(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761871
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂組成物の製造に使用される二軸押出機及び繊維強化樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/46 20060101AFI20150723BHJP
B29B 7/90 20060101ALI20150723BHJP
B29C 47/40 20060101ALI20150723BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20150723BHJP
【FI】
B29B7/46
B29B7/90
B29C47/40 Z
B29K105:08
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-173948(P2013-173948)
(22)【出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2015-39879(P2015-39879A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2014年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100121795
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴亀 國康
(72)【発明者】
【氏名】佐賀 大吾
(72)【発明者】
【氏名】大橋 俊文
(72)【発明者】
【氏名】柿崎 淳
【審査官】
粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−225051(JP,A)
【文献】
特表2011−524284(JP,A)
【文献】
特開2006−291104(JP,A)
【文献】
特開昭59−136234(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0113134(US,A1)
【文献】
特開2001−192466(JP,A)
【文献】
特開2002−210731(JP,A)
【文献】
特開2007−182041(JP,A)
【文献】
特開平09−124797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/46
B29B 7/90
B29C 47/40
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィード部で生成される溶融した熱可塑性樹脂に投入口から強化繊維が投入され、混練部を経て繊維強化樹脂組成物が製造される二軸押出機であって、
前記混練部が前記二軸押出機の吐出側端部に設けられ、前記投入口と前記混練部の間に輸送部が設けられ、その輸送部を形成するスクリュエレメントのチップクリアランスが、スクリュクリアランスより大きい二軸押出機。
【請求項2】
輸送部のL/Dは3以上、混練部のL/Dは0.5〜4.0であることを特徴とする請求項1に記載の二軸押出機。
【請求項3】
混練部の下流に、L/Dが1以上の後輸送部を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の二軸押出機。
【請求項4】
輸送部と混練部の間に、スクリュエレメントの最小外周長が前記輸送部のスクリュエレメントよりも小さい値を有するスクリュエレメントにより形成される繊維弛緩部を設けたことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の二軸押出機。
【請求項5】
繊維弛緩部を形成するスクリュエレメントは、トーピードスクリュであることを特徴とする請求項4に記載の二軸押出機。
【請求項6】
混練部の上流に、二軸押出機のシリンダからスクリュエレメントに向けてピンを突出させるとともに、そのピンと干渉しないスキマを有してなるスクリュエレメントを設けたことを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の二軸押出機。
【請求項7】
