(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プレス下型とプレス上型を相対移動可能に設けてプレス金型を構成し、前記プレス下型とプレス上型の間に搬入される材料ワークをプレス成形して成形済みワークを形成するプレス装置において、
前記プレス上型の凹設部内に複数のプッシュアウトシリンダ装置をそれぞれ設け、
前記プッシュアウトシリンダ装置のシリンダロッドを前記プレス下型側に進退自在に設けてなり、
前記プレス上型とプレス下型の間に、搬入される材料ワークを受けるブランクホルダを弾力支持し、
前記ブランクホルダは前記プレス上型の下降に伴い材料ワークを挟持した状態でワーク加工位置に案内されて成形加工が開始され、
さらに、前記プレス上型は、下降して下死点位置で成形加工が終了して前記プレス金型が開放され、
前記プレス金型の開放の際、前記プレス上型の上昇に前記ブランクホルダの上昇が追従される一方、前記プッシュアウトシリンダ装置をエアシリンダ作動させてシリンダロッドを突出させ、成形済みワークを前記プレス上型から離脱させたことを特徴とするプレス装置。
前記プッシュアウトシリンダ装置は、プレス金型開放直前あるいは直後のタイミングで作動してシリンダロッドをプレス下型側に突出し、成形済みワークをプレス上型から離脱させる請求項1記載のプレス装置。
プレス下型とプレス上型を相対移動可能に設け、前記プレス下型とプレス上型の間に搬入される材料ワークをプレス成形して成形済みワークを形成するプレス成形方法において、
前記プレス上型とプレス下型の間に、搬入される材料ワークを受けるブランクホルダを弾力支持し、
前記ブランクホルダは前記プレス上型の下降に伴い材料ワークを挟持した状態でワーク加工位置に案内して成形加工を開始する一方、
前記プレス上型をさらに下降させて下死点位置で成形加工を終了させて前記プレス金型を開放し、
前記プレス金型開放の際に、前記プレス上型に設けられたプッシュアウトシリンダ装置のシリンダロッドをエアシリンダ作動によりプレス下型側に突出させ、
前記プッシュアウトシリンダ装置のシリンダロッドのエアシリンダ作動により、成形済みワークを前記プレス上型から離脱させることを特徴とするプレス成形方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1はトランスファプレス機(ライン)を構成するプレス装置10の各プレス工程を示すものである。このプレス装置10は、板状ブランクをプレス成形して必要な3次元(3D)形状の製品ワークを得るもので、基本的には、成形工程11→切断工程12→曲げ工程13→穴あけ工程14のように、例えば4工程4型の自動プレスラインの製造工程で構成される。プレス装置10は各プレス工程を実施するプレス金型に順次ワークを送って必要な製品形状を得るものである。プレス装置10で成形される製品形状如何によっては、切断工程12のプレス金型に切断と部品成形を行なうプレス金型が必要に応じて用いられ、また、穴あけ工程14のプレス金型に部分成形と穴あけを行なうプレス金型が用いられる。
【0022】
[第1の実施形態]
図2は、成形工程11に用いられるプレス装置10の第1実施形態を示す原理的な構成図である。
【0023】
このプレス装置10は、板状ブランク(材料ワーク)から3次元凹凸形状の成形済みワークを絞り成形加工するプレス金型16を示すものである。このプレス金型16には、固定されたプレス下型17にプレス上型18が昇降ストローク自在に設けられる。プレス上型18とプレス下型17の間に、ガイド部材(ガイドポスト)19に案内されて昇降するブランクホルダ20が浮上状態に弾力支持される。このブランクホルダ20は、図示しないスプリングにより上方にばね付勢されており、ブランクホルダ20上に搬入された板状ブランク21(W)が保持される。プレス上型18とプレス下型17の間に搬入された板状ブランク(材料ワークW)21は、プレス上型18の下動に伴い、プレス上型18とブランクホルダ20により、所要位置、例えば材料ワークWの周辺部または両側部が挟まれ、成形加工される前にブランクホールドされる。
