特許第5761423号(P5761423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761423
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20150723BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20150723BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C08G63/78
   C08L67/02
   C08K3/32
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-93723(P2014-93723)
(22)【出願日】2014年4月30日
(62)【分割の表示】特願2011-503770(P2011-503770)の分割
【原出願日】2010年3月1日
(65)【公開番号】特開2014-159593(P2014-159593A)
(43)【公開日】2014年9月4日
【審査請求日】2014年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2009-54872(P2009-54872)
(32)【優先日】2009年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小島 博二
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
【審査官】 岡▲崎▼ 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−510493(JP,A)
【文献】 特開2008−231399(JP,A)
【文献】 特開2000−159873(JP,A)
【文献】 特開2007−211035(JP,A)
【文献】 特開2005−247883(JP,A)
【文献】 特開2007−277548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00−63/91
C08K 3/00−3/40
C08L 67/00−67/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとからエステル化反応またはエステル交換反応を経て重縮合反応を行う、金属元素がNa、Li、Kからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物と、金属元素がMg、Ca、Mn、Coからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物と、金属元素がSb、Ti、Geからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物とを含有し、該金属元素の総合計量がポリエステル樹脂組成物全体に対して30ppm以上500ppm以下であるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、
エステル化反応またはエステル交換反応が終了した後から固有粘度が0.4に到達するまでの間に、リン酸アルカリ金属塩を1.3mol/ton以上3.0mol/ton以下、及びリン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して0.4倍以上1.5倍以下のモル比で添加するポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記リン酸および前記リン酸アルカリ金属塩をアルキレングリコール混合溶液として添加し、かつそのpHが2.0〜6.0である請求項1のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記リン酸アルカリ金属塩のアルカリ金属がNaまたはKである請求項1または2のポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂組成物のポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1〜3のいずれかのポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐加水分解性の良好なポリエステル樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。
【0003】
しかし、ポリエステルは加水分解により機械物性が低下するため、長期にわたって使用する場合、或いは湿気のある状態で使用する場合においては加水分解を抑制すべく様々な検討がなされてきた。特に、太陽電池用フィルムにおいては、屋外にて20年以上の耐用年数が要求されることから、高い耐加水分解性、難燃性が要求される。
【0004】
耐加水分解性を向上させる手段として、例えば、特許文献1にはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のリン酸塩を含有するポリエステルの製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には無機リン酸塩を含有するポリエステルの製造方法が開示されている。実施例ではリン酸と併用されている。
【0006】
特許文献3には緩衝リン化合物を含有するポリエチレンテレフタレートが記載されている。実施例ではリン化合物と併用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−114881号公報
【特許文献2】特開2007−277548号公報
