(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)二官能熱硬化性シリコーン樹脂、(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂、及び(C)硬化触媒を含有してなるシリコーン系封止材組成物であって、以下の特徴を有するシリコーン系封止材組成物。
1)(A)と(B)との合計量中に(B)が占める比率、(B)/((A)+(B))(重量比)の値が、0.5/100以上、100/100未満
2)(B)成分の官能数が2.5以上4.0以下
3)(B)成分の重量平均分子量が1000〜10000
4)80℃において、(A)と(B)とは相溶せず、かつ当該温度での(B)の密度が(A)の密度よりも0.01g/cm3以上高い
(C)が金属成分としてスズ(Sn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ビスマス(Bi)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)及びガリウム(Ga)からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の有機錯体又は有機酸塩である
(A)と(B)との合計量中に(B)が占める比率、(B)/((A)+(B))(重量比)が1/100以上、50/100以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーン系封止材組成物。
(C)硬化触媒の含有量が、(A)と(B)との合計量に対して、0.01〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリコーン系封止材組成物。
さらに(D)重量平均分子量が300〜800の多官能ポリオルガノシロキサンを、(A)と(B)との合計量に対して0.05〜1重量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリコーン系封止材組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、特定のシリコーン系封止材組成物及び、この封止材組成物によって封止された半導体発光装置に関するものである。
以下、本発明について、シリコーン系封止材組成物及び半導体発光装置の具体的な態様について詳述するが、本発明はこれらの説明により限定されるものではない。
<1.組成物の構成成分>
本発明の半導体発光デバイス用シリコーン系封止材組成物は、(A)二官能熱硬化性シリコーン樹脂、(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂、及び(C)硬化触媒を必須成分とし、好ましくは、更に(D)重量平均分子量が300〜800の反応性ポリオルガノシロキサンを含んでなるシリコーン系封止材組成物であって、それぞれが特定の組成比及び特徴を有するものである。
【0012】
以下、本発明に用いられる各構成成分について説明する。
1.1 (A)二官能熱硬化性シリコーン樹脂
本発明に用いられる(A)二官能熱硬化性シリコーン樹脂とは、シロキサン結合を主鎖とする有機性重合体であり、以下に示す一般組成式(1)で表される化合物の平均官能数が、約2になるものを言う。
(R
1R
2R
3SiO
1/2)
M(R
4R
5SiO
2/2)
D(R
6SiO
3/2)
T(SiO
4/2)
Q ・・・(1)
但し、R
1からR
6はそれぞれ独立して、アルキル基やフェニル基等の炭化水素基である。また、これらR
1からR
6の部位がハロゲン原子やアルカリ金属原子により置換されることもあるが、このような場合、これらの原子はR
1からR
6には相当せず、上記式(1)においては酸素原子と見なしてカウントされる。
【0013】
M、D、TおよびQは0以上1未満であり、M+D+T+Q=1を満足する数である。 上記式(1)で表されるポリオルガノシロキサンを構成する単位は、1官能型[R
3SiO
0.5](トリオルガノシルヘミオキサン)、2官能型[R
2SiO](ジオルガノシロキサン)、3官能型[RSiO
1.5](オルガノシルセスキオキサン)、4官能型[SiO
2](シリケート)(但し、この記載ではR
1からR
6を、簡略化のためRとまとめて示している)であり、これら4種の単位の構成比率によって、ポリオルガノシロキサンとしての官能数が定まる。
【0014】
即ち、上記式(1)のポリオルガノシロキサンの官能数は下記式(2)によって算出できる。
官能数=(2×D+3×T+4×Q)/(D+T+Q) ・・・ (2)
なお、典型的な二官能熱硬化性シリコーン樹脂は、上記式(1)で全てが(R
4R
5SiO
