【文献】
Manman Ren et al.,Preparation and electrochemical studies of Fe-doped Li3V2(PO4)3 cathode materials for lithium-ion ba,Journal of Power Sources,Elsevier,2006年 9月15日,Volume 162, Issue 2,pp.1357-1362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、エネルギー密度が比較的高いという利点を活かして、携帯電話に代表されるモバイル機器などの小型民生機器の電源として近年幅広く普及している。また、非水電解質二次電池は、小型民生機器の用途だけでなく、電力貯蔵用、電気自動車用、又はハイブリッド自動車用等の中大型産業用途への展開が見込まれている。
【0003】
非水電解質二次電池は、一般的に、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、セパレータと、非水溶媒及び電解質塩を含有する非水電解質とを備えている。
非水電解質二次電池を構成する正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物が広く知られ、負極活物質としては、グラファイトに代表される炭素材料が広く知られ、非水電解質としては、エチレンカーボネートを主構成成分とする非水溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)等の電解質塩を溶解したものが広く知られている。
【0004】
現在、リチウムイオン二次電池などの非水電解質二次電池用の正極活物質としては、数多くのものが知られている。最も一般的に知られている正極活物質としては、作動電圧が4V付近のリチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウムニッケル酸化物(LiNiO
2)、又はスピネル型構造を持つリチウムマンガン酸化物(LiMn
2O
4)等を基本構成とするリチウム含有遷移金属酸化物が挙げられる。なかでもLiCoO
2は、充放電特性及びエネルギー密度に優れることから、電池容量2Ahまでの小容量リチウムイオン二次電池の正極活物質として広く採用されている。
【0005】
しかしながら、今後の中型又は大型の電池用途、特に大きな需要が見込まれる産業用途への展開を考えた場合、産業用途では、小型民生用途では使用されないような高温環境下において電池が使用され得るため、電池の安全性が非常に重要視される。また、このような高温環境下では、リチウムイオン二次電池はもとより、ニッケル−水素電池、ニッケル−カドミ電池、又は鉛電池も非常に短寿命のものになる。従って、現状、電池としては、ユーザーの要求を満足するものが存在しない。一方、このような高温環境下でも比較的寿命の長いキャパシターは、エネルギー密度が低く、ユーザーの要求を満足するものではない。このことから、高温環境下でも安全性に優れ長寿命でありエネルギー密度の高い電池が求められている。
【0006】
これに対して、優れた安全性を有する正極活物質として、オリビン型構造を有するリン酸鉄リチウム(LiFePO
4)が提案されている。LiFePO
4は、酸素がリンと共有結合を形成していることから、高温環境下でも酸素ガス等が発生しないため、安全性が高いものである。
【0007】
しかしながら、LiFePO
4は、リチウムの吸蔵及び脱離が金属リチウム電位に対して約3.4Vという低い電位で行われるため、従来のリチウム含有遷移金属酸化物に比べて、エネルギー密度が低いという問題がある。
【0008】
そこで、最近、エネルギー密度が比較的高く且つ安全性に優れた正極活物質として、金属リチウム電位に対して約4Vでリチウムの吸蔵及び脱離が起こる、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物が注目を集めている。斯かるリチウム含有リン酸化合物としては、代表的なものとして、リン酸バナジウムリチウム(Li
3V
2(PO
4)
3)が挙げられる。Li
3V
2(PO
4)
3は、式量あたりのリチウム含有量が多く、すべてのLiが脱離すると、理論容量が197mAh/gとなるため、高い安全性と高いエネルギー密度とを兼ね備えた正極活物質として期待されている。
【0009】
特許文献1には、「名目上の一般式、Li
3−xM’
yM”
2−y(PO
4)
3(ここでM’およびM”は同じあるいは相互に異なり、少なくともM’およびM”の一つは、複数の酸化状態を有し、0≦y≦2)で示される電極活性物質を含む第1の電極;インターカレーション活性物質を含む第2の対向電極および電解質を含み、第1の条件においてはx=0で、第2の条件においては0<x≦3であり、M’およびM”はそれぞれ、金属あるいは半金属であり、少なくともM’およびM”の一つは、第1の条件における酸化状態よりも大きな酸化状態を有するリチウム二次電池。」(請求項1)及び「M’およびM”はそれぞれ独立にTi(チタン),V(バナジウム),Cr(クロム),Mn(マンガン),Fe(鉄),Co(コバルト),Mo(モリブデン)およびCu(銅)よりなる群から選択される請求項1記載のリチウム二次電池。」(請求項5)の発明が開示されている。
特許文献1には、「本発明は、酸化可能な金属を含むリチウム金属リン酸塩化合物を提供する。この様な金属は、複数の酸化状態をとることができる。金属は、最も高い酸化状態よりも低い酸化状態でリチウム金属リン酸塩化合物中に存在する。したがって、金属は酸化可能であり、1以上のLi
+イオンを抽出する能力を提供する。」(第13頁第18行〜第22行)ことによって、「本発明の目的、特徴、長所として、改良された充放電特性と高放電容量を有し、サイクル動作中において完全な状態を保持する改良型のリチウムベースの電気化学セルまたは電池が含まれる」(第6頁第42行〜第44行)とすることができるとの記載がある。また、特許文献1の実施例には、上記活性物質として、Li
3V
2(PO
4)
3が示されているほか、発明を実施するための最良の形態には、Li
3FeV(PO
4)
3及びLi
3AlTm(PO
4)
3が例示されている。
しかしながら、特許文献1には、一般式Li
3−xM’
yM”
2−y(PO
4)
3 において、M’とM”としてFeとVとを選択し、さらにyの値を0.04から0.4の範囲とすることで、サイクル性能が顕著に向上することについて記載も示唆もない。
【0010】
特許文献2には、「第一の状態が公称一般式Li
3−xM’
yM”
2−y(PO
4)
3で、x=0、0≦y≦2であり、そして第2の状態が公称一般式Li
3−xM’
yM”
2−y(PO
4)
3で、0<x≦3であり;M”が遷移金属であり、そしてM’が金属及びメタロイドからなる群から選択される非遷移金属元素である活性物質を有する第1の電極;前記第1の電極に対する対電極である第2の電極;並びに前記両電極間の電解質を含む、リチウムイオン電池。」(請求項1)の発明が開示されている。
