【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例では回転工具を用いる携帯型作業機の例としてエンジンカッタを用いて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下の方向は図中に示す方向であるとして説明する。
【0026】
エンジンカッタ1は、2サイクルまたは4サイクル等のエンジン(駆動源)による動力を用いて先端工具たるブレード7を回転させる作業機械である。エンジンカッタ1の前方側には、回転式のブレード(ホイール)7が設けられ、後方側には動力源たるエンジンが設けられる。ここでブレード7の回転軸(後述するスピンドル)はエンジンのクランクシャフト4と平行に設けられる。実施例のエンジンは、シリンダ2が鉛直となるようにクランクケース5に取り付けられるもので、シリンダ2の内部でピストン3が上下方向に往復する。クランクシャフト4はブレード7の回転軸と平行になるように配置され、その一方の端部から駆動力が取り出され、後述する遠心クラッチを介してブレード7に駆動力が伝達される。本実施例におけるエンジンは、混合燃料を用いる2サイクルエンジンであり、シリンダ2の上部には混合気を燃焼させるための点火プラグ13が設けられる。エンジンのクランクケース5には、前方側に延びるアーム6(スピンドル支持部)が取り付けられ、アーム6は前端付近で後述するスピンドルに固定されるブレード7が回転可能なように保持する。
【0027】
エンジンは合成樹脂等で形成されるハウジング9に収容され、ハウジング9の後方側には作業者が把持するためのリアハンドル11が設けられる。リアハンドル11は作業者が例えば右手で把持するもので、合成樹脂によりハウジング9と一体に構成される。リアハンドル11の下側にはエンジンの回転数を調整するためのスロットルトリガ14が設けられ、上側にはロックレバー15が設けられる。スロットルトリガ14は、リアハンドル11が把持されロックレバー15が押された状態でのみ引き操作が可能となっている。ハウジング9の前方側にはフロントハンドル10が取り付けられる。フロントハンドル10は作業者が例えば左手で把持するためのハンドルであり、エンジンカッタ1を正立状態だけでなく左右に斜めにしたり横向きにしたりして作業することがあり得るため、把持する位置の自由度を増やすためにハウジング9の左下側からホイルガード30の後方側の周囲を囲むように延在してハウジング9の右側部分で固定される。
【0028】
シリンダ2の後方であってハウジング9の後部にはキャブレタ12が設けられる。キャブレタ12の上方付近には、図示していないが吸入空気を浄化するためのエアクリーナが設けられる。シリンダ2の前方側であってブレード7との間にはマフラー8が設けられる。マフラー8は、シリンダ2の排気ポートにボルト等で直接固定される消音装置であって、マフラー8には、前方斜め下方向に排気ガスを排出するための排出口8aが設けられる。排気ガスの流れる方はホイルガード30の外周部の接線方向である。このように排気ガスの排出方向を設定することによって、排気ガスを作業者から離れる側に排出することができる。
【0029】
ブレード7は、円形の基板7cの外周付近側面にダイヤ層7aを形成したダイヤモンドカッター(ダイヤモンドホイール)であり、冷却効果を高めるために基板7cの径方向外側にスリット7bが等間隔で複数形成される。ブレード7の側方面の略半分は金属製のホイルガード30により覆われ、切削粉が作業者にあたることを防止する。ホイルガード30はアーム6に固定されるが、ブレード7と同軸に所定角度だけ回転可能なように保持される。ホイルガード30は、角度調整レバー18を回転方向に移動させることによって、例えば
図1のホイルガード30の位置からブレード7の回転と同方向側に約30度、反対方向側に約60度の移動が可能である。尚、ストッパー50、55の大きさ(特に径方向)、取付位置、アーム6の幅を調節することにより、さらに回動角度を大きくすることも可能である。またホイルガード30の左側プレートの径方向中心付近は、ブレード7のホイルワッシャ21aを貫通する取付ボルト(後述)の固定のために、半円形状にくり貫かれている。
【0030】
図2は本発明の実施例に係る携帯型作業機の上面図であり、一部に
