特許第5761817号(P5761817)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761817
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】スターポリマー及びその製法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/00 20060101AFI20150723BHJP
   C08F 12/24 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C08F8/00
   C08F12/24
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-511539(P2012-511539)
(86)(22)【出願日】2011年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2011002249
(87)【国際公開番号】WO2011132395
(87)【国際公開日】20111027
【審査請求日】2012年10月12日
(31)【優先権主張番号】特願2010-97590(P2010-97590)
(32)【優先日】2010年4月21日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】白井 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】新谷 武士
【審査官】 阪野 誠司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−533151(JP,A)
【文献】 特開平03−088803(JP,A)
【文献】 特開平07−216038(JP,A)
【文献】 特開2001−139647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式 A〔C(Y)X
(式中、Aは炭素数が4〜価のアルキレン基を表し、Cは炭素原子を表し、Xはヒドロキシスチレンのホモポリマー又はコポリマー鎖を表し、Yはヒドロキシ基又はオキソ基を表し、mは1又は2を、nは2を表す。ただし、Yがヒドロキシ基の場合はmは2であり、Yがオキソ基の場合はmは1である)で表されるスターポリマー。
【請求項2】
アニオン末端を有するスチレン系ポリマーと、A(COOR)n(式中、Rは炭素数が1〜8のアルキル基を表し、A及びnは請求項1における定義と同じ)で表される脂肪族カルボン酸エステルとを反応させることを特徴とする請求項1に記載のスターポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スターポリマー及びその製法に関し、特に、レジスト材料などに好適な狭分散のスチレン系スターポリマー及びその製法に関する。本願は、2010年4月21日に出願された日本国特許出願第2010−097590号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
スターポリマーは、コア部とそこから伸びたポリマー鎖を有するアーム部からなるコポリマーである。従来、多くのスターポリマーが開発されているが、特に、レジスト材料として実用的に好適な物性を示すスターポリマーはまだ開発されていない。
一方、スターポリマーのうち、アーム部としてスチレン系ポリマーを使用するものは、例えば以下の文献に記載されているものを挙げることができる。
特許文献1、特許文献2では、アルケニルフェノール系ホモポリマー又はコポリマーをアーム部とし、コア部として多官能性カップリング剤を用いてアーム部のポリマーをカップリングさせる。ここで、多官能性カップリング剤としては、ジビニル芳香族化合物、トリビニル芳香族化合物等の芳香族化合物、ジエポキシド、ジケトン、ジアルデヒド及び一般式(CRX)nRで表される化合物(式中、Xは、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシル基及び炭素数2〜6のアシルオキシル基からなる群より選択される置換基を表す。R及びRは、それぞれ、水素原子又は炭素数1〜6の1価の炭化水素基を表し、R及びRは同一であっても異なっていてもよい。Rは、n個の置換基(CRX)を有することができる多価の芳香族炭化水素基又は多価の脂肪族炭化水素基を表す。nは3〜6のいずれかの整数を表す。)が例示されている。
【0003】
また、特許文献3では、アルケニルフェノール誘導体と(メタ)アクリレート誘導体との共重合体をアーム部とし、コア部として次式
【0004】
【化1】
