特許第5761337号(P5761337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761337自動変速機の制御方法及び制御装置並びに自動変速機システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761337
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】自動変速機の制御方法及び制御装置並びに自動変速機システム
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/04 20060101AFI20150723BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20150723BHJP
   F16H 59/24 20060101ALI20150723BHJP
   F16H 61/684 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   F16H61/04
   F16H59/42
   F16H59/24
   F16H61/684
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-510889(P2013-510889)
(86)(22)【出願日】2012年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2012002695
(87)【国際公開番号】WO2012144207
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2013年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-92901(P2011-92901)
(32)【優先日】2011年4月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 真也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼家 陽介
(72)【発明者】
【氏名】久保 智宏
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特公平05−017976(JP,B2)
【文献】 特開平11−082704(JP,A)
【文献】 特開2009−216102(JP,A)
【文献】 特開2007−198564(JP,A)
【文献】 特開2002−089701(JP,A)
【文献】 特開平11−063202(JP,A)
【文献】 特表2000−501822(JP,A)
【文献】 特開2006−207602(JP,A)
【文献】 特開平09−269055(JP,A)
【文献】 特開平08−326897(JP,A)
【文献】 特開2001−349420(JP,A)
【文献】 特開平07−174217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態に応じて変速機構の作動状態を変更する複数の摩擦要素を備え、これらの摩擦要素のうちの所定の解放側摩擦要素を解放すると同時に他の締結側摩擦要素を締結することにより変速を行う自動変速機の制御方法であって、
変速時に前記締結側摩擦要素を締結させる工程として、
変速指令に基き、前記締結側摩擦要素に対して作動油をプリチャージするプリチャージ工程と、
作動圧をプリチャージ時の油圧より低い所定油圧に一定時間保持する油圧保持工程と、
前記作動圧を上昇させることにより前記締結側摩擦要素を締結させる昇圧工程とを順次行うと共に、
前記プリチャージ工程における作動油のプリチャージ時間を設定するプリチャージ時間設定工程を設け、
前記プリチャージ時間設定工程では、前記締結側摩擦要素を締結させる各工程によって前記締結側摩擦要素が締結される時期を予測すると共に、前記各工程によって前記締結側摩擦要素が実際に締結された時期を実測し、これらの時期の差が小さくなるように前記プリチャージ時間を設定し、
次回変速時のプリチャージ工程では、前記締結側摩擦要素に対し、前記プリチャージ時間設定工程で設定されたプリチャージ時間だけプリチャージを行い、
次回変速時の油圧保持工程では、前記プリチャージ時間設定工程で設定されたプリチャージ時間に拘わらず、作動圧を前記所定油圧に一定時間保持することを特徴とする自動変速機の制御方法。
【請求項2】
変速時に前記解放側摩擦要素を解放させる工程として、
前記昇圧工程に対応して前記解放側摩擦要素の作動圧を低下させることにより前記解放側摩擦要素を解放させる解放実施工程を行うと共に、
次回変速時の解放実施工程では、前記プリチャージ時間設定工程で設定されたプリチャージ時間に応じて前記解放側摩擦要素の解放動作を制御することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御方法。
【請求項3】
記解放実施工程の開始時期を設定する解放開始時期設定工程を設け、
前記解放開始時期設定工程では、前記プリチャージ時間設定工程で設定されたプリチャージ時間に応じて前記解放実施工程の開始時期を設定し、
