特許第5761098号(P5761098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761098活物質及びこれを用いたリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761098
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】活物質及びこれを用いたリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20150723BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20150723BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20150723BHJP
【FI】
   H01M4/505
   H01M4/36 C
   H01M4/525
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-70957(P2012-70957)
(22)【出願日】2012年3月27日
(65)【公開番号】特開2013-206559(P2013-206559A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2013年11月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中野 博文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 友彦
(72)【発明者】
【氏名】関 秀明
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−526732(JP,A)
【文献】 特開2012−038561(JP,A)
【文献】 特開2011−034943(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/031544(WO,A2)
【文献】 特開2008−218177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、下記式(1)で表される組成の化合物と、
Zr、SnO、Al、またはTiOのうちいずれか一種以上の金属酸化物と、を有し、
前記金属酸化物が前記化合物の1次粒子の凝集体の表面を被覆し、かつ、下記式(2)の関係で前記表面の1次粒子間の空隙を埋めたことを特徴とする活物質。
LiNiCoMn ・・・(1)
[上記式(1)中、元素MはAl、Si、Zr、Ti、Fe、Mg、Nb、Ba及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、1.9≦(a+b+c+d+y)≦2.1、1.0<y≦1.3、0<a≦0.3、0<b≦0.25、0.3≦c≦0.7、0≦d≦0.1、1.9≦x≦2.1、a+b+c+d+y=x。]
1.04≦R≦1.37 ・・・(2)
[上記式(2)中、R=前記化合物を被覆する前記金属酸化物の被覆層の内周の周囲長/被覆層の外周の周囲長である。]
【請求項2】
前記金属酸化物の粒径が1〜300nmであることを特徴とする請求項1に記載の活物質。
【請求項3】
正極集電体と、正極活物質を含む正極活物質層と、を有する正極と、
負極集電体と、負極活物質を含む負極活物質層と、を有する負極と、
前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に位置するセパレータと、
前記負極、前記正極、及び前記セパレータに接触している電解質と、を備え、
前記正極活物質が請求項1または2に記載の活物質を含む、
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活物質及びこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギー問題の解決へ向けて、種々の電気自動車の普及が期待されている。これら電気自動車の実用化の鍵を握るモータ駆動用電源などの車載電源として、リチウムイオン二次電池の開発が鋭意行われている。しかしながら、車載電源として電池を広く普及するためには、電池を高性能にして、より安くする必要がある。また、電気自動車の一充電走行距離をガソリンエンジン車に近づける必要があり、より高エネルギーの電池が望まれている。
【0003】
電池のエネルギー密度を高めるためには、正極と負極の単位質量あたりに蓄えられる電気量を大きくする必要がある。この要請に応えられる可能性のある正極材料(正極活物質)として、いわいる固溶体系正極が検討されている。なかでも、電気化学的に不活性の層状のLiMnOと、電気化学的に活性な層状のLiAO(Aは、Co、Niなどの遷移金属)との固溶体は、200mAh/gを超える大きな電気容量を示しうる高容量正極材料の候補として期待されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−55211号公報
【特許文献2】特開2007−242581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に示されるように、LiMnOを用いた固溶体系の正極では、不可逆容量が高くなるため、正極活物質の初回充放電効率が低く、そのため電池設計において対向する負極を過剰に用いなければならなくなり、電池容量の低下、負荷特性の低下等の問題があり、改善が進められている。