ピンのシリンダからの突出量は、0.1D以上であることを特徴とする請求項6に記載の二軸押出機。
【請求項8】
樹脂フィード部で生成される溶融した熱可塑性樹脂に投入口からロービング状の強化繊維が投入され、混練部を経て繊維強化樹脂組成物が製造される二軸押出機であって、
前記混練部が前記二軸押出機の吐出側端部に設けられ、前記投入口と前記混練部の間に輸送部が設けられ、
前記ロービング状の強化繊維が前記輸送部において相互にかみ合うスクリュエレメントの外周に掛け渡されて輸送されるように、その輸送部を形成するスクリュエレメントのチップクリアランスが、スクリュクリアランスより大きい二軸押出機。
【請求項9】
樹脂フィード部で生成される溶融した熱可塑性樹脂にロービング状の強化繊維が投入され、輸送部と混練部を順次経て繊維強化樹脂組成物が製造される二軸押出機を用いた繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、
前記輸送部において、スクリュエレメントのチップクリアランスがスクリュクリアランスより大きくなるように形成されており、前記ロービング状の強化繊維が緊張した状態で輸送され、
前記混練部において、前記ロービング状の強化繊維が弛緩した状態で切断・混練が行われる繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
輸送部から混練部に導入されるロービング状の強化繊維の流線の一部に乱れを生じさせるようにすることを特徴とした請求項9に記載の繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロービングで投入された強化繊維の糸切れを防止し、制御された繊維長の強化繊維を含有する繊維強化樹脂組成物の製造に使用される二軸押出機及び二軸押出機を用いた繊維強化樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂は、比強度、成形性などに優れ、その適用分野が拡大している。大量生産が期待される自動車部品においては、繊維強化樹脂の特殊自動車や特定部品への適用から次第にその適用範囲が拡大してきたところ、近年の環境問題などにより自動車の軽量化が急がれており、繊維強化樹脂の一般自動車部品への適用促進が期待されている。
【0003】
繊維強化樹脂の一般自動車部品への適用においては、熱可塑性樹脂をマトリックスとしたガラス繊維又は炭素繊維による繊維強化樹脂の開発が進められており、成形品中に含まれる強化繊維の繊維長を長くすること、強化繊維の含有率を高めることが求められている。例えば、特許文献1に、繊維強化難燃性熱可塑性樹脂組成物、成形品および繊維強化難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造方法が提案されている。そして、樹脂組成物中の強化繊維の重量平均繊維長は、好ましくは3mm以上であり、より好ましくは5〜50mmである。成形品中の強化繊維の重量平均繊維長は1mm以上であることが好ましく、1〜10mmであることがより好ましく、1.2〜8mmであることがさらに好ましい。また、成形品中の繊維長が1mm以上である強化繊維の割合は、全強化繊維中の30重量%以上であることが好ましく、33〜95重量%であることがより好ましいと記載されている。
【0004】
特許文献2においては、強度、熱的強度、耐久性、低吸水性、及び耐熱安定性に優れる(A)ポリアミド20〜80質量%と、重量平均繊維長が1〜15mmである(B)強化繊維20〜80質量%と、を、含む長繊維強化ポリアミド樹脂組成物が提案されている。そして、実施例として、ガラス繊維ロービングを含浸ダイに導入して二軸押出機から供給したポリアミド樹脂を含浸させた後引き抜き、ペレタイザーでカットして長さ10mmのペレットを作製し、これを用いて射出成形した発明例の場合において、ペレット状態で重量平均繊維長が10mmであったものが成形品中では3.4〜4.75mmであったことが示されている。一方、ポリアミド樹脂とガラス繊維チョップドストランドを二軸押出機に供給して溶融混練し、これを水冷バス中でストランド状に冷却固化した後に長さ3mmのペレットを作製し、これを用いて射出成形した比較例の場合においては、ペレット状態で重量平均繊維長が0.27mmであったものが成形品中では0.23mmであったことが示されている。
【0005】