【0005】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、またはメチル基を表し、R、R、R、及びR10は、それぞれ独立に、アルキル基を表し、Rは、アルキレン基を表す。)で表されるジアクリレートから誘導される繰り返し単位からなるポリマー鎖を用いてアーム部のポリマーと結合させることが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献4では、デンドリマー様のスターポリマーについて記載されており、スチレン系繰り返し単位を含むポリマーからなり、アニオン末端を2以上有するポリマー鎖であるアーム部と、アニオンと反応可能な官能基を有しコア部となる化合物とを反応させることが記載されている。ここでは、アニオンと反応可能な官能基を有しコア部となる化合物として、鎖状式又は環式脂肪族化合物、芳香族化合物、複素環式化合物などが例示され、特に芳香族化合物が好ましいとも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−139647号公報
【特許文献2】特開2002−226513号公報
【特許文献3】特開2006−225605号公報
【特許文献4】国際公開2007−029794号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、スチレン系ポリマーをアーム部とするスターポリマーには、レジスト材料などとして使用するには、まだ十分な特性を有するものがなかった。そこで、本発明は、レジスト材料などとして好適な狭分散のスチレン系スターポリマーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これまで、スチレン系ポリマーをアーム部とするスターポリマーにおいて、コア部としては芳香族化合物を使用するのが良いとされていたが、レジスト材料としてはアルカリ溶解速度が遅いため、実用的ではなかった。そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、芳香族化合物に代えて特定の脂肪族化合物を使用したところ、アルカリ溶解速度が向上することがわかり、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1)次式 A〔C(Y)X
(式中、Aは炭素数が4〜15の多価の脂肪族炭化水素基を表し、Cは炭素原子を表し、Xはスチレン系ポリマー鎖を表し、Yはヒドロキシ基又はオキソ基を表し、mは1又は2を、nは2〜5のいずれかの整数を表す。ただし、Yがヒドロキシ基の場合はmは2であり、Yがオキソ基の場合はmは1である)で表されるスターポリマー、
(2)スチレン系ポリマーが、ヒドロキシスチレンのホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする上記(1)記載のスターポリマー、及び
(3)アニオン末端を有するスチレン系ポリマーと、A(COOR)n(式中、Rは炭素数が1〜8のアルキル基を表し、A及びnは上記(1)における定義と同じ)で表される脂肪族カルボン酸エステルとを反応させることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のスターポリマーの製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においてスターポリマーとは、コア部に複数個のアーム部が結合しているポリマーを意味する。具体的には、本発明のスターポリマーは、Aをコア部として有し、スチレン系ポリマーXがアーム部として結合しているポリマーであり、式 A〔C(Y)X〕)で表される。
式中、Aは炭素数が4〜15の多価の脂肪族炭化水素基を表し、Cは炭素原子を表し、Xはスチレン系ポリマー鎖を表し、Yはヒドロキシ基又はオキソ基を表す。
mは1又は2を、nは2〜5のいずれかの整数を表す。
ただし、Yがヒドロキシ基の場合はmは2であり、Yがオキソ基の場合はmは1である。
また、Yがヒドロキシ基の場合、隣の脂肪族炭化水素基中の炭素原子上の水素原子と共に脱水されて二重結合を形成していてもよい。
以下に、式:A〔C(Y)Xの各部分について説明する。
【0012】
なお、Aにおける炭素数が4〜15の多価の脂肪族炭化水素基については、以下に一価の炭化水素基の名称により表示するが、基の名称はC(Y)Xの結合数に応じて適宜読み替えるものとする。
Aの炭素数が4〜15の脂肪族炭化水素基としては、直鎖の又は分岐を有する炭素数が4〜15のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基が挙げられる。
炭素数が4〜15のアルキル基としては、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、ペンタデシル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数4〜8のアルキル基である。
アルケニル基は、1個以上の二重結合を有するアルキル基を意味し、炭素数が4〜15のアルケニル基としては、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−メチル−2−プロペニル基、2−メチル−2−プロペニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、1−メチル−2−ブテニル基、2−メチル−2−ブテニル基、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、3−ヘキセニル基、4−ヘキセニル基、5−ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ぺンタデセニル基、1,3−ブタジエニル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数5〜8のアルケニル基である。
