特許第5761867号(P5761867)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5761867繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体の製造方法及びこの製造方法に使用する可塑化吐出機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761867
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体の製造方法及びこの製造方法に使用する可塑化吐出機
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/34 20060101AFI20150723BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20150723BHJP
   B29K 101/12 20060101ALN20150723BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20150723BHJP
【FI】
   B29C43/34
   B29C43/18
   B29K101:12
   B29K105:08
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-8834(P2013-8834)
(22)【出願日】2013年1月21日
(65)【公開番号】特開2014-138993(P2014-138993A)
(43)【公開日】2014年7月31日
【審査請求日】2013年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】大野 秋夫
(72)【発明者】
【氏名】西田 正三
(72)【発明者】
【氏名】伊東 宏
(72)【発明者】
【氏名】二山 拓也
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−328482(JP,A)
【文献】 特開2010−184497(JP,A)
【文献】 特開2011−143609(JP,A)
【文献】 特開平3−261519(JP,A)
【文献】 特開平10−315396(JP,A)
【文献】 特開平8−57882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/34
B29C 43/18
B29K 101/12
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維素材に熱可塑性樹脂を含浸させてなる繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法であって、
前記熱可塑性樹脂の溶融体上に前記強化繊維素材を載置してこれを加圧し、前記溶融樹脂を前記強化繊維素材に含浸させた後、前記溶融樹脂を含浸させた強化繊維素材を冷却・固化してなる樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂の溶融体は、塗膜であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂の溶融体上に載置された強化繊維素材を加圧する際に、その強化繊維素材の側面に樹脂圧が作用するように加圧することを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法。
【請求項4】
強化繊維素材の加圧は、空気抜き用の凹凸又は溝を設けた加圧体を介して行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法。
【請求項5】
強化繊維素材は、同種又は異種の素材を積層してなるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法。
【請求項6】
強化繊維素材は、炭素繊維からなるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法。
【請求項7】
請求項1〜3の何れか一項に記載の溶融体を保持する受部材と、空気抜き用の凹凸又は溝を設けた加圧体を介して強化繊維素材を加圧する加圧手段と、前記溶融体を形成するTダイと、を有する可塑化吐出機。
【請求項8】
加圧手段は、加圧体の空気抜き用の凹凸部又は溝部に連通する真空手段を有することを特徴とする請求項7に記載の可塑化吐出機。
【請求項9】
