特許第5761831号(P5761831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761831癌及び慢性感染の治療のための作動薬活性を有するIL−2由来のポリペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761831
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】癌及び慢性感染の治療のための作動薬活性を有するIL−2由来のポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/55 20060101AFI20150723BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20150723BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150723BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20150723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150723BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20150723BHJP
【FI】
   C07K14/55ZNA
   C07K19/00
   A61K37/02
   A61P37/04
   A61P35/00
   A61P31/00
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-538062(P2013-538062)
(86)(22)【出願日】2011年11月10日
(65)【公表番号】特表2014-500868(P2014-500868A)
(43)【公表日】2014年1月16日
(86)【国際出願番号】CU2011000007
(87)【国際公開番号】WO2012062228
(87)【国際公開日】20120518
【審査請求日】2013年5月28日
(31)【優先権主張番号】P/2010/216
(32)【優先日】2010年11月12日
(33)【優先権主張国】CU
(73)【特許権者】
【識別番号】500185689
【氏名又は名称】セントロ ド インムノロジア モレキュラー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レオン モンゾン、カレット
(72)【発明者】
【氏名】カルメナーテ ポルティーリャ、タニア
(72)【発明者】
【氏名】ペレス ロドリゲス、サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】エナモラード エスカローナ、ネリス、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ラゲ ダヴィラ、オーガスティン、ビエンヴェニード
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/135615(WO,A2)
【文献】 国際公開第2010/085495(WO,A1)
【文献】 特表平04−501562(JP,A)
【文献】 特表平05−504756(JP,A)
【文献】 特表2002−515247(JP,A)
【文献】 J. Immunother.,2009年,vol.32, no.9,pp.887-894
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/54−14/55
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IL−2の作動薬ポリペプチドであって、生来のIL−2の配列と95%以上の相同性によって特徴付けられ、かつ、前記ポリペプチドが、制御性T細胞をインビトロ及び/又はインビボで刺激することにおいて少なくとも1000倍少ない効果性であり、かつより大きいインビボ治療有効性を示す、上記作動薬ポリペプチドであって、
前記ポリペプチドが、
(i) 変異R38K、F42I、Y45N、E62L、E68Vを含むポリペプチド、
(ii) 変異R38K、F42Q、Y45E、E68Vを含むポリペプチド、
(iii) 変異R38A、F42I、Y45N、E62L、E68Vを含むポリペプチド、
(iv) 変異R38K、F42、Y45R、E62L、E68Vを含むポリペプチド、
(v) 変異R38K、F42、Y45E、E68Vを含むポリペプチド、及び
