特許第5761063号(P5761063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761063
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】デブリの位置特定方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/07 20060101AFI20150723BHJP
   G21C 17/08 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   G21C17/06 L
   G21C17/08
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-25668(P2012-25668)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-160738(P2013-160738A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅沢 修一
【審査官】 林 靖
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−084005(JP,A)
【文献】 特開2005−249568(JP,A)
【文献】 特開2002−022759(JP,A)
【文献】 特開2007−033306(JP,A)
【文献】 特開2006−017616(JP,A)
【文献】 特開2008−215999(JP,A)
【文献】 特開2008−064697(JP,A)
【文献】 特開平10−019919(JP,A)
【文献】 特開2006−110678(JP,A)
【文献】 特開2000−046987(JP,A)
【文献】 特開平05−264394(JP,A)
【文献】 特開平08−297186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00−17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー発振装置と、
前記レーザー発振装置から発振されたレーザー光をシート状に照射するレーザーシート形成用の走査光学系と、
前記レーザーシートにおける測定領域の光データを伝送する光ケーブルと、
前記光ケーブルによって伝送された光データを撮影して画像データを取得するカメラと、
前記画像データを処理する画像処理部と、
前記走査光学系および前記光ケーブルを原子炉圧力容器または原子炉格納容器内の冷却水中に挿入するアームと、
前記光ケーブルを介して前記カメラに接続された対物レンズと、
を備え、
前記走査光学系および前記対物レンズは、1本の前記アームの異なる位置に取り付けられていて、
前記画像処理部は、冷却水の上昇流を検知してデブリの位置を特定することを特徴とするデブリの位置特定方法。
【請求項2】
前記走査光学系は上方または側方から垂直面内にレーザーシートを形成し、
前記画像処理部は上昇流を検知して、該上昇流の下方にデブリが存在すると判断することを特徴とする請求項1に記載のデブリの位置特定方法。
【請求項3】
前記走査光学系は水平面内かつ原子炉圧力容器の底面近傍にレーザーシートを形成し、
前記画像処理部は、前記水平面内で流れが収束する位置の下方にデブリが存在すると判断することを特徴とする請求項1または2に記載のデブリの位置特定方法。
【請求項4】
前記走査光学系は水平面内かつ原子炉圧力容器の水面近傍にレーザーシートを形成し、
前記画像処理部は、前記水平面内で流れが発散する位置の下方にデブリが存在すると判断することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のデブリの位置特定方法。
【請求項5】
前記走査光学系および前記光ケーブルの先端は、1本の前記アームの離れた位置に取り付けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のデブリの位置特定方法。
【請求項6】
前記アームは、角度を変えることが可能な関節を備え、
