(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変性スチレンブタジエンゴムの変性率が、0.02〜4.0mol%である、請求項2または3に記載のビードフィラー用ゴム組成物。ここで、変性率は、スチレンブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、前記ニトロン化合物によって変性された割合(mol%)を表す。
前記ニトロン化合物が、N−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、N−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、N−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンおよびN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のビードフィラー用ゴム組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、タイヤの耐久性の要求水準が高まるなか、ビードフィラーのモジュラスに対してさらなる向上が求められている。
また、昨今、環境問題などの観点から、燃費の向上が求められ、それに伴い、ビードフィラーに対しても低発熱性の向上が求められている。
【0006】
このようななか、本発明者が特許文献1を参考に天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとカーボンブラックとを含有するゴム組成物について検討したところ、将来の耐久性に対する要求レベルの向上を考慮すると、加硫後のモジュラスをさらに向上させる必要があることが明らかになった。また、加硫後の低発熱性も昨今要求されるレベルを必ずしも満たすものではないこと明らかになった。
【0007】
そこで、本発明は、上記実情を鑑みて、加硫後に低発熱性に優れ、かつ、モジュラスが高い、ビードフィラー用ゴム組成物、および、上記ゴム組成物を用いて製造した空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、カルボキシ基を有するニトロン化合物を配合するか、組成物中のSBRを上記ニトロン化合物により変性することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0009】
(1) ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、カルボキシ基を有するニトロン化合物とを含有し、
上記ジエン系ゴムが天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含み、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記天然ゴムの含有量が60質量%以上であり、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記スチレンブタジエンゴムの含有量が40質量%以下であり、
上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、40〜80質量部であり、
上記ニトロン化合物の含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部である、ビードフィラー用ゴム組成物。
(2) ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有し、
上記ジエン系ゴムが、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴムとを含み、
上記ジエン系ゴム中の、天然ゴムの含有量が、60質量%以上であり、
上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量が、40質量%以下であり、
上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用された上記ニトロン化合物の量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、
上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、40〜80質量部である、ビードフィラー用ゴム組成物。
(3) ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有し、
上記ジエン系ゴムが、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴムと、スチレンブタジエンゴムとを含み、
上記ジエン系ゴム中の、天然ゴムの含有量が、60質量%以上であり、
上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムと、上記ジエン系ゴム中のスチレンブタジエンゴムとの合計の量が、40質量%以下であり、
上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用された上記ニトロン化合物の量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、
上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、40〜80質量部である、ビードフィラー用ゴム組成物。
(4) 上記変性スチレンブタジエンゴムの変性率が、0.02〜4.0mol%である、上記(2)または(3)に記載のビードフィラー用ゴム組成物。ここで、変性率は、スチレンブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、上記ニトロン化合物によって変性された割合(mol%)を表す。
(5) 上記スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量が、10質量%以上である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のビードフィラー用ゴム組成物。
