特許第5761828号(P5761828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5761828-耐溶媒性熱可塑性高靭化エポキシ 図000010
  • 特許5761828-耐溶媒性熱可塑性高靭化エポキシ 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761828
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】耐溶媒性熱可塑性高靭化エポキシ
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/32 20060101AFI20150723BHJP
   C08G 59/50 20060101ALI20150723BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20150723BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20150723BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20150723BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20150723BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20150723BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C08G59/32
   C08G59/50
   C08L63/00 A
   C08L81/06
   C08L79/08
   C08L77/00
   C08K7/02
   C08J5/24CFC
【請求項の数】22
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2013-532818(P2013-532818)
(86)(22)【出願日】2011年9月20日
(65)【公表番号】特表2014-501794(P2014-501794A)
(43)【公表日】2014年1月23日
(86)【国際出願番号】US2011052289
(87)【国際公開番号】WO2012050756
(87)【国際公開日】20120419
【審査請求日】2013年4月5日
(31)【優先権主張番号】12/902,302
(32)【優先日】2010年10月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503308494
【氏名又は名称】ヘクセル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、イェン − セイン
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−511426(JP,A)
【文献】 特開平07−041577(JP,A)
【文献】 特表2010−505990(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0088864(US,A1)
【文献】 米国特許第04517321(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第101597417(CN,A)
【文献】 特開平10−292030(JP,A)
【文献】 特開平08−225667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00− 59/72
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
C08J 5/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化することで硬化樹脂組成物を形成可能であり、溶媒に曝されたときに亀裂に対して耐性を有する、熱可塑性成分で高靭化された未硬化エポキシ樹脂組成物であって、
前記未硬化樹脂組成物の全量に対して27から38重量パーセントのトリグリシジル−m−アミノフェノール、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して10から20重量パーセントの四官能性パラ−グリシジルアミンを含む、エポキシ樹脂成分、
可溶性成分及び不溶性成分を含み、この可溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して10から20重量パーセントのポリエーテルスルホンを含み、この不溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して5から15重量パーセントのポリアミドイミド粒子、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して2から10重量パーセントのポリアミド粒子を含む熱可塑性成分、並びに
前記未硬化樹脂組成物の全量に対して20から30重量パーセントの量で存在する4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル並びに/又はそのビフェニル骨格及びアミノフェノキシ構造を有する異性体からなる硬化剤
を含む未硬化樹脂組成物
【請求項2】
前記エポキシ樹脂成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して32から34重量パーセントのトリグリシジル−m−アミノフェノール、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して14から16重量パーセントの四官能性パラ−グリシジルアミンを含み、前記可溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して13から15重量パーセントのポリエーテルスルホンを含み、前記不溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して5から10重量パーセントのポリアミドイミド粒子、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して2から10重量パーセントのポリアミド粒子を含み、前記硬化剤が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して23から26重量パーセントの量で存在する、請求項1に記載の未硬化樹脂組成物
【請求項3】
前記ポリエーテルスルホンの分子量が、15,000から25,000g/モルの間である、請求項1又は2に記載の未硬化樹脂組成物
【請求項4】
前記ポリアミド粒子が、5から60ミクロンの粒径を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の未硬化樹脂組成物
【請求項5】
前記ポリアミドイミド粒子の平均粒径が、8から20ミクロンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の未硬化樹脂組成物
【請求項6】
前記ポリアミド粒子が、ポリアミド6を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の未硬化樹脂組成物
【請求項7】
前記ポリアミドイミド粒子の前記ポリアミド粒子に対する重量比が、3.2から1である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の未硬化樹脂組成物
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の未硬化樹脂組成物及び繊維強化材を含む、未硬化複合材料。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の未硬化樹脂組成物及び繊維強化材を含み、前記未硬化樹脂組成物が硬化されている、複合材料。
【請求項10】
前記複合材料が、航空機の一次構造物の少なくとも一部を形成する、請求項9に記載の複合材料。
【請求項11】
プリプレグを作製するための方法であって、
硬化することで硬化樹脂組成物を形成可能であり、溶媒に曝されたときに亀裂に対して耐性を有する、熱可塑性成分で高靭化された未硬化エポキシ樹脂組成物を用意する工程であって、
前記未硬化樹脂組成物の全量に対して27から38重量パーセントのトリグリシジル−m−アミノフェノール、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して10から20重量パーセントの四官能性パラ−グリシジルアミンを含む、エポキシ樹脂成分と、
