(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5760859
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】ガラス微粒子堆積体の製造方法及び光ファイバ用ガラス母材及び光ファイバ
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20150723BHJP
C03B 8/04 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
C03B37/018 C
C03B8/04 C
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-186508(P2011-186508)
(22)【出願日】2011年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-47165(P2013-47165A)
(43)【公開日】2013年3月7日
【審査請求日】2014年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米沢 和泰
(72)【発明者】
【氏名】星野 寿美夫
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−081645(JP,A)
【文献】
特開平07−025637(JP,A)
【文献】
特開2002−356342(JP,A)
【文献】
特開昭64−009821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
Thomson Innovation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する出発材又は火炎を噴出するバーナを相対的に成長軸方向に沿って往復トラバースさせながら、前記火炎によってGeCl4を含むガラス原料ガス及び火炎形成ガスを加熱してガラス微粒子を生成するとともに、該ガラス微粒子を前記出発材に堆積させてガラス微粒子堆積体を製造する製造方法であって、
トラバース毎に堆積するガラス微粒子層の厚みを、隣接し合う層で異なるように堆積させ、比屈折率差が0.8%以上で有り、かつ不定周期の脈理を形成することを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項2】
前記出発材又は前記バーナのトラバース速度、前記ガラス原料ガスの供給量、前記火炎形成ガスの供給量のうちの少なくとも一つを変化させ、トラバース毎に堆積するガラス微粒子層の厚みを、隣接し合う層で異なるように堆積させることを特徴とする請求項1に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項3】
少なくとも2層以上の複数層の周期で規則的にガラス微粒子堆積層の厚さを変化させることを特徴とする請求項1または2に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項4】
前記出発材又は前記バーナのトラバース速度、前記ガラス原料ガスの供給量、前記火炎形成ガスの供給量のうちの少なくとも一つを、2値以上の設定値の間で変化させることを特徴とする、請求項2に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項5】
前記設定値を、二進疑似乱数列に従って変化させることを特徴とする請求項4記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項6】
前記二進疑似乱数列がM系列であることを特徴とする請求項5記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法において、さらに前記出発材の回転速度を、前記出発材又は前記バーナのトラバース中に変化させることを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス微粒子堆積体が、光ファイバ用ガラス母材のコア部又はジャケット部を合成するものであることを特徴とする請求項1乃至7何れか1項記載のガラス微粒子堆積体の製造方法。
【請求項9】
前記請求項1乃至8何れか1項記載の製造方法で製造されたガラス微粒子堆積体により製造されたことを特徴とする光ファイバ用ガラス母材。
【請求項10】
前記請求項9に記載の光ファイバ用母材を線引きしてなることを特徴とする光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用ガラス母材の材料となるガラス微粒子堆積体の製造方法及びこのガラス微粒子堆積体からなる光ファイバ用ガラス母材及び光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス微粒子堆積体の製造方法は、ガラス原料であるGe(ゲルマニウム)化合物(例えばGeCl
