特許第5761645号(P5761645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761645ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761645
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20150723BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20150723BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20150723BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20150723BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20150723BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20150723BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C08L71/12
   C08K3/04
   C08K3/26
   C08K3/30
   C08L25/04
   C08L21/00
   C08K5/49
【請求項の数】12
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2012-533937(P2012-533937)
(86)(22)【出願日】2011年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2011069679
(87)【国際公開番号】WO2012035976
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2013年12月26日
(31)【優先権主張番号】特願2010-208126(P2010-208126)
(32)【優先日】2010年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】則包 博
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−096142(JP,A)
【文献】 特開2002−309102(JP,A)
【文献】 特開2011−108802(JP,A)
【文献】 特開2003−147200(JP,A)
【文献】 特開2004−155928(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/047122(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)を主成分とする樹脂成分(A)100重量部に対して、カーボンブラック(B)0.01〜5重量部と、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩(C)0.1〜20重量部とを含有してなり、次の諸性質を備えることを特徴とするポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
(a)IEC60112規格に準拠して測定される、厚み3mmにおける比較トラッキング指数(CTI)が250V以上である。
(b)ISO179規格に準拠して測定される、23℃におけるノッチ付きシャルピー衝撃強度が7kJ/m以上である。
(c)UL94規格に準拠して測定される、厚み0.75mmにおける難燃性がV−0である。
(d)JIS Z−8722規格に準拠して測定されるL値が10以下である。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩(C)が、炭酸カルシウム及び/又は硫酸バリウムであることを特徴とする、請求項1に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂成分(A)がポリフェニレンエーテル樹脂(a1)とスチレン系樹脂(a2)とを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂成分(A)が、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)85〜100重量%と、スチレン系樹脂(a2)0〜15重量%とを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、リン系難燃剤(D)を、前記樹脂成分(A)100重量部に対して1〜30重量部含有してなることを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項6】
さらに、難燃助剤(E)を、前記樹脂成分(A)100重量部に対して0.01〜3重量部含有してなることを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、エラストマー(F)を、前記樹脂成分(A)100重量部に対して1〜20重量部含有してなることを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)が、重量平均分子量500,000以上のポリフェニレンエーテル樹脂を0.1〜5重量%含有することを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項9】
前記カーボンブラック(B)が、平均一次粒子径5〜30nm、DBP吸油量20〜60cm/100gのものであることを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項10】
太陽光発電モジュール用接続構造体に用いられることを特徴とする、請求項1ないしのいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形品。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれか1項に記載のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を成形してなることを特徴とするジャンクションボックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及びその成形品に関する。詳しくは、黒色に着色させると共に耐候性の改善のためにカーボンブラックを配合したポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、耐トラッキング性を高めたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護や省エネルギーの要請から、建物の屋根等の外被部分に、太陽の光エネルギーを電気に変換する太陽光発電モジュールを設置し、自然エネルギーである太陽光のエネルギーを電力に変換して、当該建物内の電力源として利用するとともに、余剰の電力を売電する技術が実用化されている。
【0003】
太陽光発電モジュールには、その電気を有用な形で取り出すため、モジュール間のケーブルを接続するためのジャンクションボックスやコネクタといった接続構造体が、モジュール毎に設けられている。この太陽光発電モジュール用接続構造体には、構造体としての機械的強度はもちろんのこと、更に、次のような特性が要求される。
【0004】
(1) 耐熱性に優れる。
ジャンクションボックス内には、バイパスダイオード等が配置され、太陽光発電モジュールの表面に部分的な影がかかったり、電池セルが故障してモジュールの出力が低下したりする場合でも、その影響を最小限に抑える工夫がなされているが、その際、バイパスダイオードが発熱するため、ジャンクションボックス全体が耐熱性を有することが求められる。
【0005】
(2) 耐衝撃性に優れる。
ジャンクションボックスは、太陽光発電モジュールの付属部品として、屋根上等の屋外に設置されることもあるため、飛来物に対する耐衝撃性を有することが求められ、特に低温時においても耐衝撃性を有することが求められる。太陽光発電モジュール用コネクタについてもジャンクションボックスと同様に耐衝撃性が求められている。
【0006】
(3) 耐候性に優れる。
ジャンクションボックス等の太陽光発電モジュール部品は、屋外に設けられる場合が多く、紫外線や風雨、外気温の変化に対する耐候性、耐久性が求められる。
【0007】
(4) 耐トラッキング性に優れる。
ジャンクションボックス内の配線のショート等を防止するために耐トラッキング性(絶縁性)に優れることが求められる。
【0008】
また、建物に設置されることから、これらの構造体の存在を目立ち難くし、また、耐候性向上のために、一般的には黒色であること、更には難燃性も要求される。
【0009】
ところで、ポリフェニレンエーテル樹脂は、耐熱性、電気特性、耐酸、耐アルカリ性等に優れ、しかも低比重、低吸水性である等の優れた特性を有する樹脂であることから、各種の構造体の成形材料として広く用いられており、実用上、ポリフェニレンエーテル樹脂の成形加工性や耐衝撃性の改良を目的として、スチレン系樹脂との複合樹脂組成物としたものが使用されている。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の難燃性を高めるために、ポリフェニレンエーテル樹脂/スチレン系樹脂複合組成物にリン酸エステル系難燃剤を配合したものも提供されている(例えば特許文献1)。
【0010】
しかしながら、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を太陽光発電モジュール用接続構造体の成形材料として適用する場合、耐熱性、耐衝撃性等の熱的、機械的要求特性等は満たし得るものの、耐候性が不足する。
ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物にカーボンブラックを配合すると黒色に着色することができ、また、着色の付与で耐紫外線性等の耐候性も高められることが知られているが、カーボンブラックを配合した場合には耐トラッキング性が低下する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−143958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性等の機械的特性に優れると共に、黒色度が高く耐候性に優れ、更には耐トラッキング性にも優れたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及びその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カーボンブラックを含むポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩を所定の割合で配合することにより、耐トラッキング性、更には耐衝撃性をも改善することができることを見出した。