2/2)の構成単位、即ち、ジオルガノシロキサン構造(−O−Si(R
4)(R
5)−O−)のみからなるポリオルガノシロキサンであり、この場合の官能数は2.0である。
【0015】
本発明においては、上記の通りこのような典型的な二官能熱硬化性シリコーン樹脂だけでなく、平均の官能数が約2となるような熱硬化性シリコーン樹脂を特に制限なく用いることができる。
このような二官能熱硬化性シリコーン樹脂の具体例としては、U111、U113D、U211、U213D、S111、S113D、S211、S213D、N111、N113D、N211、N213D(以上三菱化学(株)製)、YF3800、XF3905、YF3057、YF3807、YF3802、YF3897、XC96−723、YF3804(以上モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、X−21−5841、KF9701(以上信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0016】
1.2 (B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂
本発明において用いる(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂とは、上記式(1)において、官能数が約3以上の熱硬化性シリコーン樹脂である。好ましい官能数は2.5以上4.0未満、より好ましくは2.8以上3.5以下である。
官能数が上記範囲にあることにより、加熱硬化時にシリコーン樹脂中に緊密な架橋構造が形成され、水分やイオウ類の透過性が低い、ガスバリア性に優れた硬化樹脂が形成できる。
官能数が2.5未満では、ガスバリア性が十分高くならず、また4.0では効果反応の制御性が悪くなり、均一な架橋構造が形成しにくくなり、結果的にガスバリア性が不十分になることがある。
【0017】
また、(B)成分としては、重量平均分子量が1000〜10000の範囲にあるものを用いる。重量平均分子量が1000未満では、(B)成分の連鎖長が短くなるため架橋の均一性が不十分となりやすく、ガスバリア性向上効果が十分得られない。一方10000を超過する場合は、硬化反応性が低下したり、溶融性が低くなって硬化反応が不十分となったり、分子鎖が長くなることで架橋点間距離が長くなりガスバリア性が低下することがある
このような多官能熱硬化性シリコーン樹脂の具体例としては、KR220L、KR242A、KR−271、KR−282、KR−300、KR311(以上信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0018】
1.3 (C)硬化触媒
本発明において(C)硬化触媒は、上記(A)二官能熱硬化性シリコーン樹脂と(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂との混合物を脱水・脱アルコール縮合反応させることによる架橋促進のために用いられる。
【0019】
好ましい触媒としては、金属成分としてスズ(Sn)、亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ビスマス(Bi)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、アルミニウム(Al)、ホウ素(B)及びガリウム(Ga)からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属の有機錯体又は有機酸塩のような有機金属化合物触媒が挙げられる。
【0020】
これらの中でもSn、Ti、Zn、Zr、Hf、Gaは、反応活性が高い点で好ましく、発光デバイスに用いる場合に電極腐食や光吸収が少なく適度な触媒活性を有し、ポリシロキサン鎖の不要な切断劣化が起こりにくいZrやHf、Gaが特に好ましい。
スズ(Sn)を含有する有機金属化合物触媒としては、テトラアルキルスズ、ジアルキルスズオキサイド、ジアルキルスズジカーボネート等(但しアルキル基やカルボン酸の炭素原子数は1〜10が好ましい)が挙げられる。
【0021】
チタン(Ti)を含有する有機金属化合物触媒としては、テトラアルコキシチタン又はそのオリゴマー(アルキル基の炭素原子数は3〜8が好ましい)や、チタンアセチルアセトナート等が挙げられる。
亜鉛(Zn)を含有する有機金属化合物触媒としては、亜鉛トリアセチルアセトネート、ステアリン酸亜鉛、ビス(アセチルアセトナト)亜鉛(II)(一水和物)等が挙げられる。
【0022】
