【文献】
Proceedings of Symposium on Solvent Extraction,p.59-60 (1995).
【文献】
Solvent Extraction Research and Development, Japan,Vol.2,p.93-101 (1995).
【文献】
Proceedings of Symposium on Solvent Extraction,p.85-86 (1994).
【文献】
Russian Journal of General Chemistry,Vol.75, No.8,p.1208-1211 (2005).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1. アルキルアミノホスホン酸
本発明は、式I:
【化4】
で表される化合物に関する。
【0021】
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C
1-18アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても18個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の炭化水素鎖を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、2-エチルヘキシル、3-メチル-1-イソプロピルブチル、2-メチル-1-イソプロピルブチル、1-tert-ブチル-2-メチルプロピル、n-ノニル、3,5,5-トリメチルヘキシル及びn-デシル等を挙げることが出来る。
【0022】
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、n-ヘプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル及び1-デセニル等を挙げることが出来る。
【0023】
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、1-ペンチニル、1-ヘキシニル、1-ヘプチニル、1-オクチニル、1-ノニニル及び1-デシニル等を挙げることが出来る。
【0024】
本明細書において、「アリール」は、6〜15の炭素原子数を有する芳香環基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、ナフチル及びアントリル(アントラセニル)等を挙げることが出来る。
【0025】
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル及び2-フェネチル等を挙げることが出来る。
【0026】
本明細書において、「アリールアルケニル」は、前記アルケニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルケニルは、限定するものではないが、例えばスチリル等を挙げることが出来る。
【0027】
上記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、又は1個若しくは複数のC
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニル、C
6-15アリール、C
7-18アリールアルキル、C
8-18アリールアルケニル、C(O)Z(Zは水素、ヒドロキシル、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル、C
2-18アルキニル若しくはNH
2である)、OH、Q-C
1-18アルキル、Q-C
2-18アルケニル、Q-C
2-18アルキニル、Q-C
6-15アリール、Q-C
7-18アリールアルキル(QはO若しくはSである)、ハロゲン、NO
2、若しくはNR
AR
B(R
A及びR
Bは、互いに独立して、水素、C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル若しくはC
2-18アルキニルである)によって置換することも出来る。
【0028】
なお、本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素を意味する。
【0029】
本発明者は、式Iで表されるアルキルアミノホスホン酸型の化合物を用いることにより、インジウム、ガリウム及び亜鉛を含有する溶液からインジウム又はガリウムを、並びにコバルト及びニッケルを含有する溶液からコバルト又はニッケルを、それぞれ選択的に抽出できることを見出した。
【0030】
式Iで表される化合物において、R
1及びR
2は、互いに独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル若しくはC