(6) 上記ニトロン化合物が、N−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、N−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、N−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、N−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンおよびN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載のビードフィラー用ゴム組成物。
(7) 上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積が、40〜150m
2/gである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のビードフィラー用ゴム組成物。
(8) 上記(1)〜(7)のいずれかに記載のビードフィラー用ゴム組成物を用いて製造した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
以下に示すように、本発明によれば、加硫後に低発熱性に優れ、かつ、モジュラスが高い、ビードフィラー用ゴム組成物、および、上記ゴム組成物を用いて製造した空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のビードフィラー用ゴム組成物、および、本発明の空気入りタイヤについて説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[ビードフィラー用ゴム組成物]
本発明のビードフィラー用ゴム組成物(以下、本発明の組成物ともいう)の第1の態様は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、カルボキシ基を有するニトロン化合物(以下、カルボキシニトロンとも言う)とを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含み、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記天然ゴムの含有量は60質量%以上であり、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記スチレンブタジエンゴムの含有量は40質量%以下であり、上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、40〜80質量部であり、上記ニトロン化合物の含有量は、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部である。
【0014】
また、本発明の組成物の第2の態様は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(以下、カルボキシニトロン変性SBRとも言う)とを含み、上記ジエン系ゴム中の、天然ゴムの含有量は、60質量%以上であり、上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量は、40質量%以下であり、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用された上記ニトロン化合物の量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、40〜80質量部である。
【0015】
また、本発明の組成物の第3の態様は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴムと、スチレンブタジエンゴムとを含み、上記ジエン系ゴム中の、天然ゴムの含有量は、60質量%以上であり、上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムと、上記ジエン系ゴム中のスチレンブタジエンゴムとの合計の量は、40質量%以下であり、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用された上記ニトロン化合物の量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、上記カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、40〜80質量部である。
【0016】
本発明の組成物の第2の態様と第3の態様は、上述した本発明の組成物の第1の態様において、カルボキシニトロンを配合する代わりに、ジエン系ゴム中のSBRの全部または一部をカルボキシニトロンによって変性した態様に相当する。
【0017】
本発明の組成物(第1〜3の態様)は上記構成をとるため、加硫後に優れた低発熱性および高いモジュラスを示すものと考えらえる。その理由は明らかではないが、およそ以下のとおりと推測される。
【0018】
上述のとおり、本発明の組成物は、カルボキシニトロン、または、カルボキシニトロン変性SBRを含有する。ここで、カルボキシニトロン(または変性後のカルボキシニトロン)に由来するカルボキシ基が組成物中のカーボンブラックと相互作用するため、ゴム成分とカーボンブラックとの強固な三次元構造が形成される。結果として、高いモジュラスを示すものと考えられる。また、上述のとおり、カルボキシ基が組成物中のカーボンブラックと相互作用するため、カーボンブラックの分散性が向上する。結果として、ペイン効果が低下し、優れた低発熱性を示すものと考えられる。すなわち、第1〜3の態様は同様のメカニズムにより所望の効果を発現するものと考えられる。
【0019】
以下、本発明の組成物の第1〜3の態様それぞれについて詳述する。
【0020】
〔第1の態様〕
上述のとおり、本発明の組成物の第1の態様(以下、単に第1の態様とも言う)は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、カルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)とを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含む。
以下、第1の態様に含有される各成分について詳述する。
【0021】
<ジエン系ゴム>
第1の態様に含有されるジエン系ゴムは、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含む。
