特許第5761008号(P5761008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761008負極用合剤、リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池
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  • 特許5761008-負極用合剤、リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761008
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】負極用合剤、リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20150723BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20150723BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20150723BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20150723BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/587
   H01M4/1393
   H01M4/133
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-284319(P2011-284319)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-134896(P2013-134896A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊東 寿
(72)【発明者】
【氏名】市川 裕一
【審査官】 山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−106542(JP,A)
【文献】 特開2001−266855(JP,A)
【文献】 特開2008−071757(JP,A)
【文献】 特開2011−192539(JP,A)
【文献】 特開平11−111300(JP,A)
【文献】 特開2010−080297(JP,A)
【文献】 特開2005−005113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を含む負極用合剤であって、
前記負極用合剤は負極活物質、結着剤、層状化合物、および分散媒を含み、かつ該分散媒が水であ
前記結着剤は、水分散型結着剤を含み
前記水分散型結着剤は、エマルジョン樹脂および水溶性樹脂を含み、
前記負極用合剤における前記エマルジョン樹脂の含有量は、前記負極用合剤における前記水溶性樹脂の含有量以上であり、
前記水溶性樹脂は、カルボキシメチルセルロースを含み、
前記層状化合物は、スメクタイトを含むことを特徴とする負極用合剤。
【請求項2】
前記層状化合物の含有量が、前記負極用合剤全体の0.08重量%以上2.00重量%以下である請求項1に記載の負極用合剤。
【請求項3】
前記エマルジョン樹脂がスチレンブタジエンゴムを含む請求項またはに記載の負極用合剤。
【請求項4】
前記エマルジョン樹脂の含有量が、前記負極用合剤全体の0.1重量%以上1.5重量%以下である請求項のいずれか一項に記載の負極用合剤。
【請求項5】
前記負極活物質にハードカーボンを含む請求項1〜のいずれか一項に記載の負極用合剤。
【請求項6】
前記負極活物質に黒鉛を含む請求項1〜のいずれか一項に記載の負極用合剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の負極用合剤を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項8】
請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極を含むリチウムイオン二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極用合剤、リチウムイオン二次電池用負極、およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の負極には、黒鉛等の負極活物質が使用されている。このようなリチウムイオン二次電池の負極は、一般に、負極活物質を結着剤とともに有機溶媒に分散した合剤を集電体上に塗工し、その後、乾燥、プレスすることにより形成される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、従来の負極の製造過程では、塗工前の保管時や、塗工後の乾燥時において合剤中の負極活物質や結着剤が分離・偏析するといった問題があり、その結果リチウムイオン二次電池の負極の性能の低下が生じるといった問題があった。その結果、得られるリチウムイオン二次電池の特性(出力、容量等)が低下するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−096623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、塗工前の保管時、および塗工後の乾燥時において、負極活物質や結着剤が分離、偏析することを抑制し、リチウムイオン二次電池用負極を安定に製造することができる負極用合剤を提供することである。併せて、安定した出力、容量等の特性を備え、特に高速充放電に有用なリチウムイオン二次電池用負極と、安定した出力、容量等の特性を備え、特に高速充放電に有用なリチウムイオン二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により達成される。
(1)リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を含む負極用合剤であって、