【0014】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0015】
第1態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)を主成分とする樹脂成分(A)100重量部に対して、カーボンブラック(B)0.01〜5重量部と、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩(C)0.1〜20重量部とを含有してなり、次の諸性質を備えることを特徴とする。
【0016】
a)IEC60112規格に準拠して測定される、厚み3mmにおける比較トラッキング指数(CTI)が250V以上である。
(b)ISO179規格に準拠して測定される、23℃におけるノッチ付きシャルピー衝撃強度が7kJ/m以上である。
(c)UL94規格に準拠して測定される、厚み0.75mmにおける難燃性がV−0である。
(d)JIS Z−8722規格に準拠して測定されるL値が10以下である。
【0017】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、前記アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩(C)が、炭酸カルシウム及び/又は硫酸バリウムであることを特徴とする。
【0018】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様又は様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、前記樹脂成分(A)がポリフェニレンエーテル樹脂(a1)とスチレン系樹脂(a2)とを含むことを特徴とする。
【0019】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様又は様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、前記樹脂成分(A)が、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)85〜100重量%と、スチレン系樹脂(a2)0〜15重量%とを含むことを特徴とする。
【0020】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様〜第態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、さらに、リン系難燃剤(D)を、前記樹脂成分(A)100重量部に対して1〜30重量部含有してなることを特徴とする。
【0021】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様〜第態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、さらに、難燃助剤(E)を、前記樹脂成分(A)100重量部に対して0.01〜3重量部含有してなることを特徴とする。
【0022】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様〜第態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、さらに、エラストマー(F)を、前記樹脂成分(A)100重量部に対して1〜20重量部含有してなることを特徴とする。
【0023】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様〜第態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、前記ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)が、重量平均分子量500,000以上のポリフェニレンエーテル樹脂を0.1〜5重量%含有することを特徴とする。
【0024】
態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様〜第態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、前記カーボンブラック(B)が、平均一次粒子径5〜30nm、DBP吸油量20〜60cm/100gのものであることを特徴とする。
【0025】
10態様のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、第1態様〜第態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物において、太陽光発電モジュール用接続構造体に用いられることを特徴とする。
【0026】
11態様の成型品は、第1態様〜第10態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
【0027】
12態様のジャンクションボックスは、第1態様〜第10態様のいずれかのポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を成形してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、耐熱性、耐衝撃性等の機械的特性に優れると共に、黒色度が高く耐候性に優れ、更には耐トラッキング性にも優れたポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及びその成形品が提供される。
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、その優れた耐熱性、黒色性、耐候性、耐衝撃性等の機械的特性、耐トラッキング性から、特にジャンクションボックスやコネクタ等の太陽光発電モジュール用接続構造体といった太陽電池用部品の成形材料として有効に用いることができる。ただし、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、何ら太陽電池用部品に限定されることなく、その他自動車用部品、電気・電子・OA機器用部品、建築用部品等、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は幅広い分野において各種用途に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
〔ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物〕
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)を主成分とする樹脂成分(A)100重量部に対して、カーボンブラック(B)0.01〜5重量部と、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩(C)0.1〜20重量部とを含有してなることを特徴とする。
【0031】
[樹脂成分(A)]
本発明に係る樹脂成分(A)は、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)を主成分とするものであり、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)のみ、或いは、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)の流動性、成形性等の改善を目的としてその他の配合樹脂を配合してなるものである。この配合樹脂としてはスチレン系樹脂(a2)が好ましい。
なお、ここで「主成分」とは、全成分中の50重量%以上を占める成分をさす。
【0032】
<ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)>
本発明で用いるポリフェニレンエーテル樹脂(a1)は、下記一般式(1)で表される構造単位を主鎖に有する重合体であって、単独重合体又は共重合体の何れであっても良い。
【0033】
【化1】
【0034】
(式中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、第1級若しくは第2級アルキル基、アリール基、アミノアルキル基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基、又はハロ炭化水素オキシ基を表し、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、第1級若しくは第2級アルキル基、アリール基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基、又はハロ炭化水素オキシ基を表す。ただし、2つのRがともに水素原子になることはない。)
【0035】
及びRとしては、水素原子、第1級若しくは第2級アルキル基、アリール基が好ましい。第1級アルキル基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−アミル基、イソアミル基、2−メチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−、3−若しくは4−メチルペンチル基又はヘプチル基が挙げられる。第2級アルキル基の好適な例としては、例えば、イソプロピル基、sec−ブチル基又は1−エチルプロピル基が挙げられる。特に、Rは第1級若しくは第2級の炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であることが好ましい。Rは水素原子であることが好ましい。
【0036】
好適なポリフェニレンエーテル樹脂の単独重合体としては、例えば、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジプロピル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−エチル−6−メチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−プロピル−1,4−フェニレンエーテル)等の2,6−ジアルキルフェニレンエーテルの重合体が挙げられる。共重合体としては、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノール共重合体、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリエチルフェノール共重合体、2,6−ジエチルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノール共重合体、2,6−ジプロピルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノール共重合体等の2,6−ジアルキルフェノール/2,3,6−トリアルキルフェノール共重合体、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)にスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノール共重合体にスチレンをグラフト重合させたグラフト共重合体等が挙げられる。