上記ジエン系ゴムは天然ゴムおよびスチレンブタジエンゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。そのようなゴム成分としては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0022】
(天然ゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれる天然ゴムは特に制限されない。
上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計中の天然ゴムの含有量は、60質量%以上である。天然ゴムの含有量が60質量%未満であると、モジュラスや破断強度が不十分となる。
上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計中の天然ゴムの含有量は、60〜90質量%であることが好ましい。
なお、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計中の天然ゴムの含有量とは、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計を100質量%としたときの天然ゴムの含有量(質量%)であり、例えば、組成物が、天然ゴム65質量部およびスチレンブタジエンゴム34質量部からなるジエン系ゴムとカルボキシニトロン1質量部とを含有する場合、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計中の天然ゴムの含有量は65質量%(=65/(65+34+1)×100)となる。
【0023】
(スチレンブタジエンゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれるスチレンブタジエンゴムは特に制限されない。
上記スチレンブタジエンゴムの製造に使用されるスチレン単量体としては特に制限されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2−エチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、およびジメチルアミノエチルスチレンなどを挙げることができる。これらの中でも、スチレン、α−メチルスチレン、および4−メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。これらのスチレン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記スチレンブタジエンゴムの製造に使用されるブタジエン単量体としては特に制限されないが、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、1,3−ブタジエン、またはイソプレンを用いることが好ましく、1,3−ブタジエンを用いることがより好ましい。これらのブタジエン単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量は特に制限されないが、10質量%以上であることが好ましい。なかでも、15〜30質量%であることがより好ましい。なお、スチレンブタジエンゴムのスチレン単位含有量とは、スチレンブタジエンゴム中のスチレン単量体単位の割合(質量%)を表す。
【0025】
上記スチレンブタジエンゴムの重量平均分子量(Mw)は、取扱い性の観点から、100,000〜1,500,000であることが好ましく、300,000〜1,300,000であることがより好ましい。なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定したものとする。
【0026】
上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計中のスチレンブタジエンゴムの含有量は、40質量%以下である。スチレンブタジエンゴムの含有量が40質量%を超えると、モジュラスや破断強度が不十分となる。
上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計中のスチレンブタジエンゴムの含有量は、10〜40質量%であることが好ましい。
【0027】
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとの合計の含有量は特に制限されないが、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0028】
<カーボンブラック>
第1の態様に含有されるカーボンブラックは、特に限定されず、例えば、SAF−HS、SAF、ISAF−HS、ISAF、ISAF−LS、IISAF−HS、HAF−HS、HAF、HAF−LS、FEF、GPF、SRF等の各種グレードのものを使用することができる。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)は特に制限されないが、40〜150[m
2/g]であることが好ましく、50〜100[m
2/g]であることがより好ましく、なかでも、60[m
2/g]超であることがさらに好ましい。
ここで、窒素吸着比表面積(N
2SA)は、カーボンブラック表面への窒素吸着量をJIS K6217−2:2001「第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」にしたがって測定した値である。
【0029】
第1の態様において、カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴムと後述するカルボキシニトロンとの合計100質量部に対して、40〜80質量部である。カーボンブラックの含有量が上記範囲から外れると、モジュラスや破断強度が不十分となる。
カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴムと後述するニトロン化合物との合計100質量部に対して、60〜85質量部であることが好ましい。
【0030】
<カルボキシ基を有するニトロン化合物>
上述のとおり、第1の態様はカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)を含有する。
カルボキシニトロンは少なくとも1個のカルボキシ基(−COOH)を有するニトロンであれば特に限定されない。ここで、ニトロンとは、下記式(1)で表されるニトロン基を有する化合物を指す。