【0024】
プレス上型18とブランクホルダ20は板状ブランク21をブランクホールドしたままさらに下降して加工開始位置に至り、絞り成形加工が開始される。なお、ブランクホルダ20はプレス下型17側に弾力支持する代りに、プレス上型18側にスプリング支持させて昇降されるようにしてもよい。
【0025】
具体的には、プレス金型16の下型17と上型18との間に搬入された板状ブランク(材料ワークW)21はブランクホルダ20上に案内される。案内された材料ワークWは、ブランクホルダ20で受ける。このブランクホルダ20は、プレス上型18の下降に伴い材料ワークWを弾力的にブランクホールドしたまま一体的に下降する。板状ブランク(材料ワークW)21はブランクホールドされた状態でプレス上型18が下降して、プレス下型17と接触する加工開始位置に至り、成形加工が開始される。成形加工が開始され、加工が進展してプレス上型18が
図3に示すように下死点位置に到達すると、成形工程11が完了し、プレス金型16は開放される。
【0026】
プレス金型16の成形加工により、板状ブランク(材料ワークW)21はプレス下型17とプレス上型18との間で必要な製品形状にプレス成形され、3次元形状に絞り加工される。プレス成形加工の完了により成形済みワークW
1が製造される。
【0027】
成形工程11は、板状ブランク21から所要の3次元凹凸形状を形づくる工程をいい、成形工程11が完了した成形品を成形済みワークW
1と定義する。
【0028】
プレス金型16の上型18が下死点位置に到達して成形工程11が完了すると、プレス金型16は開放され、プレス上型18はプレス下型17から離れて上昇する。プレス上型18が上昇する際、成形済みワークW
1とプレス上型18の接触面(型形成面)に発生する負圧(以下、型負圧という。)や加工油の粘性のために、成形済みワークW
1がプレス上型18に貼り付き、貼り付いたまま上昇する虞がある。
【0029】
成形工程11のプレス金型開放時に、成形済みワークW
1はプレス上型18の型負圧に追従し、プレス上型18に貼り付いたまま上動して落下し、落下したワークがプレス下型17で飛び跳ねて安定せず、成形済みワークW
1が踊り出したり、ワーク位置がシフトして不安定になることがある。これを防止するためにプッシュアウトシリンダ装置24が設けられる。
【0030】
プッシュアウトシリンダ装置24は、市販品のエアシリンダであり、プレス上型18の所要の凹設部(キャビティ)25に複数個、例えば数箇所設けられる。プレス上型18の凹設部25は、
図4(A)に示すようにプレス上型18の補強用型リブ23間のキャビティに形成される。各プッシュアウトシリンダ装置24は、図示しないエア回路を介してエア配管27により、プレス装置10と連動するエアシリンダとして用いられ、プッシュアウトシリンダ装置24は、シリンダ本体28から突出するシリンダロッド29が、
図4(A)および(B)に示すように、プレス上型18からプレス下型17側にスプリング力ではなく、エア駆動により突没自在(進退自在)に設けられる。
【0031】
プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッド29は、プレス上型18のガイド口(開口)31からプレス下型17の型成形面17aあるいは周辺のブランクホルダ20側に進退あるいは突没自在に設けられる。プッシュアウトシリンダ装置24は、型負圧による成形済みワークW
1の持上りが大きい箇所、あるいは成形済みワークWのスクラップ対象部位に取り付けられる。
【0032】
プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッド29は、ロッド先端部が円弧状あるいは楕円状に湾曲した曲面形状に形成され、板状ブランク(材料ワークW)21や成形済みワークW
1との接触による損傷を防止している。プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダ径は、数10mmφ、例えば50mmφに成形される。プレス上型18のガイド口31も数10mmφ、例えば30mmφの開口が形成され、このガイド口31内にシリンダロッド(昇降ロッド)29が挿通自在に設けられる。