4:四塩化ゲルマニウム)及びSi(ケイ素)化合物(例えばSiCl
4:四塩化ケイ素)のガスをバーナに投入し、バーナを成長軸方向に沿って出発材に対して相対的に往復トラバースさせながら、軸線を中心として回転する出発材の外周面に生成したガラス微粒子(以下「スス」という)を、堆積させる(以下「スス付け」という)ことによって製造する製造方法(OVD法)が知られている。また、複数本のバーナを出発材に対して相対的に往復トラバースさせながらスス付けする多バーナ多層付け法(MMD法)が知られている。
【0003】
前述の製造方法で製造したガラス微粒子堆積体を、焼結炉中で加熱しながら焼結することによって、円柱状の透明ガラス体の光ファイバ用ガラス母材を製造することができる。
【0004】
このような光ファイバ用ガラス母材は、線引き作業の前に、コア相当部分で所定の屈折率分布が形成できているか否かを確認するため、プリフォームアナライザーによる測定(以下「PA測定」という)を行う場合がある。
【0005】
通常のOVD法,MMD法によるガラス微粒子堆積体の製造方法では、前述したように、バーナに対して出発材が相対的に一定の速度で往復トラバースし、また出発材が一定速度で回転するため、1トラバース、及び1回転中に堆積するススが一つの層となり、堆積するスス体は層状となる。通常はトラバース速度、回転速度を一定とするため、1層の厚みもほぼ一定となり、製造されたガラス微粒子堆積体からなる光ファイバ用ガラス母材には、出発材のトラバース周期、回転周期に応じた縞状のすじ(脈理)が発生する。
【0006】
このような脈理は、1トラバース、1回転中の堆積部の温度変化などにより光ファイバ用ガラス母材の屈折率制御をするために添加しているドーパント(Ge等)の濃度や嵩密度が変動することによって生じると考えられ、この脈理が生じている光ファイバ用ガラス母材内には、周期的な屈折率変化が発生している。
【0007】
PA測定では、ガラス母材側面からレーザ光を入射し、透過したレーザ光のパターンを測定することにより、屈折率分布を測定するが、ガラス母材に周期的屈折率変化があると、このPA測定レーザ光が回折するため、回折した高次モードの光が0次光と干渉し、測定される屈折率分布の一部に乱れが生じる。この乱れは、PA測定結果から計算される特性値(カットオフ波長等)に誤差が生じる原因となる。
【0008】
前述のPA測定を正確に行うため、特許文献1に記載のように、脈理の生じた光ファイバ用ガラス母材を通過した光の光軸上をスリットが通過することにより、入射したPA測定レーザ光と光ファイバ用ガラス母材内の周期的変化との相互作用によって発生する高次の回折光を除外し、0次光のみを検出することで屈折率分布を測定する方法が提案されている。
【0009】
また、特許文献2に記載のように、光ファイバ用ガラス母材の周期的変化や構造に合わせ、PA測定レーザ光のビーム径を断続的に変化させながら屈折率分布を測定する方法が提案されている。
【0010】
また、特許文献3に記載のように、1回転、1トラバースあたりに堆積される層の厚みを薄くすることにより、PA測定による脈理の影響を排除する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−347372号公報
【特許文献2】特開平8−201221号公報
【特許文献3】特開平11−199263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1の従来技術では、スリットの幅や向きを適切に設計しないと0次光のみを選択的に取り出すことは難しい。例えばスリット幅が大きすぎると高次回折光まで透過させてしまうし、スリット幅が小さすぎると信号光である0次光さえも遮断してしまう、いう問題がある。
【0013】
また、特許文献2の従来技術では、基本的に光ファイバ用ガラス母材の脈理の構造が非常に細かく複雑なため、その構造に合わせて最適なPA測定レーザ光のビーム径を選択しつつPA測定を行うのは非常に難しく、しかも、複雑な制御を要するという問題がある。
【0014】
また、特許文献3の技術では、1回転あたり、1トラバースあたりに堆積される層の厚みを薄くしているため、製造性が犠牲となり、製造コストが高くなる、という問題がある。
【0015】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、入射するPA測定レーザ光の回折による干渉の発生を防ぐことができること、PA測定レーザ光の回折による干渉の発生を防ぐことで正確な屈折率構造をPA測定できること、正確な屈折率構造をPA測定することでこのPA測定結果から計算される特性値の誤差を小さくすることができること等が、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、本発明によるガラス微粒子堆積体の製造方法は、以下の構成を具備するものである。
【0017】
回転する出発材又は火炎を噴出するバーナを相対的に成長軸方向に沿って往復トラバースさせながら、前記火炎によって
