(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760761
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】直流き電電源の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60M 3/06 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
B60M3/06 E
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-146964(P2011-146964)
(22)【出願日】2011年7月1日
(65)【公開番号】特開2013-14184(P2013-14184A)
(43)【公開日】2013年1月24日
【審査請求日】2014年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】楠本 英伸
(72)【発明者】
【氏名】紫垣 顕
【審査官】
武市 匡紘
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭55−56428(JP,A)
【文献】
特開昭62−88629(JP,A)
【文献】
特開昭62−221941(JP,A)
【文献】
特開昭50−9016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00−7/00
H02J 3/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力から出力電圧指令値Vd1に一致する電圧に制御した直流電力をき電線を介して電気車に給電する順変換器と、
前記順変換器とは直流側で並列接続され、電気車の回生運転時に発生する回生電力でき電線電圧が前記出力電圧指令値Vd1よりも高い回生開始電圧Vd2を超えたときに該回生電力を交流電力に変換して交流電源側に回生する回生インバータを備えた直流き電電源において、
前記回生インバータの回生動作中または回生運転が予想されるときには、前記順変換器の出力電圧指令値Vd1を回生開始電圧Vd2に切換えておく切換制御手段を備えたことを特徴とする直流き電電源の制御装置。
【請求項2】
交流電力から出力電圧指令値Vd1に一致する電圧に制御した直流電力をき電線を介して電気車に給電する順変換器と、
前記順変換器とは直流側で並列接続され、電気車の回生運転時に発生する回生電力でき電線電圧が前記出力電圧指令値Vd1よりも高い回生開始電圧Vd2を超えたときに該回生電力を交流電力に変換して交流電源側に回生する回生インバータを備えた直流き電電源において、
前記回生インバータの回生動作中または回生運転が予想されるときには、前記順変換器の出力電圧指令値Vd1と比較する出力電圧検出値をき電線電圧検出値から出力電圧指令値Vd1よりも低くそれに近い電圧Vd1’に切り換えておく切換制御手段を備えたことを特徴とする直流き電電源の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電気車に給電する直流き電電源の制御装置に係り、特に回生インバータを並列接続したコンバータ(順変換器)の出力電圧制御に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は、直流き電電源の主回路を示す。サイリスタ整流器1は、図示省略する交流電源から変圧器2を介して導かれる交流電力をサイリスタの位相制御で電圧を制御した直流電力に変換するコンバータであり、この直流出力がき電線(架線)を介して負荷となる電気車3に供給される。回生インバータ4は、電気車3が回生運転時に発生する回生電力をIGBT等の自己消弧型素子のオン・オフ制御で交流電力に変換し、この交流電力を変圧器5を介して図示省略する交流電源に回生する。この変換に際し、回生インバータ4は、電圧・周波数・位相を回生側の交流電源と一致させる同期制御を行う。6は電気車3からの回生電力を回生インバータ4の直流側に導入するダイオードであり、そのアノードをき電線側に接続し、カソードを回生インバータ側に接続する。7はダイオード6のカソード側で回生電流を検出する電流検出器、8はき電線側でき電電圧を検出する電圧検出器である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この直流き電電源によるき電電圧制御を説明する。サイリスタ整流器1は、予め設定された一定電圧Vd1を目標値としてき電線電圧との偏差を比例積分(PI)演算して電圧一定制御(AVR)を行い、この電圧Vd1を制御出力電圧としてき電線を通して電気車3に電力を供給する。回生インバータ4は、電気車3がブレーキをかけた際の回生エネルギーによって、き電線電圧がき電線制御電圧Vd1よりも高く、過電圧検出レベルよりも少し低い電圧Vd2を超過したときに回生動作を開始し、き電線電圧を電圧Vd2近辺に抑制できるよう電圧制御(AVR)をする(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−50826号公報
