特許第5760663号(P5760663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760663
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】ボルトの締付方法、及びその装置
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   B25B23/14 610H
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-104922(P2011-104922)
(22)【出願日】2011年5月10日
(65)【公開番号】特開2012-236236(P2012-236236A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2014年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110939
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100110940
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋田 高久
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(74)【代理人】
【識別番号】100115059
【弁理士】
【氏名又は名称】今江 克実
(74)【代理人】
【識別番号】100117581
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 克也
(74)【代理人】
【識別番号】100117710
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 智雄
(74)【代理人】
【識別番号】100124671
【弁理士】
【氏名又は名称】関 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100131060
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 靖也
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100131901
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 雅典
(74)【代理人】
【識別番号】100132012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩下 嗣也
(74)【代理人】
【識別番号】100141276
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 康二
(74)【代理人】
【識別番号】100143409
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100157093
【弁理士】
【氏名又は名称】間脇 八蔵
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(74)【代理人】
【識別番号】100163197
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100163588
【弁理士】
【氏名又は名称】岡澤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敏揮
(72)【発明者】
【氏名】戸川 善太
【審査官】 石田 智樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05131130(US,A)
【文献】 特開2009−113132(JP,A)
【文献】 特開2009−083024(JP,A)
【文献】 特開昭63−052976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトの締付中に、該ボルトの締付トルクが予め設定されたスナッグトルクに達した時点からのボルトの締付角度と、該締付角度でのボルトの締付トルクとが、所定の関係を満たしたときに、上記ボルトの締付けを終了する、ボルトの締付方法であって、
上記所定の関係は、上記スナッグトルクからの締付角度及び上記締付トルクを2軸とする二次元直交グラフ上において、上記スナッグトルクからの締付角度が大きいほど上記締付トルクが小さくなる特定線で表され、
上記特定線は、上記二次元直交グラフ上において、上記締付トルクが所定トルクとして一定である締付トルク基準線よりも上記締付トルクが大で、かつ、上記スナッグトルクからの締付角度が所定角度として一定である締付角度基準線よりも上記締付角度が小である第1の領域と、上記締付トルク基準線よりも上記締付トルクが小で、かつ、上記締付角度基準線よりも上記締付角度が大である第2の領域とを通るとともに、上記締付トルク基準線と上記締付角度基準線との交点を通らない直線であり