GeCl4を含むガラス原料ガス及び火炎形成ガスを加熱してガラス微粒子を生成するとともに、該ガラス微粒子を前記出発材に堆積させてガラス微粒子堆積体を製造する製造方法であって、
トラバース毎に堆積するガラス微粒子層の厚みを、隣接し合う層で異なるように堆積させ、
比屈折率差が0.8%以上で有り、かつ不定周期の脈理を形成することを特徴とする。
【0018】
前記出発材又は前記バーナのトラバース速度、前記ガラス原料ガスの供給量、前記火炎形成ガスの供給量のうちの少なくとも一つを変化させ、トラバース毎に堆積するガラス微粒子層の厚みを、隣接し合う層で異なるように堆積させることが好ましい。
【0019】
また、少なくとも2層以上の複数層の周期で規則的にガラス微粒子堆積層の厚さを変化させることが好ましい。
【0020】
また、前記出発材又は前記バーナのトラバース速度、前記ガラス原料ガスの供給量、前記火炎形成ガスの供給量のうちの少なくとも一つを、2値以上の設定値の間で変化させることが好ましい。
【0021】
また、前記設定値を、二進疑似乱数列に従って変化させることが好ましく、この二進疑似乱数列がM系列であることが好ましい。
【0022】
さらに前記出発材の回転速度を、前記出発材又は前記バーナのトラバース中に変化させることが好ましい。
【0023】
前記ガラス微粒子堆積体が、光ファイバ用ガラス母材のコア部又はジャケット部を合成するものであることが好ましい。
【0024】
また、前記の製造方法で製造されたガラス微粒子堆積体により製造されたことを特徴とする光ファイバ用ガラス母材である。
【0025】
また、前記光ファイバ用母材を線引きしてなることを特徴とする光ファイバである。
【発明の効果】
【0026】
このような特徴を有することで本発明は、以下の効果を奏する。すなわち、トラバース毎に堆積するガラス微粒子層の厚みを隣接し合う層で異なるように堆積させるようにしたので、脈理の周期(層の厚み)がランダムになり、入射するPA測定レーザ光の回折による干渉の発生を防ぐことができる。PA測定レーザ光の回折による干渉の発生を防ぐことで、正確な屈折率構造を測定することができ、このPA測定結果から計算される特性値の誤差を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】外付け化学気相堆積法(OVD法)によりガラス微粒子堆積体を製造する製造方法を示す模式図である。
【
図2】(a)は、従来の製造方法により製造されたガラス微粒子堆積体から製造した光ファイバ用ガラス母材における脈理構造(比較例)の一例を示す模式図であり、(b)は、本発明の製造方法により製造されたガラス微粒子堆積体から製造した光ファイバ用ガラス母材における脈理構造(実施例)の一例を示す模式図である。
【
図3】(a)は、比較例の光ファイバ用ガラス母材の屈折率分布測定結果の一例を示す。(b)は、実施例の光ファイバ用ガラス母材の屈折率分布測定結果の一例を示す。
【
図4】(a1)は、比較例の光ファイバ用ガラス母材における脈理構造の一例の詳細を示す模式図であり、(a2)は、a1の拡大図である。
【
図5】(b1)は、実施例の光ファイバ用ガラス母材における脈理構造の一例の詳細を示す模式図であり、(b2)は、b1の拡大図である。
【
図6】(c1)は、実施例の光ファイバ用ガラス母材における脈理構造の他の一例の詳細を示す模式図であり、(c2)は、c1の拡大図である。
【
図7】(d1)は、実施例の光ファイバ用ガラス母材における脈理構造の他の一例の詳細を示す模式図であり、(d2)は、d1の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の出発材は、出発棒、ターゲットロッド等と呼ばれ、アルミナ等のセラミックや石英ガラス製のロッド又はパイプである。また、本発明のガラス原料は、例えば、高純度のGeCl
4及び高純度のSiCl
4等である。また、本発明の火炎形成ガスは、例えば、O
2(酸素)ガス、H
2(水素)ガス、N
2(窒素)ガス等を混合したガスである。
【0029】
以下、本発明に係るガラス微粒子堆積体の製造方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、ガラス微粒子堆積体を外付け化学気相堆積法(OVD法)により製造する製造方法を示す模式図である。
【0030】
この製造方法は、排気装置(図示せず)を有する反応容器(図示せず)内において、少なくとも、ガラス原料ガスと火炎形成ガスとをバーナ1に供給し、バーナ1が噴出する酸水素火炎中でススを生成するとともに、バーナ1を成長軸方向に沿って往復トラバースさせながら、軸線を中心として回転する出発材2の外周面に生成したススをスス付けさせて、ガラス微粒子堆積体3を製造する製造方法である。
【0031】
このように製造されたガラス微粒子堆積体3を、加熱焼結することによって、透明な光ファイバ用ガラス母材(図示せず)が製造される、この光ファイバ用ガラス母材を線引きする前に、コア相当部分で所定の屈折率分布が形成できているか否かを確認するためPA測定を行う。
【0032】