特許文献3に、機械的特性、表面外観等に優れ、特に引張強度、曲げ弾性率、外観・意匠性、寸法安定性に優れた熱可塑性ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、炭素繊維(B)10〜300重量部、非晶性樹脂(C)1〜100重量部を配合してなる炭素繊維強化樹脂組成物が提案されている。そして、ポリアミド樹脂と6.0mmにカットした炭素繊維(カットファイバ)を二軸押出機に供給して溶融混練し、これを水冷バス中でストランド状に冷却固化した後に長さ3.0mmのペレットを作製し、これを用いて射出成形した成形品は、炭素繊維の重量平均長が0.24〜0.27mmであったことが示されている。
【0006】
特許文献4に、補強繊維と粒状固形物とを混入した熱可塑性樹脂で射出成形された樹脂射出成形品であって、上記粒状固形物は、アスペクト比が1〜5、平均粒径が10μm以下、配合量が0.5〜5重量%に設定されている樹脂射出成形品が提案されている。そして、ポリプロピレン又はポリアミド樹脂をマトリックスとしたガラス繊維又は炭素繊維の繊維強化樹脂成形品を3つの方法で作製した実施例が示されている。
【0007】
上記3つの方法において、第1の方法は、ガラス繊維又は炭素繊維のロービングにポリプロピレン又はポリアミド樹脂を含浸ダイスに導入して含浸させた後に引き抜き、ペレタイザーでカットして柱状のペレットを作製し、これを用いて射出成形する方法である。第2の方法は、ポリプロピレンとガラス繊維又は炭素繊維を二軸押出機により溶融混練し、水冷バス中でストランド状に冷却固化した後にカットしてチョップ状ペレットを作製し、これを射出成形する方法である。第3の方法は、ポリプロピレンとロービング状のガラス繊維を二軸押出機に供給して溶融混練し、これを射出成形機に供給して成形を行う方法である。試験結果によると、粒状固形物の添加による潤滑効果により強化繊維が折損しにくくなっていること、粒状固形物の添加を行った場合の成形品の重量平均繊維長が0.67〜2.85mmであることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012-214819号公報
【特許文献2】特開2012-172086号公報
【特許文献3】特開2013-23672号公報
【特許文献4】特開2009-242616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
繊維強化樹脂成形品の製造において、強化繊維は押出機の溶融混練中あるいは射出成形中に折れて短くなるので、特許文献3に記載のようなカットファイバを用いる方法は、重量平均長が1mm以上の強化繊維を含む成形品を製造するのは容易ではない。このため、繊維長の長い繊維強化樹脂成形品を製造するには、特許文献1、2又は4に記載の熱可塑性樹脂を含浸させた強化繊維のロービングを適度の長さに切断したペレットを用いて射出成形する方法が好ましい。また、この方法は、強化繊維の長さがペレットの長さに等しいので、強化繊維の繊維長を適度の長さに調整することができる利点がある。
【0010】
一方、特許文献4に記載の第3の方法とされる熱可塑性樹脂とガラス繊維のロービングを二軸押出機に供給して溶融混練して得られる組成物をそのまま射出成形する方法は、重量平均繊維長が1mm以上の繊維強化樹脂成形品を製造することができ、特許文献1、2又は4(第1の方法)に記載の方法のような繊維強化樹脂組成物のペレットを作製する工程・手間を要しないので効率的に繊維強化樹脂成形品を製造することができる利点がある。
【0011】
しかしながら、特許文献4に記載の第3の方法は、ガラス繊維のロービングを用いているのであるが、重量平均繊維長は第1の方法によるものよりも短くなっている。また、特許文献4には炭素繊維のロービングを用いた実施例の記載はない。繊維強化樹脂の一般自動車部品への適用を図るには、繊維強化樹脂成形品の効率的な製造、経済性が求められ、しかも、成形品の強化繊維の繊維長を長くすることができ、また含有率を高めることができる製造法が求められている。そして、ペレットの作製工程や特殊添加物がなくても強化繊維の繊維長を適度の長さに調整することができる繊維強化樹脂組成物の製造方法が求められている。
【0012】