ジルコニウム(Zr)を含有する有機金属化合物触媒としては、例えば、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシジアセチルアセトネート、ジルコニウムテトラアルコキシド(アルキル基の炭素原子数は3〜8が好ましい)、ジルコニル(2−エチルヘキサノエート)、及びジルコニウム(2−エチルヘキサノエート)などが挙げられる。
【0023】
ハフニウム(Hf)を含有する有機金属化合物触媒としては、前記ジルコニウムと同様の形態の化合物が挙げられる。
ガリウム(Ga)を含有する有機金属化合物触媒としては、例えばガリウムトリアセチルアセトネート、ガリウムトリアルコキシド(アルキル基の炭素原子数は2〜8が好ましい)、ガリウムオクトエート、ガリウムラウレート、酢酸ガリウムなどを挙げることが出来る。
【0024】
本発明において硬化触媒は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。また反応促進剤や反応抑制剤と併用してもよい。
硬化触媒の含有量は、(A)と(B)との合計量に対して、0.01〜0.5重量%(金属原子換算)であることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.2重量%である。
硬化触媒の含有量が0.01重量%未満のように少量の場合は、硬化反応が遅くなり、硬化が所望の時間内に完了しないことがあり、一方、0.5重量%を超えて多量に用いると、縮合反応である硬化反応により発生する水やアルコールによる発泡が顕著になって良好な封止が行えなかったり、触媒の光吸収により封止材層の光透過率が低下したり、硬化後の樹脂の熱収縮が顕著になり封止材層がパッケージから剥離したりすることがある。
なお、硬化触媒の含有量は、その金属成分のICP分析により測定できる。
【0025】
1.4 (D)重量平均分子量が300〜800の多官能ポリオルガノシロキサン
本発明のシリコーン系封止材組成物には、上記(A)〜(C)の必須成分に加えて、(D)重量平均分子量が300〜800の多官能ポリオルガノシロキサンを含有させることが好ましい。このような多官能ポリオルガノシロキサンは、上記(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂よりも重量平均分子量が低く、常温で液状であるため、組成物の取扱い性が改良されるとともに、加熱硬化反応時には、(B)とともに架橋反応に関与して、より緻密な架橋構造を形成し、得られる封止材層のガスバリア性向上に有効である。
【0026】
このような(D)の含有量は、上記(A)と(B)との合計量に対して0.05〜1重量%とすることが好ましく、より好ましい含有量は0.1〜0.8重量%である。
含有量が0.05%未満では、(D)を含有させることによるガスバリア性向上効果が不十分となり、一方1重量%を超えて多量に添加すると、硬化反応時の低分子成分(水、アルコール等)の生成による発泡が著しくなり、封止材層の透明度が低下して光線透過率が低下する恐れがある。
【0027】
(D)成分として使用できる多官能ポリオルガノシロキサンの具体例としては、信越化学工業(株)製KC−89S、KF−351A、KF353、KF6011、X−22−2516、KF410、FL−5、X−22−821、X−22−822、FL−100−100cs、KF−4003、KF−4917、KF−96、KF−50等が挙げられる。
【0028】
1.5 その他の成分
本願発明のシリコーン系封止材組成物には、その目的や効果を阻害しない範囲で、上記各成分以外に、例えば粘度、硬化速度、硬化物の硬度、触媒の溶解性向上、取扱い性の向上などの性状の調整や、硬化後に得られる封止材の光学特性、機械的特性、物理化学的特性を改良することを目的として、無機粒子、硬化速度調整剤、及び液状媒体等の添加物を含有させてもよい。
【0029】
無機粒子としては、封止材組成物の粘度を調整したり、得られる封止材層の光散乱性、屈折率、寸法安定性、機械的強度を改良したりする目的で、例えば、シリカ、チタニア、アルミナや窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機粒子を用いることができる。
無機粒子の平均粒径は、その添加目的に応じて適宜選択されるが、一般に1nm〜100μmの範囲から選ばれることが多い。
【0030】
無機粒子の使用量も添加目的に応じて調整すればよいが、通常、(A)と(B)との合計重量に対して0.01〜10重量%程度が用いられる。
硬化速度調整剤は、硬化反応時の過度の発泡を制御するために、その速度を調整(遅延)させるために用いられ、例えば3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブチン、3−ヒドロキシ−3−フェニル−1−ブチン等の脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、有機イオウ化合物、窒素含有化合物、有機過酸化物等が挙げられ、これらを併用してもかまわない。