前記負極用合剤は負極活物質、結着剤、層状化合物、および分散媒を含み、かつ該分散媒が水であ
前記結着剤は、水分散型結着剤を含み
前記水分散型結着剤は、エマルジョン樹脂および水溶性樹脂を含み、
前記負極用合剤における前記エマルジョン樹脂の含有量は、前記負極用合剤における前記水溶性樹脂の含有量以上であり、
前記水溶性樹脂は、カルボキシメチルセルロースを含み、
前記層状化合物は、スメクタイトを含むことを特徴とする負極用合剤。
(2)前記層状化合物の含有量が、前記負極用合剤全体の0.08重量%以上2.00重量%以下である(1)に記載の負極用合剤。
(3)前記エマルジョン樹脂がスチレンブタジエンゴムを含む()または()に記載の負極用合剤。
(4)前記エマルジョン樹脂の含有量が、前記負極用合剤全体の0.1重量%以上1.5重量%以下である()〜()のいずれか一項に記載の負極用合剤。
(5)前記負極活物質にハードカーボンを含む(1)〜()のいずれか一項に記載の負極用合剤。
(6)前記負極活物質に黒鉛を含む(1)〜()のいずれか一項に記載の負極用合剤。
(7)(1)〜(のいずれか一項に記載の負極用合剤を用いてなるリチウムイオン二次電池用負極。
(8)(7)に記載のリチウムイオン二次電池用負極を含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塗工前の保管時、および塗工後の乾燥時において、負極活物質や結着剤が分離、偏析することを抑制し、リチウムイオン二次電池用負極を安定に製造することができる合剤を提供することができる。併せて、安定した出力、容量等の特性を備え、特に高速充放電に有用なリチウムイオン二次電池用負極と、安定した出力、容量等の特性を備え、特に高速充放電に有用なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リチウムイオン二次電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の負極用合剤は、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を含む負極用合剤であって、前記負極用合剤は負極活物質、層状化合物、結着剤、および分散媒を含み、かつ該分散媒が水であることを特徴とする。
【0010】
このような構造をとることにより、塗工前の保管時、および塗工後の乾燥時において、負極活物質や結着剤が分離、偏析することを抑制し、リチウムイオン二次電池用負極を安定に製造することができる。また、塗工後の乾燥時において、負極活物質や結着剤が分離、偏析することを抑制することで、集電体と負極活物質との密着を十分に上昇させることができ、リチウムイオン二次電池としての導通安定性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、前記負極用合剤を用いてなる。
【0012】
前記負極用合剤を用いることにより、安定した出力、容量等の特性を備え、特に高速充放電に有用なリチウムイオン二次電池用負極を提供することができる。
【0013】
また、本発明のリチウムイオン二次電池は、前記リチウムイオン二次電池用負極を用いてなる。
【0014】
前記リチウムイオン二次電池用負極を用いることにより、安定した出力、容量等の特性を備え、特に高速充放電に有用なリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0015】
以下、本発明の負極用合剤について詳細に説明する。
本発明の負極用合剤は、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質を含む負極用合剤であって、前記負極用合剤は負極活物質、層状化合物、結着剤、および分散媒を含み、かつ該分散媒が水であることを特徴とする。
【0016】
<リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質>
まず、リチウムイオンに用いられる二次電池用負極活物質(以下、負極活物質という場合もある)について説明する。
【0017】
本発明の負極用合剤は、負極活物質を含む。負極活物質は、最終的なリチウムイオン二次電池の負極において、活物質として機能するものである。負極活物質は、黒鉛、ハードカーボン、Siまたはその酸化物で構成されたもの、等を用いることができ、これらを2種類以上含んでもよい。中でも黒鉛、ハードカーボンが好ましく、特に黒鉛とハードカーボンを併用したものが好ましい。これにより、前記負極用合剤が、保管時および乾燥時において、負極活物質や結着剤が分離、偏析することを抑制することができる。また、リチウムイオン二次電池としたときに、充放電効率を高いものとしつつ、サイクル時の安定性を高め、大電流の入出力特性を改善することができる。
【0018】
前記負極活物質の含有量は、特に限定されないが、負極用合剤全体の30重量%以上60重量%以下が好ましく、40重量%以上55重量%以下がより好ましい。前記上限値以下であることで、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析、膜厚のバラツキを抑える効果が向上し、前記下限値以上であることで、電極目付量の均一性を向上させるという効果がある。
【0019】
[黒鉛(グラファイト)]
黒鉛とは、炭素の同素体の1つであり、六炭素環が連なった層からできている層状格子をなす六方晶系、六角板状結晶の物質である。
【0020】
黒鉛をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いた場合、充放電効率に優れているが、サイクルを繰り返した際の充放電容量の低下が早く、また、大電流の入出力特性が低いという傾向がある。また、負極用合剤としたときに、分散媒を水とすると、水との親和性が後述するハードカーボンと比べて低いことにより、乾燥時に分散媒である水が十分に除去され易いという優れた効果を有する。一方、水との親和性の低さが、保管時や、乾燥時に分離、偏析を起こす傾向がある。
【0021】