図1のA−A部の断面を示す図である。ブレード7を回転可能なように保持するアーム6は、2つのボルト20によってエンジン又はハウジング9に固定される。アーム6の先端には、2組のベアリングを介してスピンドル16が回転可能に保持される。スピンドル16の右側の端部にはプーリー26が設けられ、クラッチハウジング24の端部に設けられたプーリー24aとの間にかけられたベルト27によってクランクシャフト4の回転力が所定の減速比で減速されてスピンドル16に伝達される。
【0031】
スピンドル16の左側の端部にはブレード7が取付ボルト17によって固定される。ブレード7の形状は、円形の基板7cの中心に、取付ボルト17を貫通させるための貫通孔が形成されたものである。ブレード7は、貫通穴の周囲であって左右両方に2枚の円盤状のホイルワッシャ21a、21bにより挟み込まれることで固定される。ホイルワッシャ21a、21bは例えば鉄等の金属製やアルミニウム製のものがある。
【0032】
ブレード7の後側略半分はホイルガード30により側面部及び外周部が覆われる。ホイルガード30は、ブレード7の右側側面を覆う右側プレート31と、ブレード7の左側側面を覆う左側プレート32と、ブレード7の外周部を覆うと共に右側プレート31と左側プレート32を連結する外周連結部33の3つの部材によって主に構成される。右側プレート31、左側プレート32、外周連結部33は、例えば鉄等の金属板をプレス加工して製造することができ、これらをロウ付けまたは溶接により接合する。左側プレート32の円周方向には6箇所の段付き部32a(全体形状は
図1参照)が形成される。段付き部32aは、左側プレート32の表面の一部を凸状または凹状に形成することにより全体の強度を向上させるために形成される。本実施例では、左側プレート32から部分的にブレード7側(左側プレートから見たら内側)に突出させて、左側プレート32の外側(左側)から見た際に凹状に形成したが、これを逆にして左側プレート32の外側(左側)から見た際に凸状に形成しても良い。
【0033】
同様にして右側プレート31の円周方向には6箇所の段付き部31a(全体形状は
図6参照)が形成される。段付き部31aは、右側プレート31の外側(右側)から見た際に凸状に形成すると好ましい。これは段付き部31aに後述するストッパー50、56を取り付けるためである。ここで、図から理解できるようにピストン3は鉛直方向(上下方向)に移動し、クランクシャフト4は左右に延びるように水平に配置され、スピンドル16はクランクシャフト4と平行になるように水平に配置される。このようにスピンドル16とクランクシャフト4の位置関係を設定することでプーリー24a及び26間に渡されたベルト27によってエンジンによる駆動力をスピンドル16に容易に伝達することができる。クランクシャフト4の回転力は、クラッチハウジング24の内部に配置される図示しない遠心クラッチによって接続又は遮断される。
【0034】
図3はホイルガード30の取付構造を示す側面図である。ホイルガード30は、右側プレート31に固定されるフランジ34を介してアーム6に取り付けられる。フランジ34は、径方向の断面形状が略L型の金属製の部材であって、内周壁34aの周方向の複数箇所に凹凸部たる凹部34bが形成されたものである。このフランジ34の右側には右側ゴムダンパ35が装着される。右側ゴムダンパ35は径方向の断面形状が略L字状であって、径方向に所定の面積を有する円環部35aと、円環部35aの内周部から軸方向に延びて円筒形の部分を形成する円筒部35bと、円筒部の外周側であって、周方向に複数設けられた凸部35cにより構成される。凸部35cはフランジ34の凹部34bに対応して形成される凸凹部であって、これらの凹部または凸部の作用によって右側ゴムダンパ35がフランジ34に対して相対的に回転しないように保持される。
【0035】
同様にして、フランジ34の左側には左側ゴムダンパ36が設けられる。右側ゴムダンパ35と左側ゴムダンパ36は同一形状であって、左右方向に反対に配置することによって同一部材を共通に用いることができる。左側ゴムダンパ36は、円環部36aと円筒部36bと凸部36cにより構成される。このようにフランジ34を両側のゴムダンパ部材にて挟み込む
(挟持する
)ことによって
第一の弾性部材(ゴムダンパ)を介してホイルガード30をアーム6に固定できる。また、フランジ34の凹部34bと右側ゴムダンパ35と左側ゴムダンパ36の凸部35c、36cが嵌合することにより、ホイルガード30を回動させた時に右側ゴムダンパ35と左側ゴムダンパ36も同期して移動する。
