(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の可燃物の処理方法、溶錬炉及び連続製銅設備では、下記の課題を有していた。
すなわち、炉本体の熔体の湯面に落下した可燃物が、そのまま湯面上にとどまりやすく、熔体に浮いた状態で燃焼・溶融するため、可燃物と熔体との接触領域を大きく確保できず処理に長時間を要して、処理量が制約されていた。
【0007】
また、湯面で燃焼する可燃物の熱(燃焼熱)が湯面上のガスゾーンに逃げてしまい、熔体の加熱に十分に利用されていなかった。またこの燃焼熱により、炉本体のガスゾーン内壁に設けられた煉瓦が高温に曝されて損耗(損傷、劣化、減耗等)したり、ガスゾーンから排ガスを受け入れる廃熱ボイラーがオーバーヒートするおそれがあった。
【0008】
また、熔体と可燃物とが十分に攪拌されないため、熔体内で可燃物が溶け残るとともに、有価金属成分を含んだままスラグに随伴して系外に排出され、有価金属のスラグロスとなっていた。特に従来では、可燃物が塊状にプレス加工されていることから、可燃物が溶け残りやすかった。
また、例えば連続製銅設備においては、溶錬炉とその下流側の分離炉とを連結する樋を熔体(マット及びスラグ)が流れる際、この樋が可燃物の溶け残りによって閉塞されてしまい、該樋から熔体が溢れ出るおそれがあった。
【0009】
また、この種の溶錬炉では、熱補償用燃料として熔体に装入される石炭の使用量を低減して、操業費用(ランニングコスト)を削減することが求められていた。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、可燃物を熔体に十分に接触させることができ、可燃物の燃焼熱を熔体の加熱に効率よく利用できるとともに、可燃物の溶け残りを低減して有価金属のスラグロスを抑え、可燃物の処理量を増大でき、かつ、操業費用を削減でき、炉本体のガスゾーン内壁や廃熱ボイラーの損傷を抑制できる可燃物の処理方法、その実施に使用する溶錬炉及び連続製銅設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明に係る可燃物の処理方法は、非鉄金属を製錬する炉本体に貯留された熔体の湯面の上方に、該湯面へ向けて開口するパイプを設け、前記パイプを二重筒構造とし、該パイプの内筒内に有価金属を含有する可燃性スクラップである可燃物を通し、該パイプの外筒と前記内筒との間に酸素富化空気を通して、前記可燃物と前記酸素富化空気とを、前記熔体の湯面に吹き付けることで前記可燃物を前記熔体内に浸入させて、前記可燃物を前記熔体内で攪拌させつつ燃焼・溶融させ、前記炉本体の天井壁に設けられ炉内で発生するガスを排出する開口部に、廃熱ボイラーが接続されており、前記パイプから前記熔体へ吹き付ける前記可燃物及び/又は前記酸素富化空気の装入量を、前記熔体の温度及び前記廃熱ボイラーのガス温度に応じて調整し、
前記炉本体の上面視で、前記天井壁に複数の前記パイプを設け、該天井壁のこれらパイプとは異なる位置に前記開口部を配置し、前記炉本体の側壁における前記パイプを間に挟んだ前記開口部とは反対側に、熔体排出口を設け、前記開口部と前記熔体排出口を繋ぐ方向に対して直交するように、複数の前記パイプを直線状に配列し、前記熔体をその後工程で処理して、前記非鉄金属とともに前記有価金属を回収することを特徴とする。
また本発明は、前述した可燃物の処理方法の実施に使用する溶錬炉であって、前記炉本体に貯留された熔体の湯面の上方に、該湯面へ向けて開口するパイプが設けられ、前記パイプは二重筒構造を有し、該パイプの内筒内に有価金属を含有する可燃性スクラップである可燃物を通し、該パイプの外筒と前記内筒との間に酸素富化空気を通して、前記熔体の湯面に、前記可燃物と前記酸素富化空気とを吹き付け可能に構成し、前記炉本体の天井壁には、炉内で発生するガスを排出する開口部が設けられ、前記開口部に、前記廃熱ボイラーが接続され
、前記炉本体の上面視で、前記パイプは前記天井壁に複数設けられ、該天井壁のこれらパイプとは異なる位置に前記開口部が配置され、前記炉本体の側壁における前記パイプを間に挟んだ前記開口部とは反対側に、熔体排出口が設けられ、前記開口部と前記熔体排出口を繋ぐ方向に対して直交するように、複数の前記パイプが直線状に配列していることを特徴とする。
【0012】
本発明の可燃物の処理方法及び溶錬炉によれば、炉本体に貯留された熔体の湯面に向けて、該湯面上のパイプから可燃物と酸素富化空気(例えば、酸素含有率40〜70%程度の空気)とを吹き込むので、可燃物が熔体に深く浸入しやすくなって、熔体との接触領域が大きく確保される。これにより、可燃物は速やかに加熱されて燃焼・溶融されるとともに、溶け残りにくくなることから、可燃物の処理効率が向上し、処理量を増大できる。