前記走査光学系および前記対物レンズは、前記アームの関節よりも先端側に取り付けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のデブリの位置特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉圧力容器または原子炉格納容器において、冷却水が張られた状況においてデブリの位置を特定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所は、幾重もの安全設計が施され、厳重な運用がなされているが、それでも事故が発生する場合がある。通常の設備や操作によって炉心の冷却や制御ができなくなり、その結果として炉心の重大な損傷に至る事故は、過酷事故(シビアアクシデント)と呼ばれている。
【0003】
過酷事故の中に、炉心溶融がある。炉心溶融とは燃料が溶融して崩落することをいう。炉心溶融の中で、燃料が原子炉圧力容器の中で落下した状態をメルトダウンといい、さらに原子炉圧力容器の底を溶融して原子炉格納容器まで落下した状態をメルトスルーという。メルトダウンやメルトスルーを生じているような事故が発生した場合、核燃料と炉の構造物の溶融物が混在した、いわゆるデブリが発生することはチェルノブイリ事故やスリーマイル島事故などの様子から知られている。
【0004】
特許文献1には、原子炉圧力容器の下のキャビティ部に、耐熱材からなるコアキャッチャーを敷設する構成が記載されている。特許文献1では、耐熱材の上部にデブリと接触して共融する低融点酸化材を設け、耐熱材の下に放熱部と連結した高熱電導材を設けることにより、構造が簡単で強度が堅固であり冷却効果に優れた原子炉のコアキャッチャーを提供できると述べている。
【0005】
特許文献2には、原子炉の下方に非常時に冷却水を供給可能なキャビティを設け、このキャビティに冷却促進装置として原子炉からの溶融物(デブリ)を拡散する傾斜板を設ける構成が提案されている。特許文献2では、上記構成により原子炉から落下する溶融物の冷却を促進して早期に冷却することで安全性の向上を図ることができると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平09−211166号公報
【特許文献2】特開2010−266286号公報
【特許文献3】特開2006−017616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炉心溶融によって発生したデブリは、最終的には原子炉圧力容器や原子炉格納容器から回収して、適切に処理する必要がある。しかしながら核燃料は、核反応が停止した状態(未臨界の状態)であっても高い崩壊熱と強い放射線を生じる。そして、あまりに強い放射線のために作業員が近づくことができず、回収作業を行うことができない。また崩壊熱は、放置すれば原子炉圧力容器を溶融させるほど昇温する熱量を持っている。そのため、冷却水によって放射線の遮蔽と炉心の冷却を図りつつ、崩壊熱や放射線が減衰するのを数年(10年程度)待ってから回収作業を行う場合もあると予想されている。
【0008】
回収作業にあたって、デブリの位置を特定する必要がある。なおチェルノブイリ事故のときは原子炉圧力容器が完全に崩壊していたため、デブリは流れ出したような形状で固化していた(いわゆる象の足)。スリーマイル島の場合は、PWR(加圧水型原子炉)であって原子炉圧力容器が頑丈だったためもあり、デブリは原子炉圧力容器を出ることなくその底部に堆積した状態となっていた(いわゆるデブリベッド)。すなわちデブリの存在位置は事故の状況に応じて様々であるため、画一的なデブリの位置の判断はできず、位置を特定するための何らかの検知方法を検討する必要がある。
【0009】
図7は崩壊熱についての検討を説明する図である。図7から10年=約10万時間後を想定すると、定格熱出力に対する割合は、約10−4と概算できる。仮に原子炉の定格熱出力が78.4万kW、タービン効率33%とすると、原子炉出力は次式のように計算される。
78.4万kW/0.33=238万kW
すると、約10万時間後の崩壊熱は次式のように計算される。
238万kW・10−4=238kW
1t/hの蒸気を出力するボイラが600kW出力なので、上記の数字はその4割程度にあたり、相応の崩壊熱が依然として発せられていると考えられる。
【0010】
ここで問題となるのは、原子炉内に冷却水が張られている状況でデブリの位置を特定しなければならない点である。原子炉内に水張りがなされている場合、放射線は水中で急激に減衰するため、γ放射線量計やコンプトンカメラによってガンマ線発生源(デブリ)の位置を特定することは困難である。また水は赤外線をよく吸収するため、放射温度計や赤外線カメラによって熱源(デブリ)の位置を特定することも困難である。
【0011】