特許文献2には、上記活性物質を用いることで、「本発明の目的、特徴、及び利益は、改良された充電及び放電特性、大きな放電容量を有し、そして充放電中にその完全さを保持するリチウムに基づいた改良された電気化学的単電池又は電池を含む」(第11頁第1行〜第3行)という効果が得られるとの記載がある。また、特許文献2の実施例には、Li
3V
2(PO
4)
3、Li
3AlV(PO
4)
3を始めとする種々のLi
3−xM’M”(PO
4)
3又はLi
3−xM
IIM
IV(PO
4)
3が優れた充放電の可逆性と容量とを示すことが記載されている。しかしながら、特許文献2には、M’とM”としてVとFeとを選択することについて記載も示唆もない。
【0011】
特許文献3には、燐酸リチウム・バナジウム複合化合物について、バナジウムの一部を置換した発明が開示されており、「本発明の燐酸リチウム・バナジウム複合化合物は、バナジウムの一部をZr,Ti及び/またはAlで置換することにより、従来高温で安定な高温相が室温においても安定化され、従って室温において安定化された高温相によりその正極特性が著しく向上する。即ち、本願発明では、イオン伝導性及びイオン拡散性の高い高温相を室温下で安定化することによってLi
3V
2(PO
4)
3 及びLi
3Fe
2(PO
4)
3 の欠点である低充放電容量を向上させている。」(段落0009)との記載がある。特許文献3の実施例には、燐酸リチウム・バナジウム複合化合物の、バナジウムの一部を5〜20mol%の範囲でAl、Ti又はZrで置換した化合物が示され、「バナジウムをアルミニウム、チタン及びジルコニウムから選ばれた2価以上の陽イオンのうち少なくとも1種類の陽イオンを所定の量で置換することによって、高温で安定であったイオン伝導相を室温でも安定化し、それによってイオン導電度を向上し、イオン拡散性を高め、充放電容量を向上させている。」(段落0029)ことが示されている。
【0012】
また、特許文献4には、3V系のメモリーバックアップ用電池に関して、「化学式Li
nM
2(XO
4)
3(式中、n、M、Xはそれぞれ、0≦n≦3、M:Al,Ti,Ni,V,Nb,Mnの中から選択される一種以上の金属元素、X:P,S,Mo,W,Asを表す。)と表わされるナシコン型化合物を活物質として含む正極と、電気化学的にリチウムを挿入・脱離可能な炭素系物質を含む負極と、非水電解液とを具備したことを特徴とするリチウムイオン二次電池。」(請求項1)の発明が開示されている。特許文献4によれば、「化学式Li
nM
2(XO
4)
3(式中、n、M、Xはそれぞれ、0≦n≦3、M:Fe,Ti,Ni,V,Nb,Mnの中から選択される一種以上の金属元素、X:P,S,Mo,W,Asを表す。)と表わされるナシコン型化合物を活物質として含む正極と、電気化学的にリチウムを挿入及び脱離可能なリチウム含有炭素系物質を含む負極と、非水電解液とを具備していることにより、安定した作動電圧を示し、優れた容量維持率を示し、サイクル性能に優れた、長寿命なリチウムイオン二次電池を提供することができる。また、特に正極活物質としてV
2(SO
4)
3ナシコン型化合物を用いた場合、電圧が3V級のバックアップに適した長寿命の電池を実現することができた。」(段落0033)ことが記載されている。特許文献4の実施例には、上記化学式を満たす化合物として、V
2(SO
4)
3及びLiTi
2(PO
4)
3が示されている。
【0013】
特許文献5には、「一般式Li
aM
b(PO
4)
1−x(BO
3)
x(但し、MはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Niからなる群から選択される1種または2種以上の遷移金属元素、0<a、0<b、0.5<a+b≦2、0<x<1であり、a及びbは一般式が電気的中性を保つように選択される)で表されるリチウム二次電池用活物質」(請求項1)についての発明が開示されている。特許文献5には、「高率放電性能の優れたポリアニオン系活物質及びそれを用いたリチウム二次電池を提供すること」(段落0014)を目的として、PO
4の一部をBO
3で置換することが記載されている。特許文献5の実施例には、PO
4の一部をBO
3で置換したLi
3V
2(PO
4)
3−x(BO
3)
xは、「高率放電特性値については、x=1/64〜1/4の範囲において、驚くべきことにLi
3V
2(PO
4)
3(x=0)よりも向上していることがわかる」(段落0061)ことが示されている。
【0014】
しかしながら、これらの先行技術文献に示されるリン酸バナジウムリチウム化合物及びその誘導体は、電池において充放電が繰り返されても電池容量が維持される性能が必ずしも優れたものではないという問題、即ち、サイクル性能が必ずしも優れたものではないという問題を有する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を例示するが、本発明は、これらの記述に限定されるものではない。
【0027】
本発明の実施形態の非水電解質二次電池用正極活物質は、ナシコン型構造を有するFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物を含む非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物が金属元素として少なくともリチウム(Li)とバナジウム(V)と鉄(Fe)とを含み、バナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対する鉄(Fe)の原子数の割合が2%以上20%以下であるものである。
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物において、バナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対する鉄(Fe)の原子数の割合が20%を超えると、バナジウム(V)の相対量が減少する。このため、正極活物質の容量が低下するおそれがある。また、バナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対する鉄(Fe)の原子数の割合が2%未満であると、電池における正極活物質のサイクル性能が不十分なものになるおそれがある。
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物においては、サイクル性能がより優れたものになるという点で、バナジウムと鉄との原子数の和に対する鉄(Fe)の原子数の割合が5%以上である
。また、斯かる鉄(Fe)の原子数の割合は、正極活物質の容量がより大きくなり得るという点で、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