【0013】
また、可燃物が酸素富化空気とともに熔体に吹き込まれるので、可燃物に含まれる可燃性成分と酸素とが熔体内で反応しやすくなり、可燃物がより燃焼・溶融しやすくなる。さらに、可燃物及び酸素富化空気が熔体に吹き込まれることで、可燃物を熔体内で攪拌するような作用も得られ、前述の効果がより顕著に得られることになる。
【0014】
また本発明によれば、従来のように可燃物の溶け残りが有価金属成分を含んだままスラグと一緒に系外に排出されるようなことが抑制されるため、有価金属のスラグロスが低減される。
ここで、例えば連続製銅設備においては、溶錬炉とその下流側の分離炉とを連結する樋が設けられており、溶錬炉の炉本体から排出された(オーバーフローされた)熔体(マット及びスラグ)は、樋を通って分離炉へ流入するようになっている。そして本発明によれば、熔体とともに可燃物の溶け残りがこの樋を流れるようなことが抑制されるため、該樋が閉塞されることが防止されるとともに、樋から熔体が溢れ出ることを防ぐことができる。
【0015】
また、可燃物が熔体内に吹き込まれて燃焼することで、該可燃物の燃焼熱が熔体の加熱に効率よく利用される。これにより、熱補償用燃料として熔体に装入される石炭(コークスや粉炭等の化石燃料)の使用量を低減することが可能になり、操業費用を削減できる。
また本発明によれば、可燃物が熔体の湯面上にとどまって燃焼することが抑制されるので、例えば従来のように、湯面で燃焼する可燃物の燃焼熱によって、炉本体のガスゾーン内壁に設けられた煉瓦が損耗したり、廃熱ボイラーがオーバーヒートしたりする不具合が防止される。
【0016】
また、熔体の湯面へ向けて開口するパイプから可燃物と酸素富化空気とを吹き込むことで、可燃物が炉本体のガスゾーンに浮遊しにくくされている。これにより、可燃物として例えば粉状や粒状など細かく破砕した状態のものを用いることが可能になる。すなわち、従来では、粉状や粒状の可燃物を単純に熔体の湯面に落下させた場合には、可燃物が排ガスと一緒に排出されやすくなって廃熱ボイラー等を損傷させるおそれがあったが、本発明では、粉状や粒状の可燃物を用いても該可燃物が熔体の湯面に吹き込まれることで熔体内部まで浸入しやすくされて、上記のような不具合が抑制される。
尚、本発明において、可燃物として粉状や粒状のものを用いた場合には、該可燃物が熔体でより速やかに燃焼・溶融するとともに、さらに溶け残りにくくなり、前述の作用効果がより格別顕著なものとなる。
【0017】
以上より、本発明によれば、可燃物を熔体に十分に接触させることができ、可燃物の燃焼熱を熔体の加熱に効率よく利用できるとともに、可燃物の溶け残りを低減して有価金属のスラグロスを抑え、可燃物の処理量を増大でき、かつ、操業費用を削減でき、炉本体のガスゾーン内壁や廃熱ボイラーの損傷を抑制できるのである。
【0018】
また、本発明の可燃物の処理方法において、前記パイプとして、非鉄金属を含有する鉱石と酸素富化空気とを前記熔体の湯面に吹き
付けるランスパイプを用いることとしてもよい。
また、本発明の溶錬炉において、前記パイプは、前記熔体の湯面に、非鉄金属を含有する鉱石と酸素富化空気とを吹き
付け可能に構成されたランスパイプであることとしてもよい。
【0019】
この場合、従来の溶錬炉に設けられている、鉱石(精鉱)を熔体に装入するための既存のランスパイプを用いて本発明を実施することが可能になる。これにより、炉本体を簡単な構造とすることができ(つまり構造を複雑にすることなく維持でき)、設備費用が削減される。
【0020】
また、本発明の可燃物の処理方法において、互いに樋で連結された溶錬炉、分離炉及び製銅炉を備えた連続製銅設備を用い、前記溶錬炉では、銅鉱石を加熱溶融してマットとスラグとを含む熔体を生成し、前記分離炉では、前記溶錬炉で生成されたマットとスラグとを分離し、前記製銅炉では、前記分離炉で分離されたマットを酸化して粗銅とスラグとを生成し、前記溶錬炉において、前記パイプから、前記可燃物と前記酸素富化空気とを、前記熔体の湯面に吹き
付けることとしてもよい。
また本発明は、銅鉱石を加熱溶融してマットとスラグとを含む熔体を生成する溶錬炉と、前記溶錬炉で生成されたマットとスラグとを分離する分離炉と、前記分離炉で分離されたマットを酸化して粗銅とスラグとを生成する製銅炉と、前記溶錬炉、前記分離炉及び前記製銅炉を互いに連結する樋と、を備えた連続製銅設備であって、前記溶錬炉として、前述した溶錬炉を用いたことを特徴とする。
【0021】
この場合、例えばS炉(溶錬炉)、CL炉(分離炉)及びC炉(製銅炉)を備えた三菱連続製銅法(三菱MI法)に代表される連続製銅設備、及びそのS炉に本発明を適用可能であるとともに、上述した作用効果を得ることができる。