次回変速時の解放実施工程では、前記解放側摩擦要素に対し、前記解放開始時期設定工程で設定された開始時期に解放実施工程を開始することを特徴とする請求項に記載の自動変速機の制御方法。
【請求項4】
実測した時期が予測した時期より遅いときは、前記プリチャージ時間設定工程では、プリチャージ時間を長くし、前記解放開始時期設定工程では、解放実施工程の開始時期を遅くすることを特徴とする請求項に記載の自動変速機の制御方法。
【請求項5】
実測した時期が予測した時期より早いときは、前記プリチャージ時間設定工程では、プリチャージ時間を短くし、前記解放開始時期設定工程では、解放実施工程の開始時期を早くすることを特徴とする請求項又は請求項に記載の自動変速機の制御方法。
【請求項6】
前記プリチャージ時間設定工程及び前記解放開始時期設定工程を、自動変速機の製造時のテスト工程で行うことを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載の自動変速機の制御方法。
【請求項7】
前記プリチャージ時間設定工程を、変速時に前記締結側摩擦要素に供給される作動圧の目標値である締結目標圧が所定圧以上のときに行うことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の自動変速機の制御方法。
【請求項8】
運転状態に応じて変速機構の作動状態を変更する複数の摩擦要素を備え、これらの摩擦要素のうちの所定の解放側摩擦要素を解放すると同時に他の締結側摩擦要素を締結することにより変速を行う自動変速機の制御装置であって、
変速時に前記締結側摩擦要素を締結させる手段として、
変速指令に基き、前記締結側摩擦要素に対して作動油をプリチャージするプリチャージ手段と、
該プリチャージ手段による作動油のプリチャージ後に作動圧をプリチャージ時の油圧より低い所定油圧に一定時間保持する油圧保持手段と、
該油圧保持手段による油圧の保持動作後に前記作動圧を上昇させることにより前記締結側摩擦要素を締結させる昇圧手段とを設けると共に、
前記プリチャージ手段による作動油のプリチャージ時間を設定するプリチャージ時間設定手段を設け、
前記プリチャージ時間設定手段は、前記締結側摩擦要素を締結させる各手段によって前記締結側摩擦要素が締結される時期を予測すると共に、前記各手段によって前記締結側摩擦要素が実際に締結された時期を実測し、これらの時期の差が小さくなるように前記プリチャージ時間を設定し、
次回変速時、前記プリチャージ手段は、前記締結側摩擦要素に対し、前記プリチャージ時間設定手段で設定されたプリチャージ時間だけプリチャージを行い、
次回変速時、前記油圧保持手段は、前記プリチャージ時間設定手段で設定されたプリチャージ時間に拘わらず、作動圧を前記所定油圧に一定時間保持することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項9】
運転状態に応じて変速機構の作動状態を変更する複数の摩擦要素と、
各摩擦要素を駆動する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータへの油圧を制御する油圧制御弁を備える油圧制御回路と、
前記油圧アクチュエータへの油圧が所定の締結圧以上であることを検出する油圧検出装置と、
前記油圧検出装置の信号が入力されると共に前記油圧制御弁を制御する制御ユニットとを備える自動変速機システムであって、
前記制御ユニットは、
変速指令に基き、前記複数の摩擦要素のうちの所定の締結側摩擦要素の油圧アクチュエータに対して作動油をプリチャージするように油圧制御弁を制御し、
前記作動油のプリチャージ後に作動圧をプリチャージ時の油圧より低い所定油圧に一定時間保持するように油圧制御弁を制御し、
前記油圧の保持動作後に前記作動圧を上昇させることにより前記締結側摩擦要素を締結させるように油圧制御弁を制御すると共に、
前記締結側摩擦要素が締結される時期を予測すると共に、前記油圧検出装置の信号に基き前記締結側摩擦要素が実際に締結された時期を実測し、これらの時期の差が小さくなるように前記作動油のプリチャージ時間を設定し、
次回変速時、前記締結側摩擦要素の油圧アクチュエータに対し、前記設定したプリチャージ時間だけ作動油をプリチャージするように油圧制御弁を制御し、
次回変速時、前記設定したプリチャージ時間に拘わらず、作動圧を前記所定油圧に一定時間保持するように油圧制御弁を制御する、
ように構成されていることを特徴とする自動変速機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機の制御方法及び制御装置並びに自動変速機システムに関し、車両用自動変速機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される自動変速機は、トルクコンバータと変速歯車機構とを組み合わせ、運転状態に応じてクラッチやブレーキ等の複数の摩擦要素を選択的に締結することにより前記変速歯車機構の作動状態、すなわち動力伝達経路を変更して、所定の変速段に自動的に変速するように構成されている。この種の自動変速機では、複数の摩擦要素のうちの所定の解放側摩擦要素を解放すると同時に他の締結側摩擦要素を締結することにより所定の変速段間の変速が行われることがある。
【0003】
