【実施例】
【0034】
以下、本発明に係る実施例を図面に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
海洋性腐植土は、マリネックス社製有明海産粉末状海洋性腐植土(Lot. No. 08−02)を用いた。また、
フルボ酸は、日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸を用いた。
【0035】
製造例1
海洋性腐植土の水性溶媒抽出液
海洋性腐植土の水性溶媒抽出液は、株式会社マリネックス社製粉末状海洋性腐植土3.0gに対して蒸留水18.0gを用いて混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX−130(SONICS & MATERIALS Inc,;130Watt、20Khz、30%振幅)にて10分間超音波処理した。この超音波処理液を、1000rpmで5分間遠心分離して、得られた上清11.0gを、ステラディスク(倉敷紡績株式会社製;Lot. No. 180925;0.2μm)を用いてろ過し、得られたpH2.83のろ液10.6gを海洋性腐植土水性溶媒抽出液の試料とした。
【0036】
実施例1
海洋性腐植土抽出液が培養血管内皮細胞における線溶系因子のmRNA発現に及ぼす影響
血管内皮細胞
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞由来の樹立化細胞(TKM-33)を使用した。
【0037】
リアルタイムPCR
培養血管内皮細胞におけるt-PA、u-PA、PAI-1およびGlyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) mRNAsの発現はStepOnePlus(商標) Real-Time PCR System (Applied Biosystems、CA、USA)を用いて行った。培養血管内皮細胞からのmRNAの抽出にはRNeasy(登録商標) Mini Kit (50) (QIAGEN, Tokyo, Japan) を使用した。抽出したmRNAからcDNAへの逆転写は、High Capacity RNA-to-cDNA kit (Applied Biosystems, CA, USA, Lot.No. 0901013)を用いて行った。以下のprimer probeはいずれもApplied Biosysytems(CA, USA)より購入した。GAPDHに対するprimer probeは、GAPDH (Hs 999999_m1, Lot. No. 715871) を用いた。u-PAに対するprimer probeは、PLAU (Hs 00170182_m1, Lot. No. 674275) を用いた。t-PAに対するprimer probeは、PLAT (Hs 00263492_m1, Lot. No. 674699) を用いた。PAI-1に対するprimer probeは、SERPINE (Hs 00167155_m1,Lot. No. 684880) を用いた。
【0038】
方法
0.8×10
5 細胞/dishの密度になるように10% ウシ胎仔血清(FBS)を含む(+)RPMI-1640培地で細胞懸濁液を調整し、直径100mmのペトリディッシュ(IWAKI, Chiba, Japan)に播種した。翌日、細胞が定着しているのを確認し、2〜3日後に細胞がサブコンフルエントになった時点で実験を開始した。
培養液中に海洋性腐植土抽出液が1容量%含まれるように培養液を調整した。コントロールとして海洋性腐植土抽出液の代わりに滅菌蒸留水を使用した。
【0039】
細胞がサブコンフルエントになった時点で培養液を除去し,細胞をPBS(−)で洗浄した後、海洋性腐植土抽出液を含む培養液を10 ml/dishずつ加えて37℃、5% CO
2下でインキュベーター内に静置した。24時間経過後、培養液を除去し、細胞をPBS(−)で洗浄した後、トリプシン/EDTA溶液1 mlで細胞をペトリディッシュから遊離させて回収した。回収した細胞懸濁液を、4℃、1000rpmで1分間遠心分離後、上清を除去し、1 mlの10% FBS(−)RPMI-1640を加えた。そして、細胞懸濁液を1.5 mlエッペンドルフチューブに移した後、4℃、2000 rpmで1分間遠心分離し、上清を除去して細胞を得た(
図2参照)。
細胞は-80℃にて保存した。
【0040】
得られた細胞からmRNAを、RNeasy(登録商標) Mini Kit (50) (QIAGEN, Tokyo, Japan) を用いて精製した。