【0031】
硬化速度調整剤は、その目的とする調整の度合いに応じて必要量を添加すればよいが、例えば、使用する(C)硬化触媒1モルに対して、0.1〜100モル程度添加することが好ましく、より好ましくは1〜50モル程度である。
硬化速度調整剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のシリコーン系封止材組成物には、用いる(A)または(B)のシリコーン樹脂や触媒の溶解性向上、組成物の粘度、硬化速度、或いは硬化物の硬度などの調整のために上記各成分以外の液状媒体を添加してもよい。
【0032】
このような液状媒体としては、水酸基やヒドロシリル基を有しない脂肪族系炭化水素などの有機溶剤やシリコーンオイルなどを使用することができる。
前記液状媒体の使用量は、シリコーン系封止材組成物の使用形態に応じて適宜選択すればよいが、揮発性の有機溶剤を用いる場合は、その使用量に注意が必要である。これについては、別項(3.)で説明する。
【0033】
また後述するように、蛍光体をこの組成物中に添加して、半導体発光装置とした時に、半導体発光素子から射出される励起光を蛍光に変換する機能を有する封止材層とすることもできる。このような目的で用いる蛍光体は、半導体発光素子の励起光の波長に応じて適宜選択される。
【0034】
例えば、白色光を発する発光装置であれば、青色励起光を発する半導体発光素子を用いて黄色の蛍光体を封止材組成物に含ませるか、又は緑色及び赤色の蛍光体を封止材組成物に含ませることで、あるいは、紫色励起光を発する半導体発光素子を用いて青色及び黄色の蛍光体を封止材組成物に含ませるか、又は青色、緑色、及び赤色の蛍光体を封止材組成物に含ませることで白色光を生成することができる。
【0035】
<2.構成成分の組成、特性>
2.1 (A)と(B)との合計量中に(B)が占める比率
本発明の半導体発光デバイス用シリコーン系封止材組成物においては、上記(A)二官能熱硬化性シリコーン樹脂と(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂との合計量中に(B)が占める比率、即ち「(B)/((A)+(B))」の値はその重量比として、0.5/100以上、100/100未満である。
【0036】
(B)の含有量が0.5/100未満ではガスバリア性が不十分となり、リード電極の光沢保持性が低下する傾向となる。一方(B)成分が100%になると、硬化速度が著しく速くなり、硬化反応の制御性が低下するとともに、硬化後の硬度が高くなり、封止材が割れたり剥離しやすくなったりし、また硬化時の発泡が多くなって封止材層の光透過率が低下し、或いは成形時の収縮が顕著となる恐れがある。
【0037】
この(B)に比べ(A)二官能熱硬化性シリコーン樹脂は収縮が少なく応力緩和しやすいので、(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂と併用することで、硬化収縮による応力が緩和されて剥離を防ぐ効果が発現すると考えられる。
封止材の剥離性と成形時の発泡のバランスを考慮すると、より好ましい重量比は、1/100以上、50/100以下、更に好ましくは3/100以上15/100以下、特に好ましいのは5/100以上、10/100以下である。
【0038】
2.2 (A)及び(B)の性状
本発明に用いるシリコーン樹脂である(A)及び(B)は、それぞれ上記の特性を有する他に、硬化が進行する状態の温度である80℃において、(A)と(B)とが相溶しないことと、当該温度(80℃)における、(B)の密度が(A)の密度よりも0.01g/cm
3以上高いことが必要である。
【0039】
本発明の封止材組成物では、上記2種類のシリコーン樹脂を使用し、(B)である架橋反応性の多官能シリコーン樹脂が、硬化過程で(A)と相溶性がないために、溶融した系内で両者が相分離することとなる。しかも硬化温度に近い80℃の条件で(B)の密度が(A)よりも0.01g/cm
3以上高いことより、主に(B)成分が液化した封止材組成物中で沈降して底部のリード電極付近に集まり、そこで高度の架橋反応を起こすことで、リード電極の表面をガスバリア性の高い層で覆うこととなるため、水分やイオウ含有化合物等のイオウ類がリード電極に接近することを防ぐことができる。
【0040】
これによって本願発明の光沢維持効果が得られるものと考えられる。
ここで、(A)と(B)とが相溶しない、とは、例えば等量の(A)及び(B)を混合して、80℃に温度を調整したところで、その混合液を撹拌した時に、両者が一つの均一相を形成することなく、例えば濁った状態となったり、あるいは相分離したりすることで、相溶していないことが判断できる。