超音波エコーを用いて測定することも考えられるが、超音波エコーでは表面形状しか捉えることができないために、単なる構造物の破片であるのか破損燃料であるのかの区別をすることはできない。またステンレス鋼の原子炉圧力容器の中で、しかも様々な構造物が存在するため、乱反射による雑音が大きく、鮮明な画像を撮ることは難しいと考えられる。CCDカメラやファイバスコープを入れて映像を撮影することも考えられるが、10年ほども清掃していない原子炉圧力容器の中で苔や藻が発生していないとも限らず、またデブリ表面の外観からは材質は判断できないため、やはりデブリの位置を特定することは難しい。
【0012】
そこで本発明は、冷却水が張られた状況においてデブリの位置を特定することが可能なデブリの位置特定方法を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らが検討したところ、デブリが崩壊熱を生じているのであれば、周辺の冷却水に対流を生んでいるのではないかと考えた。すなわち、デブリそのものを検知することができなくても、その測定を困難にしている冷却水を逆に利用して、デブリの位置を特定できる可能性があることに着眼した。原子炉圧力容器内の水の流れを知る方法としては、特許文献3(特開2006−017616号公報)において、放射線環境下でのPIV計測システムが提案されている。そしてさらに検討を重ねることにより、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明に係るデブリの位置特定方法の代表的な構成は、レーザー発振装置と、レーザー発振装置から発振されたレーザー光をシート状に照射するレーザーシート形成用の走査光学系と、レーザーシートにおける測定領域の光データを伝送する光ケーブルと、光ケーブルによって伝送された光データを撮影して画像データを取得するカメラと、画像データを処理する画像処理部と、走査光学系および光ケーブルを原子炉圧力容器または原子炉格納容器内の冷却水中に挿入するアームと、光ケーブルを介してカメラに接続された対物レンズと、を備え、走査光学系および対物レンズは、1本のアームの異なる位置に取り付けられていて、画像処理部は、冷却水の上昇流を検知してデブリの位置を特定することを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、冷却水が張られた状況においても、熱源としてデブリの位置を特定することが可能となる。またレーザー光を用いることから冷却水が濁っていても支障なく、むしろ濁っている場合にはトレーサーを添加する必要がないため好都合である。そして、冷却水中で作業可能であることから、デブリの除熱をしながら位置特定および取り出し作業を行うことができ、安全かつ効率的に取り出し作業を進めることができる。
【0016】
走査光学系は上方または側方から垂直面内にレーザーシートを形成し、画像処理部は上昇流を検知して、上昇流の下方にデブリが存在すると判断してもよい。これにより、デブリの位置を正確に特定することができる。
【0017】
走査光学系は水平面内かつ原子炉圧力容器の底面近傍にレーザーシートを形成し、画像処理部は、水平面内で流れが収束する位置の下方にデブリが存在すると判断してもよい。これにより、広範囲から迅速にデブリの位置を特定することができる。
【0018】
走査光学系は水平面内かつ原子炉圧力容器の水面近傍にレーザーシートを形成し、画像処理部は、水平面内で流れが発散する位置の下方にデブリが存在すると判断してもよい。これにより、障害物などのために走査光学系を深く挿入できない場合であっても、デブリの位置を特定することができる。
【0019】
走査光学系および光ケーブルの先端は、1本のアームの離れた位置に取り付けられていてもよい。またアームは、角度を変えることが可能な関節を備え、走査光学系および対物レンズは、アームの関節よりも先端側に取り付けられているとよい。これにより、挿入する機材を細く構成することができるため、汽水分離器などの障害物をよけて挿入することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるデブリの位置特定方法によれば、冷却水が張られた状況においてデブリの位置を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】原子炉の概略構成を説明する図である。
図2】原子炉圧力容器の構成を説明する図である。
図3】原子炉内のデブリの状態を予想する図である。
図4】対流を測定する測定装置を説明する図である。
図5】測定装置の使用状態を説明する図である。
図6】測定位置(測定方向)について説明する図である。