u-PA、t-PA、PAI-1 mRNA発現量はGAPDH mRNA発現量で補正した。蒸留水(コントロール)と海洋性腐植土抽出液を培養液に加えたときのt-PA mRNA発現量は、それぞれ0.863±0.226と1.277±0.339であった。u-PA mRNA発現量はそれぞれ、0.932±0.327と1.059±0.125であった。PAI-1 mRNA発現量はそれぞれ、3.990±0.691と2.536±0.553であった。培養液に海洋性腐植土抽出液を加えた場合、t-PA mRNAの発現量はコントロールに比べて有意に増加していた。u-PA mRNAの発現量にも増加傾向が認められたが、有意差は認められなかった。一方、培養液に海洋性腐植土抽出液を加えた場合、PAI-1 mRNAの発現量はコントロールに比べて有意に減少していた(
図3参照)。
以上の結果から海洋性腐植土抽出液は、血栓溶解に係わるt-PAおよびu-PA mRNAを増加し、血栓溶解を抑制するPAI-1を減少させることから血栓溶解促進作用を有することが判った。
【0041】
実施例2
海洋性腐植土水抽出物の血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす影響
TKM-33を0.3×10
4 細胞/wellの密度になるように10% FBS(+) RPMI-1640培地で調整し、24 well プレートの各wellに500μlずつ播種した。2〜3日間培養して細胞がサブコンフルエントになったのを確認してから実験を開始した。
海洋性腐植土水抽出物は、原液か、蒸留水で1/2、1/4および1/8希釈した各希釈液を試料とした。これを、培養液中にそれぞれ1容量%ずつ添加した。コントロールとして蒸留水を使用した。培養液を除去後、細胞をPBSで洗浄した。その後、各試料を含む培養液に培地換えを行い、37℃、5% CO
2下のインキュベーター内に静置した。24時間後、培養液を回収し、−20℃にて保存した。この培養液を試料としてフィブリンエンザイモグラフィーでu-PA活性を測定した。
【0042】
なお、フィブリンエンザイモグラフィーとは、SDS-PAGEとフィブリン平板法の原理を組み合わせた方法であり、PA様物質の検出とその分子量を同時に測定することができる。ゲル中にフィブリンとプラスミノーゲンが存在しており、電気泳動を行うことによって試料中のPAが分子量毎に分離されて、分離された部位でプラスミノーゲンを活性化する。活性化されたプラスミノーゲンは酵素活性を有するプラスミンになり、フィブリンを溶解する。溶解バンドの面積とその濃淡をデンシトメーターで解析することによって、フィブリン分解活性を評価することができる。このとき分子量マーカーを同時に泳動すると、そのタンパク質の分子量も推定することができる。
【0043】
先ず、血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす海洋性腐植土水抽出物質の影響を検討した。腐植土抽出液を加えていないコントロールに比べ、原液、1/2、1/4、1
/8希釈した腐植土水抽出物を培養液に1容量%添加した場合では、有意にu-PA分泌量が増加した(
図4参照)。コントロール(蒸留水)の94.045±5.136U/mlに対し、原液の腐植土水抽出物を加えることにより、113.288±11.695U/mlと約20%のu-PA活性の増加が観察された。
すなわち、海洋性腐植土水抽出液は、培養血管内皮細胞に作用して、培養血管内皮細胞からのu-PA分泌量を増加することが判った。
【0044】
実施例3
フルボ酸の培養血管内皮細胞への影響
フルボ酸試料
日本腐植物質学会より提供された段戸フルボ酸、および佐賀大学総合分析実験センターより提供された筑後川フルボ酸の二種類のフルボ酸を使用した。
【0045】
蒸留水で調整した10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/mlのフルボ酸溶液(pH 2)を、培養液中に1容量%ずつ添加した(終濃度は100μg/ml、10μg/ml 、1μg/ml)。筑後川フルボ酸については蒸留水に溶解しにくかったため、超音波ホモジナイザーアイラVCX-130にて1分間溶解し、遠心分離(1000 rpm, 5分)して得られた上清を蒸留水で希釈した。
【0046】
血管内皮細胞
ヒト臍帯静脈血管内皮細胞由来の樹立化細胞(TKM-33)を使用した。
【0047】
細胞増殖能の検討
培養液中に前記蒸留水で調整した10 mg/ml、1 mg/ml、0.1 mg/mlのフルボ酸溶液(pH 2)を、培養液中に1容量%ずつそれぞれ添加し、10%FBSを含むRPMI-1640培地を調整し培養液として用いた。コントロールには滅菌蒸留水を使用した。TKM-33を96wellプレートに0.6×10
3細胞/wellの細胞密度で播種し、調整した培養液で24時間培養した。その後、Premix WST-1(タカラバイオ株式会社, Lot. No. 4401)を各wellに10μl添加し、30分後にMicro Plate Reader (ABI, CA, USA) を用い、波長450nmで吸光度を測定した(
図5参照)。
【0048】
u-PA活性およびPAI-1抗原量の測定