【特許文献3】特開2008−7750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の製造方法のようにリン酸金属塩のみでは、初期のCOOH末端基量は抑制できるが、加水分解によるCOOH末端基増加量を抑制することは難しい。そのため、太陽電池用途のように長期間の耐久性を必要とする用途では十分な耐加水分解性が得られない。
【0009】
特許文献2の製造方法では、リン酸と無機リン酸塩の比率とその適用量が不適切であるため、無機リン酸塩が異物化しやすく、異物によるフィルムの機械物性の低下がある。また、短期間の耐加水分解性には優れるものの、太陽電池用途などに必要とされる長期にわたる耐加水分解性が不十分である。
【0010】
特許文献3の製造方法では、リン化合物の種類、その比率、適用量などの適正化が不十分であるため、太陽電池用途としては耐加水分解性、機械特性が不十分である。
【0011】
本発明の目的は、これら従来技術の欠点を解消し、耐加水分解性、機械特性に優れたフィルム用として好適なポリエステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとからエステル化反応またはエステル交換反応を経て重縮合反応を行う、金属元素がNa、Li、Kからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物と、金属元素がMg、Ca、Mn、Coからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物と、金属元素がSb、Ti、Geからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物とを含有し、該金属元素の総合計量がポリエステル樹脂組成物全体に対して30ppm以上500ppm以下であるポリエステル樹脂組成物の製造方法において、
エステル化反応またはエステル交換反応が終了した後から固有粘度が0.4に到達するまでの間に、リン酸アルカリ金属塩を1.3mol/ton以上3.0mol/ton以下、及びリン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して0.4倍以上1.5倍以下のモル比で添加するポリエステル樹脂組成物の製造方法により解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、長期の耐加水分解性に優れるポリエステル樹脂組成物を提供することができる。また、本発明のポリエステル樹脂組成物を二軸延伸フィルムとすることで、磁材用途、コンデンサーなどの電気材料用途、包装用途等の用途、特に、長期の耐加水分解性を必要とする太陽電池用途に好適なフィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとからエステル化反応またはエステル交換反応を経て重縮合反応を行うポリエステル樹脂組成物の製造方法において、 エステル化反応またはエステル交換反応が終了した後から固有粘度が0.4に到達するまでの間に、リン酸アルカリ金属塩を1.3mol/ton以上3.0mol/ton以下、及びリン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して0.4倍以上1.5倍以下のモル比で添加するポリエステル樹脂組成物の製造方法である。
【0015】
本発明出得られたポリエステル樹脂組成物は、酸成分として95mol%以上が芳香族ジカルボン酸成分であることが耐加水分解性の点から必要である。中でもテレフタル酸成分であることが機械特性の点から好ましい。また、グリコール成分として95mol%以上が炭素数2〜4の直鎖のアルキレングリコール成分であることが機械特性、熱特性の点から必要である。中でも成形性、結晶性の点から炭素数2のエチレングリコールであることが好ましい。
【0016】
共重合成分が5mol%を超えると、融点降下による耐熱性の低下、結晶化度低下により耐加水分解性が低下する原因となる。
【0017】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、リン酸アルカリ金属塩を1.3mol/ton以上3.0mol/ton以下含有していることが耐加水分解性の点から必要である。好ましくは1.5mol/ton以上2.0mol/ton以下である。リン酸アルカリ金属塩の含有量が1.3mol/ton未満の場合、長期における耐加水分解性が不足することがある。また、リン酸アルカリ金属塩の含有量が3.0mol/tonを越えると、異物化しやすくなる。
【0018】
本発明におけるリン酸アルカリ金属塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウムが挙げられる。好ましくはリン酸二水素アルカリ金属塩、リン酸水素二アルカリ金属塩である。また、アルカリ金属がNa,Kであるリン酸アルカリ金属塩が長期の耐加水分解性の点から好ましい。特に好ましくはリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムである。
【0019】
本発明におけるリン酸の含有量は、リン酸アルカリ金属塩に対して、モル比で0.4倍以上1.5倍以下であることが長期の耐加水分解性の点から必要である。好ましくは0.8倍以上1.4倍以下である。0.4倍未満では、長期の耐加水分解性が低下することがある。1.5倍を越えると過剰なリン酸により重合触媒が失活し、重合反応が遅延し、COOH末端基が増加するため、耐加水分解性が低下することがある。
【0020】
