(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、車両には、衝突事故が発生した際に、乗員を保護するためのエアバッグ装置が搭載されているものがある。エアバッグ装置は、例えば、車両の衝突が起きた際に、車両の加速度(減速度)を加速度センサで検出し、その検出結果に基づいて所定のタイミングでエアバッグを展開させる。
【0003】
また近年は、車両が衝突した場合に、上記のような加速度センサの検出結果に基づいて、車体の変形の程度や、損壊状況を推定し、その推定結果を外部のサービスセンタ等に知らせるシステム(装置)の開発が進んでいる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような装置では、車両の損壊状況等の客観的な情報を外部のサービスセンタ等に迅速に送信することができるので、情報を受信したサービスセンタ等は、車両の損壊状況を正確に把握でき、損壊状況に応じた適切な対応をとることができるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両が衝突した際に、車両の損壊状況等を正確に推定するためには、車体のどの部分が衝突してどの程度の変形が生じているのかを正確に判別(推定)することが重要である。
【0007】
例えば、特許文献1に記載の装置では、複数の加速度センサが車両に搭載されており、これら複数の加速度センサの加速度信号の発生時間の時間差に基づいて車両の衝突形態(正面衝突、オフセット衝突、ポール衝突、側面衝突、後方衝突等)を推定している。このような特許文献1に記載の装置でも、車両の衝突形態を判別(推定)することはできる。
【0008】
しかしながら、単に時間差に基づくだけでは十分な判別精度が得られず、判別精度のさらなる向上が望まれている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両の衝突形態を的確に判別することができる衝突判別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、車両の衝突時の加速度を検出する加速度検出手段と、該加速度検出手段の検出結果から得られる衝突波形に基づいて車両の衝突形態を判別する衝突形態判別手段と、予め類別した車両の衝突形態に対応する複数の基準波形が記憶された記憶手段と、を備え、前記衝突形態判別手段が、前記記憶手段に記憶された基準波形と、前記加速度検出手段の検出結果から得られる衝突波形との相似度に基づいて、車両の衝突形態を判別する
と共に、前記基準波形上に設定した複数の特徴点と前記衝突波形上に設定した複数のサンプリング点との残差の和に基づいて前記相似度を求めることを特徴とする衝突判別装置にある。
【0011】
かかる第1の態様では、基準波形と衝突波形との相似度に基づいて判別することで、車両の衝突形態を的確に判別することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様の衝突判別装置において、
前記残差は、前記特徴点と前記サンプリング点との最小差であることを特徴とする衝突判別装置にある。
【0016】
本発明の第
3の態様は、第
1又は2の態様の衝突判別装置において、前記衝突形態判別手段は、前記衝突波形及び前記基準波形を正規化した上で前記相似度を求めることを特徴とする衝突判別装置にある。
【0017】
かかる第
3の態様では、衝突波形と基準波形との相似度をより正確に求めることができる。
【0018】
本発明の第
4の態様は、第
1〜3の何れか一つの態様の衝突判別装置において、前記衝突波形は、前記加速度検出手段の検出結果から算出された前記車両の変位と、当該車両の加速度とに基づいて形成されたものであることを特徴とする衝突判別装置にある。
【0019】
かかる第
4の態様では、衝突形態毎の基準波形の違いがより明確になるため、車両の衝突形態を比較的容易に判別することができる。
【発明の効果】
【0020】