これに対して、黒鉛に後述するようなハードカーボンを添加することにより、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析をより抑制することができる。また、リチウムイオン二次電池としたときに充放電効率を高いものとしつつ、サイクル時の安定性を高め、大電流の入出力特性を改善することができる。
【0022】
負極活物質中における黒鉛の含有量は、特に限定されないが、55〜95重量%であるのが好ましく、60〜85重量%であるのがより好ましい。黒鉛の含有量が上記範囲であると、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果を向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、充放電効率を高いものとしつつ、サイクル時の安定性を高め、大電流の入出力特性を改善することができる。
【0023】
負極活物質中における黒鉛の粒径は、特に限定されないが、平均粒径1〜50μmであるのが好ましく、5〜30μmであるのがより好ましい。黒鉛の粒径が上記範囲であると、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果を向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、充放電効率を高いものとしつつ、サイクル時の安定性を高め、大電流の入出力特性を改善することができる。ここで、黒鉛の粒径は、粒子形状とMie理論を用いて測定量を粒子径に算出した値とし、有効径と称されるものである。黒鉛の粒径は、例えば分散媒として水を、分散剤として市販の界面活性剤を使用して、超音波処理によって負極活物質を水中に分散させたものを用いて、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される体積換算で頻度が50%となる粒子径を平均粒径D50%として求めることができる。
【0024】
[ハードカーボン]
ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)とは、例えばグラファイト結晶構造が発達しにくい高分子等を焼成して得られる炭素材であって、アモルファス(非晶質)な物質である。言い換えると、ハードカーボンとは、樹脂または樹脂組成物等を炭化処理することにより得られる炭素素材である。
【0025】
このようなハードカーボンは、水との親和性が高いことにより、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析することをより抑制することができる。また、リチウムイオン二次電池としたときに、サイクル時の安定性が高く、大電流の出し入れを容易に行うことができる。しかしながら、ハードカーボンで構成された炭素材を負極として用いた場合、充放電効率が低下し易い傾向がある。また、ハードカーボンは、分散媒としての水との親和性が高いため、乾燥時に分散媒である水が除去しにくいという傾向がある。そのため、前述の通りに黒鉛と併用することで、負極用合剤としたときに、乾燥時に分散媒が残存することをより抑制することができ、また、リチウムイオン二次電池としたときに、充放電効率を優れたものとしつつ、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性にも優れたものとすることができる。
【0026】
負極活物質におけるハードカーボンの含有量は、5〜45重量%であるのが好ましく、15〜40重量%であるのがより好ましい。ハードカーボンの含有量が上記範囲であると、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果を向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、優れた充放電効率を損なうことなく、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性をより効果的に高いものとすることができる。
【0027】
負極活物質中におけるハードカーボンの粒径は、特に限定されないが、1〜50μmであるのが好ましく、2〜30μmであるのがより好ましい。ハードカーボンの粒径が上記範囲であると、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果を向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、優れた充放電効率を損なうことなく、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性をより効果的に高いものとすることができる。ここで、ハードカーボンの粒径は、前記黒鉛の粒径と同様に、粒子形状とMie理論を用いて測定量を粒子径に算出した値とし、有効径と称されるものである。ハードカーボンの粒径は、例えば分散媒として水を、分散剤として市販の界面活性剤を使用して、超音波処理によってハードカーボンを水中に分散させたものを用いて、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される体積換算で頻度が50%となる粒子径を平均粒径D50%として求めることができる。
【0028】
また、前記負極活物質は、黒鉛とハードカーボンを併用することが好ましい。特に、負極活物質における黒鉛の含有量をA[重量%]、ハードカーボンの含有量をB[重量%]としたとき、1.2≦A/B≦19の関係を満足するのが好ましく、1.5≦A/B≦5.6の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、前記負極用合剤が、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑制する効果をさらに向上することができ、リチウムイオン二次電池としたときに、優れた充放電効率を損なうことなく、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性をさらに効果的に高いものとすることができる。
【0029】