前述のリン酸アルカリ金属塩及びリン酸の含有量から算出すると、本発明のポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属元素を1.3mol/ton以上9.0mol/ton以下、かつ、リン元素を1.8mol/ton以上7.5mol/ton以下含有している。好ましいリン酸アルカリ金属塩の種類を考慮すれば、好ましくはアルカリ金属元素を1.3mol/ton以上6.0mol/ton以下、かつ、リン元素を1.8mol/ton以上7.5mol/ton以下含有している。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂組成物に含まれるリン化合物の合計量としては、リン元素換算で30ppm以上150ppm以下であることがCOOH末端基量の抑制、異物生成抑制の点から好ましい。さらに好ましくは60ppm以上150ppm以下である。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、金属元素がNa、Li、Kからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物と、金属元素がMg、Ca、Mn、Coからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物と、金属元素がSb、Ti、Geからなる群より選ばれる少なくとも1種である金属化合物とを含み、これら金属元素の総合計量をポリエステル樹脂組成物全体に対して30ppm以上500ppm以下とすることが好ましい。金属元素の合計量をこの範囲とすることでCOOH末端基量の抑制ができ、耐熱性が向上する。さらに好ましくは40ppm以上300ppm以下である。Na、Li、Kはアルカリ金属元素である。Mg、Ca、Mn、Coは2価の金属元素であり、エステル交換反応触媒としての機能や製膜時の静電印加特性を付与する。Sb、Ti、Geは重合触媒能を有する金属元素であり、重合触媒として機能する。
【0023】
本発明の製造方法で得られたポリエステル樹脂組成物は、湿熱処理前後でのCOOH末端基増加量が90eq./ton(equivalent/ton)以下であることが耐加水分解性の点から好ましい。さらに好ましくは70eq./ton以下であり、特に好ましくは50eq./tonである。具体的には、ポリマーを押し出し成形し、厚み150μmの未延伸シートとした後、155℃で4時間、飽和水蒸気雰囲気下で湿熱処理を行う。この湿熱処理の前後でのCOOH末端基の増加量を測定する。このとき、未延伸シートは鏡面ドラムなどで急冷し、実質的に非晶の状態であることが必要である。ポリマーの結晶化状態は、湿熱処理において大きな影響を与える。そのため、乾燥後、および固相重合後の結晶化したポリマーでは、加水分解が進みにくく、太陽電池用途のように長期の耐加水分解性を評価するのに適当ではない。
【0024】
また、ポリエステル樹脂組成物がポリエチレンテレフタレート樹脂組成物であり、COOH末端基増加量が上記範囲内であることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートは、ポリブチレンテレフタレートやポリブチレンナフタレートに比べて結晶性が低いため、押出直後の結晶化、白化が起こりにくい。また、ポリエチレンナフタレートに比べてガラス転移点が低く、延伸応力も小さいため、延伸制御が容易であるなど、フィルム成形性に優れる。COOH末端基増加量が上記範囲内にあるポリエチレンテレフタレート樹脂は、ポリエチレンテレフタレートが本来有する優れた諸特性に加え、長期の耐加水分解性も有することとなる。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、固有粘度が0.6以上1.0以下であることが機械特性の点から好ましい。さらには、0.7以上0.9以下であることがCOOH末端基量の抑制、耐熱性の点から好ましい。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、製膜機に投入する直前のポリマーのCOOH末端基量が20eq./ton以下であることが耐加水分解性の点から好ましい。さらに好ましくは15eq./ton以下である。
【0027】
このようなポリエステル樹脂組成物は、窒素の含有量が100ppm以下であることが異物生成抑制の点から好ましい。すなわち、窒素元素を含有するカルボジイミド、オキサゾリンなどの末端封止剤を実施質的に含有しないことが好ましい。末端封止剤はCOOH末端基と反応するが、その結果、反応時にゲルなどの異物を生成し易く、機械特性が低下する原因になる。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、3官能以上の共重合成分を全酸成分に対して0.01mol%以上1.00mol%以下含有することが伸度保持率、重合反応性、成形性の点から好ましい。さらに好ましくは0.01mol%以上0.50mol%以下である。
【0029】
3官能以上の共重合成分としては、トリメリット酸、シクロヘキサントリカルボン酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸、ブタンテトラカルボン酸、長鎖脂肪族カルボン酸を3量体化したトリマー酸などの多価カルボン酸及びその無水物やエステル、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシヘキサンなどの多価アルコール、クエン酸、ジヒドロキシベンゼンカルボン酸、ジヒドロキシナフタレンカルボン酸などの多価ヒドロキシカルボン酸及びその無水物やエステルなどを挙げることができる。特に3官能の共重合成分であることが伸度保持率、フィルム成形性の点から好ましい。このような3官能以上の共重合成分の添加方法としては、多価カルボン酸エステルおよび多価アルコール成分の場合はエステル交換反応前、多価カルボン酸の場合はエチレングリコールの溶液、またはスラリーとして添加することが反応性、ハンドリング性の点から好ましい。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体と、エチレングリコールとからエステル化反応またはエステル交換反応を経て重縮合反応を行うポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、エステル化反応またはエステル交換反応を行う第一の工程、重合触媒、リン化合物などの添加物を添加する第二の工程、重合反応を行う第三の工程を有する。また、必要に応じて固相重合反応を行う第四の工程を追加してもよい。