上記所定トルクは、ボルトの締付トルクを、予め設定された設定トルクになるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定トルクであり、
上記所定角度は、上記スナッグトルクからのボルトの締付角度を、予め設定された設定角度になるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定角度であることを特徴とするボルトの締付方法。
【請求項2】
請求項記載のボルトの締付方法において、
上記二次元直交グラフ上において、上記特定線と上記締付角度基準線との間の鋭角の角度が、22.5°以上67.5°以下の範囲内にあることを特徴とするボルトの締付方法。
【請求項3】
ボルトを締め付けるための締付用部材を回転させるモータと、該締付用部材の回転により締め付けられるボルトの締付角度を検出する締付角度検出手段と、該ボルトの締付トルクを検出する締付トルク検出手段と、該締付角度検出手段及び締付トルク検出手段による検出情報を入力しかつ上記モータの駆動及び停止を制御するとともに、該モータの駆動によるボルトの締付中に、該ボルトの締付トルクが予め設定されたスナッグトルクに達した時点からのボルトの締付角度と、該締付角度でのボルトの締付トルクとが、所定の関係を満たしたときに、上記モータを停止させるコントローラとを備えたボルトの締付装置であって、
上記所定の関係は、上記スナッグトルクからの締付角度及び上記締付トルクを2軸とする二次元直交グラフ上において、上記スナッグトルクからの締付角度が大きいほど上記締付トルクが小さくなる特定線で表され、
上記特定線は、上記二次元直交グラフ上において、上記締付トルクが所定トルクとして一定である締付トルク基準線よりも上記締付トルクが大で、かつ、上記スナッグトルクからの締付角度が所定角度として一定である締付角度基準線よりも上記締付角度が小である第1の領域と、上記締付トルク基準線よりも上記締付トルクが小で、かつ、上記締付角度基準線よりも上記締付角度が大である第2の領域とを通るとともに、上記締付トルク基準線と上記締付角度基準線との交点を通らない直線であり
上記所定トルクは、ボルトの締付トルクを、予め設定された設定トルクになるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定トルクであり、
上記所定角度は、上記スナッグトルクからのボルトの締付角度を、予め設定された設定角度になるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定角度であることを特徴とするボルトの締付装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルトの締付管理を行うためのボルトの締付方法及びその装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、機械部品を組み付ける際、ボルトの締付によってその部品の長期的な耐久信頼性を確保することが求められる。そのため、ボルト締付の管理が行われている。この管理手法としては、ボルトの締付トルクを、予め設定された設定トルクになるようにボルトの締付管理を行う手法(本明細書では、トルク法という)や、ボルトの締付トルクが予め設定されたスナッグトルクに達した時点からのボルトの締付角度を、予め設定された設定角度になるようにボルトの締付管理を行う手法(本明細書では、角度法という)、ボルトの締付中に、該ボルトの締付トルクが予め設定されたスナッグトルクに達した以降に、締付角度増分に対する締付トルク増分であるトルク勾配を算出し、ボルトの締付角度及び締付トルクを2軸とする二次元直交グラフ上において、該トルク勾配の傾き線とトルク値が0である線との交点を理論着座点とし、該理論着座点からのボルトの締付角度を、予め設定された設定角度になるようにボルトの締付管理を行う手法(本明細書では、トルクテンション法という)等が知られている。これらの手法をベースにした種々の手法も提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−272512号公報
【特許文献2】特開2009−083025号公報
【特許文献3】特開2009−083026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記トルク法等のようなボルトの締付管理手法では、ボルトの締付時のねじ面及び座面の摩擦係数の大小によって、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルクのうちの一方のばらつき量が大きくなり、このため、該締付角度又は締付トルクが、正常な締付状態として管理している角度管理範囲又はトルク管理範囲を超える場合が生じる。また、上記特許文献1〜3のような手法では、ばらつき量が改善されるものの、複雑な手法であり、簡便な方法で管理できるようにするためには改善の余地がある。