ハードカーボンの原材料となる、樹脂あるいは、樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、あるいはエチレン製造時に副生する石油系のタールおよびピッチ、石炭乾留時に生成するコールタール、コールタールの低沸点成分を蒸留除去した重質成分やピッチ、石炭の液化により得られるタール及びピッチのような石油系または石炭系のタール若しくはピッチ、さらには前記タール、ピッチ等を架橋処理したものなどを含有することができ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
また、後述するように、樹脂組成物は、上記樹脂を主成分とするとともに、硬化剤、添加剤などを併せて含有することができ、さらには酸化等による架橋処理なども適宜実施することができる。
【0031】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、シアネート樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。また、これらが種々の成分で変性された変性物を用いることもできる。
【0032】
また、熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリプロピレン、塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフタルアミド、などが挙げられる。
【0033】
特にハードカーボンに用いられる主成分となる樹脂としては、熱硬化性樹脂が好ましい。これにより、ハードカーボンの残炭率をより高めることができる。
【0034】
特に、熱硬化性樹脂の中でも、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、及び、アニリン樹脂、およびこれらの変性物から選ばれるものであることが好ましい。これにより、負極活物質の設計の自由度が広がり、低価格で製造することができる。また、サイクル時の安定性、および、大電流の入出力特性をさらに高いものとすることができる。
【0035】
また、熱硬化性樹脂を用いる場合には、その硬化剤を併用することができる。
用いられる硬化剤としては、特に限定されず、例えば、ノボラック型フェノール樹脂の場合はヘキサメチレンテトラミン、レゾール型フェノール樹脂、ポリアセタール、パラホルムなどを用いることができる。また、エポキシ樹脂の場合は、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミンなどのポリアミン化合物、酸無水物、イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、ノボラック型フェノール樹脂、ビスフェノール型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂など、エポキシ樹脂にて公知の硬化剤を用いることができる。
【0036】
なお、通常は所定量の硬化剤を併用する熱硬化性樹脂であっても、本発明で用いられる樹脂組成物においては、通常よりも少ない量を用いたり、あるいは硬化剤を併用しないで用いたりすることもできる。
【0037】
また、ハードカーボンの原材料としての樹脂組成物においては、上記成分の他、添加剤を配合することができる。
【0038】
ここで用いられる添加剤としては特に限定されないが、例えば、200〜800℃にて炭化処理した炭素材前駆体、有機酸、無機酸、含窒素化合物、含酸素化合物、芳香族化合物、および、非鉄金属元素などを挙げることができる。これら添加剤は、用いる樹脂の種類や性状などにより、1種または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
ハードカーボンの原材料として用いられる樹脂としては、後述する含窒素樹脂類を主成分樹脂として含んでいてもよい。また、主成分樹脂に含窒素樹脂類が含まれていないときには主成分樹脂以外の成分として、少なくとも1種以上の含窒素化合物を含んでいてもよいし、含窒素樹脂類を主成分樹脂として含むとともに含窒素化合物を主成分樹脂以外の成分として含んでいてもよい。このような樹脂を炭化処理することにより、窒素を含有するハードカーボンを得ることができる。ハードカーボン中に窒素が含まれると、窒素の有する電気陰性度により、ハードカーボンに好適な電気的特性を付与することができる。これにより、リチウムイオンの吸蔵・放出を促進させ、高い充放電特性を付与することができる。
【0040】
ここで、含窒素樹脂類としては、以下のものを例示することができる。
熱硬化性樹脂としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂のほか、アミンなどの含窒素成分で変性されたフェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフタルアミドなどが挙げられる。
【0042】
また、含窒素樹脂類以外の樹脂としては、以下のものを例示することができる。
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0043】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトンなどが挙げられる。
【0044】
また、主成分樹脂以外の成分として含窒素化合物を用いる場合、その種類としては特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂の硬化剤であるヘキサメチレンテトラミン、エポキシ樹脂の硬化剤である脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、ジシアンジアミドなどのほか、硬化剤成分以外にも、硬化剤として機能しないアミン化合物、アンモニウム塩、硝酸塩、ニトロ化合物など窒素を含有する化合物を用いることができる。
上記含窒素化合物としては、主成分樹脂に含窒素樹脂類を含む場合であっても含まない場合であっても、1種類を用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