【0031】
第一の工程においては、例えばテレフタル酸、またはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを用いて、公知の方法でエステル化反応、またはエステル交換反応を行うことができる。例えば、エステル交換反応を行う際には、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸マンガン、酢酸コバルトなどのエステル交換反応触媒を用いることができるほか、重合触媒である三酸化アンチモンなどを添加してもよい。エステル化反応時には水酸化カリウムなどのアルカリ金属を数ppm添加しておくとジエチレングリコールの副生が抑制され、耐加水分解性も改善される。
【0032】
第二の工程は、エステル化反応、またはエステル交換反応が終了した後から、固有粘度が0.4に達するまでの間に重合触媒やリン化合物などの添加物を添加する工程である。
【0033】
重合触媒としては、二酸化ゲルマニウムのエチレングリコール溶液、三酸化アンチモン、チタンアルコキシド、チタンキレート化合物などを用いることができる。
【0034】
リン化合物としては耐加水分解性の点から、リン酸アルカリ金属塩を1.3mol/ton以上3.0mol/ton以下添加する必要がある。好ましい添加量は1.5mol/ton以上2.0mol/ton以下である。リン酸アルカリ金属塩の添加量が1.3mol/ton未満の場合、長期における耐加水分解性が不足することがある。また、リン酸アルカリ金属塩の添加量が3.0mol/tonを越えると、異物化しやすくなる。さらに、異物生成抑制、長期の耐加水分解性の点からリン化合物としてリン酸をリン酸アルカリ金属塩に対して、モル数で0.4倍以上1.5倍以下添加する必要がある。好ましい添加量は0.8倍以上1.4倍以下である。0.4倍未満では、長期の耐加水分解性が低下することがある。1.5倍を越えると過剰なリン酸により重合触媒が失活し、重合反応が遅延し、COOH末端基が増加するため、耐加水分解性が低下することがある。特に、アルカリ金属元素として1.3mol/ton以上6.0mol/ton以下、リン元素として1.8mol/ton以上7.5mol/ton以下とすることが、耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。
【0035】
リン酸、リン酸アルカリ金属塩の添加方法としては、あらかじめエチレングリコールなどに溶解し、混合して添加することが長期の耐加水分解性の点から好ましい。このときの溶媒、分散媒の種類は、本発明のポリエステル樹脂組成物に含有されるエチレングリコールを用いることが耐熱性、耐加水分解性の点から好ましい。異なる種類のアルキレングリコールを使用すると、共重合され、耐熱性が低下することがある。
【0036】
特に、このときの混合液のpHを2.0以上6.0以下の酸性に調整することが異物生成抑制の点から好ましい。さらに好ましくは4.0以上6.0以下である。
【0037】
これらのリン化合物は重合触媒と添加間隔を5分以上あけて添加することが重合反応性の点から好ましく、重合触媒の添加後でも添加前でも構わない。
【0038】
その他の添加物としては、例えば、静電印加特性を付与する目的で酢酸マグネシウム、助触媒として酢酸カルシウム、ヒンダートフェノール系酸化防止剤などを挙げることができ、本発明の効果を妨げない範囲で添加することができる。特に、エステル化反応を経ている場合は、トータルのエチレングリコールがテレフタル酸に対してモル数で1.5倍以上1.8倍以下となるように追添することでCOOH末端基を低減することができるので、耐加水分解性向上に効果的である。
【0039】
一方で、フィルムの滑り性を付与するために各種粒子を添加、あるいは触媒を利用した内部析出粒子を含有させてもよい。
【0040】
第三の工程においては、公知の方法で重合反応を行うことができる。さらに、COOH末端基量を少なくするためには、重合反応温度をポリエステル樹脂組成物の融点+30℃以下とし、また固有粘度0.5以上0.6以下で一旦チップ化し、第四の工程である固相重合を行うことが効果的である。
【0041】
第四の工程においては、固相重合温度をポリエステル樹脂組成物の融点−30℃以下、融点−60℃以上、真空度0.3Torr以下で固相重合反応を行うことが好ましい。
【0042】
このようにして得られたポリエステル樹脂組成物は、乾燥を経て、通常の押出機、Tダイにて押出し、二軸延伸することができる。この時、押出機へのチップ供給は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。また、Tダイから押出されるまでの時間は短い程良く、目安としては30分以下とすることが、COOH末端基増加抑制の点で好ましい。
【0043】
このようにして製造された、本発明のポリエステル樹脂組成物からなるフィルムは、COOH末端基が低く、短期での耐加水分解性が良好となるばかりでなく、リン酸とリン酸アルカリ金属塩の作用により、太陽電池用フィルムなどの用途で必要とされる長期の耐加水分解性も良好となる。
【実施例】
【0044】
(A.固有粘度)
o−クロロフェノール溶媒を用い、25℃で測定した。
【0045】
(B.ポリマー中のリン量の定量)
理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
【0046】
(C.ポリマー中のアルカリ金属量の定量)
原子吸光分析法(日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180−80。フレーム:アセチレン−空気)にて定量を行った。
