(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;以下、AFMともいう)は、試料表面の近傍に保持された探針と試料表面との間に働く相互作用力を検出する。また、検出された相互作用力を一定に保つように探針−試料間の距離をフィードバック制御する。さらに、AFMは、このフィードバック制御を維持した状態で、試料を水平方向に走査する。その結果、探針は試料表面の凹凸をなぞるように上下する。AFMは、探針の上下方向の動きを、走査した水平位置に対して記録することにより、試料表面の凹凸像を得ることができる。
【0003】
ここで、探針−試料間の相互作用力を検出する力センサーとしては、探針を先端に有する片持ち梁(以後、カンチレバーともいう)が用いられる。このカンチレバーの変位量を検出するために、例えば、光てこ方式が広く用いられる。光てこ方式は、レーザー光などの光ビームをカンチレバーの背面に照射し、その反射光を4分割フォトダイオードなどの位置検出センサーで検出することにより、カンチレバーの変位量を検出する方法である。
【0004】
AFMは、特に、液中において試料表面の形状・物性を直接観察する手法として有用である。以後、液中の試料を観察するためのAFMを液中AFMという。液中AFMでは、カンチレバーと試料とを観察用液体に浸漬した状態で、試料表面の計測を行なう。
【0005】
このとき観察用液体が蒸発することで、溶存物質の濃度が刻々と変化することが問題となる。また、蒸発量が多くなると、観察用液体の溶液形状が変化することにより、レーザー光路が変化しうる。その結果、正確なカンチレバーの変位量を検出することが困難となる。
【0006】
この問題に対して、ゴム製のOリングのような弾性体により、AFMセルの隙間を密閉する手法が提案されている(特許文献1を参照)。弾性体により、観察用液体を密閉することで、蒸発を防ぐことができる。
【0007】
また、観察用液体の周囲に、観察用液体と混和しない密閉用液体を満たすことにより、観察用液体の蒸発を防ぐ手法が提案されている(特許文献2を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に示される手法によっては、弾性体によりAFMセルを密閉することにより、試料表面を水平方向に走査し、かつ、探針−試料間の距離を制御するための駆動部であるスキャナーの振動がカンチレバーにも伝播されるため、AFMによる計測精度が低下するという課題がある。
【0010】
また、特許文献2に示される手法によっては、密閉用液体の種類によって、観察用液体が制限されてしまうという課題がある。以下、より詳細に説明する。
【0011】
一般に、AFMセルは、カンチレバーとスキャナーなどの駆動部とが機械的に接合されないように構成される。もし、スキャナーなどの駆動部とカンチレバーが機械的に接合されると、駆動部で発生する機械振動がカンチレバーに伝播される。その結果、カンチレバーの変位量を正確に検出することが困難となるためである。
【0012】
しかし、特許文献1においては、AFMセルを密閉するため、ゴム製のOリングにより、カンチレバーとスキャナーとを機械的に接合する。その結果、Oリングを介してスキャナーの振動がカンチレバーに伝播されてしまう。
【0013】
例えば、ダイナミックモードAFMと呼ばれる手法においては、カンチレバーを微小振幅で振動させ、探針−試料間の相互作用力をカンチレバーの振動の、周波数・位相・振幅などの変化として検出する。ここで、カンチレバーを振動させるための励振手法として、圧電振動子で発生させた音響波を用いる音響励振法が広く用いられている。
【0014】
しかし、従来技術のように、カンチレバーとスキャナーとをOリングにより機械的に接合すると、カンチレバーを励振させるための音響波がOリングを通してAFM装置全体に伝播する。その結果、サンプルホルダーなどAFM装置を構成する部材が持つ機械共振が励起される。これは、カンチレバーの振動の共振特性を複雑化する原因となる。この共振特性の複雑化は、圧電振動子を用いてカンチレバーを励振させたときのカンチレバーの振動の安定性や定量性を低下させる要因となる。したがって、AFMによる計測精度が低下してしまう。
【0015】
また、特許文献2で示されるように、観察用液体の周囲に密閉用液体を満たす場合、観察用液体と密閉用液体とが完全に混和しないことが必要となる。したがって、密閉用液体に応じて、使用できる観察用液体が制限される。
【0016】
具体的には、観察用液体及び密閉用液体として使用される液体は、AFMを構成する部材に対する腐食性が低く、洗浄が容易であることが実用上、重要となる。そこで、従来は、観察用液体として水溶液を用いた観察が多く行われている。しかし、観察用液体に水溶液を使用する場合、これと混和してしまう水を密閉用液体として使用することができない。すなわち、特許文献2に示される方法では、密閉用液体との関係で使用できる観察用液体が制限されてしまう。
