特許第5761875号(P5761875)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5761875
(24)【登録日】2015年6月19日
(45)【発行日】2015年8月12日
(54)【発明の名称】油圧パルスユニットを備えた動力レンチ
(51)【国際特許分類】
   B25B 21/02 20060101AFI20150723BHJP
【FI】
   B25B21/02 J
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-509480(P2013-509480)
(86)(22)【出願日】2011年3月18日
(65)【公表番号】特表2013-526416(P2013-526416A)
(43)【公表日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】EP2011054094
(87)【国際公開番号】WO2011141205
(87)【国際公開日】20111117
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】1000490-1
(32)【優先日】2010年5月12日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】502212604
【氏名又は名称】アトラス・コプコ・インダストリアル・テクニーク・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100064388
【弁理士】
【氏名又は名称】浜野 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】セデルルンド,ペアー,トーマス
【審査官】 小川 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−090849(JP,A)
【文献】 特開2000−308975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/02
B01D 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転モータ、出力軸(18)及び油圧パルスユニット(17)を備えた動力レンチであって、
前記油圧パルスユニット(17)が、
モータに接続され、回転軸線(A−A)を中心に回動可能な慣性駆動部材(20)と、
慣性駆動部材(20)の中に設けられたオイル室(23)と、
高圧室(34)を備え、出力軸(18)に運動エネルギを間欠的に伝達するよう配置された衝撃発生手段(30)と
を備え、
前記慣性駆動部材(20)が、円筒状部分(21)と横方向端壁(22)とを有する
動力レンチにおいて、
遠心作用によってオイルから空気を取り出すために分離手段(37)が設けられ、
前記分離手段(37)が、
・横方向端壁(22)上の実質的に軸方向に面する表面(46)と、
・横方向端壁(22)と共に回転し、前記横方向端壁(22)の前記表面(46)と合致する実質的に軸方向に面する表面(45)が形成されたディスク形状分離要素(38)と、
・前記合致する表面(45,46)の間に形成されるクリアランスギャップ(43)と、
・前記分離要素838)における回転軸線(A−A)の近くに配置されたオイル導入口(40;64a,64b)と、
・前記クリアランスギャップ(43)を高圧室(34)に接続する流れ制限オイル導入通路(41,42)と、
・回転軸線(A−A)から径方向に離して配置され、前記クリアランスギャップからオイル室にオイルを排出するように設けられた少なくとも一つのオイル排出口(53;65a,65b)と、
・回転軸線(A−A)に隣接して配置され、前記クリアランスギャップ(43)を空気収集室(50)に接続する少なくとも一つの空気排出口(52)と
を備えている
ことを特徴とする動力レンチ。
【請求項2】
前記空気収集室(50)が、端壁(22)に設けられた空洞によって形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の動力レンチ。
【請求項3】
前記クリアランスギャップ(43)が前記合致する表面(45,46)の全長に亘って伸びている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の動力レンチ。
【請求項4】
オイルフィルタ要素(70)が前記クリアランスギャップ(43)に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の動力レンチ。
【請求項5】