前記のような変速時には、解放側摩擦要素の解放動作と締結側摩擦要素の締結動作とが適切なタイミングで行われる必要がある。解放側摩擦要素の解放動作に対して締結側摩擦要素の締結動作が早すぎると、一時的に両摩擦要素とも締結された状態が発生する。これにより、自動変速機がインターロック気味となって、出力トルクのいわゆる引き込み現象が発生する。逆に、解放側摩擦要素の解放動作に対して締結側摩擦要素の締結動作が遅すぎると、一時的に両摩擦要素とも解放された状態が発生する。これにより、自動変速機がニュートラル気味となって、エンジン回転数のいわゆる吹き上り現象が発生する。これらの現象はいずれも乗員に違和感を与える。
【0004】
したがって、自動変速機の変速動作は、前記のような現象を回避しながら、できるだけ速やかに完了させることが望ましい。そのため、例えば特許文献1に記載されているように、締結側摩擦要素に締結用の作動圧を供給する場合に、その供給を制御する油圧制御弁から前記締結側摩擦要素に至る油路や前記締結側摩擦要素の油圧室に作動油を速やかに充満させるためのプリチャージが行われることがある。
【0005】
そして、前記プリチャージの後、前記油圧制御弁により、作動圧を所定期間、ほぼ一定に保持する保持期間を経て、前記作動圧を再び上昇させて前記締結側摩擦要素を完全に締結させる締結制御が行われる。その場合に、前記のように解放側摩擦要素の解放動作と締結側摩擦要素の締結動作とが適切なタイミングで行われるように、コントロールユニットにより、前記油圧制御弁による作動圧の供給動作が制御される。
【0006】
前記のような変速時の油圧制御において、解放側摩擦要素の解放動作と締結側摩擦要素の締結動作とのタイミングが適切でない場合は、締結側摩擦要素の締結動作を制御することにより前記タイミングを調整することが通例である。しかし、変速時間が長くなることをできるだけ回避しながら、前記タイミングが適切となるように精度よく締結側摩擦要素の締結動作を制御することは容易ではない。特に、締結側摩擦要素を完全に締結させるための作動圧を上昇させる制御がプリチャージの終了直後に開始されると、締結側摩擦要素の急激な締結によるショックが発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03−28571号公報
【発明の概要】
【0008】
そこで、本発明の目的は、解放側摩擦要素の解放動作と締結側摩擦要素の締結動作とが適切なタイミングで行われて良好な変速動作が実現される自動変速機の制御方法及び制御装置並びに自動変速機システムを提供することである。
【0009】
すなわち、本発明は、運転状態に応じて変速機構の作動状態を変更する複数の摩擦要素を備え、これらの摩擦要素のうちの所定の解放側摩擦要素を解放すると同時に他の締結側摩擦要素を締結することにより変速を行う自動変速機の制御方法であって、変速時に前記締結側摩擦要素を締結させる工程として、変速指令に基き、前記締結側摩擦要素に対して作動油をプリチャージするプリチャージ工程と、作動圧をプリチャージ時の油圧より低い所定油圧に一定時間保持する油圧保持工程と、前記作動圧を上昇させることにより前記締結側摩擦要素を締結させる昇圧工程とを順次行うと共に、前記プリチャージ工程における作動油のプリチャージ時間を設定するプリチャージ時間設定工程を設け、前記プリチャージ時間設定工程では、前記締結側摩擦要素を締結させる各工程によって前記締結側摩擦要素が締結される時期を予測すると共に、前記各工程によって前記締結側摩擦要素が実際に締結された時期を実測し、これらの時期の差が小さくなるように前記プリチャージ時間を設定し、次回変速時のプリチャージ工程では、前記締結側摩擦要素に対し、前記プリチャージ時間設定工程で設定されたプリチャージ時間だけプリチャージを行い、次回変速時の油圧保持工程では、前記プリチャージ時間設定工程で設定されたプリチャージ時間に拘わらず、作動圧を前記所定油圧に一定時間保持することを特徴とする自動変速機の制御方法である。
【0010】
また、本発明は、運転状態に応じて変速機構の作動状態を変更する複数の摩擦要素を備え、これらの摩擦要素のうちの所定の解放側摩擦要素を解放すると同時に他の締結側摩擦要素を締結することにより変速を行う自動変速機の制御装置であって、変速時に前記締結側摩擦要素を締結させる手段として、変速指令に基き、前記締結側摩擦要素に対して作動油をプリチャージするプリチャージ手段と、該プリチャージ手段による作動油のプリチャージ後に作動圧をプリチャージ時の油圧より低い所定油圧に一定時間保持する油圧保持手段と、該油圧保持手段による油圧の保持動作後に前記作動圧を上昇させることにより前記締結側摩擦要素を締結させる昇圧手段とを設けると共に、前記プリチャージ手段による作動油のプリチャージ時間を設定するプリチャージ時間設定手段を設け、前記プリチャージ時間設定手段は、前記締結側摩擦要素を締結させる各手段によって前記締結側摩擦要素が締結される時期を予測すると共に、前記各手段によって前記締結側摩擦要素が実際に締結された時期を実測し、これらの時期の差が小さくなるように前記プリチャージ時間を設定し、次回変速時、前記プリチャージ手段は、前記締結側摩擦要素に対し、前記プリチャージ時間設定手段で設定されたプリチャージ時間だけプリチャージを行い、次回変速時、前記油圧保持手段は、前記プリチャージ時間設定手段で設定されたプリチャージ時間に拘わらず、作動圧を前記所定油圧に一定時間保持することを特徴とする自動変速機の制御装置である。
【0011】