【0033】
プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッド29は、プレス上型18のガイド口31を貫通してプレス下型17側に突没自在に設けられ、プレス装置10のクランク角度に連動してプレス金型開放時に所要の作動タイミングで作動するようになっている。
【0034】
プレス金型16の上型18が下降して下死点位置に到達すると、
図3に示すように、プレス金型16のプレス絞り成形加工が終了してプレス金型16が開放される。このプレス金型16の開放時には、プレス成形加工が終了してプレス上型18が
図5に示すように上昇する一方、後述する所要の作動タイミングでプッシュアウトシリンダ装置24が作動し、シリンダロッド29がプレス上型18から突出して成形済みワークW
1を押し出し、プレス上型18から突き落として離脱させることができる。プレス上型18上昇時に、プッシュアウトシリンダ装置24が作動して成形済みワークW
1を押し出して突き落とし、離脱させることにより、成形済みワークW
1をプレス上型18から積極的にかつ強制的に引き剥がすことができる。
【0035】
また、プレス金型16の開放時に、プッシュアウトシリンダ装置24の作動により、成形済みワークW
1がプレス下型17の型成形面17aに貼り付くのを防止することができる。プレス下型17には、型成形面17aの所要箇所にエア抜き用溝(図示省略)が予め形成され、このエア抜き用溝によっても成形済みワークW
1の貼付きが防がれる。さらに、成形済みワークW
1のプレス下型17への貼付きは、プレス上型18の上昇に追従するブランクホルダ20の上昇によっても防止される。
【0036】
プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッド(作動ロッド)29は、この意味でプッシュアウトロッド、突き落としロッドとして機能する。また、プッシュアウトシリンダ装置24は、市販品のエアシリンダでよく、エアシリンダ作動で駆動し、スプリング力の利用を不要とするので、成形済みワークW
1の突き落とし力を安定的に大きくすることができ、プレス上型18への貼り付きを効果的に防止できる。さらに、プッシュアウトシリンダ装置24は、プレス装置10のクランク角度と連動するエアシリンダ作動の構成とされるために、作動タイミングのコントロールを自由に調整でき、自由度が高く、その上、常時作動のスプリング力が不要となるため、成形工程前半の板状ブランクの材料の挙動を未然に防止できる。
【0037】
プレス装置10は、図示しない電動モータのモータ駆動によりプレス装置10のプレス軸を回転させ、プレス金型16の上型17に昇降ストローク動作させるように構成される。トランスファプレス機を構成するプレス装置10の搬出入装置、ブランクホルダ20およびプッシュアウトシリンダ装置24は、プレス装置10のクランク角度(軸角度)に基づく所定の動作タイミングで作動制御される。
【0038】
[プレス金型の昇降ストロークとプレス装置のクランク角度の関係]
図6(A)は、プレス金型16の上型17の昇降ストロークSとプレス装置10のクランク角度(軸角度)の関係を、また、
図6(B)は、搬出入装置、ブランクホルダおよびプッシュアウトシリンダ装置24の作動タイミングと作動範囲(作動時間)の関係をそれぞれ示す図である。
【0039】
このうち、
図6(A)は、成形工程11におけるプレス金型16の上型18の昇降ストロークSとプレス装置10のクランク角度の関係を示すもので、領域WAは、プッシュアウトシリンダ装置24がプレス上型18の材料ワークW(W
1)を押圧接触している作動時間に相当する領域であり、プッシュアウトシリンダ装置24の作動範囲を示すものである。プッシュアウトシリンダ装置24は、エア作動のため、作動遅れを考慮してシリンダロッドの動作タイミングが調整される。この動作タイミングは、例えばプレス金型16の開放直前にプッシュアウトシリンダ装置24がON作動するようになっている。