【0037】
本発明におけるポリフェニレンエーテル樹脂(a1)としては、特に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノール/2,3,6−トリメチルフェノールランダム共重合体が好ましい。また、特開2005−344065号公報に記載されているような末端基数と銅含有率を規定したポリフェニレンエーテル樹脂も好適に使用できる。
【0038】
ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)の分子量は、クロロホルム中で測定した30℃の固有粘度が0.2〜0.8dl/gのものが好ましく、0.3〜0.6dl/gのものがより好ましい。固有粘度を0.2dl/g以上とすることにより、樹脂組成物の機械的強度が向上する傾向にあり、0.8dl/g以下とすることにより、流動性が向上し、成形加工が容易になる傾向にある。また、固有粘度の異なる2種以上のポリフェニレンエーテル樹脂を併用して、この固有粘度の範囲としてもよい。
【0039】
また、本発明で用いるポリフェニレンエーテル樹脂(a1)は、分子量が500,000以上、例えば分子量500,000〜800,000程度の高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂を0.1〜5重量%含有することが、成形加工性、耐候性の確保の上で好ましい。この高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量が0.1重量%未満では耐候性の改良効果が小さく、5重量%を超えると成形加工性が低下する。また、このような高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂を含むポリフェニレンエーテル樹脂の重量平均分子量は40,000〜100,000であることが好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂の重量平均分子量が40,000未満では耐薬品性等の物性が低下し、100,000を超えると流動性が低下する。
【0040】
ここで、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)の分子量及び重量平均分子量は、後述の実施例の項に記載される方法で求めることができる。
【0041】
本発明に使用されるポリフェニレンエーテル樹脂(a1)の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って、例えば、2,6−ジメチルフェノール等のモノマーをアミン銅触媒の存在下、酸化重合することにより製造することができ、その際、反応条件を選択することにより、固有粘度及び分子量を所望の範囲に制御することができる。固有粘度及び分子量の制御は、重合温度、重合時間、触媒量等の条件を選択することにより達成できる。
【0042】
また、前述の高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂を含むポリフェニレンエーテル樹脂を製造するには、予め所定の高分子量に製造されたポリフェニレンエーテル樹脂の所定量を混合する方法、ポリフェニレンエーテル樹脂の溶融混練過程において、一部のポリフェニレンエーテル樹脂同士を結合させて高分子量化する方法などを採用することができる。また、この高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂は、ポリフェニレンエーテル樹脂と後述のポリスチレン系樹脂と共重合体であってもよい。このような高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂は、例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂を溶融混練することにより、混練物中に生成させることができる。
【0043】
本発明において、ポリフェニレンエーテル樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0044】
<スチレン系樹脂(a2)>
本発明で用いるスチレン系樹脂(a2)としては、スチレン系単量体の重合体、スチレン系単量体と他の共重合可能な単量体との共重合体及びスチレン系グラフト共重合体等が挙げられる。
【0045】
本発明で使用されるスチレン系樹脂(a2)としては、より具体的には、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)、スチレン・IPN型ゴム共重合体等の樹脂、又は、これらの混合物が挙げられる。さらにシンジオタクティクポリスチレン等のように立体規則性を有するものであってもよい。これらの中でも、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)が好ましい。
【0046】
スチレン系樹脂(a2)の重量平均分子量は、通常、50,000以上であり、好ましくは100,000以上であり、より好ましくは150,000以上であり、また、上限は、通常、500,000以下であり、好ましくは400,000以下であり、より好ましくは300,000以下である。
【0047】
このようなスチレン系樹脂(a2)の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいは塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0048】
本発明において、スチレン系樹脂は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0049】
<含有割合>
本発明に係る樹脂成分(A)は、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)50〜100重量%と、スチレン系樹脂(a2)50〜0重量%からなることが好ましく、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)85〜100重量%と、スチレン系樹脂(a2)15〜0重量%からなることがより好ましい。ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)が50重量%以上であることにより、難燃性、荷重撓み温度及び機械的強度が良好なものとなる。特に、薄肉成形品で高い難燃性が求められる場合は、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)が85重量%以上であることが好ましい。
【0050】
なお、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)、スチレン系樹脂(a2)以外のその他の樹脂を、樹脂成分の一部として用いてもよい。その他の樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。これらその他の樹脂の配合量は、樹脂成分(A)中の50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましく、10重量%であることが特に好ましい。
【0051】
[カーボンブラック(B)]
カーボンブラック(B)は、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に黒色の着色を付与すると共に、耐候性を高めるための成分として配合される。
【0052】
カーボンブラック(B)としては、平均一次粒子径が5〜30nm、さらには10〜25nm、特に10〜20nmで、DBP吸油量が20〜90cm/100g、さらには20〜60cm/100g、特に40〜60cm/100gのものが好ましい。
カーボンブラックの粒子径が上記上限以下であることにより、後述のL値が小さく黒色性が良好となり、成形性、機械的特性が良好なものとなり、耐トラッキング性の低下を抑制しやすい傾向にある。一方、粒子径が上記下限以上であることにより、耐トラッキング性が改善され、また溶融混練時の吐出性が良好となる傾向にある。
また、カーボンブラックのDBP吸油量が上記上限以下であることにより、耐トラッキング性が良好となり、上記下限以上であることにより、L値が小さく黒色性が良好となる傾向にある。
このように、適切な平均一次粒子径、DBP吸油量を有するカーボンブラックを選択することにより、得られるポリフェニレンエーテル系樹脂組成物のL値と耐トラッキング性をバランスよく良好なものとすることができる。
【0053】
なお、カーボンブラックの平均一次粒子径は、ASTM D3849規格(カーボンブラックの標準試験法−電子顕微鏡法による形態的特徴付け)に記載の手順によりアグリゲート拡大画像を取得し、このアグリゲート画像から単位構成粒子として3,000個の粒子径を測定し、算術平均して得られた値であり、DBP吸油量はJIS K6217規格に準拠して測定された値である。
【0054】
カーボンブラック(B)は、1種を単独で用いてもよく、平均一次粒子径やDBP吸油量の異なるものを2種以上併用してもよい。
【0055】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物中のカーボンブラック(B)の含有量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、より好ましくは0.2〜1重量部である。カーボンブラック(B)の含有量が上記下限以上であることにより、カーボンブラック配合による黒色性、耐候性を高めることができ、上記上限以下であることにより、耐トラッキング性の低下を抑制すると共に、成形性、機械的特性の低下を防止することができる。
【0056】
[アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩(C)]
アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩(以下、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩を「(C)成分」と称す場合がある。)は、耐トラッキング性改善のために配合される成分である。本発明においては、(C)成分の配合で、耐トラッキング性が向上し、更に耐衝撃性が大きく低下することがなく、耐トラッキング性と耐衝撃性のバランスに優れた樹脂組成物が得られる。