また、本発明は、運転状態に応じて変速機構の作動状態を変更する複数の摩擦要素と、各摩擦要素を駆動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータへの油圧を制御する油圧制御弁を備える油圧制御回路と、前記油圧アクチュエータへの油圧が所定の締結圧以上であることを検出する油圧検出装置と、前記油圧検出装置の信号が入力されると共に前記油圧制御弁を制御する制御ユニットとを備える自動変速機システムであって、前記制御ユニットは、変速指令に基き、前記複数の摩擦要素のうちの所定の締結側摩擦要素の油圧アクチュエータに対して作動油をプリチャージするように油圧制御弁を制御し、前記作動油のプリチャージ後に作動圧をプリチャージ時の油圧より低い所定油圧に一定時間保持するように油圧制御弁を制御し、前記油圧の保持動作後に前記作動圧を上昇させることにより前記締結側摩擦要素を締結させるように油圧制御弁を制御すると共に、前記締結側摩擦要素が締結される時期を予測すると共に、前記油圧検出装置の信号に基き前記締結側摩擦要素が実際に締結された時期を実測し、これらの時期の差が小さくなるように前記作動油のプリチャージ時間を設定し、次回変速時、前記締結側摩擦要素の油圧アクチュエータに対し、前記設定したプリチャージ時間だけ作動油をプリチャージするように油圧制御弁を制御し、次回変速時、前記設定したプリチャージ時間に拘わらず、作動圧を前記所定油圧に一定時間保持するように油圧制御弁を制御する、ように構成されていることを特徴とする自動変速機システムである。
【0012】
前記並びにその他の本発明の目的、特徴及び利点は、以下の詳細な記載と添付図面とから明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る制御装置の制御システム図である。
図2】同実施形態における変速制御のタイムチャートである。
図3】変速開始時からの経過時間に対する積算流量の変化の説明図である。
図4】同、経過時間に対する予測油圧の変化の説明図である。
図5】ATF温度と積算流量の関係の説明図である。
図6】変速時のプリチャージ制御の動作を示すフローチャートである。
図7】(a)はプリチャージ時間を長くする前のタイムチャート、(b)は(a)に対してプリチャージ時間を長くしたときのタイムチャートである。
図8】(a)はプリチャージ時間を短くする前のタイムチャート、(b)は(a)に対してプリチャージ時間を短くしたときのタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態は、本発明に係る自動変速機の制御装置及び自動変速機システムについての実施形態であると同時に、その動作は本発明の自動変速機の制御方法の実施形態を構成する。
【0015】
図1は、この実施形態における自動変速機の制御システム1を示すもので、該システム1は、当該自動変速機に備えられた複数の摩擦要素11〜13の締結、解放を制御する油圧制御回路20と、該油圧制御回路20に備えられたリニアソレノイドバルブ等でなる各種油圧制御弁21〜23を制御する制御ユニット30とを有する。
【0016】
前記制御ユニット30には、当該車両及び自動変速機等の状態を検出するものとして、車速を検出する車速センサ31から信号と、エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度センサ32からの信号と、トルクコンバータのタービン回転数を検出するタービン回転数センサ33からの信号と、自動変速機油(以下「ATF」という)の温度を検出するATF温度センサ34からの信号と、所定の変速時に締結される摩擦要素に供給される作動圧が所定の締結圧以上でONとなる油圧スイッチ35からの信号とが入力されるようになっている。なお、油圧スイッチ35は、後述する油圧アクチュエータ(ピストン)への油圧が所定の締結圧以上であることを検出する油圧検出装置である。
【0017】
そして、制御ユニット30は、前記各信号に基づき、油圧制御回路20の各種油圧制御弁21〜23を制御して複数の摩擦要素11〜13を選択的に締結させることにより、車両の運転状態に応じた変速段を実現するように構成されている。
【0018】
その場合に、所定の変速段間では、所定の(一つに限定されない)摩擦要素(以下「解放側摩擦要素」という)11が解放されると同時に、他の(一つに限定されない)摩擦要素(以下「締結側摩擦要素」という)12が締結されることにより変速が実行され、前記制御ユニット30は、解放側摩擦要素11の解放動作に対して締結側摩擦要素12の締結動作が適切なタイミングで行われるように、両摩擦要素11、12の作動圧をそれぞれ制御する解放用油圧制御弁21および締結用油圧制御弁22の動作を制御する。
【0019】
次に、前記変速時における解放側及び締結側摩擦要素11、12の制御について説明する。
【0020】
図2に示すように、制御ユニット30内で変速指令が出力されると、該制御ユニット30は、解放側摩擦要素11の作動圧を制御する解放用油圧制御弁21に対し、該弁21を全開もしくは所定開度の状態から閉じるように、制御信号Aを出力すると同時に、締結側摩擦要素12の作動圧を制御している締結用油圧制御弁22に対しては、該弁22を全閉状態から全開もしくは所定開度に開くように、制御信号Bを出力する。
【0021】