【0040】
プレス上型18は下降工程で材料ワーク(パネル)Wに接触してブランクホルダに挟持され、ブランクホールドされたままさらに下降し、プレス下型17と協動してプレス成形加工される。領域WAは材料ワークWのプレス成形が完了してプレス金型16が開放され、成形済みワークW
1がプレス上型18からプッシュアウトされ、離脱される作動領域をいう。プレス上型18はプレス成形が開始され、成形開始後、プレス成形が進んで材料ワークWの成形が完了してプレス金型16が開放されると、プレス上型18がプレス下型17から離れて上昇する。成形済みワークW
1が型負圧などでプレス上型18とともに上昇しても、成形済みワークW
1は、プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッド29の押圧(プッシュアウト)作用でプレス上型18から押し出され、突き落とされ、離脱される。
【0041】
また、
図6(B)に示す搬出入装置、ブランクホルダ20およびプッシュアウトシリンダ装置24の動作タイミングの一例をプレス装置10のクランク角度(プレス上型18の昇降ストロークS)との関係で示す。
【0042】
搬出入装置は、プレス装置10のクランク角度(軸角度)に対応して所定の動作タイミングで搬入動作Iおよび搬出動作Oを実行しており、搬出動作Oと搬入動作Iとの間の符号Cは、シャトルコンベアによる次工程(切断工程)への搬送動作を示す。
【0043】
さらに、ブランクホルダは、成形工程11において、搬出入装置と連動して動作するもので、ブランクホルダもプレス装置10のクランク角度に対応した所定の動作タイミングで下降動作Dと上昇動作Uが実行される。ブランクホルダの動作中における符号USは、上昇位置で待機している期間を示している。
【0044】
一方、プッシュアウトシリンダ装置24は、成形工程11のプレス装置10のプレス成形加工に連動して作動するものである。プッシュアウトシリンダ装置24は、成形される成形品の形状や大きさによりプレス成形条件やプレス装置10のモーションが異なり、プッシュアウトシリンダ装置24の作動時間や作動タイミングが異なる。具体的にはプレス上型18にワークW(W
1)が接触している領域WAで作動してプッシュアウトされ、突き落とされる。
【0045】
プッシュアウトシリンダ装置24の動作タイミングは、図示しないエア制御装置でエアの供給を制御することで作動制御される。
【0046】
[プレス装置のプレス運転速度]
本発明のプレス装置10は、プッシュアウトシリンダ装置24の作動により、プレス金型16の開放時に、シリンダロッド29をプレス上型18から突出させ、成形済みワークW
1をプレス下型17側に積極的に押圧し、プレス上型18から強制的に突き落とし、離脱させることができ、プレス上型18に成形済みワークW
1が貼り付くのを未然にかつ確実に防止できる。プレス金型16の開放時にプッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッド29を作動させ、成形済みワークW
1をプッシュアウトし、プレス上型18から離脱させたので、プレス上型18に成形済みワークW
1が貼り付いて持っていかれるのを防止でき、ワークの位置ずれやワークの変形が生じるのを防ぐことができる。
【0047】
したがって、プレス装置10のプレス運転速度を高速化させることができ、プレス装置10を高速化させても、ワークの位置ずれやワークの変形を確実に防止できる。プレス装置10のプレス運転速度はSPMで表わされる。SPMは1分間にプレス製品を何枚生産することができるかの指標である。
【0048】
トランスファプレス機に用いられるプレス装置10では、プレス運転速度SPMはワークWが大型パネルと中型パネルと小型パネルとをプレス成形する場合で異なるが、成形工程11のプレス装置10のプレス上型18にプッシュアウトシリンダ装置24を設けると、設けない場合に較べプレス運転速度SPMは2割から5割程度上昇させることができる。
【0049】
