【実施例】
【0044】
(A.固有粘度)
o−クロロフェノール溶媒を用い、25℃で測定した。
【0045】
(B.ポリマー中のリン量の定量)
理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて測定した。
【0046】
(C.ポリマー中のアルカリ金属量の定量)
原子吸光分析法(日立製作所製:偏光ゼーマン原子吸光光度計180−80。フレーム:アセチレン−空気)にて定量を行った。
【0047】
(D.COOH末端基量)
Mauliceの方法によって測定した。(文献 M.J.Maulice,F.Huizinga.Anal.Chim.Acta,22 363(1960))。
【0048】
(E.耐加水分解性の評価)
ポリマーを、単軸押出機に供給し、280℃でTダイからシート状に押出成形し、20℃に温度制御した鏡面ドラム上で急冷し、実質的に非晶状態の厚み150μm未延伸シートを得た。
得られた未延伸シートを155℃、飽和水蒸気中において4時間処理した。
COOH末端基増加量は未延伸シートの処理前後の差(ΔCOOH)で評価を行った。
【0049】
(F.伸度保持率の算出)
二軸延伸されたフィルムを用いて、125℃、100%RH、48時間のPCT(プレッシャークッカーテスト)処理前後のフィルム伸度を測定し、処理前のサンプルに対する処理後の伸度保持率を百分率で計算した。
フィルムの伸度は、ASTM−d882に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて、下記条件にて測定した。
・測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度測定装置
“テンシロンAMF/RTA−100”
・試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
・引張速度:200mm/分
・測定環境:23℃、65%RH
太陽電池用途における耐用年数20年以上に相当する伸度保持率50%以上を合格とした。
【0050】
(G.窒素含有量)
JIS K2609 石油及び石油製品−窒素分試験方法に記載のケルダール法により測定した。
【0051】
(実施例1)
第一工程:テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール57.5質量部、酢酸マグネシウム0.06質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を150℃、窒素雰囲気下で溶融した。この溶融物を攪拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させ、エステル交換反応を終了した。
【0052】
第二工程:エステル交換反応終了後、リン酸0.019質量部(1.9mol/ton相当)とリン酸二水素ナトリウム2水和物0.027質量部(1.7mol/ton相当)をエチレングリコール0.5質量部に溶解したエチレングリコール溶液(pH5.0)を添加した。このときの固有粘度は0.2未満であった。
【0053】
第三工程:重合反応を最終到達温度285℃、真空度0.1Torrで行い、固有粘度0.52、COOH末端基15eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0054】
第四工程:得られたポリエチレンテレフタレートを160℃で6時間乾燥、結晶化させた。その後、220℃、真空度0.3Torr、8時間の固相重合を行い、固有粘度0.85、COOH末端基10.2eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0055】
固相重合後のポリエチレンテレフタレートを窒素雰囲気下で押出機に供給した。押出温度280℃でTダイから吐出させ、キャスティングドラム(20℃)にて急冷し、静電印加法にてシート化した。このシートを縦延伸温度90℃、縦延伸倍率3.6倍で縦延伸したのち、横延伸温度110℃、横延伸倍率3.6倍で延伸し、熱処理を210℃で3秒行い、二軸延伸フィルムを得た。
【0056】
このときの押出機のフィルターは400メッシュの金網を使用した。また、ポリマー供給からTダイからの吐出まで、滞留時間は約5分であった。
【0057】
耐加水分解性の評価を行ったところ、処理前の未延伸シートのCOOH末端基が12.0eq./ton、155℃飽和水蒸気下で4時間処理したあとのCOOH末端基が46.1eq./tonと良好であった。また、窒素含有量については、特に窒素化合物を添加していないにも関わらず、60ppm検出された。これは、窒素雰囲気下で成形を行ったため、窒素の一部が含浸されたためと推測する。
【0058】
さらに、得られた二軸延伸フィルムを125℃、100%RH、48時間処理の前後でフィルム伸度を比較し、伸度保持率を算出したところ、65%であった。
【0059】
(実施例2)
リン酸二水素ナトリウムをリン酸二水素カリウムに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムは表1に示すとおり、実施例1とほぼ同等の性能を示した。
【0060】
(実施例3、4、10、11、比較例1、2、3、5、6、7、8)
リン酸とリン酸二水素ナトリウムの添加量と混合比を変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
【0061】
実施例3は、実施例1に比べてリン酸アルカリ金属塩の添加量を減らし、リン酸/リン酸アルカリ金属塩のモル比を大きくした。その結果、太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、実施例1に比べて湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなった。