【0036】
図4は
図1のB−B部の断面図である。尚、
図4では角度調整レバー18の記載は省略している。ホイルガード30はフランジ34、右側プレート31、左側プレート32、外周連結部33を含んで構成され、右側プレート31の段付き部31aには2つのストッパー50、55が取り付けられる。ストッパー50は円柱形の基台部分となるブッシュ(A)51、ブッシュ(B)56の外周部に円環状の円環溝51a、56aが形成され、この円環溝51a、56aにゴム製のOリング等のストッパーリング52、57が装着される。ブッシュ(A)51、ブッシュ(B)56の左側には段差部が設けられてストッパーリング52、57が装着される径部分よりも細い細径部が形成される。細径部は段付き部31aに設けられた貫通穴31cに細径部が挿入された後に溶接53、54がされることによりブッシュ(A)51、ブッシュ(B)56が右側プレート31に強固に固定される。
【0037】
ストッパーリング52、57はゴム等の弾性部材により構成され、ブレード7の回転作業中にホイルガード30が予期せぬ力を受けてアーム6に対して回動してしまった場合に、ストッパーリング52、57のいずれかがアーム6に当接することによってホイルガード30の回転範囲を制限する。ここで図から理解できるように、ストッパーリング52、57のブッシュ(A)51、ブッシュ(B)56の外径よりもストッパーリング52、57の外径の方が大きい。従ってホイルガード30が回転してアーム6に衝突するとストッパー50、55のうちストッパーリング52、57が最初にアーム6に衝突することになる。ストッパーリング52、57はゴム等の弾性部材
(第二の弾性部材)で構成されるために、この衝突の衝撃を効果的に吸収することができる。尚、この衝撃のエネルギーがさらに大きくてストッパーリング52、57による吸収が不十分であるとしても、ストッパーリング52、57の変形後にブッシュ(A)51、ブッシュ(B)56がアーム6と衝突するのでストッパー50、55として十分な回転防止作用を果たすことができる。尚、アーム6は、アームフレーム46と、アームフレーム46の外側から取り付けられてベルト27を覆う樹脂製のアームカバー49により構成されている。ホイルガード30が衝突するアーム6の接触領域の幅(
図4のW1)は、ストッパー50、55のホイルガード30からの右方向への突出長(
図4のW2)よりも大きくなっているため、アームフレーム46より強度の弱いアームカバー49を痛めないようになっている。
【0038】
ストッパー50、55は右側プレート31から凸状にアーム6に対して接近している部分となる段付き部31aに溶接される。このため、ストッパー50、55の長さ(図中の左右方向の長さ)を短くすることができるため、衝突時に右側プレートに加わる曲げモーメントが小さくて済み、ストッパー50、55の溶接53、54、58、59による固定を強固にすることができる。
【0039】
ホイルガード30のアーム6への取付けは、
図3で示したように右側ゴムダンパ35と左側ゴムダンパ36でフランジ34を挟み込み、その両側から金属製の右側リングプレート37と左側リングプレート38によってさらに挟み込む。これらの部材をアーム6を保持するアームフレーム46の段差部分46a(
図5参照)に装着する。その後、プレート保持具42を左側から右側(アーム6側)に取り付けることによってフランジ34を押さえて、取付ボルト43にてネジ止め固定する。断面位置の関係から取付ボルト43は2本しか見えないが、必要に応じて2〜6本程度用いれば安定して固定することができる。取付ボルト43とアームフレーム46の間にはスプリング44を介して、右側ゴムダンパ35と左側ゴムダンパ36に対して適切な締め付け力が働き、必要以上に締め付けない程度に維持されるので、ホイルガード回動時の荷重低減、振動低減を効果的に図ることができる。
【0040】
また、右側ゴムダンパ35とアームフレーム46との間には右側リングプレート37が介在され、左側ゴムダンパ36とプレート保持具42との間には左側リングプレート38が介在されるため、ホイルガード30の回動時に摺動するのはアームフレーム46と右側リングプレート37の間、及び、プレート保持具42と左側リングプレート38との間となるので、フランジ34と右側ゴムダンパ35又は左側ゴムダンパ36との間の摺動による磨耗が効果的に防止できる。同様にして、右側リングプレート37と右側ゴムダンパ35との間の摺動による磨耗、及び、左側リングプレート38と左側ゴムダンパ36との間の摺動による磨耗を防止することができる。