強化繊維素材を加熱する加熱手段を有することを特徴とする請求項7又は8に記載の可塑化吐出機。
【請求項10】
強化繊維を含有した熱可塑性樹脂からなる溶融体上に強化繊維素材を載置し、その強化繊維素材を加圧して前記溶融樹脂を前記強化繊維素材に含浸させた後、前記溶融樹脂を含浸させた強化繊維素材を冷却・固化し、繊維含有率の高い層が積層されてなる繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加圧のもとで強化繊維素材に熱可塑性樹脂を含浸させる繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体の製造方法及びこの製造方法に使用する可塑化吐出機に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂が繊維強化された繊維強化樹脂は、軽量で高強度を有し、各種スポーツ用品、建築資材、航空機などに使用され、特殊自動車部品などにもその用途を拡大しているが、経済性、量産性が重視される一般自動車部品などへのその適用は進んでいない。しかし、環境負荷軽減が求められる社会情勢の変化に伴い自動車軽量化技術の開発が重要な課題になっており、繊維強化樹脂の大量使用が期待される一般自動車部品への適用が注目されている。
【0003】
繊維強化樹脂の中でも大量生産、取扱の容易さや生産性の高さ、用途の拡大性などを考慮すると、強化繊維束や強化繊維織物等の強化繊維素材に熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化樹脂が注目される。しかしながら、熱可塑性樹脂は、粘度が高いために強化繊維素材に含浸させるのが容易でなく均一的な含浸が困難、あるいは気泡が残留するなどの問題があり、かかる問題を解決するための各種提案がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1に、減圧されたシール部、温度制御可能な連結部及び溶融樹脂が貯留されたダイが一連に連結され、複数の連続強化繊維からなる帯状強化繊維束がシール部端の導入口から連結部及びダイ内の溶融樹脂を挿通されてダイ端から引き取られるようになったシート状プリプレグの製造方法が提案されている。この製造方法によると、樹脂が均一かつ良好に含浸され、含浸時間が短いとされる。
【0005】
特許文献2に、シート状の強化繊維基材と、熱可塑性樹脂とを、一対のロール間に導入し、該一対のロールを回転させながら前記強化繊維基材に溶融した前記熱可塑性樹脂が含浸されることにより、繊維強化樹脂シートを製造する方法であって、前記一対のロールとして、金属製の主ロールと金属製の押さえロールとを用い、前記主ロールに対して前記押さえロールを押圧することにより、前記押さえロールの周面が前記主ロールの周面形状に倣うように前記押さえロールの周面を変形させながら、前記熱可塑性樹脂を前記強化繊維基材に含浸させる繊維強化樹脂シートの製造方法が提案されている。この製造方法によると、含浸させる熱可塑性樹脂に線圧ではなく面圧を作用させることができるので、加圧むらがなく均一で良好な含浸を行うことができるとされる。
【0006】
特許文献3に、長繊維からなる強化繊維で構成される強化繊維シートの一方の面に、熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂層を配置し、前記強化繊維シートの他方の面に、前記熱可塑性樹脂が溶融する温度で溶融しない材料からなる網状シートを配置し、積層物を得る配置工程と、前記熱可塑性樹脂は溶融し、前記網状シートは溶融しない温度で、前記積層物を加熱するとともに加圧して、前記熱可塑性樹脂を前記強化繊維シートと前記網状シートとに含浸する含浸工程を有する、繊維強化熱可塑性樹脂の製造方法が提案されている。この製造方法によると、熱可塑性樹脂層を厚くして空隙を少なくするとともに、余分な熱可塑性樹脂を網状シートに移行させることができるので、繊維含有率が高く強度が優れ、含有する熱可塑性樹脂量が多いことに起因する繊維蛇行が抑制され、しかも、ボイドなどの空隙が少なく含浸性も良好な繊維強化熱可塑性樹脂を得ることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-16857号公報
【特許文献2】特開2012-110935号公報
【特許文献3】特開2011-224866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱可塑性樹脂の粘度は温度依存性があるので強化繊維素材への熱可塑性樹脂の含浸は温度管理が重要である。しかしながら、温度制御だけでは不十分であり、含浸を促進させるために真空や加圧が利用される。一般に、設備の規模や作業性等を考慮すれば特許文献1に提案されている製造方法のように真空を利用する方法よりも、特許文献2又は3に記載された加圧を利用する方法が優れる。