【0017】
そこで、本発明は、計測精度が低下せず、かつ、観察用液体が制限されない密閉型AFMセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る密閉型AFMセルの一態様は、観察用液体に浸漬された試料を計測するAFM(Atomic Force Microscope)のための密閉型AFMセルであって、探針を有する片持ち梁と、前記試料を固定するサンプルホルダーと、前記サンプルホルダーを移動させる駆動部であるスキャナーと、前記探針が前記試料の計測面近傍に位置するように前記片持ち梁を保持する蓋部と、前記スキャナーを保持する部材であり、前記試料を挟んで前記蓋部と相対する部材である本体部とを備え、前記蓋部と前記本体部とは、前記観察用液体とは異なる液体であり、当該観察用液体と接触していない液体である密閉用液体を介して接合されることにより、当該蓋部と当該本体部と前記密閉用液体とで形成される空間の内部に前記観察用液体を密閉する。
【0019】
この構成によると、密閉型AFMセルは、蓋部と本体部と密閉用液体とによって形成される空間の内部に観察用液体を密閉する。したがって、観察用液体の蒸発を抑制しつつ、スキャナー等の振動がカンチレバーに伝わることを防止できる。また、密閉用液体と観察用液体とは接しない。したがって、使用可能な観察用液体が制限されない。
【0020】
具体的には、前記蓋部と前記本体部との少なくとも一方は、撥水性又は撥油性を有する部材と前記蓋部又は前記本体部とにより形成された溝を有し、前記溝は、前記密閉用液体を保持するとしてもよい。
【0021】
これによると、密閉型AFMセルは、撥水性又は撥油性を有する部材と前記蓋部又は前記本体部とにより形成された溝を有することで、より安定して密閉用液体を保持することができる。
【0022】
また、前記蓋部及び前記本体部の少なくとも一方は、前記サンプルホルダーを囲むように他方へとせり出す壁部を有し、前記壁部の端部は、前記密閉用液体を保持するとしてもよい。
【0023】
これによると、密閉型AFMセルは、壁部により、より容易に密閉空間を形成することができる。
【0024】
具体的には、前記壁部の端部は、撥水性又は撥油性を有する部材と前記壁部の端部とにより形成された溝を有し、前記溝は、前記密閉用液体を保持するとしてもよい。
【0025】
これによると、壁部に、撥水性又は撥油性を有する部材と前記壁部の端部とにより溝を形成することができる。したがって、密閉型AFMセルが有する壁部は、より安定して密閉用液体を保持することができる。
【0026】
また、さらに、前記密閉用液体を補充するためのチューブを備えるとしてもよい。
【0027】
これによると、チューブを通して密閉用液体を補充することができる。したがって、長時間にわたり密閉型AFMセルは、密閉性を損なうことなく内部を密閉することができる。
【0028】
具体的には、前記密閉用液体は、水、イオン液体、フッ素系不活性液体、又はシリコーンオイルであるとしてもよい。
【0029】
なお、本発明は、このような密閉型AFMセルとして実現できるだけでなく、このような密閉型AFMセルの機能の一部又は全てを備えるAFMとして実現したりできる。
【発明の効果】
【0030】
以上、本発明によると、計測精度が低下せず、かつ、観察用液体が制限されない密閉型AFMセルを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態などは、一例であり、これらの各形態により、本発明が限定されるものではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0033】
まず、本発明に係る密閉型AFMセルが解決する課題を明確にするため、
図1〜
図2Bを参照して、本発明の関連技術についてより詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の関連技術に係る大気開放型AFMセル900の構成を示す。
【0035】
図1に示されるように、大気開放型AFMセル900は、観察用液体がAFMセルの内部に密閉されていない、大気開放型のAFMセルである。
【0036】
大気開放型AFMセル900は、検出部910と、駆動部930とを有する。検出部910と駆動部930とは、前述のように、機械的に接合されていない。検出部910と駆動部930との間に、観察用液体150に浸漬されている試料140が置かれている。
【0037】
より詳細には、検出部910は、圧電振動子112と、光学窓114と、カンチレバー120と、蓋部122とを有する。
【0038】
圧電振動子112は、電圧が印加されることにより振動する圧電素子を有する。圧電振動子112は、例えば、板状の金属製振動板に圧電セラミック素子を接合して構成される。
