5種類の実施例において、ノズルヘッド80は、いずれも
図6に示す曲面87Raの半径raと曲面87Rbの半径rbとが等しい(ra=rb)。
【0088】
図12に示すノズルヘッド80aは、比較例1に係るものである。このノズルヘッド80aは、スラリー流出通路82とスラリー導入通路88aとが直交し、かつキャビティ83内に開口するスラリー導入通路88aを直線として、スラリーが曲がらずにキャビティ83内に導入される。他の部分の構造は、実施例1のノズルヘッド80と同様である。
図13に示すノズルヘッド80bは、比較例2に係るものである。このノズルヘッド80bは、幅方向両側における壁面87bが半径rcの一つの曲面で形成されたキャビティ83bに、複数のスラリー流出通路82が開口している。他の部分の構造は、実施例1のノズルヘッド80と同様である。次に、実施例1〜実施例7及び比較例1、比較例2の構成を簡単に説明する。
【0089】
(1)実施例1は、
図6に示すノズルヘッド80において、ra=rb=1.5mm、Ls=2mm、H=10mm、h=7mmである。
(2)実施例2は、
図6に示すノズルヘッド80において、ra=rb=1.0mm、Ls=2mm、H=10mm、h=8mmである。
(3)実施例3は、
図6に示すノズルヘッド80において、ra=rb=3.0mm、Ls=2mm、H=10mm、h=4mmである。
(4)実施例4は、
図6に示すノズルヘッド80において、ra=rb=1.5mm、Ls=1mm、H=10mm、h=7mmである。
(5)実施例5は、
図6に示すノズルヘッド80において、ra=rb=1.5mm、Ls=4mm、H=10mm、h=7mmである。
(6)実施例6は、
図6に示すノズルヘッド80において、ra=rb=0.5mm、Ls=2mm、H=10mm、h=9mmである。
(7)実施例7は、
図6に示すノズルヘッド80において、ra=rb=1.5mm、Ls=0.5mm、H=10mm、h=7mmである。
(8)比較例1は、
図12に示すノズルヘッド80aにおいて、ra=rb=1.5mm、Ls=2mm、H=10mm、h=7mmである。
(9)比較例2は、
図13に示すノズルヘッド80bにおいて、ra=rb=5.0mm、Ls=2mm、H=10mm、h=0mmである。
【0090】
実施例1〜実施例7、比較例1、比較例2それぞれにおいて、各吐出口N1〜N13毎にスラリーの流量(cm
3/分)を測定して、スラリーの幅方向における均一吐出性能を評価した。各吐出口N1〜N13毎のスラリーの流量は、特定の吐出口からサンプリングできるようにやわらかい容器を準備し、各吐出口からスラリーをサンプリング後、質量を測定し、この時のスラリー密度から流量を算出した。結果を表1に示す。結果を表1に示す。
【0092】
図14は、スラリーの厚みを測定した位置を示す平面図である。実施例1、比較例1、比較例2については、スラリーを乾燥させた後の焼結体34の表面に形成されたスラリーの厚み(μm)を、
図14で示す計測ポイントP1〜P5の5箇所で計測した。スラリーの厚みはマイクロメータを用い測定した。具体的には、スラリーを乾燥させた後における焼結体34の厚みをスラリーの厚みとともにマイクロメータで計測し、得られた値から焼結体34の厚み(2mm)を減算し、さらにその値を2で除することにより、前記スラリーの厚みを求めた。結果を表2に示す。表1及び表2の評価結果から、各吐出口N1〜N13毎のスラリーの流量と焼結体34の表面に形成されたスラリーの厚みとの相関性を確認した。
【0094】
表1の評価結果から、実施例1〜実施例5は、いずれも中央部分(P3)と幅方向両側(P1、P5)とにおけるスラリーの流量の差が、比較例1〜比較例4よりも小さいことが分かる。また、実施例1〜実施例5は、標準偏差σが比較例1〜比較例4よりも小さいことが分かる。このように、実施例1〜実施例5は、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきが比較例1〜比較例4よりも少ない。
【0095】
表1の評価結果から、実施例1は、いずれも中央部分と幅方向両側とにおけるスラリーの流量の差が、比較例1、比較例2よりも小さいことが分かる。また、実施例1は、標準偏差σが比較例1、比較例2よりも小さいことが分かる。このように、実施例1は、焼結体34の表面におけるスラリーの流量のばらつきが比較例1、比較例2よりも少ない。したがって、実施例1の焼結体34に熱処理を施して得られた希土類焼結磁石は、比較例1、比較例2の焼結体34に熱処理を施して得られた希土類焼結磁石よりも、単一の磁石中における磁気特性のばらつきが小さくなると予測できる。
【0096】
実施例1は、スラリーが曲がってからキャビティ83内に導入されるが、比較例1は、スラリーが曲がらずにキャビティ83内に導入される。実施例1の標準偏差σは、比較例2の1/10弱である。このように、スラリーが導入される際に曲がり部を通過することにより、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきが大幅に低減される。
【0097】
実施例1は、キャビティ83の幅方向両側の壁面が、2つの曲面と一つの平面とで形成されているが、比較例2は、キャビティ83の幅方向両側の壁面が、一つの曲面で形成されている。実施例1の標準偏差σは、比較例2の1/6弱であり、キャビティ83の幅方向両側の壁面の形状を本実施形態のようにすることで、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきが大幅に低減される。
【0098】
実施例4は、外側平面長さLsが1mmである。実施例4の標準偏差σは、比較例2の1/2強である。また、実施例4は、外側平面長さLsが1mmであるのに対し、実施例5は、外側平面長さLsが4mmである。実施例5の標準偏差σは、実施例4の1/3弱である。実施例7は、外側平面長さLsが0.5mmである。実施例7の標準偏差σは、比較例1及び比較例2よりも小さい。このように、外側平面長さLsが大きくなるにしたがって、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきは低減される。外側平面長さLsが0.5mm以上あれば、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきの低減に効果的である。
【0099】
実施例3、実施例1、実施例2の順に、キャビティ83が有する曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbは小さくなる。標準偏差σは、実施例3、実施例1、実施例2の順に小さくなる。これらの結果から、曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbが1.0mm以上3.0mm以下の範囲においては、曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbが小さくなるほど幅方向におけるスラリーの流量のばらつきは低減される。
【0100】
実施例2と実施例6とを比較すると、実施例2の方が曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbは大きい。標準偏差σは、実施例6、実施例2の順に小さくなる。これらの結果から、曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbが0.5mm以上1.0mm以下の範囲においては、曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbが大きくなるほど、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきは低減される。すなわち、曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbが少なくとも0.5mm以上であれば、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきは低減される。
【0101】
実施例3及び実施例6から、曲面87Ra、87Rbの半径ra、rbが0.5mm以上3.0mm以下であれば、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきの低減に効果的である。平面長さhとキャビティ高さHとの比h/Hが2/5以上9/10以下であれば、幅方向におけるスラリーの流量のばらつきは十分に低減される。