以下では、本発明による製造方法で製造されたガラス微粒子堆積体3から製造した光ファイバ用ガラス母材(以下「実施例」という)の屈折率分布と、従来の製造方法で製造されたガラス微粒子堆積体から製造した光ファイバ用ガラス母材(以下「比較例」という)の屈折率分布とをPA測定によって測定し、両者を比較した結果について説明する。
【0033】
実施例及び比較例の光ファイバ用ガラス母材は、共に、ガラス原料としてGeCl
4及び高純度のSiCl
4を、火炎形成ガスとしてO
2及びH
2等を用いて、
図1に示すOVD法によりガラス微粒子堆積体3を製造し、このガラス微粒子堆積体3を加熱焼結して製造された光ファイバ用ガラス母材である。
【0034】
このように製造したガラス微粒子堆積体3から製造した光ファイバ用ガラス母材における比屈折率差(Δn)の変動として現れる脈理構造を
図2(a)、(b)に示し、この光ファイバ用ガラス母材をPA測定した結果を
図3(a)、(b)に示す。
【0035】
比較例の製造方法は、スス付け時における出発材2のトラバース速度を1000mm/minに統一し、Δn≒1%となるようにGeを添加してなるガラス微粒子堆積体3から光ファイバ用ガラス母材を製造するものである。この光ファイバ用ガラス母材は、スス付け時における出発材2のトラバース速度が一定であることから、
図2(a)に示すように、隣接し合う層が10umの厚みで均一に揃っており、一定周期の脈理が発生している。
【0036】
このような、光ファイバ用ガラス母材をPA測定した結果、
図3(a)に示すように、屈折率分布の中心部に潰れAが発生していることが示されている。この潰れAは、光ファイバ用ガラス母材に10um周期の脈理が生じ、PA測定時にこの周期的な屈折率変化によって入射するPA測定レーザ光が回折し、この回折による干渉によってPA測定が正しく行われなかったために生じたものと判断できる。
【0037】
したがって、比較例の製造方法により製造されたガラス微粒子堆積体3は、入射するPA測定レーザ光の回折による干渉が生じ、正しい屈折率分布を測定できない光ファイバ用ガラス母材が製造されてしまうものである。
【0038】
比較例の製造方法に対して実施例の製造方法は、2層周期でトラバース速度を1200mm/minと800mm/minで交互に変化させ、Δn≒1%となるようにGeを添加してなるガラス微粒子堆積体3から光ファイバ用ガラス母材を製造するものである。この光ファイバ用ガラス母材は、2層周期でトラバース速度を1200mm/minと800mm/minで交互に変化させていることから、
図2(b)に示すように、隣接し合う層が交互に8umと12umの厚みで繰り返されるようになっており、層の厚みが2層ごとに変化する周期の脈理が発生している。
【0039】
このような、光ファイバ用ガラス母材をPA測定した結果、
図3(b)に示すように、屈折率分布に潰れAがないことが示された。すなわち、PA測定レーザ光の入射ビーム径が20um程度である場合、そのビーム径内では脈理の周期は不規則となるので、回折による干渉が発生しにくくなり、屈折率分布に潰れAが発生せず、PA測定が正確にできたものと判断できる。
【0040】
図4(a1)、(a2)、
図5(b1)、(b2)、
図6(c1)、(c2)、
図7(d1)、(d2)は、実施例1〜3及び比較例の光ファイバ用ガラス母材における比屈折率差(Δn)の変動として現れる脈理構造を模式的に示したものであり、何れも、バーナ1が2トラバースする間に出発材2が8回転する条件で製造した場合にどのような脈理が発生するかを示している。
【0041】
図4(a1)、(a2)は、比較例の光ファイバ用ガラス母材に生じる脈理構造を示している。この光ファイバ用ガラス母材は、トラバース速度を一定とするとともに、回転速度も一定として、1トラバースでススの層が1層形成される間に出発材2を4回転させて製造したガラス微粒子堆積体3から製造されたものである。
【0042】
図4(a1)は、4トラバースで形成される範囲の脈理を示しており、1トラバースで10umの厚さの層が形成され、各層毎にさらに回転に起因する4回の脈理が繰り返されている。
【0043】
図4(a2)は、2トラバースで形成される範囲の脈理を拡大して示しており、トラバース速度が一定であり、1トラバース中に等速で4回の回転が行われるため、回転起因の脈理が同じ厚み(2.5um)の一定周期で8回繰り返されるように生じている。
【0044】
図5(b1)、(b2)は、実施例1の光ファイバ用ガラス母材に生じる脈理構造を示している。この光ファイバ用ガラス母材は、2種類のトラバース速度を1層毎に交互に変化させ、回転速度は比較例と同じように、一定の速度で製造したガラス微粒子堆積体3から製造されたものである。
【0045】
図5(b1)は、4トラバースで形成される範囲の脈理を示しており、トラバース速度を1層毎に、2層周期で変化させているため、1トラバースで8umの厚さの層と、1トラバースで12umの厚さの層とが繰り返されるように形成され、2トラバースの間にさらに8回の脈理が繰り返されている。
【0046】
