特許第5761738号(P5761738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761738
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】有機塩素含有廃棄物処理装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/14 20060101AFI20150723BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C08J11/14ZAB
   B09B3/00 302A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-44579(P2011-44579)
(22)【出願日】2011年3月2日
(65)【公開番号】特開2012-180460(P2012-180460A)
(43)【公開日】2012年9月20日
【審査請求日】2013年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】岡村 聰一郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 泰之
【審査官】 近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−194618(JP,A)
【文献】 特開2008−174660(JP,A)
【文献】 特開2005−118611(JP,A)
【文献】 特開2003−129062(JP,A)
【文献】 特開2007−119525(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/004268(WO,A1)
【文献】 特開2010−207704(JP,A)
【文献】 特開2012−130860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00〜5/00
C08J 11/00〜11/28
B29B 17/00〜17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な内筒と、
該内筒を囲繞する外熱炉と、
前記内筒の中腹に設けられ、該内筒の内部と前記外熱炉の内部とを連通させる排気ダクトと、
前記内筒の一端から該内筒の内部に延設され、過熱蒸気を該内筒に供給する蒸気管と、
該蒸気管から過熱蒸気を吐出する蒸気吐出口とを備え、
前記内筒の他端から有機塩素含有廃棄物が該内筒の内部へ供給され、該内筒に供給された有機塩素含有廃棄物が、前記外熱炉からの熱と、前記蒸気吐出口から吐出された過熱蒸気とで加熱され、前記内筒の一端から有機塩素が分解された廃棄物が該内筒の外部へ排出され、
前記蒸気吐出口は、前記内筒の前記外熱炉で囲繞される全体の領域のうち、有機塩素含有廃棄物の流れの下流側3分の2の領域に配置され、該蒸気吐出口から下向きに過熱蒸気が吐出されることを特徴とする有機塩素含有廃棄物処理装置。
【請求項2】
前記蒸気吐出口から吐出される過熱蒸気の吐出速度は、内筒の直径を代表長さとしてフルード数が7以上となるように設定されることを特徴とする請求項に記載の有機塩素含有廃棄物処理装置。
【請求項3】
前記蒸気管が貫通可能な筒状部を備え、該筒状部を支点として前記蒸気管を前記内筒の中心軸上に支持することを特徴とする請求項1又に記載の有機塩素含有廃棄物処理装置。
【請求項4】
前記筒状部を前記排気ダクトによって支持することを特徴とする請求項に記載の有機塩素含有廃棄物処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素含有廃棄物の有機塩素を分解したり、有機塩素含有廃棄物から塩素を除去するために用いられる有機塩素含有廃棄物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃プラスチック等の有機塩素含有廃棄物の有機塩素を分解したり、有機塩素含有廃棄物から塩素を除去し、塩素や塩素化合物の含有率の低い廃棄物を燃料として利用する技術が種々開発されている。
【0003】
従来、外部加熱による熱伝導だけで有機塩素含有廃棄物の有機塩素の分解や塩素除去を行う場合には、原料(有機塩素含有廃棄物)の温度を300℃以上とする必要があったが、過熱蒸気による直接加熱法の導入によって、200〜250℃程度の比較的低温で有機塩素分解・塩素除去を行うことが可能になった。これにより、産業上で有効利用され難い低温廃熱の利用が可能となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、過熱蒸気を用いて有機塩素含有廃棄物の有機塩素分解・塩素除去を行う場合には、過熱蒸気で有効に使われるエンタルピーは極一部に過ぎず、たとえ排蒸気温度を100℃程度と低くしても、蒸気潜熱を含むエンタルピーの大部分は排蒸気として持ち去られるため、極力少ない過熱蒸気で、被加熱物を目標温度に速やかに、かつ、均一に昇温させる必要がある。ここで、蒸気を加熱炉の内部で凝縮させ、蒸気潜熱を回収することも考えられるが、凝縮水の排出方法や凝縮部を含む接液部の塩素による腐食を考慮すると困難を極める。