(vi) 変異R38A、F42A、Y45A、E62Aを含むポリペプチド
からなる群から選択される、
上記作動薬ポリペプチド。
【請求項2】
キャリアタンパク質とカップリングした、請求項1に記載の免疫変調ポリペプチドを含む融合タンパク質。
【請求項3】
前記キャリアタンパク質が、アルブミンである、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記キャリアタンパク質が、ヒト免疫グロブリンのFc領域である、請求項2に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
活性成分として請求項1に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする、癌及び慢性感染疾患の治療において有用な医薬組成物。
【請求項6】
活性成分として請求項2〜4のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含む、癌及び慢性感染疾患の治療において有用な医薬組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のポリペプチドを含む、免疫系を変調させるための医薬組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のポリペプチドを含む、慢性疾患の治療において有用な医薬組成物。
【請求項9】
活性成分として請求項1に記載のポリペプチドを含むことを特徴とする、癌ワクチンに対する細胞性及び/又は体液性応答を増強させることに有用な医薬組成物。
【請求項10】
活性成分として請求項2〜4のいずれか一項に記載の融合タンパク質を含むことを特徴とする、癌ワクチンに対する細胞性及び/又は体液性応答を増強させることに有用な医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学に関する。具体的には、もとの分子の作動薬作用を有するが、予期せずして優れた治療有効性を示した天然分子類似体による免疫系の治療的変調に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン2(IL2)は、T細胞のためとして記載された最初の増殖因子であった。その発見以来、そのインビトロのT細胞の増殖及び生存を促進する能力(Smith,KA.(1988)Science.240,1169−76)、並びにウイルス感染(Blattman,JNら(2003)Nat Med 9,540−7)又はワクチン(Fishman,M.ら(2008)J Immunother.31,72−80,Kudo−Saito,C.ら(2007)Cancer Immunol Immunother.56,1897−910;Lin,CT.ら(2007)Immunol Lett.114,86−93)に関連してのT免疫応答をブーストする能力が観察された。しかしながら、IL−2のT免疫応答の促進因子としてのこの古典的な役割は、このサイトカインが自然制御性T細胞CD4+CD25+FoxP3+(Treg)のためのホメオスタティック増殖因子であることを示す数多くの実験データ(Almeida,AR.ら(2002)J Immunol.169,4850−60;de la Rosa,M.ら(2004)Eur J Immunol.34,2480−8,Malek;TRら(2004)Nat Rev Immunol.4,665−74)によって、最近疑問視されてきている。
【0003】
インターロイキン2は、制御性T細胞がCD4 Tヘルバー細胞、細胞毒性CD8 T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞といった他のエフェクター細胞の活性及び拡張を抑制するための機構における主要な役回りであるとしても提唱されてきている。とりわけ、制御性T細胞がIL−2のレベルの局所的減少を誘導して他のT細胞を抑制することが、最近提唱されてきている(Pandiyan,P.ら(2007)Nat Immunol.8,1353−1362)。この抑制的効果は、
a)エフェクターT細胞が新規なIL−2を産生することを直接阻害する、それらの能力(Almeida,AR.ら(2002)J Immunol.169,4850−60;Takahashi,T.ら(1998)Int Immunol.10,1969−80;Thornton,AM.ら(1998)J Exp Med 188,287−96;Wolf,M.ら(2001)Eur J Immunol.31,1637−45)、