【0032】
上記式(1)中、*は結合位置を表す。
【0033】
カルボキシニトロンは、下記式(b)で表される化合物であることが好ましい。
【0035】
式(b)中、mおよびnは、それぞれ独立に、0〜5の整数を示し、mとnとの合計が1以上である。
mが示す整数としては、カルボキシニトロンを合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
nが示す整数としては、カルボキシニトロンを合成する際の溶媒への溶解度が良好になり合成が容易になるという理由から、0〜2の整数が好ましく、0〜1の整数がより好ましい。
また、mとnとの合計(m+n)は、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましい。
【0036】
このような式(b)で表されるカルボキシニトロンとしては特に制限されないが、下記式(b1)で表されるN−フェニル−α−(4−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b2)で表されるN−フェニル−α−(3−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b3)で表されるN−フェニル−α−(2−カルボキシフェニル)ニトロン、下記式(b4)で表されるN−(4−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、下記式(b5)で表されるN−(3−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロン、および、下記式(b6)で表されるN−(2−カルボキシフェニル)−α−フェニルニトロンからなる群より選択される化合物であることが好ましい。
【0038】
カルボキシニトロンの合成方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、ヒドロキシアミノ基(−NHOH)を有する化合物と、アルデヒド基(−CHO)およびカルボキシ基を有する化合物とを、ヒドロキシアミノ基とアルデヒド基とのモル比(−NHOH/−CHO)が1.0〜1.5となる量で、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン等)下で、室温で1〜24時間撹拌することにより、両基が反応し、カルボキシ基とニトロン基とを有する化合物(カルボキシニトロン)を与える。
【0039】
第1の態様において、カルボキシニトロンの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記カルボキシニトロンとの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部である。カルボキシニトロンの含有量が上記範囲から外れると、低発熱性またはモジュラスが不十分となる。
カルボキシニトロンの含有量は、上記ジエン系ゴムと上記カルボキシニトロンとの合計100質量部に対して、0.3〜3質量部であることが好ましい。
【0040】
〔第2の態様〕
上述のとおり、本発明の組成物の第2の態様(以下、単に第2の態様とも言う)は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBRとも言う)とを含む。
上述のとおり、第2の態様は、上述した第1の態様において、カルボキシニトロンを配合する代わりに、ジエン系ゴム中のSBRをカルボキシニトロンによって変性した態様に相当する。
【0041】
<ジエン系ゴム>
上述のとおり、第2の態様に含有されるジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)とを含む。
上記ジエン系ゴムは天然ゴムおよびカルボキシニトロン変性SBR以外のゴム成分を含んでいてもよい。そのようなゴム成分としては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
【0042】
(天然ゴム)
上記ジエン系ゴムに含まれる天然ゴムは特に制限されない。
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は、60質量%以上である。天然ゴムの含有量が60質量%未満であると、モジュラスや破断強度不十分となる。
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有量は、60〜90質量%であることが好ましい。
【0043】
(変性スチレンブタジエンゴム)
上述のとおり、上記ジエン系ゴムには、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)が含まれる。
カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されるスチレンブタジエンゴムの具体例および好適な態様は上述した第1の態様に含有されるスチレンブタジエンゴムと同じである。また、カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されるカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)の定義、具体例および好適な態様は上述した第1の態様に含有されるカルボキシニトロンと同じである。
【0044】
スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシニトロンを反応させることで変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)を製造する方法は特に制限されないが、例えば、上記スチレンブタジエンゴムと上記カルボキシニトロンとを、100〜200℃で1〜30分間混合する方法が挙げられる。
このとき、下記式(4−1)または下記式(4−2)に示すように、上記スチレンブタジエンゴムが有するブタジエンに由来する二重結合と上記カルボキシニトロンが有するニトロン基との間で、環化付加反応が起こり、五員環を与える。なお、下記式(4−1)は1,4−結合とニトロン基との反応を表し、下記式(4−2)は1,2−ビニル結合とニトロン基との反応を表す。また、式(4−1)および(4−2)はブタジエンが1,3−ブタジエンの場合の反応を表すものであるが、ブタジエンが1,3−ブタジエン以外の場合も同様の反応により五員環を与える。