本発明は、このような従来の問題点、要請に鑑み、二軸押出機に熱可塑性樹脂と強化繊維のロービングを供給して、成形品の強化繊維の繊維長を長くすることができ、また含有率を高めることができる繊維強化樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る二軸押出機は、樹脂フィード部で生成される溶融した熱可塑性樹脂に投入口から強化繊維が投入され、混練部を経て繊維強化樹脂組成物が製造される二軸押出機であって、前記混練部が前記二軸押出機の吐出側端部に設けられ、前記投入口と前記混練部の間に輸送部が設けられ、その輸送部を形成するスクリュエレメントのチップクリアランスが、スクリュクリアランスより大きくしてなる。ここで、チップクリアランスとは、二軸押出機のシリンダ内周面とスクリュ(スクリュエレメント)の外縁とがなす最小の隙間をいう。スクリュクリアランスとは、二軸押出機の相対するスクリュ(スクリュエレメント)の外縁がなす最小の隙間をいう。
【0014】
上記発明において、輸送部のL/Dは3以上、混練部のL/Dは0.5〜4.0であるのがよい。ここで、L/Dとは、いわゆるL/D比をいい、二軸押出機の長さLに対するスクリュエレメントの外縁の径Dの比をいう。
【0015】
また、混練部の下流に、L/Dが1以上の後輸送部を設けることができる。
【0016】
また、上記発明において、輸送部と混練部の間に、スクリュエレメントの最小外周長が前記輸送部のスクリュエレメントよりも小さい値を有するスクリュエレメントにより形成される繊維弛緩部を設けるのがよい。そして、繊維弛緩部を形成するスクリュエレメントは、トーピードスクリュを使用することができる。
【0017】
また、混練部の上流に、二軸押出機のシリンダからスクリュエレメントに向けてピンを突出させるとともに、そのピンと干渉しないスキマを有してなるスクリュエレメントを設けるのがよい。このピンのシリンダからの突出量は、0.1D以上とすることができる。
【0018】
また、本発明に係る二軸押出機は、樹脂フィード部で生成される溶融した熱可塑性樹脂に投入口からロービング状の強化繊維が投入され、混練部を経て繊維強化樹脂組成物が製造される二軸押出機であって、前記混練部が前記二軸押出機の吐出側端部に設けられ、前記投入口と前記混練部の間に輸送部が設けられ、前記ロービング状の強化繊維が前記輸送部において相互にかみ合うスクリュエレメントの外周に掛け渡されて輸送されるように、その輸送部を形成するスクリュエレメントのチップクリアランスが、スクリュクリアランスより大きくしてなる。
【0019】
本発明に係る繊維強化樹脂組成物の製造方法は、樹脂フィード部で生成される溶融した熱可塑性樹脂にロービング状の強化繊維が投入され、輸送部と混練部を順次経て繊維強化樹脂組成物が製造される二軸押出機を用いた繊維強化樹脂組成物の製造方法であって、前記輸送部において、前記ロービング状の強化繊維が緊張した状態で輸送され、前記混練部において、前記ロービング状の強化繊維が弛緩した状態で切断・混練が行われることにより実施される。ロービングとは、ガラス、炭素繊維などのフィラメントの繊維束で、連続した糸又は紐状の繊維束をいう。ロービング状とは、そのような繊維束の形態をいう。
【0020】
上記、繊維強化樹脂組成物の製造方法の発明において、輸送部から混練部に導入されるロービング状の強化繊維の流線の一部に乱れを生じさせるようにするのがよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る二軸押出機によれば、成形品の強化繊維の繊維長を長くすることができ、また含有率を高めることができる繊維強化樹脂組成物を成形することができる。そして、この繊維強化樹脂組成物を用いて、強化繊維の繊維長が調整され、また含有量が調整された繊維強化樹脂成形品を効率的に製造することができる。本発明に係る二軸押出機により成形された繊維強化樹脂組成物を高温度に維持された状態で射出成形機に供給すれば、繊維強化樹脂成形品を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る二軸押出機の模式図である。(a)はスクリュ軸方向(縦)断面図、(b)は樹脂フィード部(又は混練部)の横断面図、
【
図2】
図1に示す二軸押出機の輸送部の横断面図である。
【
図3】二軸押出機のシリンダからスクリュエレメント方向に突出するピンを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について図面を基に説明する。