【0039】
大気開放型AFMセル900は、前述したダイナミックモードAFMと呼ばれる手法により、探針−試料間の相互作用力を検出する。圧電振動子112は、ダイナミックモードAFMにおいて、カンチレバーを振動させるための励起手段である。
【0040】
光学窓114は、蓋部に設けられた透明な窓である。光学窓114は、レーザー光を透過させる材料(例えばガラス等)により形成される。大気開放型AFMセル900は、カンチレバーの変位量を、光てこ方式で検出する。その際、光ビーム素子116から照射された光ビーム(例えばレーザー光)は、光学窓114を通ってカンチレバーの背面で反射する。さらに、反射光は光学窓114を通って、フォトダイオード等を有する位置検出センサー118によって検出される。
【0041】
カンチレバー120は、片持ち梁構造を有する部材である。カンチレバー120は、一端に探針を有し、他端が蓋部に機械的に接合されている。試料140と探針との間に働く相互作用力に応じて、カンチレバー120は変位する。
【0042】
蓋部122は、探針が試料140の表面である計測面の近傍に位置するように、カンチレバー120を保持する部材である。
【0043】
また、駆動部930は、サンプルホルダー132と、スキャナー134とを有する。
【0044】
サンプルホルダー132は、試料140を固定する。具体的には、試料140は、計測面を上に向けて、サンプルホルダー132に固定される。
【0045】
スキャナー134は、サンプルホルダー132を水平面内で移動させる駆動部である。また、スキャナー134は、サンプルホルダー132を垂直方向に移動させることにより、探針−試料間の距離を制御する。
【0046】
こうした大気開放型AFMセル900においては、観察用液体150は、計測中に蒸発してしまう。その結果、計測精度が低下するという問題が生じる。
【0047】
一方、
図2Aは、本発明の他の関連技術に係る密閉型AFMセル900Aの構成を示す。なお、
図1と同様の構成要素については、同じ符号を付け、詳細な説明を省略する。
【0048】
図2Aに示されるように、関連技術に係る密閉型AFMセル900Aは、蓋部122とサンプルホルダー132との間に、ゴム製のOリング160を備える。Oリング160により、観察用液体150は、蓋部122、Oリング160、及びサンプルホルダー132から構成される空間の内部に密閉される。
【0049】
次に、
図2Bは、密閉型AFMセル900Aに、スキャナー134から横方向の力が加えられた状態の一例を示す。
【0050】
スキャナー134が左方向に移動すると、スキャナー134に接合されているサンプルホルダー132に、左方向への力が加えられる。この力は、Oリング160を介して、蓋部122にも加えられる。その結果、蓋部122にも、左方向の力が加えられる。この力は、カンチレバー120を相互作用力とは無関係に変位させる。したがって、AFMによる、試料140の計測精度が低下する。
【0051】
以上述べた関連技術に係る発明では、観察用液体150をOリングで密閉するため、カンチレバー120の変位を計測する精度が低下する。
【0052】
本発明に係る密閉型AFMセルは、こうした課題を解決できる。以下、より詳細に説明する。
【0053】
(実施の形態1)
図3は、本発明の実施の形態1に係る密閉型AFMセル100の構成を示す。なお、
図1に示される大気開放型AFMセル900と同様の構成要素については同一の符号を付け、詳細な説明は省略する。
【0054】
図3に示されるように、密閉型AFMセル100は、検出部110と、駆動部130とを備える。大気開放型AFMセル900と異なり、検出部110と駆動部130とは、密閉用液体170を介して結合している。すなわち、密閉型AFMセル100は、蓋部122と、本体部136と、密閉用液体170とによって形成される空間の内部に、観察用液体150を密閉している。
【0055】
より詳細には、検出部110は、圧電振動子112と、光学窓114と、カンチレバー120と、蓋部122とを有する。また、駆動部130は、サンプルホルダー132と、スキャナー134と、本体部136とを有する。
【0056】
本体部136は、スキャナー134を保持する部材である。本体部136は、サンプルホルダー132の上に置かれた試料140を挟んで蓋部122と相対する。より具体的には、
図3に示されるように、本体部136を凹形状とし、蓋部122を、本体部136の凹形状に蓋をすることが可能な平面形状として形成することが考えられる。
【0057】
なお、蓋部122及び本体部136の形状はこれに限定されず、密閉用液体170を介して互いに組み合わされることにより、密閉空間を形成できる任意の形状であればよい。例えば、蓋部122を逆凹形状とし、本体部136を平面形状としてもよい。また、蓋部122を逆凹形状とし、本体部136を凹形状としてもよい。