【0057】
(C)成分のアルカリ土類金属は、周期表第IIa族に含まれる元素の少なくとも1種であるが、好ましくはカルシウム、バリウム、ストロンチウム、マグネシウムであり、カルシウム、バリウムがより好ましい。
【0058】
(C)成分のアルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩としては、特に、耐トラッキング性及び耐衝撃性の改善効果、黒色度の保持等の点から炭酸カルシウム、硫酸バリウムが好ましい。
【0059】
(C)成分の平均粒子径については特に制限はなく、平均粒子径0.05〜3μm程度の市販品を用いることができる。好ましい平均粒子径は、0.05〜1μmである。なお、炭酸カルシウムについては、粒子径の大きいものを使用すると、耐衝撃性の低下、成形品の白化、成形品表面の凹凸といった問題が生じる恐れがあるため、これらの問題を防止するために、炭酸カルシウムの粒子径は、平均粒子径として0.5μm以下、例えば0.05〜0.5μmであることが好ましい。なお、(C)成分の平均粒子径は、粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均粒子径をいう。
【0060】
(C)成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0061】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対して0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜15重量部、より好ましくは1〜12重量部である。(C)成分の含有量が上記下限以上であることにより、耐トラッキング性、更には耐衝撃性の改善効果を十分に得ることができ、上記上限以下であることにより、黒色度の低下を抑制することができる。
【0062】
[リン系難燃剤(D)]
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、難燃性を付与するために難燃剤を配合することができる。難燃剤としては、組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、直鎖状あるいは分岐構造を有するポリオルガノシロキサンなどのシリコーン化合物;パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウム、及びパーフルオロブタン−スルホン酸のテトラエチルアンモニウム塩、3,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4−クロロ−4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジカリウム塩などの有機スルホン酸金属塩;リン系難燃剤(D)が挙げられ、なかでも、リン系難燃剤(D)が好ましい。
リン系難燃剤(D)としては、組成物の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、リン酸エステル化合物が好適である。
【0063】
本発明で用いるリン酸エステル化合物としては、例えば下記式(2)で表されるものが挙げられる。
【0064】
【化2】
【0065】
(式中、R、R、R、Rは互いに独立して、置換されていても良いアリール基を示し、Xは他に置換基を有していても良い2価の芳香族基を示す。nは0〜5の数を示す。)
【0066】
一般式(2)においてR〜Rで示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。またXで示される2価の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基や、例えばビスフェノールから誘導される基等が挙げられる。これらの置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。nが0の場合はリン酸エステルであり、nが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物であっても良い)である。
【0067】
このようなリン酸エステル化合物としては、具体的には、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシノールビスホスフェート、あるいはこれらの置換体、縮合体などを例示できる。
かかる成分として好適に用いることができる市販の縮合リン酸エステル化合物としては、例えば、大八化学工業(株)より、「CR733S」(レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート))、「CR741」(ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート))、(株)ADEKAより「FP500」(レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート))といった商品名で販売されており、容易に入手可能である。特に、CR733Sは、低ガス性で好ましい。
【0068】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物中にリン系難燃剤(D)等の難燃剤を配合する場合、その含有量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対して1〜30重量部、さらには3〜20重量部、特に9〜20重量部であることが好ましい。リン系難燃剤(D)等の難燃剤の含有量が上記下限以上であることにより十分な難燃性改善効果が得られ、上記上限以下であることにより、リン系難燃剤(D)等の難燃剤を配合したことによる耐熱性の低下を抑えることができる。
【0069】
[難燃助剤(E)]
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、難燃性をさらに向上させるために、難燃助剤(E)の1種又は2種以上を配合しても良い。難燃助剤(E)としては、フッ素樹脂、特にポリフルオロエチレンが好ましく、ポリフルオロエチレンの中でもフィブリル形成能を有するもので、樹脂成分中に容易に分散し、且つ樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものが好ましい。
【0070】
また、ポリフルオロエチレンを含有した樹脂組成物を溶融成形した成形品の外観を向上させるためには、有機系重合体で被覆された被覆ポリフルオロエチレンを用いることが好ましい。この被覆ポリフルオロエチレンとしては、被覆ポリフルオロエチレン中のポリフルオロエチレンの含有比率が40〜95重量%、中でも43〜80重量%、更には45〜70重量%、特には47〜60重量%であるものが好ましい。
【0071】
このような被覆ポリフルオロエチレンを配合することにより、良好な難燃性を維持しつつ、成形品表面の白色異物の発生を抑制することができる。被覆ポリフルオロエチレン中のポリフルオロエチレンの含有比率が上記下限以上であると、難燃性の向上効果に優れ、上記上限以下であると、白点異物を低減しやすい傾向にある。
【0072】
また、有機系重合体により被覆されるポリフルオロエチレンとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましく、中でも、重合体中に容易に分散し、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すため、フィブリル形成能を有するものが好ましい。
【0073】
このような被覆ポリフルオロエチレンは、公知の種々の方法により製造することができ、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0074】
ポリフルオロエチレンを被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではないが、樹脂に配合する際の分散性の観点から、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)との親和性が高いものが好ましい。
【0075】
この有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0076】
これらの単量体の中でも、ポリフェニレンエーテル樹脂(a1)との親和性の観点から、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体から選ばれる1種以上の単量体が好ましく、特に(メタ)アクリル酸エステル系単量体が好ましく、これらの単量体を10重量%以上含有する単量体が好ましい。
【0077】
本発明で好ましく使用される被覆ポリフルオロエチレンとしては、例えば三菱レイヨン(株)製のメタブレンA−3800、KA−5503や、PIC社製のPoly TS AD001等がある。
【0078】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物中が難燃助剤(E)を含む場合、その含有量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対して0.01〜3重量部、さらには0.05〜1重量部、特に0.1〜0.7重量部であることが好ましい。難燃助剤(E)の含有量が上記下限以上であると難燃性の改良効果を十分に得ることができ、上記上限以下であると、成形品外観の低下を防止しやすい傾向にある。
【0079】
また、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物中のリン系難燃剤(D)等の難燃剤と難燃助剤(E)の配合比率(リン系難燃剤(D)等の難燃剤/難燃助剤(E)の重量比)は、バランスの良い性能を有する樹脂組成物を得るという点から、通常0.1〜1000であり、更には1〜100、特には2〜60である。
【0080】
[エラストマー(F)]
本発明においては、主に樹脂組成物の耐衝撃性を向上させる目的で、エラストマー(F)の1種又は2種以上を配合してもよい。
【0081】
エラストマー(F)としては、オレフィン系重合体、オレフィン−ビニル系共重合体、及びビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体及びその水素添加物、からなる群より選ばれる少なくとも1種のエラストマーを用いることができる。
これらのエラストマーは、従来から知られている製造方法によって製造することができる。該エラストマーは、ガラス転移温度が0℃以下であるものが好ましく、−5℃以下がより好ましい。エラストマーのガラス転移温度を0℃以下とすることにより、低温時の耐衝撃性を良好とすることができる。