【0022】
また、本発明の可燃物の処理方法において、前記熔体に装入する前記可燃物から該熔体に寄与される熱量に応じて、前記熔体に装入する石炭の装入量を調整することとしてもよい。
【0023】
この場合、例えば、熔体に装入する可燃物から熔体に寄与される熱量が増大する(又は増大した)場合には、これに応じて熔体に装入する石炭の装入量を減少させ、可燃物から熔体に寄与される熱量が減少する(又は減少した)場合には、これに応じて熔体に装入する石炭の装入量を増大させることで、熔体の温度を安定的に維持することが可能である。そして、本発明では上述したように、熔体に対して可燃物から寄与される熱量が十分に確保されやすいことから、石炭の使用量を確実に低減して操業費用を削減できるとともに、熔体温度が所定範囲に安定的に維持されて、熔体における処理が安定する。
具体的に、従来の方法では、熔体の湯面に可燃物を落下させるのみであったため、該可燃物が、熔体の温度を安定的に維持又は上昇可能な程度には熔体の加熱に有効に使われなかったことから、単純に可燃物の装入量を増やしても、該可燃物から熔体に寄与される熱量を増大させることは難しく、よって石炭の装入量を減少させることは困難であった。さらに従来の方法では、単純に熔体への可燃物の装入量を増大させた場合において、上述した炉本体のガスゾーン内壁や廃熱ボイラーの損傷のおそれがある。
【0024】
また、本発明の可燃物の処理方法において、前記炉本体は、銅製錬に用いられるものであり、前記熔体をその後工程で処理して、前記有価金属を粗銅に含ませて回収することとしてもよい。
【0025】
この場合、炉本体は、例えば連続製銅設備における溶錬炉に用いられ、該溶錬炉の後工程における製銅炉等において、可燃物中の有価金属を粗銅とともに効率よく回収することができる。
【0026】
また、本発明の溶錬炉において、前記パイプ内に、前記可燃物及び前記酸素富化空気を混合する混合領域が設けられることとしてもよい。
【0027】
この場合、パイプを通して熔体の湯面に吹き込まれる可燃物と酸素富化空気とが、該パイプ内で混合された状態で噴出されることになる。従って、熔体に吹き込まれた可燃物がより燃焼・溶融しやすくなり、上述した作用効果がさらに顕著なものとなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の可燃物の処理方法、溶錬炉及び連続製銅設備によれば、可燃物を熔体に十分に接触させることができ、可燃物の燃焼熱を熔体の加熱に効率よく利用できるとともに、可燃物の溶け残りを低減して有価金属のスラグロスを抑え、可燃物の処理量を増大でき、かつ、操業費用を削減でき、炉本体のガスゾーン内壁や廃熱ボイラーの損傷を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係る可燃物の処理方法を採用した溶錬炉10、及びこの溶錬炉10を備える連続製銅設備1について、図面を参照して説明する。
本実施形態の溶錬炉10は、S炉(溶錬炉)、CL炉(分離炉)、C炉(製銅炉)及び精製炉を備えた三菱連続製銅法(三菱MI法)に代表される連続製銅設備1において、S炉として用いられるものである。
【0031】
図1に示されるように、この連続製銅設備1は、銅鉱石(銅精鉱)を加熱溶融してマットMとスラグSとを含む熔体Lを生成する溶錬炉10と、この溶錬炉10で生成されたマットMとスラグSとを分離する分離炉3と、この分離炉3で分離されたマットMをさらに酸化して粗銅CとスラグSとを生成する製銅炉20と、この製銅炉20で生成された粗銅Cを精製して、より品位の高い銅と有価金属とを生成する精製炉5とを有する。
これら溶錬炉10、分離炉3、製銅炉20、精製炉5は、互いに樋6A、6B、6Cにより連結されており、熔体が重力の作用によって溶錬炉10、分離炉3、製銅炉20、精製炉5の順に移動させられるように、この順に炉同士の間に高低差をつけて設置されている。
【0032】
溶錬炉10は、非鉄金属を製錬する炉本体12と、非鉄金属を含有する鉱石(本実施形態では銅鉱石)を、酸素富化空気(酸素ガス)及びフラックス等とともに炉本体12に貯留された熔体Lに供給する複数のランスパイプ(パイプ)15と、を備えている。ランスパイプ15は、炉本体12の天井壁11を鉛直方向に貫通して設けられているとともに、熔体Lの湯面に対して昇降可能とされている。
【0033】
具体的に、ランスパイプ15は、熔体Lの湯面の上方に開口されており、銅鉱石と酸素富化空気とを、熔体Lの湯面に吹き込み可能に設けられている。また、溶錬炉10の天井壁11には、炉内で発生するガス(排ガス)を排出するための開口部19が設けられており、該開口部19の下流側には廃熱ボイラー7が接続されている。