また、前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物は、Li、V、Fe以外の金属元素をさらに含んでいてもよい。Li、V、Fe以外の金属元素としては、Al、Cr、Mg、Mn、Ni、Ti等が挙げられ、なかでもAlが好ましい。
また、前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物においては、微量の(BO
3)、(WO
4)、(MoO
4)、(SiO
4)等のリン酸(PO
4)以外の他のアニオンが固溶していてもよく、そのようなものも本発明の権利範囲に含まれる。
【0028】
本発明の実施形態の非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式Li
3−xV
2−y−zFe
yM
z(PO
4)
3(ここで、0≦x<3、 0.04≦y≦0.4、 0≦z≦0.1、且つ 0.04≦y+z≦0.4であり、Mは、Al、Cr、Mg、Mn、Ni、及びTiのうちの少なくとも1種の金属元素を示す。)で表されるFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物を含むものである。
上記の一般式においては、yの値が0.4を超えると、バナジウム(V)の相対量が減少する。このため、正極活物質の容量が低下するおそれがある。また、yの値が0.04未満であると、電池における正極活物質のサイクル性能が不十分なものになるおそれがある。
上記の一般式で表されるFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物においては、yの値が0.04以上であるため、サイクル性能が顕著に優れたものになる。また、正極活物質の容量がより大きくなり得るという点で、y≦0.35であることが好ましく、y≦0.3であることがより好ましく、y≦0.2であることがさらに好ましい。
上記の一般式においては、Mがアルミニウム(Al)であることが好ましい。
【0029】
上記の一般式は、z=0であること、即ち、Li
3−xV
2−yFe
y(PO
4)
3(ここで、0≦x<3、 0.04≦y≦0.4)で表されることが好ましい。また、Li
3−xV
2−yFe
y(PO
4)
3(ここで、0≦x<3、 0.04≦y≦0.2)で表されることがより好ましい。
即ち、前記非水電解質二次電池用正極活物質は、一般式Li
3−xV
2−yFe
y(PO
4)
3(ここで、0≦x<3、 0.04≦y≦0.2)で表されるFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物を含むことがより好ましい。
【0030】
上記の一般式で表されるFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物は、ナシコン型構造を有
し、より具体的には、単斜晶の結晶構造を有することが好ましい。
【0031】
前記非水電解質二次電池用正極活物質は、ナシコン型構造を有するFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の他に、さらに、ナシコン型構造以外の他の結晶構造を有する化合物を含むことが好ましい。該他の結晶構造を有する化合物としては、オリビン型構造等の斜方晶系の化合物が挙げられる。また、ナシコン型構造以外の他の結晶構造を有する化合物が、オリビン型構造を有するリン酸鉄リチウム化合物(LiFePO
4)であることが好ましい。
【0032】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物は、通常、粒子状のものである。
【0033】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物は、本発明の効果をより確実に発揮できるという点で、二次粒子の粒子径が小さい方が好ましい。二次粒子径を小さくすることにより、例えば、後述する集電体上に塗布する正極ペーストをより均一なものにできるという利点がある。
具体的には、二次粒子の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましく、0.5〜50μmであることがより好ましい。また、一次粒子の粒子径は50〜500nmであることが好ましい。
【0034】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の二次粒子の平均粒子径は、液相沈降法又はレーザー回折・散乱法による粒度分布測定により求めることができる。また、一次粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察の結果を画像解析することにより求めることができる。
【0035】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子は、正極のハイレート性能をより優れたものにできるという点で、窒素吸着法によるBET比表面積が大きい方が好ましい。具体的には、BET比表面積が1〜100m
2/gであることが好ましく、5〜100m
2/gであることがより好ましい。
【0036】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の組成式は、従来知られている各種分析法により、Li、V、Fe、Pの比を調べることにより求められる。分析法としては、例えば、ICP発光分光、ICP質量分析、原子吸光、蛍光エックス線分析などが挙げられる。また、前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の結晶構造は、エックス線回折(XRD)測定により求められる。
【0037】
前記正極活物質においては、カーボンなどの導電性炭素質材料が、機械的手段又は有機物の熱分解等の手段によって前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子表面に付着されていることが好ましい。斯かる構成により、粒子間の電子伝導性がより優れたものになり得る。即ち、前記正極活物質においては、本発明の効果をより確実に発揮させることができるという点で、カーボン等の導電性炭素質材料がFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子表面に付着されていることが好ましい。
前記導電性炭素質材料が粒子表面に付着している態様としては、特に限定されないが、粒子間の電子伝導性がさらに優れたものになり得るという点で、粒子表面を導電性炭素質材料が被覆している態様が好ましい。即ち、カーボンなどの導電性炭素質材料が前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子表面を被覆していることがさらに好ましい。
【0038】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子表面に付着した導電性炭素質材料の量は、熱重量測定(TG)により求めることができる。また、前記導電性炭素質材料が該粒子表面に付着していることは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた観察などによって確かめることができる。