かかる本発明では、基準波形と衝突波形との相似度に基づいて、車両の衝突形態を的確に判別することができる。この衝突形態を含む所定情報を外部のサービスセンタ等に送信することで、情報を受信したサービスセンタ等は、車両の損壊状況等を極めて正確に把握することができる。したがって、サービスセンタ等は車両の損壊状況等に応じた適切な対応をとることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る衝突判別装置10は、車両1が衝突した際に、その衝突形態を判別するものであり、車両1に搭載される加速度センサ(加速度検出手段)20と、この加速度センサ20の検出結果に基づいて車両1の衝突形態を判別する衝突形態判別手段30と、後述する基準波形等の各種情報が記憶された記憶部(記憶手段)40と、を有するECU50と、で構成されている。また車両1には、外部のサービスセンタ等に、衝突形態を含む所定情報を送信する通信装置60が備えられている。
【0024】
加速度センサ20は、車両1に搭載されて車両1の衝突時の加速度(減速度)を検出する。本実施形態では、4つの加速度センサ20が車両1に設けられている。例えば、車両1の前端部に、右フロントセンサ20a及び左フロントセンサ20bが設けられ、車両1の前後方向中央部に、右サイドセンサ20c及び左サイドセンサ20dがそれぞれ設けられている。
【0025】
車両1に搭載する加速度センサ20の数は特に限定されず、車両1に少なくとも一つ搭載されていればよい。また加速度センサ20を設ける位置も特に限定されないが、衝突時に車両の1の変形の影響を受けにくい位置であることが好ましい。
【0026】
ECU50が備える衝突形態判別手段30は、車両1が衝突した際に、加速度センサ20の検出結果から得られる衝突波形に基づいて、予め類別した車両1の衝突形態を判別する。すなわち、車両1の衝突が何れの衝突形態(例えば、正面衝突、斜め衝突、オフセット衝突、ポール衝突等)に属するかを判別する。
【0027】
本発明では、衝突形態判別手段30が、各衝突形態に対応する基準波形と、加速度センサ20の検出結果から得られた衝突波形との相似度に基づいて車両1の衝突形態を判別する。
【0028】
なお本実施形態では、車両1に複数の加速度センサ20が設けられているが、衝突形態判別手段30は、このうちの何れか一つの加速度センサ20(20a〜20d)の検出結果に基づいて車両1の衝突形態を判別する。例えば、車両1の衝突時の出力が最大である加速度センサ20a〜20dの何れかの検出結果に基づいて車両1の衝突形態を判別する。勿論、衝突形態の判別は、特定の加速度センサ20の検出結果に基づくものであってもよいし、複数の加速度センサ20の検出結果に基づくものであってもよい。
【0029】
以下、衝突形態判別手段30による衝突形態の判別手順について説明する。なお
図3は、衝突形態の判別手順を示すフローチャートである。
【0030】
図3に示すように、衝突形態判別手段30は、車両1の衝突が起こると、衝突が終了した時点で、加速度センサ20の検出結果に基づいて衝突波形を形成する(ステップS1)。本実施形態では、加速度センサ20の検出結果から算出された車両1の変位と、車両1の加速度とに基づいて衝突波形を形成する。すなわち加速度センサ20の検出結果である車両1の加速度(減速度)と、検出結果である加速度を2階積分して得られる車両1の変位とから、例えば、
図4に示すような衝突波形を形成する。
【0031】
なお加速度センサ20は、所定の間隔で車両1の加速度を検出(サンプリング)しており、各検出結果(加速度情報)は記憶部40に適宜記録される。そして衝突形態判別手段30は、この加速度情報を記憶部40から必要な加速度情報を読み出して衝突波形を形成する。また記憶部40は、いわゆるイベントデータレコーダ(EDR)としても機能するものであり、この記憶部40には、加速度情報の他に、例えば、乗員体格や、エアバッグ点火有無等の車両情報も適宜記録される。
【0032】
次に、衝突形態判別手段30は、得られた衝突波形を、各衝突形態に対応する基準波形と比較し、両者の相似度(相似の程度)を求める(ステップS2)。そして、衝突形態毎に求められた両波形の相似度から車両1の衝突形態を判別する(ステップS3)。すなわち、衝突形態判別手段30は、衝突波形と各基準波形との相似度が最も高い衝突形態を車両1の衝突形態であると判別する。