【0005】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、より少ない蒸気量で目標温度まで有機塩素含有廃棄物を昇温させることができ、有機塩素含有廃棄物の有機塩素分解・塩素除去を効率よく行うことのできる有機塩素含有廃棄物処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、有機塩素含有廃棄物処理装置であって、回転可能な内筒と、該内筒を囲繞する外熱炉と、前記内筒の中腹に設けられ、該内筒の内部と前記外熱炉の内部とを連通させる排気ダクトと、前記内筒の一端から該内筒の内部に延設され、過熱蒸気を該内筒に供給する蒸気管と、該蒸気管から過熱蒸気を吐出する蒸気吐出口とを備え、前記内筒の他端から有機塩素含有廃棄物が該内筒の内部へ供給され、該内筒に供給された有機塩素含有廃棄物が、前記外熱炉からの熱と、前記蒸気吐出口から吐出された過熱蒸気とで加熱され、前記内筒の一端から有機塩素が分解された廃棄物が該内筒の外部へ排出され、前記蒸気吐出口は、前記内筒の前記外熱炉で囲繞される全体の領域のうち、有機塩素含有廃棄物の流れの下流側3分の2の領域に配置され、該蒸気吐出口から下向きに過熱蒸気が吐出されることを特徴とする。
【0007】
そして、本発明によれば、外熱炉からの熱と、蒸気吐出口から吐出された過熱蒸気とで回転する内筒の内部に供給された有機塩素含有廃棄物を加熱するため、少ない蒸気で有機塩素含有廃棄物を目標温度まで昇温させることができ、有機塩素分解・塩素除去を効率よく行うことができる。また、外熱炉からの熱によって昇温した有機塩素含有廃棄物に直接過熱蒸気を接触させることができるため、より効率よく有機塩素の分解、塩素の除去を行うことができる。
【0009】
また、上記有機塩素含有廃棄物処理装置において、前記蒸気吐出口から吐出される過熱蒸気の吐出速度を、内筒の直径を代表長さとしてフルード数が7以上となるように設定することができる。これにより、さらに効率よく有機塩素分解・塩素除去を行うことができる。
【0010】
上記有機塩素含有廃棄物処理装置において、前記蒸気管が貫通可能な筒状部を備え、該筒状部を支点として前記蒸気管を前記内筒の中心軸上に支持することができ、前記筒状部を前記排気ダクトによって支持することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、有機塩素含有廃棄物の有機塩素分解・塩素除去を効率よく行うことのできる有機塩素含有廃棄物処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の一実施の形態を示す概略図である。
図2】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置のシミュレーションの計算条件を説明するための概略図である。
図3】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の比較例のシミュレーション結果を示す図である。
図4】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の実施例1のシミュレーション結果を示す図である。
図5】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の実施例2のシミュレーション結果を示す図である。
図6】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の実施例3のシミュレーション結果を示す図である。
図7】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の実施例4のシミュレーション結果を示す図である。
図8】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の実施例5のシミュレーション結果を示す図である。
図9】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の比較例及び実施例1〜5のシミュレーション結果を示すグラフである。
図10】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の実施例6のシミュレーション結果を示す図である。
図11】本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の実施例2及び6のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明にかかる有機塩素含有廃棄物処理装置の一実施の形態を示し、この処理装置1は、一方向に回転可能な内筒2と、内筒2を囲繞する外熱炉3と、内筒2の中腹に設けられ、内筒2の内部と外熱炉3の内部とを連通させる排気ダクト4と、内筒2の内部に延設され、過熱蒸気を内筒2に供給する蒸気管5等を備える。
【0015】
内筒2は、内部に供給された廃プラスチック等の有機塩素含有廃棄物(以下、適宜「廃棄物」という)Wを加熱するために設けられ、円筒状の本体2aに、廃棄物Wを内筒2の内部に供給する供給部2bと、処理された廃棄物W’を排出する排出部2cとを備える。
【0016】
外熱炉3は、内筒2の内部を外側から加熱するために設けられ、内筒2の両端部の領域を除く中央部を囲繞するように配置される。外熱炉3の熱源には、熱ガス、電気等が用いられる。
【0017】
排気ダクト4は、内筒2の排ガスGを外熱炉3に導くために設けられる。この排気ダクト4は、後述する蒸気管5を保持する筒状部5aの支持部も兼ねている。