【0005】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡便でありながら、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルク双方のばらつきを抑えることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明では、ボルトの締付中に、該ボルトの締付トルクが予め設定されたスナッグトルクに達した時点からのボルトの締付角度と、該締付角度でのボルトの締付トルクとが、所定の関係を満たしたときに、上記ボルトの締付けを終了する、ボルトの締付方法を対象として、上記所定の関係は、上記スナッグトルクからの締付角度及び上記締付トルクを2軸とする二次元直交グラフ上において、上記スナッグトルクからの締付角度が大きいほど上記締付トルクが小さくなる特定線で表され、上記特定線は、上記二次元直交グラフ上において、上記締付トルクが所定トルクとして一定である締付トルク基準線よりも上記締付トルクが大で、かつ、上記スナッグトルクからの締付角度が所定角度として一定である締付角度基準線よりも上記締付角度が小である第1の領域と、上記締付トルク基準線よりも上記締付トルクが小で、かつ、上記締付角度基準線よりも上記締付角度が大である第2の領域とを通るとともに、上記締付トルク基準線と上記締付角度基準線との交点を通らない直線であり、上記所定トルクは、ボルトの締付トルクを、予め設定された設定トルクになるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定トルクであり、上記所定角度は、上記スナッグトルクからのボルトの締付角度を、予め設定された設定角度になるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定角度である、とした。
【0007】
すなわち、トルク法では、ボルト締付終了時における締付トルクは、二次元直交グラフ上の締付トルク基準線上に位置して略一定になるものの、ボルトの締付時のねじ面及び座面の摩擦係数の大小によって、ボルト締付終了時におけるスナッグトルクからの締付角度(以下、スナッグトルクからの締付角度を、単に締付角度という)がばらつく。つまり、ボルト締付終了時における締付角度は、二次元直交グラフ上において、締付トルク基準線上における摩擦係数最大線(上記摩擦係数が最大である場合の、締付角度と締付トルクとの関係を示す線であって、締付角度が大きいほど締付トルクが大きくなる直線となる)と摩擦係数最小線(上記摩擦係数が最小である場合の、締付角度と締付トルクとの関係を示す線であって、締付角度が大きいほど締付トルクが大きくなる直線(摩擦係数最大線とは傾きが異なる)となる)との間でばらつく。このばらつき量は比較的大きくて、通常、正常な締付状態として管理している角度管理範囲よりも大きくなる。一方、角度法では、ボルト締付終了時における締付角度は、二次元直交グラフ上の締付角度基準線上に位置して略一定になるものの、上記摩擦係数の大小によって、ボルト締付終了時における締付トルクがばらつく。つまり、ボルト締付終了時における締付トルクは、二次元直交グラフ上において、締付角度基準線上における摩擦係数最大線と摩擦係数最小線との間でばらつく。このばらつき量は比較的大きくて、通常、正常な締付状態として管理しているトルク管理範囲よりも大きくなる。
【0008】
これに対して、本発明では、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルクは、二次元直交グラフ上の特定線上における摩擦係数最大線と摩擦係数最小線との間でばらつく。上記特定線は、締付角度が大きいほど締付トルクが小さくなるので、特定線と摩擦係数最大線との交点及び特定線と摩擦係数最小線との交点間の、締付角度の軸に沿った距離は、締付トルク基準線と摩擦係数最大線との交点及び締付トルク基準線と摩擦係数最小線との交点間の距離よりも短くなる。また、特定線と摩擦係数最大線との交点及び特定線と摩擦係数最小線との交点間の、締付トルクの軸に沿った距離は、締付角度基準線と摩擦係数最大線との交点及び締付トルク基準線と摩擦係数最小線との交点間の距離よりも短くなる。
【0009】
したがって、本発明では、上記摩擦係数がばらついても、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルク双方のばらつきを小さくすることができ、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルクを、それぞれ角度管理範囲内及びトルク管理範囲内に入るようにすることができる。また、ボルトの締付中に、ボルトの締付角度と、該締付角度でのボルトの締付トルクとが、所定の関係を満たしたとき(特定線上に位置したとき)にモータを停止させるという簡便な手法で、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルク双方のばらつきを抑えることができる。
【0010】
本発明の一実施形態によれば、上記二次元直交グラフ上において、上記特定線と上記締付角度基準線との間の鋭角の角度が、22.5°以上67.5°以下の範囲内にある。