【0047】
上記ジエン系ゴム100質量部に対する、上記変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)の合成に使用された上記ニトロン化合物(カルボキシニトロン)の量(以下、CPN量換算値とも言う)は、0.1〜10質量部である。なかでも、0.3〜3質量部であることが好ましい。CPN量換算値が0.1〜10質量部の範囲から外れると、低発熱性またはモジュラスが不十分となる。
なお、例えば、100質量部のジエン系ゴム中に35質量部のカルボキシニトロン変性SBRが含まれ、上記カルボキシニトロン変性SBRが100質量部のSBRと1質量部のカルボキシニトロンとを反応させることで得られたものである場合、35質量部のカルボキシニトロン変性SBRのうち、カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されたカルボキシニトロンは0.35質量部(=35×(1/101))であるので、CPN量換算値は0.35質量部である。
【0048】
カルボキシニトロン変性SBRの合成において、SBR100質量部に対するカルボキシニトロンの量は特に制限されないが、0.1〜20質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。なかでも、2質量部以上であることが好ましい。
【0049】
カルボキシニトロン変性SBRの変性率は特に制限されないが、0.02〜4.0mol%であることが好ましく、0.10〜2.00mol%であることがより好ましい。なかでも、0.20mol%以上であることが好ましい。
ここで、変性率とは、スチレンブタジエンゴムが有するブタジエン(ブタジエン単位)に由来する全ての二重結合のうち、カルボキシニトロンによって変性された割合(mol%)を表し、例えばブタジエンが1,3−ブタジエンであれば、カルボキシニトロンによる変性によって上記式(4−1)または上記式(4−2)の構造が形成された割合(mol%)を表す。変性率は、例えば、変性前後のSBRのNMR測定を行うことで求めることができる。
なお、本明細書において、変性率が100mol%のカルボキシニトロン変性SBRもジエン系ゴムに該当するものとする。
【0050】
上記ジエン系ゴム中のカルボキシニトロン変性SBRの含有量は特に制限されないが、10〜50質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
【0051】
上記ジエン系ゴム中の天然ゴムとカルボキシニトロン変性SBRとの合計の含有量は特に制限されないが、90質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0052】
上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量は、40質量%以下である。上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量が40質量%を超えると、モジュラスや破断強度が不十分となる。
上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量は、10〜40質量%であることが好ましい。
なお、例えば、ジエン系ゴムが天然ゴム65質量部とカルボキシニトロン変性SBR35質量部からなり、カルボキシニトロン変性SBRが100質量部のSBRと1質量部のカルボキシニトロンとを反応させることで得られたものである場合、35質量部のカルボキシニトロン変性SBRのうち、カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されたSBRは34.65質量部(=35×(100/101))であるので、ジエン系ゴムに対する、変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムの量は、34.65質量%である。
【0053】
<カーボンブラック>
第2の態様に含有されるカーボンブラックは特に限定されず、その具体例は上述した第1の態様に含有されるカーボンブラックと同じである。また、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)は特に制限されず、その好適な態様は上述した第1の態様に含有されるカーボンブラックと同じである。
【0054】
第2の態様において、カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、40〜80質量部である。カーボンブラックの含有量が上記範囲から外れると、モジュラスや破断強度が不十分となる。
カーボンブラックの含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、60〜85質量部であることが好ましい。
【0055】
〔第3の態様〕
上述のとおり、本発明の組成物の第3の態様(以下、単に第3の態様とも言う)は、ジエン系ゴムと、カーボンブラックとを含有する。ここで、上記ジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)と、スチレンブタジエンゴム(未変性スチレンブタジエンゴム)とを含む。
上述のとおり、第3の態様は、上述した第1の態様において、カルボキシニトロンを配合する代わりに、ジエン系ゴム中のSBRをカルボキシニトロンによって変性した態様に相当する。
第3の態様に含有されるカーボンブラックは上述した第2の態様と同じであるので、以下では、第3の態様におけるジエン系ゴムについて詳述する。
【0056】
<ジエン系ゴム>
上述のとおり、第3の態様に含有されるジエン系ゴムは、天然ゴムと、スチレンブタジエンゴムの二重結合に対してカルボキシ基を有するニトロン化合物を反応させることで得られる変性スチレンブタジエンゴム(カルボキシニトロン変性SBR)と、スチレンブタジエンゴム(未変性スチレンブタジエンゴム)とを含む。
上記ジエン系ゴムは天然ゴム、カルボキシニトロン変性SBRおよびスチレンブタジエンゴム以外のゴム成分を含んでいてもよい。そのようなゴム成分としては特に制限されないが、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
ジエン系ゴムに含まれる天然ゴムおよびカルボキシニトロン変性SBRの定義、具体例および好適な態様は、上述した第2の態様に含有されるジエン系ゴムに含まれる天然ゴムおよびカルボキシニトロン変性SBRと同じである。