アルキニル基は、1個以上の三重結合を有するアルキル基を意味し、炭素数が4〜15のアルキニル基としては、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−メチル−2−プロピニル基、2−メチル−2−プロピニル基、1−ペンチニル基、2−ペンチニル基、3−ペンチニル基、4−ペンチニル基、1−メチル−2−ブチニル基、2−メチル−2−ブチニル基、1−ヘキシニル基、2−ヘキシニル基、3−ヘキシニル基、4−ヘキシニル基、5−ヘキシニル基、1−ヘプチニル基、1−オクチニル基、1−デシニル基、1−ぺンタデシニル基等が挙げられる。好ましくは、炭素数4〜8のアルキニル基である。
炭素数が長くなると、アルカリ現像液に対する溶解性は悪くなるが、アーム部となるスチレン系ポリマーが長くなっても、スチレン系ポリマーが結合しないで残る率は低下するという効果がある。炭素数が3以下であると、立体障害によりスチレン系ポリマーが結合しないで残る率は高くなり、所望のスターポリマーを得る事が出来ない。
【0013】
Xのスチレン系ポリマーは、次式(I)
【化2】
【0014】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、水酸基、アルキル基、置換されていてもよいアルコキシ基又はアリール基を表し、nは0〜3のいずれかの整数を表す)で表される繰り返し単位を有するホモポリマー又はランダムあるいはブロックコポリマーである。
式(I)中、Rは、具体的には、アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等(好ましくは、C1〜C6のアルキル基);アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペントキシ基、イソペントキシ基、s−ペントキシ基、t−ペントキシ基、ネオペントキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等(好ましくは、C1〜C6のアルコキシ基);置換されたアルコキシ基としては、例えばハロゲン原子、アルコキシ基等で置換されたアルコキシ基、具体的には2−クロロエトキシ基、2−エトキシエトキシ基等;アリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等(好ましくはC6〜C10のアリール基);置換されたアリール基としては、たとえばハロゲン原子、アルキル基等で置換されたアリール基、具体的には4−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基等を例示することができる。
【0015】
スチレン系コポリマーの他の繰り返し単位としては、スチレン系モノマーと共重合しうるモノマー由来の繰り返し単位であれば特に制限はないが、例えば、次式(II)
【0016】
【化3】
【0017】
〔式中、Rは水素原子又はC1〜C6のアルキル基を表し、Rは、水素原子、C1〜C6のアルキル基又は式:−CR=CH(式中、Rは水素原子又はメチル基を表す)で表される基を表す。〕で表される繰り返し単位、次式(III)
【0018】
【化4】
【0019】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rは、水素原子、C1〜C12のアルキル基、置換基を有してもよいC3以上の脂環式骨格を有する炭化水素基、置換基を有してもよいC3以上の脂環式骨格を有する炭化水素基を有するアルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又はヘテロ環基を表す。)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0020】
上記式(II)及び(III)において、C1〜C6のアルキル基及びC1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
上記式(III)において、C3以上の脂環式骨格を有する炭化水素基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基等のシクロアルケニル基等(好ましくはC3〜C6の炭化水素基)が挙げられる。
上記式(III)において、C3以上の脂環式骨格を有する炭化水素基を有するアルキル基としては、シクロプロピルメチル基、2−シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルメチル基等のシクロアルキル基アルキル基;シクロブテニルメチル基、シクロペンテニルエチル基、シクロヘキセニルメチル基、シクロオクテニルメチル基等のシクロアルケニルアルキル基等(好ましくはC4〜C12)が挙げられる。