【0009】
特許文献1に記載の方法は、強化繊維が一方向に連続するストランドやプリプレグ等の樹脂基材の製造に限定され、樹脂成形体の製造は別途行わなければならないという問題がある。特許文献2に提案された製造方法は、含浸させる熱可塑性樹脂に線圧ではなく面圧を作用させることができるが、押さえロールの周面の弾性変形を利用して面圧を作用させるものであり、充分な範囲に均一な面圧を作用させることは容易でない。一方、特許文献3に記載の製造方法は、加熱加圧プレスやダブルベルトにより加圧を行うので充分な範囲に均一な加圧が可能である。しかしながら、特許文献3に記載の製造方法は、固体状で供給される熱可塑性樹脂層を先ず均一に溶融しなければならず設備又は作業性において問題があり、また網状シートを必須とするので成形体の形状が制限される恐れがある。
【0010】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、強化繊維素材への熱可塑性樹脂の含浸を効果的に行うことができ、生産性・経済性の高い繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体の製造方法及びこの製造方法に使用する可塑化吐出機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法は、強化繊維素材に熱可塑性樹脂を含浸させてなる繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法であって、前記熱可塑性樹脂の溶融体上に前記強化繊維素材を載置してこれを加圧し、前記溶融樹脂を前記強化繊維素材に含浸させた後、前記溶融樹脂を含浸させた強化繊維素材を冷却・固化してなる。
【0012】
上記発明において、熱可塑性樹脂の溶融体は塗膜であってもよく、熱可塑性樹脂の溶融体上に載置された強化繊維素材を加圧する際には、その強化繊維素材の側面に樹脂圧が作用するように加圧するのがよい。
【0013】
また、強化繊維素材を加圧する際は、空気抜き用の凹凸又は溝を設けた加圧体を介して行うのがよい。
【0014】
強化繊維素材は、同種又は異種の素材を積層してなるものとすることができ、その材質は炭素繊維からなるものとすることができる。
【0015】
上記の樹脂基材又は樹脂成形体は、上記の溶融体を保持する受部材と、空気抜き用の凹凸又は溝を設けた加圧体を介して強化繊維素材を加圧する加圧手段と、前記溶融体を形成するTダイと、を有する可塑化吐出機により好適に製造することができる。
【0016】
上記可塑化吐出機において、加圧手段は、加圧体の空気抜き用の凹凸部又は溝部に連通する真空手段を有するのがよい。また、強化繊維素材を加熱する加熱手段を有するのがよい。
【0017】
また、本発明に係る繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法は、強化繊維を含有した熱可塑性樹脂からなる溶融体上に強化繊維素材を載置し、その強化繊維素材を加圧して前記溶融樹脂を前記強化繊維素材に含浸させた後、前記溶融樹脂を含浸させた強化繊維素材を冷却・固化することによって実施され、繊維含有率の高い層が積層されてなる樹脂基材又は樹脂成形体を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、強化繊維素材への熱可塑性樹脂の含浸を効果的に行うことができ、生産性・経済性の高い繊維強化された樹脂基材、樹脂成形体の製造方法及びこの製造方法に使用する可塑化吐出機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法の説明図である。
図2】強化繊維素材の側面に樹脂圧を作用させて含浸させる例の説明図である。
図3】強化繊維素材の側面に樹脂圧を作用させて含浸させる他の例の説明図である。
図4】強化繊維素材から排出される空気を真空手段により排気する手段の説明図である。
図5】強化繊維素材の側面に樹脂圧を作用させて含浸させることができる真空手段を有する金型の模式図である。