可溶性成分及び不溶性成分を含み、この可溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して10から20重量パーセントのポリエーテルスルホンを含み、この不溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して5から15重量パーセントのポリアミドイミド粒子、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して2から10重量パーセントのポリアミド粒子を含む熱可塑性成分と、
前記未硬化樹脂組成物の全量に対して20から30重量パーセントの量で存在する4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル並びに/又はそのビフェニル骨格及びアミノフェノキシ構造を有する異性体からなる硬化剤と
を含む未硬化樹脂組成物を用意する工程と、
前記未硬化樹脂組成物と繊維強化材とを組み合わせて前記プリプレグを提供する工程と
を含む、プリプレグ作製方法。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して32から34重量パーセントのトリグリシジル−m−アミノフェノール、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して14から16重量パーセントの四官能性パラ−グリシジルアミンを含み、前記可溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して13から15重量パーセントのポリエーテルスルホンを含み、前記不溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して5から10重量パーセントのポリアミドイミド粒子、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して2から10重量パーセントのポリアミド粒子を含み、前記硬化剤が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して23から26重量パーセントの量で存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリエーテルスルホンの分子量が15,000から25,000g/モルの間である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリアミド粒子が、5から60ミクロンの粒径を有する、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリアミドイミド粒子の平均粒径が、8から20ミクロンである、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリアミド粒子が、ポリアミド6を含む、請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリアミドイミド粒子の前記ポリアミド粒子に対する重量比が、3.2から1である、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記未硬化樹脂組成物を硬化させて硬化複合部品を形成するさらなる工程を含む、請求項11〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記硬化複合部品が航空機の一次構造物の少なくとも一部を形成する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
エポキシ成分及び熱可塑性成分を含む未硬化樹脂組成物を使用して複合部品を作製するための方法において、
前記エポキシ樹脂成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して27から38重量パーセントのトリグリシジル−m−アミノフェノール、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して10から20重量パーセントの四官能性パラ−グリシジルアミンを含み、
前記熱可塑性成分が、可溶性成分及び不溶性成分を含み、この可溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して10から20重量パーセントのポリエーテルスルホンを含み、この不溶性成分が、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して5から15重量パーセントのポリアミドイミド粒子、及び、前記未硬化樹脂組成物の全量に対して2から10重量パーセントのポリアミド粒子を含み、
改良が、前記未硬化樹脂組成物を4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル並びに/又はそのビフェニル骨格及びアミノフェノキシ構造を有する異性体からなる硬化剤で硬化することにより前記複合部品の耐溶媒性を向上させることを含み、この硬化剤が前記未硬化樹脂組成物の全量に対して20から30重量パーセントの量で存在する、改良された複合部品作製方法。
【請求項21】
前記ポリアミド粒子がポリアミド6を含む、請求項20に記載の改良された方法。
【請求項22】
前記複合部品が、航空機の一次構造物の少なくとも一部を形成する、請求項20又は21に記載の改良された方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、熱可塑性材料で高靭化されたエポキシ樹脂に関する。そのような高靭化樹脂は、高性能複合部品を作製するのに使用される。より詳細には、本発明は、硬化したエポキシがメチルエチルケトン(MEK)などの溶媒に曝されたときに引き起こされる可能性のあるひび割れ及び亀裂に対して、そのような熱可塑性高靭化エポキシの耐性を向上させることを対象とする。
【背景技術】
【0002】
複合材料は、典型的には、2つの主な構成成分として、樹脂マトリックス及び強化用繊維で構成される。主成分として1種又は複数のエポキシ樹脂を含有する樹脂マトリックスが、広く使用される。複合材料は、複合部品の物理的限界及び特徴が非常に重要である航空宇宙の分野などの厳しい環境で機能することがしばしば要求される。
【0003】
予備含浸複合材料(プリプレグ)は、複合部品の製造に広く使用されている。プリプレグは、最終的な複合部品にそのまま成形又は硬化できる形の未硬化樹脂(以降「未硬化樹脂組成物」を意味するものとして用いる)と繊維強化材(fibrous reinforcement)の組合せである。製造者は、繊維強化材に樹脂を予備含浸させることによって、繊維網に含浸される樹脂の量及び場所を慎重に制御し、樹脂を繊維網に所望通りに分布させることができる。複合部品における繊維と樹脂の相対量及び繊維網内の樹脂の分布は部品の構造特性に大きな影響を与えることが良く知られている。プリプレグは、耐荷又は構造部品、特に、翼、胴体、隔壁及び操縦面などの航空宇宙構造部品の製造に使用するのに好適な材料である。これらの部品は、十分な強度、損傷許容性、層間破壊靭性、及び当該部品に対して慣行的に設定された他の必要特性を有することが重要である。
【0004】
航空宇宙用プリプレグに広く使用される繊維強化材は、多方向織物、又は互いに平行に伸びる繊維を含む一方向テープである。繊維は、典型的には、「トウ」(“tows”)と称する多数の個別の繊維又はフィラメントの束の形である。繊維又はトウを細断し、樹脂中にランダムに配向させて、不織布マットを形成することもできる。これらの様々な繊維強化材構造に、慎重に制御された量の未硬化樹脂を含浸させる。得られたプリプレグは、典型的には、保護層の間に配置され、保管、又は製造施設への輸送に向けてロール状に巻かれる。
【0005】
プリプレグは、細断一方向テープの不織布マットを形成するようにランダムに配向される細断一方向テープの短いセグメントの形であってもよい。この種のプリプレグは、「準等方性細断」(“quasi−isotropic chopped”)プリプレグと称する。準等方性細断プリプレグは、細断一方向テープ(チップ)の短長部が、細断繊維でなくマットにランダムに配向されている点を除いて、より従来的な不織布繊維マットプリプレグと同様である。
【0006】
硬化複合材料の引張強度は、主として、強化繊維及びマトリックス樹脂の個々の特性、並びにこれら2つの成分の相互作用によって規定される。また、繊維と樹脂の容量比も重要な要因である。張力を受けた硬化複合体は、強化トウ内に位置する個々の繊維フィラメントの多数の引張破断に起因する蓄積損傷のメカニズムを介して破壊する傾向がある。破断したフィラメント端部に隣接する樹脂の応力レベルが高くなりすぎると、複合体全体が破壊し得る。したがって、繊維強度、樹脂マトリックスの強度、及び破断したフィラメント端部の近傍の応力消散の効率が皆、硬化複合材料の引張強度に寄与することになる。