【0039】
次に、前記非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。
該製造方法としては、特に限定されず、該製造方法においては、具体的には、例えば、固相法、液相法、ゾルゲル法、水熱法等の合成方法を採用することができる。
【0040】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物は、基本的に、該化合物を構成する金属元素(Li、V、Fe)を含む原料及びリン酸源となる原料を、所望の組成比になるように含有した前駆体(混合物)を調製し、該前駆体をさらに焼成することによって得ることができる。得られたFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の組成は、原料の仕込み組成比から計算される組成と比べて若干異なり得る。特にリチウムを含む原料については、焼成中に一部が揮発することが知られている。これに対しては、通常、焼成前にリチウムを含む原料を化学量論比よりも多めに仕込むことにより、Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物を合成する。
本発明は、その技術思想又は主要な特徴から逸脱することなく実施することができるものであって、得られたFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の組成が上述した一般式と厳密に一致しないことのみをもって本発明の範囲に属さないものと解釈してはならないことはいうまでもない。
【0041】
Liを含む原料としては、例えば、炭酸リチウム(Li
2CO
3)、水酸化リチウム(LiOH)、硝酸リチウム(LiNO
3)、酢酸リチウム(CH
3COOLi)等が用いられる。
リン酸源としては、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等が用いられる。
また、Liを含むリン酸源としては、例えば、リン酸リチウム(Li
3PO
4)、リン酸二水素リチウム(LiH
2PO
4)等が用いられ得る。
Vを含む原料としては、通常、五酸化バナジウム(V
2O
5)が用いられ、他にも例えば、V
2O
3等の低酸化状態のバナジウム酸化物、又はバナジン酸アンモニウム等が用いられ得る。
Feを含む原料としては、例えば、酢酸鉄、硝酸鉄、乳酸鉄等が使用できる。
なお、液相法、ゾルゲル法等の水溶液系の合成方法においては、金属源として用いる化合物は、水に溶解するものが好ましい。水に溶解しない又は溶解しにくい化合物を金属源として用いる場合は、混合順序を変更したり、あらかじめそれぞれの原料を精製水などに溶解させたりすることが好ましい。
【0042】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子表面にカーボンを付着させる方法、さらには、該粒子表面をカーボンで被覆する方法としては、特に限定されず、具体的には、例えば、Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子とカーボンとを混合する方法等の機械的な方法を採用することができる。斯かる方法において用いるカーボンとしては、アセチレンブラックなどが挙げられる。
【0043】
また、前記粒子表面にカーボンを付着させる方法としては、固体状有機物、液体状有機物、又はガス状有機物などの有機物と、Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子とを熱処理する方法を採用することができる。また、昇温雰囲気中にFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子を載置し、ガス状有機物を導入することによって粒子表面にカーボンを析出並びに気相成長させる方法を採用しても良い。
前記熱処理の温度は、前記ガス状有機物などの有機物が熱分解する温度以上であることを要する。また、前記熱処理の温度は、前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子が成長する温度以下であることが好ましい。
【0044】
前記固体状有機物としては、例えば、ショ糖、ポリビニルアルコール、アセチレンブラック等が挙げられる。
前記液体状有機物としては、例えば、液状のポリエチレングリコール等が挙げられる。
前記ガス状有機物としては、例えば、気化したメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の1価アルコールやエチレンガス、プロピレンガス等が挙げられる。
なお、前記熱処理においては、例えば、ショ糖などの前記固体状有機物を水等の溶媒に溶解させた溶液を用いて、粒子表面にカーボンを付着させることができる。
【0045】
一方、水熱法又はゾルゲル法においては、酸化防止の目的で水浴中にクエン酸、アスコルビン酸等の有機物を添加することができる。水熱法又はゾルゲル法においては、Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子表面に前記有機物に由来するカーボンを付着させること、さらには、粒子表面を前記有機物に由来するカーボンで被覆させることができることから、カーボンが粒子表面に付着した正極活物質を得ることができる。斯かる正極活物質には、加えて、上述したようなガス状有機物などの有機物を用いた熱処理を施しても良い。以上の合成方法については、例えば、国際公開第2007/043665号パンフレットの各実施例、各比較例が参考になる。
【0046】
前記Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物の粒子は、粉砕機や分級機などを用いることにより、所定の大きさのものになり得る。
前記粉砕機としては、具体的には例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミル等を用いることができる。粉砕方法としては、水、又は、アルコールやヘキサン等の有機溶剤の存在下で行う湿式粉砕方法を採用してもよい。
前記分級機としては、具体的には例えば、篩や風力分級機等を用いることができる。分級方法としては、特に限定されず、乾式又は湿式にて篩や風力分級機等を用いて分級する方法などを採用できる。
【0047】
続いて、本発明の非水電解質二次電池の実施形態について詳しく説明する。
【0048】
本実施形態の非水電解質二次電池は、前記非水電解質二次電池用正極活物質を含む正極と、負極と、電解質塩及び非水溶媒を含有する非水電解質とを備えたものである。
具体的には、前記非水電解質二次電池は、例えば、前記正極活物質と正極集電体とを含む正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出できる負極活物質と負極集電体とを含む負極と、セパレータと、電解質塩及び非水溶媒を含有する非水電解質とにより構成されている。