b)それらの微小環境に存在するIL−2を急速に隠退させ、内部吸収しかつ分解する、それらの能力(Pandiyan,P.ら(2007)Nat Immunol.8,1353−62)及び
c)IL−2受容体のα鎖を過剰発現させて(Kuniyasu,Y.ら(2000)Int Immunol.12,1145−1155)、IL−2の濃度が低い時にIL−2のより効率的な使用を可能にさせる、それらの能力
に基づいている。
【0004】
まとめると、IL−2は、異なる細胞集団の生物学的活性に非常に関連性のある、高い多面性のサイトカインである。この性質は、IL−2を免疫応答の制御における重要な結節点にするものであり、治療及び複合免疫変調のための魅力的な標的にするものである。
【0005】
IL−2は、数年の間癌治療において使用されてきている。とりわけ、高い用量でのそれの使用は、転移性メラノーマ及び腎細胞癌の治療のためにいくつかの国で承認された治療である。しかしながら、患者におけるIL−2の直接の使用は、それの毒性効果及び低い有効性によって厳しく制限されている。そのようなわけで、適性のある患者のわずか20%だけがIL−2に基づく治療を受容し、治療されたそれらの患者のわずか17%のみが目的の応答を示す。この劇的な臨床的設置の不履行についてのあり得そうな説明は、生来のIL−2による治療が、望ましい免疫刺激をしくじらせる制御性T細胞の集団をも刺激することである(Ahmadzadeh,M.ら(2006)Blood.107,2409−14)。今日では、大量の前臨床の証拠がこの考えを支持する。とりわけ、マウスモデルでの実験は、インビボで注射されたIL−2の主要な活性が自然制御性T細胞のホメオスタティック拡張であることを示す。
【0006】
IL−2治療の毒性効果を緩和するためにいくつかの戦略が開発されてきている。これらの戦略の中のいくつかは、IL−2の変異された改変体の使用に基づくものであり、この分子の力量を、主に高親和性受容体(α、β及びγ鎖)による、そして中程度の親和性受容体(β及びγ鎖)によるものではないシグナルにまで増加させるために設計されている。その基本的な考えは、観察された毒性効果の要因となっていると信じられているNK細胞におけるシグナリングではなく、T細胞におけるシグナリングを促進することである。引き続いての発明は、下記の仕事、米国特許第7,186,804号、米国特許第7,105,653号、米国特許第6,955,807号、米国特許番号第5,229,109号、米国特許出願第20050142106号に沿ったものである。これらの発明のいずれも、減少した自然制御性T細胞を刺激する能力に基づいての、インビボの生来のIL−2よりも大きい治療有効性を有するIL−2のムテインに関したものではないことに注意することが重要である。
【0007】
IL−2の他の変異された改変体が、これらの薬理学的活性を増加させる目的で、例えば、その折畳みを改良したり又はそれらの血中寿命を増加させることによって、創出されてきている。中でも、引き続いての発明は、下記の仕事、米国特許番号第4,959,314号、米国特許番号第5,116,943号、米国特許番号第4,853,332号に沿ったものである。繰り返すと、これらのムテインのいずれも、制御性T細胞を活性化させる能力が減少したり、より大きな治療有効性を示したりするものはない。
【0008】
最後に、文献で述べるべきこととして、制御性T細胞の活性をインビボで変調又は低減することを提唱している治療剤の多数の提唱が存在している(Kreitman,R.J.(2009)Curr Pharm Des.15,2652−64;Litzinger,M.T.,Fernando,R.,Curiel,T.J.,Grosenbach,D.W.,Schlom,J.及びPalena,C.(2007)Blood.110,3192−201;Morse,M.A.,Hobeika,A.C.,Osada,T.,Serra,D.,Niedzwiecki,D.,Lyerly,H.K.及びClay,T.M.(2008)Blood.112,610−8;Onizuka,S.,Tawara,I.,Shimizu,J.,Sakaguchi,S.,Fujita,T.及びNakayama,E.(1999)Cancer Res.59,3128−33;Quezada,S.A.,Peggs,K.S.,Curran,M.A.及びAllison,J.P.(2006)J Clin Invest.116,1935−45)。これらの治療剤は、癌の直接の治療として又はワクチンの効果を増強するために、動物モデルにおいて又は患者においてさえも、試験されてきている。より良好な又はより効果的な免疫応答を促進するために、IL−2の活性を変調することを提唱しているいくつかの報告、とりわけモノクローナル抗体もまた、存在している(Boyman,O.,Kovar,M.,Rubinstein,M.P.,Surh,C.D.