ハードカーボンの原材料として用いられる樹脂組成物、あるいは樹脂中の窒素含有量としては特に限定されないが、5〜65重量%であることが好ましく、10〜20重量%であるのがより好ましい。
【0046】
このような樹脂組成物あるいは樹脂の炭化処理を行うことにより得られるハードカーボン中における炭素原子含有量は95wt%以上であるのが好ましく、さらに、窒素原子含有量が0.5〜5wt%であるのが好ましい。
【0047】
このように窒素原子を0.5wt%以上、特に1.0wt%以上含有することで、窒素の有する電気陰性度により、ハードカーボンに好適な電気的特性を付与することができる。これにより、リチウムイオンの吸蔵・放出を促進させ、高い充放電特性を付与することができる。
【0048】
また、窒素原子を5wt%以下、特に3wt%以下とすることで、ハードカーボンに付与される電気的特性が過剰に強くなってしまうことが抑制され、吸蔵されたリチウムイオンが窒素原子と電気的吸着を起こすことが防止される。これにより、不可逆容量の増加を抑制し、高い充放電特性を得ることができる。
【0049】
ハードカーボン中の窒素含有量は、上記樹脂組成物あるいは樹脂中の窒素含有量のほか、樹脂組成物あるいは樹脂を炭化する条件や、炭化処理の前に硬化処理やプレ炭化処理を行う場合には、それらの条件についても適宜設定することによって、調整することができる。
【0050】
例えば、上述したような窒素含有量である炭素材を得る方法としては、樹脂組成物あるいは樹脂中の窒素含有量を所定値として、これを炭化処理する際の条件、特に、最終温度を調整する方法があげられる。
【0051】
ハードカーボンの原材料として用いられる樹脂組成物の調製方法としては特に限定されず、例えば、上記主成分樹脂と、これ以外の成分とを所定の比率で配合し、これらを溶融混合する方法、これらの成分を溶媒に溶解して混合する方法、あるいは、これらの成分を粉砕して混合する方法などにより調製することができる。
【0052】
樹脂組成物の調製のための装置としては特に限定されないが、例えば、溶融混合を行う場合には、混練ロール、単軸あるいは二軸ニーダーなどの混練装置を用いることができる。また、溶解混合を行う場合は、ヘンシェルミキサー、ディスパーザなどの混合装置を用いることができる。そして、粉砕混合を行う場合には、例えば、ハンマーミル、ジェットミルなどの装置を用いることができる。
【0053】
このようにして得られた樹脂組成物は、複数種類の成分を物理的に混合しただけのものであってもよいし、樹脂組成物の調製時、混合(攪拌、混練など)に際して付与される機械的エネルギーおよびこれが変換された熱エネルギーにより、その一部を化学的に反応させたものであってもよい。具体的には、機械的エネルギーによるメカノケミカル的反応、熱エネルギーによる化学反応をさせてもよい。
【0054】
ハードカーボンは、上記の樹脂組成物あるいは、樹脂を炭化処理してなるものである。
ここで炭化処理の条件としては特に限定されないが、例えば、常温から1〜200℃/時間で昇温して、800〜3000℃で0.1〜50時間、好ましくは0.5〜10時間保持して行うことができる。炭化処理時の雰囲気としては窒素、ヘリウムガスなどの不活性雰囲気下、もしくは不活性ガス中に微量の酸素が存在するような、実質的に不活性な雰囲気下、または還元ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このようにすることで、樹脂の熱分解(酸化分解)を抑制し、所望のハードカーボンを得ることができる。
【0055】
このような炭化処理時の温度、時間等の条件は、ハードカーボンの特性を最適なものにするため適宜調整することができる。
【0056】
<層状化合物>
次に、層状化合物について説明する。
【0057】
本発明の負極用合剤は、層状化合物を含む。前記層状化合物は、前記負極用合剤にチクソ性を付与し、静置時には増粘効果をもたらすことにより、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑えることができる。また、リチウムイオン二次電池としたときに、充放電効率を高いものとしつつ、サイクル時の安定性を高め、大電流の入出力特性を改善することができる。
【0058】
前記層状化合物としては、特に限定されないが、例えば粘土鉱物、マイカ、層状リン酸塩、層状複水酸化物が挙げられ、これらを2種以上含んでもよい。中でも、水分散性と少量の添加でチクソ性を調整できるという観点から、粘土鉱物が好ましい。
【0059】
前記粘土鉱物としては、特に限定されないが、例えばベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイトが挙げられ、これらを2種以上含んでもよい。中でも、水分散性と少量の添加でチクソ性を調整できるという観点から、ベントナイトが好ましい。
【0060】
前記層状化合物の含有量は、特に限定されないが、負極用合剤全体の0.08重量%以上2.00重量%以下が好ましく、0.10重量%以上1.00重量%以下がより好ましい。前記上限値以下であることで、負極合剤としての取扱い性が良く、また、塗工の際、塗工ムラの発生を抑え、塗工外観の良い負極が形成できるという効果があり、前記下限値以上であることで、前記負極用合剤に十分な増粘効果をもたらすことにより、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果をより向上することができる。
【0061】
<結着剤>
本発明の負極用合剤は、結着剤を含む。結着剤を含むことで、負極用合剤の増粘効果が向上し、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果を向上させる。また、リチウムイオン二次電池としたときに、負極活物質と集電体の密着が上昇する。一方、結着剤は導電性が低いことから、リチウムイオン二次電池の負極は、結着剤を含むことで負極の電気抵抗が上昇し、電極としての物性が低下する傾向があり、また不可逆容量成分としてリチウムイオン二次電池の初回充放電効率を低下させる傾向があるという問題がある。これに対して、負極用合剤に前述の層状化合物を結着剤と併せて添加することにより、結着剤の添加量を抑えることができ、負極用合剤の増粘効果が向上し、保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果を維持しながら、負極としての物性の低下を抑制することができる。