ここで、これらの制御信号の出力値(油圧制御弁21、22の開度)を油圧に置換し、符合Aで示す信号を解放側指示圧Aとし、符合Bで示す信号を締結側指示圧Bとする。
【0022】
締結側指示圧Bは、一旦上昇してから低下し、その後再び上昇に転じるように設定されている。これは、締結側摩擦要素12の締結時には、締結用油圧制御弁22から締結側摩擦要素12に至る油路や該摩擦要素12の油圧室に作動油を速やかに充満させるためのプリチャージを行うためである。そして、締結側指示圧Bに従って油圧が制御されることにより、締結側摩擦要素12の締結時に、変速指令の出力時から所定時間(以下「プリチャージ時間」という)Tpの間、前記油圧制御弁22の開度を比較的大きな所定開度に維持するプリチャージ工程と、プリチャージ直後に作動圧が急激に立ち上がるのを防止するためのバッファ期間として、作動圧(より具体的には指示圧B)をプリチャージ時の油圧よりも低い所定圧に保持する一定時間Thの油圧保持工程と、その後、締結側摩擦要素12を完全に締結させるために作動圧を上昇させる昇圧工程とが実現されるようになっている。
【0023】
一方、解放側指示圧Aは、最初徐々に低下した後、それまでよりも急な低下速度で低下するように設定されている。そして、このような解放側指示圧Aに従って油圧が制御されることにより、解放側摩擦要素11の解放時に、前記プリチャージ工程及び前記油圧保持工程に対応して解放側摩擦要素11の作動圧を徐々に低下させることにより解放側摩擦要素11の解放を準備する解放準備工程と、前記昇圧工程に対応して解放側摩擦要素11の作動圧を相対的に速やかに低下させることにより解放側摩擦要素11を解放させる解放実施工程とが実現されるようになっている。なお、前記解放準備工程では解放側摩擦要素11は未だ滑っておらず、前記解放実施工程で解放側摩擦要素11は滑り始めることになる。
【0024】
そして、前記指示圧A、Bに従って油圧制御弁21、22が動作することにより、解放側及び締結側摩擦要素11、12の作動圧が制御されるのであるが、その場合に、解放側の実油圧は前記解放側指示圧Aに比較的忠実に従って変化するのに対し、締結側の実油圧は、符合B1で示すように、昇圧工程において、前記締結側指示圧Bの立ち上がりに対して遅れて上昇する。
【0025】
この遅れは自動変速機毎に異なり、また、締結側摩擦要素12のピストンストロークの変化等によって同一自動変速機においても経時変化する。なお、ピストンは、各摩擦要素11〜13を駆動する油圧アクチュエータである。そこで、制御ユニット30は、前記締結側指示圧Bに基づき、締結側摩擦要素12に供給される作動圧の変化を予測し、前記実油圧B1がこの予測油圧B2に一致しもしくはできるだけ近づくように制御するのであり、次に、この制御について説明する。
【0026】
まず、前記締結側摩擦要素12に供給される作動圧の予測方法について説明すると、締結用油圧制御弁22の開度を図2の指示圧Bのように設定した場合、図3に示すように、変速指令出力後の該油圧制御弁22から吐出された流量の積算値は、プリチャージ時間Tpの間は時間の経過に対して急速に増加し、その後は緩やかに増加する。
【0027】
そして、このように積算流量が増加し、作動油が油圧制御弁22から締結側摩擦要素12に至る油路や該摩擦要素12の油圧室に充満され、さらにピストンを押圧することにより、作動圧の油圧は、図4に示すように、変速指令出力後の時間の経過に対し、プリチャージにより速やかに立ち上がった後、ピストンをストロークさせる間、一定圧に保持され或いは緩やかに上昇し、ピストンストロークが終了した時点から最終的な締結目標圧に向けて再び上昇することになる。
【0028】
その場合に、ピストンストロークが設計寸法に基づく基準量より小さいときは、締結目標圧に向う立ち上がりの時期が基準量の場合より早くなり、ピストンストロークが基準量より大きいときは、締結目標圧に向う立ち上がりの時期が基準量の場合に比べて遅くなる。
【0029】
また、前記経過時間に対する積算流量の関係は、ATF温度によって異なり、図5に示すように、ATF温度が高く、ATFの粘度が低い場合は、同一時間経過に対して積算流量は多くなり、ATF温度が低く、ATFの粘度が高い場合は、同一時間経過に対して積算流量は少なくなる。
【0030】
このようにして、締結側指示圧Bに基づき、ピストンストロークとATF温度とに応じた予測油圧B2が算出されることになる。そして、この予測油圧B2と実油圧B1とが、図1に示す油圧スイッチ35のON油圧に達する時期に応じて、実油圧B1を予測油圧B2に一致させもしくは近づけるための制御が行われる。次に、この制御を、図6に示すフローチャートに従って説明する。
【0031】
まず、ステップS1で、制御ユニット30は、図1に示す各種センサ及びスイッチ31〜35からの信号を入力し、ステップS2で変速指令が出力されたか否かを判定する。そして、ステップS2で、変速指令が出力されたことを判定すると、ステップS3で、スロットル開度センサ32が示すスロットル開度とタービン回転数センサ33が示すタービン回転数とに基づき、締結側摩擦要素12が伝達するトルクや回転数に応じた締結油圧の目標値(締結目標圧)を算出し、ステップS4で、この締結目標圧が前記油圧スイッチ35のON油圧(すなわち前述した所定の締結圧)に設定された所定圧以上もしくは該ON油圧(所定の締結圧)より若干高い値に設定された所定圧以上か否かを判定する。
【0032】