【0041】
上記相溶性の評価の際の、(A)と(B)との比率は、封止材組成物として用いようとしている具体的な比率を用いるのがよい。
なお、密度測定は、例えば予め重量を測定してある容量100mlのガラス(パイレックス(登録商標))製メスシリンダーに試料を、液体であれば約10ml分秤取して重量を測定し、その上で80℃の恒温器中に1〜2時間放置した後取り出して、直ちにその体積を確認し、この体積と先に測定した試料の重量から80℃での密度を求めることができる。また試料が常温で固体の場合は、例えば約10g程度の試料をメスシリンダーに秤取して重量を測定し、次いで上記と同様にメスシリンダーごと80℃の恒温器中に1〜2時間放置し溶解させて80℃における体積を測定し、80℃での密度を算出できる。
【0042】
2.3 (A)と(B)の融点
本発明において用いる(A)と(B)は、そのいずれか一方の融点が25℃以下であり、他方の融点が30〜100℃であることが好ましい。
(A)と(B)がこのような融点を持つことで、上記したような加熱硬化時の密度差に基づく挙動がより顕著に発現するとともに、沈降部分においてリード電極をより均一な被膜によって被覆することが可能となる。
より好ましい融点の関係は、一方の融点が20℃以下であり、他方の融点が60℃〜80℃であることである。
【0043】
融点が25℃以下の成分は常温で液体であり、この中にもう一方の、融点が30〜100℃の成分を、例えば径1mm以下のように微細に粉砕した状態で混合すると、両成分は化学組成の類似によりほぼ均一に分散することができ、また微細粒径の成分によるチクソトロピー性が発現して分散状態を安定に保つことができる。
また上記の硬化過程において得られる皮膜も厚さにむらがない均一な膜とすることができる。
【0044】
<3.シリコーン系封止材組成物>
上記の各成分をそれぞれの好適組成範囲で配合、含有させることによって本発明のシリコーン系封止材組成物を製造することができる。
このような封止材組成物は、上記各成分(A)〜(C)を全て含む一液型の組成物であっても、また(A)成分と(B)成分を一方の液状組成物、(C)縮合触媒を他方の液状組成物とする、二液型の組成物であってもよい。このとき、二つの液状組成物の少なくとも一方が、所定の混合比率で各成分を混合した場合でも、常温では液状にならない場合や、二液を使用する場合に極端にその用いる容量が異なる場合などは、安定な液状組成物としたり、使用量のバランスを取ったりするために、前記した有機溶剤を適宜併用することが好ましい。
【0045】
有機溶剤の種類や使用量は、その目的に応じて定めればよいが、例えば液状組成物の沸点が40〜200℃、好ましくは50〜150℃となるように有機溶剤を選択し、またその含有割合は、通常少ないほど好ましいが、最大でも組成物中に20重量%程度とすることが好ましい。
液状組成物の沸点が前記範囲より低い温度であると溶剤の引火性による安全上の問題が生じることがあり、一方前記範囲より高い温度では硬化後も有機溶剤が封止材層中に残存し、透過率の低下が起きる可能性がある。
【0046】
また有機溶剤の含有割合が上記範囲を超える場合は、封止材を加熱硬化させる際の溶剤の揮発により硬化収縮が起こることがあり、更にはその溶解力によって本来分離すべき(A)、(B)両成分が均一溶液となって、本発明の効果を得られないこともある。
更に、硬化時に溶剤が気化するため、その気泡によって硬化後の封止材の光透過性が悪化することもある。
【0047】
好ましい有機溶剤の含有割合の上限は10重量%、さらに好ましくは7重量%である。
本発明のシリコーン系封止材組成物は、二液型として用いる方が、保管時の安定性が良好となるので好ましい。
一液型とすると、使用時の簡便性は高くなるが、保管に際して冷凍庫に保管したり、あるいは使用可能期間を短く限定したりする等の配慮が必要となる。
【0048】
<4.半導体発光装置>
上記本発明のシリコーン系封止材組成物は半導体発光デバイスの封止材として好ましく使用できる。
本発明の半導体発光装置は、リード電極に相当する金属部材とこの金属部材の一部を露出させることができる底面と側面とを有する凹部を形成した樹脂成形体とからなるパッケージと、前記凹部内に配置され、前記金属部材と電気的に接続された発光素子と、この凹部内に充填された封止材とを少なくとも備えてなるものである。
この半導体発光装置において、上記本発明に係るシリコーン系封止材組成物を封止材として用いることにより、水分や含イオウ化合物等のイオウ類の透過性を低くすることができ、リード電極等の金属部材の反射率を、長期間にわたって効果的に維持することができる。
【0049】
半導体発光装置の具体例を
図1に示す。