【0007】
多くの用途において、硬化複合材料の引張強度特性を最大にすることが望ましい。しかし、引張強度を最大にする試みは、圧縮性能、損傷許容性、及び溶媒による侵襲に対する耐性などの他の望ましい特性にしばしば悪影響を与え得る。また、引張強度を最大にする試みは、樹脂マトリックスの粘度、タック(tack)、及びアウトライフ(out−life)に予想外の影響を与え得る。
【0008】
未硬化樹脂の粘度は、プリプレグを形成するときに考慮しなければならない重要な因子である。樹脂の粘度は、樹脂成分を完全に混合し次いで強化繊維に徹底的に含浸できることが保証されるよう、十分低くなければならない。また樹脂の粘度は、樹脂が、プリプレグの貯蔵又はレイアップ(lay−up)中に任意の実質的な程度まで流れないことが保証されるよう、十分高くなければならない。これらの基本的要件を満たす粘度を持たない樹脂は、プリプレグの作製に使用できない。所定の硬化複合材料の強度及び/又は損傷許容性を向上させる試みにおいて、未硬化樹脂の粘度が許容限度内にあることが重要である。
【0009】
未硬化プリプレグの他着性(stickness)又は粘着性は、共通に「タック」(“tack”)と称する。未硬化プリプレグのタックは、レイアップ及び成形処理時の重要な考慮事項である。タックがほとんど又は全くないプリプレグは、複合部品を形成するために成形できる積層体に成形するのが困難である。逆に、タックが大きすぎるプリプレグは、ハンドリングするのが困難であると共に、金型に仕込むのも困難であり得る。プリプレグは、容易なハンドリング及び良好な積層/成形特性を確保するための適切な量のタックを有することが望ましい。所定の硬化複合材料の強度及び/又は損傷許容性を向上させる試みにおいて、未硬化プリプレグのタックは、好適なプリプレグハンドリング及び成形を確保するための許容範囲内にあることが重要である。
【0010】
プリプレグの「アウトライフ」(“out−life”)は、プリプレグを、許容不可能な程度の硬化を受ける前に雰囲気条件に曝すことができる時間の長さである。プリプレグのアウトライフは、様々な要因に応じて大きく変動し得るが、基本的には、使用される樹脂配合物によって制御される。プリプレグアウトライフは、プリプレグが許容不可能な程度の硬化を受けずに通常のハンドリング、レイアップ及び成形処理を実施できるように十分に長くなくてはならない。所定の硬化複合材料の強度及び/又は損傷許容性を向上させる試みにおいて、未硬化プリプレグのアウトライフは、硬化前にプリプレグを加工、ハンドリング及びレイアップする十分な時間を確保できるように可能な限り長いことが重要である。
【0011】
複合体の引張性能を向上させる一般的な方法は、マトリックスと繊維の接着強度を弱めるために、繊維の表面を変化させることである。これは、黒鉛化の後の繊維の電解酸化表面処理の量を減少させることによって達成し得る。マトリックス繊維接着強度を低下させると、界面剥離(interfacial de−bonding)によって、露出したフィラメント端部に応力消散のためのメカニズムが導入される。この界面剥離は、複合部品が張力で破壊する前に耐えることができる引張損傷の量を増加させる。
【0012】
或いは、コーティング又は「下塗剤」(“size”)を繊維に塗布すると、樹脂−繊維接着強度を低下させることができる。この手法は、ガラス繊維複合体において良く知られているが、炭素繊維で強化された複合体にも適用され得る。これらの手法を用いて、引張強度の有意な向上を達成することが可能である。しかし、それらの改善には、樹脂マトリックスと繊維の間の高度な接着強度を必要とする衝撃後圧縮(CAI)強度などの特性の低下を伴う。
【0013】
複合体の引張性能及び損傷に対する耐性を向上させる別の方法は、1種又は複数の熱可塑性材料をエポキシ樹脂マトリックス中に含むことである。様々な異なる形態の、様々な異なる熱可塑性材料が、エポキシ樹脂を高靭化するのに使用されてきた。例えば、米国特許第7,754,322号を参照されたい。
【0014】
多層のプリプレグは、積層構造を有する構造的用途の複合部品を形成するのに広く使用される。当該複合部品の剥離は、重要な破壊形態である。2つの層の接着が互いに剥脱したときに剥離が生じる。重要な設計制限要因は、剥離を開始するために必要なエネルギー及びそれを伝搬させるのに必要なエネルギーの両方を含む。剥離の開始及び進行は、モードI及びモードII破壊靭性を調べることによってしばしば測定される。破壊靭性は、通常、一方向の繊維配向を有する複合材料を使用することによって測定される。複合材料の層間破壊靭性は、G1c(二重片持梁:Double Cantilever Beam)及びG2c(端切欠屈曲:End Notch Flex)試験を用いて定量される。モードIでは亀裂前積層体破壊が剥離力によって制御され、モードIIでは亀裂が剪断力によって伝搬される。G2c層間破壊靭性は、CAIに関連する。高度な損傷許容性を示すプリプレグ材料は、高いCAI及びG2c値を有する傾向もある。
【0015】
硬化プリプレグは、硬化複合部品が曝される可能性のある溶媒及び他の化学物質による侵襲にも、耐えなければならない。硬化樹脂に対する溶媒−応力の相互作用的影響を決定する一般的な試験は、硬化した樹脂試験片を、この試験片を曲げ、次いで歪んだ試験片を所定の溶媒又は他の化学物質に、ある期間、典型的には数日以上にわたり曝すことによって、歪ませることである。試験期間中の様々な時間に、応力亀裂及び/又はひび割れに関して、試験片をチェックする。試験片を、典型的には、0%から約2%曲げることによって歪ませる。歪みは、試験片のアーク長に比例して変化し、それがクロソイド曲線(螺旋)の特徴である。試験片にクロソイド曲線を誘導するのに使用される試験装置は、「クロソイド歪みジグ」(“clothoid strain jig”)として公知である。クロソイド歪みジグの使用により、試験範囲全体にわたって歪みがもたらされるように、単一の試験用の試験片を曲げることが可能になる。
【0016】
樹脂試験片は、クロソイド歪みジグで最高2%の最大歪みを受け且つ室温で7日間にわたり溶媒に曝されたときにいかなる亀裂も示さない場合、所定の溶媒による侵襲に対して高い耐性があると見なされる。航空宇宙の適用分野で使用するのに適切であるためには、硬化エポキシ樹脂は、樹脂が曝される可能性のある溶媒による侵襲に対し、高い耐性がなければならない。エポキシ樹脂を強化し且つ/又は高靭化するのにとられた対策は、溶媒による侵襲に対する樹脂の耐性を、不注意で低下させることがないことが重要である。
【0017】
多くの既存のプリプレグは、強度が高く、損傷許容性を有する複合部品を提供する上でのそれらの意図する使用に十分に適するが、高度な強度(例えば、圧縮強度)、高度な損傷許容性(CAI)及び層間破壊靭性(G1c及びG2c)を有し、溶媒による侵襲に対する高い耐性を示す構造的用途の複合部品を製造するのに使用できるプリプレグを提供する継続的な必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、高レベルの強度、損傷許容性、及び層間靭性が必要とされる航空宇宙の適用分野で使用するのに好適な未硬化樹脂が提供される。本発明は、1種又は複数の熱可塑性材料で高靭化され且つ従来のジアミン硬化剤、例えば3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)及び/又は4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)で硬化された、多官能性エポキシ樹脂に適用可能である。本発明は、少なくとも部分的に、硬化剤として3,3’−DDS又は4,4’−DDSの代わりに4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)を使用することにより、溶媒による侵襲に対して耐性のあるような熱可塑性高靭化エポキシの能力に著しい向上を引き起こすという発見に基づく。
【0019】
本発明は、三官能性エポキシ樹脂及び/又は四官能性エポキシ樹脂で構成されたエポキシ樹脂成分を含む、未硬化樹脂を包含する。未硬化樹脂はさらに、熱可塑性成分と、硬化剤としてのBAPBを含む。本発明は、航空機の一次構造物の少なくとも一部として使用するのに好適な、樹脂及び繊維強化材(fiber reinforcement)を硬化させた組合せと同様に、繊維強化材と組み合わせた未硬化樹脂も包含する。
【0020】
プリプレグと、BAPBで硬化させた熱可塑性高靭化多官能性エポキシ樹脂を使用してプリプレグを作製するための方法も、本発明の一部である。プリプレグは、溶媒侵襲に対して高い耐性があり且つ航空機の一次構造物の少なくとも一部として使用するのに通常なら好適である、硬化複合部品の作製に使用するのに好適である。