前記クリアランスギャップ(43)が、前記分離要素(38)又は前記端壁(22)のどちらかに形成された一つ又は複数の実質的にループ形状の溝(48a〜48e;68a〜68d)を備え、
前記溝(48a〜48e;68a〜68d)が、前記オイル導入口(40)を前記少なくとも一つのオイル排出口(63)及び前記少なくとも一つの空気排出口(52)に接続する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の動力レンチ。
【請求項6】
前記実質的にループ形状の溝(68a〜68d)が、二つ又はそれ以上のセクション(60,61)に分割され、各セクションが、オイル導入口(64a,64b)、オイル排出口(65a,65b)及び少なくとも一つの空気排出口(62a〜62d)を備えている
ことを特徴とする請求項5に記載の動力レンチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転モータ及び油圧パルスユニットを備えた衝撃式動力レンチに関し、前記油圧パルスユニットは、モータを出力軸に間欠的に連結し、締め付けるべきネジ継手に繰り返しトルク衝撃を伝達する。
【背景技術】
【0002】
このタイプのいくつかの動力レンチには、パルスユニットを正確な量のオイルで満たして、パルスユニットの内部に十分な量の空気を残し、レンチの動作中のオイルのいくらかの熱に関連する膨張を和らげることに問題がある。ある量の空気がオイル内に残される主な理由は、オイルの容量にいくらか弾性的な圧縮性をもたせ、それにより、パルスユニットの衝撃周波数を高めることにある。オイル内の空気の割合が非常に低いと、パルスユニット内に大きな圧力が生じることになり摩擦損失と過熱の原因となるが、空気の割合が非常に高いと、パルスユニットの効率が低下することになる。
【0003】
他のいくつかのパルスユニットでは、熱関連膨張を補償し、オイルの容量に若干の弾力性を持たせるための弾性要素又はアキュムレーターを使用することによりオイル充填問題を解決している。これらの場合には、パルスユニットは、オイルの容量内に空気を何も残すことなく完全に充填され得る。この特徴がある衝撃発生装置は、米国特許第6,110,045号に開示されている。
【0004】
しかしながら、レンチの動作中にパルスユニットから、最初は少ないが、ある程度のオイル漏れが不可避的に生じることになるという問題が未だある。これは、対応する量の空気がパルスユニットに入り込むことになることを意味する。その結果、時間と共にパルスユニットの内部の空気の量が増加することになる。従って、オイル容量中の空気の割合は連続的に増加することになり、レンチをいくらかの時間使用した後、パルスユニット内での空気の量の増加により、効率の低下が起こり、最終的には、衝撃生成の完全損失、所謂、スピニングが生じることになる。
【0005】
理論上は、パルスユニットのオイル収容容量の全体のサイズを実質的に増加させ、それにより、漏れによって生じるオイル容量内の空気の割合を低く維持することにより、動力レンチの使用間隔を広げることは可能である。その結果、オイル容量の弾力性が、拡張された動力レンチの動作時間の間、低く維持されることになり、パルス発生効率が長期の使用間隔に対して高いレベルで維持されることになる。しかし、このように拡大したオイル室でさえ、幾らかの動作時間の後に、空気の割合が望ましくない高さになる。このような拡大したオイル容量の明らかな欠点は、パルスユニット、即ち、動力レンチの外側寸法及び重さを増加させることにある。この欠点は容認することができない。
【0006】
本発明の目的は、改良した動力レンチを提供することにあり、該動力レンチは、オイルから空気を取り出すための分離手段を備えた油圧パルスユニットを備え、それにより、パルスユニットの寸法を小さく維持したままで、動力レンチの実質的に拡張した使用間隔に対してパルス効率を高いままに維持する。
【0007】
本発明の別の目的は、遠心作用によってオイルから空気を取り出すための分離手段と、分離した空気を集めるための分離空気収集室とを備えた油圧パルスユニットを有する動力レンチを提供することにある。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、以下の説明及び特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明による動力レンチの側面図である。
図2図1に示した動力レンチのパルスユニットを通る長手方向断面図である。
図3】オイル・空気分離手段の一実施例を説明する図2における分離手段部材の背面図である。
図4】オイル・空気分離手段の別の実施例を示す図である。
図5】オイル・空気分離手段のさらに別の実施例を示す図である。
図6】オイルフィルタを備えたオイル空気分離手段の拡大断面図である。