2-18アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
7-18アリールアルキル若しくはC
8-18アリールアルケニルであることが好ましい。
【0031】
式Iで表される化合物において、R
3及びR
4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
1-4アルキル、C
2-4アルケニル若しくはC
2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
7-18アリールアルキル若しくはC
8-18アリールアルケニルであることが好ましい。
【0032】
より好ましくは、式Iで表される化合物は、R
1及びR
2が2-エチル-ヘキサン-1-イルであり、R
3及びR
4が互いに独立して、水素又はn-ブチルである。
【0033】
特に好ましくは、式Iで表される化合物は、以下:
{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}ホスホン酸ジブチル(BEADP);
{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}ホスホン酸ブチル (BEAMP);及び
{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}ホスホン酸 (BEAAP);
からなる化合物群から選択される。
【0034】
本発明の式Iで表される化合物は、塩又は溶媒和物の形態であってもよい。本明細書において、「式Iで表される化合物」は、該化合物自体だけでなく、その塩又は溶媒和物も意味する。式Iで表される化合物の塩において、対イオンとしては、限定するものではないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオンのようなカチオン、又は塩化物イオン、臭化物イオン、ギ酸イオン、酢酸イオン、マレイン酸イオン、フマル酸イオン、安息香酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、過塩素酸イオンのようなアニオンが好ましい。
【0035】
上記のような形態の式Iで表される化合物を用いることにより、インジウム又はガリウムを、或いはコバルト又はニッケルを、それぞれ選択的に抽出することが可能となる。
【0036】
2. アルキルアミノホスホン酸の製造方法
本発明はまた、上記で説明した式Iで表される化合物の製造方法に関する。
式Iで表される化合物は、式II:
【化5】
[式中、
R
1及びR
2は、互いに独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
1-18アルキル、C
2-18アルケニル若しくはC
2-18アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
7-18アリールアルキル若しくはC
8-18アリールアルケニルである]
で表されるアミンと、式III:
【0037】
【化6】
[式中、
R
3及びR
4は、互いに独立して、水素、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
1-4アルキル、C
2-4アルケニル若しくはC
2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
7-18アリールアルキル若しくはC
8-18アリールアルケニルである]
で表されるホスホン酸エステル又は亜リン酸と、ホルムアルデヒドとを、酸性条件下で反応させてホスホン酸エステル又は亜リン酸をアミノ化するアミノ化工程;及び場合により
アミノ化されたホスホン酸エステルを部分的に加水分解する加水分解工程
を含む方法によって製造することができる。
【0038】
アミノ化工程において、使用される酸は、塩酸、硫酸又は硝酸であることが好ましく、塩酸であることがより好ましい。上記の酸により、反応液のpHを1〜3の範囲に調節することが好ましい。上記の工程は、通常、アルコールのようなプロトン性極性溶媒存在下で実施される。アルコール存在下で実施することが好ましい。反応温度は、90〜100℃の範囲であることが好ましく、反応時間は、5〜8時間の範囲であることが好ましい。
【0039】
加水分解工程において、加水分解は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化リチウムのようなアルカリ存在下で実施することが好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム存在下で実施することがより好ましい。上記の工程は、通常、アルコールのようなプロトン性極性溶媒を含む水溶液存在下で実施される。アルコール水溶液存在下で実施することが好ましい。反応温度は、90〜100℃の範囲であることが好ましく、反応時間は、5〜8時間の範囲であることが好ましい。