【0021】
本発明の上記及び多くの他の特徴及び付随する利点は、添付の図面を併用しながら以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による複合材料を使用して作製することができる例示的な一次航空機構造物を示す航空機の斜視図である。
【0023】
図2】本発明による複合材料を使用して作製することができる例示的な一次航空機構造物を示すヘリコプター回転翼の部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による未硬化マトリックス樹脂組成物は、熱可塑性高靭化エポキシ樹脂が所望される多様な状況に使用することができる。未硬化樹脂組成物は単独で使用してもよいが、一般には、複合材料を形成するために繊維状支持体と混合する。複合材料は、プリプレグ、部分硬化プリプレグ、又は完全に硬化された最終部品の形で使用されてもよい。「未硬化」という用語は、プリプレグ、マトリックス樹脂又は複合材料と関連して本明細書で使用する場合、ある程度硬化されていてもよいが、最終的な複合部品又は構造物を形成するために完全に硬化されていない品目を包含することを意図する。
【0025】
複合材料は、任意の意図する目的に使用することができるが、好ましくは航空宇宙車両に使用され、民間及び軍事用航空機での使用に特に好適である。例えば、複合材料を使用して、非一次(二次)航空機構造物を作製してもよい。しかし、複合材料の好適な使用は、一次航空機構造物などの構造的用途に向けられる。一次航空機構造物又は部品は、飛行中に大きな応力を受け、航空機が管理飛行を維持するのに不可欠である固定翼又は回転翼航空機の要素である。複合材料は、耐力部品及び構造物全体を作製するための他の構造的用途に使用されてもよい。
【0026】
図1は、本発明による複合材料を使用して作製することができるいくつかの例示的な一次航空機構造物及び部品を含む固定翼航空機を10に示す。例示的な一次部品又は構造物は、翼12、胴体14及び尾部組立品16を含む。翼12は、補助翼18、前縁20、翼板22、スポイラ24、後縁26及び後縁フラップ28などのいくつかの例示的な一次航空機部品を含む。尾部組立品16は、方向舵30、フィン32、水平安定器34、昇降機36及び尾部38などのいくつかの例示的な一次部品をも含む。図2は、一次航空機構造物として桁42及び外表面44を含むヘリコプター回転翼40の外端部を示す。他の例示的な一次航空機構造物は、翼桁、並びに一次部品同士を接続して一次構造物を形成する様々なフランジ、クリップ及びコネクタを含む。
【0027】
本発明の未硬化樹脂及び予備含浸複合材料(プリプレグ)を、航空宇宙工業、並びに高度な強度及び損傷許容性が必要とされる他のいずれかの構造的用途における複合部品を形成するのに使用されている既存の未硬化樹脂及び/又はプリプレグの代用として使用することができる。本発明は、プリプレグを製造するために使用されている既存の樹脂の代わりに本発明の樹脂配合物を使用することを含む。よって、本発明の樹脂配合物は、熱可塑性高靭化エポキシ樹脂に好適である従来のプリプレグ製造及び硬化法のいずれかにおける使用に好適である。
【0028】
本発明による予備含浸複合材料は、強化繊維及び未硬化樹脂マトリックスで構成されている。強化繊維は、プリプレグ工業で使用される従来の繊維構成のいずれかであり得る。マトリックスは、三官能性及び四官能性芳香族エポキシ樹脂の組合せを含む、エポキシ樹脂成分を含む。樹脂マトリックスはさらに、熱可塑性成分と、硬化剤としての4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)とを含む。BAPBの化学構造を以下に示す。
【化1】
【0029】
以下に詳細に論じられるように、本発明の特徴は、熱可塑性高靭化エポキシ樹脂を硬化するのにBAPBを使用することによって、MEKなどの溶媒による侵襲に対して高い耐性のある硬化複合材料が生成されることを、発見したことである。
【0030】
エポキシ樹脂成分は、1種又は複数の三官能性エポキシ樹脂及び/又は四官能性エポキシ樹脂から構成される。三官能性エポキシ樹脂と四官能性エポキシ樹脂との組合せが好適である。多官能性エポキシ樹脂は、飽和、不飽和、脂環式(cycloaliphatic)、脂環式(alicyclic)又は複素環式であってもよい。好適な多官能性エポキシ樹脂としては、例として、フェノール及びクレゾールエポキシノボラック、フェノール−アルデヒド付加物のグリシジルエーテル;二脂肪族ジオールのグリシジルエーテル;ジグリシジルエーテル;ジエチレングリコールジグリシジルエーテル;芳香族エポキシ樹脂;二脂肪族トリグリシジルエーテル、脂肪族ポリグリシジルエーテル;エポキシ化オレフィン;臭素化樹脂;芳香族グリシジルアミン;複素環式グリシジルイミジン及びアミド;グリシジルエーテル;フッ化エポキシ樹脂又はそれらの任意の組合せに基づくものが挙げられる。エポキシ樹脂成分は、マトリックス樹脂の40から65重量パーセントを構成する。
【0031】
三官能性エポキシ樹脂は、化合物の骨格内のフェニル環上のパラ又はメタ位に直接又は間接的に置換された3つのエポキシ基を有するものとして理解される。四官能性エポキシ樹脂は、化合物の骨格内のフェニル環上のメタ又はパラ位に直接又は間接的に置換された4つのエポキシ基を有するものとして理解される。
【0032】
フェニル環は、他の好適な非エポキシ置換基でさらに置換され得る。好適な置換基としては、例として、水素、ヒドロキシル、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシル、アリール、アリールオキシル、アラルキルオキシル、アラルキル、ハロ、ニトロ又はシアノラジカルが挙げられる。好適な非エポキシ置換基は、フェニル環にパラ又はオルト位で結合されていてもよく、又はエポキシ基に占領されていないメタ位で結合されていてもよい。好適な四官能性エポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン(三菱ガス化学株式会社(東京都千代田区、日本)から商品名Tetrad−Xで市販されている)及びErisys GA−240(CVC Chemicals社(ニュージャージ州Morristown))が挙げられる。好適な三官能性エポキシ樹脂としては、例として、フェノール及びクレゾールエポキシノボラック;フェノール−アルデヒド付加物のグリシジルエーテル;芳香族エポキシ樹脂;二脂肪族トリグリシジルエーテル;脂肪族ポリグリシジルエーテル;エポキシド化オレフィン;臭素化樹脂、芳香族グリシジルアミン及びグリシジルエーテル;複素環式グリシジルイミジン及びアミド;グリシジルエーテル;フッ化エポキシ樹脂又はそれらの組合せに基づくものが挙げられる。
【0033】
好適な三官能性エポキシ樹脂は、トリグリシジルメタ−アミノフェノールである。トリグリシジルメタ−アミノフェノールは、商品名Araldite MY0600又はMY0610でHuntsman Advanced Materials社(Monthey、スイス)から、そして商品名ELM−120で住友化学株式会社(大阪、日本)から市販されている。
【0034】
好適な多官能性エポキシ樹脂のさらなる例としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(Araldite MY720及びMY721としてHuntsman Advanced Materials社(Monthey、スイス)から市販されているTGDDM、又は住友化学株式会社のELM434)、パラアミノフェノールのトリグリシジルエーテル(Araldite MY0500又はMY0510としてHuntsman Advanced Materials社から市販されている)、Tactix556などのエポキシ樹脂に基づくジシクロペンタジエン(Huntsman Advanced Materials社から市販されている)、トリス−(ヒドロキシフェニル)、及びTactix742(Huntsman Advanced Materials社から市販されている)などのメタン系エポキシ樹脂が挙げられる。他の好適な多官能性エポキシ樹脂としては、DEN438(Dow Chemicals社(ミシガン州Midland))、DEN439(Dow Chemicals社)、Araldite ECN1273(Huntsman Advanced Materials社)及びAraldite ECN1299(Huntsman Advanced Materials社)が挙げられる。TGDDM(MY720又はMY721)は、好適な四官能性エポキシである。
【0035】