及びSprent,J.(2006)Science.311,1924−1927;Boyman,O.ら(2006)Expert Opin Biol Ther.6,1323−31;Kamimura,D.ら(2006)J Immunol.177,306−14;Murakami,M.,Sakamoto,A.,Bender,J.,Kappler,J.及びMarrack,P.(2002)Proc Natl Acad Sci USA.99,8832−7;Tomala,J.,Chmelova,H.,Mrkvan,T.,Rihova,B.及びKovar,M.(2009)J Immunol.183,4904−4912)。しかしながら、我々の知識では、IL−2の変異された改変体に基づいての、減少した自然制御性T細胞を刺激する能力に基づいてより大きな治療有効性を獲得する可能性を示す報告は、存在していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、移植可能なマウス腫瘍モデルにおける生来のIL−2よりも大きい治療有効性を示す、IL−2の変異された改変体の産生に関する。これらのムテインはIL−2活性の部分的作動薬であることにより特徴付けられ、自然制御性T細胞(T CD4+CD25+FoxP3+)をインビトロ及び/又はインビボで刺激する能力がとりわけ低いことによって選別される。これらのムテインのインビボでの治療有効性によって、転移性腫瘍におけるIL−2治療を改良するための実践的解決が提供される。とりわけ、これらのムテインは、生来のIL−2治療において観察された制約を解消するための道筋、それはインビボでの自然制御性T細胞を拡張する能力の改良に由来している、を提供するであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、変異されてしまった数個のアミノ酸を除いて、ヒトIL−2と一次配列を共有するポリペプチドに関する。導入された変異は、これらのポリペプチドのインビトロ及びインビボで制御性T細胞(T CD4+CD25+FoxP3+)を刺激する能力を実質的に低減させ、マウスの移植可能な腫瘍の治療においてIL−2により大きい有効性を与える。本発明は、これらの変異された改変体の単独での、又はワクチンと組み合わせての、制御性T細胞(Treg)の活性が関係している癌又は感染といった疾患の治療のための治療的使用をもまた包含する。
【0011】
本発明は、IL−2に基づいての免疫変調の現在の戦略の実質的な改良を、癌の直接的治療のために及び異なるワクチンと組み合わせての両方で、可能にする。とりわけ、生来のIL−2を本明細書に記載の変異された改変体で置換することにより、所望の治療効果を著しく低減させる制御性T細胞の拡張を回避するであろう。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(IL−2類似体ポリペプチドの取得)
本発明は、100〜500アミノ酸の長さのポリペプチド、好ましくは140残基のサイズで、その分子量は明らかに少なくとも15kDであるポリペプチドに関する。これらのポリペプチドは、生来のIL−2との高い配列同一性、90%より高い、を維持する。これらの配列の領域では、生来のIL−2と比較して3〜6個の変異を含む。これらの位置では、これらのポリペプチドは生来のIL−2での同じ位置におけるものと異なるアミノ酸残基を導入して変異される。もとの残基を置き換えるアミノ酸は、もとのアミノ酸のものと全く異なる物理化学的特性を有し、極性残基を非極性、非荷電性を荷電性、大型を小型に、酸性を塩基性に変え、その他変更をするように選択される。
【0013】
本発明のポリペプチドは、免疫変調性ポリペプチド、IL−2類似体又はIL−2ムテイン、その他の名称として呼んでもよい。これらのポリペプチドは、IL−2受容体複合体の3D構造(PDB公開データベースで入手可能)に基づいて設計され、溶媒に顕著に露出するするアミノ酸であって、異なる種からのIL−2(Swissprotデータベースから入手した配列)において高く保存されているアミノ酸に対応するIL−2の位置において主に変異を導入している。上述した型の溶媒に露出するアミノ酸は、RASMOL、SwissPDBviewerなどといったタンパク質構造の可視化のためのバイオインフォマティックスソフトウエアを使用して同定される。IL−2の配列における保存された位置は、複数配列アラインメントのためのバイオインフォマティックスソフトウエア、例えば、Fasta、ClusterWなどを使用して同定した。
【0014】