【0058】
すなわち、蓋部122及び本体部136の少なくとも一方は、サンプルホルダー132を囲むように他方へとせり出す壁部を有している。
【0059】
ここで、せり出した壁部の端部は、観察用液体150とは異なる密閉用液体170を保持している。なお、蓋部122及び本体部136は、観察用液体150と密閉用液体170とが互いに接触しないような構造となっている。したがって、それぞれ用途に適した任意の液体を使用できる。密閉用液体170として使用できる液体としては、例えば、水、イオン液体、フッ素系不活性液体、シリコーンオイル等が考えられる。
【0060】
蓋部122と本体部136とは、密閉用液体170を介して接合される。密閉型AFMセル100は、蓋部122と本体部136と密閉用液体170とで形成される空間の内部に観察用液体150を密閉する。
【0061】
以上述べたように、本実施の形態に係る密閉型AFMセル100は、密閉用液体170を介して蓋部122と本体部136とを結合することにより、観察用液体150の蒸発を抑える密閉空間を形成する。また、蓋部122と本体部136とは密閉用液体170のみで結合されているため、機械的に分離している。したがって、スキャナー134等により生じる駆動部130側の振動が、カンチレバー120に伝播するのを防ぐことができる。
【0062】
さらに、密閉用液体170は、機械部材と独立して自由に変形するため、例えばOリングを用いた関連技術と比較して、試料140の厚みや観察範囲に対する制約が少ない。
【0063】
また、観察用液体150と密閉用液体170とが直接接触しないため、用途に合わせて種々の液体を観察用液体150及び密閉用液体170として選択することができる。
【0064】
次に、
図4A及び
図4Bを参照して、蓋部122と本体部136とを密閉用液体170を介して結合することの利点について、より詳細に説明する。
【0065】
図4Aは、媒質中を伝播する横波を示す概念図である。横波は、媒質の振動方向が波の進行方向に対して垂直となっている。また、
図4Bは、媒質中を伝播する縦波(疎密波)を示す概念図である。縦波は、媒質の振動方向が波の進行方向に対して平行となっている。
【0066】
スキャナー134等が発生させる振動には、縦波及び横波の双方が含まれている。しかし、横波は液体媒質中を伝播しない。したがって、スキャナー134等が発生させた機械振動のうち横波は、密閉用液体170を介してカンチレバー120に伝播されることはない。
【0067】
一方、縦波は液体媒質中を伝播する。しかし、固体媒質と液体媒質とでは音響インピーダンスが著しく異なる。よって、その界面における縦波の透過率は極めて低い。したがって、スキャナー134等が発生させた機械振動のうち縦波がカンチレバー120に伝播することも抑制される。
【0068】
(実施の形態2)
実施の形態1に係る密閉型AFMセル100として、基本構成を示した。次に、より安定的に密閉用液体170を介して検出部110と駆動部130とを結合することが可能な、密閉型AFMセルの構成を示す。
【0069】
図5は、本発明の実施の形態2に係る密閉型AFMセル100Aの構成を示す。
【0070】
図5に示されるように、密閉型AFMセル100Aにおいては、本体部136Aが有する壁部の先端部と、蓋部122Aの裏面のうち壁部の先端と相対する部分のそれぞれに、溝171A及び171Bが形成されている。本体部136Aが有する壁部の先端部に形成された溝171Aは、撥水性を有する部材172Aと本体部136Aが有する壁部の先端部とにより形成されている。また、蓋部122Aの裏面のうち壁部の先端と相対する部分に形成された溝171Bは、撥水性を有する部材172Bと蓋部122Aとにより形成されている。また、溝171A及び171Bには密閉用液体170が満たされ、密閉用液体170を介して検出部110と駆動部130が結合されている。
【0071】
すなわち、壁部の端部は、2つの撥水性を有する部材172Aと壁部の先端部とにより形成された溝171Aを有し、形成された溝171Aには、密閉用液体170が保持されている。撥水性を有する部材172Aには、例えばシリコーンゴム等を使用することが考えられる。
【0072】
より具体的には、例えば、蓋部122Aを円板形状の部材であるとする。また、本体部136Aを、蓋部122Aの直径と同じ直径を有する円板形状の底面と、底面の外周において、サンプルホルダー132を囲むように蓋部122A方向へせり出した壁部とを有する円柱形状の部材であるとする。
【0073】
このとき、本体部136Aが有する壁部の端部には、
図5に示されるように、直径の異なる2つの環状の撥水性を有する部材172Aが設置され、2つの部材172Aと本体部136Aが有する壁部の先端部とにより溝171Aが形成される。
【0074】