【0062】
前記結着剤の含有量は、特に限定されないが、負極用合剤全体の0.1重量%以上2.0重量%以下が好ましく、0.3重量%以上1.2重量%以下がより好ましい。前記上限値以下であることで、不可逆容量成分を抑制し初回充放電効率を高める事やサイクル特性を向上させるという効果があり、前記下限値以上であることで、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果が向上する。
【0063】
また、前記結着剤の負極用合剤における含有量をC[重量%]、前記層状化合物の含有量をD[重量%]としたとき、1≦C/D≦20の関係を満足するのが好ましく、1.5≦C/D≦10の関係を満足するのがより好ましい。このような関係を満足することにより、負極用合剤の塗工前の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果をより向上させることができる。
【0064】
前記結着剤は、特に限定されないが、例えば水分散型の結着剤、有機溶媒分散型の結着剤が挙げられる。中でも、水分散型の結着剤が好ましく、水分散型の結着剤を含むことにより、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果が向上する。
【0065】
前記水分散型の結着剤は、特に限定されないが、例えばエマルジョン樹脂、水溶性樹脂等が挙げられ、好ましくは、エマルジョン樹脂、水溶性樹脂を併用することである。これにより、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果を向上させ、併せて負極活物質と集電体の密着を上昇させることができる。
【0066】
前記エマルジョン樹脂としては、特に限定されないが、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBRラテックス)等のゴム状高分子が挙げられ、中でもスチレンブタジエンゴムが好ましい。スチレンブタジエンゴムを含むことで、負極としたときの活物質と集電体、および活物質同士の結着性が向上し、併せて、負極としたときの柔軟性が向上し、乾燥後の巻き取りの際に、耐折り返し性が向上するという効果が得られる。
【0067】
前記水溶性樹脂としては、特に限定されないが、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリウレタン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられ、中でもカルボキシメチルセルロース(CMC)が好ましい。カルボキシメチルセルロース(CMC)を含むことで、塗工の際に製膜性が向上し、併せて負極として機械特性が向上し、負極活物質の脱落を抑制する効果が上昇する。
【0068】
前記エマルジョン樹脂の含有量は、特に限定されないが、負極用合剤全体の0.1重量%以上1.5重量%以下が好ましく、0.3重量%以上1.0重量%以下がより好ましい。前記上限値以下であることで、不可逆容量成分を抑制し初回充放電効率を高める事やサイクル特性を向上させるという効果があり、前記下限値以上であることで、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果が向上する。
【0069】
前記エマルジョン樹脂の負極用合剤全体における含有量は、前記負極用合剤における前記均一溶解樹脂の含有量以上であることが好ましい。このようにすることで、負極活物質と集電体、および負極活物質同士の結着性を有しながら電極抵抗を上昇を抑制し、サイクル特性や急速充放電特性がより向上する。
【0070】
<分散媒>
本発明の負極用合剤は、分散媒が水であることを特徴とする。分散媒が水であることにより、従来の有機溶媒のものと比べて、環境負荷の低減を実現し、さらに有機溶剤を使用しないため防爆仕様の塗布装置にすることがないので、コスト削減の効果が得られる。
【0071】
前記負極用合剤中における分散媒の含有量は、40重量%以上70重量%以下であるのが好ましく、45重量%以上60重量%以下であるのがより好ましい。前記好ましい範囲内であることにより液ダレを抑制し、間欠塗工性の良い負極合剤が得られる。
【0072】
<負極用合剤>
本発明の負極用合剤は、例えば、前記負極用活物質と前記層状化合物と、分散媒である水とを混合・混練してスラリー状にすることにより調製することができる。混合・混練する方法は、特に限定されないが、ロール混錬、ボールミル混錬、プラネタリーミキサー等を使用したミキサー混錬のようにすることができる。このような方法で負極用合剤を製造することで、負極用合剤の均一分散性を向上させるという効果が得られる。
【0073】
前記負極用合剤は、固形分濃度が30重量%以上60重量%以下が好ましく、より好ましくは、40重量%以上55重量%以下である。前記好ましい範囲内であることにより、負極用合剤の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果が向上する。
【0074】
前記負極用合剤は、塗工時における粘度が、1000mPs以上10000mPs以下が好ましく、より好ましくは1500mPs以上5000mPs以下である。前記好ましい範囲内であることにより、塗工ムラ等が無く、均一に塗工することができる。ここで、負極用合剤の粘度は、例えば、コーンプレート型粘度計にて25℃におけるせん断速度1.0/secの条件にて求めることができる。
【0075】
前記負極用合剤は、必要により、導電助剤、接着促進剤等の添加剤を加えてもよい。前記導電助剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維等を用いることができる。接着促進剤としては、シュウ酸、シュウ酸アンモニウム、アジピン酸、ギ酸、アクリル酸誘導体等を用いる事ができる。