本発明のポリペプチドは、タンパク質合成を含めた、種々の戦略によって取得することができる。それらは、遺伝子工学技術によっても、例えば、それらを大腸菌(E.coli)といったバクテリア又は他のバクテリアにおいて、またNSO細胞といった哺乳細胞又は他の哺乳細胞においても発現させることによっても、取得することができた。特定の位置での点変異は、ポリメラーゼ鎖反応アッセイ(PCR)による部位指向変異導入技術によっても取得してよい。
【0015】
予期せずして、本発明者らは、生来のIL−2の従来的使用について、これらのムテインの実質的な有利点を見出した。この有利点は、制御性T細胞の拡張を回避するそれの能力に由来する、腫瘍治療におけるそれらの増加した有効性に依拠する。
【0016】
(生物学的活性に関してのIL−2のペプチド類似体の選別)
本発明のポリペプチドは、下記の特性により選別される。
1)生来のIL−2の作動薬作用。この特性は、CTLL2又はKitt225といったIL−2に依存する細胞ラインでのインビトロ増殖アッセイにおいて直接評価することができ、又はマウス及び/又はヒトTリンパ球の混合物でのアッセイによって評価することができる。これらのムテインは、これらの試行において将来のIL−2のものより5〜50倍少ない特異的刺激活性を有していなければならない。
2)生来のIL−2と比較しての、制御性T細胞の集団をインビトロで及び/又はインビボで刺激する許容能力の欠失。この特性は、例えば、生来のIL−2のものと比較しての、本発明のムテインの実験未使用マウスから精製されインビトロで抗CD3抗体で刺激されたT CD4+CD25+細胞の拡張を直接誘導する能力を検討することによって評価することができる。これらのムテイン又は生来のIL−2をマウス中に5日間腹腔内又は皮下注射して、拡張又は制御性T細胞(TCD4+CD25+FoxP3+)の集団の増殖の速度の増加に対する効果を評価することによっても、それを評価することができる。変異されたIL−2のTreg細胞に対する活性は、これらの試行において生来のIL−2のものよりも少なくとも1000倍低くなければならない。
3)動物モデルにおける生来のIL2についての増加した治療効果。この特性は、例えば、移植可能な腫瘍モデル(例えば、B16メラノーマ)における単独治療としてのムテイン及び生来のIL−2の抗腫瘍又は抗転移効果を比較することによって、評価することができる。目的のワクチンに対する細胞性及び/又は体液性応答の相乗的効果を通じても、それを評価することができる。そのムテインは、等しいタンパク質の合計質量のIL−2及びムテインを含む用量において、生来のIL−2よりも大きい治療有効性を示さなければならない。
【0017】
本発明は、とりわけ表1に特定されるムテインに関する。これらのムテインは、上述した特性を与える複数のアミノ酸の置換を有する。
【表1】
【0018】
本発明は、上述したクラスのIL−2ムテインに対して、特に表1に記載されるものに対しての追加の改変をもまた含む。IL−2受容体の特定の構成要素に対するそれらの親和性を増加させるものであってもなくても、しかし制御性T細胞を刺激することのない作動薬性質に影響を与えることなくあるいは改良し、又はそれらのインビボ薬力学を改善する:半減期を増大させ若しくはT細胞による内部吸収を減少させる。これらの追加の変異は、バイオインフォマティクスツールによる推論的設計によって、又は異なる性質のコンビナトリアル分子ライブラリー(ファージライブラリー、酵母又はバクテリアでの遺伝子発現ライブラリー)を使用して取得してもよい。
【0019】
本発明の別の態様は、上記した免疫変調性ポリペプチドのいずれかにキャリアタンパク質がカップリングした融合タンパク質に関する。キャリアタンパク質は、アルブミン又はヒト免疫グロブリンのFc領域となることができる。
【0020】
(IL−2類似体ポリペプチドの治療適用)
本発明はまた、活性成分として本発明によって開示されたIL−2のムテイン及びその類似体を含む医薬組成物、及び制御性T細胞が特に関連する癌又は慢性感染といった疾患における自然の又はワクチン誘導の免疫応答を増強するための潜在的な治療適用もまた含む。
【0021】
治療的使用のために、本発明のポリペプチドは、独立して又は治療作用を促進若しくは増強する他のポリペプチド若しくは他の物質と組み合わせて、被検キャリアに投与されるべきである。投与経路は、薬物の非経口投与のための技術常識によって記載されるいかなる投与経路であってもよい。好ましくは、静脈内、筋肉内、皮下又は腫瘍内に投与されるべきである。
【0022】