【0082】
<オレフィン系重合体>
エラストマーとして用いられるオレフィン系重合体とは、好ましくは炭素数2〜20のオレフィン系単量体を重合して得られる単独重合体又は共重合体である。
オレフィン系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1等が挙げられ、これらを2種以上併用してもよい。これらの中でもより好ましくは2〜10の直鎖状のオレフィン系単量体であり、さらに好ましいのはエチレン、プロピレン、1−ブテンである。
【0083】
オレフィン系共重合体としては、例えば、エチレン−プロピレン共重合体(EPR)、エチレン−ブテン共重合体(EBR)などが挙げられる。
【0084】
これらのオレフィン系重合体は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0085】
<オレフィン−ビニル系共重合体>
エラストマーとして用いられるオレフィン−ビニル系共重合体とは、オレフィン単量体とビニル系単量体を重合してなる共重合体である。
オレフィン系単量体としては、例えば、上記<オレフィン系重合体>で使用されるものと同様の単量体を使用することができる。
【0086】
ビニル系単量体としては、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル等の不飽和グリシジル基含有化合物、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等の不飽和カルボン酸及びその金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜20のアルキルエステル等の不飽和カルボン酸エステル化合物、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリアルキル酢酸ビニルなどのビニルエステル化合物、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のビニル芳香族化合物等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、不飽和グリシジル基含有化合物、不飽和カルボン酸である。
上記のオレフィン系単量体及びビニル系単量体は、2種以上を併用してもよい。
【0087】
オレフィン−ビニル系共重合体の具体例としては、例えば、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−プロピレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−アクリル酸グリシジル共重合体、プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−g−ポリメタクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−g−ポリスチレン共重合体、エチレン−アクリル酸グリシジル−g−ポリアクリロニトリル−スチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−g−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−g−ポリメタクリル酸メチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−g−ポリスチレン共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル−g−ポリアクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル−g−ポリメタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる(なお、「−g−」はグラフト共重合であることを示し、以下同様である)。中でも、靭性の点から、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体が好ましい。
【0088】
これらのオレフィン−ビニル系共重合体は、2種以上併用することもできる。
【0089】
<ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体及びその水素添加物(以下、「ブロック共重合体及びその水素添加物」と略記することがある。)>
エラストマーとして用いられるブロック共重合体とは、前記スチレン系樹脂以外のエラストマーであって、ビニル芳香族化合物重合体ブロックaと共役ジエン系化合物重合体ブロックbとのブロック共重合体である。また、ブロック共重合体の水素添加物とは、ブロック共重合体に水素添加することによりブロックbの脂肪族不飽和基が減少したブロック共重合体を意味する。ブロックa及びブロックbの配列構造は、線状構造、分岐構造等いずれの構造であってもよい。また、これらの構造のうちで、一部にビニル芳香族化合物と共役ジエン系化合物とのランダム共重合部分に由来するランダム鎖を含んでいてもよい。これら構造の中では、線状構造のものが好ましく、a−b−a型のトリブロック構造のものがより好ましい。上記a−b−a型のブロック共重合体中には、a−b型のジブロック構造のものを含んでいてもよい。これらのブロック共重合体及びその水素添加物は2種以上併用してもよい。
【0090】
ビニル芳香族化合物重合体ブロックaを構成するビニル芳香族化合物としては、好ましくは、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等が挙げられ、より好ましくは、スチレンである。共役ジエン系化合物ブロックbを構成する共役ジエン系化合物としては、好ましくは、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエンが挙げられる。
【0091】
ブロック共重合体及びその水素添加物におけるビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位の占める割合は、10〜70重量%の範囲が好ましく、10〜40重量%の範囲がより好ましく、15〜25重量%の範囲がさらに好ましい。10重量%未満であると、熱安定性が低下するため、樹脂組成物製造及び成形時に酸化劣化を受けやすくなる。70重量%を超えると、耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0092】
また、ブロック共重合体の水素添加物における脂肪族鎖部分のうち、共役ジエン系化合物に由来し、水素添加されずに残存している不飽和結合の割合は、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。ビニル芳香族化合物に由来する芳香族性不飽和結合は、水素添加されていてもよいが、水素添加された芳香族性不飽和結合の割合は、25重量%以下であることが好ましい。
【0093】
ブロック共重合体及びその水素添加物としては、ビニル芳香族化合物重合体ブロックaを構成する単量体がスチレンであり、共役ジエン系化合物重合体ブロックbを構成する単量体である共役ジエン系化合物が、1,3−ブタジエンであるスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、SBSの水素添加物であるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)や、共役ジエン系化合物が2−メチル−1,3−ブタジエンであるスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)等の種々のa−b−a型トリブロック構造のものが市販されており、容易に入手可能である。
【0094】
これらブロック共重合体及びその水素添加物の数平均分子量は、好ましくは50,000〜300,000の範囲である。数平均分子量を50,000以上とすることにより、最終的に得られる樹脂組成物の耐衝撃性と寸法安定性が優れ、さらに、該樹脂組成物から得られる成形品の外観の良好とすることができる。また、数平均分子量を300,000以下とすることにより、最終的に得られる樹脂組成物の流動性が維持され、成形加工が容易になるので好ましい。数平均分子量のより好ましい範囲は55,000〜250,000であり、中でも特に好ましいのは55,000〜220,000である。
【0095】
また、本発明においては、上記エラストマーを、変性剤で変性して用いてもよく、さらにラジカル発生剤を変性剤と同時に配合して変性してもよい。
【0096】
変性剤として用いられる不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物又はその誘導体としては、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、クロロ(無水)マレイン酸、(無水)シトラコン酸、ブテニル(無水)コハク酸、テトラヒドロ(無水)フタル酸、ならびに、これらの酸ハライド、アミド、イミド、炭素数1〜20のアルキル又はグリコールのエステルが挙げられ、具体的には、マレイミド、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル等があげられる。ここで「(無水)」とは、無水不飽和カルボン酸又は不飽和カルボン酸であることを示す。これらの中で好ましくは不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物であり、(無水)マレイン酸又は(無水)イタコン酸がより好ましい。これらの不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物又はその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0097】
ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類、2,2−ビス−t−ブチルパーオキシブタン、2,2−ビス−t−ブチルパーオキシオクタン、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、1,1−ビス−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジベンゾイルパーオキシヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等のパーオキシエステル類、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類が挙げられる。
【0098】
アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)等が挙げられる。
【0099】