【0049】
前記非水電解質二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池などが挙げられる。斯かるリチウムイオン二次電池を例に挙げて、さらに詳しく説明する。
【0050】
前記正極においては、本発明の効果を損なわない範囲で、前記正極活物質以外の他の正極材料と前記正極材料とを混合したものを用いることができる。
【0051】
上記の他の正極材料としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。また、結着剤、増粘剤等が挙げられる。
【0052】
前記遷移金属酸化物としては、例えば、マンガン酸化物、鉄酸化物、銅酸化物、ニッケル酸化物、バナジウム酸化物等が挙げられる。
前記遷移金属硫化物としては、例えば、モリブデン硫化物、チタン硫化物等が挙げられる。
前記リチウム遷移金属複合酸化物としては、例えば、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、リチウムニッケルマンガン複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物等が挙げられる。
前記結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーの1種単独物、又は2種以上の混合物などが挙げられる。
前記増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類の1種単独物、又は2種以上の混合物などが挙げられる。
【0053】
上記の他の正極材料としては、さらに、ジスルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラスチレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、又は、擬グラファイト構造炭素質材料等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
前記正極を構成する正極集電体の材料としては、特に限定されず、公知の一般的なものが挙げられる。具体的には、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、タンタル等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料が挙げられる。なかでもアルミニウムがより好ましい。
【0055】
前記負極に含まれる負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なものであれば、特に限定されず、例えば、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、リチウム複合酸化物などの金属複合酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、リチウムと合金形成可能なSnやSi等の金属などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて任意の比率で併用しても良い。なかでも、負極活物質としては、安全性の点で、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が好ましい。
【0056】
前記負極の炭素質材料としては、天然グラファイト、人造グラファイト、コークス類、難黒鉛化性炭素、低温焼成易黒鉛化性炭素、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、活性炭等が挙げられる。
【0057】
前記負極を構成する負極集電体の材料としては、公知の一般的なものが挙げられる。具体的には、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。なかでも、加工し易いという点及び比較的低コストであるという点で、銅が好ましい。
【0058】
前記非水電解質に含まれている非水溶媒としては、特に限定されず、例えば、一般的にリチウムイオン二次電池の非水電解質において用いられる非水溶媒(有機溶媒)が挙げられる。
【0059】
該非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等の環状カーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピオラクトン等の環状カルボン酸エステル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジフェニルカーボネート等の鎖状カーボネート、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状カルボン酸エステル、テトラヒドロフランまたはその誘導体、1,3−ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジオキサランまたはその誘導体等が挙げられる。
前記非水溶媒としては、上記の1種単独物または2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、前記非水溶媒としては、上記の2種以上を任意の割合で混合したものを用いることができる。
【0060】
前記非水電解質に含まれている電解質塩としては、特に限定されず、具体的には例えば、一般的にリチウムイオン二次電池に用いられ、広電位領域において安定であるリチウム塩が挙げられる。
【0061】
前記リチウム塩としては、具体的には例えば、LiBF
4、LiPF
6、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、LiN(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)、LiC(CF
3SO
2)
3、LiC(C
2F
5SO
2)
3 等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
前記非水電解質における電解質塩の濃度は、高率放電特性を有する電池をより確実に得ることができるという点で、0.1mol/l〜5.0mol/lであることが好ましく、0.8mol/l〜2.0mol/lであることがさらに好ましい。
【0063】
前記非水電解質は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記非水溶媒や電解質塩以外の他の非水電解質成分を含有し得る。