【0040】
式Iで表される化合物において、R
3及びR
4が、互いに独立して、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
1-4アルキル、C
2-4アルケニル若しくはC
2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
7-18アリールアルキル若しくはC
8-18アリールアルケニルである場合、該化合物は、式II[式中、R
1及びR
2は上記式Iと同じ意味を表す]で表されるアミンと、式III[式中、R
3及びR
4は上記式Iと同じ意味を表す]で表されるホスホン酸エステルと、ホルムアルデヒドとを、酸性条件下で反応させるホスホン酸エステルアミノ化工程によって製造することができる。
【0041】
式Iで表される化合物において、R
3が水素であり、R
4が置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
1-4アルキル、C
2-4アルケニル若しくはC
2-4アルキニル、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖状C
7-18アリールアルキル若しくはC
8-18アリールアルケニルである場合、該化合物は、上記のホスホン酸エステルアミノ化工程及び加水分解工程によって製造することができる。
【0042】
式Iで表される化合物において、R
3及びR
4が水素である場合、該化合物は、式II[式中、R
1及びR
2は上記式Iと同じ意味を表す]で表されるアミンと、式III[式中、R
3及びR
4は上記式Iと同じ意味を表す]で表される亜リン酸と、ホルムアルデヒドとを、酸性条件下で反応させる亜リン酸アミノ化工程によって製造することができる。
上記の反応により、式Iで表される化合物を製造することが可能となる。
【0043】
3. 金属の抽出剤
金属の抽出剤として使用し得るアルキルリン化合物としては、ジアルキルホスフィン酸(特許文献3)、アルキルホスホン酸アルキルエステル(特許文献4及び5)、リン酸アルキルエステル(特許文献6)等が公知である。
【0044】
これに対し、本発明者は、ジアルキルホスフィン酸にアミノ基を導入することによって抽出選択性が変化し、上記のようなアルキルリン化合物と比較して高い選択性を発現することを見出して、ホスフィン酸を配位子とするキレート抽出剤を完成させた(特開2009-256291号公報)。
【0045】
本発明者は、上記の知見に基づきさらに検討を進めた結果、式Iで表されるジアルキルアミノホスホン酸が、インジウム及びガリウムに対してさらに高い選択性を発現することを見出した。それ故、本発明は、式Iで表される化合物を含有する、金属の抽出剤に関する。
【0046】
本発明の金属の抽出剤は、限定するものではないが、例えば、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、パラジウム、白金、亜鉛及びアルミニウムのような金属のイオンを抽出するために使用できる。インジウム、ガリウム、コバルト又はニッケルを抽出するために使用することが好ましい。インジウム、ガリウム及び亜鉛を含有する溶液からインジウム又はガリウムを、或いはコバルト及びニッケルを含有する溶液からコバルト又はニッケルを、それぞれ選択的に抽出するために使用することがより好ましい。
【0047】
本発明の金属の抽出剤は、式Iで表される化合物のみを含有してもよい。或いは、該化合物に加えて、1種類以上の添加剤及び/又は1種類以上の有機溶剤を更に含有してもよい。添加剤としては、限定するものではないが、例えば、ノニルフェノール、オクタノール、2-エチルヘキシルアルコール及びデカノールを挙げることができる。また、有機溶剤としては、限定するものではないが、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、1,2-ジクロロエタン、クロロホルム及び四塩化炭素を挙げることができる。トルエンが好ましい。
【0048】
上記のような成分を含有することにより、本発明の金属の抽出剤は、インジウム又はガリウムを、或いはコバルト又はニッケルを、それぞれ選択的に抽出することが可能となる。
【0049】
4. 金属の回収方法
通常、金属イオンの酸性水溶液において、金属イオンは酸の共役塩基とアニオン性の錯体イオンを形成する。このため、金属イオンは、酸濃度及びpHに依存して、金属イオン及びいくつかの形態の錯体イオンからなる平衡状態を形成し得る。
【0050】