【0062】
実施例4は、実施例1に比べてリン酸アルカリ金属塩の添加量を増やし、リン酸/リン酸アルカリ金属塩のモル比を小さくした。その結果、実施例1に比べて湿熱処理前後のCOOH末端基増加量は小さくなったが、伸度保持率は太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの低下した。
【0063】
実施例10は、実施例1に比べてリン酸二水素ナトリウム、及びリン酸の添加量を減らし、リン酸/リン酸二水素ナトリウムのモル比を小さくした。その結果、実施例1に比べ、COOH末端基、ΔCOOH末端基が増加した。伸度保持率は、実施例1に比べ低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0064】
実施例11は、実施例1に比べてリン酸二水素ナトリウム、及びリン酸の添加量を増量し、リン酸/リン酸二水素ナトリウムのモル比を大きくした。その結果、実施例1に比べ重合反応が長くなり、COOH末端基、ΔCOOH末端基が増加した。伸度保持率は実施例1に比べ低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0065】
比較例1はリン酸を減らし過ぎたため、初期のCOOH末端基が増加し、さらに伸度保持率も35%と性能不足であった。
【0066】
比較例2はリン酸二水素ナトリウムを増やしすぎたため、リン酸二水素ナトリウムが異物化した。その結果、初期のCOOH末端基は減少したが、異物化したリン酸二水素ナトリウムが機能せず、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなり、伸度保持率も不十分であった。
【0067】
比較例3はリン酸二水素ナトリウムを添加しなかったため、初期のCOOH末端基は低いが、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が著しく大きくなり、伸度保持率も不十分であった。
【0068】
比較例5はリン酸を添加しなかったため、耐熱性が低下し、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が著しく大きくなり、伸度保持率も不十分であった。
【0069】
比較例6はリン酸二水素ナトリウムを減らしすぎたため、伸度保持率が低下し、太陽電池用フィルムとして特性が不十分であった。
【0070】
比較例7はリン酸量を増量し、リン酸/リン酸二水素ナトリウムのモル比を大きくしすぎたため、伸度保持率が低下し、太陽電池用フィルムとして特性が不十分であった。
【0071】
比較例8は、リン酸の代わりにクエン酸1.9mol/ton相当を添加したところ、ΔCOOH末端基が大幅に増加し、伸度保持率も著しく低下し、太陽電池用フィルムとして特性が不十分であった。
【0072】
(実施例5)
第三工程の重合反応を固有粘度0.65に達するまで実施し、第四工程を省略する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
得られたポリエチレンテレフタレートは、固相重合を行わずに固有粘度0.65まで重合反応を行った結果、初期のCOOH末端基が20eq./tonを越えるものであったため、太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなった。さらに、伸度保持率も低下した。
【0073】
(実施例6)
リン酸アルカリ金属塩としてリン酸三ナトリウムを用い、三酸化アンチモンを増量する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。リン酸三ナトリウムは強アルカリであり、リン酸との混合溶液のpHは7.5であった。
この結果、初期のCOOH末端基が減少し、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が増加した。伸度保持率は太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、低下した。
【0074】
(実施例7)
酢酸マグネシウム、三酸化アンチモンの添加量を減らす以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
酢酸マグネシウム、三酸化アンチモンを減量したことにより、初期のCOOH末端基が減少した。これは金属化合物の含有量が減少したため、組成物の耐熱性が向上したためと考えられる。
一方で、触媒量が減少した分、固有粘度が低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0075】
(実施例8)
第四工程の固相重合時間を短縮する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
固相重合が短縮された分、初期のCOOH末端基、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量は大きくなったが、太陽電池用フィルムとして十分な性能を有していた。
【0076】
(実施例9)
重合触媒をチタニウムジイソプロポキシドビスエチルアセトアセテートに変更し、酢酸マグネシウムを添加しない以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
初期のCOOH末端基、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量などは全く問題なかったが、製膜時に静電印加キャストが不安定となったため、厚みムラが発生した。その結果、太陽電池用フィルムとしての特性は維持しているものの、伸度保持率が低下した。
【0077】
(比較例4)
リン酸をリン酸トリメチルに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