【0047】
(D.COOH末端基量)
Mauliceの方法によって測定した。(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga.Anal.Chim.Acta,22 363(1960))。
【0048】
(E.耐加水分解性の評価)
ポリマーを、単軸押出機に供給し、280℃でTダイからシート状に押出成形し、20℃に温度制御した鏡面ドラム上で急冷し、実質的に非晶状態の厚み150μm未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートを155℃、飽和水蒸気中において4時間処理した。
COOH末端基増加量は未延伸シートの処理前後の差(ΔCOOH)で評価を行った。
【0049】
(F.伸度保持率の算出)
二軸延伸されたフィルムを用いて、125℃、100%RH、48時間のPCT(プレッシャークッカーテスト)処理前後のフィルム伸度を測定し、処理前のサンプルに対する処理後の伸度保持率を百分率で計算した。
フィルムの伸度は、ASTM−d882に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて、下記条件にて測定した。
・測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度測定装置
“テンシロンAMF/RTA−100”
・試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
・引張速度:200mm/分
・測定環境:23℃、65%RH
太陽電池用途における耐用年数20年以上に相当する伸度保持率50%以上を合格とした。
【0050】
(G.窒素含有量)
JIS K2609 石油及び石油製品−窒素分試験方法に記載のケルダール法により測定した。
【0051】
(実施例1)
第一工程:テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール57.5質量部、酢酸マグネシウム0.06質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を150℃、窒素雰囲気下で溶融した。この溶融物を攪拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させ、エステル交換反応を終了した。
【0052】
第二工程:エステル交換反応終了後、リン酸0.019質量部(1.9mol/ton相当)とリン酸二水素ナトリウム2水和物0.027質量部(1.7mol/ton相当)をエチレングリコール0.5質量部に溶解したエチレングリコール溶液(pH5.0)を添加した。このときの固有粘度は0.2未満であった。
【0053】
第三工程:重合反応を最終到達温度285℃、真空度0.1Torrで行い、固有粘度0.52、COOH末端基15eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0054】
第四工程:得られたポリエチレンテレフタレートを160℃で6時間乾燥、結晶化させた。その後、220℃、真空度0.3Torr、8時間の固相重合を行い、固有粘度0.85、COOH末端基10.2eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0055】
固相重合後のポリエチレンテレフタレートを窒素雰囲気下で押出機に供給した。押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化した。このシートを縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍で縦延伸したのち、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、二軸延伸フィルムを得た。
【0056】
このときの押出機のフィルターは400メッシュの金網を使用した。また、ポリマー供給からTダイからの吐出まで、滞留時間は約5分であった。
【0057】
耐加水分解性の評価を行ったところ、処理前の未延伸シートのCOOH末端基が12.0eq./ton、155℃飽和水蒸気下で4時間処理したあとのCOOH末端基が46.1eq./tonと良好であった。また、窒素含有量については、特に窒素化合物を添加していないにも関わらず、60ppm検出された。これは、窒素雰囲気下で成形を行ったため、窒素の一部が含浸されたためと推測する。
【0058】
さらに、得られた二軸延伸フィルムを125℃、100%RH、48時間処理の前後でフィルム伸度を比較し、伸度保持率を算出したところ、65%であった。
【0059】
(実施例2)
リン酸二水素ナトリウムをリン酸二水素カリウムに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムは表1に示すとおり、実施例1とほぼ同等の性能を示した。
【0060】
(実施例3、4、10、11、比較例1、2、3、5、6、7、8)
リン酸とリン酸二水素ナトリウムの添加量と混合比を変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
【0061】
実施例3は、実施例1に比べてリン酸アルカリ金属塩の添加量を減らし、リン酸/リン酸アルカリ金属塩のモル比を大きくした。その結果、太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、実施例1に比べて湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなった。
【0062】