【0034】
分離炉3は、溶錬炉10から送り込まれる熔体L中のマットMとスラグSとを、これらの比重差を利用して分離するものであって、比重の大きいマットMの層の上に比重の小さいスラグSの層が形成されるようになっている。この分離炉3には、複数の電極8が下端をスラグ中に浸漬させた状態にして配設されている。分離炉3では、これら電極8にトランスから三相交流電流を入力してジュール熱を発生させることで、熔体Lの保温を行っている。
【0035】
製銅炉20は、冷材や石灰石を、酸素ガス等の酸素富化空気とともに炉内に供給するためのランスパイプ25を複数備えている。ランスパイプ25は、製銅炉20の天井壁21を貫通して設けられているとともに、昇降可能とされている。また、製銅炉20の天井壁21には、炉内で発生するガスを排出するための排出口が設けられており、該排出口には廃熱ボイラー9が接続されている。
【0036】
この連続製銅設備1で銅を製錬するには、乾燥した銅精鉱(非鉄金属原料)とフラックス(硅砂、石灰等)とを酸素富化空気ととともに、ランスパイプ15を通して溶錬炉10の熔体L中に吹き込む。溶錬炉10では、銅精鉱の溶解と酸化反応が進行し、主成分が硫化銅及び硫化鉄の混合物からなるマットMと、銅精鉱中の脈石、溶剤、酸化鉄等からなるスラグSが生成される。
【0037】
溶錬炉10の熔体Lに含まれるマットMとスラグSは、樋6Aにより分離炉3に送られ、ここで比重差により下層のマットMと上層のスラグSとに分離される。
分離炉3において分離されたスラグS(Sg)は、マットMとは別途回収される。また、溶錬炉10等で生成したSO
2ガス等の含硫ガスは、図示しない硫酸工場へと移送され、硫酸又は石膏(CaSO
4)として回収される。
【0038】
一方、分離炉3で分離されたマットMは、樋6Bを通して製銅炉20に送られる。製銅炉20では、ランスパイプ25を用いてさらに空気とともにフラックスを吹き込んでマットM中の硫黄と鉄分を酸化し、純度98.5%以上の粗銅Cを得る。製銅炉20において連続的に生成された粗銅Cは、樋6Cを通して精製炉5に移送される。そして、精製炉5において粗銅Cを精製して、より品位の高い銅を生成し、図示しない鋳造機によって電解製錬用のアノード板が製出される。
【0039】
尚、上記プロセスにおいて、製銅炉20における酸化の工程では、銅の一部も酸化してスラグSaの中に取り込まれてしまう。つまり、製銅炉スラグSaには酸化鉄とともに酸化銅(10〜30%)が含まれている。このため、通常のプロセスでは、製銅炉スラグSaを水砕により固体粉末化し、乾燥後、溶錬炉10に回送して、原料鉱石と共に再び溶解して、銅の回収を図っている。
【0040】
このような連続製銅設備1においては、溶錬炉10内に、銅精鉱のほか、有価金属(Cu、Au、Ag、Pt、Pd等)を含む可燃性プラスチック等からなる廃電子部品や廃電子基板などの廃棄物(可燃性スクラップ、以下可燃物と言う)を装入し、銅精鉱とともに該可燃物を製錬することで、銅とともに銅以外の有価金属も回収している。
具体的には、溶錬炉10の炉本体12は銅製錬に用いられるものであるが、該炉本体12から後工程の製銅炉20に送られた熔体Lを処理することで、粗銅Cに含ませて上記有価金属を回収している。
【0041】
また特に図示しないが、製銅炉20には、電解製錬でアノード板として使用された銅板、いわゆるアノードスクラップが投入される。このアノードスクラップは銅品位が高いことから、連続製銅設備1の下流側に位置する製銅炉20に投入することで、複雑な工程を経ることなくその銅分が回収されることになる。
【0042】
次に、本実施形態の可燃物の処理方法を採用した溶錬炉10について、
図2〜
図4を参照して詳しく説明する。
溶錬炉10は、有底円筒状の炉本体12を備えている。炉本体12には、その上部を塞ぐように天井壁11が設けられ、炉本体12の内部には熔体Lが貯留されている。天井壁11には、複数のランスパイプ15が該天井壁11を貫通して配設されており、図示の例では、これらランスパイプ15が直線状の列をなしているとともに、該列が互いに平行となるように複数形成されている(
図3に示される炉本体12の上面視を参照)。
【0043】
ランスパイプ15は、炉本体12内に粉体状の銅鉱石(製錬原料)及びフラックス等の副原料(溶剤)を酸素富化空気とともに高速で送り込み、熔体Lの湯面に衝突させつつ、熔体Lに酸化反応を起こさせるようになっている。ランスパイプ15は、熔体Lの湯面の上方に設けられているとともに、該湯面に向けて開口しており、その下端開口は、熔体Lの湯面に接近配置されている。
【0044】