【0041】
図5は
図4のスピンドル付近の拡大断面図である。
図3で示したフランジ34は断面形状が略L字型とされて太い直径部分と細い直径部分が段差によって接続される形状とされる。この細い直径部分と右側プレート31の内径がほぼ同じであって、段差部分に右側プレート31の円形の貫通穴を押し当てて溶接39a、39bによって右側プレート31とフランジ34を固定する。溶接箇所は円周方向に連続させて全周に渡っておこなっても良いし、複数箇所をスポット的に溶接しても良い。また、右側プレート31とフランジ34の固定は溶接だけでなく、ロウ付けや、接着剤による固定でも良いし、その他の公知の固定方法であっても良い。
【0042】
尚、プレート保持具42の外周面と左側ゴムダンパ36の内周面の接触部分(矢印C付近)には金属製のリング等が介在しないので、これらが摺動することになる。しかしながら、左側リングプレート38とプレート保持具42との接触面積にくらべて十分小さいことと、接触面が取付ボルト43の締め付け方向とは垂直方向となるため、この部分の摺動抵抗はあまり問題とならない。
【0043】
次に
図6及び
図7を用いてホイルガード30とアーム6が衝突した時の状態を説明する。
図6は本発明の実施例に係る携帯型作業機の側面図であり、通常の状態を示す図である。ホイルガード30は角度調整レバー18を矢印Cの方向に動かすことによって任意の位置に保持させることができる。角度調整レバー18は取付ネジ19によってホイルガード30の外周側の任意の位置に取り付けられるものである。通常、作業中にホイルガード30が勝手に動かないように、この矢印Dの方向への移動は大きな力が必要なように設定しておくと良い。この状態において、仮にブレード7が高速回転中に破損すると、ホイルガード30には大きな衝撃荷重が加わることでホイルガード30が回動するかもしれない。このホイルガード30が回転してストッパー50とアーム6が衝突した時の状態を示すのが
図7である。
【0044】
図7のようにホイルガード30がE方向に回転してストッパー50とアーム6が衝突した場合、先ずストッパー50の外周面に設けられたストッパーリング52(
図4参照)とアーム6が最初に接触する。この際、ストッパーリング52の材質であるゴムの弾性力で衝撃荷重が大きく低減される。この衝撃荷重が大きい場合には、ゴムの弾性力だけではその荷重を吸収しきれずにストッパー50のブッシュ(A)51(
図4参照)とアーム6が接触することになり、ストッパーリング52にはそれ必要以上の衝撃荷重は加わらない。このように構成したことにより、衝突によるストッパーリング52の破断を効果的に防止することができる。また、ストッパー55のストッパーリング57についても同様の効果を期待することができる。尚、ストッパーリング52、57は、ストッパー50、55がアーム6に接触した状態でブレード7を回転させた場合において、ホイルガード30とアーム6との間での振動の伝達を絶縁するという効果も有している。
【0045】
以上説明したように本発明の実施例によれば、ホイルガード30のアーム6への取付けは、先ず、ゴムダンパとリングプレートでホイルガードのフランジを挟み込み、スプリングとボルトでアームに固定する構成としたので、ホイルガード回動時の荷重低減、振動低減などが図ることができる。また、右側プレートは、左側プレートとフランジとストッパーが溶接されて、このストッパーの凹部にストッパーリングが取り付けられる。フランジは中空円筒形状になっており、その内周部には少なくても1個以上の凹部が形成されており、フランジの凹部とゴムダンパの凸部が嵌合することにより、ホイルガード30を回動させた時にゴムダンパも同期して動くことができる。また、ゴムダンパとアームおよびフランジとの間にはリングプレートが取り付けてあるため、ホイルガード回動時に摺動するのはアームとリングプレート間、フランジとリングプレート間となるため、ゴムダンパの摺動による磨耗を防止することができる。さらに、ストッパーは右側プレートの凸部に溶接されているため、構造上ストッパーの高さを短くすることができ、ストッパーに曲げモーメントが加わりにくく、ストッパーの溶接部を強固にすることができる。