【特許文献2】特開昭61−94833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4において、サイリスタ整流器(コンバータ)1は、き電電圧が設定電圧Vd1よりも低下しないように出力電圧を制御し、電気車3に直流き電する。回生インバータ4は、常時は運転を停止した待機状態にしておき、電気車3がブレーキをかけた際の回生エネルギーによりき電線電圧が上昇して設定電圧Vd2を超過したときにき電線電圧が該設定電圧Vd2を超えないよう回生制御する。
【0006】
この回生制御中、き電線電圧は設定電圧Vd2近辺に制御されるが、サイリスタ整流器1は電圧Vd2よりも低い設定電圧Vd1にAVR制御されるため、サイリスタ整流器1のAVR制御電圧はき電線電圧がVd1になるように制御量を最小限(下限リミッタ値)に絞り込んだPI制御状態に保持されている。そのため、電気車3の回生動作が終わり、サイリスタ整流器1から給電する状態になったときのAVR機能の応答遅れにより、サイリスタ整流器1の電圧制御出力が最も低い状態から目標電圧Vd1を確立するまでの遅れが生じ、電気車が回生運転終了から短時間で力行運転に移行するときは力行運転開始時のき電線電圧不足で加速応答性が悪い場合が生じる。
【0007】
このような不都合を無くすため、特許文献3(特開昭55−3180号公報)では、回生インバータ4の回生動作開始電圧Vd2を、サイリスタ整流器(コンバータ)1の制御電圧Vd1よりも若干低く設定しておき、無負荷の状態(小電流の領域)でサイリスタ整流器1から回生インバータ4に循環電流を流しておくことを提案している。この方式によれば、サイリスタ整流器1の出力電圧は電気車の回生動作中も電圧Vd1に近い値に保持されており、回生動作終了時にはサイリスタ整流器1の出力が電圧Vd1に近い値から応答性よく、給電を再開することができる。
【0008】
しかし、無負荷状態においても、サイリスタ整流器1から回生インバータ4に循環電流が流れ続け、この循環電流によるスイッチング素子等での損失が発生するという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、循環電流による電力損失を無くし、しかも回生動作終了時には安定して応答性よく給電できる直流き電電源の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するため、回生インバータの回生動作中または回生運転が予想されるときには、順変換器の出力電圧指令値Vd1を回生開始電圧Vd2に切換えておく切換制御手段、または順変換器の出力電圧指令値Vd1と比較する出力電圧検出値をき電線電圧検出値から出力電圧指令値Vd1よりも低くそれに近い電圧Vd1’に切り換えておく切換制御手段を備えたもので、以下の構成を特徴とする。
【0011】
(1)交流電力から出力電圧指令値Vd1に一致する電圧に制御した直流電力をき電線を介して電気車に給電する順変換器と、
前記順変換器とは直流側で並列接続され、電気車の回生運転時に発生する回生電力でき電線電圧が前記出力電圧指令値Vd1よりも高い回生開始電圧Vd2を超えたときに該回生電力を交流電力に変換して交流電源側に回生する回生インバータを備えた直流き電電源において、
前記回生インバータの回生動作中または回生運転が予想されるときには、前記順変換器の出力電圧指令値Vd1を回生開始電圧Vd2に切換えておく切換制御手段を備えたことを特徴とする。
【0012】
(2)交流電力から出力電圧指令値Vd1に一致する電圧に制御した直流電力をき電線を介して電気車に給電する順変換器と、
前記順変換器とは直流側で並列接続され、電気車の回生運転時に発生する回生電力でき電線電圧が前記出力電圧指令値Vd1よりも高い回生開始電圧Vd2を超えたときに該回生電力を交流電力に変換して交流電源側に回生する回生インバータを備えた直流き電電源において、