そして、本実施形態の溶錬炉10においては、ランスパイプ15が、さらに有価金属を含有する可燃物をも熔体Lの湯面に吹き込み可能とされているのである。ランスパイプ15から熔体Lに吹き込む可燃物は、例えば予め破砕機で破砕されて粒状や粉状とされた廃電子基板や廃電子部品等であり、このような細かい可燃物を用いることで、可燃物が熔体Lへ向かう管内で詰まるようなことが抑制される。本実施形態では、可燃物の平均粒径(外径)が、例えば10mm以下とされている。尚、ランスパイプ15から、さらにコークスや粉炭等の石炭(化石燃料)を吹き込み可能としてもよい。
【0045】
図4に示される例では、ランスパイプ15は二重筒構造を有している。ランスパイプの外筒15aは、炉本体12の天井壁11を挿通して熔体Lの湯面に向けて延びている。ランスパイプ15の内筒15bは、その下端開口が外筒15a内に位置しており、外筒15a内における内筒15bの下端開口から該外筒15aの下端開口までの間の領域が、ランスパイプ15から送出される各材料(銅鉱石、副原料、可燃物、酸素富化空気、石炭等)を混合する混合領域となっている。
尚、これら材料のうち、酸素富化空気以外の材料については、ランスパイプ15に導入する以前に予め混合しておくことが好ましいが、可燃物と石炭についてはこの限りではなく、熔体Lの温度や廃熱ボイラー7のガス温度に応じて装入量を調整
する。
【0046】
本実施形態においては、ランスパイプ15の外筒15aと内筒15bとの間を通して、酸素富化空気等の材料Yが炉本体12の熔体Lに供給される。また、ランスパイプ15の内筒15b内を通して、上記酸素富化空気等以外の銅鉱石、副原料、可燃物、石炭等の材料Xが熔体Lに供給される。具体的に、ランスパイプ15の内筒15b内を各種の材料Xが搬送されることで、これら材料Xは該筒(搬送管)内で予め混合された状態とされて、該内筒15bの下端開口から外筒15a内に送出されることになる。つまり本実施形態では、ランスパイプ15の内筒15bは、酸素富化空気以外の上記材料X(具体的には、可燃物と、銅鉱石、副原料及び石炭のうち少なくとも1つ以上とを含む材料X)を混合可能な搬送管とされている。
【0047】
そして、本実施形態に係る可燃物の処理方法では、ランスパイプ15から、少なくとも可燃物と酸素富化空気とを、熔体Lの湯面に吹き込む(高速で勢いよく吹き付ける)ようにしている。また、熔体Lに装入する可燃物から該熔体Lに寄与される熱量に応じて、熔体Lに装入する石炭の装入量を調整している。具体的には、熔体Lに装入する可燃物から熔体Lに寄与される熱量が増大する(又は増大した)場合には、これに応じて熔体Lに装入する石炭の装入量を減少させ、可燃物から熔体Lに寄与される熱量が減少する(又は減少した)場合には、これに応じて熔体Lに装入する石炭の装入量を増大させることで、熔体Lの温度を安定的に維持するようにしている。つまり、熔体Lの温度が所定範囲に維持されるように、可燃物の装入量と石炭の装入量とを調整することで、熔体Lの熱バランスを制御している。
【0048】
ここで、各ランスパイプ15から熔体Lへ装入する可燃物の装入量は、すべてのランスパイプ15について均等に設定してもよいし、或いは、これらランスパイプ15のうち少なくとも1つ以上を、可燃物を装入するための可燃物専用のランスパイプ15としてもよい。また、ランスパイプ15から吹き込む酸素富化空気の装入量についても、上記可燃物の装入量と同様に、種々に設定してよい。
さらに、ランスパイプ15から熔体Lへ吹き込む可燃物及び/又は酸素富化空気の装入量を、熔体Lの温度や廃熱ボイラー7のガス温度に応じて制御
する。
【0049】
また、
図2及び
図3に示されるように、炉本体12の天井壁11におけるランスパイプ15群とは異なる位置には、横断面が略矩形状をなす開口部19が設けられており、この開口部19から上方に向けて、排ガスを排出する立ち上がり煙道22が延設されている。
【0050】
また、炉本体12の側壁24におけるランスパイプ15を間に挟んだ開口部19とは反対側には、熔体排出口(オーバーフロー口)27が設けられている。
図2において、熔体排出口27は、ランスパイプ15の下端開口よりも若干下方に位置しており、該熔体排出口27から熔体Lがオーバーフローすることで、該熔体Lは樋6Aから分離炉3へ送られる。
【0051】
以上説明した本実施形態に係る連続製銅設備1の溶錬炉10における可燃物の処理方法、溶錬炉10及び連続製銅設備1によれば、炉本体12に貯留された熔体Lの湯面に向けて、該湯面上のランスパイプ15から可燃物と酸素富化空気(例えば、酸素含有率40〜70%程度の空気)とを吹き込むので、可燃物が熔体Lに深く浸入しやすくなって、熔体Lとの接触領域が大きく確保される。これにより、可燃物は速やかに加熱されて燃焼・溶融されるとともに、溶け残りにくくなることから、可燃物の処理効率が向上し、処理量を増大できる。