【0011】
このことで、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルクを、それぞれ角度管理範囲内及びトルク管理範囲内により一層入り易くすることができる。
【0012】
本発明の別の態様は、ボルトを締め付けるための締付用部材を回転させるモータと、該締付用部材の回転により締め付けられるボルトの締付角度を検出する締付角度検出手段と、該ボルトの締付トルクを検出する締付トルク検出手段と、該締付角度検出手段及び締付トルク検出手段による検出情報を入力しかつ上記モータの駆動及び停止を制御するとともに、該モータの駆動によるボルトの締付中に、該ボルトの締付トルクが予め設定されたスナッグトルクに達した時点からのボルトの締付角度と、該締付角度でのボルトの締付トルクとが、所定の関係を満たしたときに、上記モータを停止させるコントローラとを備えたボルトの締付装置の発明であり、この発明では、上記所定の関係は、上記スナッグトルクからの締付角度及び上記締付トルクを2軸とする二次元直交グラフ上において、上記スナッグトルクからの締付角度が大きいほど上記締付トルクが小さくなる特定線で表され、上記特定線は、上記二次元直交グラフ上において、上記締付トルクが所定トルクとして一定である締付トルク基準線よりも上記締付トルクが大で、かつ、上記スナッグトルクからの締付角度が所定角度として一定である締付角度基準線よりも上記締付角度が小である第1の領域と、上記締付トルク基準線よりも上記締付トルクが小で、かつ、上記締付角度基準線よりも上記締付角度が大である第2の領域とを通るとともに、上記締付トルク基準線と上記締付角度基準線との交点を通らない直線であり、上記所定トルクは、ボルトの締付トルクを、予め設定された設定トルクになるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定トルクであり、上記所定角度は、上記スナッグトルクからのボルトの締付角度を、予め設定された設定角度になるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定角度であるものとする。
【0013】
この発明により、上記ボルトの締付方法と同様に、簡便でありながら、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルク双方のばらつきを抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によると、ボルトの締付中に、ボルトの締付角度(スナッグトルクからの締付角度)と、該締付角度でのボルトの締付トルクとが、所定の関係を満たしたとき(締付トルク基準線と締付角度基準線との交点を通らない直線である特定線上に位置したとき)にモータを停止させるようにしたので、簡単な方法で、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルク双方のばらつきを抑えることができ、そのボルトにより締結される部品の長期的な耐久信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るボルト締付装置を示す側面図である。
図2】スナッグトルクからのボルトの締付角度を横軸とし、ボルトの締付トルクを縦軸とする二次元直交グラフ(参考形態)である。
図3】特定線における摩擦係数最大線との交点及び摩擦係数最小線との交点間の部分と管理範囲との関係を示す図2相当のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るボルト締付装置1を示す。このボルト締付装置1は、ボルトを締め付けるための締付用部材としてのソケット2と、該ソケット2を減速ギヤ(図示せず)を介して回転させるモータ(図示せず)とを備えている。上記ソケット2は、その先端面に、ボルトの頭部外周面、又は、ボルトのねじ部に螺号するナットの外周面に嵌合する凹部(図示せず)を有していて、該嵌合状態で回転することで、ボルトを締め付ける。
【0018】
上記ボルトにより締結される部品は、どのようなものであってもよいが、特に、長期的な耐久信頼性を確保する必要がある機械部品(例えば自動車の走行系の部品(アクスル部品等))である場合に、上記ボルト締付装置1による締付方法が有効になる。
【0019】
上記モータ及び減速ギヤは、本体ケース3のモータ部3a及びギヤ部3bにそれぞれ収容されており、ギヤ部3bがモータ部3aよりもソケット2に近い側に位置する。
【0020】
本体ケース3のギヤ部3bとは反対側には、ソケット2の回転により締め付けられるボルトの締付角度を検出する締付角度検出手段としてのレゾルバ5が配設されている。また、減速ギヤ(本体ケース3のギヤ部3b)とソケット2との間には、ソケット2の回転により締め付けられるボルトの締付トルクを検出する締付トルク検出手段としてのトルクトランスデューサ6が配設されている。
【0021】