【0033】
なお衝突波形と基準波形との相似度は、これら衝突波形及び基準波形を正規化した上で、例えば、最大値を100%としてそれぞれの波形を正規化した上で求められることが好ましい。これにより、相似度を比較的容易且つ正確に求めることができる。
【0034】
ここで基準波形は、衝突形態毎に予め規定したものであり、例えば、
図5に示すように、正面衝突、オフセット衝突、ポール衝突等の各衝突形態で波形の特徴が異なる。このため、加速度センサ20の検出結果から得られた衝突波形と複数の各基準波形との相似度に基づいて衝突形態を判別することで、車両1の衝突形態を正確に判別することができる。特に、基準波形が、衝突時の車両1の変位と加速度との関係から規定されたものである場合、衝突形態毎の波形の特徴の違いが顕著であり、車両1の衝突形態を判別し易い。
【0035】
このような各衝突形態に対応する複数の基準波形は、記憶部40に予め記憶されている。なお基準波形の形成方法は、特に限定されないが、例えば、該当車両の有限要素シミュレーションの結果に基づいて作成すればよい。
【0036】
衝突波形と基準波形との相似度の求め方は、特に限定されないが、例えば、本実施形態に係る衝突形態判別手段30は、次のような手順で相似度を求めている。衝突形態判別手段30は、例えば、
図6に示すように衝突形態に対応する基準波形と衝突波形とを比較し、基準波形の複数の特徴点と衝突波形との残差に基づいて相似度を求めている。なお
図6は、正面衝突、オフセット衝突及びポール衝突の基準波形を正規化したものと衝突波形の正規化したものとを比較した例である。
【0037】
ここで、基準波形の特徴点としては、例えば、波形の傾きが変化する点等が挙げられ、各衝突形態に対応する基準波形上に複数の特徴点をそれぞれ設定する。例えば、オフセット衝突の場合、基準波形には4つの特徴点C1〜C4を設定し、正面衝突及びポール衝突の場合、基準波形にはそれぞれ3つの特徴点C1〜C3を設定している(
図5参照)。このように特徴点の数は、衝突形態によって異なっていてもよいし同じであってもよい。
【0038】
これら基準波形の各特徴点と衝突波形との残差の求め方も特に限定されないが、本実施形態に係る衝突形態判別手段30は、基準波形の各特徴点と衝突波形の複数のサンプリング点との最小差を、各特徴点と衝突波形との残差として求めている。例えば、
図7に示すように、基準波形における特徴点C1と衝突波形との残差を求める場合、特徴点C1と衝突波形の複数のサンプリング点、例えば、サンプリング点P1〜P3との差d1〜d3を求め、そのうちの最小差d2を特徴点C1と衝突波形との残差とする。なお本実施形態では、サンプリング点P1〜P3との差を求めているが、対象とするサンプリング点の数は特に限定されず、必要に応じて適宜決定されればよい。例えば、サンプリング点の全てを対象としてもよい。
【0039】
基準波形の各特徴点C1〜C4について衝突波形との残差が求まると、次いで、基準波形の各特徴点と衝突波形の複数のサンプリング点との残差の和の最小値に基づいて、相似度を求める。例えば、本実施形態では、各特徴点の残差(最小差)の和の平均値を算出し、この平均値に基づいて基準波形と衝突波形との相似度を求める。相似度は、残差の和の平均値が小さいほど高くなる。そして、この相似度が最も高い基準波形に対応する衝突形態が、車両1の衝突形態であると判断される。例えば、
図6に示す例では、基準波形と衝突波形との相似度はオフセット衝突の場合が最も小さくなるため、車両1の衝突形態はオフセット衝突であると判断される。
【0040】
このように各衝突形態に対応する基準波形と衝突波形との相似度に基づいて衝突形態を判別することで、車両1の衝突形態を正確に判別することができる。また上述のように基準波形の特徴点と衝突波形との残差の和の平均値に基づいて相似度を求めることで、各衝突形態に対応する基準波形の特徴点の数が異なる場合でも、相似度を正確に比較することができる。勿論、各衝突形態で基準波形の特徴点の数が一致している場合には、残差の和から相似度を求めるようにしてもよい。