図7】崩壊熱についての検討を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
図1は原子炉の概略構成(事故時の状態)を説明する図である。以下では、理解を容易にするために沸騰水型原子炉(BWR)を例示して説明するが、改良型沸騰水型原子炉(ABWR)についても本実施形態を適用可能である。
【0024】
原子炉建屋100には原子炉格納容器102が設置され、その中に原子炉圧力容器104が設置されている。原子炉圧力容器104は、ペデスタル106によって原子炉格納容器内に支持されている。原子炉格納容器102の下方にはサプレッションプール108(圧力抑制室ともいう)が設けられていて、過剰な蒸気をサプレッションプール108内の水に注入することによって圧力をさげることができる。
【0025】
なお図1は事故時の状態を示している。図1では原子炉格納容器102の下部およびサプレッションプール108の部屋に水が溜まっているように描いているが、通常の運転中は、原子炉格納容器102は窒素充填され、サプレッションプール108内部には適量の水が保有されている。また原子炉格納容器102および原子炉圧力容器104の下部に、後述するデブリ140が堆積しているように描いている。
【0026】
図2は原子炉圧力容器104の構成を説明する図である。電気出力110万kW級のBWR型の原子炉では、原子炉圧力容器104はウラン等からなる燃料棒を束ねた燃料集合体110を764本程度収容する容器である。燃料集合体110は、64本程度の燃料棒(ジルカロイ等からなる燃料被覆管に燃料ペレットを挿入したもの)が収容されている。原子炉圧力容器104は密閉容器であって、上部はRPVヘッド112によって閉じられている。
【0027】
原子炉圧力容器104に収容された燃料集合体110は、臨界に達して、容器内部に充填された水(炉水)を加熱し蒸気を発生させる。燃料集合体110の間には、制御棒駆動機構114によって制御棒案内管116内部を通り制御棒118が出し入れされる。制御棒118は、中性子吸収効果の大きい、ボロン(B)、カドミウム(Cd)、ハフニウム(Hf)等で構成され、核分裂の連鎖反応を定常的に維持するように中性子の数を調整する。
【0028】
燃料集合体110(炉心)はシュラウド120に囲まれている。燃料集合体110の上部は、上部格子板122で支持されている。上部格子板122の上にはシュラウド120の蓋であるシュラウドヘッド124が設けられる。
【0029】
シュラウドヘッド124は、シュラウドヘッドボルト126によって固定されている。これにより、地震等の災害時のシュラウドヘッド124の浮き上がりやずれを防止している。シュラウドヘッドボルト126は、締結されたナットを介して汽水分離器128と一体化している。汽水分離器128は、発生した蒸気に含まれる水滴を除去する装置である。
【0030】
汽水分離器128の上には、蒸気乾燥器130が設けられる。蒸気乾燥器130は、汽水分離器128から供給される蒸気の湿分を低減し、主蒸気配管132を通じて不図示の発電用タービンに供給する。
【0031】
過酷事故によって燃料(燃料ペレット)が過熱すると、燃料被覆管や燃料集合体110のケース(チャネルボックス)が融解する(炉心溶融:メルトダウン)。すると燃料および炉の構造物の溶融物が混在した、いわゆるデブリが発生する。デブリは原子炉圧力容器104の下部に堆積すると考えられるが、程度によっては原子炉圧力容器の底をも融解させて原子炉格納容器102まで落下する場合もある(メルトスルー)。したがって図1に示すように、デブリ140が原子炉圧力容器104や原子炉格納容器102の底部に堆積すると考えられる。
【0032】
デブリ140を回収する必要があるが、核反応が停止した状態(未臨界の状態)であっても高い崩壊熱と強い放射線を生じることから、数年間の冷却期間を経る。そして、デブリ140の回収作業にあたり、デブリ140の位置をできるだけ正確に特定する必要がある。これは、デブリ140のみが原子炉格納容器102や原子炉圧力容器104の底部に堆積しているとは考えづらく、崩落した他の構造物や、放射性物質でない他の材質の溶融物も多く堆積していると考えられるため、放射能の強いデブリ140を優先的に取り出すためである。
【0033】
しかしながら、回収する際にも冷却水によって放射線の遮蔽と炉心の冷却を図りつつ作業を行うことになる。上述のように、水中でデブリ140の発するガンマ線や赤外線、カメラ等を利用して位置を検知することは難しい。また同時に、デブリ140が他の構造物の下敷きになっていたり、他の材質の溶融物に埋もれていたりする可能性も高いため、位置の特定はさらに難しいものとなる。