実施例4は、実施例1に比べてリン酸アルカリ金属塩の添加量を増やし、リン酸/リン酸アルカリ金属塩のモル比を小さくした。その結果、実施例1に比べて湿熱処理前後のCOOH末端基増加量は小さくなったが、伸度保持率は太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの低下した。
【0063】
実施例10は、実施例1に比べてリン酸二水素ナトリウム、及びリン酸の添加量を減らし、リン酸/リン酸二水素ナトリウムのモル比を小さくした。その結果、実施例1に比べ、COOH末端基、ΔCOOH末端基が増加した。伸度保持率は、実施例1に比べ低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0064】
実施例11は、実施例1に比べてリン酸二水素ナトリウム、及びリン酸の添加量を増量し、リン酸/リン酸二水素ナトリウムのモル比を大きくした。その結果、実施例1に比べ重合反応が長くなり、COOH末端基、ΔCOOH末端基が増加した。伸度保持率は実施例1に比べ低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0065】
比較例1はリン酸を減らし過ぎたため、初期のCOOH末端基が増加し、さらに伸度保持率も35%と性能不足であった。
【0066】
比較例2はリン酸二水素ナトリウムを増やしすぎたため、リン酸二水素ナトリウムが異物化した。その結果、初期のCOOH末端基は減少したが、異物化したリン酸二水素ナトリウムが機能せず、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなり、伸度保持率も不十分であった。
【0067】
比較例3はリン酸二水素ナトリウムを添加しなかったため、初期のCOOH末端基は低いが、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が著しく大きくなり、伸度保持率も不十分であった。
【0068】
比較例5はリン酸を添加しなかったため、耐熱性が低下し、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が著しく大きくなり、伸度保持率も不十分であった。
【0069】
比較例6はリン酸二水素ナトリウムを減らしすぎたため、伸度保持率が低下し、太陽電池用フィルムとして特性が不十分であった。
【0070】
比較例7はリン酸量を増量し、リン酸/リン酸二水素ナトリウムのモル比を大きくしすぎたため、伸度保持率が低下し、太陽電池用フィルムとして特性が不十分であった。
【0071】
比較例8は、リン酸の代わりにクエン酸1.9mol/ton相当を添加したところ、ΔCOOH末端基が大幅に増加し、伸度保持率も著しく低下し、太陽電池用フィルムとして特性が不十分であった。
【0072】
(実施例5)
第三工程の重合反応を固有粘度0.65に達するまで実施し、第四工程を省略する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
得られたポリエチレンテレフタレートは、固相重合を行わずに固有粘度0.65まで重合反応を行った結果、初期のCOOH末端基が20eq./tonを越えるものであったため、太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなった。さらに、伸度保持率も低下した。
【0073】
(実施例6)
リン酸アルカリ金属塩としてリン酸三ナトリウムを用い、三酸化アンチモンを増量する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。リン酸三ナトリウムは強アルカリであり、リン酸との混合溶液のpHは7.5であった。
この結果、初期のCOOH末端基が減少し、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が増加した。伸度保持率は太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、低下した。
【0074】
(実施例7)
酢酸マグネシウム、三酸化アンチモンの添加量を減らす以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
酢酸マグネシウム、三酸化アンチモンを減量したことにより、初期のCOOH末端基が減少した。これは金属化合物の含有量が減少したため、組成物の耐熱性が向上したためと考えられる。
一方で、触媒量が減少した分、固有粘度が低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0075】
(実施例8)
第四工程の固相重合時間を短縮する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
固相重合が短縮された分、初期のCOOH末端基、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量は大きくなったが、太陽電池用フィルムとして十分な性能を有していた。
【0076】
(実施例9)
重合触媒をチタニウムジイソプロポキシドビスエチルアセトアセテートに変更し、酢酸マグネシウムを添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
初期のCOOH末端基、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量などは全く問題なかったが、製膜時に静電印加キャストが不安定となったため、厚みムラが発生した。その結果、太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、伸度保持率が低下した。
【0077】
(比較例4)
リン酸をリン酸トリメチルに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