前記回生インバータの回生動作中または回生運転が予想されるときには、前記順変換器の出力電圧指令値Vd1と比較する出力電圧検出値をき電線電圧検出値から出力電圧指令値Vd1よりも低くそれに近い電圧Vd1’に切り換えておく切換制御手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
以上のとおり、本発明によれば、回生インバータの回生動作中または回生運転が予想されるときには、順変換器の出力電圧指令値Vd1を回生開始電圧Vd2に切換えておくこと、または順変換器の出力電圧指令値Vd1と比較する出力電圧検出値をき電線電圧検出値から出力電圧指令値Vd1よりも低くそれに近い電圧Vd1’に切り換えておくこととしたため、順変換器から回生インバータへの循環電流による電力損失を無くし、しかも回生動作終了時には安定して応答性よく給電できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】実施形態1の切換制御における電圧−電流特性図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
図1は、本実施形態を示す直流き電電源の要部回路図であり、
図4と同等の回路は同一符号で示す。
【0016】
回生インバータ4の制御回路は、回生動作開始電圧Vd2が設定され、この電圧Vd2と電圧検出器8で検出するき電線電圧との偏差を電圧制御器11で比例積分(PI)演算し、この演算結果でPWM制御部12のPWMパルス出力(周波数、位相が同期)のパルス幅を制御し、電気車3からの回生電力でき電線電圧が電圧Vd2を超えた場合に回生動作を開始し、交流電源側に回生する。
【0017】
サイリスタ整流器1の制御回路は、切換スイッチ21で切換えられる電圧Vd1またはVd2が目標値として設定され、この電圧と電圧検出器8で検出するき電線電圧との偏差を電圧制御器22で比例積分(PI)演算し、この演算結果を位相制御器23の位相制御指令とすることでサイリスタ整流器1のサイリスタの点弧位相を制御し、き電線電圧が電圧Vd1以下またはVd2以下になるときにそれぞれ電圧Vd1またはVd2まで高める。
【0018】
電圧切換制御部24は、切換スイッチ21の出力を電圧Vd1またはVd2に切換制御し、このときの切換条件は回生電流検出器7で検出する回生電流値または電圧検出器8で検出するき電線電圧で決める。この切換条件は、回生電流を基にした切換条件(A)とき電線電圧を基にした切換条件(B)とされる。
【0019】
切換条件(A)は、回生動作中を切換条件とし、回生電流ゼロでは切換スイッチ21の出力を電圧Vd2→電圧Vd1に切換え、き電線電圧が上昇して回生電流が発生したときに切換スイッチ21の出力を電圧Vd1→電圧Vd2に切換える。
【0020】
切換え条件(B)は、回生運転が予想される場合を切換条件とし、き電線電圧がVd2以下でVd1以上の所定の電圧値Vd3以下になったときに切換スイッチ21の出力を電圧Vd2→電圧Vd1に切換え、き電線電圧が電圧値Vd3を超えたときに切換スイッチ21の出力を電圧Vd1→電圧Vd2に切換える。
【0021】
図2は、
図1に示すサイリスタ整流器の切換制御における電圧−電流特性図である。
図1における電圧Vd1は無負荷または電気車の力行運転におけるサイリスタ整流器1の出力電圧指令値であり、電圧Vd2は回生インバータ4の回生運転開始時の電圧であり、Vd1<Vd2に設定される。電圧切換制御部24は、例えば前記の条件(A)が設定され、回生電流がゼロか有りの違いで電圧Vd1とVd2を切換える。
【0022】
この条件(A)によるき電線電圧制御は、無負荷または電気車3が力行運転時にはサイリスタ整流器1は電圧Vd1を電圧指令値として出力電圧がVd1に維持されるよう制御し続ける。そして、電気車3が回生運転に入り、電気車3からの回生でき電線電圧がVd2まで上昇したとき、回生インバータ4が回生動作を開始し、回生電流を交流電源側に供給する。
【0023】
この回生電流の発生で、切換制御部24は、切換スイッチ21を電圧Vd2側に切換え、サイリスタ整流器1の出力電圧をVd2に制御する。この制御状態では回生インバータ4が回生動作する電圧Vd2と同じ、または一定電圧(例えば10V)だけ低い値とすることで、サイリスタ整流器1の出力電圧制御は電圧Vd2未満、または電圧制御器(AVR)22に設定される上限リミッタ値に制限され、サイリスタ整流器1から回生インバータ4側への循環電流が流れることはなく、循環電流による電力損失も発生しない。