TKM-33を0.3×10
4 細胞/wellの密度になるように10% FBS(+) RPMI-1640培地で調整し、24 well プレートの各wellに500μlずつ播種した。2〜3日間培養して細胞がサブコンフルエントになったのを確認してから実験を開始した。
【0049】
フルボ酸は蒸留水で希釈したものを試料とした。これを、培養液中にフルボ酸が1容量%となるように添加した(フルボ酸の終濃度は100μg/ml、10μg/ml 、1μg/ml)。コントロールとして蒸留水を使用した。培養液を除去後、細胞をPBSで洗浄した。その後、フルボ酸を含む培養液に培地換えを行い、37℃、5% CO
2下のインキュベーター内に静置した。24時間後、培養液を回収し、−20℃にて保存した。この培養液を試料としてフィブリンエンザイモグラフィーでu-PA活性を、ELISA法でPAI-1抗原量を測定した(
図6参照)。
【0050】
フィブリンエンザイモグラフィーとは、SDS-PAGEとフィブリン平板法の原理を組み合わせた方法であり、PA用物質の検出とその分子量を同時に測定することができる。ゲル中にフィブリンとプラスミノーゲンが存在しており、電気泳動を行うことによって試料中のPAが分子量毎に分離されて、分離された部位でプラスミノーゲンを活性化する。活性化されたプラスミノーゲンは酵素活性を有するプラスミンになり、フィブリンを溶解する。溶解バンドの面積とその濃淡をデンシトメーターで解析することによって、フィブリン分解活性を評価することができる。このとき分子量マーカーを同時に泳動すると、そのタンパク質の分子量も推定することができる。
【0051】
培養液中のPAI-1抗原量はZYMUTEST PAI-1 Antigen kit(HYPHEN BioMed, Neuville-sur-Oise, France, Lot. No. 070420B-PK:3)を用いて測定した。
【0052】
段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の培養血管内皮細胞増殖能への影響
段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸を培養液に添加した場合と蒸留水を培養液に添加した場合との間で、細胞増殖能に有意差は認められなかった(
図7参照)。
このことより、段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸のいずれにも細胞毒性がないことが確認された。
【0053】
実施例4
血管内皮細胞培養液中u-PA活性に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響
培養液に滅菌蒸留水を添加した時のu-PA活性量を100%として、培養液にフルボ酸を添加した時の培養液中u-PA活性量を百分率で求めた。段戸フルボ酸を100μg/ml、10μg/ml、1μg/ml添加した場合の相対的u-PA活性量(%)はそれぞれ、93.1±11.8%、105.4±18.1%、121.1±20.0%であった。筑後川フルボ酸を100μg/ml、10μg/ml、1μg/ml添加した場合の相対的u-PA活性量(%)はそれぞれ、96.3±6.1%、99.5±14.4%、114.3±26.4%であった。終濃度1μg/mlのフルボ酸を培養液に添加した場合、相対的u-PA活性量はコントロールに比べて増加傾向であった。特に、培養液に段戸フルボ酸を終濃度1μg/ml添加した場合、相対的u-PA活性量はコントロールに比べて有意に高値であった(
図8参照)。
【0054】
実施例5
血管内皮細胞培養液中PAI-1抗原量に及ぼす段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸の影響
培養液に滅菌蒸留水を添加した時、培養液中PAI-1抗原量は25.075±4.665 ng/mlであった。フルボ酸を最終濃度が100μg/mlとなるように培養液に添加した場合、培養液中PAI-1抗原量は段戸フルボ酸で10.836±1.955 ng/mlであった。また、筑後川フルボ酸では13.462±4.038 ng/mlであった。いずれの場合もPAI-1抗原量は有意に減少していた(
図9参照)。
【0055】
なお、段戸フルボ酸と筑後川フルボ酸との間にはPAI-1抗原量に有意な差は認められなかった。
このことから、段戸フルボ酸および筑後川フルボ酸はともに、t-PA活性およびu-PA活性のインヒビターであるPAI-1を減少させ、血栓溶解活性を有すると考えられる。
【0056】
実施例6
海洋性腐植土抽出液の生体への効果(ラットを用いた実験)