【0052】
また、可燃物が酸素富化空気とともに熔体Lに吹き込まれるので、可燃物に含まれる可燃性成分と酸素とが熔体L内で反応しやすくなり、可燃物がより燃焼・溶融しやすくなる。さらに、可燃物及び酸素富化空気が熔体Lに吹き込まれることで、可燃物を熔体L内で攪拌するような作用も得られ、前述の効果がより顕著に得られることになる。
【0053】
また本実施形態によれば、従来のように可燃物の溶け残りが有価金属成分を含んだままスラグSと一緒に系外に排出されるようなことが抑制されるため、有価金属のスラグロスが低減される。
ここで、本実施形態の連続製銅設備1においては、溶錬炉10とその下流側の分離炉3とを連結する樋6Aが設けられており、溶錬炉10の炉本体12から排出された(オーバーフローされた)熔体L(マットM及びスラグS)は、樋6Aを通って分離炉3へ流入するようになっている。そして本実施形態によれば、熔体Lとともに可燃物の溶け残りがこの樋6Aを流れるようなことが抑制されるため、該樋6Aが閉塞されることが防止されるとともに、樋6Aから熔体Lが溢れ出ることを防ぐことができる。
【0054】
また、可燃物が熔体L内に吹き込まれて燃焼することで、該可燃物の燃焼熱が熔体Lの加熱に効率よく利用される。これにより、熱補償用燃料として熔体Lに装入される石炭(コークスや粉炭等の化石燃料)の使用量を低減することが可能になり、操業費用を削減できる。
また本実施形態によれば、可燃物が熔体Lの湯面上にとどまって燃焼することが抑制されるので、例えば従来のように、湯面で燃焼する可燃物の燃焼熱によって、炉本体12のガスゾーン内壁(側壁24における湯面上方や天井壁11の内壁)に設けられた煉瓦が損耗したり、廃熱ボイラー7がオーバーヒートしたりする不具合が防止される。
【0055】
また、熔体Lの湯面へ向けて開口するランスパイプ15から可燃物と酸素富化空気とを吹き込むことで、可燃物が炉本体12のガスゾーンに浮遊しにくくされている。これにより、可燃物として本実施形態のように粉状や粒状など細かく破砕した状態のものを用いることが可能になる。すなわち、従来では、粉状や粒状の可燃物を単純に熔体Lの湯面に落下させた場合には、可燃物が排ガスと一緒に排出されやすくなって廃熱ボイラー7等を損傷させるおそれがあったが、本実施形態では、粉状や粒状の可燃物を用いても該可燃物が熔体Lの湯面に吹き込まれることで熔体L内部まで浸入しやすくされて、上記のような不具合が抑制される。
尚、本実施形態で説明したように可燃物として粉状や粒状のものを用いた場合には、該可燃物が熔体Lでより速やかに燃焼・溶融するとともに、さらに溶け残りにくくなり、前述の作用効果がより格別顕著なものとなる。ただし、これに限定されるものではなく、例えばランスパイプ15の内径を大きく確保できる場合には、可燃物はブロック状や塊状、板状等であっても構わない。
【0056】
以上より、本実施形態によれば、可燃物を熔体Lに十分に接触させることができ、可燃物の燃焼熱を熔体Lの加熱に効率よく利用できるとともに、可燃物の溶け残りを低減して有価金属のスラグロスを抑え、可燃物の処理量を増大でき、かつ、操業費用を削減でき、炉本体12のガスゾーン内壁や廃熱ボイラー7の損傷を抑制できるのである。
【0057】
また本実施形態では、可燃物と酸素富化空気とを熔体Lの湯面に吹き込むパイプとして、鉱石と酸素富化空気とを熔体Lの湯面に吹き込むランスパイプ15を用いているので、下記の効果が得られる。
すなわちこの場合、従来の溶錬炉10に設けられている、鉱石(精鉱)を熔体Lに装入するための既存のランスパイプ15を用いて本発明を実施することが可能になる。これにより、炉本体12を簡単な構造とすることができ(つまり構造を複雑にすることなく維持でき)、設備費用が削減される。
【0058】
また本実施形態では、熔体Lに装入する可燃物から熔体Lに寄与される熱量に応じて、熔体Lに装入する石炭の装入量を調整するので、石炭の使用量を確実に低減して操業費用を削減できるとともに、熔体L温度が所定範囲に安定的に維持されて、熔体Lにおける処理が安定する。すなわち、熔体Lに装入する可燃物から熔体Lに寄与される熱量が増大する(又は増大した)場合には、これに応じて熔体Lに装入する石炭の装入量を減少させ、可燃物から熔体Lに寄与される熱量が減少する(又は減少した)場合には、これに応じて熔体Lに装入する石炭の装入量を増大させることで、熔体Lの温度を安定的に維持することが可能である。そして、本実施形態では上述したように、熔体Lに対して可燃物から寄与される熱量が十分に確保されやすいことから、熔体Lに装入する石炭の装入量を確実に低減でき、操業費用を削減できるのである。