リン酸の代わりにリン酸トリメチルを用いることにより、リン酸二水素ナトリウムのCOOH末端基の増加抑制効果が弱くなり、湿熱処理前後のCOOH末端基増加量が大きくなった。伸度保持率においても、不十分であった。
【0078】
(比較例9)
リン酸二水素ナトリウムを亜リン酸ナトリウムに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
リン酸二水素ナトリウムを亜リン酸ナトリウムに変更したことにより、ΔCOOH末端基が増加傾向にあり、伸度保持率が不十分となった。
【0079】
(実施例12)
ビスヒドロキシエチレンテレフタレート114質量部(PET100質量部相当)があらかじめ仕込まれたエステル化反応装置にテレフタル酸86質量部、エチレングリコール37質量部からなるスラリーをスネークポンプにて3時間かけて供給し、反応物の温度を245℃〜255℃にコントロールしながらエステル化反応を行った。
【0080】
エステル化反応終了後、得られたビスヒドロキシエチレンテレフタレート114質量部(PET100質量部相当)を重合缶に移行し、酢酸マグネシウム4水和物0.06質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を加え、さらに攪拌しながら反応を30分間行って水を留出させた。その後、リン酸0.019質量部(1.9mol/ton相当)とリン酸二水素ナトリウム2水和物0.027質量部(1.7mol/ton相当)をエチレングリコール0.5質量部に溶解したエチレングリコール溶液(PH5.0)を添加した。このときの固有粘度は0.24であった。その後、温度を255℃から280℃まで昇温しながら減圧し、重縮合反応を最終到達温度280℃、真空度0.1Torrで行った。こうして固有粘度0.62、COOH末端基18.0eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0081】
得られたポリエチレンテレフタレートを160℃で6時間乾燥、結晶化させたのち、220℃、真空度0.3Torrの条件下8時間の固相重合を行い、固有粘度0.85、COOH末端基13.1eq./tonのポリエチレンテレフタレートを得た。さらに実施例1と同様にして、二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムは、実施例1に比べてCOOH末端基、ΔCOOH末端基が増加したが、太陽電池用フィルムとしては問題ないレベルであった。
【0082】
(実施例13)
重合温度を290℃、固有粘度を0.68とし、固相重合を省略する以外は実施例12と同様にして二軸延伸フィルムを得た。
得られたフィルムは、実施例12に比べCOOH末端基、ΔCOOH末端基が増加した。伸度保持率は低下したが、太陽電池用フィルムとしての特性は維持していた。
【0083】
(実施例14、15)
酢酸マグネシウムを、酢酸マンガン、酢酸カルシウムに変更する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
【0084】
実施例14においては、酢酸マンガンを用いることにより、固相重合後のCOOH末端基が9.2eq./tonであったのに対し、未延伸シートのCOOH末端基が9.5eq./tonと耐熱性が良好であった。さらに、COOH末端基増加量においても実施例1に比べ減少しており、耐加水分解性も良好であり、太陽電池用フィルムとして問題ないレベルであった。
【0085】
実施例15においては、酢酸カルシウムを用いたが、COOH末端基増加量が実施例1に比べ減少する傾向にあり、太陽電池用フィルムとしては問題ないレベルであった。
【0086】
(実施例16,17)
共重合成分として、トリメリット酸トリメチルをエステル交換反応前に添加する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
【0087】
実施例16においては、トリメリット酸トリメチルを全酸成分に対して0.05mol%共重合することにより、重合反応時間が短縮され、COOH末端基量が減少する傾向にあった。伸度保持率においても、実施例1に比べて上昇しており、太陽電池用フィルムとして良好な特性であった。
【0088】
実施例17においては、トリメリット酸トリメチルを全酸成分に対して0.5mol%共重合することにより、実施例16よりもさらに重合時間が短縮され、COOH末端基量が減少する傾向にあった。高い固有粘度とトリメリット酸トリメチルによる架橋があいまって、溶融粘度が高く、押出し時のフィルター濾圧、押出トルクは上昇する傾向にあるが、得られたフィルムは伸度保持率において、実施例1、及び実施例16に比べて上昇しており、太陽電池用フィルムとして良好な特性であった。
【0089】
(実施例18)
ブタンテトラカルボン酸をエステル交換反応後にエチレングリコール溶液(5wt%)として添加する以外は実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート、及び二軸延伸フィルムを得た。
ブタンテトラカルボン酸を全酸成分に対して0.1mol%共重合したことにより、重合反応時間が短縮され、COOH末端基が減少する傾向にあった。伸度保持率においても、実施例1に比べて上昇しており、太陽電池用フィルムとして良好な特性であった。
【0090】
いずれの実施例、比較例においても、窒素含有物質を原料として使用していないにも関わらず、窒素含有量が60ppm検出された。これは、テレフタル酸やエチレングリコールなどの原料に、不純物として窒素化合物が残存していたものか、窒素雰囲気での溶融成形中に、気体の窒素がポリエステル樹脂組成物に溶け込んだものと推測する。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】