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い初回充放電効率を示す活物質及びこれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る活物質は、層状構造を有し、下記式(1)で表される組成の化合物と、
ZrO、SnO、Al、またはTiOのうちいずれか一種以上の金属酸化物と、を有し、
前記金属酸化物が前記化合物の1次粒子の凝集体の表面を被覆し、かつ、下記式(2)の関係で前記表面の1次粒子間の空隙を埋めたことを特徴とする。
LiNiCoMn ・・・(1)
[上記式(1)中、元素MはAl、Si、Zr、Ti、Fe、Mg、Nb、Ba及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、1.9≦(a+b+c+d+y)≦2.1、1.0<y≦1.3、0<a≦0.3、0<b≦0.25、0.3≦c≦0.7、0≦d≦0.1、1.9≦x≦2.1。]
1.04≦R≦1.37 ・・・(2)
[上記式(2)中、R=前記化合物を被覆する前記金属酸化物の被覆層の内周の周囲長/被覆層の外側の周囲長である。]
【0008】
上記本発明に係る活物質を正極活物質として用いることにより、初回充放電効率が高いリチウムイオン二次電池を得ることが出来る。これは化合物の凝集体の表面だけでなく、凝集体の表面の1次粒子間をも被覆したことで、化合物と電解液との反応を抑制したためだと考えられる。
【0009】
ここで、前記化合物の表面を単に金属酸化物で被覆するのではなく、凝集体の表面の1次粒子同士の空隙を埋めるように被覆したため、被覆層の外周の周囲長よりも内周の周囲長が長い。このような構造にすることで、より電解液との反応を抑制できるものと考えられる。
外周よりも内周の方が長いため、Rの範囲は1.04≦R≦1.37が好ましい。1.37より大きいと被覆層の厚みが薄くなりすぎて、電解液との反応抑制効果が表れないと考える。
【0010】
本発明に係る活物質に用いる金属酸化物の粒子径は、1〜300nmであることが好ましい。
【0011】
前記化合物の粒子間の空隙径が300nm以下である。空隙内に粒子が入り込みやすくなるために金属酸化物の粒子径は1〜300nmであることが好ましい。
【0012】
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、正極集電体と、正極活物質を含む正極活物質層と、を有する正極と、負極集電体と、負極活物質を含む負極活物質層と、を有する負極と、正極活物質層と負極活物質層との間に位置するセパレータと、負極、正極、及びセパレータに接触している電解質と、を備え、正極活物質が前述の活物質を含むことが好ましい。
【0013】
金属酸化物で被覆された活物質を正極活物質層に含むリチウムイオン二次電池は、初回充放電効率が高くなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、初回充放電効率が高い活物質及びリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】リチウムイオン二次電池の模式断面図である。
図2】実施例1に係る活物質の断面SEM像である。
図3】実施例1に係る活物質の断面SEM像の被覆層の内周、外周を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の活物質及びリチウムイオン二次電池の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0017】
(活物質)
本実施形態に係る活物質は、層状構造を有し、下記式(1)で表される組成の化合物と、
ZrO、SnO、Al、またはTiOのうちいずれか一種以上の金属酸化物と、を有し、
前記金属酸化物が前記化合物の1次粒子の凝集体の表面を被覆し、かつ、下記式(2)の関係で前記表面の1次粒子間の空隙を埋めている。
LiNiCoMn ・・・(1)
[上記式(1)中、元素MはAl、Si、Zr、Ti、Fe、Mg、Nb、Ba及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、1.9≦(a+b+c+d+y)≦2.1、1.0<y≦1.3、0<a≦0.3、0<b≦0.25、0.3≦c≦0.7、0≦d≦0.1、1.9≦x≦2.1。]
1.04≦R≦1.37 ・・・(2)
[上記式(2)中、R=前記化合物を被覆する前記金属酸化物の被覆層の内周の周囲長/被覆層の外側の周囲長である。]
【0018】
化合物の1次粒子の凝集体の表面及び表面の1次粒子間の空隙を被覆しているため、被覆層の外周の周囲長よりも内周の周囲長が長い。化合物の1次粒子間の空隙に金属酸化物が入り込むことで、電解液と化合物との反応を抑制し、不可逆容量を小さく出来ると考えられる。
【0019】
外周よりも内周の方が長いため、Rの範囲は1.04≦R≦1.37が好ましい。1.37より大きいと被覆層の厚みが薄くなりすぎて、電解液と化合物との反応抑制効果が表れにくくなる。1.04未満だと、凝集体の表面または凝集体の表面の1次粒子間の空隙部分を被覆出来ていない恐れがあり、または被覆層の厚みが厚くなりすぎて電解液との反応を抑制する効果が弱まると考えられる。
【0020】