具体的に、従来の方法では、熔体Lの湯面に可燃物を落下させるのみであったため、該可燃物が、熔体Lの温度を安定的に維持又は上昇可能な程度には熔体Lの加熱に有効に使われなかったことから、単純に可燃物の装入量を増やしても、該可燃物から熔体Lに寄与される熱量を増大させることは難しく、よって石炭の装入量を減少させることは困難であった。さらに従来の方法では、単純に熔体Lへの可燃物の装入量を増大させた場合において、上述した炉本体12のガスゾーン内壁や廃熱ボイラー7の損傷のおそれがある。
【0059】
また本実施形態では、炉本体12が、連続製銅設備1における溶錬炉10に用いられており、該溶錬炉10の後工程における製銅炉20において、可燃物中の有価金属を粗銅Cとともに効率よく回収することができる。
【0060】
また本実施形態では、溶錬炉10のランスパイプ15内に、可燃物及び酸素富化空気を混合する混合領域が設けられているので、該ランスパイプ15を通して熔体Lの湯面に吹き込まれる可燃物と酸素富化空気とが、このランスパイプ15内で混合された状態で噴出されることになる。従って、熔体Lに吹き込まれた可燃物がより燃焼・溶融しやすくなり、上述した作用効果がさらに顕著なものとなる。
また、ランスパイプ15の内筒15b内を、熔体Lへ向けて搬送させられる酸素富化空気以外の材料X(可燃物と、銅鉱石、副原料及び石炭の少なくともいずれかとを含む材料X)が、熔体Lの湯面に吹き込まれる前に該内筒15b内で十分に混合されていることから、これら材料Xが熔体L内で迅速に、かつ安定的に処理されやすくなる。
【0061】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0062】
例えば、前述の実施形態では、可燃物と酸素富化空気とを熔体Lの湯面に吹き込むパイプとして、鉱石と酸素富化空気とを熔体Lの湯面に吹き込むランスパイプ15を用いることとしたが、これに限定されるものではない。すなわち、ランスパイプ15を用いる代わりに、可燃物と酸素富化空気とを吹き込むための専用のパイプを設けてもよい。この場合、前記パイプは、炉本体12に貯留された熔体Lの湯面の上方に、該湯面へ向けて開口して設けられる。尚、このような専用のパイプを設ける場合には、熔体Lに吹き込む可燃物の性状(形状や大きさ等)に応じて、該パイプの内径や長さ、下端開口位置(湯面までの距離)などを種々に設定してよい。
【0063】
また前述の実施形態では、
図3に示される炉本体12の上面視で、複数のランスパイプ15が直線状の列をなしているとともに、該列が複数配列されているが、ランスパイプ15の配置や数は、前述した実施形態のものに限定されない。すなわち
本発明の参考例では、ランスパイプ15は前記上面視において、例えば円形状(単一円形状、多重同心円形状)、多角形状(単一多角形状、多重同心多角形状)、マトリクス状(格子形状)、ドット状(規則配置、不規則配置)等に配列していてもよい。
【0064】
また、前述の実施形態で説明したランスパイプ15は、二重筒構造を有しているが、
本発明の参考例ではこれに限定されるものではなく、それ以外の例えば単一の筒構造、三重以上の筒構造とされていてもよい。
また、ランスパイプ15内に混合領域が設けられていなくてもよく、この場合、例えばランスパイプ15における外筒15aの下端開口と、内筒15bの下端開口とが、同じ位置(鉛直方向に沿う位置が同一)とされていてもよい。
【0065】
また、前述の実施形態では、連続製銅設備1の溶錬炉10に本発明を適用した例を説明したが、これに限定されるものではなく、それ以外の溶錬炉や製錬炉にも本発明を適用可能である。
また、連続製銅設備1は、少なくとも溶錬炉10、分離炉3及び製銅炉20を備えていればよく、それ以外の精製炉5等については、他の処理装置に適宜代替したり省略してよい。
【0066】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及び尚書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0068】
[実施例]
まず、本発明の実施例として、有価金属を含有する
可燃性スクラップ
(以下、単にスクラップという)(可燃物)を粉砕して、三菱連続製銅法のS炉(溶錬炉10)の熔体Lの湯面に、ランスパイプ15から酸素富化空気とともに吹き込んで装入する操業を実施した。
スクラップは主に基板屑で構成されており、主成分である可燃性の樹脂材料と、Cu、SiO
2、CaO、Al
2O
