(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
算出されるゴルフボール落下時の速度、角度、回転数から、ゴルフボールが落下した後ゴルフボールが静止するまでの距離を算出し、打出しから静止するまでの飛距離を算出する請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴルフボールの弾道シミュレーション方法。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールのような物体が大気中で飛行するときには、物体の周囲に気流の乱れが生じることが知られている。物体の表面が複雑な形状を形成していたり、回転しながら飛行していたりすると、飛行中の気流の乱れは複雑になり、物体の飛距離など飛び性能に大きな影響が及ぶこととなる。
【0003】
ゴルフボールについては、多くの場合、平面視円形のディンプルが多数設けられているが、ディンプルの立体的な形状、配置、大きさなどの組合せが空力特性に及す影響が大きいことから、これらのディンプル要素と空力特性との因果関係を把握する必要がある。
【0004】
通常、ディンプルの形状、構造及び配置等を変化させることによるゴルフボールの飛び性能に与える影響を調べるに当たっては、ボールの各種成形金型を作製してボールを種々試作し、ボールの打撃実験を行って、初速、スピン、弾道(飛距離、高さ)等を測定し、空力特性を評価することが多かった。
【0005】
しかしながら、このような実物モデルによる試験評価は、多大な時間と費用を必要とすることに加えて、ディンプルの形状及び配置と空力特性との因果関係を明確に関連づけることができない。そのため、実験によって得られた評価結果に基づき新たに設計したゴルフボールが狙いどおりの性能を発揮するに至らないことがしばしば起こる。このような場合、その都度ボールの設計及び試作をやり直して、空力特性を確かめる必要があり、時間と費用が更に発生するため、効率的にボールの開発ができないという問題がある。
なお、本発明に関する先行技術文献情報としては、以下のものがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みなされたもので、表面に複数のディンプルが形成されたゴルフボールの弾道を実物モデルによる試験評価によらずに評価して、効率的にゴルフボールを開発する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、下記〔1〕〜〔5〕のゴルフボールの弾道シミュレーション方法を提供する。
〔1〕 表面に複数のディンプルが形成されたゴルフボールを打出したときの弾道をコンピューターによる演算を利用して解析する弾道シミュレーション方法であって、
(A)ボールが
打出されてから飛行し、少なくとも着地するまでの領域全体を表す気流仮想空間(フィールド)内に、格子を生成し、
(B)表面に複数のディンプルが形成された略球状のゴルフボールモデルを
気流仮想空間(フィールド)内に設定し、
(C)その際、ゴルフボールモデルの近傍は、格子を
気流仮想空間(フィールド)内の格子より細かくすると共に、ボールモデル表面から離れる方向に格子のサイズが漸次増大するように区画し、
(D)ゴルフボールモデルに重量を設定し、
(E)ゴルフボールモデルに初期条件
として、初期速度、打出し角度、回転数を与え、
(F)ゴルフボールモデルが初期条件による運動を開始し
て気流仮想空間(フィールド)内を移動し、ボールモデルの移動に追従するように、ボール近傍の格子は元に設定した格子サイズを崩さずに移動部で再度生成し、ボールが通過した後の格子は
気流仮想空間(フィールド)内の格子に戻し、
(G)
気流仮想空間(フィールド)内の各々の格子区画において算出された気体流の速度、方向及び圧力を積算して、上記
気流仮想空間(フィールド)内における飛行中のゴルフボールの揚力係数及び抗力係数を算出し、
(H)飛行中のゴルフボールの高さ変化、横方向変化、速度変化、回転数変化を算出し、打出時から落下時までのゴルフボールの飛距離、左右へのばらつきを算出して、
弾道を推定することを特徴とするゴルフボールの弾道シミュレーション方法。
〔2〕(D−2)上記
気流仮想空間(フィールド)に所定の方向から所定速度の気流が流入する状態を設定し、