これらのラジカル発生剤の中でも特に好ましいのは、寸法安定性や耐衝撃性の点で、10時間での半減期温度が120℃以上のラジカル発生剤である。
【0100】
また、エラストマーとしては、メチルメタアクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS)も好ましく用いることができる。MBSとは、ジエン系ゴム、例えば、ポリブタジエンやブタジエン−スチレン共重合体などのブタジエン系重合体に、メタクリル酸エステル成分および芳香族ビニル成分、さらには所望によりシアン化ビニル成分を、例えば、塊状重合、懸濁重合、塊状・懸濁重合、溶液重合または乳化重合などの方法でグラフト重合させたものである。特に、乳化重合法でグラフト重合させたものが好ましい。ここにブタジエン系重合体の使用量は通常10〜85重量%、好ましくは30〜70重量%であり、ブタジエン系重合体中のブタジエン成分の割合は50重量%以上が好ましい。ブタジエン系重合体の使用量が10重量%未満の場合は、得られる樹脂組成物からの成形品の耐衝撃性が低く、85重量%を超えると樹脂組成物の成形性が低下し好ましくない。
【0101】
MBSを構成するメタクリル酸エステルとしては、炭素数1〜4のアルキルエステルが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましい。また芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、ハロゲン化スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレンなどが例示されるが、特にスチレンが好ましい。またシアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、α−ハロゲン化アクリロニトリルなどが例示され、特にアクリロニトリルが好適である。
【0102】
また、MBSは、MBS100重量部に対し、フェノール系熱安定剤とチオエーテル系熱安定剤とを、フェノール系熱安定剤及びチオエーテル系熱安定剤の合計量が0.1〜4重量部、好ましくは0.5〜3重量部、かつ重量比が1/0〜1/1となるよう含有してなるものである。MBS中でフェノール系熱安定剤の配合率よりチオエーテル系熱安定剤の配合率が高くなると、耐熱着色性、耐熱劣化性が低下する。
【0103】
MBSに配合されるフェノール系熱安定剤としては、フェノール系化合物のOH基の性質を隠蔽した分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物が好ましい。特に、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジターシャリーブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3’ターシャリーブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0104】
また、MBSに配合されるチオエーテル系熱安定剤としては、例えば、ジアルキル−3,3’−チオジプロピオネート、テトラキス[メチレン−3(アルキルチオ)プロピオネート]メタン、ビス[2−メチル−4(3−アルキル−チオプロピオニルオキシ)−5−ターシャリーブチルフェニル]スルフィドが好ましい。
【0105】
フェノール系熱安定剤とチオエーテル系熱安定剤とを特定量、特定比率で含有してなるMBSが乳化重合法で製造される場合には、これらの熱安定剤を同時に或いは別個に乳化分散させ、重合終了時に投入しても良いし、凝固、脱水或いは乾燥工程中に配合してもよい。
【0106】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が、上述のようなエラストマー(F)を含有する場合、その含有量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対して1〜20重量部が好ましく、1〜15重量部がより好ましく、1.5〜10重量部がさらに好ましく、2〜7重量部が特に好ましい。エラストマーの含有量を上記下限以上とすることにより耐衝撃性が優れる傾向にあり、上記上限以下とすることにより難燃性、荷重たわみ温度や硬度の低下を抑制しやすい傾向にある。
【0107】
[その他の添加剤]
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、上記の成分以外に他の各種樹脂添加剤を含有させることができる。
【0108】
<離型剤>
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、離型性を向上させる目的で、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、例えば、ポリオレフィン系ワックス、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、シリコーンオイル等が挙げられる。これらの中でも、ポリオレフィン系ワックスが好ましい。
【0109】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸がさらに好ましい。このような脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラトリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸等を挙げることができる。
【0110】
脂肪族カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸成分としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、脂肪族カルボン酸エステルを構成するアルコール成分としては、飽和又は不飽和の1価アルコール、飽和又は不飽和の多価アルコール等を挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基等の置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、さらに炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0111】
これらのアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらの脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0112】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリスチルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等を挙げることができる。
【0113】
ポリオレフィン系ワックスとしては、オレフィンの単独重合体及び共重合体等が挙げられる。オレフィンの単独重合体としては、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等及びこれらの部分酸化物又はこれらの混合物等が挙げられる。オレフィンの共重合体としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、2−メチルブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1等のα−オレフィン等の共重合体、これらのオレフィンと共重合可能なモノマー、例えば、不飽和カルボン酸又はその酸無水物(無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステル等)等の重合性モノマーとの共重合体等が挙げられる。また、これらの共重合体には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体が含まれる。オレフィン共重合体は、通常、エチレンと、他のオレフィン及び重合性モノマーから選択された少なくとも1種のモノマーとの共重合体である。これらのポリオレフィン系ワックスのうち、ポリエチレンワックスが最も好ましい。なお、ポリオレフィンワックスは、線状又は分岐構造であってよい。
【0114】
これらの離型剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0115】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が離型剤を含有する場合、その含有量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対して0.1〜3重量部、さらには0.15〜2.5重量部、特に0.2〜2重量部であることが好ましい。離型剤の含有量が上記下限以上であることにより、その離型効果を十分に得ることができ、上記上限以下であることにより、耐熱性の低下、金型汚染、可塑化不良といった問題を防止しやすい傾向にある。
【0116】
<熱安定剤>
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、組成物の製造及び成形工程における溶融混練時や使用時の熱安定性を向上させる目的で、ヒンダードフェノール系化合物、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、酸化亜鉛から選ばれる少なくとも1種の熱安定剤を配合してもよい。
【0117】
ヒンダードフェノール系化合物の具体例として、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリトール−テトラキス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)等が挙げられる。これらの中で、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカンが好ましい。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0118】
ホスファイト系化合物の具体例としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチル−フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノ及びジ−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’−イソプロピリデンビス(フェニル−ジアルキルホスファイト)等が挙げられ、好ましくは、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト等である。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0119】