3及び微量のAu、Agを含んでいる。尚、スクラップは粒度が10mm以下となるように破砕機により破砕した。
【0069】
破砕したスクラップを銅鉱石と混合し、ロータリードライヤーを用いて乾燥した後、S炉の天井壁11に設置された10本のランスパイプ15から炉内に装入した。尚、鉱石及びスクラップの装入量は、鉱石:101T、スクラップ:6.4Tとした。
また、スクラップと銅鉱石との混合物をランスパイプ15から熔体Lに装入する試験を開始するまでの間、熔体Lの不足する熱源を補う目的で、粉炭を300kg/hr程度添加して熔体Lの温度を維持した。そして試験開始以降は、粉炭の添加を停止した。
【0070】
S炉内の熔体Lは、炉本体12の熔体排出口27から流出し、樋6Aを通りCL炉(分離炉3)に送られ、該CL炉において、銅と鉄の硫化物を主成分とするマットMと、酸化物を主成分とするスラグSgとに分離される。このスラグSg中に含まれる有価金属は、回収されずに有価金属のスラグロスとなる。また、スラグSg中の有価金属の濃度は、S炉における処理に応じて変化する。そこで、S炉における処理状況を確認する目的で、スラグSg中の銅濃度(%)について、試験開始の前後の値を測定した。尚、スラグ中銅濃度は、蛍光X線分析装置を用いて測定した。結果を
図5に示す。
【0071】
また、S炉における処理状況を確認する目的で、熔体Lの温度(℃)と、廃熱ボイラー7のガス温度(℃)について、試験開始の前後の値を測定した。具体的には、例えばスクラップが熔体L中で十分に燃焼しなかった場合や、炉本体12のガスゾーンで燃焼した場合には、熔体Lの温度が低下したり、廃熱ボイラー7のガス温度が上昇したりする等の問題の発生が予想される。尚、温度は、K型熱電対及びN型熱電対を用いて測定した。結果を
図6に示す。
【0072】
[評価]
図5に示される試験結果より、試験開始後(
図5のグラフ横軸に示される0(hr)の右側領域)におけるスラグ中銅濃度(%)は、試験開始前(
図5のグラフ横軸に示される0(hr)の左側領域)のスラグ中銅濃度(%)と同程度か又はそれ以下であり、本実施例においてランスパイプ15からスクラップを装入したことによる悪影響は見受けられなかった。
【0073】
また、
図6に示される試験結果より、試験開始後(
図6のグラフ横軸に示される0(hr)の右側領域)における熔体Lの温度(℃)は、試験開始前(
図6のグラフ横軸に示される0(hr)の左側領域)の熔体Lの温度(℃)と同程度であった。つまり、本実施例による熔体Lへのスクラップの吹き込みによって、粉炭の熱量を補償可能であることが確認された。
また、廃熱ボイラー7のガス温度(℃)についても、試験開始の前後で同程度であり、これにより本実施例において、破砕されたスクラップを用いた場合であっても、該スクラップが熔体L内に深く浸入して良好に処理されていることが確認された。
【0074】
[比較例]
次に、従来の比較例として、炉本体の天井壁に装入口(投入口)が形成されたS炉(溶錬炉)を用い、有価金属を含有するスクラップ(可燃物)を、前記装入口から熔体の湯面に落下させて装入する操業を実施した。
この比較例においては、熔体への鉱石及びスクラップの装入量は、鉱石:99T、スクラップ:試験開始前0.9T、試験開始後2.0Tとした。尚、熔体への粉炭の添加量は、試験開始の前後で変更無しとした。それ以外は上述した実施例と同様の条件として、スラグSg中の銅濃度(%)と、熔体の温度(℃)及び廃熱ボイラーのガス温度(℃)とを測定した。結果を
図7及び
図8に示す。
【0075】
[評価]
図7に示される試験結果より、試験開始後(
図7のグラフ横軸に示される0(hr)の右側領域)におけるスラグ中銅濃度(%)は、試験開始前(
図7のグラフ横軸に示される0(hr)の左側領域)のスラグ中銅濃度(%)に比べて明らかに増大しており、かつその値も不安定になっていた。これは、未溶解のスクラップに随伴するなどしてスラグSgに移行する有価金属の量が増大しているものと考えられる。
【0076】
また、
図8に示される試験結果より、S炉の熔体温度が試験開始の前後でほとんど変化していないのに対して、試験開始後(
図8のグラフ横軸に示される0(hr)の右側領域)における廃熱ボイラー内のガス温度には顕著な上昇が見受けられた。これは、S炉に装入されたスクラップの一部が炉本体のガスゾーンや廃熱ボイラー内で燃焼しているものと考えられる。またこの結果より、比較例においてスクラップの装入量を増大しても、熔体へ寄与される熱量をさほど増大できるものではなく、よって粉炭の添加量を削減できるわけではないことがわかった。さらに、比較例の試験中において、廃熱ボイラーの水管へのダスト異常付着など、該廃熱ボイラー内のガス温度上昇に起因するトラブルが確認された。