フォローの風のとき、アゲンストの風のとき、横風のときを想定した弾道を解析する〔1〕に記載のゴルフボールの弾道シミュレーション方法。
〔3〕格子形状が直交適合格子である〔1〕又は〔2〕に記載のゴルフボールの弾道シミュレーション方法。
〔4〕格子形状が非構造格子である〔1〕又は〔2〕に記載のゴルフボールの弾道シミュレーション方法。
〔5〕算出されるゴルフボール落下時の速度、角度、回転数から、ゴルフボールが落下した後ゴルフボールが静止するまでの距離を算出し、打出しから静止するまでの飛距離を算出する〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のゴルフボールの弾道シミュレーション方法。
【発明の効果】
【0009】
この弾道シミュレーション方法によれば、実物モデルによる試験評価を実施することなく、表面に複数のディンプルが形成されたゴルフボールを任意の初速度、任意の回転数及び任意の角度で打出したときのゴルフボールの弾道を推定することができ、更にフォロー、アゲンスト、横風などの風の状態に応じた弾道を推定することも可能である。
その結果、ゴルフボールの表面形状(ディンプルの形状、配置、大きさなど)の評価の時間が短縮され、また、評価の正確性、客観性も向上することから、ゴルフボールの種類やグレードに合わせてより高性能の製品を効率よく開発することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明の弾道シミュレーション方法は、表面に複数のディンプルが形成されたゴルフボールを打出したときの弾道をコンピューターによる演算を利用して解析する方法である。
【0012】
本発明の弾道シミュレーション方法では、まず、コンピュータにより(A)ボールの打ち出される気流仮想空間(フィールド)を設定し、
図1(A)に示したように、その
気流仮想空間(フィールド)内に格子を生成する。なお、特に制限されるものではないが、この
気流仮想空間(フィールド)内に形成される格子の形状としては、直交適合格子や非構造格子とすることができる。
【0013】
この場合、この気流仮想空間(フィールド)は、ゴルフボールが打出されてから飛行し、少なくとも着地するまでの領域全体を表すものであり、後述するゴルフボールモデルはこの
気流仮想空間(フィールド)内を移動する。
【0014】
次に、
図1に示されているように、(B)この
気流仮想空間(フィールド)内に、表面に複数のディンプルが形成された略球状のゴルフボールモデルを設定する。この場合、このゴルフボールモデルは、3DCADなどにより作成することができ、例えば
図2に示したゴルフボールモデルを例示することができる。
【0015】
更に、このゴルフボールモデルを
気流仮想空間(フィールド)内に設定する際、(C)ゴルフボールモデルの近傍は、格子を
気流仮想空間(フィールド)内の格子より細かくすると共に、ボールモデル表面から離れる方向に格子のサイズが漸次増大するように区画する。このようにゴルフボールモデル近傍の格子を区画することにより、余分な計算を省くことができ、より効率的に計算を行うことができる。
【0016】
具体的には、まず、
図2(A)に示したように、ゴルフボールモデルの表面を例えば一辺を約0.002mmに区画して、三角形、四角形等の多辺形、又は略三角形、略四角形等の略多辺形の面区画を多数設定し、この各々の面区画を一面とするゴルフボールモデル表面に隣接した格子区画を設定する。ゴルフボールモデル表面に隣接する格子区画は、略四角柱形状等の略多角柱形状や略多角錐形状に設定される。そして、
図1(B)に示したように、このゴルフボールモデル表面に隣接する格子区画からゴルフボールから離間する方向に格子区画の体積が漸次増大するように、気流仮想空間(フィールド)の残部を格子状に区画して、気流仮想領域全域を格子区画で区画する。
【0017】
このゴルフボールモデル表面に隣接する格子区画以外の気流仮想空間(フィールド)の残部に形成される格子区画の形状としては、六面体、三角柱状五面体、四角錐状五面体、三角錐状四面体などの多面体が挙げられ、これらを適宜組み合わせて設定することができる。
【0018】
ゴルフボール周囲の気体流は、ゴルフボールに近いものの方がより大きく影響するため、