リン酸の代わりにリン酸トリメチルを用いることにより、リン酸二水素ナトリウムのCOOH末端基の増加抑制効果が弱くなり、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなった。伸度保持率においても、不十分であった。
【0078】
(比較例9)
リン酸二水素ナトリウムを亜リン酸ナトリウムに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
リン酸二水素ナトリウムを亜リン酸ナトリウムに変更したことにより、ΔCOOH末端基が増加傾向にあり、伸度保持率が不十分となった。
【0079】
(実施例12)
ビスヒドロキシエチレンテレフタレート114質量部(PET100質量部相当)があらかじめ仕込まれたエステル化反応装置にテレフタル酸86質量部、エチレングリコール37質量部からなるスラリーをスネークポンプにて3時間かけて供給し、反応物の温度を245℃〜255℃にコントロールしながらエステル化反応を行った。
【0080】
エステル化反応終了後、得られたビスヒドロキシエチレンテレフタレート114質量部(PET100質量部相当)を重合缶に移行し、酢酸マグネシウム4水和物0.06質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を加え、さらに攪拌しながら反応を30分間行って水を留出させた。その後、リン酸0.019質量部(1.9mol/ton相当)とリン酸二水素ナトリウム2水和物0.027質量部(1.7mol/ton相当)をエチレングリコール0.5質量部に溶解したエチレングリコール溶液(PH5.0)を添加した。このときの固有粘度は0.24であった。その後、温度を255℃から280℃まで昇温しながら減圧し、重縮合反応を最終到達温度280℃、真空度0.1Torrで行った。こうして固有粘度0.62、COOH末端基18.0eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0081】
得られたポリエチレンテレフタレートを160℃で6時間乾燥、結晶化させたのち、220℃、真空度0.3Torrの条件下8時間の固相重合を行い、固有粘度0.85、COOH末端基13.1eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。さらに実施例1と同様にして、二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムは、実施例1に比べてCOOH末端基、ΔCOOH末端基が増加したが、太陽電池用フィルムとしては問題ないレベルであった。
【0082】
(実施例13)
重合温度を290℃、固有粘度を0.68とし、固相重合を省略する以外は実施例12と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムは、実施例12に比べCOOH末端基、ΔCOOH末端基が増加した。伸度保持率は低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0083】
(実施例14、15)
酢酸マグネシウムを、酢酸マンガン、酢酸カルシウムに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
【0084】
実施例14においては、酢酸マンガンを用いることにより、固相重合後のCOOH末端基が9.2eq./tonであったのに対し、未延伸シートのCOOH末端基が9.5eq./tonと耐熱性が良好であった。さらに、COOH末端基増加量においても実施例1に比べ減少しており、耐加水分解性も良好であり、太陽電池用フィルムとして問題ないレベルであった。
【0085】
実施例15においては、酢酸カルシウムを用いたが、COOH末端基増加量が実施例1に比べ減少する傾向にあり、太陽電池用フィルムとしては問題ないレベルであった。
【0086】
(実施例16,17)
共重合成分として、トリメリット酸トリメチルをエステル交換反応前に添加する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
【0087】
実施例16においては、トリメリット酸トリメチルを全酸成分に対して0.05mol%共重合することにより、重合反応時間が短縮され、COOH末端基量が減少する傾向にあった。伸度保持率においても、実施例1に比べて上昇しており、太陽電池用フィルムとして良好な特性であった。
【0088】
実施例17においては、トリメリット酸トリメチルを全酸成分に対して0.5mol%共重合することにより、実施例16よりもさらに重合時間が短縮され、COOH末端基量が減少する傾向にあった。高い固有粘度とトリメリット酸トリメチルによる架橋があいまって、溶融粘度が高く、押出し時のフィルター濾圧、押出トルクは上昇する傾向にあるが、得られたフィルムは伸度保持率において、実施例1、及び実施例16に比べて上昇しており、太陽電池用フィルムとして良好な特性であった。
【0089】
(実施例18)
ブタンテトラカルボン酸をエステル交換反応後にエチレングリコール溶液(5wt%)として添加する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
ブタンテトラカルボン酸を全酸成分に対して0.1mol%共重合したことにより、重合反応時間が短縮され、COOH末端基が減少する傾向にあった。伸度保持率においても、実施例1に比べて上昇しており、太陽電池用フィルムとして良好な特性であった。
【0090】
いずれの実施例、比較例においても、窒素含有物質を原料として使用していないにも関わらず、窒素含有量が60ppm検出された。これは、テレフタル酸やエチレングリコールなどの原料に、不純物として窒素化合物が残存していたものか、窒素雰囲気での溶融成形中に、気体の窒素がポリエステル樹脂組成物に溶け込んだものと推測する。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】