本発明の式Iで表される化合物は、アニオンと錯体を形成し得るアミノ基及びカチオンと錯体を形成し得るホスホン酸基を有する。本発明者は、金属イオンを含有する酸性水溶液の酸濃度及び/又はpHを適宜調整して、該水溶液からなる水相を、本発明の式Iで表される化合物又は金属の抽出剤を含有する有機相に接触させることにより、所望の金属イオンを有機相中に選択的に抽出できることを見出した。それ故、本発明は、金属を含有する水相を本発明の式Iで表される化合物又は金属の抽出剤を含有する有機相に接触させて、金属を該有機相に抽出する抽出工程を含む、金属の回収方法に関する。
【0051】
4-1. 抽出工程
本工程は、金属を含有する水相から、本発明の式Iで表される化合物又は金属の抽出剤を含有する有機相に金属を抽出することを目的とする。
【0052】
本明細書において、「金属を含有する水相」は、上記で説明した金属のような、本発明の回収方法の対象となる金属を含有する水溶液(水相)を意味する。インジウム、ガリウム及び亜鉛を含有するか、或いはコバルト及びニッケルを含有することが好ましい。水相中の金属は、通常、以下で説明する酸の共役塩基との塩又は錯体イオンの形態で存在する。上記の金属は、それぞれ独立して、1×10
-4〜1×10
-1 Mの濃度であることが好ましく、1×10
-4〜1×10
-2Mの濃度であることがより好ましい。
【0053】
上記の水相を本発明の式Iで表される化合物又は金属の抽出剤を含有する有機相に接触させると、水相の酸濃度及び/又はpHに依存して、特定の金属イオンが選択的に有機相に抽出される。それ故、水相の酸濃度及び/又はpHを適宜調整することにより、所望の金属イオンを選択的に抽出することができる。
【0054】
水相に含有される酸としては、限定するものではないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸のような鉱酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸のような有機酸を挙げることができる。塩酸又は硝酸が好ましい。かかる酸は、1種類のみであってもよく、2種類以上の酸からなる混合物であってもよい。上記の酸は、1×10
-2〜10 Mの濃度であることが好ましい。
【0055】
pHを調整するために使用する酸としては、上記の酸を挙げることができる。また、pHを調整するために使用する塩基としては、限定するものではないが、例えば、NaOH、KOH、LiOH及びNH
3を挙げることができる。
【0056】
より具体的には、インジウム、ガリウム及び亜鉛を含有する水相からインジウムを選択的に抽出する場合、1×10
-2〜1 Mの酸を含有することが好ましい。この場合、使用する酸は、塩酸又は硝酸が好ましい。或いは、pHを-1〜-0.1の範囲に調整することが好ましい。この場合、硝酸でpHを調整することが好ましい。
【0057】
また、インジウム、ガリウム及び亜鉛を含有する水相からガリウムを選択的に抽出する場合、2〜10 Mの酸を含有することが好ましい。この場合、使用する酸は、塩酸又は硝酸が好ましい。或いは、pHを0〜2の範囲に調整することが好ましい。この場合、硝酸でpHを調整することが好ましい。
【0058】
コバルト及びニッケルを含有する水相からコバルトを選択的に抽出する場合、pHを1〜5.5の範囲に調整することが好ましい。また、コバルト及びニッケルを含有する水相からニッケルを選択的に抽出する場合、pHを6〜8の範囲に調整することが好ましい。この場合、塩酸又は硝酸でpHを調整することが好ましい。
【0059】
本工程において使用される水相は、上記の要件を満足するものであればその他の成分は特に限定されない。他の金属を含有する場合であっても、本発明の方法により、上記の金属を選択的に抽出することができる。それ故、本工程において使用される水相として、例えば、電子材料の製造において排出されるエッチング廃液又はめっき廃液を使用してもよい。
【0060】
本工程において使用される有機相は、本発明の式Iで表される化合物又は金属の抽出剤を含有する。有機相は、液相の形態であってもよく、本発明の式Iで表される化合物又は金属の抽出剤を固体の形態で含有するか、或いは該化合物又は金属の抽出剤を担体に結合若しくは含浸させた固相の形態であってもよい。
【0061】
有機相が液相の形態の場合には、本発明の式Iで表される化合物、及び場合により上記で説明した1種類以上の添加剤及び/又は1種類以上の有機溶剤を更に含有する溶液又は分散液を有機相として使用し得る。式Iで表される化合物が常温で液体の形態である場合、該化合物をそのまま、又は1種類以上の有機溶剤で希釈した形態で使用することが好ましい。この場合、式Iで表される化合物は、0.05〜1 Mの濃度であることが好ましい。
【0062】