図1(B)に示されるように、格子区画をゴルフボールモデル近傍は細かく、気体流が与える影響が小さいゴルフボールモデルから遠方は粗く設定するのは上述の通りであるが、この場合ゴルフボールモデルのボール表面から離間する方向への格子区画の体積の増大は、連続的なものであっても、段階的なものであってもよい。
【0019】
次に、上記ゴルフボールモデルに(D)重量を設定し、(E)初期条件(初期速度、打出し角度、回転数)を与え、上記気流仮想空間(フィールド)でゴルフボールモデルを運動させる。
【0020】
このようにして、(F)上記(D)の重量を有する上記ゴルフボールモデルが、上記
気流仮想空間(フィールド)内で上記(E)の初期条件による運動を開始し、ボールモデルの移動に追従するように、ボール近傍の格子は元に設定した格子サイズを崩さずに移動部で再度生成し、ボールが通過した後の格子は
気流仮想空間(フィールド)内の格子に戻す操作を連続的に繰り返す。
【0021】
そして、ゴルフボールモデルが所定回転数で回転しながら、
気流仮想空間(フィールド)内を飛行する際、この回転しているゴルフボールモデルに気流が当たることにより生じるゴルフボールモデル表面に作用する力によって発生する気体流の
気流仮想空間(フィールド)内の運動要素の解析を格子区画毎に行う。
【0022】
ゴルフボールモデルが飛行することにより生じる気流がゴルフボールモデルに当たったときに生じる運動要素は、三次元空間座標系の各軸方向の気体流の速度、気体流の方向及びボールモデル表面に対する気体流の圧力であり、計算に当たって用いる基礎方程式、即ち、以下に示される質量保存則に相当する連続の式(1)〜(3)及び物体の運動保存則に相当するナビエストークの方程式(4)〜(6)に数値を代入して算出することができる。
【0024】
上記シミュレーションでは気流仮想空間の格子区画毎に空気の流れを演算により解析することができる。この演算に上記式(1)〜(6)を用い、気流仮想空間を格子区画に区切ったことに対応して上記式(1)〜(6)を離散化して演算を行うことができる。シミュレーションの方法は、シミュレーションの条件等を考慮して有限差分法、有限体積法、境界要素法、有限要素法等を適宜選択して行うことができる。
【0025】
ここで、場合によっては、(D−2)上記
気流仮想空間(フィールド)に所定の方向から所定速度の気流が流入する状態を設定し、風の状態に応じたシミュレーションを行うこともできる。
【0026】
即ち、気流仮想空間で横から、進行方向、又は逆方向の気流を作成し、フォローの風のとき、アゲンストの風のとき、横風のときの状態を考慮してシミュレーションすることもできる。具体的には、例えばアゲンストの風を考慮する場合は、気流仮想空間にゴルフボールモデル前方から所定速度の気流が流入する状態を設定し、気流仮想空間全体の各格子に上記気流が設定された状態で、ゴルフボールモデルを運動させる。アゲンストの風のとき以外の風の状態を考慮する場合は、上記流入する気流の方向を変える事でシミュレーションを行うことができる。
【0027】
次に、(G)
気流仮想空間(フィールド)内の各々の格子区画において算出された気体流の速度、方向及び圧力を積算して、上記
気流仮想空間(フィールド)内における飛行中のゴルフボールの揚力係数及び抗力係数を算出する。
【0028】
この場合、気体流を散乱モデルとして乱流度を加味した速度値を代入して揚力係数CL及び抗力係数CDを算出することもできる。
【0029】
そして、上記揚力係数と抗力係数、上記(D)で設定したボール重量、及び(E)の初期条件(初期速度、打出し角度、回転数)からボールモデルを運動させて、(H)飛行中のゴルフボールの高さ変化、横方向変化、速度変化、回転数変化を算出し、打出時から落下時までのゴルフボールの飛距離、左右へのばらつきを算出して、弾道を推定する。
【0030】
クラブにより打撃されて飛行するゴルフボールは、
図4に示したように、重力Mg、空気による抵抗(抗力)D、更にボールがスピンを有するためにマグナス効果による揚力Lを受けることが知らされている。なお、図中、Vは飛行方向、cはボール中心を示し、この場合、ゴルフボールbは矢印R方向に回転している。
【0031】
この場合、ゴルフボールに働く力は下記弾道方程式(7)で表される。
F=FL+FD+Mg ・・・・(7)
F:ゴルフボールに働く力
FL:揚力
FD:抗力
Mg:重力
【0032】
そして、以下の運動方程式により、ゴルフボールの運動を演算することができ、
F
cd=0.5×CD×ρ×A×V