樹脂マトリックスは、20から40重量パーセントの三官能性エポキシ樹脂と、10から30重量パーセントの四官能性エポキシ樹脂とを含むことが好ましい。30から40重量パーセントの三官能性エポキシ樹脂と、10から20重量パーセントの四官能性エポキシ樹脂とを含む樹脂マトリックスがより好適である。トリグリシジルメタ−アミノフェノール(MY0600又はMY0610)とTGDDM(MY720又はMY721)との組合せが特に好適である。
【0036】
本発明の未硬化樹脂マトリックスは、エポキシ樹脂に可溶であっても不溶であってもよい1種又は複数の熱可塑性材料を含む、熱可塑性成分も含む。熱可塑性成分は、可溶な及び不溶な熱可塑性材料の組合せを含むことが好ましい。
【0037】
可溶性熱可塑性材料に関しては、高靭化剤として使用されてきた任意の好適な可溶性熱可塑性ポリマーを使用してもよい。典型的には、不溶性粒子及び硬化剤を添加する前に、加熱によって樹脂混合物に溶解する粒子として、熱可塑性ポリマーを樹脂混合物に添加する。熱可塑性ポリマーが、高温マトリックス樹脂前駆体(即ち、エポキシ樹脂のブレンド)に実質的に溶解すると、前駆体を冷却し、残留成分(硬化剤及び不溶性の熱可塑性物質(単数又は複数))を添加する。
【0038】
単独で又は熱可塑性成分と組み合わせて使用することができる、例示的な可溶性熱可塑性物質には:ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド及びポリスルホンが含まれる。
【0039】
ポリエーテルスルホン(PES)は、可溶性の熱可塑性成分としての使用のために好適である。PESは、スミカエクセル5003Pという商品名で市販されており、住友化学工業株式会社から商業的に入手可能である。5003Pの代替品は、Solvayポリエーテルスルホン105RP若しくはVW−10200RP、又はSolvay 1054P(Solvay Advanced Polymers−Greenville、SC)などの非ヒドロキシル末端グレードである。5003P及びVW−10200RPの分子量は、46,500g/モルである。ポリエーテルイミドは、ULTEM 1000Pという商品名でGeneral Electric(Pittsfield、MA)から入手可能である。未硬化樹脂マトリックスは、10から20重量パーセントの可溶性の熱可塑性材料を含むのが好ましい。12から18重量パーセントの可溶性の熱可塑性材料を含む未硬化樹脂マトリックスがより好適である。13から15重量パーセントの可溶性の熱可塑性材料を含む樹脂マトリックスが最も好適である。
【0040】
熱可塑性成分は、不溶性熱可塑性粒子も好ましくは含む。これらの粒子は、硬化処理中に溶解せず、硬化複合材料の層間域内に残留する。未硬化樹脂マトリックスにおける不溶性粒子の量は、好ましくは5から30重量パーセントである。10から20重量パーセントの不溶性粒子を含む樹脂マトリックスがより好適である。10から16重量パーセントの不溶性粒子を含む樹脂マトリックスが最も好適である。
【0041】
好適な熱可塑性粒子の例としては、ポリアミドイミド(PAI)粒子及びポリアミド(PA)粒子が挙げられる。熱可塑性粒子は、室温(22℃)よりも高いガラス転移温度(T)を有する。ポリアミド粒子が好ましい。
【0042】
ポリアミド粒子には様々なグレードがあり、粒子中に存在する特定のポリアミド(1種又は複数)が異なっており、ポリアミドポリマー及びコポリマーの分子量及びポリマー特性、例えば結晶化度が異なっている。ポリアミド粒子は、150から400ksiのヤング率を有するのが好ましい。
【0043】
好適なポリアミド粒子は、ポリアミド6(カプロラクタム−PA6)、ポリアミド12(ラウロラクタム−PA12)、ポリアミド11及びこれらのポリアミドのコポリマーを含む。粒子は、100ミクロン未満の粒径を有するべきである。粒子は、粒径が5から60ミクロン、より好ましくは5から30ミクロンの範囲であることが好ましい。粒子は、実質的に球形であるべきである。粒子を、国際公開第2006/051222号のPCT出願によるアニオン重合、共押出、沈殿重合、乳化重合又は極低温粉砕によって作製することができる。好適なポリアミド粒子は、オルガゾール(Orgasol)の商品名でフランスのArkema社から商業的に入手可能である。
【0044】
オルガゾール1002 D NAT1は、例示的なポリアミド粒子である。オルガゾール1002 D NAT1は、100%のPA6で構成される。オルガゾール1002 D NAT1粒子のヤング率は、約300ksiである。粒子は、結晶化度が51%であり、ガラス転移温度(Tg)が26℃であり、密度が1.15であり(ISO1183)、分子量が60200(g/モル)であり、溶融点が217℃であり、平均粒径が20ミクロンである。好適な硬質粒子(rigid particle)の別の例は、結晶化度が43%に等しく、Tgが29℃であり、密度が1.09であり(ISO1183)、分子量が60800(g/モル)であり、溶液粘度が1.01であるPA6/PA12共重合体粒子(80%のPA6及び20%のPA12)を含むオルガゾール3202 D Nat 1である。オルガゾール3202 D Nat 1におけるポリアミド共重合体粒子は、平均粒径が20ミクロンであり、溶融点が194℃である。粒子の溶融点がマトリックスに対する硬化温度未満に低下せず、好ましくは硬化温度より少なくとも10℃高いのであれば、望まれる場合に、共重合体におけるPA12の量を20%より多い量に増加させてもよい。
【0045】
他の例示的なポリアミド粒子には、EMS Chemie AG(Sumter、南カリフォルニア)からどちらも入手可能なGRILAMID TR55及びTR90が含まれる。GRILAMID TR55は、脂肪族、脂環式、及び芳香族ポリマー主鎖を有するポリアミドである。TR55は、約160℃のTgと約320ksiの弾性率を有する。TR90は、脂肪族及び脂環式ポリマー主鎖を有するポリアミドである。TR90は、約155℃のTg及び約230ksiの弾性率を有する。
【0046】
樹脂マトリックスはPA粒子を含み、PA粒子の量は、樹脂マトリックス全体の1から15重量パーセントの範囲であることが好ましい。PA粒子の量が2〜10重量パーセントの範囲であるのがより好ましい。
【0047】
好適なPAI粒子は、Solvay Advanced Polymers社(ジョージア州Alpharetta)からTORLON4000T又はTORLON4000TFとして入手可能である。PAI粒子の平均粒径は8ミクロンから20ミクロンである。PAI粒子は約600ksiのヤング率を有する。樹脂マトリックスは、要望に応じて、PAI粒子を樹脂マトリックス全体の15重量パーセントまでの量で含んでいてもよい。
【0048】
未硬化樹脂は、少量(樹脂マトリックス全体の5重量パーセントまで)の弾性粒子を含んでいてもよい。好適な弾性粒子としては、主としてポリウレタンで構成される粒子が挙げられる。弾性粒子は、少なくとも95重量パーセントのポリウレタンポリマーを好ましくは含む。エポキシに不溶性の高分子量エラストマーで構成される他の弾性粒子を使用してもよい。弾性粒子のヤング率は、10ksi未満であるべきである。弾性粒子のTgは、室温(22℃)以下であるべきである。
【0049】
少量(5重量パーセント未満)のシリカを含むポリウレタン粒子は、好適なタイプの弾性粒子である。SUNPU−170の商品名でAston Chemicals社(英国Aylesbury)から入手可能であるポリウレタン粒子は、好適なタイプのポリウレタン粒子である。SUNPU−170は、HDI/トリメチロールヘキシルラクトンクロスポリマー、シリカで構成されている。粒子は、約95から99重量パーセントのウレタンポリマーと、1から5重量パーセントのシリカとを含む。粒子は、直径が5ミクロンから20ミクロンの範囲の微小球である。好適なポリウレタン粒子は、BPD−500、BP−500T及びBP−500Wの商品名でKobo Products(ニュージャージ州South Plainfield)からも入手可能である。これらの粒子もHDI/トリメチロールヘキシルラクトンクロスポリマー及びシリカで構成されている。それらの粒子も、径が10ミクロンから15ミクロンの微小球である。BPD−500微小球は、1から3重量パーセントのシリカ及び97から99重量パーセントのポリウレタンを含む。
【0050】
不溶性熱可塑性粒子及び弾性粒子の粒径及び相対量は、OHC、CAI、G1c及びG2cの所望のレベルが達成されるだけでなく、エポキシ樹脂組成物の粘度がプリプレグの製造に好適な範囲内になるように選択される。樹脂の粘度は、擬似等方性細断プリプレグを含むプリプレグを作製するために航空宇宙業界で今日使用されている既存の高性能高靭化樹脂の粘度と同様であることが好ましい。本発明による未硬化樹脂特性と硬化複合体特性との所望の組合せを達成するためには、複数タイプの不溶性熱可塑性粒子を含有する熱可塑性成分が得られるように上述の熱可塑性材料の2種以上を組み合わせることが必要と考えられる。