有機相が固相の形態の場合には、式Iで表される化合物が常温で固体の形態であれば、そのまま水相中で使用することができる。また、式Iで表される化合物を有機溶媒に溶解し、担体に含浸して使用してもよい。含浸するための担体(樹脂)としては、限定するものではないが、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂や、活性炭、疎水性ゼオライト、シリカ及びポリ塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸エステル又はポリ塩化ビニル樹脂が好ましい。この場合、式Iで表される化合物は、1〜5 mmol/g担体の範囲で担体に含浸していることが好ましい。
【0063】
本工程において、水相と有機相とを接触させる手段としては、当業界で慣用される様々な手段を使用し得る。有機相が液相の形態の場合、バッチ法又は連続抽出法を使用することが好ましい。また、有機相が固相の形態の場合、バッチ法又はカラム法を使用することが好ましい。
【0064】
有機相が液相の形態の場合、有機相と液相との体積比は、1:10〜10:1の範囲であることが好ましく、1:5〜5:1の範囲であることがより好ましい。有機相と液相とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、有機相と液相とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0065】
有機相が、常温で固体の形態である式Iで表される化合物を含む場合、或いは該化合物が担体に含浸された形態である場合、水溶液中の金属イオン濃度にもよるが、一般的には1 Lの液相に対して1〜5 g程度の有機相を使用することが好ましい。有機相と液相とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、有機相と液相とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0066】
上記の条件で本工程を実施することにより、所望の金属を選択的に有機相に抽出することが可能となる。
【0067】
4-2. 脱離工程
本発明の方法は、通常、上記の工程を実施した後、脱離工程を実施する。本工程は、金属を含有する有機相を水相と相分離させた後、酸性の脱離水溶液に接触させて、有機相から脱離水溶液中に金属を脱離させることを目的とする。本工程は、例えば特開2009-256291号公報に記載の公知の方法によって実施することができる。
【0068】
本工程で使用される酸性の脱離水溶液としては、限定するものではないが、例えば、硝酸水溶液を挙げることができる。
【0069】
有機相が液相の形態の場合、有機相と酸性の脱離水溶液との体積比は、1:10〜10:1の範囲であることが好ましく、1:5〜5:1の範囲であることがより好ましい。有機相と液相とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、有機相と液相とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0070】
有機相が、常温で固体の形態である式Iで表される化合物を含む場合、或いは該化合物が担体に含浸された形態である場合、1 gに対して30〜100 mLの酸性の脱離水溶液を使用することが好ましい。有機相と酸性の脱離水溶液とを接触させる温度は、5〜50℃の範囲であることが好ましい。また、バッチ法の場合、有機相と酸性の脱離水溶液とを接触させる時間は、0.5〜48時間の範囲であることが好ましい。
【0071】
上記の条件で本工程を実施することにより、所望の金属を効率的に回収することが可能となる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
比較例1:ホスホン酸ジブチル (DBPA)
【化7】
本化合物は、市販品をそのまま有機溶媒に溶解して用いた。
【0074】
比較例2:ジ(2-エチルヘキシル)アミン (D2EHA)
【化8】
本化合物は、市販品をそのまま有機溶媒に溶解して用いた。
【0075】
比較例3:(2-エチルヘキシル)ホスホン酸2-エチルヘキシル (PC-88A)
【化9】
本化合物は、工業用抽出剤を用いた。
【0076】
比較例4:リン酸ジ(2-エチルヘキシル) (D2EHPA)
【化10】
本化合物は、市販品をそのまま有機溶媒に溶解して用いた。
【0077】
実施例1:{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}ホスホン酸ジブチル (BEADP)
【化11】
【0078】
ジ(2-エチルへキシル)アミンとホスホン酸ジブチルとを、酸性条件下で反応させ、ホルムアルデヒドを滴下漏斗により徐々に滴下し、所定時間還流した。その後、室温まで冷却し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にクロロホルムを加えて、酸、アルカリ及び蒸留水で順次洗浄後、有機相を硫酸マグネシウムにより脱水した。溶媒を減圧留去した後、生成物を減圧乾燥させた。