またRの範囲は1.12≦R≦1.37がより好ましい。この範囲であれば、電解液と化合物との反応を抑制する効果が表れ、被覆層の厚みや被覆状態が特に良好だと考えられる。
【0021】
被覆層の内周の周囲長、外周の周囲長は図3のようにSEM像より解析した。内周、外周の周囲長L1とL2をSEM像から読み取り数値化すればよい。被覆層の内周の周囲長/被覆層の外周の周囲長をRとした。
【0022】
化合物の1次粒子の空隙径は300nm以下であり、金属酸化物の粒径は1〜300nmであることが好ましい。さらに化合物の粒子間隙内を被覆するために1〜100nmだとより好ましい。
(活物質の製造方法)
【0023】
本実施形態の活物質は、層状構造を有し、下記式(1)で表される組成を有する化合物の1次粒子の凝集体の表面の1次粒子間の空隙に1次粒子間の空隙よりも小さい粒径をもつSnO、ZrO、Al、及びTiO等の金属酸化物を複合化処理することで、前記金属酸化物が化合物の表面と粒子間の空隙を埋めることで形成できる。
LiNiCoMn ・・・(1)
[上記式(1)中、元素MはAl、Si、Zr、Ti、Fe、Mg、Nb、Ba及びVからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、1.9≦(a+b+c+d+y)≦2.1、1.0<y≦1.3、0<a≦0.3、0<b≦0.25、0.3≦c≦0.7、0≦d≦0.1、1.9≦x≦2.1。]
1.04≦R≦1.37 ・・・(2)
[上記式(2)中、R=前記化合物を被覆する前記金属酸化物の被覆層の内周の周囲長/被覆層の外側の周囲長である。]
【0024】
さらに化合物の粒子間の空隙径以下の粒径をもつ金属酸化物を用いることで、複合化処理時、前記化合物との接触点が増えることから、装置壁面や化合物同士の衝突による機械的ダメージを低減する効果も期待できる。
【0025】
また複合化処理時に、前記化合物から解砕または破砕された粒子が金属酸化物に被覆され、かつ化合物表面に金属酸化物と共に被覆していることも確認されている。
解砕または破砕された粒子は比表面積が大きいため電解液と反応しやすい。この解砕または破砕された粒子が金属酸化物と共に化合物に被覆されることで、この粒子の比表面積が低下し、電解液との反応性が低下し、不可逆容量を小さくできると考えられる。
【0026】
複合化処理方法は特に限定されないが、ホソカワミクロン株式会社製メカノフュージョン、ノビルタや(株)徳寿工作所製シータ・コンポーザ、奈良機械製作所製ハイブリタイザー、(株)ケイ・シー・ケイ製DMMメカノケミカル装置、株式会社栗本鐵工所製高速遊星ボールミルなどを用いる。装置により適切な条件を選定することが好ましい。
【0027】
金属酸化物を被覆した後、さらに上記記載の複合化処理方法を用いて導電助剤を複合化処理してもよい。導電助剤を複合化処理することで、導電性が向上し高出力化が望めると考える。
【0028】
(リチウムイオン二次電池)
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、互いに対向する板状の負極20及び板状の正極10と、負極20と正極10との間に隣接して配置される板状のセパレータ18と、を備える発電要素30と、リチウムイオンを含む電解質溶液と、これらを密閉した状態で収容するケース50と、負極20に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される負極リード62と、正極10に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される正極リード60とを備える。
【0029】
負極20は、負極集電体22と、負極集電体22上に形成された負極活物質層24と、を有する。また、正極10は、正極集電体12と、正極集電体12上に形成された正極活物質層14と、を有する。セパレータ18は、負極活物質層24と正極活物質層14との間に位置している。
【0030】
正極活物質層14が含有する正極活物質は、前述の活物質を有する。
【0031】
リチウムイオン二次電池の負極に用いる負極活物質材料としては、リチウムイオンを析出又は吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、LiTi12等のチタン系材料、SiやSb、Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム、リチウム−鉛、リチウム−スズ、リチウム−アルミニウム−スズ、リチウム−ガリウム、及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0032】
正極活物質層14及び負極活物質層24には、上述の活物質材料の他に、導電助剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0033】
導電助剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料が挙げられる。これらの導電助剤を単独で用いてもよく、これらの混合物を用いてもよい。
【0034】
特に、導電助剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極活物質層または負極活物質層の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、0.5重量%〜30重量%がより好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると、必要炭素量を削減できるため好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0035】