上記式(III)において、ヘテロ環基は、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子を1〜4個有する5〜7員の芳香族複素環、飽和複素環、不飽和複素環又はこれらの複素環とベンゼン環が縮合した縮合複素環を意味し、たとえば、フランー2−イル基、チオフェンー2−イル基、ピロ−ル−1−イル基、ピリジン−2−イル基、ピラジン−2−イル基、ピリミジン−2−イル基、ピリダジン−3−イル基、1,3−ベンゾジオキソール−4−イル基、1,4−ベンゾジオキサン−5−イル基、2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イル基、インドリン−5−イル基、モルホリン−4−イル基、ピペラジン−2−イル基、ピペリジンー2−イル基等が挙げられる。
上記式(III)において、「置換基を有してもよい」の置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基等が挙げられる。
【0021】
スチレン系ポリマー鎖の数平均分子量は、特に限定はないが、1,000〜100,000であるものが好ましい。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.01〜1.50が好ましい。また、スチレン系ポリマー鎖の非結合末端は水素原子であっても又は置換されていてもよい。
nは、C(Y)Xの結合する数を表し、脂肪族炭化水素基によりC(Y)Xの結合する数の限度は異なるが、通常2〜5である。
【0022】
本発明のスターポリマーの数平均分子量は、特に限定はないが、4,000〜1,000,000であるものが好ましい。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、1.01〜1.50が好ましい。
【0023】
以下に、式:A〔C(Y)Xで表されるスターポリマーの具体例を記載する。ただし、ここではCで表される炭素原子にXが2個結合した場合を示す。
【0024】
【化5】
【0025】
上記例示されたスターポリマーにおいて、1個のエステル基にXが1個だけ結合した場合は、OHの代わりにオキソ基となったスターポリマーが例示される。また、OHが隣の脂肪族炭化水素基中の炭素原子上の水素原子と共に脱水された場合は、OHが無く、隣の炭素原子と二重結合を形成したスターポリマーが例示される。
【0026】
(スターポリマーの製造法)
本発明のスターポリマーは、公知の方法に基づいて製造可能であるが、例えば、以下の様にして製造することができる。
まず、アニオン重合開始剤を重合開始剤とするアニオン重合法により、アーム部ポリマーを作製する。その場合、上記式(I)の繰り返し単位の原料モノマーであるスチレン系化合物の1種又は2種以上の混合物を重合してホモポリマー又はコポリマーを作製してもよく、2種以上のスチレン系化合物を逐次添加して重合することによりブロックコポリマーを作製してもよい。
また、他の共重合可能な化合物、例えば、上記式(II)又は(III)の繰り返し単位の原料モノマーである化合物と共重合してもよい。
上記のようにしてアーム部ポリマーを作製した後、式:A(COOR)n(式中、Aは多価の脂肪族炭化水素基を表し、RはC1〜C8アルキル基を表し、nは2〜5のいずれかの整数を表す)で表される脂肪族カルボン酸エステルとを反応させることにより製造することができる。
アーム部のポリマーと脂肪族カルボン酸エステルとの反応は、アーム部製造後の反応溶液に脂肪族カルボン酸エステルを添加してもよいし、アーム部ポリマーを脂肪族カルボン酸エステルの溶液中に添加してもよい。
上記A(COOR)nのうち、Aの炭素数が4〜15の多価の脂肪族炭化水素基は式:A〔C(Y)XのAと同じものを例示することができ、RのC1〜C8アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基などを例示することができる。
スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−ヒドロキシスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、p−t−ブトキシ−α−メチルスチレン、p−(1−エトキシエトキシ)スチレン、p−(1−エトキシエトキシ)−α−メチルスチレン等を例示することができ、これらは一種単独又は二種以上の混合物として使用することができる。
スチレン系化合物と共重合可能な化合物としては、ブタジエン、イソプレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸エチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ピリジル等を例示することができ、これらは一種単独又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0027】
アーム部のポリマーの合成反応は、通常、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下、有機溶媒中において、−100〜50℃、好ましくは−78〜40℃の範囲の温度下で行われる。