【0024】
次に、電気車3の回生運転が終了または無負荷状態になり、き電線電圧がVd2から低下したとき、回生電流がゼロになることで、切換制御部24は電圧指令をVd2からVd1に切換える。この切換えにより、サイリスタ整流器1の出力電圧制御はVd2からVd1に向かって降下する。このとき、電圧制御器22等の制御遅れによって、サイリスタ整流器1の出力電圧はVd1よりも低い値に落ちるアンダーシュートが発生することが想定されるが、回生電流のゼロ判定を早期に検出すること、すなわち回生インバータの運転終了をその直流電圧が回生動作中から一定電圧だけ低下したときに終了と判定することでアンダーシュートを低く抑え、回生動作終了時にはサイリスタ整流器1からは力行運転時の電圧Vd1に向けて安定して応答性よく制御して給電できる。
【0025】
なお、電圧Vd3を基にした前記の切換条件(B)の場合も同様の切換制御ができ、循環電流による電力損失を無くし、しかも回生動作終了時には安定して応答性よく給電できる。この場合、電圧Vd1とVd2の差が100V程度などにあっても、電圧Vd3をその中間値{=(Vd1+Vd2)/2}に設定するなど、適宜設定することによって同様の作用効果を得ることができる。
【0026】
(実施形態2)
図3は、本実施形態を示す直流き電電源の要部回路図であり、
図1と異なる部分は回生動作中はサイリスタ整流器1へのき電線電圧検出値に代えて電圧指令値Vd1よりも低くそれに近い電圧Vd1’に切換える点にある。例えば、電圧Vd1’は電圧Vd1よりも10Vだけ低い電圧に設定される。
【0027】
切換スイッチ25は、電圧検出器8で検出するき電線電圧検出値と設定電圧Vd1’を切換え、この切換えを切換制御部24が前記の切換条件(A),(B)に応じて行う。
【0028】
例えば、条件(A)によるき電線電圧制御は、無負荷または電気車3が力行運転時にはサイリスタ整流器1は電圧Vd1を電圧指令値として出力電圧がVd1に維持されるよう制御し続ける。そして、電気車3が回生運転に入り、電気車3からの回生でき電線電圧がVd2まで上昇したとき、回生インバータ4が回生動作を開始し、回生電流を交流電源側に供給する。
【0029】
この回生電流の発生で、切換制御部24は、切換スイッチ25を電圧Vd1’側に切換え、サイリスタ整流器1の出力電圧制御を電圧制御器(AVR)22の上限リミッタ値に制御する。この制御状態では回生インバータ4が回生動作する電圧Vd2に比べて低い電圧となり、サイリスタ整流器1から回生インバータ4側への循環電流が流れることはなく、循環電流による電力損失も発生しない。
【0030】
次に、電気車3の回生運転が終了または無負荷状態になり、き電線電圧がVd2から低下したとき、回生電流がゼロになり、切換制御部24はフィードバック電圧をVd1’から電圧検出値に切換える。この切換えにより、サイリスタ整流器1の出力電圧制御は電圧VD2に近い値または上限リミッタ値にあって、その値から電圧Vd1に向けて低下させる。このとき、電圧制御器22等の制御遅れにも、サイリスタ整流器1の出力電圧は電圧Vd2に近い値または上限リミッタ値から制御され、極端なアンダーシュートが発生することなく、回生動作終了時にはサイリスタ整流器1からは力行運転時の電圧Vd1に向けて安定して応答性よく制御して給電できる。
【0031】
なお、電圧Vd2とVd1の範囲内の電圧Vd3を基にした前記の切換条件(B)の場合も同様の切換制御ができ、循環電流による電力損失を無くし、しかも回生動作終了時には安定して応答性よく給電できる。
【0032】
本実施形態は、実施形態1と同様に、力行運転時と回生動作時のサイリスタ整流器1の出力電圧切換制御ができ、循環電流による電力損失を無くし、しかも回生動作終了時には安定して応答性よく給電できる。
【0033】
(変形例)
実施形態1,2において、条件(A)または(B)の判定による切換えには、ヒステリシスを持たせることで制御状態の振動的な切換えを無くし、安定した切換えができる。
【0034】
また、サイリスタ整流器1に代えて、IGBTなどをスイッチング制御素子とした順変換器(コンバータ)とする装置に適用して同等の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 サイリスタ整流器
3 電気車
4 回生インバータ
6 ダイオード
7 電流検出器
8 電圧検出器
11 電圧制御器
12 PWM制御部
21 切換スイッチ
22 電圧制御器
23 位相制御器
24 電圧切換制御部
25 切換スイッチ