【0079】
目的物の同定は、NMRにより行った。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, TMS基準): δ 0.9 (m, 18H), 1.3 (m, 22H), 1.6 (m, 4H), 2.3 (m, 4H), 2.7 (d, 2H), 4.0 (q, 4H)。
【0080】
実施例2:{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}ホスホン酸ブチル (BEAMP)
【化12】
【0081】
上記の方法で合成したBEADPと水酸化カリウムのエタノール/水溶液をナスフラスコに入れ、還流した。その後、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にクロロホルムを加えて、塩酸及び蒸留水で順次分液処理を行った後、有機相を硫酸マグネシウムにより脱水した。溶媒を減圧留去した後、生成物を減圧乾燥させた。
【0082】
目的物の同定は、NMRにより行った。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, TMS基準): δ 0.9 (m, 15H), 1.5 (m, 22H), 2.9 (m, 2H), 3.2 (m, 4H), 3.9 (m, 2H), 7.3 (s, 1H)。
【0083】
実施例3:{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}ホスホン酸 (BEAAP)
【化13】
【0084】
ジ(2-エチルへキシル)アミンと亜リン酸を三つ口フラスコに入れた。酸性条件下でホルムアルデヒドを徐々に滴下し、還流した。その後、室温まで冷却し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣にクロロホルムを加えて、洗浄を十分に行った。有機相を硫酸マグネシウムにより脱水した。溶媒を減圧留去した後、生成物を減圧乾燥させた。
【0085】
目的物の同定は、NMRにより行った。
1H NMR (400 MHz, CDCl
3, TMS基準): δ 0.9 (m, 12H), 1.3 (m, 18H), 2.8 (s, 2H), 3.5 (s, 4H), 9.2 (d, 1.6H)。
【0086】
参考例1:{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}ホスフィン酸 (BEADAP)
【化14】
本発明者による公知の方法(特開2009-256291号公報)にしたがい、本化合物を調製した。
【0087】
参考例2:{[ビス(2-エチルヘキシル)アミノ]メチル}フェニルホスフィン酸 (BEAPP)
【化15】
本発明者による公知の方法(特開2009-256291号公報)にしたがい、本化合物を調製した。
【0088】
使用例1:抽出率と塩酸濃度との関係
50 cm
3三角フラスコに、水相(1 mmol dm
-3金属イオンを含む0.1, 0.32, 0.56, 1.0, 1.8, 3.2又は5.6 M塩酸水溶液)を10 cm
3、有機相(50 mmol dm
-3比較例、実施例又は参考例化合物を含むトルエン溶液)を10 cm
3ずつ入れ、恒温槽を用いて30℃で24時間振とうさせた。次に、水相を採取し、原子吸光光度計を用いて金属イオン濃度を測定した。比較例1及び2の化合物を用いた結果を
図1に、実施例1-3の化合物を用いた結果を
図2に、比較例1及び2の化合物を用いた結果を
図3に、それぞれ示す。また、Pd (II), Pt (IV), In (III)及びGa (III)イオンに対する比較例、実施例及び参考例の化合物の抽出特性を
図4に示す。
【0089】
図1に示すように、比較例の化合物を用いた場合、インジウム及びガリウムはほとんど抽出されなかった。これに対し、
図2に示すように、実施例1-3の化合物を用いた場合、インジウム及びガリウムが効率的に抽出された。特に、実施例2及び3の化合物は、インジウムに対しては参考例1及び2の化合物とほぼ同等の抽出特性を示し、ガリウムに対しては参考例1及び2の化合物を上回る抽出特性を示した(
図4)。
【0090】
実施例2の化合物を用いた場合、1×10
-2〜1 Mの範囲の塩酸濃度では、インジウムが選択的に抽出されたのに対し、2〜10 Mの範囲の塩酸濃度では、ガリウムが選択的に抽出された。
【0091】
使用例2:抽出率とpHとの関係
50 cm
3三角フラスコに、水相(1 mmol dm
-3金属イオンを含む硝酸アンモニウム溶液)を10 cm
3、有機相(50 mmol dm