図6】繊維含有率の高い層が積層された樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法の説明図である。本発明に係る樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法は、強化繊維素材に熱可塑性樹脂を含浸させてなる繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造する方法である。例えば、図1に示すように、先ず強化繊維素材1を熱可塑性樹脂が溶融した溶融体2の上に載置して強化繊維素材1の上面から上金型4により加圧し、溶融体2を強化繊維素材1に含浸させる。次に、その含浸させた強化繊維素材1を冷却・固化することによって、熱可塑性樹脂が含浸し繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造する。
【0021】
強化繊維素材1は、強化繊維束、強化繊維織物などを使用することができ、特にその形態を問わない。また、強化繊維素材1は、同種又は異種の素材を積層してなるものとすることができる。強化繊維素材1の材質は、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維等の各種繊維を含み得、特に限定しない。しかしながら、本発明は、溶融された熱可塑性樹脂が接触するとその熱が急速に奪われて含浸を困難にするような高熱伝導率を有する炭素繊維などからなる強化繊維素材1に好適に使用することができる。
【0022】
炭素繊維は、一般に外径が4〜10μmの単繊維が1000本(1k)以上、例えば1k〜24kに束ねられて糸状にしたもの(ストランド、強化繊維束)に加工される。そして、強化繊維束は、縦糸及び横糸に配されて強化繊維織物に加工され、あるいは所定の長さに切断されてチョップドファイバーなどに加工される。本発明は、このような炭素繊維の強化繊維束、強化繊維織物あるいはチョップドファイバー、または繊維を開繊して積層させたマット状の繊維を強化繊維素材1として使用することができる。
【0023】
本発明において、熱可塑性樹脂は特に限定されない。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂など各種の樹脂、あるいは各種グレードの熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0024】
熱可塑性樹脂の溶融体2は、図1に示すように、溶融した熱可塑性樹脂を下金型3に塗付した塗膜により形成することができる。また、溶融体2は、図2に示すように、下金型3に設けた溶融浴5に溶融熱可塑性樹脂を塗布して形成することができる。塗膜により溶融体2を形成する場合は、0.05mm〜20mmの厚さの溶融体2を好適に形成することができる。なお、溶融体2は、厚さが20mm〜100mmのものであってもよい。
【0025】
本発明は、先ず、このような溶融体2の上に強化繊維素材1を載置する。溶融体2は粘性があるから、強化繊維素材1は概して溶融体2の所定位置に載せられた状態になる。次に、上金型4により強化繊維素材1を加圧する。強化繊維素材1の加圧は、強化繊維素材1が溶融体2を完全に含浸するまで行うのがよい。加圧力は、0.1〜15Mpaとすることができる。加圧力は、一般には、1〜10MPaであり、強化繊維素材1の弾性率を考慮して必要な圧力とされる。また、強化繊維素材1に対する加圧の範囲、加圧の方向、あるいは加圧するパターン(加圧速度、時間、加圧力と温度)は、対象となる強化繊維素材1や熱可塑性樹脂に応じて変えることができる。なお、加圧は、溶融体2を強化繊維素材1に含浸させる途中の段階又は含浸させた後の冷却・固化の段階で、減圧又は除圧することができる。
【0026】
強化繊維素材1の加圧において、溶融体2を形成している溶融樹脂は強化繊維素材1の底面部から上方に向けて含浸されていき、含浸の進行とともに強化繊維素材1の中に残留している空気が溶融樹脂と置換されて外部に排出される。溶融体2の水平方向への移動は少ない。このような加圧により、溶融体2は強化繊維素材1の中に均一に含浸され、強化繊維素材1の中に含まれる空気を効率的に排除することができる。
【0027】
溶融樹脂の強化繊維素材1への含浸と空気の排出を促進させるには、図2に示すような溶融浴5に形成された溶融体2を用いるのがよい。強化繊維素材1の加圧中に、強化繊維素材1の側面に樹脂圧を作用させることができ、溶融樹脂の強化繊維素材1への含浸と空気の排出が促進される。
【0028】
また、図3に示す方法によっても強化繊維素材1の側面に樹脂圧を作用させることができる。すなわち、本例においては、上金型4にサイド枠7が設けられ、サイド枠7は、通常時には上金型4とともに上下動し(図3(a))、サイド枠7の下面が下金型3に当接した後はサイド枠7と下金型3により溶融浴5が形成されるようになっている。従って、下金型3に溶融熱可塑性樹脂を塗付して溶融体2を形成し、上金型4を下降して強化繊維素材1を加圧することにより、強化繊維素材1の側面に樹脂圧を作用させつつ熱可塑性樹脂を含浸させることができる。なお、図3とは上下逆の下金型側にサイド枠7がある形態の金型構造であってもよい。