図1は、本発明に係る二軸押出機の実施例を示す模式図である。本二軸押出機10は、
図1に示すように、シリンダ11の内部にスクリュ12を有し、上流側から下流側に向けて樹脂フィード部13、輸送部14、混練部15及び後輸送部16を有してなる。樹脂フィード部13、輸送部14、混練部15、後輸送部16は、スクリュ12のそれぞれスクリュエレメント12a、12b、12c、12dを有している。溶融した熱可塑性樹脂が樹脂フィード部13で生成され、これに強化繊維を投入する投入口18が設けられている。
【0024】
本二軸押出機10において、樹脂フィード部13は、所要の溶融した熱可塑性樹脂を生成する部分である。樹脂フィード部13は、熱可塑性樹脂を投入口23から投入して溶融した熱可塑性樹脂を生成する形態のものであってもよく、また、タンデム押出機のように上流側に連結された第一段の押出機とともに樹脂フィード部13を形成する形態のものであってもよい。輸送部14は、樹脂フィード部13と混練部15との間に設けられる。輸送部14は、投入口18から投入された強化繊維と樹脂フィード部13で生成された溶融熱可塑性樹脂とを混練部15に向けて輸送し混入させる部分である。
【0025】
本二軸押出機10の輸送部14は、
図1(b)に示すように、輸送部14を形成するスクリュエレメント12bのチップクリアランスScが、スクリュクリアランスSsより大きくなっている。チップクリアランスSc又はスクリュクリアランスSsの実際の大きさは、使用される強化繊維の材質やサイズ、二軸押出機の仕様などにより最適な大きさが選択されるが、輸送部14において、ロービング状の強化繊維が糸切れを生じることなく、緊張した状態で輸送され、
図2に示すように、強化繊維31が輸送部において相互にかみ合うスクリュエレメントの外周に掛け渡されて輸送される状態になるように、チップクリアランスSc及びスクリュクリアランスSsの大きさが決定される。このような輸送部14を形成するスクリュエレメントとして、例えば、谷径の太い外径落としをしたフルフライトスクリュを使用することができる。
【0026】
本二軸押出機10の混練部15は、溶融熱可塑性樹脂とともに輸送されてきた強化繊維のロービングを混練分断し、均一に分散させる部分である。混練部15の機能を発揮させるには、先ず緊張状態で輸送されてきた強化繊維のロービングを弛緩させるのがよい。このため、輸送部と混練部の間に、スクリュエレメントの最小外周長が前記輸送部のスクリュエレメントよりも小さい値を有するスクリュエレメントにより形成される繊維弛緩部を設けるのがよい。繊維弛緩部を形成するスクリュエレメントとして、例えば、トーピードスクリュを使用することができる。なお、トーピードスクリュとは、外径がフライトのない短径からなるスクリュエレメントをいう。
【0027】
混練部15のスクリュエレメントは、ニーディングディスク、ギアニーディングディスク、あるいは高い分配性能を有する逆リードフライトスクリュエレメントなどを使用することができる。上記輸送部14のスクリュエレメントの構成と、この混練部15のスクリュエレメントの構成により、繊維強化樹脂組成物の強化繊維の繊維長を長くすることができ、また含有率を高めることができる。強化繊維の繊維長は、1mm以上、1〜100mmの範囲の長さに調整することができる。また、強化繊維は、体積比で30%(重量比で40%)程度まで含有させることができる。
【0028】
また、本二軸押出機10においては、繊維弛緩部又は輸送部14の後端部、必ずしもその位置は限定されないが、混練部の上流に、
図3に示すような二軸押出機のシリンダ11からスクリュエレメント12fに向けてピン19を突出させるのがよい。このピン19により、輸送部14から混練部15に導入されるロービング状の強化繊維の流線の一部に乱れを生じさせることができ、分断又は切断が不十分のまま排出される長繊維の繊維強化樹脂組成物への混入を防止することができる。ピン19は、シリンダ11の内周面から0.1×シリンダ内径(Di)以上突出させるのがよい。このようなピン19を突出させる場合は、ピン19と干渉しない程度の隙間を有するスクリュエレメントが使用される。なお、Diは、樹脂フィード部や混練部におけるスクリュエレメントの外縁の径Dにほぼ等しい。
【0029】