半導体発光装置5は、一般に半導体発光素子2、装置全体の外殻を構成する樹脂成形体1、半導体発光素子2とリード電極4とを電気的に接続するボンディングワイヤ、半導体発光素子を封止する封止材3、半導体発光素子に電気を供給するリード電極4等から構成される。なお、リード電極等の導電性金属配線および絶縁性の樹脂成形体からなる構成をパッケージと称する。
リード電極の材質は特段制限されず、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、白金族元素、ニッケル(Ni)等の銀白色を呈する金属の1種類、又は2種類以上含むものが例示され、中でも光反射率が高い銀又は銀合金が好ましく用いられる。
【0050】
リード電極4の光反射率は、例えば波長460nmの光について、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることが更に好ましい。光反射率が高いリード電極を用いることにより、発光装置全体の発光効率が高くなる。
パッケージを構成する樹脂成形体1は、半導体発光装置の外形構造を維持するとともに、全方向に射出される半導体発光素子からの光を、半導体発光装置の光の射出方向に反射させることで、半導体発光装置の光出力を向上させ、かつ正負のリード電極を絶縁するという機能も有している。
【0051】
本発明の半導体発光装置に用いることができる反射材としては、絶縁性があって、光を反射することができるものであれば、その種類は特に制限されないが、半導体発光素子からパッケージ底面に向かう光が集中する範囲は、光エネルギーにより反射材やリード電極が劣化しやすく、経時的な半導体発光装置の輝度低下につながるため、本発明に用いる反射材は耐久性の高い材料であることが好ましい。
【0052】
具体的には、セラミックスなどの非樹脂タイプの反射材、及びシリコーン樹脂やポリアミド樹脂などの樹脂タイプの反射材が好ましく用いられ、中でも、成形性の観点やコストの観点から樹脂タイプの反射材が好ましい。
このような樹脂タイプの反射材の材質としては、本発明のシリコーン系封止材組成物と樹脂組成が近似する、シリコーン樹脂を用いたものが、両者間の密着性が良好となり、成形時や使用時の剥離等の恐れが小さくなるため好ましい。シリコーン樹脂系の反射材には、主成分である熱硬化性ポリオルガノシロキサン以外にチタニアやアルミナ等の光反射性フィラーを含んでいることが一般的である。
【0053】
また反射材の形状についても特段の制限はないが、
図1のように側面がテーパを有するカップ型であることが、光に指向性を持たせることができるので好ましい。
上記のパッケージ型構造を有する半導体発光装置の他に、半導体発光装置の形態として、基板上に発光素子を直接搭載して封止材層で封止したチップオンボード実装用の配線基板としてもよい。
【0054】
更に、前述した通り蛍光体を本発明のシリコーン系封止材組成物に含有させて、発光素子を封止すると同時に、白色光等所望の波長の光を発光装置から取り出すようにすることも可能である。
本発明の発光装置は、例えば以下(1)、(2)のような手順で製造することができる。
【0055】
(1)発光装置の組み立て
市販される半導体発光装置用のパッケージを用い、所望の発光波長(例えば460nm等)を有する半導体発光素子を上記パッケージの凹部に露出しているリード電極上に導電性ダイボンド材を用いて設置した後、該ダイボンド材を加熱硬化して、半導体発光素子をパッケージ上に搭載し、金線等のボンディングワイヤーを用いて該パッケージの他方のリード電極と半導体発光素子とを接続する。
【0056】
(2)半導体発光素子の封止
続いて、このパッケージ凹部へ、開口部上縁と同じ高さになるように封止材組成物を滴下・装入し、引き続き所定の温度条件で封止材組成物を加熱硬化させて、半導体発光素子を封止し、半導体発光装置を製造する。
本発明の半導体発光装置は、上記特定のシリコーン系封止材組成物を用いるので、耐イオウ性が優れており、リード電極の反射率を長期にわたって維持できる優れた半導体発光装置となる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を用いて本発明の具体的な実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
1.シリコーン系封止材組成物の調製
(1)シリコーン樹脂
本実施例の組成物に用いたシリコーン樹脂は以下の通りである。
(A)成分
(A)成分の二官能熱硬化性シリコーン樹脂としては、三菱化学(株)製「S111」(主成分:ジメチルポリオルガノシロキサン、重量平均分子量:13000、官能度:2.08、常温で液体、密度:0.98g/ml)を使用した。
(B)成分
実施例に用いた(B)多官能熱硬化性シリコーン樹脂は以下のようにして調製した。
1Lのセパラブルフラスコにメチルトリクロロシラン100重量部、トルエン200重量部を入れ、循環冷却器で冷却しながら、水10重量部、メタノール50重量部、