【0029】
強化繊維素材1の加圧は、空気抜き用の凹凸又は溝を有する加圧体を介して行うのがよい。これにより、強化繊維素材1に残留する空気を効率的に排出することができる。例えば、図4に示すように、上金型4に設けた凸部8を介して強化繊維素材1を加圧することができる。本例の場合、凸部8が加圧体を形成している。加圧体は、上金型4に凹部又は溝等を設けたものから形成してもよく、上金型4と一体でなく別個のものであってもよい。また、金網を加圧体として使用することができる。
【0030】
加圧体には、その空気抜き用の凹凸又は溝に連通する真空手段を設けることができる。例えば、図4に示す例においては、凸部8の間の空間に連通する真空手段9が設けられている。この真空手段9により、強化繊維素材1から排出される空気を効率的に排気することができる。
【0031】
図5に示す真空手段9を有する金型によれば、強化繊維素材1から空気を効率的に排気するとともに強化繊維素材1の側面に樹脂圧を作用させつつ含浸を行うことができる。図5において、下金型3とバネ16に支持されたスライド型15とにより溶融浴5が形成され、上金型4、下金型3、スライド型15及びパッキン17により真空空間が形成されるようになっている。真空手段9により真空引きを行いつつ、上金型4を下降し強化繊維素材1を加圧して溶融体2の含浸を行うことにより、緻密で高品質の樹脂基材又は樹脂成形体を製造することができる。
【0032】
溶融体2を溶融熱可塑性樹脂の塗付により形成する場合は、Tダイを有する可塑化吐出機により行うのがよい。Tダイは、供給する樹脂の容量、あるいは、下金型3の上面に供給する樹脂の厚さを好適に制御することができ、所要の溶融体2を容易にかつ迅速に形成することができる。可塑化吐出機は、樹脂を可塑化して吐出することができる手段であればよく、例えば押出機や射出機、プランジャー機などを使用することができる。
【0033】
Tダイにより形成された溶融体2の上に載置される強化繊維素材1の温度は、Tダイ吐出口から吐出される溶融樹脂の吐出温度の-100℃以上+100℃以下にするのがよい。強化繊維素材1をこの範囲の温度に維持することにより、強化繊維素材1が炭素繊維のように熱伝導率が高いものであっても溶融体2の温度低下により含浸が困難になるということを阻止することができる。熱可塑性樹脂の粘度は、温度に関して対数的に変化するので強化繊維素材1の温度管理は重要である。例えば、強化繊維素材1の温度は熱可塑性樹脂の熱変形温度以上にするのがよい。これにより、強化繊維素材1に接した熱可塑性樹脂の粘度上昇が抑えられ熱可塑性樹脂の含浸性能の低下を抑えることができる。
【0034】
強化繊維素材1の温度を適正に保持するため、強化繊維素材1を加熱する手段を設けるのがよい。加熱手段は、遠赤外線加熱によるもの、誘導加熱によるもの、あるいはレーザ加熱によるものなどが好ましい。これにより、強化繊維素材1を効率的に加熱することができる。上下金型に設けた加熱手段により強化繊維素材1を所定温度に加熱することも可能であるが、金型は熱容量が大きく、また、樹脂が含浸された強化繊維素材1の冷却を行う必要があるので、冷却を効率的に行うためには強化繊維素材1を加熱する加熱手段を別個に設けるのがよい。なお、強化繊維素材1の加熱は、強化繊維素材1が溶融体2の上に載置される前、または載置された後金型を閉じて加圧を開始するまでとすることができる。また、強化繊維素材1の加熱範囲、加熱手段の取付け位置等は適宜に決めることができる。
【0035】
上述の熱可塑性樹脂からなる溶融体2を含浸させた強化繊維素材1は、冷却され、固化する。そして、繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体が製造される。
【0036】
以上、本発明によれば、強化繊維素材への熱可塑性樹脂の含浸及び強化繊維素材中に残留する空気の排出を効果的に行うことができ、均質で高強度の繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造することができる。なお、樹脂成形体とは、上記の方法又は以下に説明する方法により成形され、そのまま成形体として利用されるものをいう。樹脂基材とは、これを素材としてされに成型・加工されるものをいう。
【0037】