斯かる他の非水電解質成分としては、例えば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等の過充電防止剤;ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物等の負極被膜形成剤;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド等の正極保護剤等が挙げられる。
【0064】
前記非水電解質においては、上記の他の非水電解質成分の2種以上が併用されていてもよく、負極被膜形成剤と正極保護剤とが併用されていてもよい。好ましくは、過充電防止剤と負極被膜形成剤と正極保護剤とが併用されている。
【0065】
前記非水電解質においては、上記の他の非水電解質成分の含有割合が、特に限定されないが、他の非水電解質成分のそれぞれが0.01質量%以上含まれていることが好ましく、0.1質量%以上含まれていることがより好ましく、0.2質量%以上含まれていることが更に好ましい。また、5質量%以下含まれていることが好ましく、3質量%以下含まれていることがより好ましく、2質量%以下含まれていることが更に好ましい。上記の他の非水電解質成分が前記非水電解質に含まれていることにより、電池の安全性がより優れたものになり、高温保存後の容量維持性能やサイクル性能がより優れたものになり得る。
【0066】
前記セパレータとしては、微多孔性膜や不織布等の1種を単独で用いたもの、これらの2種以上を併用したものなどが挙げられる。
前記セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
前記セパレータとしては、ポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂を主成分とする微多孔性膜で構成されたものが好ましい。
【0067】
前記電池を構成するものとしては、他にも、端子、絶縁板、電池ケース等の部品が挙げられる。これらの部品としては、従来公知の一般的なものを用いることができる。
【0068】
前記非水電解質二次電池は、従来公知の一般的な方法によって製造することができる。具体的には、例えば、実施例に記載された方法などによって製造することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではない。
【0070】
正極活物質の合成においては、クエン酸を用いたゾルゲル法を採用した。クエン酸によって錯形成を促すことによって、前駆体溶液を均一に混合することが可能となり、リン酸バナジウムリチウム化合物の一次粒子を小さくすることができる。また、クエン酸は、後述する焼成によってカーボンになり、カーボンが一次粒子表面に付着する。なお、合成の方法としては、ゾルゲル法に限定されず、固相法、水熱法などを採用してもよい。
【0071】
(
参考例1)
[Li
3V
1.96Fe
0.04(PO
4)
3の合成]
鉄源である乳酸鉄・三水和物は、あらかじめ精製水10mlに溶解させておいた。リチウム源としての水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H
2O)、バナジウム源としての五酸化バナジウム(V
2O
5)、あらかじめ作製しておいた乳酸鉄・三水和物の水溶液、酸化防止剤兼カーボン源としてのクエン酸・一水和物、及び、リン酸源としてのリン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)を、この順で精製水50mlに加えていき、逐次溶解したことを確認してから次の原料を加えた。仕込み比率は、モル比でLiOH・H
2O:V
2O
5:乳酸鉄・三水和物:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:0.98:0.04:1.5:3とし、前駆体溶液中のLiOHの濃度が1mol/lとなるように調整した。
この溶液をマグネティックスターラー付きホットプレートで蒸発乾固した。乾固した前駆体を自動乳鉢で粉砕し、アルミナ製の匣鉢(外形寸法90×90×50mm)に入れ、雰囲気置換式焼成炉(デンケン社製卓上真空ガス置換炉KDF−75、容積2.4l)を用いて、窒素ガスの流通下(流速1.0l/min)で仮焼成及び本焼成を行った。
仮焼成においては、焼成温度を350℃とし、焼成時間(前記焼成温度を維持する時間)を3時間とし、降温を行わなかった。続く本焼成においては、焼成温度を850℃とし、焼成時間を6時間とした。いずれの焼成においても、昇温速度を5℃/分とした。また、本焼成の降温を自然放冷とし、焼成後の生成物の酸化を避けるために、炉の温度が50℃以下まで下がってから焼成生成物を取り出した。なお、窒素ガスは、試料を炉内に導入したのち、昇温時から取り出す際まで常に流通させ続けた。
次に、焼成生成物を自動乳鉢で1時間粉砕することによって、最大二次粒子径が50μm以下の粉砕物を作製した。二次粒子径は、液相沈降法による粒度分布測定により求めた。この粉砕物においては、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により、Li
3V
1.98Fe
0.02(PO
4)
3の一次粒子の表面にクエン酸由来のカーボンが付着し、該カーボンが粒子表面を被覆していることが確認された。以下の実施例、比較例においても、同様なカーボンが確認された。
このようにして製造した正極活物質を
参考例活物質a1とする。
【0072】
(実施例
1)
[Li
3V
1.8Fe
0.2(PO
4)
3の合成]
仕込み比率を、モル比でLiOH・H
2O:V
2O
5:乳酸鉄・三水和物:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:0.9:0.2:1.5:3とした点以外は、
参考例1と同様にしてFeを含むリン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を実施例活物質a2とする。
【0073】
(
参考例2)
[Li
3V
1.88Fe
0.06Al
0.06(PO
4)
3の合成]
水酸化リチウム・一水和物(LiOH・H
2O)を精製水50mlに加えた後、五酸化バナジウム(V
2O
5)を加える前に、金属アルミニウム(Al)を加えた点、また、仕込み比率をモル比でLiOH・H
2O:Al:V
2O
5:乳酸鉄・三水和物:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:0.06:0.94:0.06:1.5:3とした点以外は、
参考例1と同様にしてFe及びAl含有リン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を
参考例活物質a3とする。
【0074】
(実施例
2)
[Li
3V
1.8Fe
0.1Al
0.1(PO
4)
3の合成]
仕込み比率を、モル比でLiOH・H
2O:Al:V
2O
5:乳酸鉄・三水和物:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:0.1:0.9:0.1:1.5:3とした点以外は、