ホスホナイト系化合物の具体例としては、例えば、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,5−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリメチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3−ジメチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチル−5−エチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,3,4−トリブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4,6−トリ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト等が挙げられ、好ましくは、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイトである。
【0120】
酸化亜鉛としては、例えば、平均粒子径が0.02〜1μmのものが好ましく、平均粒子径が0.08〜0.8μmのものがより好ましい。
【0121】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物にこれらの熱安定剤を配合する場合、その含有量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対し、通常0.01〜5重量部、好ましくは0.03〜3重量部、より好ましくは0.05〜2重量部である。熱安定剤の配合量が上記下限以上であることにより、熱安定性の改善効果を十分に得ることができ、上記上限以下であることにより金型汚染の発生、機械的強度の低下などを防止することができる。
【0122】
<充填材>
本発明においては、主に、樹脂組成物を補強し、剛性、耐熱性、寸法精度等を向上させる目的で充填材の1種又は2種以上を配合してもよい。充填材の形状等に特に制限はなく、有機充填材でも無機充填材でもよい。その具体例としては、例えば、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ミルドファイバー、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、窒化硼素、チタン酸カリウィスカー、シリカ、マイカ、タルク、ワラストナイト等が挙げられるが、これらの中でも、ガラス繊維が好ましい例として挙げられる。
【0123】
本発明で好ましく使用されるガラス繊維は、平均直径が20μm以下のものが好ましく、さらに1〜15μmのものが、物性バランス(耐熱剛性、衝撃強度)をより一層高める点、並びに成形反りをより一層低減させる点で好ましい。
【0124】
ガラス繊維の長さは特定されるものでなく、長繊維タイプ(ロービング)や短繊維タイプ(チョップドストランド)等から選択して用いることができる。この場合の集束本数は、100〜5,000本程度であることが好ましい。また、樹脂組成物混練後の樹脂組成物中のガラス繊維の長さが平均0.1mm以上で得られるならば、いわゆるミルドファイバー、ガラスパウダーと称せられるストランドの粉砕品でもよく、また、連続単繊維系のスライバーのものでもよい。原料ガラスの組成は、無アルカリのものも好ましく、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス等が挙げられるが、本発明では、Eガラスが好ましく用いられる。
【0125】
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に、これらの充填材を配合する場合、その配合量は、前述の樹脂成分(A)100重量部に対し、好ましくは1〜80重量部、より好ましくは5〜60重量部である。充填材の配合量を上記下限以上とすることにより機械的強度を効果的に改良できる傾向にあり、上記上限以下とすることにより流動性及び成形品外観をより良好なものとすることができる。
【0126】
<その他>
その他、本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、カーボンブラック以外の耐侯性改良剤、造核剤、発泡剤、滑剤、可塑剤、流動性改良剤、分散剤、導電剤、帯電防止剤等の各種の添加剤を配合することができる。
【0127】
[製造方法]
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物の製造方法は、特定の方法に限定されるものではないが、好ましくは溶融混練によるものであり、熱可塑性樹脂について一般に実用化されている混練方法が適用できる。例えば、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂、カーボンブラック、アルカリ土類金属の炭酸塩及び/又は硫酸塩、並びに必要に応じて用いられるその他の成分等を、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で混練することができる。各成分は混練機に一括でフィードしても、順次フィードしてもよく、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合したものを用いてもよい。また、特にカーボンブラックについては、予め、スチレン系樹脂等の樹脂成分とマスターバッチ化されたものを用いてもよい。
【0128】
混練温度と混練時間は、所望とする樹脂組成物や混練機の種類等の条件により任意に選ぶことができるが、通常、混練温度は200〜350℃、好ましくは220〜320℃、混練時間は20分以下が好ましい。この温度が高過ぎると、ポリフェニレンエーテル樹脂やスチレン系樹脂の熱劣化が問題となり、成形品の物性の低下や外観不良を生じることがある。
【0129】
[成形方法]
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、熱可塑性樹脂について一般に用いられている成形法、すなわち射出成形、射出圧縮成形、中空成形、押出成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形、プレス成形等の各種成形法によって成形することができる。
【0130】
[好適特性]
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、次の諸性質を備えることが好ましい。
(a)IEC60112規格に準拠して測定される、厚み3mmにおける比較トラッキング指数(CTI)が250V以上である。
(b)ISO179規格に準拠して測定される、23℃におけるノッチ付きシャルピー衝撃強度が7kJ/m以上である。
(c)UL94規格に準拠して測定される、厚み0.75mmにおける難燃性がV−0である。
(d)JIS Z−8722規格に準拠して測定されるL値が10以下である。
【0131】
上記(a)を満たすことにより、優れた耐トラッキング性が得られる。
【0132】
また、上記(b)を満たすことにより、優れた耐衝撃性が得られる。特に、高い耐衝撃性が求められる用途においては、上記(b)のシャルピー衝撃強度は12kJ/m以上であることが好ましい。
【0133】
また、上記(C)を満たすことにより、優れた難燃性が得られる。
【0134】
更に、上記(d)を満たすことにより、黒色度が良好で、耐候性に優れたものとなる。上記(d)のL値は特に9.5以下であることが好ましい。
【0135】
上記(a)〜(d)の特性は、より具体的には実施例の項に記載の方法で測定される。
【0136】
〔ポリフェニレンエーテル系樹脂成形品〕
本発明のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を成形してなる成形品の形状には特に制限はなく、フィルム状、シート状ないしは箱状等、各種の成形品を提供することができる。
また、その適用分野についても特に制限はなく、前述の太陽光発電モジュール用接続構造体等の太陽光発電モジュール部品、その他自動車用部品、電気・電子・OA機器用部品、建築用部品等、本発明の成形品は幅広い分野において各種用途に適用可能であるが、上記(a)〜(d)の特性をバランスよく満足することから、太陽光発電モジュール部品に特に有用である。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0138】
以下の例で使用した材料、得られた樹脂組成物の評価法は次の通りである。
【0139】
[材料]
<ポリフェニレンエーテル樹脂>
PPE−1:ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリキシレノールシンガポール社製「PX100F」、クロロホルム中で測定した30℃の固有粘度0.37dl/g
PPE−2:ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリキシレノールシンガポール社製「PX100L」、クロロホルム中で測定した30℃の固有粘度0.47dl/g
【0140】
<スチレン系樹脂>
スチレン系樹脂:ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、PSジャパン社製「HT478」、分子量(Mw)200,000、MFR3.0g/10分(試験条件:200℃,5kgf)
【0141】
<カーボンブラック>
カーボンブラックマスターバッチ:レジノカラー工業社製「BLACK SBF−M8800」、カーボンブラック(三菱化学(株)製「MCF88」)含有量45重量%のポリスチレンベースマスターバッチ
カーボンブラック−1:三菱化学(株)製「MCF88」、平均一次粒子径18nm、DBP吸油量55cm/100g
カーボンブラック−2:三菱化学(株)製「#1000」、平均一次粒子径18nm、DBP吸油量56cm/100g
カーボンブラック−3:三菱化学(株)製「#900」、平均一次粒子径16nm、DBP吸油量56cm/100g
カーボンブラック−4:三菱化学(株)製「#2700B」、平均一次粒子径13nm、DBP吸油量57cm/100g
カーボンブラック−5:三菱化学(株)製「#750B」、平均一次粒子径22nm、DBP吸油量116cm/100g
カーボンブラック−6:三菱化学(株)製、絶縁性カーボンブラック「TML41」、平均一次粒子径24nm、DBP吸油量83cm/100g
カーボンブラック−7:東洋カーボン社製「ジーストSP」、平均一次粒子径95nm、DBP吸油量51cm/100g
カーボンブラック−8:東洋カーボン社製「ジーストTA」、平均一次粒子径122nm、DBP吸油量42cm/100g
カーボンブラック−9:キャボットジャパン社製「REGAL 400」、平均一次粒子径25nm、DBP吸油量69cm/100g