輸送部14のL/Dは3以上にするのがよい。混練部15のL/Dは0.5〜4.0とすることができ、目標とする強化繊維の繊維長に従って適当な値が選択される。混練部15のL/Dが大きいと強化繊維の切断回数が大きくなるので、繊維長は短くなる。強化繊維が適度に切断、分散されたならば、強化繊維を二軸押出機から素早く排出し強化繊維の不要な切断を防止するのがよい。このため、混練部15は二軸押出機10の吐出端部に設けるのがよい。しかしながら、混練された強化繊維組成物の安定した排出を行うために、後輸送部16を設けることができる。この後輸送部16のL/Dは1以上とすることができる。
【実施例1】
【0030】
図1に示す構成の二軸押出機(株式会社日本製鋼所製二軸押出機Tex44)による繊維強化樹脂組成物の製造試験を行った。熱可塑性樹脂はポリアミド6樹脂(PA6)を使用し、強化繊維は繊維径7μmの単繊維を束ねたロービング状の炭素繊維を使用した。
【0031】
二軸押出機において、輸送部は、それぞれ、標準フルフライトスクリュ(標準FF)、チップクリアランスScがスクリュクリアランスSsより大きく、スクリュクリアランスSsが標準FFよりも大きいフルフライトスクリュ(FF1)、または、チップクリアランスScがスクリュクリアランスSsより大きく、スクリュクリアランスSsが標準FFと同等のフルフライトスクリュ(FF2)からなる構成とした。輸送部のL/Dは12であった。
【0032】
混練部は、それぞれ、標準ニーディングディスク(KD)、または、トーピードスクリュ(TR)と1条切欠きを有する逆リードフライトスクリュ(BMS)の組合せからなる構成とした。混練部のL/Dは1であった。混練部は二軸押出機の吐出側端部に設けられており、この混練部に続いて吐出側最端に後輸送部(L/D=1)が設けられている。また、混練部の前(表1のベント欄(前)、ベント25)又は後にベントが設けられている。
【0033】
二軸押出機のシリンダから突出させるピン19は、あり又はなしの場合について製造試験を行った。ピンの突出量は0.20Di、外径は0.23Diであり、ピンはトーピードスクリュを設けた位置部分に配置した。
【0034】
試験結果を表1に示す。表1において、糸切れとは、ロービングを二軸押出機に食い込ませる箇所(輸送部)で糸が切れてしまうことをいい、糸が切れた部分に溶融樹脂が集まり溶融樹脂が局部的に過剰に含浸した部分と不足した部分を生じ、繊維強化樹脂組成物の品質が悪化する。繊維長とは、平均繊維長(mm)をいい、平均繊維長が「長」は30mm程度、「中」は25mm程度を示し、「短」は10〜1mmを示す。サージングとは、二軸押出機の内部の充満度合いや混練の状態が周期的に大きく変動する不安定現象をいう。ショートパスとは、混練不足により、ロービングが未切断・未分散状態のもの(50mm以上の長さを有する)が排出されることをいい、製品中に混入して品質を悪化させる。
【0035】
表1の発明例5と比較例の結果を比較すると、輸送部のそれぞれのスクリュエレメントの効果が明確に表されており、本発明例の場合は糸切れの発生がないのに対し、比較例(従来方法)の場合は糸切れを生じている。このため比較例の場合は、円滑な繊維強化樹脂組成物の製造が困難であった。発明例5の場合は、混練部のスクリュエレメントが標準のニーディングディスクから構成されているので、強化繊維の繊維長は短くなっている。
【0036】
また、表1に示すように、発明例1によれば強化繊維の平均繊維長が30mm程度の長い繊維長の繊維強化樹脂組成物を製造できることが分かる。そして、発明例1〜5に示すように、本発明によれば、強化繊維の平均繊維長が1mm以上であって強化繊維の繊維長が調整された繊維強化樹脂組成物を製造することができることが分かる。
【0037】
【表1】
【0038】
発明例3と発明例4を比較すると、ピンの有無によってショートパス発生の有無が示されており、ピンの効果がよく示されていることが分かる。また、発明例2と発明例3を比較すると、ベントと混練部の位置関係が強化繊維の平均繊維長に影響を与えていることが分かる。なお、発明例2〜5において、程度は小さいがサージングが観察された。サージングの発生の防止には、さらにスクリュエレメントの構成、L/Dなどの調整が必要であると解される。
【符号の説明】
【0039】
10 二軸押出機
11 シリンダ
12 スクリュ
13 樹脂フィード部
14 輸送部
15 混練部
16 後輸送部
18 投入口
19 ピン
23 投入口
25 ベント
31 強化繊維