上記アーム部のポリマーの合成反応に用いられる有機溶媒としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環族炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類の他、アニソール、ヘキサメチルホスホルアミド等のアニオン重合において通常使用される有機溶媒を挙げることができ、これらは一種単独溶媒又は二種以上の混合溶媒として使用することができる。これらのうち、極性及び溶解性の観点から、テトラヒドロフランとトルエン、テトラヒドロフランとヘキサン、テトラヒドロフランとメチルシクロヘキサンの混合溶媒を好ましく例示することができる。
上記アニオン重合法に用いられるアニオン重合開始剤としては、アルカリ金属又は有機アルカリ金属を例示することができ、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等を例示することができ、有機アルカリ金属としては、上記アルカリ金属のアルキル化物、アリル化物、アリール化物等を例示することができ、具体的には、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、エチルナトリウム、リチウムビフェニル、リチウムナフタレン、リチウムトリフェニル、ナトリウムナフタレン、α−メチルスチレンナトリウムジアニオン、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム等を挙げることができる。
【0028】
アーム部のポリマー合成反応終了後、反応液中に脂肪族カルボン酸エステルを添加することにより、スターポリマーを製造することができる。
アーム部のポリマーと脂肪族カルボン酸エステルとの添加割合は、脂肪族カルボン酸エステルのエステル基の数に対応して適宜選択することができるが、エステル基1モルに対してアーム部のポリマーが2モルまで結合しうるため、脂肪族カルボン酸エステルのエステル基の数に対して2倍モル以上のアーム部のポリマーを添加するのが好ましい。
ただし、アーム部のポリマーを大過剰用いても、脂肪族カルボン酸エステルと反応せずに残存するリニアポリマーの生成が不可避となるため、アーム部のポリマーの添加量は、脂肪族カルボン酸エステルのエステル基の数に対して2.0〜4.0倍モルが好ましい。未反応のリニアポリマーの残存量を、所望のスターポリマーの物性を発現させる程度に少なくするためには、2.05〜2.5倍モルがさらに好ましい。
一方で、リニアポリマーを含まないスターポリマーを調製する場合は、アーム部のポリマーの添加量を調整することで調製することができる。脂肪族カルボン酸エステルのエステル基の数に対して2.0倍モル以下のアーム部のポリマーを添加すればよく、また、少なすぎるとアームの本数が不十分のスターポリマーとなる。そのため、アーム部のポリマーを添加量は脂肪族カルボン酸エステルのエステル基の数に対して1.5〜2.0倍モルが好ましく、1.8から2.0倍モルがさらに好ましい。
【0029】
この反応は通常、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で、有機溶媒中において−100℃〜50℃、好ましくは−78℃〜40℃の温度で重合反応を行うことにより構造が制御され、且つ分子量分布の狭いポリマーを得ることができる。また、スターポリマー生成反応は、アーム部のポリマーを形成させるのに用いた溶媒中で連続して行うこともできる他、溶媒を添加して組成を変更して、又は溶媒を別の溶媒に置換して行うこともできる。かかる溶媒として、アーム部のポリマーの合成反応に用いられる有機溶媒と同様の溶媒を用いることができる。
【0030】
なお、本発明の方法により、例えば、ヒドロキシスチレンのホモポリマーやコポリマーをアーム部とするスターポリマーが好適に製造できるが、通常は、水酸基の保護基を付けたモノマーを重合し、さらにスターポリマーとした後、公知の方法で脱保護することにより製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例について説明するが、本発明の技術的範囲は、これら実施例により限定されるものではない。
(実施例1)
窒素置換した500mL四つ口フラスコに、脱水テトラヒドロフラン(以下、THFと略す)25.5g、脱水トルエン229.2g、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと略す)3.6g(31.0mmol)を加えて撹拌下反応系を−40℃に保持した。反応系にn−ブチルリチウム/ヘキサン1.6mol/L溶液(以下、NBLと略す)11.9g(28.7mmol)を加え、その10分後に、反応系にp−tert−ブトキシスチレン45.5g(257.9mmol)を加えて重合を行った。滴下が終了して20分後にサンプリングを行い、ガスクロマトグラフィー(以下、GCと略す)により重合完結を確認した。このポリマー溶液の一部をサンプリングし、ゲルろ過クロマトグラフィー(以下、GPCと略す)により分析したところ、数平均分子量Mn=2,020、分散度Mw/Mn=1.07の単峰性ポリマーであった。