締結目標圧が前記所定圧未満の場合は、油圧スイッチ35のON油圧の公差やバラツキにより、作動圧が締結目標圧に達しても該スイッチ35がONしないおそれがあり、この場合は以下の制御を行わない。
【0033】
そして、このおそれがないときは、次にステップS5で、前述のようにして算出した予測油圧B2が油圧スイッチ35のON油圧に達する時期、即ち、予測油圧B2通りに実油圧B1が上昇した場合に該スイッチ35がONする時期(以下「予測時期」という)t1を算出する。
【0034】
次に、ステップS6で、油圧スイッチ35がONするのを待ち、ステップS7で、ONした時期(以下「実時期」という)t2を検出する。そして、ステップS8で、前記油圧スイッチ35がONする予測時期t1と実時期t2とを比較する。
【0035】
その結果、実時期t2が予測時期t1よりも遅い場合は、ステップS9で、その差T(t2−t1)に応じてプリチャージ時間Tpを長くし、逆に、実時期t2が予測時期t1よりも早い場合は、ステップS11で、その差T’(t1−t2)に応じてプリチャージ時間Tpを短くする。そして、いずれの場合も、油圧保持工程の時間Thは一定に保持される。
【0036】
併せて、実時期t2が予測時期t1よりも遅い場合、すなわちプリチャージ時間Tpを長くした場合は、ステップS10で、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期、すなわち解放側摩擦要素11の油圧アクチュエータ(ピストン)に対する作動圧の相対的に速やかな低下開始時期を遅くし、逆に、実時期t2が予測時期t1よりも早い場合、すなわちプリチャージ時間Tpを短くした場合は、ステップS12で、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期、すなわち解放側摩擦要素11の油圧アクチュエータ(ピストン)に対する作動圧の相対的に速やかな低下開始時期を早くする。
【0037】
前記のように、本実施形態では、ステップS9,S11で予測時期t1と実時期t2との差Tに応じてプリチャージ時間Tpを長くしたり短くしたりする。一方、油圧保持工程の時間Thは一定に保持される。そのため、変速指令の出力時期から油圧保持工程の終了時期(昇圧工程の開始時期)までの時間が長くなったり短くなったりする。その結果、昇圧工程の開始に伴う図2に示す指示圧Bや予測油圧B2の立ち上がりが時間的に遅くなったり早くなったりする(プリチャージ時間Tpを変更することにより実油圧B1は予測油圧B2に一致しもしくは近づく)。すると、プリチャージ時間Tpを長くした場合は、昇圧工程の開始に伴う指示圧Bや予測油圧B2の立ち上がりが時間的に遅くなり、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期との差が拡大する。その結果、変速機がニュートラル気味となって、エンジン回転数の吹き上り現象が発生し得る。逆に、プリチャージ時間Tpを短くした場合は、昇圧工程の開始に伴う指示圧Bや予測油圧B2の立ち上がりが時間的に早くなり、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期との差が縮小する。その結果、自動変速機がインターロック気味となって、出力トルクの引き込み現象が発生し得る。
【0038】
つまり、前記ステップS8で、実時期t2が予測時期t1よりも遅いと判定された場合は、解放側摩擦要素11の解放動作に対して締結側摩擦要素12の締結動作が遅れ気味であって、もともと吹き上り現象が発生する可能性が大きいのであるが、それが十分には解消されないのである。また、前記ステップS8で、実時期t2が予測時期t1よりも早いと判定された場合は、解放側摩擦要素11の解放動作に対して締結側摩擦要素12の締結動作が進み気味であって、もともと引き込み現象が発生する可能性が大きいのであるが、それが十分には解消されないのである。
【0039】
そこで、本実施形態では、解放側摩擦要素11の解放動作と締結側摩擦要素12の締結動作とのタイミングを適切なものとするように調整する場合に、主として締結側摩擦要素12の締結動作を制御しつつ、併せて解放側摩擦要素11の解放動作も制御するようにしたものである。すなわち、実時期t2が予測時期t1よりも遅く、プリチャージ時間Tpを長くした場合は、前記ステップS10で説明したように、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期を遅くし、これにより吹き上り現象の抑制を図るのである。一方、実時期t2が予測時期t1よりも早く、プリチャージ時間Tpを短くした場合は、前記ステップS12で説明したように、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期を早くし、これにより引き込み現象の抑制を図るのである。
【0040】
なお、制御ユニット30が行う前記ステップS5〜S9及びS11は、プリチャージ工程における作動油のプリチャージ時間を設定するプリチャージ時間設定工程であり、制御ユニット30が行う前記ステップS10及びS12は、解放実施工程の開始時期を設定する解放開始時期設定工程である。
【0041】