図5(b2)は、2トラバースで形成される範囲の脈理を拡大して示しており、回転起因の脈理が同じ厚み(2.5um)の一定周期で8回繰り返されるように生じている。
【0047】
図6(c1)、(c2)は、実施例2の光ファイバ用ガラス母材に生じる脈理構造を示している。この光ファイバ用ガラス母材は、2種類のトラバース速度を1層毎に交互に変化させるとともに、回転速度をトラバース中に2値間で変化させて製造したガラス微粒子堆積体3から製造されたものである。
【0048】
図6(c1)は、4トラバースで形成される範囲の脈理を示しており、トラバース速度を1層毎に、2層周期で交互に変化させているため、1トラバースで8umの層と、1トラバースで12umの厚さの層とが繰り返されるように形成され、2トラバースの間にさらに8回の脈理が繰り返されている。
【0049】
図6(c2)は、2トラバースで形成される範囲の脈理を拡大して示しており、回転起因の脈理が、2um、3umの厚みで、交互に8回繰り返されるように生じている。
【0050】
図7(d1)、(d2)は、実施例3の光ファイバ用ガラス母材に生じる脈理構造を示している。この光ファイバ用ガラス母材は、2種類のトラバース速度を1層毎に交互に変化させるとともに、回転速度をトラバース中に4値間で変化させて製造したガラス微粒子堆積体3から製造されたものである。
【0051】
図7(d1)は、4トラバースで形成される範囲の脈理を示しており、トラバース速度を1層毎に、2層周期で交互に変化させているため、1トラバースで8umの層と、1トラバースで12umの厚さの層とが繰り返されるように形成され、2トラバースの間にさらに8回の脈理が繰り返されている。
【0052】
図7(d2)は、2トラバースで形成される範囲の脈理を拡大して示しており、回転起因の脈理が、1.5um、3.5um、2um、3umの厚みで、計8回繰り返されるように生じている。
【0053】
したがって、実施例1〜3の製造方法は、バーナ1のトラバース速度を変化させることで、堆積するガラス微粒子層の厚みを隣接し合う層で異ならせているため、比較例のような一定周期の脈理による周期的変化を崩して、光ファイバ用ガラス母材内に不定周期の脈理を形成することができている。また、実施例2,3のように、回転周期も変えることにより、より周期性を崩すことができる。
【0054】
よって、実施例の製造方法は、入射するPA測定レーザ光の回折現象による干渉の発生を防ぐことができ、正確な屈折率構造をPA測定できるガラス微粒子堆積体3を製造することができる。
【0055】
また、実施例の製造方法で製造されたガラス微粒子堆積体3から製造された光ファイバ用ガラス母材は、正確な屈折率構造をPA測定できるので、このPA測定結果から計算される特性値の誤差を小さくすることができる。
【0056】
実施例1〜3におけるスス付け時の出発材2のトラバース速度や出発材2の回転速度を変化させる方法は、例えば、M系列やM系列以外の二進疑似乱数列を用いる方法が挙げられる。
【0057】
尚、M系列は、疑似的なホワイトノイズを発生する疑似ランダムパターンであって、単純パターン化されたものである。すなわち、実施例のように出発材2の回転速度やバーナ1のトラバース速度を変化させる際に、このM系列を採用することは、スス付け作業を行うための設備に簡単に装備することができる。
【0058】
尚、本発明は、例示した実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。
【0059】
例えば、バーナ1のトラバース速度や出発材2の回転速度を変化させることで、不定周期の脈理を形成し、この不定周期の脈理による不定期的な屈折率変化を生じさせる製造方法に限らず、原料ガスの投入量を変化させること、火炎形成ガスの流量を変化させること等で、不定周期の脈理を形成し、この不定周期の脈理による不定期的な屈折率変化を生じさせる製造方法としてもよい(図示せず)。
【0060】
また、バーナ1のトラバース速度や出発材2の回転速度を他の条件によるM系列に従って変化させること、出発材2の回転速度をM系列以外の二進疑似乱数列に従って変化させること、バーナ1のトラバース速度や出発材2の回転速度を3値以上の有限個の設定値で変化させること等で、不定周期の脈理を形成し、この不定周期の脈理による不定期的な屈折率変化を生じさせる製造方法としてもよい(図示せず)。
【0061】
また、OVD法のような外付け法によるガラス微粒子堆積体の製造方法に限らず、MCVD法(内付け化学気相堆積法)やPCVD法(プラズマ活性型化学的気相堆積法)等のような内付け法によって、ガラス管の内側にガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を製造する製造方法としてもよい(図示せず)。
【0062】
また、製造されるガラス微粒子堆積体は、光ファイバ用ガラス母材のコア部を製造するものに限らず、光ファイバ用ガラス母材のジャケット部を製造するものであってもよい(図示せず)。
【符号の説明】
【0063】
1:バーナ 2:出発材 3:ガラス微粒子堆積体