例えば、
図7に示すように、ハイルーフやボディなどの大型パネルでは、プッシュアウトシリンダ装置を備えたプレス装置10の上限値は従来の6SPMから7〜8SPMに、フードアウタ(ボンネット)などの中型パネルのSPM上限値は、従来の約12SPMから約16SPMに上昇させることができた。
【0050】
[第2の実施形態]
図8は、本発明に係るプレス装置の第2実施形態を示すものである。
【0051】
第2実施形態に示されたプレス装置10Aは、トランスファプレス機(ライン)の成形工程11に用いられるものであり、このプレス装置10Aに用いられるプレス金型16Aの全体的構成は、
図2ないし
図5に示したプレス金型16と実質的に異ならないので、同じ構成には、同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
図8に示されたプレス金型16Aでは、プレス上型18Aを簡略的に表示している。プレス上型18Aには、図示しない補強用型リブ間の凹設部(キャビティ)にプッシュアウトシリンダ装置24が数箇所設けられる。各プッシュアウトシリンダ装置24は、好ましくは板状ブランク(材料ワークW)21のスクラップ対応部位(製品形状以外の部分)や成形済みワークW
1の持ち上がりが大きい部位に対応して設けられる。
【0053】
成形工程11のプレス金型16Aには、
図8に示すプレス下型17Aとプレス上型18Aが相対移動可能に設けられる。
図8では、プレス上型18Aが固定されたプレス下型17Aに対し、昇降移動する例を示す。
【0054】
図8に示すプレス装置10Aはトランスファプレス機(ライン)を構成しており、隣接したプレス装置10A間においてワークWを搬送するためにシャトルコンベア(図示せず)が用いられる。プレス装置10Aのプレス金型16Aに対して矢印1方向から板状ブランク(材料ワークW)21が送り込まれ、また、矢印O方向へ向けて成形済みワークW
1が送り出される。
【0055】
具体的に、プレス装置10Aのプレス金型16Aには、プレス装置10Aの昇降ストロークに連動して作動するシャトルコンベア(図示せず)等の自動搬送装置により、プレス金型16Aの下型17Aと上型18Aの間に板状ブランク(材料ワークW)21が搬入され、搬入された材料ワークWはブランクホルダ(ワークリフタ)で下降してプレス金型16Aで成形加工される。成形加工させた成形済みワークW
1は、再びブランクホルダで上動され、自動搬送装置により次工程(切断工程)へ搬出させる。
【0056】
プレス金型16Aの下型17Aと上型18Aの間に搬入された板状ブランク(材料ワークW)21は、ブランクホルダ(図示せず)の上昇位置で受け、その下降によりガイドメンバ35に導かれてワーク加工位置に案内される。このワーク加工位置ではプレス上型18Aの昇降ストロークにより必要な三次元形状にプレス成形加工される。
【0057】
成形工程11ではプレス金型16Aの開放時にプレス上型18Aが下型17Aから離れて上昇する際、成形済みワークW
1とプレス上型18Aとの接触面に発生する型負圧や加工油の粘性のために、成形済みワークW
1がプレス上型18Aに貼り付いたまま上昇する虞が生ずる。成形済みワークW
1がプレス上型18Aに貼り付くのを防止するためにプッシュアウトシリンダ装置24が設けられる。
【0058】
成形工程11において、プレス成形加工後、プレス金型16A開放時に成形済みワークW
1はプレス上型18Aの上昇に追従して持ち上がろうとする。プレス金型16A開放時に、成形済みワークW
1はプレス上型18Aの型負圧により追従してプレス上型18Aに持っていかれ、成形済みワークW
1が踊り出したり、ワーク姿勢が不安定になる虞があるが、このワーク姿勢の不安定化はプッシュアウトシリンダ装置24の押出し、突き落とし離脱させることにより防止される。
【0059】
プッシュアウトシリンダ装置24は、例えば成形済みワークW