【0051】
低分子量PESの使用は、未硬化樹脂の粘度をプリプレグ調製の許容限度内に保つのを助けることが発見された。これは、添加される熱可塑性材料の量が許容範囲の上端に向かっている及び/又は弾性粒子が樹脂ミックスの一部として含まれる、未硬化樹脂の場合に特に言えることである。低分子量PESは、15,000g/モルから25,000g/モルの間の分子量を有することが好ましい。低分子量PESは、Solvay Advanced PolymersからVW−10700RPとして市販されている。VW−10700RPの分子量は、21,000g/モルである。
【0052】
低分子量PESは、樹脂の粘度が非常に高い場合、典型的には熱可塑性高靭化エポキシ樹脂に使用される、より高い分子量のPESの代わりに使用されることが好ましい。低分子量PESの使用は、硬化樹脂の耐溶媒性を向上させるのに寄与することからも、好ましい。
【0053】
本発明の特徴として、熱可塑性高靭化エポキシは、硬化剤として4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)を使用して硬化される。3,3’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニルなどのBAPBの異性体を、BAPBの代わりに使用してもよい。未硬化樹脂に含まれるBAPBの量は、未硬化樹脂中に存在するエポキシの量及びタイプに依存することになる。未硬化樹脂の完全な硬化が保証されるように、BAPBの量は十分でなければならない。この量は、配合物中の各エポキシ樹脂の官能性及び量に基づいて計算することができる。完全な硬化を行うのに必要なBAPBの量は、未硬化樹脂全体の15から45重量パーセントの間になる。BAPBは、3,3’−DDS又は4,4’−DDSなどの他の従来の硬化剤と同じ手法で、エポキシ樹脂に添加される。BAPBは、好ましくは、不溶性熱可塑性粒子と同時に未硬化樹脂に組み込まれる。
【0054】
未硬化樹脂は、粘度、プリプレグのタック及びアウトライフ又は硬化複合部品の強度、損傷許容性及び溶媒に対する耐性に悪影響を与えなければ、性能向上又は改質剤及びさらなる熱可塑性ポリマーなどの追加の成分を含むこともできる。性能向上又は改質剤を、例えば、柔軟剤、さらなる熱可塑性ポリマー、促進剤、コアシェルゴム、難燃剤、湿潤剤、顔料/染料、UV吸収剤、抗真菌化合物、充填剤、導電性粒子及び粘度調整剤から選択することができる。好適なさらなる熱可塑性ポリマーとしては、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリフェニルスルホン、ポリイミド、アラミド、ポリエステル、ポリケトン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ尿素、ポリアリールエーテル、ポリアリールスルフィド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド(PPO)及び改質PPOの単独物又は組合せのいずれも含まれる。
【0055】
好適な促進剤(accelerators)は、広く使用されてきたウロン(urone)化合物のいずれかである。単独で、又は組み合わせて使用することができる促進剤の具体的な例としては、N,N−ジメチル、N’−3,4−ジクロロフェニル尿素(ジウロン)、N’−3−クロロフェニル尿素(Monuron)、及び好ましくはN,N−(4−メチル−m−フェニレンビス[N’,N’−ジメチル尿素](例えば、Degussaから入手可能なDyhard UR500)が挙げられる。
【0056】
好適な充填剤としては、例として、シリカ、アルミナ、チタニア、ガラス、炭酸カルシウム及び酸化カルシウムの単独物又は組合せのいずれも含まれる。
【0057】
好適な導電性粒子としては、例として、銀、金、銅、アルミニウム、ニッケル、導電グレードの炭素、バックミンスターフラーレン、炭素粒子、炭素ナノチューブ及び炭素ナノ繊維の単独物又は組合せのいずれも含まれる。例えば、ニッケル被覆炭素粒子及び銀被覆銅粒子などの金属被覆充填剤を使用することもできる。
【0058】
未硬化樹脂は、要望に応じて、さらなる非エポキシ熱硬化性ポリマー樹脂を含むことができる。熱硬化性樹脂は、硬化されると、溶融及び再成形に適さなくなる。本発明に好適な非エポキシ熱硬化性樹脂材料としては、フェノールホルムアルデヒドの樹脂、尿素−ホルムアルデヒド、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン(メラミン)、ビスマレイミド、ビニルエステル樹脂、ベンゾキサジン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、シアン酸エステル樹脂、エポキシドポリマー又はそれらの任意の組合せが挙げられるが、それらに限定されない。熱硬化性樹脂は、好ましくは、エポキシド樹脂、シアン酸エステル樹脂、ビスマレイミド、ビニルエステル、ベンゾキサジン及びフェノール樹脂から選択される。要望に応じて、マトリックスは、レゾルシノール系樹脂などのフェノール基を含む好適な樹脂、及びDCPD−フェノールコポリマーなどのカチオン重合によって形成された樹脂を、さらに含むことができる。さらなる好適な樹脂は、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂及び尿素−ホルムアルデヒド樹脂である。
【0059】
未硬化樹脂は、標準的なプリプレグマトリックス処理に従って作製される。概して、様々なエポキシ樹脂を室温で混合して樹脂混合物を形成し、それに対して熱可塑性成分を添加する。次いでこの混合物は、熱可塑性成分中の熱可塑性物質(1種又は複数)の融点よりも高い温度に、熱可塑性物質(1種又は複数)を実質的に溶解するのに十分な時間加熱される。次いで、混合物を室温以下まで冷却し、次いで不溶性熱可塑性粒子、硬化剤、及び存在すれば他の添加剤を樹脂に混入して、最終的な未硬化樹脂を形成し、これを繊維強化材に含浸させる。
【0060】
未硬化樹脂は、既知のプリプレグ製造技術のいずれかに従って、繊維強化材に塗布される。繊維強化材に、全体的又は部分的に未硬化樹脂を含浸させることができる。代替的な実施形態において、繊維強化材に隣接して接触するが、繊維強化材に実質的に含浸しない個別の膜又は層として、未硬化樹脂を繊維強化材に塗布することができる。プリプレグは、典型的には、両側が保護膜で被覆され、早発的な硬化を回避するために典型的には室温よりはるかに低く保たれた温度で、保管及び出荷に向けてロール状に巻かれる。要望に応じて、他のプリプレグ製造法及び保管/出荷システムのいずれかを用いることができる。
【0061】
プリプレグの繊維強化材を、合成若しくは天然繊維又はそれらの組合せを含むハイブリッド又は混合繊維系から選択することができる。繊維強化材を、好ましくは、繊維ガラス、炭素又はアラミド(芳香族ポリアミド)繊維などの任意の好適な材料から選択することができる。繊維強化材は、好ましくは、炭素繊維である。
【0062】
繊維強化材は、亀裂(即ち延伸破断)繊維若しくは選択的に不連続の繊維、又は連続的な繊維を含むことができる。亀裂繊維又は選択的に不連続の繊維を使用すると、完全に硬化する前の複合材料のレイアップを容易にし、その成形能力を向上させることができる。繊維強化材は、織物、非けん縮、不織布、一方向、又は準等方性細断プリプレグなどの多軸繊維構造の形であってよい。織物の形を無地、朱子織又は綾織スタイルから選択することができる。非けん縮及び多軸形は、いくつかの層及び繊維方向を有することができる。当該スタイル及び形は、複合強化材の分野で良く知られており、Hexcel Reinforcements(Villeurbanne、フランス)を含むいくつかの企業から市販されている。
【0063】
プリプレグは、連続テープ、トウプレグ、ウェブ又は細断長(細断及び切断(スリッティング)操作を含浸後の任意の時点で実施することができる)の形であってよい。プリプレグは、接着膜又は表面膜であってよく、織物、編物及び不織布の様々な形の埋込み支持体をさらに有することができる。例えば、硬化時の空気の除去を容易にするために、プリプレグを完全又は部分的に含浸することができる。
【0064】
例示的な未硬化樹脂は、27から38重量パーセントのトリグリシジル−m−アミノフェノール(三官能性エポキシ樹脂)と、10から20重量パーセントの四官能性パラ−グリシジルアミン(四官能性エポキシ樹脂)と、10から20重量パーセントのポリエーテルスルホン(可溶性熱可塑性物質)と、5から15重量パーセントのポリアミドイミド(不溶性熱可塑性粒子)と、5から15重量パーセントのポリアミド粒子(不溶性熱可塑性粒子)と、20から30重量パーセントのBAPB(硬化剤)とを含む。
【0065】