上記ボルト締付装置1は、上記レゾルバ5及びトルクトランスデューサ6による検出情報を入力するコントローラ8を更に備えている。このコントローラ8は、周知のマイクロコンピュータをベースとするものであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラムおよびデータを格納するメモリと、種々の信号の入出力を行うための入出力(I/O)バスとを含む。
【0022】
コントローラ8には、上記モータの駆動及び停止を制御するモータ制御部8aと、予め設定した後述の特定線L1や、予め設定したスナッグトルクTsの値等を格納記憶した格納部8bとが設けられている。そして、コントローラ8のモータ制御部8aは、作業者の不図示の操作スイッチの操作により上記モータを駆動させ、該モータの駆動によるボルトの締付中に、該ボルトの締付トルクが上記スナッグトルクTsに達した時点からのボルトの締付角度θと、該締付角度θでのボルトの締付トルクTとが、所定の関係を満たしたときに、上記モータを停止させる。
【0023】
上記所定の関係は、図2に示すように、上記スナッグトルクTsからの締付角度θ及び上記締付トルクTを2軸とする(図2では、締付角度θを横軸とし、締付トルクTを縦軸としている)二次元直交グラフ上において、上記締付角度θが大きいほど上記締付トルクTが小さくなる特定線L1で表される。ここで、特定線L1は、参考形態として示す。
【0024】
上記特定線L1は、上記二次元直交グラフ上において、上記締付トルクTが所定トルクT1として一定である締付トルク基準線L2よりも上記締付トルクTが大で、かつ、上記スナッグトルクTsからの締付角度θが所定角度θ1として一定である締付角度基準線L3よりも上記締付角度θが小である第1の領域Aと、上記締付トルク基準線L2よりも上記締付トルクTが小で、かつ、上記締付角度基準線L3よりも上記締付角度θが大である第2の領域Bとを通る線である。
【0025】
参考形態では、上記特定線L1は、上記二次元直交グラフ上において、上記締付トルク基準線L2と上記締付角度基準線L3との交点P1を通る直線であり、上記特定線L1と上記締付角度基準線L3との間の鋭角の角度αが、22.5°以上67.5°以下の範囲内にある。尚、図2では、α=45°として、特定線L1が第1の領域A及び第2の領域Bをそれぞれ2等分している。
【0026】
上記所定トルクT1は、ボルトの締付トルクを、予め設定された設定トルクになるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定トルクである。すなわち、上記所定トルクT1は、ボルト締付管理をトルク法により行う場合の目標トルクである。このトルク法では、ボルト締付終了時における締付トルクは、締付トルク基準線L2上に位置して略一定になるものの、ボルトの締付時のねじ面及び座面の摩擦係数の大小によって、ボルト締付終了時における締付角度(つまりボルト締付軸力)は、締付トルク基準線L2上における摩擦係数最大線U1と摩擦係数最小線U2との間(締付トルク基準線L2と摩擦係数最大線U1との交点P4及び締付トルク基準線L2と摩擦係数最小線U2と交点P5の間)でばらつくことになる。この締付角度のばらつき量は、通常、正常な締付状態として管理している角度管理範囲(図3参照)よりも大きく、このため、ボルト締付終了時における上記締付角度が角度管理範囲を超える場合が生じ、このように角度管理範囲を超えたものは不良品となる。
【0027】
ここで、上記摩擦係数最大線U1は、ボルトの締付時において、上記摩擦係数が最大である場合の、スナッグトルクからの締付角度と締付トルクとの関係を示す線であって、該締付角度が大きいほど締付トルクが大きくなる直線となる。また、上記摩擦係数最小線U2は、ボルトの締付時において、上記摩擦係数が最小である場合の、スナッグトルクからの締付角度と締付トルクとの関係を示す線であって、該締付角度が大きいほど締付トルクが大きくなる直線となるとともに、スナッグトルクからの締付角度を横軸とした場合、摩擦係数最小線U2の傾きが摩擦係数最大線U1よりも小さくなる。
【0028】
上記所定角度θ1は、上記スナッグトルクTsからのボルトの締付角度θを、予め設定された設定角度になるようにボルトの締付管理を行う場合の該設定角度である。すなわち、上記所定角度θ1は、ボルトの締付管理を角度法により行う場合の目標角度である。この角度法においては、ボルト締付終了時におけるスナッグトルクTsからの締付角度θは、締付角度基準線L3上に位置して略一定になるものの、上記摩擦係数の大小によって、ボルト締付終了時における締付トルクは、締付角度基準線L3上における上記摩擦係数最大線U1と上記摩擦係数最小線U2との間(締付角度基準線L3と摩擦係数最大線U1との交点P6及び締付角度基準線L3と摩擦係数最小線U2との交点P7の間)でばらつくことになる。この締付トルクのばらつき量は、通常、正常な締付状態として管理しているトルク管理範囲(図3参照)よりも大きく、このため、ボルト締付終了時における締付トルクがトルク管理範囲を超える場合が生じ、このようにトルク管理範囲を超えたものは不良品となる。
【0029】