2 ・・・・(8)
F
cl=0.5×CL×ρ×A×V
2 ・・・・(9)
F
cd+F
cl+mg=m×dV/dt ・・・・(10)
m:ボール重量
g:重力加速度
t:時間
CL:揚力係数
CD:抗力係数
ρ:空気密度
A:ゴルフボールの断面積
V:ゴルフボールの対空気速度
これから、微少時間飛行した後のゴルフボールの速度が算出され、更に、その結果を放物運動に関するニュートン(Newton)の運動方程式に適用することにより、微少時間飛行した後のボールの飛距離及び高さ変化を算出することができる。上記微分方程式の演算は、オイラー法やルンゲクッタ法を使用することができ、これにより微少時間に対する速度の算出が可能である。
【0033】
一方、飛行するゴルフボールの回転数(回転速度)は時間の経過によって次第に減衰するが、微少時間経過後の回転数は次の式によって計算することができる。
ω=ω
0×E
xp{−(SRD
1+SRD
2×V)×t×β} ・・・・(11)
β=(π×ρ×r
4)/l ・・・・(12)
ω
0:ゴルフボールの初期回転角速度
ω:ゴルフボールの回転角速度
V:ゴルフボールの対空気速度
t:時間
ρ:空気密度
r:ゴルフボールの半径
l:ゴルフボールの慣性モーメント
SRD
1,SRD
2:実験により求められたディンプル固有の減衰係数
【0034】
この結果、微少時間飛行した後のボールの飛距離、高さ変化が算出され、これを第1ステップとし、更に、算出された回転数及び速度を上記微少時間経過後の回転数及び速度として、上記操作を繰り返すことにより、ボール打出時から落下時までの各々の微少時間経過毎のボール飛距離及び高さを順次算出して弾道を推定することができる。
【0035】
なお、設定する微少時間は、シミュレーションの効率と精度の点から0.001〜0.1秒とすることが好ましい。
【0036】
本発明の弾道シミュレーションのより具体的な実施例を示すと、例えば、
図2に示したゴルフボールモデルにつき、ボール重量45.3g、直径42.7mm、慣性モーメント7.8×10
-6kg・m
2と設定すると共に、打出し初期条件として、初速度67m/s、打出し角度10°、初期回転数2520rpmを設定する。このゴルフボールモデルを
図1(A)のように格子を生成させた
気流仮想空間(フィールド)内に設定し、かつ
図2(A)及び
図1(B)に示した細かい格子をゴルフボールモデル近傍に生成させると共にボールモデルから離れる方向に格子のサイズが漸次増大するように区画する。そして、このボールモデルを上記初期条件で
気流仮想空間(フィールド)内を運動させ、揚力係数CL及び抗力係数CDを計算し、次いで上記式(8),(9)及び(10)を用いて所定時間t(例えば0.01秒)飛行した後のゴルフボールの速度を算出し、更にその結果から、放物運動に関するニュートン(Newton)の運動方程式を用いて、所定時間t飛行した後のボールの飛距離及び高さを算出し、また、一方で式(11)及び(12)を用いて所定時間t経過後の回転数を算出する。
【0037】
次に、この算出された所定時間t飛行した後のゴルフボールの速度及び回転数から、更に所定時間t飛行した後のボールの飛距離、左右のばらつき、高さ、回転数を上記した方法で同様に算出し、その後も同様にして、ゴルフボールが落下する位置まで、上記計算を繰り返し、
図3に示したゴルフボールの弾道を得ることができる。
【0038】
また、必要に応じて、算出されるゴルフボール落下時の速度、角度、回転数から、ゴルフボールが落下した後ゴルフボールが静止するまでの距離(ラン、転がり距離)を算出し、打出しから静止するまでの飛距離を算出することもできる。
【0039】
ラン(転がり距離)は、下記式(13)により計算することができる。
ラン(転がり距離)=A×Land X velocity −B×Land Y velocity +C×Land Angle−D×Land Spin ・・・(13)
Land X velocity= 水平落下速度成分(m/s)
Land Y velocity= Sin 2θ × 垂直落下速度成分(m/s)
Land Angle= Cosθ
Land Spin = 落下スピン量
A,B,C,D:実際のゴルフボールの試験から逆算して得られる固有の係数である。これらの係数を変化させることで、地面の状態の違い(例えば、芝とコンクリート)もシミュレーションに反映させることができる。