本発明は、上記の実施例に限定されない。本発明は、以下の方法によれば、繊維含有率の高い樹脂基材又は樹脂成形体を製造することができる。すなわち、この方法は、溶融体に予め強化繊維が含有されたものを使用する。図6に示すように、強化繊維を含有させた熱可塑性樹脂からなる溶融体21の上に強化繊維素材1を載置し、その強化繊維素材1を加圧して溶融体21が有する溶融樹脂を強化繊維素材1に含浸させた後、前記含浸させた強化繊維素材1を冷却・固化する。
【0038】
溶融体21に含有させる繊維は、例えば炭素繊維の場合は、長さ0.5mm〜30mmの短繊維を使用する。このような炭素繊維を含有する溶融体21は、可塑化吐出機によって炭素繊維の体積含有率(Vf)が40%程度までのものを供給することができる。溶融体21に含有される炭素繊維は、加圧中に熱可塑性樹脂と共に強化繊維素材1に含浸されるので、本発明によれば繊維含有率の高い層が積層されてなる繊維強化された樹脂基材又は樹脂成形体を製造することができる。本発明において、繊維含有率の高い層の繊維含有率は、炭素繊維の場合、Vf=30%〜60%にすることができる。
【0039】
また、本発明において、図6(a)に示す下金型3を用いる場合は、平板状の樹脂基材又は樹脂成形体を製造することができる。図6(b)に示す下金型31を用いる場合は、リブ付きの形状のものなど複雑な形状の樹脂基材又は樹脂成形体を製造することができる。
【0040】
また、本発明において溶融体は、必ずしも下金型の上面に塗布された形態のものでなくてもよい。例えば、樹脂製又は金属製の板など所定の受部材に塗布された形態のものであってもよい。そして、その受部材は、成形された樹脂基材又は樹脂成形体と一体となって製品の一部を構成するようなものであってもよい。
【実施例1】
【0041】
図6(a)に示す金型と、Tダイを有する可塑化吐出機を使用して樹脂基材の成形試験を行った。強化繊維素材は、縦10cm×横15cm×厚さ0.2cmのマット10枚を積層させたものであった。マットは、炭素繊維を15mm長に切断し、開繊分散させた後に積層させたものを使用した。熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂を使用した。上下金型温度を280℃に加熱した後に、繊維長8mmの炭素繊維20vol%を含むペレットを溶融させた樹脂を280℃で溶融させ上記樹脂を加熱した下金型上に塗布した後、プレスの加圧力を6MPa、プレスの加圧時間を3minの条件で加圧して成形を行った。上記成形試験により、樹脂成形体の厚みが1.6mmで、炭素繊維体積含有率38%、曲げ強さ480MPa、曲げ弾性率29GPaの炭素繊維に樹脂が含浸した良好な樹脂成形体が得られた。
【実施例2】
【0042】
図3に示す金型と、Tダイを有する可塑化吐出機を使用して樹脂基材の成形試験を行った。強化繊維素材は、縦10cm×横15cm×厚さ0.2cmのマット15枚を積層させたものであった。マットは、炭素繊維を15mm長に切断し、開繊分散させた後に積層させたものを使用した。熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂を使用した。上下金型温度を280℃に加熱した後に、280℃で溶融させ上記樹脂を加熱した下金型上に塗布した後、プレスの加圧力を6MPa、プレスの加圧時間を3minの条件で加圧して成形を行った。上記成形試験により、樹脂成形体の厚みが1.6mmで、炭素繊維体積含有率48%、曲げ強さ540MPa、曲げ弾性率33GPaの炭素繊維に樹脂が含浸した良好な樹脂成形体が得られた。
【実施例3】
【0043】
図6(a)に示す金型と、Tダイを有する可塑化吐出機を使用して樹脂基材の成形試験を行った。強化繊維素材は、縦10cm×横15cm×厚さ0.2cmのマット10枚を積層させたものであった。マットは、炭素繊維を15mm長に切断し、開繊分散させた後に積層させたものを使用した。熱可塑性樹脂は、ポリアミド樹脂を使用した。上下金型温度を280℃に加熱した後に、繊維長8mmの炭素繊維20vol%を含むペレットを溶融させた樹脂を280℃で溶融させ上記樹脂を加熱した下金型上に塗布した後、プレスの加圧力を6MPa、プレスの加圧時間を3minの条件で加圧して成形を行った。上記成形試験により、マット部の炭素繊維体積含有率は平均で50%、塗布部の炭素繊維含有率は、平均30%で炭素繊維に樹脂が含浸した良好な樹脂成形体が得られた。
【0044】
上記、実施例1〜3の成形試験により得られた樹脂成形体の特性を表1にまとめた。曲げ試験はJIS K7074に準拠した。
【0045】
【表1】
【符号の説明】
【0046】
1 強化繊維素材
2 溶融体
3 下金型
4 上金型
5 溶融浴
7 サイド枠
8 凸部
9 真空手段
15 スライド型
16 バネ
17 パッキン
21 溶融体
31 下金型
図1
図2
図3
図4
図5
図6