参考形態では、ボルトの締付中に、スナッグトルクTsからのボルトの締付角度θと、該締付角度θでのボルトの締付トルクTとが、所定の関係を満たしたとき、つまり、上記二次元直交グラフ上において上記締付角度θ及び上記締付トルクT(座標)が上記特定線L1上に位置したときに、モータを停止させる。これにより、ボルト締付終了時における上記スナッグトルクTsからの締付角度θ及び上記締付トルクTは、上記特定線L1上における摩擦係数最大線U1と摩擦係数最小線U2との間(特定線L1と摩擦係数最大線U1との交点P2及び特定線L1と摩擦係数最小線U2との交点P3の間)でばらつく。ここで、特定線L1と摩擦係数最大線U1との交点P2及び特定線L1と摩擦係数最小線U2との交点P3間の、締付角度の軸(横軸)に沿った距離は、締付トルク基準線L2と摩擦係数最大線U1との交点P4及び締付トルク基準線L2と摩擦係数最小線U2との交点P5間の距離よりも短くなる。また、特定線L1と摩擦係数最大線U1との交点P2及び特定線L1と摩擦係数最小線U2との交点P3間の、締付トルクの軸(縦軸)に沿った距離は、締付角度基準線L3と摩擦係数最大線U1との交点P6及び締付トルク基準線L3と摩擦係数最小線U2との交点P7間の距離よりも短くなる。この結果、ボルト締付終了時における締付角度のばらつき量を、トルク法によりボルトの締付管理を行う場合の締付角度のばらつき量よりも小さくすることができるとともに、ボルト締付終了時における締付トルクのばらつき量を、角度法によりボルトの締付管理を行う場合の締付トルクのばらつき量よりも小さくすることができる。
【0030】
したがって、上記摩擦係数がばらついても、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルク双方のばらつき量が小さくなり、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルクが、それぞれ角度管理範囲内及びトルク管理範囲内に入り易くなる。
【0031】
ここで、図3に示すように、上記二次元直交グラフ上に、上記角度管理範囲の最小値及び最大値をそれぞれ通る、締付角度が一定である2つの直線と、上記トルク管理範囲の最小値及び最大値をそれぞれ通る、締付トルクが一定である2つの直線とで囲まれた四角形の管理範囲Sを設定する。特定線L1における摩擦係数最大線U1との交点P2及び摩擦係数最小線U2との交点P3間の部分が、上記管理範囲S内に入るように、上記角度αを設定すれば、上記摩擦係数がばらついても、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルクが、それぞれ角度管理範囲内及びトルク管理範囲内に入ることになる。上記角度αを22.5°以上67.5°以下に設定すれば、特定線L1における摩擦係数最大線U1との交点P2及び摩擦係数最小線U2との交点P3間の部分が、一般的に設定される管理範囲S内に十分に入る。
【0032】
したがって、本参考形態では、ボルトの締付中に、スナッグトルクからのボルトの締付角度と、該締付角度でのボルトの締付トルクとが、所定の関係を満たしたとき(特定線L1上に位置したとき)にモータを停止させるという簡便な手法で、ボルト締付終了時における締付角度及び締付トルク双方のばらつきを抑えることができるようになる。
【0033】
ここで、本発明の実施形態に係る特定線L1′について説明する。
【0034】
上記参考形態では、特定線L1を、締付トルク基準線L2と締付角度基準線L3との交点P1を通る直線としたが、例えば、図3において破線で示すように、特定線L1′を、上記管理範囲Sの対角線(締付角度が角度管理範囲の最小値でかつ締付トルクがトルク管理範囲の最大値である点Q1と、締付角度が角度管理範囲の最大値でかつ締付トルクがトルク管理範囲の最小値である点Q2とを結ぶ線)として設定する。この場合、特定線L1′は、締付トルク基準線L2と締付角度基準線L3との交点P1と管理範囲Sとの位置関係で、交点P1を通らない。このように交点P1を通らなくても、特定線L1′における摩擦係数最大線U1との交点P2′及び摩擦係数最小線U2との交点P3′間の部分が、管理範囲S内にあれば問題はない。
【0035】
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0036】
例えば、上記角度αが22.5°以上67.5°以下の範囲内にある必要は必ずしもなく、管理範囲Sの角度管理範囲とトルク管理範囲との大きさの関係によっては、その角度範囲外であってもよい。尚、上記特定線L1′についての上記角度αは、角度管理範囲とトルク管理範囲との大きさの関係で決まる
【0037】
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、ボルトの締付管理を行うためのボルトの締付方法及びその装置に有用であり、特に、長期的な耐久信頼性を確保する必要がある機械部品を締結するためのボルトの締付に適用する場合に有用である。
【符号の説明】
【0039】
1 ボルト締付装置
2 ソケット(締付用部材)
5 レゾルバ(締付角度検出手段)
6 トルクトランスデューサ(締付トルク検出手段)
8 コントローラ
L1 特定線
L1′ 特定線
L2 締付トルク基準線
L3 締付角度基準線
図1
図2
図3