本明細書に記載のポリペプチドは、生来のIL2の代替として、癌若しくは慢性感染の治療において又はワクチンに対する細胞性及び/又は体液性応答を増強させるために使用される医薬組成物の一部として投与されてもまたよい。本発明のポリペプチドは、癌のための治療ワクチンと組み合わせて、又は制御性T細胞が関連する感染性疾患における予防薬ワクチンとともに使用することができる。
【0023】
所望の治療効果を得るために、本発明のポリペプチドは、末梢リンパ節での又は検討中の疾患に関連する末梢部位での濃度がムテインが免疫刺激効果を示す濃度の範囲内にあることを確実にするために十分に高い用量で投与されるべきである。それゆえに、問題の用量は、疾患の型及び検討中の投与経路に従って調整するべきである。例えば癌治療の場合では、抗腫瘍免疫応答の刺激を確実にするような腫瘍の内部の及び/又は局所リンパ節でのムテインの濃度を達成するために用量を調整するべきである。検討される用量範囲は、一用量あたり何百マイクログラムから何百ミリグラムまでの範囲となることができる。ムテインが生来のIL−2での伝統的治療を置き換える際の適用のためには、使用されるムテイン用量は、生来のIL−2のために伝統的に使用されたものより活性で少ないか又は等しい(CTLL2ラインでのアッセイを使用して決定される)ものであるべきである。
【0024】
適用する投与の回数もまた、問題となるムテインの生体内分布に従って調整するべきである。一般に、前述の有効的なレベルは連続した2〜30日の間維持されるべきである。例えば、ムテインをキャリアタンパク質にカップリングする場合には、その投与の頻度はそれに従って調整されるものであろうことに、注意するべきである。生来のIL−2が置き換えられる適用のためには、ムテインの投与のスキームは伝統的治療で使用されるものと同様であってもよい。
【0025】
治療作用は、疾患の症状の完全な又は部分的な寛解によって理解するべきである。癌においては、中でも、腫瘍体積の減少又は再発までの時間の増加が疾患の寛解の判断基準となるであろう。
【0026】
本発明のポリペプチドは、とりわけ、メラノーマ及び腎臓腫瘍といった腫瘍の治療において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ムテインの取得。a)SDSポリアクリルアミドゲル中の電気泳動(SDS−PAGE)により評価した大腸菌の株BL21DE3におけるムテインの発現。レーン1:BL21DE3株の全タンパク質、発現の陰性対照。レーン2及び3:この株において達成された発現レベルの2つの例、矢印はムテインに対応するバンドを指示する。b)タンパク質の主要な最終精製工程を示す逆相クロマトグラム、矢印は目的のタンパク質に対応するピークを指示する。c)SDS−PAGEにより評価したムテインの精製。1:封入体単離のプロセスの結果。2:逆相による精製の後に取得したムテイン。
図2】IL−2ムテインの作動薬性質の評価。a)フローサイトメトリーによるムテインのCTLL2細胞ラインの表面への結合能力の測定。IL−2及びムテインの両方とも抗6HisタグMAbを使用して検出した。b)グラフは、生来のIL−2と比較した、ムテインのIL−2依存性T細胞ラインCTLL2の増殖を誘導する能力を示す。増殖はMTT取り込みによって測定した。
図3】ムテインは制御性T細胞の増殖をインビトロで誘導しない。a)C57BL/6マウスリンパ節から精製したCD3+CD4+CD25+集団の純度を示すフローサイトメトリーグラフ。b)Treg細胞をインビトロで抗CD3 mAbで刺激し、生来のIL−2をそれに0.5ng/mLの濃度で又は32ng/mLの濃度でムテインを72時間の間投与した。グラフは、いかなるサイトカインを添加しなかった対照と比較しての各処理の後で回収した生存細胞の数を示す。選択した濃度は、各分子がCTLL2ラインの同じ増殖を誘導する濃度に対応する。
図4】ムテインによる処理の細胞集団の増殖に対する効果の評価。a)ムテインで5日間処理したマウスの脾臓の相対的重量の数量化。処理したマウスの脾臓の重量は対照群のものより統計的に高かった。Kruskal−Wallis非母数試験及びDunn多重比較。b)T CD8+細胞の集団の測定。グラフはこの集団の百分率を示す。
図5】ムテインは、メラノーマMB16F0ラインの実験的転移モデルにおける転移の現象において、生来のIL−2よりも効率的である。a)各処理のための肺の代表的な写真。b)各群における肺転移の数量化。
図6】ムテイン及びOVA/VSSPワクチンの組合せでの治療は、ワクチンの抗腫瘍効果を相乗化させる。腫瘍保持マウスをOVA/VSSPワクチン単独で又はムテインと組み合わせて処理した。グラフは腫瘍増殖曲線を示す。組合せで処理した群は腫瘍増殖のより大きな低減を示し、対照群からは統計的に異なっていた。
【実施例】
【0028】
(例1.IL−2ムテインの設計)