結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極活物質層または負極活物質層の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、2〜30重量%がより好ましい。
【0036】
増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることができる。
【0037】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。
【0038】
正極活物質層14または負極活物質層24は、各活物質材料およびその他の材料を混練して合剤とし、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン等の有機溶媒に混合させた後、得られた混合液を集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0039】
電極の集電体12、22としては、鉄、銅、ステンレス、ニッケルおよびアルミを用いることができる。また、その形状として、シート、発泡体、メッシュ、多孔体およびエキスパンド格子などを用いることができる。さらに、集電体には任意の形状で穴を開けて用いることができる。
【0040】
電解質は、一般にリチウム電池等への使用が提案されている溶媒に電解質塩を溶解したものが使用可能である。電解質に用いる溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等を挙げることができる。
【0041】
電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF等が挙げられる。これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0042】
電解質には常温溶融塩あるいはイオン性液体を用いてもよい。
【0043】
さらに、電解液と固体電解質とを組み合わせて使用することができる。
【0044】
セパレータ18としては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータ18を構成する材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0045】
以上、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0046】
例えば、リチウムイオン二次電池の形状は、図1に示すものに限定されない。例えば、リチウムイオン二次電池の形状が角形、楕円形、コイン形、ボタン形、シート形等であってもよい。
【0047】
本実施形態の活物質は、リチウムイオン二次電池以外の電気化学素子の電極材料としても用いることができる。このような、電気化学素子としては、金属リチウム二次電池(本発明により得られた活物質を含む電極を正極として用い、金属リチウムを負極として用いたもの)等のリチウムイオン二次電池以外の二次電池や、リチウムイオンキャパシタ等の電気化学キャパシタ等が挙げられる。これらの電気化学素子は、自走式のマイクロマシン、ICカードなどの電源や、プリント基板上又はプリント基板内に配置される分散電源の用途に使用することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
[化合物の作製]
Li1.2Ni0.17Co0.08Mn0.55が生成するよう調整した硝酸リチウム、硝酸コバルト六水和物、硝酸ニッケル六水和物、硝酸マンガン六水和物を、蒸留水にグルコース、硝酸及びポリビニルアルコールを加えた溶液中で混合し蒸発乾固した粉末(前駆体)を乳鉢で10分程度粉砕した後、900℃で10時間大気中において焼成して、化合物(リチウム化合物)を得た。
【0050】
誘導結合プラズマ法(ICP法)による組成分析の結果、実施例1の化合物の組成は、Li1.2Ni0.17Co0.08Mn0.55であることが確認された。
【0051】
[活物質の作製]
1次粒子の凝集体である前記化合物とSnO(D50 100nm)を97:3wt%の比率で遊星ボールミルを用いて、3分混合し、化合物の表面及び凝集体の粒子間をSnOで被覆した活物質を得た。
図2にSnOで被覆した活物質の断面SEM写真を示す。膜厚はSEM像から測定し、活物質の表面から1〜100nmであり、粉体の粒子間隙への進入距離は、活物質の表面から500nm以下、SnOの前記化合物に対する被覆率は70〜100%であった。
R(被覆層の内周の周囲長/被覆層の外側の周囲長)は図3のようにSEM像からL1とL2の長さを画像解析し求めた。Rは1.21であった。また、これらデータは活物質粒子50個の平均値である。
【0052】
[正極の作製]
前記活物質と、導電助剤と、バインダーを含む溶媒とを混合して、正極用塗料を調製した。正極用塗料を正極集電体であるアルミニウム箔(厚み20μm)にドクターブレード法で塗布後、100℃で乾燥し、圧延した。これにより、前記活物質の層及び正極集電体から構成される正極を得た。導電助剤としては、カーボンブラック(株式会社 クレハ製、DAB50)及び黒鉛(ティムカル(株)製、KS−6)を用いた。バインダーを含む溶媒としては、PVDFを溶解したN−メチル−2−ピロリドン(株式会社 クレハ製、KF7305)を用いた。