【0018】
蒸気管5は、内筒2の内部に供給された廃棄物Wを加熱する過熱蒸気Sを過熱蒸気発生装置(不図示)から内筒2の内部に導くために設けられる。蒸気管5は、この蒸気管5が貫通する筒状部5aを支点として内筒2の中心軸上に支持され、筒状部5aは、上記排気ダクト4によって支持される。蒸気管5には、過熱蒸気Sを下方のWに向けて吐出する吐出口5bが穿設される。
【0019】
次に、上記構成を有する処理装置1の動作について説明する。
【0020】
外熱炉3を250〜300℃に加熱した状態で、内筒2の供給部2bに供給装置(不図示)を介して廃棄物Wを供給すると、廃棄物Wは、外熱炉3の熱により加熱されながら内筒2の内部を左方に向かって移動する。これにより、外熱炉3からの熱が廃棄物Wに伝導され、内筒2内で廃棄物Wを高温状態にすることができ、廃棄物Wに含まれる有機塩素の分解が進行する。
【0021】
次に、排出部2c側から内部に延設された蒸気管5を介して内筒2の内部に蒸気管5の吐出口5bから300〜350℃の過熱蒸気Sを下方の廃棄物Wに向けて吐出する。廃棄物Wは、吐出口5bの直下に達すると、蒸気管5の吐出口5bから吐出された過熱蒸気Sが直接廃棄物Wに接触して未分解の有機塩素が分解され、ほとんど完全に有機塩素が分解された廃棄物W’が排出部2cから排出される。
【0022】
上述のように、未分解の有機塩素を含む廃棄物Wは、吐出口5bから供給された過熱蒸気Sに直接接触するため、効率よく有機塩素を分解することができる。また、有機塩素を分解した後の廃棄物W’を水洗して脱塩することができる。さらに、酸素を含まない過熱蒸気Sを用いるため、内筒2等の爆発の虞もない。内筒2から外熱炉3を経て外部に排出された排ガスGは、ブロワ(不図示)を介してバグフィルタ(不図示)等を経て適切に処理される。
【0023】
尚、上記実施の形態では、排気ダクト4及び蒸気管5の吐出口5bを各々1つ設けたが、これらは複数配置してもよい。
【0024】
次に、上記構成を有する処理装置1のシミュレーション例について、図2乃至図11を参照しながら説明する。
【0025】
図2は、シミュレーションの計算条件を示す。図1に示した処理装置1を用い、内筒2の内径をDとした場合に、内筒2の全長Lを略々10とし、両端部を除くL/D=6の領域を外熱炉3で525K(約250℃)に加熱する。廃棄物(被加熱物)Wの温度を30℃、かさ密度を0.3t/m3、蒸気管5に導入される過熱蒸気Sの温度を575K(約300℃)とし、内筒2内における廃棄物Wの充填率を9%、内筒2の直径Dを代表長さとしたフルード数Fr(式1参照、同式において、vは蒸気吐出口5bから吐出される過熱蒸気Sの吐出速度、gは重力加速度を示す)を11とした。
【0026】
【数1】
【0027】
上記条件の下で、図3図8に示すように、過熱蒸気Sの導入位置を変化させて内筒2内の被加熱物Wの温度をシミュレートした。各図の内筒2の内部の色が内筒2内の温度分布を示している。図3は、比較例であって内筒2の排出部2c側の端部から過熱蒸気Sを導入した場合、図4図8は、実施例1〜5を示し、各々丸数字で示した場所に位置する蒸気管5の1箇所の吐出口5bから下方に過熱蒸気Sを吐出した場合を示す。各例における過熱蒸気Sの導入(吐出)位置を表1にまとめた。
【0028】
【表1】
【0029】
図9は、上記比較例と実施例1〜5における原料入口からのL/Dと、廃棄物Wの温度との関係を示すグラフである。これらのグラフから明らかなように、比較例では、比較的低温の内筒2へ高温の過熱蒸気Sを導入すると、密度差によって過熱蒸気Sは内筒2内の上部へ昇り、廃棄物Wと過熱蒸気Sの直接接触が生じ難くなるものと推定され、廃棄物Wの温度が比較的上昇せず、有機塩素分解が進行し難い。
【0030】
一方、各実施例では、比較例に比べて廃棄物Wの温度が高く推移し、特に実施例2及び3では、廃棄物Wの温度が470〜500Kに上昇し、有機塩素分解が効率よく行われ得ることが判る。
【0031】
以上より、蒸気管5の蒸気吐出口5bは、内筒2が外熱炉3で囲繞される全体の領域のうち、廃棄物Wの流れの下流側3分の2の領域に配置し、下向きに過熱蒸気Sを吐出することが好ましく、予熱帯や冷却帯に相当する部分への過熱蒸気Sの導入(実施例5及び実施例1に相当)は、廃棄物Wを目標温度に到達させることに大きく寄与することはなく、廃棄物Wの予熱は、外熱炉3によることが望ましいことが判る。
【0032】
次に、上記フルード数Frを変化させた場合のシミュレーション結果について説明する。
【0033】
図10は、上記実施例2と同じ過熱蒸気Sの吐出位置において、フルード数Frを6.5とした場合のシミュレーション結果を示す。尚、実施例2ではフルード数Frは11であった。
【0034】
図11は、上記実施例2と6における原料入口からのL/Dと、廃棄物Wの温度との関係を示すグラフである。同図より明らかなように、実施例6では、廃棄物Wの温度が470〜500Kの領域に達することがなく、過熱蒸気Sの吐出速度は、フルード数Frが7以上となるように設定することが好ましいことが判る。
【符号の説明】
【0035】
1 有機塩素含有廃棄物処理装置
2 内筒
2a 本体
2b 供給部
2c 排出部
3 外熱炉
4 排気ダクト
5 蒸気管
5a 筒状部
5b 吐出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11