株式会社マリネックスより提供された海洋性腐植土を使用した。腐植土(有明海産、Lot.No. 08-02)と蒸留水が重量比で1:6の割合で溶解になるように混合し、超音波ホモジナイザーアイラVCX-130 (SONICS & MATERIALS) (130Watt, 20Khz, 30%振幅) にて10分間処理した。その後、1000 rpm、5分間遠心分離を行い、得られた上清をフィルター濾過 (ステラディスク0.2μm) し、海洋性腐植土抽出液の試料(pH 2.83) とした。この海洋性腐植土抽出液試料を蒸留水で希釈して3%(容量%)の海洋性腐植土抽出液溶液(pH 3.99)を作製した。
【0057】
実験動物および飼育環境
ラットは雄性 Wistar 系 6 週齢ラットを日本クレア(株)より購入して用いた。
飼料としてオリエンタル酵母のMFを用いた。温度は24±1℃、明暗サイクルは12時間の明暗サイクル(午前7時〜午後7時の明期と午後7時〜午前7時の暗期)の環境下で飼育した。
【0058】
1週間の予備飼育後、3週間の実験飼育を行った。予備飼育中は全ラットに蒸留水を与え、実験飼育では実験群(n=8)に3%海洋性腐植土抽出液を、対照群(n=9)には蒸留水を与えた。各群とも飲水および飼料は自由摂取とした(
図10参照)。
なお、ラットを用いた動物実験は近畿大学動物実験委員会の承認を得て、近畿大学動物実験規定に従って実施した。
【0059】
ラットの体重、飲水量、飼料摂取量、臓器重量の測定および採血
ラットの体重、飲水量および飼料摂食量を1日おきに測定した。3週間の実験飼育が終了後、10%のネンブタール(1ml/100g)を腹腔内投与して麻酔し、腹部大動脈よりクエン酸採血(全血:3.8%クエン酸ナトリウム=9:1となるように採血)を行った。脳、腎臓、肝臓は摘出後、直ちに重量を測定した。
【0060】
血液中の線溶活性の測定(ユーグロブリン分画の調整とその線溶活性の測定)
クエン酸採血した血液を4℃、4,000rpm、15分間遠心分離して血漿を調整した。血漿 0.5mlに0.01%酢酸を9.5ml加えて数回転倒混和し、15分間氷中で静置して白色沈殿を析出させた。その後、4℃、3,000rpm、5分間遠心分離して管底に沈査を得た。管底の沈査をガラス棒でかき混ぜてペースト状とし400μlのバルビタールbufferで溶解したものを、ユーグロブリン分画とした。ユーグロブリン分画中の線溶活性はフィブリンエンザイモグラフィーにて評価した。
【0061】
血小板凝集能の測定
クエン酸採血した血液を4℃、1,000rpm、10分間遠心分離し、採取した上清を多血小板血漿(PRP:Platelet Rich Plasma)とした。その後、4℃、4,000rpm、15分間遠心分離した上清を乏血小板血漿(PPP:Platelet Poor Plasma)として採取し、血小板凝集能の測定に用いた。
【0062】
血小板惹起物質として0.1、0.5、1μMのADP(分子量427、和光純薬工業(株)、lot No.105603)をベロナール緩衝液で調整した。
血小板凝集は東京光電社製アグリゴメーター(TPA-4C)を用いて観察した。200μlのPRPに、終濃度が0.01、0.05、0.1μMになるように0.1、0.5、1μM のADPを22μlずつ添加して、血小板凝集を惹起した。測定温度は37℃、測定時間は10分間とした。
【0063】
実験飼育中のラットの体重、飼料摂取量および飲水量の変化
実験の開始から1日おきに体重および飼料摂取量を測定したが、蒸留水を摂取した対照群の体重および飼料摂取量と、海洋性腐植土抽出液を摂取した腐植土群の体重および飼料摂取量との間に有意差は認められなかった(
図11および12参照)。
【0064】
実験の開始から1日おきに飲水量を測定したところ、21、23、27日目において海洋性腐植土抽出液の摂取量が蒸留水の摂取量より有意に少なかった(
図13参照)。しかし、実験期間中の総飲水量は対照群で427.2±10.2ml、腐植土群で397.3±0.1mlとなり、有意な差は認められなかった。
また、実験飼育後の肝臓、脳および腎臓の重量にも有意差は認められなかった。
したがって、海洋性腐植土抽出液を摂取してもラットの体重、臓器に対する影響は何ら認められなかった。
【0065】
実施例7
血液中の線溶活性(ユーグロブリン分画中の線溶活性)
3週間の実験飼育終了後に調整したユーグロブリン分画中のu-PA活性は対照群に比べて腐植土群において有意に増強していた(
図14参照)。
【0066】
一方、ユーグロブリン分画中のt-PA活性は対照群に比べて腐植土群において増加傾向を示した。しかしながら2群間に有意な差は認められなかった(
図15参照)。
【0067】
実施例8
血小板凝集能
ADPをPRPに添加し、10分間の測定時間内に最も強く凝集した時の凝集率を最大凝集率(%)とした。終濃度0.01μMのADPをPRPに添加して血小板の最大凝集率を比較した場合、腐植土群の最大凝集率は対照群の最大凝集率よりも有意に低下していた(
図16参照)。
【0068】
しかし、終濃度0.05μMおよび0.1μMのADPをPRPに添加して血小板の最大凝集率を測定した場合、対照群と腐植土群の間で有意差は認められなかった。