同様に、蓋部122Aの裏面において、本体部136Aに設置された部材172Aと相対する位置にも、直径の異なる2つの環状の撥水性の部材172Bが設置され、2つの部材172Bと蓋部122Aとにより溝171Bが形成される。蓋部122A及び本体部136Aにそれぞれ形成された溝171A及び171Bには、密閉用液体170が保持される。
【0075】
なお、密閉用液体170が油性の液体である場合には、部材172A及び172Bは、撥水性の代わりに、撥油性を有する部材であるとしてもよい。ここでの撥水性・撥油性とは、例えば、部材172A及び172Bの表面上で密閉用液体170の液滴が示す接触角が10度以上を示すときの部材172A及び172Bの性質を指している。
【0076】
また、密閉型AFMセル100Aは、
図5に示される様に、溝171A及び171Bに密閉用液体170を補充するためのチューブ174を備えてもよい。なお、
図5において、チューブ174は、蓋部122Aに設置されている。しかし、チューブ174は、本体部136Aに設置してもよい。
【0077】
次に、本実施の形態に係る密閉型AFMセル100Aの密閉性を評価するために行った実験の結果について、
図6を参照して説明する。
【0078】
図6は、2種類のAFMセルにおける観察用液体の容積変化を比較した図である。縦軸は、観察開始時の容積に対して規格化した観察用液体150の容積を示す。横軸は、測定時間[分]を示す。なお、正確を期すため、5回実験を行った。各点は5回の平均値を示す。また、各点から上下に示されるバーは、標準偏差の範囲を示すエラーバーである。
【0079】
具体的には、密閉型AFMセル100Aにおいて、サンプルホルダー132上に観察用液体150であるリン酸緩衝生理食塩水200μLを滴下した後、密閉用液体170として純水を使用して密閉した。その後、室温を25℃に保ち、観察用液体150の容積変化を調べた。
【0080】
また、比較のため、観察用液体150を密閉しない従来技術に係る大気開放型AFMセルにおいても、同様にリン酸緩衝生理食塩水200μLを滴下した後、観察用液体150の容積変化を調べた。
【0081】
その結果、
図6に示される様に、大気開放型AFMセルにおいては、観察用液体150は測定時間が経過するに応じて減少し、90分間で約20%が蒸発した。一方、密閉型AFMセル100Aにおいては、観察用液体150の容積は90分経過後も有意な変化が見られなかった。
【0082】
また、実験では、密閉型AFMセル100Aを用いることで、長時間にわたりカンチレバー120の変位を安定して検出することができた。
【0083】
以上の実験結果より、密閉型AFMセル100Aは、観察用液体150の蒸発を十分に抑制できることがわかる。また、スキャナー134等の駆動部とカンチレバー120とを機械的に分離することにより、駆動部の振動がカンチレバー120に伝播されるのを防止できるといえる。
【0084】
以上、本発明の実施の形態1又は2に係る密閉型AFMセルについて説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0085】
例えば、上記の各図において、各構成要素の角部及び辺を直線的に記載しているが、製造上の理由により、角部及び辺が丸みをおびたものも本発明に含まれる。
【0086】
また、
図3において、壁部は本体部136が有しているが、前述のように、蓋部122又は本体部136の少なくとも一方が壁部を有していればよい。例えば、
図7に示されるように、密閉型AFMセル100Bにおいては、蓋部122Bが本体部136Bへ向かいせり出す壁部を有していてもよい。
【0087】
なお、実施の形態1又は2に係る密閉型AFMセルは、必ずしも壁部を有していなくてもよい。例えば、蓋部と本体部との少なくとも一方は、撥水性又は撥油性を有する部材により形成された溝を有し、溝が、密閉用液体を内側に保持してもよい。
【0088】
また、上記実施の形態1又は2に係る密閉型AFMセル、及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。
【0089】
さらに、本発明の主旨を逸脱しない限り、実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
【0090】
また、上記で用いた数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【0091】
また、上記密閉型AFMセルの構成は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、本発明に係る密閉型AFMセルは、上記構成の全てを必ずしも備える必要はない。言い換えると、本発明に係る密閉型AFMセルは、本発明の効果を実現できる最小限の構成のみを備えればよい。
【0092】
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。