ジエン系ゴムに含まれるスチレンブタジエンゴム(未変性スチレンブタジエンゴム)の具体例および好適な態様は、上述した第1の態様に含有されるスチレンブタジエンゴムと同じである。
【0057】
上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムと、上記ジエン系ゴム中のスチレンブタジエンゴムとの合計の量は、40質量%以下である。上記合計の量が40質量%を超えると、モジュラスや破断強度が不十分となる。
上記ジエン系ゴムに対する、上記変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴムと、上記ジエン系ゴム中のスチレンブタジエンゴムとの合計の量は、10〜40質量%であることが好ましい。
なお、例えば、ジエン系ゴムが天然ゴム65質量部とカルボキシニトロン変性SBR18質量部とスチレンブタジエンゴム(未変性スチレンブタジエンゴム)17質量部からなり、カルボキシニトロン変性SBRが100質量部のSBRと2質量部のカルボキシニトロンとを反応させることで得られたものである場合、18質量部のカルボキシニトロン変性SBRのうち、カルボキシニトロン変性SBRの合成に使用されたSBRは17.65質量部(=18×(100/102))であるので、ジエン系ゴム(100質量部)に対する、変性スチレンブタジエンゴムの合成に使用されたスチレンブタジエンゴム(17.65質量部)と、上記ジエン系ゴム中のスチレンブタジエンゴム(未変性スチレンブタジエンゴム)(17質量部)との合計の量(34.65質量部)は、34.65質量%である。
【0058】
〔任意成分〕
本発明の組成物は、必要に応じて、その効果や目的を損なわない範囲でさらに添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、接着用樹脂、素練り促進剤、老化防止剤、ワックス、加工助剤、プロセスオイル、液状ポリマー、テルペン系樹脂、熱硬化性樹脂、粘着付与剤樹脂、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤が挙げられる。
【0059】
〔ビードフィラー用ゴム組成物の製造方法〕
本発明の組成物は特に限定されず、その具体例としては、例えば、上述した各成分を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなど)を用いて、混練する方法などが挙げられる。本発明の組成物が硫黄または加硫促進剤を含有する場合は、硫黄および加硫促進剤以外の成分を先に高温(好ましくは60〜120℃)で混合し、冷却してから、硫黄または加硫促進剤を混合するのが好ましい。
また、本発明の組成物は、従来公知の加硫または架橋条件で加硫または架橋することができる。
【0060】
〔用途〕
本発明の組成物は空気入りタイヤのビードフィラーに好適に使用される。
【0061】
[空気入りタイヤ]
本発明の空気入りタイヤは、上述した本発明の組成物をタイヤ(好ましくはビードフィラー)に使用した空気入りタイヤである。
図1に、本発明の空気入りタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの部分断面概略図を示すが、本発明の空気入りタイヤは
図1に示す態様に限定されるものではない。
【0062】
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるタイヤトレッド部3からなり、左右一対のビード部1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。タイヤトレッド部3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。ビードフィラー6は上述した本発明の組成物から形成されている。
【0063】
本発明の空気入りタイヤは、例えば従来公知の方法に従って製造することができる。また、タイヤに充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
<カルボキシニトロンの合成>
2Lナスフラスコに、40℃に温めたメタノール(900mL)を入れ、ここに、下記式(b−1)で表されるテレフタルアルデヒド酸(30.0g)を加えて溶かした。この溶液に、下記式(a−1)で表されるフェニルヒドロキシアミン(21.8g)をメタノール(100mL)に溶かしたものを加え、室温で19時間撹拌した。撹拌終了後、メタノールからの再結晶により、下記式(c−1)で表されるカルボキシ基を有するニトロン化合物(カルボキシニトロン)を得た(41.7g)。収率は86%であった。
【化6】
【0066】
<ジフェニルニトロンの合成>
300mLナスフラスコに、下記式(6)で表されるベンズアルデヒド(42.45g)およびエタノール(10mL)を入れ、ここに、下記式(5)で表されるフェニルヒドロキシアミン(43.65g)をエタノール(70mL)に溶かしたものを加え、室温で22時間撹拌した。撹拌終了後、エタノールからの再結晶により、下記式(7)で表されるカルボキシ基を有さないニトロン化合物(ジフェニルニトロン)を白色の結晶として得た(65.40g)。収率は83%であった。
【0067】
【化7】
【0068】
<カルボキシニトロン変性SBR(変性SBR1)の合成>
120℃のバンバリーミキサーにSBR(日本ゼオン社製NIPOL 1502)を投入して2分間素練りを行った。その後、上述のとおり合成したカルボキシニトロンをSBR100質量部に対して1質量部投入し、150℃で6分間混合することで、SBRをカルボキシニトロンによって変性した。得られたカルボキシニトロン変性SBRを変性SBR1とする。
変性前後のSBRについて
1H−NMRスペクトルを測定し(CDCl
3、400MHz、TMS)、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピークの面積から変性率を求めたところ、変性SBR1の変性率は0.19mol%であった。
【0069】
<カルボキシニトロン変性SBR(変性SBR2)の合成>
カルボキシニトロンの配合量を1質量部から2質量部に変更した以外は、変性SBR1と同様の手順に従って、SBRをカルボキシニトロンによって変性した。得られたカルボキシニトロン変性SBRを変性SBR2とする。
変性前後のSBRについて
1H−NMRスペクトルを測定し(CDCl