1がサイドボディやドアフロア(インナーフロア、リアーフロア)等のパネルのように、成形品の部品サイズや部品形状によって取付位置が種々異なる。一般的には、プレス装置10の後工程(切断工程)でスクラップとなる部分に対応するプレス上型18Aの(型成形面18a)平面部に設けられる。成形品が車体のリアフロアのような場合には、製品内に対応するプレス上型18Aの平面部に設けられる。
【0060】
図9(A)は、プレス装置10Aを構成するプレス金型16Aの昇降ストロークSとプレス装置10Aのクランク角度の関係を、また
図9(B)は搬出入装置、ブランクホルダおよびプッシュアウトシリンダ装置24の作動タイミングと作動範囲(作動時間)の関係をそれぞれ示す図である。
【0061】
このうち、
図9(A)は成形工程11におけるプレス金型16Aの上型18Aの昇降ストロークとプレス装置10Aのクランク角度の関係を示すもので、領域WAは、プッシュアウトシリンダ装置24が作動して成形済みワークW
1をプッシュアウトする作動時間に相当する領域であり、プッシュアウトシリンダ装置24の作動範囲を示すものである。
【0062】
プレス上型18Aは下降工程で材料ワークWに接触してプレス下型17Aと協動してプレス成形加工される。領域WAはワークWの成形開始から成形完了を経てプレス金型16Aの開放時にプッシュアウトシリンダ装置24が成形済みワークW
1をプッシュアウトする作動領域をいう。プレス上型18Aは下降ストロークの途中で材料ワークWと接触してプレス下型17Aと協動し、プレス成形が実施される。プレス成形が進んで材料ワークWの成形が完了してプレス金型16が開放され、プレス上型18Aがプレス下型17Aから離れて上昇し、成形済みワークW
1が型負圧などでプレス上型18Aとともに上昇しても、成形済みワークW
1は、プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッドよりプッシュアウトされて突き落とされ、プレス上型18Aから分離された状態に保持され、ワーク姿勢が保たれる。
【0063】
また、
図9(B)に示す搬出入装置、ブランクホルダおよびプッシュアウトシリンダ装置24の動作タイミングの一例をプレス装置10Aのクランク角度(プレス上型18Aの昇降ストロークS)との関係で示す。
【0064】
搬出入装置は、プレス装置10Aの軸角度に対応して所定の動作タイミングで搬入動作Iおよび搬出動作Oを実行しており、搬出動作Oと搬入動作Iとの間の符号Cは、シャトルコンベアによる次工程(切断工程)への搬送動作を示す。
【0065】
さらに、ブランクホルダは、成形工程11において、搬出入装置と連動して動作するもので、ブランクホルダもプレス装置10Aの軸角度に対応した所定の動作タイミングで下降動作Dと上昇動作Uが実行される。ブランクホルダの動作中における符号USは、上昇位置で待機している期間を示している。
【0066】
一方、プッシュアウトシリンダ装置24は、成形工程11のプレス装置10Aのプレス成形加工に連動してプレス金型16Aの開放時にプッシュアウト動作を行なうものである。プッシュアウトシリンダ装置24は、成形される成形品の形状や大きさによりプレス成形条件やプレス装置10のモーションが異なり、プッシュアウトシリンダ装置24の作動時間や動作タイミングが異なる。プッシュアウトシリンダ装置24は、具体的にはプレス上型18がワークW(W
1)に接触している領域で作動してプッシュアウト動作している。
【0067】
プッシュアウトシリンダ装置24の動作タイミングは、プレス装置10Aの昇降動作に連動して、エアバルブをエア制御装置で開閉制御することが作動制御される。
【0068】
次に、プッシュアウトシリンダ装置24の作用を説明する。
【0069】
トランスファプレス機の成形工程11において、プレス装置10Aのクランク角度に基づいて、搬出入装置、ブランクホルダおよびプッシュアウトシリンダ装置24の動作タイミングが、ワークW(W
1)の大きさや形状、プレス条件に応じて
図9に示すように一例として設定される。
【0070】
プレス金型16Aの成形開始からプレス成形が進んでプレス上型18Aが
図9(A)に示す下死点を通り、成形が完了すると、プレス金型16Aは開放されてプレス上型18Aはプレス下型17Aから離れて上昇する。