【0041】
また本実施形態では、基準波形の各特徴点と衝突波形の複数のサンプリング点との最小差を、各特徴点と衝突波形との残差としているが、各特徴点と衝突波形との残差の求め方はこれに限定されるものではない。さらに本実施形態では、衝突波形と基準波形との相似度を、基準波形の特徴点と衝突波形の残差に基づいて判断するようにしたが、相似度の判断方法は、必ずしも残差に基づくものでなくてもよい。
【0042】
このように衝突形態判別手段30によって衝突形態が判別された後は、判別された衝突形態の情報を含む所定情報が、通信装置60によって、外部のサービスセンタ等に適宜送信される。外部のサービスセンタ等では、通信装置60から送信された情報に基づいて、車両1の損壊状況等を正確に把握でき、その状況に応じた適切な対応をとることができる。
【0043】
また本実施形態では、車両1に複数の加速度センサ20が搭載されているが、一つの加速度センサ20によっても衝突形態を正確に判別することができる。
【0044】
また本発明に係る衝突判別装置では、上述のように車両1の衝突形態を判別しているが、さらに、判別した衝突形態に基づいて、乗員の傷害発生確率を算出するようにしてもよい。
【0045】
乗員の傷害発生確率は、例えば、次のように算出する。衝突形態判別手段30によって判別された衝突形態と車両1の衝突速度とから、車体の対象部位(例えば、トーボード)の変形量や変形時間等を予測する。そして、これら対象部位の変形量や変形時間等の情報と、記憶部40に記録されている車両および乗員情報とから、乗員の傷害発生確率を予測する。
【0046】
すなわち、傷害発生確率Pは、衝突形態別に下記式(1)(2)から算出することができる。
【0047】
P=1/(1+exp(−Z)) (1)
Z=β
0+(β
1x
1+・・・+β
n1x
n)+(β
n1+1x
n1+1+・・・+β
n2x
n2)+(β
n2+1x
n2+1・・・+β
nnx
nn) (2)
【0048】
上記式(2)をより詳しく説明すると、以下の通りである。係数βと傷害因子xの積の和Zは、各傷害因子の傷害発生への影響度の総和を意味する。この値Zが増大すると傷害発生確率Pが増大する。β
1x
1+・・・+β
n1x
nは、各傷害因子xを記憶部40に記録された乗員体格やエアバッグ展開有無などとしたとき、それらの傷害発生への影響度の総和を意味する。β
n1+1x
n1+1+・・・+β
n2x
n2は、各傷害因子xを記憶部40に記録された衝突波形の特徴点としたとき、衝突波形の傷害発生への影響度の総和を意味する。β
n2+1x
n2+1・・・+β
nnx
nnは、対象部位の変形量および変形時間としたとき、車体変形の傷害発生への影響度の総和を意味する。x
n1+1〜x
n2は衝突形態毎に異なる。このように、衝突形態毎に傷害因子は異なり、各係数βの値も異なる。傷害予測確率Pの算出式が衝突形態毎であることによって、予測精度は単一の算出式よりも向上すると考えられる。
【0049】
このように予測された傷害発生確率を含む情報を、上述した衝突形態の情報と共に、外部のサービスセンタ等に送信することで、サービスセンタ等では、その後の対応をさらに適切なものとすることができる。
【0050】
なお傷害発生確率の予測に用いる情報は、必要に応じて適宜決定されればよく、特に限定されるものではない。
【0051】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能なものである。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、衝突形態判別手段30が、車両の変位と加速度とに基づいて衝突波形を形成し、この衝突波形と基準波形とから衝突形態を判別するようにしたが、衝突波形及び基準波形は、例えば、時間と車両の加速度とから形成されたものであってもよい。この場合には、衝突波形及び基準波形を正規化して比較することが好ましい。なお、時間に関しては、衝突期間を考慮して最大時間を設定し、設定した最大時間を100%として正規化すればよい。