3、400MHz、TMS)、8.08ppm付近(カルボキシ基に隣接する2つのプロトンに帰属する)のピークの面積から変性率を求めたところ、変性SBR2の変性率は0.43mol%であった。
【0070】
<ジフェニルニトロン変性SBR(比較変性SBR)の合成>
カルボキシニトロンを使用する代わりに上述のとおり合成したジフェニルニトロンを使用した以外は、変性SBR1と同様の手順に従って、SBRをジフェニルニトロンによって変性した。得られたジフェニルニトロン変性SBRを比較変性SBRとする。
変性前後のSBRについて
1H−NMRスペクトルを測定し(CDCl
3、400MHz、TMS)、フェニル基に由来するピーク面積から変性率を求めたところ、比較変性SBRの変性率は0.21mol%であった。
【0071】
<ビードフィラー用ゴム組成物の調製>
下記表1に示される成分を、下記表1に示される割合(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記表1に示される成分のうち硫黄および加硫促進剤を除く成分を、80℃のバンバリーミキサーで5分間混合した。次に、ロールを用いて、硫黄および加硫促進剤を混合し、各ビードフィラー用ゴム組成物(以下、「ビードフィラー用ゴム組成物」を単に「ゴム組成物」とも言う)を得た。
表1中、変性SBR1については、上段が変性SBR1の質量部であり、下段(カッコ内)は、上段に示される質量部の変性SBR1のうち、変性SBR1の合成に使用されたSBRの質量部を表す。変性SBR2および比較変性SBRについても同様である。
なお、実施例1および3は上述した第2の態様に相当し、実施例2は上述した第3の態様に相当し、実施例4は上述した第1の態様に相当する。
【0072】
<加硫ゴムシートの作製>
得られた各ゴム組成物(未加硫)を、金型(15cm×15cm×0.2cm)中、160℃で15分間プレス加硫して、加硫ゴムシートを作製した。
【0073】
<発熱性の評価>
得られた各加硫ゴムシートについて、粘弾性スペクトロメーター(東洋精機製作所社製)により、初期歪み10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度60℃の条件で、損失正接(tanδ(60℃))を測定した。結果を表1に示す(発熱性)。結果は、比較例1のtanδ(60℃)を100とする指数で表した。値が小さいほど、低発熱性に優れる。
【0074】
<モジュラスの評価>
上述した発熱性の評価と同様に加硫ゴムシートを調製し、調製した加硫ゴムシートを厚さ2mmのダンベル状(ダンベル状3号形)に切り出して試験片とした。
得られた試験片について、JIS K6251:2010に準じ、100%モジュラス(100%伸長時の応力)[MPa]を測定した。結果を表1に示す(モジュラスM100)。結果は、比較例1の100%モジュラスを100とする指数で表した。指数が大きいほどモジュラスが高いことを示す。
【0075】
なお、表1中、ニトロン量換算値は、実施例1〜3については、上述したCPN量換算値を表し、実施例4については、ジエン系ゴムとカルボキシニトロンとの合計100質量部に対する、カルボキシニトロンの質量部を表し、比較例2については、ジエン系ゴム100質量部に対する、比較変性SBRの合成に使用されたジフェニルニトロンの質量部を表す。
また、表1中、変性率は、上述した変性率を表す。ただし、ジフェニルニトロンを使用した例については、SBRが有するブタジエンに由来する全ての二重結合のうち、ジフェニルニトロンによって変性された割合(mol%)を表す。
【0076】
【表1】
【0077】
上記表1に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・天然ゴム:TSR20
・SBR:NIPOL 1502(スチレン単位含有量:23.5質量%、Mw:45万、日本ゼオン社製)
・変性SBR1:上述のとおり合成した変性SBR1
・変性SBR2:上述のとおり合成した変性SBR2
・比較変性SBR:上述のとおり合成した比較変性SBR
・カルボキシニトロン:上述のとおり合成したカルボキシニトロン
・カーボンブラック:シーストN(N
2SA:74[m
2/g]、東海カーボン社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3号(正同化学社製)
・ステアリン酸:ステアリン酸YR(日油社製)
・老化防止剤:SANTOFLEX 6PPD(Soltia Europe社製)
・プロセスオイル:エキストラクト4号S(昭和シェル石油社製)
・加硫促進剤:ノクセラー CZ−G(大内新興化学工業社製)
・硫黄:油処理硫黄(軽井沢精錬所社製)
【0078】
表1から分かるように、カルボキシニトロンおよびカルボキシニトロン変性SBRのいずれも含有しない比較例1や2と比較して、カルボキシニトロンを含有する実施例4やカルボキシニトロン変性SBRを含有する実施例1〜3は低発熱性に優れ、かつ、モジュラスが高かった。なかでも、カルボキシ変性SBRを含有する実施例1〜3は低発熱性により優れ、かつ、モジュラスがより高かった。
実施例1と3との対比から、カルボキシニトロン変性SBRの変性率が0.30mol%以上である実施例3は低発熱性により優れ、かつ、モジュラスがより高かった。
実施例2と3との対比から、ジエン系ゴム中のカルボキシニトロン変性SBRの含有量が20質量%以上である実施例3は低発熱性により優れ、かつ、モジュラスがより高かった。
【解決手段】ジエン系ゴムと、カーボンブラックと、カルボキシ基を有するニトロン化合物とを含有し、上記ジエン系ゴムが天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとを含み、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記天然ゴムの含有量が60質量%以上であり、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計中の上記スチレンブタジエンゴムの含有量が40質量%以下であり、上記カーボンブラックの含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、40〜80質量部であり、上記ニトロン化合物の含有量が、上記ジエン系ゴムと上記ニトロン化合物との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部である、ビードフィラー用ゴム組成物。