また、図2を参照して説明した締結側摩擦要素12に対するプリチャージ工程、油圧保持工程、及び昇圧工程を実行するように締結用油圧制御弁22を制御する制御ユニット30は、それぞれ、プリチャージ手段、油圧保持手段、及び昇圧手段である。また、図2を参照して説明した解放側摩擦要素11に対する解放準備工程、及び解放実施工程を実行するように解放用油圧制御弁21を制御する制御ユニット30は、それぞれ、解放準備手段、及び解放実施手段である。また、前記ステップS5〜S9及びS11を実行する制御ユニット30は、プリチャージ時間設定手段であり、前記ステップS10及びS12を実行する制御ユニット30は、解放開始時期設定手段である。
【0042】
これにより、次の変速時、実時期t2が予測時期t1よりも遅い場合は、図7(a)、(b)に対比して示すように、プリチャージ時間Tpが長くされた分だけ、予測油圧B2の立ち上がり時期ないし油圧スイッチ35がONする予測時期t1が遅くなると共に、作動油のプリチャージ量が増大することにより、実油圧B1の立ち上がりが早められて、油圧スイッチ35がONする実時期t2が早くなり、その結果、両時期t1、t2の差(時間T)が縮められ、実油圧B1が予測油圧B2と一致し、もしくは近づくことになる。
【0043】
図7(b)において鎖線で示す解放側指示圧Aは、図7(a)に示す解放側指示圧Aと同じもの、すなわち改善前の解放側指示圧であり、図7(b)において実線で示す解放側指示圧Aは、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期を図7(a)に示す解放側指示圧Aに比べて遅くしたもの、すなわち改善後の解放側指示圧である。改善後の解放側指示圧Aにおいては、予測油圧B2の立ち上がり時期が遅くなった分だけ、解放側指示圧Aの相対的に速やかな低下開始時期が遅くなっている。これにより吹き上り現象の抑制が図られる。
【0044】
また、実時期t2が予測時期t1よりも早い場合は、図8(a)、(b)に対比して示すように、プリチャージ時間Tpが短くされた分だけ、予測油圧B2の立ち上がり時期ないし油圧スイッチ35がONする予測時期t1が早くなると共に、作動油のプリチャージ量が減少することにより、実油圧B1の立ち上がりが遅くされて、油圧スイッチ35がONする実時期t2が遅くなり、その結果、この場合も、両時期t1、t2の差(時間T’)が縮められ、実油圧B1が予測油圧B2と一致し、もしくは近接することになる。
【0045】
図8(b)において鎖線で示す解放側指示圧Aは、図8(a)に示す解放側指示圧Aと同じもの、すなわち改善前の解放側指示圧であり、図8(b)において実線で示す解放側指示圧Aは、解放側摩擦要素11に対する解放実施工程の開始時期を図8(a)に示す解放側指示圧Aに比べて早くしたもの、すなわち改善後の解放側指示圧である。改善後の解放側指示圧Aにおいては、予測油圧B2の立ち上がり時期が早くなった分だけ、解放側指示圧Aの相対的に速やかな低下開始時期が早くなっている。これにより引き込み現象の抑制が図られる。
【0046】
そして、以上のようにして、変速指令の出力時からの実油圧B1の変化が予測油圧B2の変化と一致しもしくは近づくので、この締結側摩擦要素12の締結時の予測油圧B2に基づいて解放側摩擦要素11の指示圧Aを設定することにより、締結側摩擦要素12の締結動作と解放側摩擦要素11の解放動作とを最適なタイミングで行わせることが可能となる。これにより、そのタイミングが適切でないことによる出力トルクの引き込み現象やエンジン回転数の吹きあがり現象等が抑制され、良好な変速動作が実現される。
【0047】
その場合に、指示圧Bないし予測油圧B2の変更を、油圧制御弁22からの吐出量が大きいプリチャージ時間Tpの変更で行うから、該時間Tpのわずかな変更で、予測油圧B1と実油圧B1とを効率よく近づけることができ、トータルの変速時間が大幅に増減することがない。
【0048】
また、プリチャージ後の油圧をプリチャージ時より低い油圧に保持する時間Thがプリチャージ時間の変更に拘わらず一定時間とされるので、プリチャージの終了から摩擦要素を締結させるための油圧の上昇開始までに常に一定時間が確保され、プリチャージ時間の変更に伴ってこの時間が短くなりすぎることによる摩擦要素締結時のショックの発生が回避されることになる。
【0049】
また、以上の構成によれば、前記のようなプリチャージ時間の設定が、変速時に締結側摩擦要素12に供給される作動圧の締結目標圧が所定圧以上のときに行われるので、油圧スイッチ35のON油圧の公差やバラツキにより、作動圧が締結目標圧に達しても該スイッチ35がONしないことによる制御不良が回避されることになる。
【0050】
そして、以上のプリチャージ時間の変更制御を、当該車両の実走行中における締結側摩擦要素12に供給される作動圧の締結目標圧が所定圧以上のときだけでなく、自動変速機の製造時のテスト工程で行えば、この自動変速機を搭載した車両が出荷された直後から、実走行の開始初期から良好な変速制御が行われ、乗員に違和感を与えることがない。
【0051】
本実施形態の技術的特徴をまとめると下記のようになる。
【0052】
本実施形態では、複数の摩擦要素のうちの所定の解放側摩擦要素を解放すると同時に他の締結側摩擦要素を締結することにより変速を行う自動変速機において、変速時に、前記締結側摩擦要素を締結する際、まず、該摩擦要素に対して作動油がプリチャージされ、続いて、作動圧がプリチャージ時の油圧より低い所定油圧に一定時間保持され、その後、該作動圧が上昇して摩擦要素が完全に締結されることになる。
【0053】