好適な未硬化樹脂は、約32から34重量パーセントのトリグリシジル−m−アミノフェノール(三官能性エポキシ樹脂)と、約14から16重量パーセントの四官能性パラ−グリシジルアミン(四官能性エポキシ樹脂)と、約13から15重量パーセントのポリエーテルスルホン(可溶性熱可塑性物質)と、約5から10重量パーセントのポリアミドイミド(不溶性熱可塑性粒子)と、約5から10重量パーセントのポリアミド粒子(不溶性熱可塑性粒子)と、約23から26重量パーセントのBAPB(硬化剤)とを含む。
【0066】
複合部品を形成するのに用いられる標準的な技術のいずれかを用いて、プリプレグを成形することができる。典型的には、1つ又は複数の層のプリプレグが好適な金型に仕込まれ、硬化されて、最終的な複合部品が形成される。当該技術分野で知られている任意の好適な温度、圧力及び時間条件を用いて、本発明のプリプレグを完全又は部分的に硬化させることができる。典型的には、プリプレグは、160℃から190℃の間の温度のオートクレーブ内で硬化されることになる。UV可視光放射、マイクロ波放射、電子ビーム、ガンマ放射、又は他の好適な熱若しくは非熱放射から選択される方法を用いて、未硬化複合材料を硬化させることもできる。
【0067】
本発明の改善されたプリプレグから製造された複合部品は、多くの一次的及び二次的な航空宇宙構造物(翼、胴体及び隔壁等)などの製品の製造に用途を見いだすだけでなく、高度な引張強度、圧縮強度、層間破壊靭性及び耐衝撃損傷性が必要とされる自動車、鉄道、海洋、及びエネルギー産業における他の高性能構造用途にも有用である。
【0068】
本発明によるBAPBで硬化させた樹脂は、MEKによる侵襲に対して非常に耐性があることが発見された。室温で歪みを与えMEKに浸漬すると、硬化樹脂は、少なくとも7日間にわたり目に見える亀裂を示さない。MEKによる侵襲に対する硬化樹脂の高い耐性を考えれば、硬化樹脂は、アセトンなどの他のケトン型溶媒による侵襲にも非常に耐性があると予測される。硬化樹脂は、硬化樹脂が航空機部品としての使用中に曝される可能性のあるそれほど攻撃的でない溶媒にも、高い耐性があることになる。そのような可能性のある溶媒には、作動液、ジェット燃料、ガソリン、アルコール及び有機溶媒が含まれる。
【0069】
次に、本発明をより容易に理解できるように、本発明の以下の実施例が参照される。
【0070】
(例1)
本発明による例示的な樹脂配合物を、表1に示す。エポキシ成分を室温でポリエーテルスルホンと混合して樹脂ブレンドを形成し、それを60分間にわたって130℃まで加熱して、ポリエーテルスルホンに完全に溶解させることによってマトリックス樹脂を調製した。混合物を80℃まで冷却し、成分の残り(ポリアミドイミド粒子、ポリアミド粒子及びBAPB硬化剤)を添加し、完全に混入させ、未硬化樹脂を形成した。
【表1】
【0071】
未硬化樹脂は、プリプレグの作製で使用するのに適切な粘度を有していた。繊維強化材に含浸させると、得られるプリプレグは、成型用物品の形成での使用に許容される、タック及びアウトライフ特性を有することになる。一方向炭素繊維の1つ又は複数の層に表1の樹脂配合物を含浸させることによって、例示的なプリプレグを調製することができる。一方向炭素繊維を使用して、マトリックス樹脂の量が全未硬化プリプレグ重量の約35重量パーセントであり、繊維の面積重量が約190グラム毎平方メートル(gsm)であるプリプレグを製造する。標準的なプリプレグ作製手順を用いて、様々なプリプレグレイアップを調製することができる。プリプレグを180℃のオートクレーブで約2時間にわたって硬化させる。
【0072】
耐溶媒性試験用の試験片を、表1の樹脂配合物を使用して調製した。樹脂を、長さ4.5インチ(11.4cm)、幅0.5インチ(1.3cm)、及び厚さ0.63インチ(0.16cm)の試験片に形成した。樹脂を、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化して、硬化された試験用試験片(test specimen)を形成した。試験用試験片に、標準的なクロソイド(clothoid)試験ジグで歪みを与えることにより、0%から最大2%に及ぶ歪みが得られた。歪みを与えた試験片を、室温で7日間にわたりMEKに浸漬した。7日後、試験用試験片には亀裂が観察されなかった。ひび割れは、試験用試験片の、1.1%の歪みの場所の上で観察された。
【0073】
比較例1
表2に示される配合物を有する比較樹脂を、例1と同じ手法で調製した。樹脂は、硬化剤としてBAPBの代わりに3,3’−DDSを使用したこと以外、例1の樹脂と同じである。
【表2】
【0074】
耐溶媒性試験用の試験片を、表2の樹脂配合物を使用して調製した。樹脂を、長さ4.5インチ(11.4cm)、幅0.5インチ(1.3cm)、及び厚さ0.63インチ(0.16cm)の試験片に形成した。樹脂を、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化して、硬化された試験用試験片を形成した。試験用試験片に、標準的なクロソイド試験ジグで歪みを与えることにより、0%から最大2%に及ぶ歪みが得られた。歪みが与えられた試験用試験片を、室温でMEKに浸漬し、10秒間、亀裂を与えた。
【0075】
(例2)
本発明による例示的な樹脂配合物を、表3に示す。未硬化樹脂は、エポキシ成分を室温でポリエーテルイミド(PEI)と混合して樹脂ブレンドを形成し、これを130℃に60分間加熱してPEIを完全に溶解することにより調製した。混合物を80℃に冷却し、BAPB硬化剤を添加し、十分混合することによって未硬化樹脂を形成した。
【表3】
【0076】
未硬化樹脂は、プリプレグの作製で使用するのに好適な粘度を有していた。繊維強化材に含浸させると、得られるプリプレグは、成形用物品の形成に使用するのに許容可能なタック及びアウトライフ特性を有することになる。例示的なプリプレグは、一方向炭素繊維の1つ又は複数の層に、表3の樹脂配合物を含浸させることによって調製することができる。一方向炭素繊維は、マトリックス樹脂が全未硬化プリプレグ重量の約35重量パーセントになり且つ繊維の面積重量が約190グラム毎平方メートル(gsm)であるプリプレグを作製するのに使用される。標準的なプリプレグ作製手順を使用して様々なプリプレグレイアップを調製することができる。プリプレグを、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化する。
【0077】
耐溶媒性試験用の試験片を、表3の樹脂配合物を使用して調製した。樹脂を、長さ4.5インチ(11.4cm)、幅0.5インチ(1.3cm)、及び厚さ0.63インチ(0.16cm)の試験片に形成した。樹脂を、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化して、硬化された試験用試験片を形成した。試験用試験片に、標準的なクロソイド試験ジグで歪みを与えることにより、0%から最大2%に及ぶ歪みが得られた。歪みが与えられた試験用試験片を、室温で7日間にわたりMEKに浸漬した。7日後、2A又は2Bのいずれの試験用試験片においても亀裂は観察されなかった。ひび割れは、2A及び2Bの両方の試験用試験片に関し、1.1%の歪み点上で観察された。
【0078】
比較例2
表4に示される配合物を有する比較樹脂を、例2と同じ手法で調製した。樹脂は、硬化剤としてBAPBの代わりに4,4’−DDSを使用したこと以外、例2の樹脂と同等である。
【表4】
【0079】
耐溶媒性試験用の試験片を、表4の樹脂配合物を使用して調製した。樹脂を、長さ4.5インチ(11.4cm)、幅0.5インチ(1.3cm)、及び厚さ0.63インチ(0.16cm)の試験片に形成した。樹脂を、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化して、硬化された試験用試験片を形成した。試験用試験片に、標準的なクロソイド試験ジグで歪みを与えることにより、0%から最大2%に及ぶ歪みが得られた。歪みが与えられた試験用試験片を、室温でMEKに浸漬し、試験片2CA及び2CBには共に10秒で亀裂が入った。
【0080】
(例3)
本発明による例示的な樹脂配合物を、表5に示す。未硬化樹脂は、エポキシ成分を室温でポリエーテルスルホン(PES)と混合して樹脂ブレンドを形成し、これを130℃に60分間加熱してPESを完全に溶解することにより調製した。混合物を80℃に冷却し、BAPB硬化剤を添加し、十分混合することによって未硬化樹脂を形成した。
【表5】
【0081】