【0076】
<リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池>
次に、本発明のリチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池について説明する。
【0077】
図1は、二次電池の実施形態の構成を示す概略図である。
二次電池10は、図1に示すように、負極13と、正極21と、電解液16と、セパレータ18とを有している。
【0078】
負極13は、図1に示すように、負極材12と負極集電体14とを有している。
負極集電体14は、例えば、銅箔またはニッケル箔等で構成されている。
負極材12は、上述したような負極用活物質により構成されている。
【0079】
負極13は、例えば、以下のようにして製造することができる。
上記負極用合剤を負極材12として用い、これを負極集電体14に塗布、乾燥することにより、負極13を製造することもできる。
【0080】
電解液16は、正極21と負極13との間を満たすものであり、充放電によってリチウムイオンが移動する層である。
【0081】
電解液16としては、非水系溶媒に電解質となるリチウム塩を溶解したものが用いられる。
【0082】
この非水系溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル類、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネートなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタンなどの鎖状エーテル類などの混合物などを用いることができる。
【0083】
電解質としては、LiClO、LiPFなどのリチウム金属塩、テトラアルキルアンモニウム塩などを用いることができる。また、上記塩類をポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリルなどに混合し、固体電解質として用いることもできる。
【0084】
セパレータ18としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの多孔質フィルム、不織布などを用いることができる。
【0085】
正極21は、図1に示すように、正極材20と正極集電体22とを有している。
正極材20としては、特に限定されず、例えば、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO)、リチウムマンガン酸化物(LiMn)などの複合酸化物や、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子などを用いることができる。
【0086】
正極集電体22としては、例えば、アルミニウム箔を用いることができる。
そして、本実施形態における正極21は、既知の正極の製造方法により製造することができる。
【0087】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各実施例、比較例で示される「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を示す。
【0089】
(実施例1)
[1]炭素材の製造
樹脂組成物として、フェノール樹脂PR−217(住友ベークライト(株)製)を以下の工程(a)〜(f)の順で処理を行い、負極活物質としてハードカーボンを得た。
【0090】
(a)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、室温から500℃まで、100℃/時間で昇温
(b)還元ガス置換、不活性ガス置換、還元ガス流通、不活性ガス流通のいずれも無しで、500℃で2時間脱脂処理後、冷却
(c)振動ボールミルで微粉砕
(d)不活性ガス(窒素)置換および流通下、室温から1200℃まで、100℃/時間で昇温
(e)不活性ガス(窒素)流通下、1200℃で8時間炭化処理
(f)不活性ガス(窒素)流通下、600℃まで自然放冷後、600℃から100℃以下まで、100℃/時間で冷却
【0091】
[2]負極用合剤1の作製
負極活物質として作製したハードカーボン(以下、HCとも言う。)を100部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック、以下、ABとも言う。)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001、以下、SBRとも言う)1.5部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200、以下、CMCとも言う。)0.5部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF、以下、SWFとも言う。)0.4部、イオン交換水115部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤1を得た。作製した負極用合剤1を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。
【0092】
[3]評価
(1)二次電池評価用二極式コインセルの製造
作製した負極用合剤1を18μm銅箔の片面に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥した。真空乾燥後、ロールプレスによって電極を加圧成形した。これを直径16.156mmの円形として切り出し負極を作製した。
【0093】
対極はリチウム金属を用いて二極式コインセルにて評価を行った。電解液として体積比が1:1のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合液に過塩素酸リチウムを1モル/リットル溶解させたものを用いた。
【0094】
(2)充電容量、放電容量の評価