その場合に、前記プリチャージの時間が、変速指令が出力された後の当該摩擦要素が締結される予測時期と実測時期との差に基づき、その差が小さくなるように設定されるので、次回の変速時に、その時間だけプリチャージを行うことにより、摩擦要素が実際に締結される時期が予測した時期に一致しもしくは近づくことになる。併せて、次回の変速時に、前記のように設定されたプリチャージ時間に応じて解放側摩擦要素の作動圧の低下開始時期を変更することにより、締結側摩擦要素の実質的な締結動作の開始時期に対応して、解放側摩擦要素の実質的な解放動作の開始時期が時間的に調整される。
【0054】
したがって、締結側摩擦要素の締結時の予測時期に基づいて解放側摩擦要素の解放動作を制御することができ、その結果、締結側摩擦要素の締結動作と解放側摩擦要素の解放動作とを適切なタイミングで行わせることが可能となる。これにより、そのタイミングが適切でないことによる出力トルクの引き込み現象やエンジン回転数の吹きあがり現象等が抑制され、良好な変速動作が実現される。
【0055】
また、締結側摩擦要素の締結時期の調整を、油圧制御弁からの吐出量が大きいプリチャージ時間の変更によって行うから、該時間のわずかな変更で、前記摩擦要素が締結される予測時期と実際の時期との差を効率よく小さくすることができ、したがって、上記のようなタイミングの調整を、トータルの変速時間の大幅な変更を伴うことなく、実行することができる。
【0056】
また、プリチャージ後の油圧をプリチャージ時より低い所定油圧に保持する油圧保持時間がプリチャージ時間の変更に拘わらず一定時間とされるので、プリチャージの終了から摩擦要素を完全に締結させるための昇圧開始までに常に一定時間が確保され、この時間が短くなりすぎることによる摩擦要素締結時のショックの発生等が回避される。
【0057】
本実施形態では、実測した時期が予測した時期より遅いときは、前記プリチャージ時間設定工程では、プリチャージ時間を長くし、前記解放開始時期設定工程では、解放実施工程の開始時期を遅くしている。
【0058】
また、本実施形態では、実測した時期が予測した時期より早いときは、前記プリチャージ時間設定工程では、プリチャージ時間を短くし、前記解放開始時期設定工程では、解放実施工程の開始時期を早くしている。
【0059】
本実施形態では、前記プリチャージ時間を設定する際に、実測した時期が予測した時期より遅いときはプリチャージ時間を長くし、また、実測した時期が予測した時期より早いときはプリチャージ時間を短くするように設定するので、次回の変速時のプリチャージ工程にその時間を反映させることにより、変速指令の出力後における当該摩擦要素の締結時の予測時間と実測時間との差が確実に小さくされ、前記効果が確実に達成されることになる。併せて、プリチャージ時間を長くしたときは、次回の変速時に、解放側摩擦要素の作動圧の低下開始時期を遅くし、プリチャージ時間を短くしたときは、次回の変速時に、解放側摩擦要素の作動圧の低下開始時期を早くするので、締結側摩擦要素の実質的な締結動作の開始時期に対応して、解放側摩擦要素の実質的な解放動作の開始時期が良好に調整される。そのため、前述した効果が確実に達成される。
【0060】
本実施形態では、前記プリチャージ時間設定工程及び前記解放開始時期設定工程を、自動変速機の製造時のテスト工程で行うことが好ましい。
【0061】
本実施形態では、前記のようなプリチャージ時間の設定及び前記のような解放側摩擦要素の作動圧の低下開始時期の設定が、自動変速機の製造時のテスト工程で行われるので、この自動変速機を搭載した車両が出荷された直後から、解放側摩擦要素の解放動作と締結側摩擦要素の締結動作とが適切なタイミングで行われ、乗員に違和感を与えることが実走行の開始初期から確実に回避されることになる。
【0062】
本実施形態では、前記プリチャージ時間設定工程を、変速時に前記締結側摩擦要素に供給される作動圧の目標値である締結目標圧が所定圧以上のときに行っている。
【0063】
本実施形態では、前記のようなプリチャージ時間の設定が、変速時に締結側摩擦要素に供給される作動圧の目標値である締結目標圧が所定圧以上のときに行われるので、例えば該摩擦要素の締結時期を油圧スイッチで検出する場合に、該スイッチがONするときの油圧の公差やバラツキのため、締結目標圧が低いときに該スイッチがONしないといった事態が回避されることになり、該摩擦要素の締結時期の実測が常に正確に行われることになる。
【0064】
なお、前記実施形態では、締結側摩擦要素の締結動作と解放側摩擦要素の解放動作との両方を制御するようにしたが、状況に応じて、締結側摩擦要素の締結動作のみを制御してもよい。
【0065】
この出願は、2011年4月19日に出願された日本国特許出願特願2011−092901を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0066】
本発明を表現するために、前述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明によれば、自動変速機において、所定の解放側摩擦要素の解放動作と他の締結側摩擦要素の締結動作とが同時に行われる所定の変速が良好に行われることになるので、本発明は、この種の自動変速機ないしこれを搭載した車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8