図7】オイル漏れの量とパルスユニットの衝撃周波数との関係を説明する図である。
図8】オイル漏れの量とパルスユニットのトルク出力との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施例を添付図面を参照して説明していく。
【0011】
図面に一実施例として示された動力レンチは、ハンドル11を有するハウジング10を備えた空気圧駆動ピストル型レンチである。ハンドル11は、その下端部に、圧縮空気導管用の接続部材12と排気消音器13とを支持している。動力制御のためのスロットルバルブはトリガボタン14によって操作される。ハウジング内には、不図示のモータと、端部が四角形の出力軸18を備えた油圧パルスユニット17とが設けられている。
【0012】
図2に示すように、衝撃ユニットは、後端壁22を備えた円筒状部材21を有し、オイル室23を囲む慣性駆動部材20を備えている。後端壁22には、モータに永久接続するための連結部分24が形成されている。また、後端壁22は、ねじ接続部25によって円筒状部材21に固定されている。
【0013】
出力軸18は、衝撃受け部分29を有し、この衝撃受け部分29はオイル室23の中に伸び、衝撃発生機構30を介して駆動部材20に断続的に接続される。衝撃発生機構30は、一対のピストン部材24及び回転部材27を有し、前記回転部材27は、出力軸に回転方向にロックされ、円筒状部材21のカム輪郭26によって径方向内方に向けて連続的に付勢されており、中央高圧室34内でそれらの間のオイルが圧縮され、それにより、トルク衝撃が生成される。カムスピンドル35は後端壁22に固定され、高圧室34の中まで同軸上に伸び、各衝撃生成後に外方にピストン部材24を戻すのに効果的である。
【0014】
先に米国特許6,110,045号で説明されているので、衝撃機構の動作は、本質的には何も詳細には説明しない。
【0015】
また、後端壁22は空気分離手段37を備え、この分離手段37は、実質的に軸線方向に向いた面46と分離要素38とを有する。前記分離要素38は、端壁22と円筒状部材21との間で堅くクランプされている。分離要素38は、実質的に軸線方向に向いた面45を有し、この面45は、端壁22の面46と対向するように配置され、かつ、前記面46と合致する。両面45及び46はわずかに円錐形であり、分離要素38は中央オイル導入開口40を有し、この開口40は、中央通路41及びカムスピンドル35に配置された二つの径方向開口42を介して高圧室34に繋がる。開口42の流量範囲は非常に小さい。また、開口42は、高圧ピークが分離手段に達するのを防止するが、微量のオイル流だけが通過できるように調整される。外周に隣接して、分離要素38にはオイル排出口53が設けられており、回転軸線A−Aの近くには、空気排出口52が設けられている。表面45及び46は、それらの間に、クリアランスギャップ43を形成し、このギャップ43はオイル循環通路として機能する。開口40を介してクリアランスギャップ43に入るオイルは、遠心作用によって排出口52に向けて外側に向かって付勢されることになる。
【0016】
図4に示した実施例では、クリアランスギャップ43は、分離要素38に形成された一連の実質的にループ形状の溝48a〜48eから成り、溝48aはオイル導入開口40と繋がる。それらの中心部分で、溝48a〜48eの全ては、回転軸線A−Aの位置で後端壁22に設けられた空気収集室50に繋がる。ループ形状の溝48a〜48eは、相互に連結された一連の溝であり、下流の溝部分48eは、実質的に径方向のオイル排出通路51を介してオイル排出口53に繋がる。オイル排出口53は、回転軸線A−Aから径方向に距離をおいて配置され、オイル室23に繋がる。
【0017】
クリアランスギャップ43を形成する分離要素38の表面45の溝48a〜48eは、任意の適当な方法で形成され、例えば、分離要素38の全体を形成する焼結処理工程で形成される。
【0018】
衝撃ユニットの動作中、慣性駆動部材20はモータによって回転され、トルク荷重が出力軸18に加えられると、慣性駆動部材20と出力軸18との間に相対的回転が起こり、ローラ25とピストン要素24とが、カム輪郭26によって内方に付勢され、高圧室34内に高圧を生み出す。それにより、トルク衝撃が出力軸18で達成される。避けられない漏れにより、常に、幾らかの量の空気がオイル内に混入することになり、その量が多くなりすぎると、衝撃ユニットの効率が低減することになる。分離手段37は、空気の量をできるだけ長い間、低く維持し、衝撃ユニットの効率を高いままに維持するようにする。
【0019】
衝撃発生時に、高圧室34内における高圧ピークにより、通路41及び開口42を通して押し出され、分離手段37のオイル導入口40に達するオイルの小さな間欠的な流れが生じることになる。
【0020】