充電条件は電流25mA/gの定電流で1mVになるまで充電した後、1mV保持で1.25mA/gまで電流が減衰したところを充電終止とした。また、放電条件のカットオフ電位は、1.5Vとした。評価結果を表2に示す。
【0095】
(3)充放電効率の評価
上記(2)で得られた値をもとに、下記式により算出した。評価結果を表2に示す。
充放電効率(%)=[放電容量/充電容量]×100
【0096】
(4)大電流特性
上記(2)で得られた放電容量の値をもとに、10時間で放電終了する電流値を0.1Cとし、0.1Cの電流値で放電して得られた放電容量と、1Cの電流値で放電して得られた放電容量の比[1C放電容量/0.1C放電容量]を大電流特性の指標とした。評価結果を表2に示す。
【0097】
(5)密着性
負極用合剤を18μm銅箔の片面に塗布し、その後、110℃で1時間真空乾燥して作製した電極に、カッターでXカットを入れ、その上にスコッチテープを貼り付けた後に、180°ピールテストを行った。
密着性の判定は、下記の指標で行い、評価結果を表2に示す。
○:Xカット部分のみに一部テープ取られが確認される。
△:Xカット部分およびカット間のテープ取られが確認される。
×:Xカット部及びカット間の全てがデープに取られる。
【0098】
(実施例2)
負極活物質として実施例1と同様に作製したハードカーボンを35部および球状化した天然黒鉛を65部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001)1.5部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200)1.0部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF)0.3部、イオン交換水120部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤2を得た。作製した負極用合剤2を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。作製した負極用合剤2の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0099】
(実施例3)
負極活物質として実施例1と同様に作製したハードカーボンを35部および球状化した天然黒鉛を65部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001)1.25部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200)0.5部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF)1.0部、イオン交換水130部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤3を得た。作製した負極用合剤3を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。作製した負極用合剤3の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0100】
(実施例4)
負極活物質として実施例1と同様に作製したハードカーボンを35部および球状化した天然黒鉛を65部、導電助剤(デンカ製、アセチレンブラック)2.0部、結着剤として、エマルジョン樹脂であるスチレンブタジエンラテックス(JSR製、TRDー2001)1.5部、水溶解性樹脂であるカルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム製、CMCダイセル2200)0.7部、層状化合物として合成スメクタイト(コープケミカル製、SWF)2.2部、イオン交換水155部をプラネタリーミキサーで十分撹拌して負極用合剤4を得た。作製した負極用合剤4を60℃2週間オーブンで保管したが、結着剤の偏析は見られなかった。作製した負極用合剤4の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0101】
(比較例1)
実施例1における負極用合剤1の配合から合成スメクタイトを除いた配合により、負極用合剤5を得た。作製した負極用合剤5を60℃2週間オーブンで保管した結果、スチレンブタジエンラテックスの偏析が表面に見られた。作製した負極用合剤5の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0102】
(比較例2)
<負極合剤6の作製>
実施例2における負極用合剤2の配合から合成スメクタイトを除いた配合により、負極用合剤6を得た。作製した負極用合剤を60℃2週間オーブンで保管した結果、スチレンブタジエンラテックスの偏析が表面に見られた。作製した負極用合剤6の配合を表1に示し、評価結果を表2に示す。
【0103】
上記実施例、比較例で得られた負極用合剤の配合を表1に示す。
【0104】
上記実施例、比較例で得られた負極用合剤を負極として使用した場合の充電容量、放電容量、充放電効率、1Cと0.1Cの放電容量比の測定結果、負極用合剤の偏析の有無、および密着性を表2に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
表2から明らかのように、実施例1〜4では高い密着性が確認されたが、これは負極用合剤の塗工前の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える効果をより向上させることができたため、活物質間の結着が十分できたために、密着力の向上および大電流特性評価時の容量低下を抑制できたものと推察される。
【0108】
表2から明らかのように、実施例では負極用合剤の塗工前の保管時や、乾燥時に分離、偏析を抑える十分な効果が確認されたが、比較例では十分な結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0109】
10 二次電池
12 負極材
14 負極集電体
13 負極
20 正極材
22 正極集電体
21 正極
16 電解液
18 セパレータ
図1