参考例2と同様にしてFe及びAl含有リン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を実施例活物質a4とする。
【0075】
(比較例1)
[Li
3V
2(PO
4)
3の合成]
原料に鉄源である乳酸鉄・三水和物を加えなかった点、また、仕込み比率をモル比でLiOH・H
2O:V
2O
5:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:1:1.5:3とした点以外は、実施例1と同様にしてリン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を比較例活物質b1とする。
【0076】
(比較例2)
[Li
3V
1.98Fe
0.02(PO
4)
3の合成]
仕込み比率を、モル比でLiOH・H
2O:V
2O
5:乳酸鉄・三水和物:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:0.99:0.02:1.5:3とした点以外は、実施例1と同様にしてFeを含むリン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を比較例活物質b2とする。
【0077】
(比較例3)
[Li
3V
1.96Fe
0.02Al
0.02(PO
4)
3の合成]
仕込み比率を、モル比でLiOH・H
2O:Al:V
2O
5:乳酸鉄・三水和物:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:0.02:0.98:0.02:1.5:3とした点以外は、実施例3と同様にしてFe,Al含有リン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を比較例活物質b3とする。
【0078】
(比較例4)
[Li
3V
1.96Al
0.04(PO
4)
3の合成]
原料に鉄源である乳酸鉄・三水和物を加えなかった点、また、仕込み比率をモル比でLiOH・H
2O:Al:V
2O
5:クエン酸・一水和物:NH
4H
2PO
4=3.03:0.04:0.98:1.5:3になるように原料を混合した点以外は、実施例3と同様にしてAl含有リン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を比較例活物質b4とする。
【0079】
(比較例5)
[Li
3V
1.96Cr
0.04(PO
4)
3の合成]
乳酸鉄・三水和物の代わりに酢酸クロム・n水和物(Cr含有量は21〜24質量%)を用いた点以外は、実施例1と同様にしてCr含有リン酸バナジウムリチウムを合成した。このようにして製造した正極活物質を比較例活物質b5とする。
【0080】
各実施例及び各比較例において合成した全ての活物質は、CuKα線を用いたエックス線回折(XRD)測定によって、Li
3V
2(PO
4)
3を主として含むナシコン型構造を主相とするものであることを確認した。バナジウムと鉄との原子数の和に対する鉄の原子数の割合が10%の活物質では、オリビン型構造を有するLiFePO
4に由来するピークも観測された。実施例
1及び比較例1で製造した正極活物質のXRDパターンを
図1に示す。
【0081】
(正極の作製)
実施例活物質a1と、導電剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを実施例活物質a1:アセチレンブラック:PVdF=82:10:8の質量比で含有し、さらにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶媒として含有する正極ペーストを調製した。
該正極ペーストを、アルミ端子を取り付けたアルミニウムメッシュ集電体上の両面に塗布し、80℃でNMPを除去した。その後、塗布部分同士が二重に重なり塗布部分の投影面積が半分になるように折り曲げ、折り曲げた後の厚みが400μmになるようにプレス加工を行った。折り曲げた後の活物質の塗布面積は、2.25cm
2であり、塗布質量は、0.071gであった。そして、150℃で5時間以上の減圧乾燥を行い、極板中の水分を除去して正極を作製した。
同様にして、実施例活物質a2〜a4、及び、比較例活物質b1〜b5のそれぞれを用いて、正極を作製した。
【0082】
(負極の作製)
ステンレス鋼(品名:SUS316)製の端子を取り付けたステンレス鋼(品名:SUS316)製のメッシュ集電体の両面に、厚さ300μmのリチウム金属箔を貼り合わせてプレス加工することにより負極を作製した。
【0083】
(参照極の作製)
厚さ300μmのリチウム金属箔をステンレス鋼(品名:SUS316)製の集電棒に貼り付けることにより参照極を作製した。
【0084】
(電解液の調製)
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比1:1:1の割合で混合した混合非水溶媒に、含フッ素系電解質塩であるLiPF
6を1.0mol/lの濃度になるように溶解させ、非水電解質を調製した。該非水電解質は、含有水分量が50ppm未満になるように調製した。
【0085】
(リチウムイオン二次電池の製造)
実施例1〜4、比較例1〜5のそれぞれの正極活物質を使って作製した正極を用いて、下記の手順に従ってリチウムイオン二次電池を製造した。
即ち、露点−40℃以下のArボックス中においてガラス製のリチウムイオン二次電池を製造した。詳しくは、予め容器の蓋部分に導線部を固定した金メッキクリップに正極と負極と参照極とを各1枚ずつ挟んだ後、正極及び負極が対向するように固定した。参照極は負極から見て正極の裏側となる位置に固定した。次に、一定量の電解液を入れたポリプロピレン製カップをガラス容器内に設置し、そこに正極、負極及び参照極が浸かるように蓋をすることで電池を製造した。
【0086】
(実施例電池、
参考例電池A1〜A4、比較例電池B1〜B5)
実施例活物質
、参考例活物質a1〜a4を含む正極を用いたリチウムイオン二次電池を、実施例電池
、参考例電池A1〜A4とし、また、比較例活物質b1〜b5を含む正極を用いたリチウムイオン二次電池を、比較例電池B1〜B5とする。
【0087】
また、Fe含有量が比較的多い正極活物質において、LiFePO
4が副生したことから、LiFePO
4がサイクル性能に与える影響を調査するために、Li
3V
2(PO
4)
3粒子とLiFePO
4粒子とを単に混合した正極活物質を用いて正極を作製した。さらに、該正極を備えた比較例電池C1〜C4の各リチウムイオン二次電池を製造した。比較例電池C1〜C4の詳細を下記に示す。
【0088】
(比較例電池C1)
正極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3とLiFePO
4とを質量比98:2で混合したものを用いた点以外は、
参考例電池A1と同様にして、比較例電池C1を製造した。
【0089】
(比較例電池C2)
正極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3とLiFePO