分離手段37が、慣性駆動部材20と共同で回転するので、クリアランスギャップ43のオイルに影響を及ぼす遠心作用が生じる。オイルは、第一ループ形状溝48aを通して外側に付勢され、オイル流は、次のループ形状溝48bに入る前に、所定の距離、内側に向けて曲げられる。オイル流を示す黒塗り矢印と、空気排気口52a〜52eを介して空気収集室50へ流れる空気漏れの流れを示す白抜き矢印が参照される。
【0021】
オイルと空気の間の濃度の実質的な差に依存して、遠心作用は、オイルを径方向外方に付勢し、空気を径方向内方に付勢する。これにより、空気は、空気排気口52a〜52eを介して中央空気収集室内に押入れられ、オイル流は、次のループ形状溝48bを介して進み、さらに、次の溝48c、48d及び48eを通して進む。オイル流内に残っている空気は、全てのループ形状溝48a〜48eから、排出口52a〜52eを通してオイル流の外に押し出され、空気収集室50の中に押し込まれ、オイルが、排出口53及び排出通路51を介して分離手段37から出る時に、オイルに混入された全ての空気が分離されて収集室50に集められる。ループ形状溝48a〜48eにおける繰り返しの遠心分離によって、オイル内に混入した空気は取り出されることになり、実質的に空気が混入していないオイルがオイル室23内に送り戻される。
【0022】
分離効果を高めるために、ループ形状溝48a〜48eは非対象であり、慣性駆動装置21の回転方向Rにおける衝撃発生中の遅延力を高める。オイルの慣性が、オイルをさらに強く径方向外方に付勢し、同時に、空気が径方向内方に押されて空気排気口52a〜52eに達する。
【0023】
パルスユニット17全体が、最初からオイルで満たされているので、空気収集室もまた、オイルで満たされている。しばらく動作した後、空気が収集室50に集められるようになるが、ループ形状溝48a〜48eの寸法が非常に細かいので、毛細管現象によって、空気よりオイルが、収集室50から出されて、オイル室23に戻される。このことは、オイルが収集室50から出されるのに反して、空気が収集室50に集められることを意味する。選択的に、フェルト材料から成る複数の芯が、毛細管現象を介して、収集室50からオイルを吸引するために配置され得る。
【0024】
図5に示した空気分離手段の実施例では、分離要素38のオイル循環ループ形状溝68a〜68dが4つあり、これらは二つのセクション60及び61に分割されている。一方のセクション60は二つのループ形状溝68a及び68bから成り、他方のセクション61は二つのループ形状溝68c及び68dから成る。各セクションは、オイル導入口64a及び64bを備え、これらは慣性駆動部材20の回転軸線A−Aの近くに配置されている。また、各セクションは、オイル排出口65a及び65bを備えたオイル排出通路66a及び66bを、回転軸線A−Aから径方向に離れた位置に備えている。先に説明した実施例のように、各溝68a〜68dは、空気収集室50に向けて開口する中央空気排出口62a〜62dを備えている。
【0025】
動作中、オイル流は、導入口64とバルブスピンドル35内の開口41及び42とを介して高圧室34から分離手段37の中に押し出される。所定の量の空気を含むオイルは、ループ形状溝68a〜68dを通して循環され、そこで、空気は、排出口62a〜62dを通して押し出され、オイルは、排出口65a及び65bを通して分離手段37から出る。
【0026】
図6には、オイルから金属又は他の望ましくない粒子を分離するために表面45及び46の間のクリアランスギャップ43に挿入された環状フィルタ要素70が示されており、それにより、とりわけ、衝撃ユニット部品の不要な機械的摩耗を防止する。
【0027】
図7に示された図表では、曲線Aが、本発明による空気分離手段を使用する時に、オイル漏れ量Lの増加において、どのようにパルス周波数fが低いレベルに維持されるかを示しており、これに比較して、曲線Bが、従来のパルスユニットにおいて、オイル漏れ量Lの増加に応じてパルス周波数が加速的に増加することを示している。
【0028】
図8に示された図表では、曲線Aが、本発明による空気分離手段を使用するパルスユニットのトルク出力Mが、オイルの漏れ量Lの増加において、どのようにして高いレベルに維持されるかを示しており、これに比較して、曲線Bによって、従来のパルスユニットにおいて、オイル漏れ量Lの増加に応じてトルク出力Mが加速的に減少することを示している。
【0029】
図7及び図8に示されているように、本発明による空気分離手段の使用により、パルス発生装置の高い性能が拡張され、かつ、衝撃工具の使用間隔が拡張される。これにより、衝撃工具の利用可能性が改善され、使用者に対するコスト的な利点が得られる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8