及びイソプロパノール10重量部の混合液を、内温を0℃に維持した状態で10時間かけて滴下した。滴下終了後、20分間80℃に加熱して溶媒の混合アルコールを還流した。その後室温まで冷却し、内温が30℃を超えないように冷却しながら、水10重量部を30分間かけて滴下した。更に水25重量部を10分間で滴下後、50℃で1時間攪拌した。
【0058】
水200重量部を投入後静置し、分離した有機層を採取して中性になるまで水で繰り返し洗浄した。分液した有機層から水を加熱脱水した。濾過後、更に減圧下で水を留去して融点75〜80℃の、無色透明の熱硬化性シラノール基を有する化合物を得た。
得られた化合物は、メチルトリメトキシシランオリゴマーを主成分とする、重量平均分子量4000、官能度3.15、融点75〜80℃、密度1.14g/cm
3の多官能熱硬化性シリコーン樹脂であった。
【0059】
比較例に用いる(B)成分に対応する成分としては、常温で液体の(即ち融点が30℃以下の)多官能熱硬化性シリコーン化合物である、「KC89S」(信越化学工業社製)を使用した。
【0060】
(2)二液型封止材組成物
1)第一液
下記の(A)成分と(B)成分を、表1に示す比率で混合して封止材組成物の第一液とした。なお、上記で調製した(B)成分は常温で固体であるので、封止材の第一液を調製するに際しては、約100μmの粒径になるまで粉砕した上で、(A)成分と混合し、分散液の形として使用した。
但し、比較例1では(B)成分を単独で用い、比較例2では(A)成分のみを用いた。また比較例3は上記で調製した多官能熱硬化性シリコーン樹脂に代えて、常温で液状の多官能熱硬化性シリコーン化合物である上記「KC89S」を使用した。
【0061】
2)第二液
(C)硬化触媒として、ジルコニウムテトラ(2−エチルヘキサノエート)を2重量%含む脂肪族炭化水素系溶媒溶液を第二液として使用した。
【0062】
第二液の使用量は(A)と(B)との合計量に対して、金属ジルコニウムとして0.1重量%となるように調整した。
2.封止材の硬化とイオウ雰囲気曝露試験
銀のリード電極を有するパッケージ(金森藤平商事製、”High Power LED Package 90×90)に、上記の二液型封止材組成物を混合の上、パッケージの縁まで注入して、150℃の恒温オーブン中で3時間加熱し、封止材組成物を硬化させた。
【0063】
封止されたパッケージを幅5cm、長さ8cmの大型スライドグラスに両面テープを用いて貼り付け、イオウ粉末1gを万遍なく広げたシャーレ(直径6cm、深さ1.5cm)に、パッケージを貼り付けた側がイオウ粉末と対向するように、載置した。
このシャーレを、更に大型シャーレ(直径15cm、深さ4.5cm)中に格納し、シャーレの上蓋をかぶせた上で、該大型シャーレの側面をフッ素樹脂製のシールテープ((株)スリーボンド製)を用いて密封した。
これを80℃の恒温オーブン中で6時間保持した後、取り出してパッケージの変色状態を以下に示す方法で評価した。
【0064】
3.測定・評価
(1)光反射率
反射率測定器(コニカミノルタ(株)製、CM−2600d)を用いて、350nm〜750nmにおけるパッケージの反射率を測定した。
封止する前のパッケージ及び各封止材組成物により封止したパッケージを、測定器のプローブにセットしてイオウ雰囲気曝露試験前後の反射率を測定した。
測定の結果、上記の波長範囲の全範囲で、サンプル間での反射率の順位が変動していなかったので、光反射率の評価は代表的な波長として550nmを用いて、この波長における光反射率の維持率を用いて行った。
【0065】
(2)着色度
目視にてイオウ雰囲気曝露前後の未封止パッケージ及び封止したパッケージの着色状況を観察し、以下の基準で評価した。
【0066】
◎:着色は見られない
○:部分的に僅かな着色があることもあるが、ほとんど着色は見られない
△:明らかに着色が見られる
×:著しい着色が見られる
【0067】
(3)発泡
封止されたパッケージについて、イオウ雰囲気曝露前に封止材層の発泡状態を観察し、以下の基準で評価した。
○:発泡は見られない
△:少量の発泡が見られる
×:発泡が著しい
【0068】
4.結果の評価
(1)(A)成分、(B)成分が本願で特定される特性値を有していて、かつ本願で規定する組成比となっている、実施例1〜5は、(A)成分が単独で用いられた比較例2に比べて、反射率の維持も着色の程度も良好である。同様に(B)成分が単独で用いられた比較例1と比べても発泡性が抑えられて優れた反射率を維持している。
(2)(B)成分の分子量規定から低く外れたものを用いた比較例3は、対応する実施例3と比べると、反射率の維持率が低くなっており、耐イオウ性が不十分であることが見られる。
【0069】
【表1】