【0034】
そこで本実施形態では、デブリ140の崩壊熱が周辺の冷却水に生じさせる対流を検知し、その対流を検知することによってデブリ140の位置を特定する。
【0035】
図3は原子炉内のデブリの状態を予想する図である。図3(a)は、原子炉圧力容器104の底面にデブリ140が直接堆積した状態を示している。この場合は、デブリ140の幅の上昇流(対流)が生じると考えられる。図3(b)は、デブリ140が崩落した構造物150の下敷きになっていて、すなわち構造物150と接している状態を示している。この場合は、デブリ140の熱が構造物150に伝達されるため、デブリ140の上に強い上昇流があり、周辺からも弱い上昇流が生じると考えられる。
【0036】
図3(c)は、デブリ140が溶融物152に浅く埋もれた状態を示している。この場合は、デブリ140の熱が溶融物152の中で拡散するため、広い範囲から弱い上昇流が生じると考えられる。図3(d)は、デブリ140が溶融物152に深く埋もれた状態を示している。この場合は、デブリ140の熱がさらに広く拡散するため、さらに広い範囲から弱い上昇流が生じると考えられる。
【0037】
図3(e)は大きなデブリ140の近くに小さなデブリ142がある状態を示している。大きなデブリ140は例えば目視(または可視光のカメラ)であっても検知可能であるが、小さなデブリ142は目視では発見することが困難である。しかし小さなデブリ142からも、上昇流は発生する。したがって本発明によれば、目視では判別がつかないような比較的小さなデブリ142であっても位置を特定(存在を検出)することが可能である。
【0038】
図3(f)は、大きなデブリ140を除去した後に、小さなデブリ142が取り残された状態を示している。このような場合にも、比較的小さなデブリ142は目視では発見することが困難である。しかし本発明のように上昇流を検知することにより、漏らすことなく位置を特定することが可能である。
【0039】
したがって、冷却水の上昇流(対流)を観察することができれば、デブリ140の位置を特定し、またある程度はデブリ140の状態を知ることができる。
【0040】
図4は対流を測定する測定装置200を説明する図であって、図4(a)、図4(b)はアームの姿勢を異ならせた状態を示している。図5は測定装置200の使用状態を説明する図である。測定装置200はいわゆるPIV(particle image velocimetry、粒子画像流速測定法)を用いている。
【0041】
図4(a)に示すように、測定装置200は、レーザー発振装置210と、画像処理部220とを備えている。レーザー発振装置210において発信したレーザー光は、光ケーブル212を介して走査光学系214に到達する。走査光学系214は、レーザー発振装置から発振されたレーザー光をシート状に照射してレーザーシート228を形成する。
【0042】
画像処理部220に接続されたカメラ222は、光ケーブル224を介して対物レンズ226に接続されている。カメラ222は、光ケーブル224によって伝送された光データを撮影して画像データを取得する。光ケーブル224は、レーザーシート228における測定領域の光データを伝送する。レーザーシート228を照射すると、トレーサー(水中の浮遊物)がレーザーの光を反射して高輝度に光るため、これを撮影して画像処理することによって対流を検出することができる。画像処理部220は、カメラ222から連続的に画像データを取得して、画像間(フレーム間)でトレーサーの位置を比較することにより、トレーサーの移動方向と移動量を算出する。このように画像処理部220は冷却水の流れを検知して、上昇流の下方にあるデブリの位置を特定することができる。
【0043】
なお、反射する光が高輝度であることから、仮に冷却水が濁っていても支障なく撮影することができる。むしろ濁っている場合にはトレーサーを添加する必要がないため好都合である。冷却水が澄んでいて反射するものがない場合には、トレーサーを適宜添加することが好ましい。PIV用のトレーサーとしては、ナイロンパウダー等が市販されている。
【0044】
走査光学系214および対物レンズ226は、1本のアーム230の異なる位置に取り付けられている。アーム230は、図5に示すように原子炉建屋100の天井クレーン240などによって吊下され、RPVヘッド112を取り外した原子炉圧力容器104内の冷却水中に、または原子炉格納容器102の内部の冷却水中に挿入される。走査光学系214および対物レンズ226(光ケーブルの先端)を1本のアーム230に取り付けたことにより、挿入する機材を細く構成することができるため、汽水分離器128や上部格子板122などの障害物をよけて挿入することができる。