ムテインは、基礎としてデータベースPDB(Protein Data Bank)におけるヒトIL−2の報告された構造及びSwissprot データベースで入手可能である種々の種におけるIL−2のアミノ酸配列を使用して、バイオインフォマティクス技術から計算手法的に設計された。いくつかのムテインを、溶媒に露出した高度に保存された残基における3〜6個の変異(非保存性アミノ酸置換を導入する)を含んで設計した。これらのムテインは、6ヒスチジンの標的配列をアミノ末端に含むpET28aベクターにおけるプラスミド構築物から大腸菌において発現した。ムテインは逆相によって精製され(図1)、高純度(>95%)が得られた。得られたムテインは、インビトロ及びインビボの両方での実験的アッセイにおいて特性によって選別され、本発明の本文に記載される3つの基本特性を示した。構築したすべてのムテインのうちで、表1は、感知されるほどに制御性T細胞を刺激することなくIL−2の活性の作動薬となるという所望の特性を有し、移植可能なマウス腫瘍の治療において生来のIL−2よりも大きい治療有効性を示す、一組の特異的な変異を記載する。表2は、他の構築されたムテインであって、所望の特性を示さなかったものを示す。
【表2】
【0029】
(例2.設計したIL−2ムテインの作動薬性質の呈示)
図2は、表1で述べたムテインがCTLL2細胞ラインの表面上のIL−2受容体の構成成分にどのように結合するかを図示する(図2a)。構築したムテインは、IL−2に対する高親和性受容体及び中程度親和性受容体の両方を表面上に有することが知られるCTLL2細胞に結合する。我々のアッセイで検出された結合は、生来のIL−2で得られたものと同様であるように見える。図2bは、表1に示されるムテインのCTLL2細胞ラインの増殖を刺激する許容能力を図示する(図2b)。これらのムテインは、このアッセイにおいてIL−2の活性の部分的作動薬として振舞う。その特異的活性は、生来のIL−2のものより5〜50倍低い。
【0030】
(例3.IL−2ムテインの制御性T細胞に対する効果)
表1に記載されるムテインは、インビトロで制御性T細胞を刺激する許容能力が非常に低いことを示す(図3)。この図に示されるように、生来のIL−2は、プレートに結合した抗CD3抗体で刺激された制御性T細胞(T CD4+CD25+FoxP3+)の強い増殖を誘導することができる。生来のIL−2のものより著しく高い質量濃度での表1に記載のムテインは、制御性T細胞を刺激しなかった。使用されるムテインの量が増加してCTLL2ラインによる増殖アッセイにおける生来のIL−2と活性において等価となる量を使用するようになる場合になったとしても、上記した結果は有効である。表1に記載されるムテインは、典型的に、生来のIL−2のものより少なくとも1000倍低い、制御性T細胞を刺激する許容能力を呈する。
【0031】
(例4.設計したムテインのインビボ免疫刺激活性の特徴化)
表1に記載されたムテインは、増加したインビボ免疫刺激許容能力を示す。図4a、bは、20μgのムテインを2日量で腹腔内投与しての5日間の処理の後の、実験未使用マウスにおける生来のIL2のものより大きい巨脾症をムテインがどのように誘導するのかを示す。この刺激は、T CD8+リンパ球のような、エフェクター集団の明確な増加と連関する。関連して観察されるように、我々は、これらのムテインでの処理は、生来のIL2の場合で観察されたものと対照的に、制御性T細胞(T CD4+CD25+FoxP3+)の拡張を刺激しない(図4c、d)。
【0032】
(例5.移植可能な腫瘍のマウスモデルにおけるムテインの治療有効性の測定)
移植可能な腫瘍のマウスモデルにおける設計したムテインの治療有効性における増加を証明した。表1に記載されるムテインは、MB16マウスメラノーマモデルにおける肺転移の治療に対する増加した有効性を示す。図5は、表1におけるムテインの20μgの2日量で腹腔内投与による5日間の治療が、等用量の生来のIL−2で治療した群では観察されていない強力な抗転移効果を、どの程度有するのかを示す。
【0033】
(例6.抗腫瘍ワクチン効果を可能にするためのムテイン許容能力の測定)
設計されたムテインの抗腫瘍ワクチン効果を可能にするための許容能力を証明した。OVA抗原を発現するために遺伝学的に改変された腫瘍細胞ラインである、EG7細胞ラインでの原発腫瘍モデルを使用した。腫瘍保持マウスを、VSSPでアジュバント化したOVA単独で、又はムテインと組み合わせて免疫化した。図6は、腫瘍増殖の低減が、ワクチン単独で処理したマウスよりも、組合せで処理したマウスについて、大きかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]