【0053】
[負極の作製]
実施例1の正極活物質の代わりに天然黒鉛を用い、導電助剤としてカーボンブラックだけを用いたこと以外は、正極用塗料と同様の方法で、負極用塗料を調製した。負極用塗料を負極集電体である銅箔(厚み16μm)にドクターブレード法で塗布後、100℃で乾燥し、圧延した。これにより、負極活物質層及び負極集電体から構成される負極を得た。
【0054】
[リチウムイオン二次電池の作製]
作製した正極、負極とセパレータ(ポリオレフィン製の微多孔質膜)を所定の寸法に切断した。正極、負極には、外部引き出し端子を溶接するために電極用塗料を塗布しない部分を設けておいた。正極、負極、セパレータをこの順序で積層した。積層するときには、正極、負極、セパレータがずれないようにホットメルト接着剤(エチレン−メタアクリル酸共重合体、EMAA)を少量塗布し固定した。正極、負極には、それぞれ、外部引き出し端子としてアルミニウム箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)、ニッケル箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)を超音波溶接した。この外部引き出し端子に、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)を巻き付け熱接着させた。これは外部端子と外装体とのシール性を向上させるためである。正極、負極、セパレータを積層した電池要素を封入する電池外装体として、PET層、Al層及びPP層から構成されるアルミニウムラミネート材料を用いた。PET層の厚さは12μmであった。Al層の厚さは40μmであった。PP層の厚さは50μmであった。なお、PETはポリエチレンテレフタレート、PPはポリプロピレンである。電池外装体を作製では、PP層を外装体の内側に配置させた。この外装体の中に電池要素を入れ電解液を適当量添加し、外装体を真空密封した。これにより、実施例1のリチウム化合物を用いたリチウムイオン2次電池を作製した。なお、電解液としては、エチレンカーボンネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)の混合溶媒にLiPFを濃度1M(1mol/L)で溶解させたものを用いた。混合溶媒におけるECとDMCとの体積比は、EC:DMC=30:70とした。
【0055】
[電気特性の測定]
実施例1の電池を、電流値として30mA/gにて4.6Vまで定電流で充電した後、電流値として30mA/gにて2.0Vまで定電流放電した。実施例1の初回充放電効率は87.0%であった。初回充放電効率とは0.1Cで充電し0.1Cで放電した1サイクル目の放電容量に対する充電容量の比である。
【0056】
実施例2〜4では被覆した金属酸化物材料と混合比を変えた。実施例5〜6ではメカノフュージョンを使用した。比較例1では被覆なしの試料、比較例2では遊星ボールミルではなくポットミルを使用した。
【0057】
実施例2では、ZrO(D50 90nm) 3wt%を遊星ボールミルにて混合した。Rは1.12であった。
【0058】
実施例3では、Al(D50 120nm) 5wt%を遊星ボールミルにて混合した。Rは1.32であった。
【0059】
実施例4では、TiO(D50 100nm) 1wt%を遊星ボールミルにて混合した。Rは1.04であった。
【0060】
実施例5では、SnO(D50 100nm) 4wt%をメカノフュージョンにて混合した。Rは1.37であった。
【0061】
実施例6では、SnO(D50 100nm) 5wt%をメカノフュージョンにて混合した。Rは1.33であった。
【0062】
比較例1では、混合処理をしていない活物質を評価した。
【0063】
比較例2では、ポットミルを用いてZrO(D50 90nm) 1wt%を混合した。Rは0.93であった。
遊星ボールミルではなく、ポットミルを用いたことで、表面被覆状態が悪かったため初回充放電効率が、実施例に比べて小さかったと考える。
【0064】
比較例3では、メカノフュージョンを用いてSnO(D50 100nm) 2wt%を混合した。Rは1.42であった。
被覆膜が薄くなりすぎたことで、電解液と化合物との反応抑制効果が小さかったため、初回充放電効率が実施例に比べて小さかったと考える。
【0065】
以上の事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2〜6並びに比較例1〜3のリチウム化合物(正極活物質)、活物質及びリチウムイオン二次電池を作製した。
【0066】
実施例1と同様の方法で、実施例2〜6並びに比較例1〜3の電池の初回充放電効率を評価した。結果を表1に示す。
【表1】
【0067】
実施例1〜6によれば、初回充放電効率が優れていることが明らかである。比較例2〜3のように、実施例と同様の金属酸化物を被覆しても、Rの値の範囲から外れると、被覆膜厚が薄すぎるなどの問題により初回充放電効率が改善しないと考えられる。
【符号の説明】
【0068】
10・・・正極,20・・・負極、12・・・正極集電体、14・・・正極活物質層、18・・・セパレータ、22・・・負極集電体、24・・・負極活物質層、30・・・発電要素、50・・・ケース、60,62・・・リード、100・・・リチウムイオン二次電池。
図1
図2
図3