カーボンブラック−10:キャボットジャパン社製「BLACK PEARLS 1000」、平均一次粒子径16nm、DBP吸油量105cm/100g
【0142】
<(C)成分>
硫酸バリウム:堺化学工業社製「B−55」、平均粒子径0.8μm
炭酸バリウム:和光純薬工業社製「炭酸バリウム」、平均粒子径1.0μm
炭酸ストロンチウム:堺化学工業社製「SW−P」、平均粒子径1.0μm
膠質炭酸カルシウム−1:白石工業社製「Vigot−15」、平均粒子径0.15μm
膠質炭酸カルシウム−2:白石工業社製「白艶華CC-R」、平均粒子径0.08μm
重質炭酸カルシウム−3:甘糟化成産業社製「NS♯100」、平均粒子径2.1μm
重質炭酸カルシウム−4:甘糟化成産業社製「NS♯2500」、平均粒子径0.9μm
【0143】
<(C)成分以外の比較成分>
塩化カルシウム:和光純薬工業社製「塩化カルシウム」、平均粒子径350μm
酢酸バリウム:和光純薬工業社製「酢酸バリウム」、平均粒子径100μm
アルミナ:昭和電工社製「AL−43KT」、平均粒子径4.6μm
水酸化マグネシウム:協和化学工業社製「キスマ5A」、平均粒子径0.8μm
ステアリン酸マグネシウム:日東化成工業社製「Mg−St」、平均粒子径10μm
タルク:微粉タルク、林化成社製「ミセルトン」、平均粒子径1.4μm
窒化ホウ素:六方晶窒化ホウ素、電気化学工業社製「SP−2」、平均粒子径4.0μm
【0144】
<難燃剤>
難燃剤−1:トリフェニルホスフェート、大八化学工業社製「TPP」
難燃剤−2:レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、大八化学工業社製「CR−733S」
【0145】
<その他の添加剤>
難燃助剤:ポリテトラフルオロエチレン、三菱レイヨン社製「メタブレンA3800」
離型剤:酸化型ポリエチレンワックス、三洋化成社製「サンワックス151P」
熱安定剤:酸化亜鉛、本荘ケミカル社製「酸化亜鉛2種」
エラストマー:SEBS、クラレプラスチックス社製「セプトン8006」
【0146】
[評価法]
(1)GPCによる高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレット10gを200mlのトルエンに溶解させた。この溶液を冷却後(−10℃)、濾過し、溶液を攪拌しながら、約1Lのメタノール中に投入して沈殿を得た。濾過した沈殿物をメタノールでよく洗浄した後、乾燥した(減圧、140℃×1時間)。乾燥後の沈殿物をクロロホルム溶液として以下の条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)に供した。
GPC:東洋曹達(株)製「HPLC8020」
カラム:東洋曹達(株)製「TSK G5000HHR+G3000HHR」
温度:40℃
溶媒:クロロホルム
流量:1.0ml/min
検出:UV 283nm
計算:ポリスチレン標準サンプル(分子量264、364、466、568、2,800、16,700、186,000、1,260,000のもの。UV検出波長は254nm)
GPCの結果から、全ポリフェニレンエーテル樹脂中の分子量500,000以上の高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量を算出した。
【0147】
(2)耐トラッキング性−1
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC160NII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で、大きさが100mm×100mmで、厚みが3mmの試験片を作製し、IEC60112規格に準拠して比較トラッキング指数(CTI)を測定した。なお、印加電圧は25V単位で行った。
【0148】
(3)耐トラッキング性−2
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC160NII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で、大きさが100mm×100mmで、厚みが3mmの試験片を作製し、IEC60112規格に準拠し、印加電圧250Vおよび275Vにおいて、絶縁破壊が起こるまでの塩化アンモニウム水溶液の滴下数を測定した。滴下数が多いほど、耐トラッキング性に優れているといえる。
【0149】
(4)荷重たわみ温度
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC160NII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件でISO試験片を作製し、ISO75規格に準じて、荷重1.8MPaにおける荷重たわみ温度を測定し、耐熱性の指標とした。
【0150】
(5)シャルピー衝撃強度
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC160NII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件でISO試験片を作製し、ノッチ加工を施し、ISO179規格に準じて、23℃及び−30℃でのシャルピー衝撃強度を測定した。
【0151】
(6)引張試験
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC160NII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件でISO試験片を作製し、ISO527規格に準じて、引張降伏応力を測定した。
【0152】
(7)L値
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC160NII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で100mm×100mmで、厚みが3mmの試験片を作製し、JIS Z−8722規格に準拠し、多光源分光測色計(スガ試験機(株)製「MSC−5N−GV5」を用いて、光源系はd/8条件、光束はφ15mmの条件にて、L値を測定した。L値が低いほど黒色度が高く好ましい。
【0153】
(8)難燃性
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J50EP」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件で127mm×12.7mmで、厚が0.75mmの試験片を作製し、UL94規格に準拠して測定を行った。
【0154】
(9)引張破壊呼び歪み保持率
下記記載の方法で得られた樹脂組成物ペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製「EC160NII」)にて、シリンダー温度280℃、金型温度80℃の条件にて、ISO試験片を作製した。この試験片について、83℃サンシャインフェード試験(雨なし)を行った。照射時間0、100、300、1000時間後の試験片について、ISO527規格に準じて引張破壊呼び歪みを測定し、未照射(照射時間0時間)の試験片に対する引張破壊呼び歪み保持率を求め、耐候性の指標とした。引張破壊呼び歪み保持率が高いほど、耐候性に優れているといえる。
【0155】
[実施例1〜30、比較例1〜10、参考例1]
表1〜4に示す配合成分を、表1〜4に示す割合でタンブラーミキサーにて均一に混合し、得られた混合物を、池貝社製二軸押出機「PCM−30」にて、バレル温度280℃、回転数150rpmの条件で溶融混練し、ストランド状に押出して冷却し、切断してペレットを作製した。なお、表1〜4において、ポリフェニレンエーテル樹脂及びスチレン系樹脂以外の添加剤の配合量は、ポリフェニレンエーテル樹脂及びスチレン系樹脂の合計100重量部に対する配合量である。
【0156】
[評価結果]
評価結果を表1〜4に示す。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
【表4】
【0161】
[考察]
表1〜4より次のことが明らかである。
カーボンブラックとアルカリ土類金属の炭酸塩又は硫酸塩を含む実施例1〜30のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、耐トラッキング性に優れ、耐衝撃性、耐熱性、機械的強度も良好で、L値も低く、黒色性、耐候性に優れる。特に、アルカリ土類金属の炭酸塩又は硫酸塩として、炭酸カルシウムを含む実施例6,23〜30及び硫酸バリウムを含む実施例1〜3のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物は、無機物を配合しているにも関わらず、これらを含まない以外は同組成の比較例1の樹脂組成物に比べ、23℃及び−30℃における耐衝撃性が向上するという驚くべき効果を有する。
また、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂を含む実施例1と、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂を含まない実施例7とを対比することにより、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂を含むものの方が耐候性に優れることが分かる。
【0162】
これに対して、カーボンブラックを含んでいてもアルカリ土類金属の炭酸塩又は硫酸塩を含まない比較例1〜10は、耐トラッキング性が劣り、耐衝撃性も劣る場合がある。
【0163】
カーボンブラックを含まない参考例1は、耐トラッキング性は良好であるが、L値が高く、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂を含んでいても耐候性が悪い。
【0164】
表3に示す実施例13〜22は、カーボンブラックの平均一次粒子径及びDBP吸油量による効果の差異を比較したものである。平均一次粒子径が大きいカーボンブラック7,8を用いた実施例13,21では、L値が高く、黒色性、耐候性に劣る傾向があり、従って、L値については平均一次粒子径が小さい方が好ましいことが分かる。さらに、DBP吸油量が同程度の実施例15に比べると、耐トラッキング性も低下する傾向にあるため、平均一次粒子径は耐トラッキング性にも少なからず影響を与えることが分かる。また、DBP吸油量が大きいカーボンブラック5,6,9,10を用いた実施例19,20,22,14では、平均一次粒子径にもよるが、耐トラッキング性が劣る傾向にあり、耐トラッキング性の面ではDBP吸油量が小さい方が好ましいことが分かる。
【0165】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
なお、本出願は、2010年9月16日付で出願された日本特許出願(特願2010−208126)に基づいており、その全体が引用により援用される。