-3比較例、実施例又は参考例化合物を含むトルエン溶液)を10 cm
3ずつ入れ、恒温槽を用いて30 ℃で24時間振とうさせた。次に水相を採取し、pHメーターを用いてpHを測定するとともに、原子吸光光度計を用いて金属イオン濃度を測定した。比較例3及び4の化合物を用いた結果を
図5に、実施例2及び3の化合物を用いた結果を
図6に、参考例1及び2の化合物を用いた結果を
図7に、それぞれ示す。また、In (III), Al (III), Ga (III)及びZn (II)イオンに対する比較例、実施例及び参考例の化合物の抽出特性を
図8に、Co (II)及びNi (II)イオンに対する比較例、実施例及び参考例の化合物の抽出特性を
図9に、それぞれ示す。
【0092】
図5に示すように、比較例の化合物を用いた場合、インジウムはpH=1を超える範囲で抽出されたが、ガリウムはほとんど抽出されなかった。
【0093】
実施例2の化合物を用いた場合、-1〜-0.1の範囲のpHでは、インジウムが選択的に抽出されたのに対し、0〜2の範囲のpHでは、ガリウムが選択的に抽出された。このとき、亜鉛は、3以下のpHではほとんど抽出されなかった。また、4〜5.5の範囲のpHでは、コバルトが選択的に抽出されたのに対し、6以上のpHでは、コバルト及びニッケルのいずれもが抽出された。
【0094】
実施例3の化合物を用いた場合、-1〜-0.1の範囲のpHでは、インジウムが選択的に抽出されたのに対し、1以上のpHでは、インジウム及びガリウムのいずれもが抽出された。このとき、亜鉛は、2以下のpHではほとんど抽出されなかった。また、1〜5.5の範囲のpHでは、コバルトが選択的に抽出されたのに対し、当該範囲でニッケルは抽出されなかった。
【0095】
使用例3:分配比と抽出剤濃度との関係
50 cm
3三角フラスコに、水相(1 mmol dm
-3金属イオンを含む硝酸アンモニウム溶液)を10 cm
3、有機相(0.01-0.15 mol dm
-3比較例、実施例又は参考例化合物を含むトルエン溶液)を10 cm
3ずつ入れ、恒温槽を用いて30 ℃で24時間振とうさせた。次に水相を採取し、pHメーターを用いてpHを測定するとともに、原子吸光光度計を用いて金属イオン濃度を測定した。
【0096】
以下に基づき、実施例2(BEAMP)の化合物によるインジウムの抽出平衡式を導出した。
抽出実験の結果を踏まえて、以下の抽出平衡式を仮定した。
【0097】
【数1】
【0098】
抽出平衡定数K
exは、次のように表される。
K
ex = [InR
3][H
+]
3/ [In
3+][(HR)
2]
1.5 ・・・(2)
【0099】
インジウムの分配比Dは、次のように定義した。
D = [InR
3] / [In
3+]・・・(3)
【0100】
式(3)を式(2)に代入して整理すると、次の式が得られる。
D = K
ex[(HR)
2]
1.5/ [H
+]
3 ・・・(4)
【0101】
両辺の対数をとると、次の式が得られる。
logD = log K
ex + 1.5log[(HR)
2] - 3log[H
+] ・・・(5)
logD = logK
ex + log[(HR)
2]
1.5/[H
+]
3 ・・・(6)
【0102】
抽出剤濃度依存性の結果より、抽出平衡定数を算出した。
K
ex = 1.58 × 10
3 [dm
3mol
-1]
【0103】
以下に基づき、実施例3(BEAPP)の化合物によるガリウムの抽出平衡式を導出した。
抽出実験の結果を踏まえて、以下の抽出平衡式を仮定した。
【0104】
【数2】
【0105】
抽出平衡定数K
exは、次のように表される。
K
ex = [GaR
2(HR)
3(NO
3)][H
+]
2/ [Ga
3+][NO
3−][(HR)
2]
2.5・・・(2)
【0106】
ガリウムの分配比Dは、次のように定義した。
D = [GaR
2(HR)
3(NO
3)] / [Ga
3+] ・・・(3)
【0107】
式(3)を式(2)に代入して整理すると、次の式が得られる。
D = K
ex[(HR)
2]
2.5[NO
3−]/ [H
+]
2 ・・・(4)
【0108】
両辺の対数をとると、次の式が得られる。
logD = log K
ex + 2.5log[(HR)
2] + log[NO
3-]- 2log[H
+]・・・(5)
logD = logK
ex + log[(HR)
2]
2.5[NO
3−]/[H
+]
2・・・(6)
【0109】
抽出剤濃度依存性の結果より、抽出平衡定数を算出した。
K
ex = 10.47 [dm
3 mol
-1]
【0110】
上記の式に基づき得られたインジウムの分配比Dと実施例2(BEAMP)の化合物濃度[RN]又はpHとの関係を
図10に、ガリウムの分配比Dと実施例3(BEAPP)の化合物濃度[RN]又はpHとの関係を
図11に、それぞれ示す。