未硬化樹脂は、プリプレグの作製で使用するのに好適な粘度を有していた。繊維強化材に含浸させると、得られるプリプレグは、成形用物品の形成に使用するのに許容可能なタック及びアウトライフ特性を有することになる。例示的なプリプレグは、一方向炭素繊維の1つ又は複数の層に、表5の樹脂配合物を含浸させることによって調製することができる。一方向炭素繊維は、マトリックス樹脂が全未硬化プリプレグ重量の約35重量パーセントになり且つ繊維の面積重量が約190グラム毎平方メートル(gsm)であるプリプレグを作製するのに使用される。様々なプリプレグレイアップは、標準的なプリプレグ作製手順を使用して調製することができる。プリプレグを、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化する。
【0082】
耐溶媒性試験用の試験片を、表5の樹脂配合物を使用して調製した。樹脂を、長さ4.5インチ(11.4cm)、幅0.5インチ(1.3cm)、及び厚さ0.63インチ(0.16cm)の試験片に形成した。樹脂を、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化して、硬化された試験用試験片を形成した。試験用試験片に、標準的なクロソイド試験ジグで歪みを与えることにより、0%から最大2%に及ぶ歪みが得られた。歪みが与えられた試験用試験片を、室温でMEKに7日間浸漬した。7日後、3A、3B、又は3Cの試験用試験片には亀裂が観察されなかった。試験用試験片3Aは、ひび割れも示さなかった。試験用試験片3Bは、試験片上の1.4%の歪みの場所でひび割れが始まったことを示した。試験用試験片3Cは、試験片上の1.8%の歪みの場所でひび割れが始まったことを示した。
【0083】
比較例3
表6に示される配合物を有する比較樹脂を、例3と同じ手法で調製した。樹脂は、硬化剤としてBAPBの代わりに4,4’−DDSを使用したこと以外、例2の樹脂と同等である。
【表6】
【0084】
耐溶媒性試験用の試験片を、表6の樹脂配合物を使用して調製した。樹脂を、長さ4.5インチ(11.4cm)、幅0.5インチ(1.3cm)、及び厚さ0.63インチ(0.16cm)の試験片に形成した。樹脂を、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化して、硬化された試験用試験片を形成した。試験用試験片に、標準的なクロソイド試験ジグで歪みを与えることにより、0%から最大2%に及ぶ歪みが得られた。歪みが与えられた試験用試験片を、室温でMEKに7日間浸漬した。7日後、3A、3B、又は3Cの試験用試験片に亀裂は観察されなかった。試験用試験片3CAは、試験片上の1.0%の歪みの場所でひび割れが始まったことを示した。試験用試験片3CBは、1.3%の歪みの場所でひび割れが始まったことを示し、試験用試験片3CCは、1.0%の歪みの場所でひび割れが始まったことを示した。
【0085】
(例4)
本発明による例示的な樹脂配合物を、表7に示す。未硬化樹脂は、エポキシ成分を室温でポリエーテルスルホン(PES)と混合して樹脂ブレンドを形成し、これを130℃に60分間加熱してPESを完全に溶解することにより調製した。混合物を80℃に冷却し、BAPBを硬化剤として添加し、十分混合することによって未硬化樹脂を形成した。
【表7】
【0086】
未硬化樹脂は、プリプレグの作製で使用するのに好適な粘度を有していた。繊維強化材に含浸させると、得られるプリプレグは、成形用物品の形成に使用するのに許容可能なタック及びアウトライフ特性を有することになる。例示的なプリプレグは、一方向炭素繊維の1つ又は複数の層に、表7の樹脂配合物を含浸させることによって調製することができる。一方向炭素繊維は、マトリックス樹脂が全未硬化プリプレグ重量の約35重量パーセントになり且つ繊維の面積重量が約190グラム毎平方メートル(gsm)であるプリプレグを作製するのに使用される。様々なプリプレグレイアップは、標準的なプリプレグ作製手順を使用して調製することができる。プリプレグを、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化する。
【0087】
耐溶媒性試験用の試験片を、表7の樹脂配合物を使用して調製した。樹脂を、長さ4.5インチ(11.4cm)、幅0.5インチ(1.3cm)、及び厚さ0.63インチ(0.16cm)の試験片に形成した。樹脂を、180℃のオートクレーブ内で約2時間硬化して、硬化された試験用試験片を形成した。試験用試験片に、標準的なクロソイド試験ジグで歪みを与えることにより、0%から最大2%に及ぶ歪みが得られた。歪みが与えられた試験用試験片を、室温でMEKに7日間浸漬した。7日後、試験用試験片は、ひび割れ又は亀裂を示さなかった。例3及び4の比較からわかるように、比較的多い量(15重量%を超える。)のPESが樹脂配合物中に存在する場合、低分子量PESをBAPBと組み合わせて使用することが好ましい。負荷が17重量%である、例4による低分子量PESの使用は、例3Bで観察されたひび割れをなくした。
【0088】
これまでに記載した本発明の例示的な実施形態により、その中の開示内容は例示にすぎず、本発明の範囲内で様々な他の変更、改造及び修正を加えることができることを当業者は認識するはずである。したがって、本発明は、上記実施形態によって制限されず、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。
本発明に包含され得る諸態様は、以下のとおり要約される。
[1].
三官能性エポキシ樹脂及び/又は四官能性エポキシ樹脂を含む、エポキシ樹脂成分、
熱可塑性成分、及び
4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル及び/又はその異性体から本質的になる硬化剤
を含む未硬化樹脂。
[2].
前記エポキシ樹脂成分が、三官能性エポキシ樹脂及び四官能性エポキシ樹脂を含む、上記[1]項に記載の未硬化樹脂。
[3].
前記熱可塑性成分が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアミドイミド、及びポリアミドからなる群から選択される熱可塑性物質を含む、上記[1]項に記載の未硬化樹脂。
[4].
前記熱可塑性成分がポリエーテルスルホンを含む、上記[1]項に記載の未硬化樹脂。
[5].
前記熱可塑性成分がポリアミドを含む、上記[4]項に記載の未硬化樹脂。
[6].
前記ポリエーテルスルホンの分子量が、15,000から25,000g/モルの間である、上記[4]項に記載の未硬化樹脂。
[7].
上記[1]項に記載の未硬化樹脂及び繊維強化材を含む、未硬化複合材料。
[8].
上記[1]項に記載の未硬化樹脂及び繊維強化材を含み、前記未硬化樹脂が硬化されている、複合材料。
[9].
前記複合材料が、航空機の一次構造物の少なくとも一部を形成する、上記[8]項に記載の複合材料。
[10].
プリプレグを作製するための方法であって、
三官能性エポキシ樹脂及び/又は四官能性エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂成分と、
熱可塑性成分と、
4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル及び/又はその異性体から本質的になる硬化剤と
を含む未硬化樹脂を用意する工程と、
前記未硬化樹脂と繊維強化材とを組み合わせて前記プリプレグを提供する工程と
を含む、上記方法。
[11].
前記エポキシ樹脂成分が、三官能性エポキシ樹脂及び四官能性エポキシ樹脂を含む、上記[10]項に記載の方法。
[12].
前記熱可塑性成分が、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリアミドイミド、及びポリアミドからなる群から選択される熱可塑性物質を含む、上記[10]項に記載の方法。
[13].
前記熱可塑性成分がポリエーテルスルホンを含む、上記[12]項に記載の方法。
[14].
前記熱可塑性成分がポリアミド粒子を含む、上記[13]項に記載の方法。
[15].
前記ポリエーテルスルホンの分子量が15,000から25,000g/モルの間である、上記[13]項に記載の方法。
[16].
前記未硬化樹脂を硬化させて硬化複合部品を形成するさらなる工程を含む、上記[10]項に記載の方法。
[17].
前記硬化複合部品が航空機の一次構造物の少なくとも一部を形成する、上記[16]項に記載の方法。
[18].
エポキシ成分及び熱可塑性成分を含む未硬化樹脂を使用して複合部品を作製するための方法において、改良が、前記未硬化樹脂を4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ビフェニル及び/又はその異性体で硬化することにより前記複合部品の耐溶媒性を向上させることを含む、上記方法。
[19].
前記熱可塑性成分がポリエーテルスルホン及びポリアミド粒子を含む、上記[18]項に記載の改良された方法。
[20].
前記複合部品が、航空機の一次構造物の少なくとも一部を形成する、上記[18]項に記載の改良された方法。
図1
図2