4とを質量比95:5で混合したものを用いた点以外は、
参考例電池A1と同様にして、比較例電池C2を製造した。
【0090】
(比較例電池C3)
正極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3とLiFePO
4とを質量比90:10で混合したものを用いた点以外は、
参考例電池A1と同様にして、比較例電池C3を製造した。
【0091】
(比較例電池C4)
正極活物質としてLi
3V
2(PO
4)
3とLiFePO
4とを質量比85:15で混合したものを用いた点以外は、
参考例電池A1と同様にして、比較例電池C4を製造した。
【0092】
<サイクル性能試験>
上記のようにして作製した実施例電池
、参考例電池A1〜A4、比較例電池B1〜B5、及び、比較例電池C1〜C4を、温度25℃における50サイクルのサイクル性能試験に供した。充電条件は、電流9mA、電圧4.5V、2時間の定電流定電圧充電とし、放電条件は、電流9mA、終止電圧2.7Vの定電流放電とした。1サイクル目に得られた放電容量を初期容量とし、50サイクル目の放電容量を1サイクル目の放電容量で除することにより、サイクル容量維持率を求めた。その結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、Li
3V
2(PO
4)
3を用いた比較例電池B1に比べて、バナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対するFeの原子数の割合が2%以上であるFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物を用いた
参考例電池A1及び
実施例電池A2は、優れたサイクル容量維持率を示した。また、アルミニウム(Al)をさらに含みバナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対するFeの原子数の割合が3%以上である化合物を用いた
参考例電池A3及び
実施例電池A4も、サイクル容量維持率が優れた値となった。
一方、バナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対するFeの原子数の割合が1%である化合物を用いた比較例電池B2及びB3では、サイクル性能が必ずしも十分でなかった。このことから、Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物においては、バナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対するFeの原子数の割合が2%以上であることが、サイクル性能の向上に有効であることがわかった。
【0095】
また、表1における
参考例電池A1と実施例電池A2との比較、及び、
参考例電池A3と実施例電池A4との比較によって示されるように、Feの含有量が多くなることにより、サイクル容量維持率が高まることが認識されるが、一方で、放電容量が低下することが認識される。このことから、高い放電容量と優れたサイクル性能を両立させるためには、バナジウム(V)と鉄(Fe)との原子数の和に対するFeの原子数の割合が20%以下であることを要するといえる。また、Fe原子数の斯かる割合が10%以下であることがより好ましいと考えられる。
【0096】
また、Feを含有せずAl又はCrを含有するリン酸バナジウムリチウム化合物を正極に用いた比較例電池B4及びB5は、Fe、Al及びCrのいずれも含有しないLi
3V
2(PO
4)
3を用いた比較例電池B1と同程度のサイクル容量維持率を示した。このことから、サイクル性能を優れたものにするためには、リン酸バナジウムリチウム化合物にさらに含有させる元素としてFeを選択することが必要であることが明らかになった。
【0097】
金属元素としてリチウム(Li)とバナジウム(V)と鉄(Fe)とを含むFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物がサイクル性能に優れている理由は、完全に解明されているわけではないが、ナシコン型構造を有するリン酸バナジウムリチウム化合物のバナジウムの一部が鉄と置換することによって、リチウムイオンの吸蔵及び放出に伴う結晶の体積変化が抑制されていることによると推測される。
また、リン酸バナジウムリチウム化合物がさらに鉄を含有することにより、粒子表面の活性が変化するため、電解液の酸化分解が起こりにくくなることから、サイクル性能が優れたものになるとも考えられる。また、リン酸バナジウムリチウム化合物がさらに鉄を含有することにより、酸化分解を抑制する被膜が形成されるため、サイクル性能が優れたものになるとも考えられる。又は、正極で生成した酸化分解物が負極に影響を与えサイクル性能に寄与している可能性もある。
【0098】
さらに、Feの含有量が比較的多い活物質においては、
図1に示すように、エックス線回折(XRD)測定によって、オリビン型構造を有するLiFePO
4が副生成物として確認された。これに伴い、LiFePO
4の存在がサイクル性能に与える影響を調査した(比較例電池C1〜C4)。その結果、比較例電池C1〜C4に示されるように、Li
3V
2(PO
4)
3とLiFePO
4とを混合しただけでは、サイクル性能に変化が見られなかった。従って、活物質中に単に混在するLiFePO
4は、サイクル性能に影響を及ぼさず、結晶中に固溶したFeによって、サイクル性能が優れたものになると推測される。又は、LiFePO
4の相が、Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物を主相とする一次粒子内に部分的に生成することによって、活物質に含まれている結晶の構造変化が抑制されている可能性もある。
【0099】
図1のXRDパターンにおいて、オリビン型構造を有するLiFePO
4に起因する主なピークについて説明する。主なピークは2θ=17.1°,20.8°,25.5°,29.7°,32.2°,35.5°付近に観察される。一方、ナシコン型構造を有するFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物に起因する主なピークは、2θ=16.3°,20.6°,23.0°,24.2°,26.4°,27.4°,29.3°,32.0°,33.0°,33.6°,36.2°付近に観察される。なお、
図1の上側のXRDパターンにおいては、それぞれの化合物に起因するピークの一部が重複している。
【0100】
以上のことから、ナシコン型構造を有するFe含有リン酸バナジウムリチウム化合物において、バナジウムと鉄との原子数の和に対する鉄の原子数の割合が2%以上20%以下であることにより、該Fe含有リン酸バナジウムリチウム化合物を含む正極活物質は、サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を提供できる。