この反応系内にアジピン酸ジエチル1.2g(5.9mmol)を添加し、30分反応を継続した後、メタノール5mLを加えて反応を停止させた。この重合溶液をGPCにより分析したところ、数平均分子量Mn=5,330、分散度Mw/Mn=1.03をメインピークに持つポリマーであり、残存アーム量は約23%であった。また、多角度光散乱検出器(以下、GPC−MALLSと略す)で測定したところ、分子量Mw=8,800であり、4分岐からなるスター型ポリマーであることを確認した。
酢酸エチル300mLを加えて希釈後、四回水洗した。溶媒を留去後、20%THF/エタノール(5/1)溶液に調整し、35%塩酸を樹脂量に対して0.66eq.加え、三時間還流した。酢酸エチル300mLを加えて希釈後、三回水洗した。溶媒を留去後、35%エタノール溶液に調整し、大量の水中に投じてポリマーを析出させ、ろ過後、真空下50℃で20時間乾燥させることにより、白色粉末状のポリマー31.9gを得た。このポリマーをGPCにより分析したところ、数平均分子量Mn=4,360、分散度Mw/Mn=1.03をメインピークに持つスター型ポリマーであった。
【0032】
(実施例2)
先と同様の操作を行い、数平均分子量Mn=2,070、分散度Mw/Mn=1.07の単峰性ポリマーを合成後、アジピン酸ジエチルの代わりにセバシン酸ジエチルを加えた。この重合溶液をGPCにより分析したところ、数平均分子量Mn=5,870、分散度Mw/Mn=1.03をメインピークに持つポリマーであり、残存アーム量は約10%であった。また、GPC−MALLSで測定したところ、分子量Mw=9,000であり、4分岐からなるスター型ポリマーであることを確認した。
酢酸エチル300mLを加えて希釈後、四回水洗した。溶媒を留去後、20%THF/エタノール(5/1)溶液に調整し、35%塩酸を樹脂量に対して0.66eq.加え、三時間還流した。酢酸エチル300mLを加えて希釈後、三回水洗した。溶媒を留去後、35%エタノール溶液に調整し、大量の水中に投じてポリマーを析出させ、ろ過後、真空下50℃で20時間乾燥させることにより、白色粉末状のポリマー36.8gを得た。このポリマーをGPCにより分析したところ、数平均分子量Mn=4,850、分散度Mw/Mn=1.03をメインピークに持つスター型ポリマーであった。
【0033】
(実施例3)
窒素置換した500mL四つ口フラスコに、THF16.0g、脱水トルエン303.3g、TMEDA2.2g(18.9mmol)を加えて撹拌下反応系を−40℃に保持した。反応系に1.6mol/L NBL溶液7.6g(18.2mmol)を加え、その10分後に、反応系にp−tert−ブトキシスチレン80.3g(8.3mmol)を加えて重合を行った。滴下が終了して20分後にサンプリングを行い、GCにより重合完結を確認した。このポリマー溶液の一部をサンプリングし、GPCにより分析したところ、数平均分子量Mn=4,660、分散度Mw/Mn=1.04の単峰性ポリマーであった。
この反応系内にセバシン酸ジエチル1.3g(5.0mmol)を添加し、30分反応を継続した後、メタノール5mLを加えて反応を停止させた。この重合溶液をGPCにより分析したところ、数平均分子量Mn=12,830、分散度Mw/Mn=1.05をメインピークに持つポリマーであり、残存アーム量は約12%であった。また、GPC−MALLSで測定したところ、分子量Mw=21,000であり、4分岐からなるスター型ポリマーであることを確認した。
酢酸エチル500mLを加えて希釈後、四回水洗した。溶媒を留去後、20%THF/エタノール(5/1)溶液に調整し、35%塩酸を樹脂量に対して0.66eq.加え、三時間還流した。酢酸エチル500mLを加えて希釈後、三回水洗した。溶媒を留去後、35%エタノール溶液に調整し、大量の水中に投じてポリマーを析出させ、ろ過後、真空下50℃で20時間乾燥させることにより、白色粉末状のポリマー55.9gを得た。このポリマーをGPCにより分析したところ、数平均分子量Mn=10,120、分散度Mw/Mn=1.05をメインピークに持つスター型ポリマーであった。
【0034】
(アルカリ溶解速度の測定)
アルカリ現像液に対する溶解速度の測定は以下の通り。膜厚約1μmで測定した。
溶媒 : 乳酸エチル
樹脂濃度 : 20%
基材 : シリコンウェハー;20×20mm
塗布方法 : スピンコート;2000r.p.m.×30秒
ベーク条件: 110℃、90秒
現像液 : 2.38%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液
測定温度 : 23℃
測定方法 : 目視
スターポリマーを20重量%の乳酸エチルに調製し、シリコンウェハー上にスピンコートした。ホットプレートで乾燥した後、23℃の現像液に浸漬し、樹脂膜の消失を目視で観察した。あらかじめ測定した膜厚と、樹脂膜が完全に消失するまでに掛かった時間から、溶解速度を算出した。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例1〜3のスターポリマーでは膜表面全体から均一な溶解が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明において、コア部に多価の脂肪族カルボン酸エステルを使用することにより、狭分散で、アルカリ溶解速度の優れたスチレン系スターポリマーを提供することができる。そのため、また、本発明のスターポリマーは、レジスト材料等として好適である。