【0045】
レーザー発振装置210および画像処理部220は原子炉圧力容器104の外にあり、例えば図5に示すようにオペレーションフロア101に設置することができる。これにより、電気系統は測定領域(デブリ140の近傍)になく、光学系のみがデブリ140の近傍に挿入される。したがって放射線環境下でも画像データにノイズが加えられるおそれがなく、測定精度を高めることができる。なお、ノイズにより画像処理部220において適当な画像処理ができない場合は、カメラ222により取得された画像データに基づき、目視でデブリの位置を特定してもよい。
【0046】
またアーム230は、遠隔操作によって角度を変えることが可能な関節232を備えていて、走査光学系214および対物レンズ226は関節232よりも先端側に取り付けられている。これにより図4(b)に示すように、関節232の角度を切り替えることによってレーザーシート228の方向を水平方向、垂直方向と切り替えることができる。
【0047】
図6は測定位置(測定方向)について説明する図である。図6(a)は、走査光学系214が上方から垂直面内にレーザーシート228を形成した例であり、図6(b)は側方から垂直面内にレーザーシート228を形成した例である。垂直面内にレーザーシート228を形成すると、画像処理部220は流速の分布によって上昇流234を直接的に検出することができる。そして画像処理部220は、上昇流234の下方にデブリ140が存在すると判断することができる。これにより、デブリ140の位置を正確に特定することができる。
【0048】
図6(c)は、走査光学系214が水平面内かつ原子炉圧力容器104の底面近傍にレーザーシート228を形成した例であり、図6(d)は水平面内かつ水面近傍にレーザーシート228を形成した例である。水平面内にレーザーシート228を照射すると、水平方向成分の流速を取得することができる。
【0049】
上昇流234が発生するとき、全体的には対流が発生するため、底面近傍(デブリの近傍)では水平面内で流れが収束し、水面近傍では流れが発散する。そこで画像処理部220は、底面近傍の流速分布を取得した場合、水平面内で流れが収束する位置の下方にデブリ140が存在すると判断することができる。また画像処理部220は、水面近傍の流速分布を取得した場合、水平面内で流れが発散する位置の下方にデブリ140が存在すると判断することができる。これにより、広範囲から迅速にデブリ140の位置を特定することができる。また特に、障害物などのために走査光学系214を深く挿入できない場合であっても、デブリ140の位置を特定することができる。
【0050】
上記説明したように、本発明の構成によれば、原子炉格納容器102または原子炉圧力容器104の内部に冷却水が張られた状況においても、熱源としてデブリ140の位置を特定することが可能となる。そして、冷却水中で作業可能であることから、デブリの除熱をしながら位置特定および取り出し作業を行うことができ、安全かつ効率的に取り出し作業を進めることができる。
【0051】
なお上記実施形態において、アーム230には関節232を設けて角度変更可能と説明したが、角度を固定した(関節を有さない)アームを用いてもよい。
【0052】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、原子炉圧力容器または原子炉格納容器において、冷却水が張られた状況においてデブリの位置を特定する方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100…原子炉建屋、101…オペレーションフロア、102…原子炉格納容器、104…原子炉圧力容器、106…ペデスタル、108…サプレッションプール、110…燃料集合体、112…RPVヘッド、114…制御棒駆動機構、116…制御棒案内管、118…制御棒、120…シュラウド、122…上部格子板、124…シュラウドヘッド、126…シュラウドヘッドボルト、128…汽水分離器、130…蒸気乾燥器、132…主蒸気配管、140…デブリ、150…構造物、152…溶融物、200…測定装置、204…レーザーシート光学系、210…レーザー発振装置、212…光ケーブル、214…走査光学系、220…画像処理部、222…カメラ、224…光ケーブル、226…対物レンズ、228…レーザーシート、230…アーム、232…関節、234…上昇流、240…天井クレーン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7