【0071】
プレス金型開放時にプレス上型18Aが上昇工程に入ると、プレス上型18Aの型負圧により、成形済みワークW
1を吸着して上昇させる。しかし、プレス上型18Aの上昇に追従して成形済みワークW
1が上昇しようとしても、プッシュアウトシリンダ装置24が作動してシリンダロッド29を突出させ、成形済みワークW
1をプレス上型18Aからプッシュアウトし、突き落とすので、成形済みワークW
1の上昇に伴う位置ずれを防止することができる。成形済みワークW
1はワーク姿勢を保って上昇するので、成形済みワークW
1を正確に送ることができる。
【0072】
したがって、プレス装置10Aを高速化することができ、プレス装置10Aのプレス動作が早くなっても、成形済みワークW
1は、位置ずれが生じることなく安定したワーク姿勢が保たれる。成形済みワークW
1はプレス上型18Aの型負圧により引っ張られ、付着状態で上昇しても、プッシュアウトシリンダ装置24のシリンダロッド29の突出しにより、成形済みワークW
1がプレス上型18Aからプッシュアウトされて引き剥がされるので、安定したワーク姿勢が保持される。
【0073】
このプレス装置10Aでは、プッシュアウトシリンダ装置24が少なくともプレス金型開放時に成形済みワークW
1をプレス上型18Aからプッシュアウトさせて離脱させ、ワーク姿勢を安定化させたので、プレス上型18Aには成形済みワークW
1が貼り付いて持っていかれ、ワークの位置ずれやワークの変形が生じるのを防ぐことができる。したがって、プレス装置10Aのプレス運転速度を高速化させることができる。プレス装置10Aを高速化させても、ワークの位置ずれやワーク変形を確実に防止できる。プレス装置10Aのプレス運転速度はSPMで表わされ、SPMは1分間に何枚生産できるかの指標である。
【0074】
トランファプレス機(ライン)の成形工程11に用いられるプレス装置10Aでは、プレス運転速度SPMは板状ブランク(材料ワークW)21が大型パネルと中型パネルと小型パネルとで異なるが、プレス金型16Aの上型18Aにプッシュアウトシリンダ装置24を設けると、プレス運転速度SPMは2割から5割程度上昇させることができる。
【0075】
例えば、サイドボディやハイルーフなどの大型パネルでは、プッシュアウトシリンダ装置24を備えたプレス装置10AのSPMの上限値は、従来の5〜6SPMから7〜8SPMに、フードアウタ(ボンネット)などの中型パネルのSPM上限値は、従来の約12SPMから約16SPMとなった。トランファプレス機に代えてタンデムプレス機を用いたプレス装置でも、上昇させることができる。
【0076】
プレス金型16Aの上型18Aにプッシュアウトシリンダ装置24を設けて、プレス金型16A開放時の成形済みワークW
1のワーク姿勢を安定化させたので、プレス装置10Aを高速化しても、次工程(曲げ工程)に送られる成形済みワークW
1のワーク着座誤差を防ぐことができ、生産性の向上に寄与する。
【0077】
トランスファプレス機(ライン)は、例えば成形工程、切断工程、曲げ工程、穴あけ工程等の各工程を同時に動かして加工するプレス装置であり、各工程間の搬送には、フィードバーという自動搬送装置が用いられる。タンデムプレス機(ライン)は、各工程の型が独立して動くラインであり、各工程間の搬送には、ロボット、クロスバー等が用いられる。
【0078】
なお、本発明の実施形態では、プレス装置のプレス上型に複数のプッシュアウトシリンダ装置を設けた例を示したが、このプッシュアウトシリンダ装置はプレス装置のクランク角度に連動し、エア制御装置によりエア駆動される市販品のエアシリンダで対応することができる。しかも、このプッシュアウトシリンダ装置は、標準のエアシリンダ部品の組合せで構成でき、製造現場での組立ても容易であり、プレス上型の凹設部に着脱自在に設置することができ、修理や保守・点検も容易である。
【0079】
また、このプッシュアウトシリンダ装置は、生産現場で作動タイミングを微調整することができ、しかも、繰返し反復使用ができるので、経済性に富み、利便性が高い。